かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

NIMS-AIST Joint Open Seminar 2007「学術論文誌の今日的役割を問う-Physical Review 編集長退任記念講演会-」


筑波大学春日キャンパスから自転車で10分ほど南下したところにある、物質・材料研究機構であった、物理分野の学術論文誌に関するオープンセミナーに参加してきました。


詳細はこちらのイベント情報から:このページは移動しました | NIMS


Physical Reviewアメリ物理学会の学会誌。開設授業科目一覧みたいな厚さの冊子を分野ごとにけっこうなペースで発行している)の編集長をしていたDr.Martin Blumeと、トムソンサイエンティフィックのシニアアナリストでWeb of Scienceなどを扱っている宮入暢子さんによる講演の後に、最近の論文捏造など科学の倫理に関する問題と学会誌の役割についてのパネルディスカッションがあった。
以下、プログラムごとに感想。



記念講演-Dr.Martin Blume 「論文と研究の変遷と将来(編集長裏話-ピアレビューの実態)」

英語がわかんねーorz
くそう、今まさに目の前で超面白い話が繰り広げられているはずなのにそれが理解できないという苦痛・・・ただでさえリスニング苦手な上に徹夜明けで頭が全然働いてないのが効いたか・・・
まあでもなんとなく聞き取れるとこだけ聞き取った感じだと、メインはピアレビュー(査読)の話とはいえ、シリアルズ・クライシスや電子ジャーナル、E-print Archive、オープンアクセスなどにからむ話も色々していたようで・・・本当、なんで英語聞き取れないんだろう・・・(悲)
Physical Review誌でも7〜8あるタイトルのうち2つはオープンアクセスジャーナルらしい。
さすがにメインであるところのPhysical Review A〜EとかLettersとかは違うようだが・・・
っつーかBlumeさんもネタにしてたけど、名前の付け方潔すぎだよね、Physical Review
DQで同時出現したモンスターかよ。

講演―宮入暢子氏「日本の物理研究100年(浮かび上がるものは)」

インパクトファクターの計算の元データともなっている、引用文献データベースWeb of Scienceの沿革についてと、そのデータから見えてくる日本の物理研究のこれまでについての講演。
宮入さんご本人は図書館情報学(図書館・情報学?)出身で、物理についてはよくわからない・・・とのことで、基本的には生データの紹介から物理研究者の人たちにいろいろ考えて見て欲しい、みたいな内容だったんだが、図書館情報学畑の人間にはふつうにみてるだけで楽しかったです。
Web of Scienceの成り立ちとかー。
そういえば授業でそういう話はしないからなー(されたのに寝てた可能性もある)。
正直、フレッシュマン・セミナーとかいいから新入生はこういう話を聞きにきたらいいんだよなー(暴論。しかもたぶん一年生だと全然ついていけない。「図書館経営論Ⅱ」受講後の3年生とかがたぶん一番楽しめる。あとは小野寺研究室の学生とか)。


インパクトファクターについては、それを出しているWeb of Scienceサイドの人である宮入さん自ら

あまり細かいところ(小数点以下第三位とか)まで雑誌のインパクトファクターを見て投稿雑誌を決めるのはナンセンスだ

インパクトファクターがこれだけあがった」と言われることがあるが、引用される文献数自体が増加傾向にあるので、(分野によって差はあるにせよ)インパクトファクターが微増するのは当然のこと。

などなど、示唆に富んだお話をされていて「なるほどー」とうなずくことしきり。


あと、Web of Scienceの元であるScience Citation Indexをはじめたガーフィールドさんは、当初からそれで雑誌の引用数などのデータがわかる、ってことについても考えてたはいたものの、あくまで副産物であって、本来の目的は「ある文献が引用している文献」(これはCitation Indexがなくてもわかる)と「ある文献を引用している文献」(これがCitation Indexの肝)がわかることだ、って言う話とか、「Web of Scienceは文献探索のスタートとなるところであって、各領域のコア・ジャーナルしか収録しない。毎年の(雑誌の)却下率は90%にものぼる」みたいな話も、聞けて良かった、みたいな。
ガーフィールドの集中則(ある領域のコア・ジャーナルは隣接する他の領域からも引用される。逆にいえば、他の領域からの引用はコア・ジャーナルに集中する)とかも。
知ってるとなんか格好いいよね(そんな理由かよ)。

パネルディスカッション

研究者の倫理と不正行為、それに対する学術雑誌の責任に関するパネルディスカッション。
4人のパネリストと司会の方がそれぞれの見地から意見を述べた上で質疑、という形態だったんだが、質疑はピアレビューの話題に集中してた。
査読者が真剣に取り組むことが大事だという意見もあれば、「論文数が多すぎてそんなに査読ばっかりしてらんない」みたいな話も出たり、「E-priint archiveをこまめにチェックしてれば査読にそんなに時間はとられない」っていう意見もあったり。
会場にメインでいたのは自然科学系の研究者の方々だろうと思うんだが、やっぱ査読にはけっこう苦労してるんだなあ・・・




全体を通じて思ったことは、自然科学系の研究者の方々が集まるセミナーで学術情報流通関連の話題について取り組んでいる、ってのは割と素晴らしいことなんじゃないかと思った。
図書館情報学とかの中で学術情報流通だとかオープンアクセスの話題について開くことは多くても、それだけじゃあ特に一緒になって考えて欲しい他分野の人たちの共鳴を得られないわけで。
これから色々な分野でこういう話題について触れられてくといいなあ、と。
まあそれだけじゃなくて、図書館情報学側でも研究倫理の問題とかについても考えていく必要があると思うが・・・ねつ造が発覚した文献の扱いとかか?
いや、そもそも利用者教育の一環、ともとらえられるのかも・・・引用元を明らかにすることとか盗用(コピペ)をしないこととかの論文作法も情報リテラシーのうちに含まれてたし・・・



おまけ

会場でいろいろお土産もらえてほくほくだったんだが、そのうちの一つに入っていた、材料・物質研究機構とElsevierが協力して出している学術雑誌SCIENCE AND TECHNOLOGY OF ADVANCED MATERIALSが、来年から英国物理学会出版局との協力のもと、フルオープンアクセスジャーナル(購読料だけでなく、投稿料も無料)化するらしい。
おそるべし、NIMSとIOP・・・