かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

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「図書館業務の基本原則」


図書館業務の基本原則 (1985年)

図書館業務の基本原則 (1985年)


イギリスでNLL(国立科学技術貸し出し図書館。後に大英博物館図書館他と統合、British Libraryの一部となる)の設立・運営に携わっていたD.アーカートの著書を高山正也先生が訳したものなのだが。
この中でD.アーカートが唱える基本原則が、なかなか興味深い。
全18箇条と長いのだけど、全文転載すると以下の通り。

  1. 図書館は利用者のためのものである。
  2. 情報提供システムが、その利用者の要求に応えられなくとも、原則として、それは明らかにならない
  3. 供給は需要を創る
  4. 利用者がその必要とする記録類を選べるよう、"ガイド"が用意されていなければならない。
  5. 図書館は利用者が利用したい記録類を利用できるようにしておかなければならない。
  6. 図書館はそのサービスの代償を受けるべきである*1
  7. 図書館は、個別的にも図書館のグループとしても、費用対効果について関心を払わなければなならい。
  8. 情報は、原則として、貨幣額で価値づけ出来ないものである。
  9. 図書館は収穫逓減の法則に関心を払わなければならない。
  10. 最善は善の敵である。(完全を求めて時期を失してはならない。)
  11. 特定の活動に要する原価は、活動の規模が大きくなるにつれて、低減すべきである。
  12. どんな図書館も孤島ではない。
  13. 図書館の発展計画の立案に際して、利用者の要求についての客観的なデータを用いるべきである。
  14. 新技術やシステムを利用するに際して、過去を振り返るのではなく、将来を見つめることが必要である。
  15. 図書館の職員はチームの一員として働くべきである。
  16. 図書館員と言う職は学者のための閑職ではない。
  17. 図書館は社会にとって価値あるものでありうる。
  18. 図書館学は経験科学である。

アーカート, D. 図書館業務の基本原則. 高山正也訳. 東京, 勁草書房, 1985, p.3-4より.)


長いし項目も多いけど、これは凄い。
なにが凄いって、全18項目中一度も「本(book)」の単語なし。
「読書」も「文化」もなし。
D.アーカートは自然科学者出身で第二次大戦中の軍需省での経験などから経営センスも身につけた、っていう人物で。
戦後、図書館業界関係者の大ブーイングを浴びながら当時異端の「国立科学技術貸し出し図書館」という相互貸借に特化した図書館を成功に導いてみせた、っていう人なんだそうだが・・・
やー、これは確かに、図書館関係者の反感買っただろうなあ(苦笑)
自身が雑誌メインであまり図書を扱わない図書館に勤めていたこともあったんだろうが、一般に「図書館」と言った時にイメージされるようなものとはかけ離れたこと言ってるようにも見えなくもない。
それでいてアーカートはこれを館種や時代を問わず図書館に共通する原則として提唱しているし、事実その通りだと思う。
最近やっと公共図書館でも効果測定の話なんかが聞かれるようにはなってきたけど、ここで言われているようなことがどんだけ意識されているかってのは・・・どうだろう、なあ・・・学術図書館においてすら割とあやしいような気はするなあ・・・


本自体の内容はけっこうとっ散らかっていると言うか、上の18原則をまず簡単に説明した上でアーカート自身の体験とそれらの原則を結び付けていく形をとるので、まとめにくい代物であるのだけど。
読んでいて一つ感じたのは、アーカートはたぶん「図書館員には科学の素養がなさすぎる」ってずっと思ってたんだろうな、ってこと。
今でこそEBL(Ebidenced Based Library)の気運も高まってきて、日本でもその手の話題が出るようになっているけど、アーカートがこれを書いた当時(原書は1981年発行)やNLLに勤務していた頃は、客観的なデータに基づいてものを考える、って言うことがイギリス図書館界でも全然行われてなかったんだろうなあ、と。
たまに自然科学者が図書館勤めに入ってきても研究のために資料を使うのが目当てだった、と嘆いていたり(そこら辺が16個目の原則にあらわれている)、あるいは「社会科学の連中は自然科学の手法を自然科学的な制約を無視して使いやがる!」と嘆いていたり。
「多くの人々は、その調査結果の価値が限定されたものであることを認識せずに、単に主観的な意見を集めることに多くの時間を費やしてきた」とか。
「単に利用者にアンケートとって不満な点(主観的な意見)をいくら聞いたところで本当の問題点はわからないんだ!」ってことが切々と説明されていたりして、穏やかな文章の中にアーカートの鬱憤がひしひしと・・・(汗)
しかしこれについては昨日のエントリのコメ欄で紹介されていたLIPERの調査を見る限り、日本の図書館員志望学生の間では状況は相変わらずかもなあ、とか・・・文学部ばっかだし・・・いや、慶應とか愛知淑徳みたいに文学部の中に図書館情報学科や図書館・情報学専攻がある場合は別だと思うが、実際どうなんだ? そういうところ以外はガチ文系ばっかだったりしないか?*2
まあ別に文系でもなんでも基本的な統計とかについての素養だけでもきちんと伝わっていればなんとかなるとは思うんだが・・・統計における「検定」で挫折する学生が多い、とかって話を聞くと暗雲たちこめてくるよなあ・・・


図書館がアーカートがイメージしていたような場所、っていう認識が広まると図書館員志望の層も変わるのではないかと思うけど・・・
変わるというか単に減るだけか?(苦笑)
しかし現状(自然科学系、少なすぎ!)に対するカウンター的な意味ではこういう図書館像を押し出していくのもありかな、と。

*1:利用者から直接金をとる、ってことではなく、親機関にせよなんにせよ、まあ金を出すところがないと図書館は運営出来ない、ってこと

*2:科学的に調査してないので断定はしません