かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

例によって死ぬほど大雑把に公共図書館と大学図書館の選書における1冊/1円の重みを考える


大学図書館の所蔵状況調査が楽しくてついついそっちにはまっていたわけですが。*1
元はと言えば、あれはブックハンティングに関する話題から出てきた話だった・・・ってのは、何も忘れたわけではないのです。
ってことで、「あとで読む」タグをつけたままになっていた下の論文を読んでみました。


・・・そもそも公共図書館で「選書ツアー論争」なるものがあったことすら知らなかった自分にとっては、読み手が選書ツアー論争の概略を知ってることが前提で書かれている論文なので読みづらいところもありましたが・・・
とりあえず、言い出しっぺと言うか選書ツアーをやりだした公共図書館自体が選書ツアーを早々にやめていたのに、論争だけが続いていた・・・という指摘は、現場置き去りで盛り上がりがちな自分も注意しないといけないかな、と。
あとは、著者の田井氏自身が大学図書館など他館種には(本論中では)触れない、と論文中で明言されているのがちょっとつまらないかも、とか。


しかし確かに、大学図書館公共図書館じゃ状況が全然違うだろうしなあ・・・とも考えたり。
そもそも大学図書館公共図書館で選書に対する切迫度が違う気がする。
公共図書館の場合、地域住民全体が奉仕対象(潜在利用者も含めた利用者全体)として想定されるのに対して、大学図書館の場合は基本その大学の構成員(教職員および学生)に利用者が限定されるので、例えば「学生による選書」によって特定個人の趣向が蔵書構成に偏りを与えてしまったとしても、それによって悪影響を被り得る人数は公共図書館よりは限定されるんじゃないか、とか*2


と、まあ考えるだけ考えていても仕方ないので。
例によって「超」がつくほど大雑把ですが、公共図書館大学図書館の選書における、1冊/1円の重みを見比べてみようかと思います。


用いる統計は毎度同じみこちら:404
2007年速報版の、公共図書館大学図書館統計を使います。
1冊の重みの測定については、

公共図書館

 合計年間購入図書数/125000000(日本の総人口)

大学図書館

 合計年間購入図書数/合計奉仕対象者数

で計算します。
すなわち、「利用者1人あたり年間何冊購入できるか(利用者1人当たりの持分はいくらか)」を計算します(ちなみにこいつの逆数をとれば、1冊あたり利用者数になります。というか「1冊の重み」という語の意味を考えればむしろこの逆数の方が指標としては正しい気もしますが、それだと「1円あたりの重み」と整合性が取りづらくなるので今回はこのままで考えてみようかと)。
1円の重みについては「購入図書数」のかわりに「資料費(経常費)」のうちの「図書費」を代入するだけです。
「実際は公共図書館のない自治体もあるぞー」とか、「都道府県立と市町村立は利用者重複してるからいっしょくたに計算するとまずいだろー」とかいくらでも問題点は指摘できるわけですが・・・そこはまあ、とりあえず大雑把な計算と言うことで一つ。


というわけでやってみた結果が以下の通り。

利用者(国民/教職員・学生)1人あたり年間図書購入冊数(数字は小数点以下第3位で四捨五入)

 14798000/125000000=0.12

 5244000/7191000=0.73

利用者(国民/教職員・学生)1人あたり年間図書購入金額(数字は小数点以下第2位で四捨五入)。

公共図書館

 24394190000/125000000=195.2

大学図書館

 26742390000/7191000=3718.9


・・・やあ、こいつは思った以上だ(汗)
金額が20倍近い差になるのは、学術書/専門書は高いからって理由も大きいとは思うが*3、冊数で見ても6倍くらい差がつくのかー・・・
1冊、変な本(便宜上ね。実際にそんな本があるかは知らない)を買った場合、公共図書館大学図書館の6倍くらいの人に影響が及ぶ可能性がある、と。
あくまで潜在利用者込みだけどね。
実際は図書館使わない人がわんさかいるはずなので、ここまで大学-公共間で差が開くことはないと思うけど・・・
それでも、公共図書館の選書に対して慎重さを声高に求める(イベント感覚で気軽に参加できるツアーで選んでいいようなもんじゃない、とする)理由がわかるような結果ではある。
1人当たり持ち金195円くらいですから、公共図書館(しかもこれ私立入ってるし)。
つまりもし国民全員が選書ツアーに参加した場合、1人当たりブックオフの105円コーナーの本を2冊購入することすらできないってわけですな。
ちなみに2005年度の図書購入費のレベルであれば、1人当たり2冊くらいならなんとか買えました。
公共図書館の図書購入費は着実に目減りしているので・・・このペースだと、2人で3冊しか買えなくなる日もそう遠くはない(3年で20円くらい減ってるので、この減少ペースが維持されると6年くらいでヤバい)、と。


大学図書館もそこまで楽観できる数字ではないと思うが・・・まあでも、公共に比べるとだいぶ余裕はあるかな・・・。
少なくともイベント的な要素を理由にブックハンティング組めるくらいの余裕はあると見ても良いんじゃないか、とか。
もちろん余裕の有無よりも、ブックハンティング以外の方法で(図書館員による選書やリクエストへの応答などで)購入した資料が生み出すであろう価値とブックハンティングにより図書館利用等が活発化する(であろう)ことによる価値(と、もちろんブックハンティングで買われた本自体の生み出す価値)を比べてやる/やらないは決めるべきだと思うけど、そもそも資源の余裕がないとそういうことすらできない/やりづらいだろうしね。


もっとも、以上は全部日本の公共図書館大学図書館を合計した数字を見ての話なので、実際のところは各自治体/大学によって全然状況違うと思うが・・・
資金が潤沢な自治体もあれば困窮状態の大学図書館もあるだろうし。
本気できちんと考えようと思うのであれば属性とか住民数とか学部数とか色々な数字を見て、対象をグループ化していくことが絶対に必要だと思う・・・けれど、それは例によってブログの範疇を超えると言うか完全に研究のエリアだし、しかも既にそういう研究(『日本の図書館 統計と名簿』をつぶさに見ていくタイプの研究)は結構やられている気がするので、とりあえず深追いはやめてまた所蔵状況調べる方に戻ろうかなー。


・・・ええ、まあ、それ以前に学会の準備とかもっとたくさんやることはあるんですが(汗)
現実逃避の先も調べものってのは我ながらなんだかな*4

*1:1.ベストセラーは普通に大学図書館に所蔵されている - かたつむりは電子図書館の夢をみるか
2.ケータイ小説はどこの大学にあるのか? -あるいは、ブックハンティングの副産物? もしくは、GO! WEST- - かたつむりは電子図書館の夢をみるか
3.大学図書館所蔵率調査続編-ライトノベルはどこにもない、ミステリーはどこにでもある - かたつむりは電子図書館の夢をみるか

*2:あくまで潜在利用者(実際は使ってないけど使いうる可能性のある利用者)も含めた場合。実際の利用者数に対する分析は別にやらないといけないのだが、公共図書館では利用登録者数はわかるが正確な来館者統計がなく、大学図書館の場合は来館者統計があるかわりに多くの場合学生証や教職員の身分証が利用証を兼ねるために利用登録者=奉仕対象になってしまうという問題が(いや別に問題じゃないんだが)あり、両者の比較が難しいんだよね。まあ、そもそも学問的な見地から比較に意味があるんかい、と言われると困るが。好奇心です。猫まっしぐら。

*3:それにしたって合計奉仕対象者数2桁違うのに、大学図書館の方が公共図書館より合計年間図書購入金額多いってんだから凄い話だ。その他に雑誌代がつくことを考えるとえらいことだ。まあ雑誌とか電子ジャーナルとかDBとかは学内共通経費だったりもするのであれだが。

*4:ゆえに、複数タスクを抱えておくと、あるタスクの現実逃避に別のタスクをやるので結果的に仕事が進む・・・こともある。全部のタスクから逃避して別のことを始めるとますますヤバいことになるので注意が必要