かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

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『恋空』読了しました


承前:『恋空』前篇読みました - かたつむりは電子図書館の夢をみるか


気づけば前篇読了がもう先月の話とは(苦笑)
なかなか時間がとれず、ずいぶんかかりましたが、とりあえず『恋空』全部読了しました。
で、感想などを述べてみようかと思ったのですが・・・


・・・なんつーか、別に後篇は普通に普通の小説じゃないか??
別に非難しているわけではなくて、前篇のようなキャラ使い捨てとか情景描写なさ過ぎとかいうような突っ込みどころも特になく、ギミックも上手に活かされているし泣かせどころも感動させどころもきっちり抑えてるし*1
文章表現の問題についての突っ込みは色々あるだろうけど、それも「でも太宰だって『女生徒』*2書いてるしさー。『そんなもんだ』って思って読めば別に気にならなくないか?」とか思う。


最後までちゃんと読むと、特に非難される言われはないというか、むしろこれは確かにライトノベルよりは大学図書館に所蔵されているのも当然である*3という気がしてきた・・・もっとも、前半は自分も途中で一回放り投げたくなるほどキツイ部分があったので、「こんなの小説じゃない!」って人はあそこで投げ出しているってのもけっこう多いのかも知れないが。


前半に対し後半どんどん小説になっていく、って話は『筑波批評2007』の「座談会 ケータイ小説は文学の夢を見るか」でもされているが*4、そこで2ちゃんのスレの話を同時に挙げられているのは非常に良くわかる。
最近自分が読んだところだと「http://urasoku.blog106.fc2.com/blog-entry-329.html」なんかも最初はQ&A式のスレでの応答から、時系列順にエピソードを追っていく感じなんだが*5、2スレ目の終わり辺りから3スレ目にかけてどんどん文体が単なる語りから小説っぽくなっていって、最後の方はなんかギャルゲーの一シナリオみたいな感じに主人公が吠えるシーンまである。
ケータイ小説の場合、スレ中でのコメントみたいなのはないわけだから全く同じ生成方法ではないと思うが・・・後半にかけて「小説になっていく」(意図する/せざるに依らず小説っぽいものになっていく)ってあたりは確かに似ている。
そして座談会中ではid:SuzuTamakiさんが「ノンフィクショナルとフィクショナルの両方を兼ね備えた作品じゃないとダメだと思う」と言っているが、普段はまとめブログしか見てない*6自分が言っても説得力がないが確かにそれはそうだと思う。
最初から小説っぽいものが読みたいときは小説読むわけで・・・2ちゃん派生系は、最初にリアルな部分があるからいいんだよな、とかなんとか。
『恋空』における前半(ノンフィクショナルな部分)についてはちょうどその逆で、「別に女子高生のリアルな話なんか興味ねえよ! DQNっぽい彼とどうこうだのは興味ないよ!」って感じたから自分は早々に一度ギブアップしたわけで。
そこら辺は自分がどのコミュニティ/文脈に慣れ親しんでいるか、ってことでもあるんだろうが・・・2ちゃんのスレっぽいやりとりは平気だけど生のガールズトークはすいません、おなかいっぱいです、とかなんとか*7


しかし妊娠エピソード以降、ヒロがフィクションっぽい言動をするようになって行った頃から徐々に読みやすくなり、後篇については時間さえとれればもうさらさら読める、みたいな感じに。
『女生徒』とサナトリウム文学(まあ『風立ちぬ』しか自分は読んだことないんだけれど)の設定足して舞台を現代へ大胆に翻案したらだいたいこんな感じになるんじゃないか、とか関係者一同に失礼なことも思ったが・・・でも書き方によっては実際本当にただの小説にだってなりうるテーマだと思うし、そして奇しくも『女生徒』が示しているように小説の書き方は本来どんな形があってもいいだろう。
「そういう風にしか書けない」ことと「表現手法として書いている」ことの違いはもちろんあると思うが、読み手にとってそこが本当に重要なのか・・・というか、太宰が女生徒を装って書くのはOKで、なんで元女子高生が女子高生らしい文章書いたらアウトやねん、とか。
物語の構造だって言われるほど陳腐じゃないし・・・まあ、泣かせるための王道パターンを外さずとっているだけだろう、みたいな突っ込みもあるのかも知れないが、しかし泣かせるための王道を外さないというのはエンターテイメント作品なら別に間違いじゃないし、王道で人を泣かせられるならそれは十分すごいことだろう。


っていうか黒板エピソードはマジやばいって。
最後までヒロも美嘉もそこに触れないあたりが本当もう・・・
CLANNADは人生」って言える奴らがなぜ『恋空』は批判するのかこのエピソードだけ見るとわからない。
まあ、前半だけならわかるけれど、ていうかつくづく前半の(ガールズトークに親和性のない男子にとっての)とっつきにくさがバッシングの一要因になってるんじゃないかと思うけれど。
もう一つの要因は支持層への反発か・・・そこら辺はid:katz3さんがid:humotty-21さんのコメント欄で指摘されているが*8、まあそういうところがあるんだろうな、と。
読んで「感動した」と言ってる人らを攻撃したいから『恋空』を攻撃する。
まあ、誰しも自分にとって大切なものを貶められたらダメージも大きいだろうから、精神攻撃としては有効な手法やも知れないけれど、作品にとっては飛んだとばっちりだよな。


まあとにかく、ざっと読んだ感じでは少なくとも自分にとっては『恋空』は『女生徒』とか『風立ちぬ』と同じくらいには面白かったです、ってことで。
金出して読むか否かはまた別問題。
「金を出してまで、本の形態で読みたいか?」って聞かれると出版物の99%以上が「No.」だし*9
文学作品だと99.9%くらいが金払ってまでは読みたくない・・・図書館にあれば嬉々として読むものも多いけれど。


・・・一瞬だけ、『君空』を所蔵している大学図書館がうらやましくなったが・・・待て待て自分、ただでさえ改修やらなんやらで金のない筑波大に大衆小説まで求め出したら研究予算はどこへ行くんだ・・・

*1:とりあえず黒板のエピソードはもう無理。何回思い出してもあそこは来る。あのエピソードだけでも読んだ価値はあった。金がないから書籍版は買わないけど

*2:青空文庫より:図書カード:女生徒。高校3年の頃、学校図書館で全集借りてこれ読んだときはずいぶん驚いたものだった。

*3:参照:ケータイ小説はどこの大学にあるのか? -あるいは、ブックハンティングの副産物? もしくは、GO! WEST- - かたつむりは電子図書館の夢をみるか大学図書館所蔵率調査続編-ライトノベルはどこにもない、ミステリーはどこにでもある - かたつむりは電子図書館の夢をみるか

*4:座談会の詳細については「http://d.hatena.ne.jp/i-Ag/20071214/p1」参照

*5:ちなみに人の良い一読者であるところの自分としてはこの話自体は釣りじゃないと信じている

*6:http://2log.blog9.fc2.com/blog-entry-1937.html」の続編、「http://urasoku.blog106.fc2.com/blog-entry-89.html」だけは気になったあまり途中からスレromってた

*7:リアルな知り合いだとまた別なんだけどねえ・・・赤の他人のガールズトークは・・・全く同じ内容でもたぶんスレっぽいと読めるんだろうが、それはそれでガールズトークな内容を2ちゃんにスレたてするとか女子としてどうよ、って感じだしな・・・いや、むしろそれは萌えるか?

*8:近況と携帯小説 - 図書館学の門をたたく**えるえす。

*9:ベストセラーだろうがなんだろうがそれは同じ。大好きな京極夏彦田中芳樹ですら、ハードカバー買ってまで読みたいとは思わない場合が多い(作品にもよるが)。っていうか講談社BOXとミステリランドを除けばここ数年で買ったハードカバー小説なんて『T.R.Y 北京詐劇』と『連射王』くらいだし