かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

出版市場の縮小ペースより図書館の資料費減額ペースの方が早い、とかなんとか


先日のエントリ*1に関連して、ceekzさんからこんなお題をいただきました。

活動の物差しとして、お金というのは非常にわかりやすい単位だと思います。もちろん、お金が全てではないのですが、様々な活動にお金が必要ですから、まずは、お金に置き換えてみるのも重要だと思います。

実際に図書購入を進めていくのと、公共図書館大学図書館がそれぞれ協力して、図書取り寄せを積極的に進めていくのとどちらが効率的なのかも、お金に換算してからこそわかるものだと思います(どちらがいいのかな?)。出版社・著者への還元も考える必要がありますが。

図書購入費の変化は、出版業界の市場規模と連動していると思うのだけど、どうなんでしょう。私たちが書籍を購入しなくなれば、合わせて図書館も購入しなくなるという構図。連動しない状態は、あまり正常とも思えませんしね。市場規模が小さくなっているのに図書購入費が増えているのであれば、公金を出版社に流れてる状態で気持ち良いものではないです。詳しくは min2-fly さんが書くのでは。

書籍と雑誌を特定するための方法とか - Ceekz Logs (Move to y.ceek.jp). ボールドはmin2-flyによる)

出版市場規模の推移と図書館の図書購入費の推移を見比べると面白いかもなー、というのは先日のエントリを挙げた直後に思っていたところではあったのですが・・・なんというタイミング。お前は俺か


出版業界がマイナス成長に入って早10年。
1998年あたりから推定販売金額が前年を下回るようになって以降、ハリポタ効果とかで持ち直す年もありつつ減少傾向は続いているわけです。
特に酷いのは雑誌ですが、図書だって決して伸びてはいない・・・まあ、景気動向とかともあわせて考える必要はあるわけですが・・・


一方で図書館の資料費減額についても言及されるようになってからずいぶん年月が経つわけで、まあ少なくとも出版業界の市場規模も、図書館の資料購入費も、どっちも減っているんだろうってことは容易に想像がつくのですが。
実際のところ、どんぐらい連動してるのよ??


ってことでいつものように気になったら即調べる方向でいきたいと思います。


まず、出版市場の規模についての資料はこちら:公益社団法人 全国出版協会・出版科学研究所.
出版科学研究所が出している『出版月報』、これの毎年1月号に掲載される前年の出版市場等の動向(推定販売金額とか)を使います。
ただし、例によって夜型のmin2-flyは冊子体の『出版月報』が使えないので、実際に使うのは日本経済新聞の記事等*2です。
市場のことで困ったときは日経テレコン
マジ使い勝手がいいよこのデータベース。


さらに販売金額のほかに年間出版点数も一応、調べておきます。
よく言及されるところですが、日本の出版業界は売り上げは落ちる一方なのに新刊の出版点数は増える一方、というヤバげなスパイラルに陥っているので・・・市場規模自体は縮小しているはずなのに、図書館が購入を考慮する必要のある出版点数自体は増えているという謎現象*3
ってことで、金額だけじゃなくて出版点数に対する受入冊数の推移も見ておいた方が良さそうです。

で、年間出版点数を調べるために使うのは以下の2つの資料。

 (第23章から2003-2005年の出版点数を抽出)

 (第26章から2001年の出版点数を抽出)
足りないところはGoogleなりなんなりで見つけてきます*4


で、図書館側の統計として用いるのはいつもの404.
公共図書館大学図書館についてデータを持ってきます。
いつもながら本当ならweb掲載の速報版でなく冊子体かデータ版使うべきなんですけどね・・・図書館がね・・・まあ、4月以降は深夜でも図書館入れるようになる*5はずなので、それ以降はちゃんとやります。
webの速報版では1999年以前の図書購入費*6や、2000年以前の年間図書購入冊数がわからないので、出版市場規模と図書購入費の比較は2000-2006年、出版点数と購入冊数の比較は2001-2006年の範囲で行います*7
あえて図書に限定したのは、大学図書館側で洋書の購入冊数は除くことが出来ても洋雑誌購入費を除くことが出来ないから。
それを言ったら大学図書館の図書購入費も洋書を抜けていないんだけど・・・とりあえずその辺は保留で。



以上を踏まえて、まずは出版業界の市場規模と図書館の図書購入費の比較から。



出版業界の市場規模と図書館の図書費の推移


表1が書籍販売金額と図書購入費を対比したもの(公共図書館資料費/大学図書館資料費は日本全体の合計値)。


<表1 出版市場規模と公共/大学図書館の図書購入費の推移> 

西暦 販売金額(書籍) 公共図書館資料費(図書) 大学図書館資料費(図書)
2000 9706億円 286億8202万円 317億1799万円
2001 9456億円 285億7473万円 308億0586万円
2002 9490億円 277億5998万円 298億6088万円
2003 9056億円 274億4218万円 293億9499万円
2004 9429億円 267億7167万円 276億2435万円
2005 9197億円 255億3027万円 270億8924万円
2006 9326億円 243億9419万円 258億4178万円


数字の羅列だと今一わかりにくいので、各項目について2000年の数字を100として、金額の推移をグラフに示したものが図1(表にはないけど出版市場については2007年分も入れてます).



<図1 出版市場規模と公共/大学図書館の図書購入費の推移> 


・・・あれれー。
出版不況・出版不況って言われている出版市場よりも、図書館の図書購入費の減少の方がペース早くないかーい??
まあ、出版業界でも特にヤバいのは雑誌であって、それに比べれば書籍の売上の減額はゆるやかではあるからな。
ちなみに2004・2006年の回復は日経新聞によればハリーポッターなど大ベストセラーの効果によるのではないか、とのこと。
そうしていったんは盛り返したものの、2007年にはふたたびマイナス成長に転じてから最低だった2003年と同レベル、っていうか金額では2003年以下に落ち込むという・・・まあ不景気な話ではあるね・・・
しかしそれをかっ飛ばすかの勢いで図書購入費が減額している図書館。
特に大学図書館はこの6年で2割近くも図書購入費が減少しているという・・・2割て。
もともと順調に下がっていたのだが、大学図書館は2003-2004ででガクンと下がって以下、今に至るまで上がらず・・・と*8
一方の公共図書館は、2003年くらいまでは出版市場に比べると緩やかなペースでしか図書購入費が減少していなかった・・・のだが、2004年の出版業界の復調にはついていけず、さらに2004-2005年でこれもガクンと数字を下げ、2006もほぼ同じペースで減少、と・・・*9


ceekzさんの予想通り出版市場で規模が縮小しているのと同様に図書館の図書購入費も下がってはいる、とは言えるのだが・・・むう、大学図書館の下がりっぱなし感とか、公共図書館の上がらない感を見るに、出版市場と連動してというよりはなんか違う要因によって下がっているんじゃないか、と考えた方がいいような・・・
むしろこのペースだと出版市場における図書館の占める地位は低下している感じだし。
2000年には書籍販売市場の6.2%くらいは公共/大学図書館の資料購入費が占めていたものが、2006年では5.4%くらいまで減少。
しかもこの数字には大学図書館における洋書購入が含まれているわけで・・・和書に限ったらどうなるやら(苦笑)*10


出版点数と図書館の購入冊数の推移


続いて表2は書籍の年間出版点数と図書館の購入冊数(寄贈等を除いた数字。大学図書館は洋書も除いた)を比べたもの。


<表2 年間出版点数と公共/大学図書館の年間購入冊数の推移>

西暦 出版点数(書籍) 公共図書館購入冊数 大学図書館購入冊数(和漢書
2001 71073 17266000 3942000
2002 72055 16379000 4380000
2003 75530 16491000 3952000
2004 77031 16822000 4023000
2005 78304 17477000 4000000
2006 80618 15657000 4035000


やっぱりわかりづらいので、同じく各項目2001年の値を100として推移をグラフ化したものが図2.




<図2 年間出版点数と公共/大学図書館の年間購入冊数の推移>



ありゃ。
販売金額が7%くらい減少しているのに対して、出版点数は13%も増えているんかい。
もちろん、点数=オリジナルのタイトル数であって出版部数ではない、とはいえ・・・市場が縮小しているのに新製品は増加の一途をたどる業界・・・苦し紛れに新メニュー開発に励む売れない食堂とかが頭に思い浮かぶね、っていや出版業界は他業種と全然傾向が違うっちゃあ違うんだが。
一方、図書館の購入冊数についてはこの出版点数の増加ペースにはついていっていない。
図書費が削減されているんだから当然ではあるが。
ただ、図書費の削減ペースに対して購入冊数も同じペースで減少しているわけではなく、大学図書館はほぼ横ばいでいくらか増えている程度だし、公共図書館も2005-2006で大きく減ってはいるものの、それまでは横ばいに近い数字は保っていたことになる。
・・・ってことは、ごく単純に考えると以前に比べると安い図書を購入している、ってことか?
冊数は減ってないのに図書購入費が減っているんだから。
ここら辺は書籍自体の物価指数とかとも比べる必要があるんだろうが・・・ふむ、まあ面白い傾向ではあるかな。




結論

図書館の図書購入費は、出版業界の市場規模の縮小を上回るペースで減少しています。
また、出版点数の増加に対して図書の購入冊数はついて行っていません。
出版業界の市場規模に連動しているというよりは何か別の理由によって図書館の図書購入は減少していると考えた方が良さそうです(それが何かは今回とはまた別の話)。
また、そんなわけなので書籍出版市場全体における図書館の占める役割(金額的な)も低下しつつあると言えます。
このペースが続くとも考えにくいけれど、万一続いた場合は2030年頃には図書館は書籍出版市場の2%くらいを占めるに過ぎない存在になるやも・・・とかなんとか。
まあ戯言だけど。



おまけ

「市場規模は小さくなっているのに出版点数は増える」出版業界の自転車操業っぷりをグラフに示したものが図3.


<図3 出版点数対販売金額指標の推移>


年間の販売金額を出版点数で割った値について、1998年(販売金額がマイナス成長に転じた頃)の数字を100として、推移を示すという非常に乱暴なグラフなのだが・・・。
ものすごい乱暴な解釈をすると1タイトルあたりの売上率の推移と見ることもできるかも知れないが、まあ実際には当該年に出版された分以外の出版物の売り上げも販売金額には含まれているので難しいか。
販売金額の縮小以上に出版業界は不況を感じているんだろう、ってことを実感できるものではある。

*1:例によって死ぬほど大雑把に公共図書館と大学図書館の選書における1冊/1円の重みを考える - かたつむりは電子図書館の夢をみるか

*2:日経テレコン21経由

*3:まあ実際のところ図書館が購入するような本の点数が増えているかはさておき

*4:学術論文ではないのでそれくらいの手抜きはさせてほしい

*5:院生はICカードを発行すれば出入り可能

*6:資料費はわかるが雑誌購入費等を除いた額がわからない

*7:2007年分については図書館側がまだ決算額が確定していない上に出版点数の正確な数も発表されていないようなので保留

*8:国立大学法人化の影響か?

*9:平成の大合併とかのせいか?

*10:もっとも、洋書を優先して切っている可能性もある。また、2006年は出版市場が一瞬回復した年なので、相対的に図書館の地位が低下したとも言える。2007の数字によればまた違うはず。地位回復はできていなさそうだが