かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

文献複写提供件数と取寄件数のアンバランス―日本一(?)他人を頼っている大学は、他から全然頼られていない件


先日、とある授業のTAをしていたときのこと。
プリントの中で『日本の図書館』2006年版の筑波大のデータが出てきていて、ぽーっと眺めていたのだが。
「そういや、筑波は文献複写*1の依頼数は多いくせに提供数は少ない(コピー1枚あたりの単価が他に比べて高いから)」って話をよく聞くけど、実際どうなのかなー・・・と眺めてみたところ。
・・・え、なになにこの数字(汗)
なんか文献複写提供件数の3倍くらい依頼(取寄)してないか?
え、これって普通なの?
いくらなんでも多くない?
でも他の図書館の提供数と取寄数を見たわけでもないしなー・・・これだけで筑波を「このフリーライダーめ!」とバッシングするのは早計な気がする・・・。


ってことで、他の大学図書館と見比べてみました。
データ源として用いるのは『日本の図書館:統計と名簿』の2007年版。*2
出来れば日本全国の大学図書館について調べたいところではあるのだけれど、残念ながら『日本の図書館』のデータ版*3を持ってない(冊子体を使うしかない)自分にはちょっと厳しいし、筑波とあんまり規模や役割の違いすぎる図書館を比べても仕方ないので、今回は大学をその機能(具体的には学位授与分野数・授与数)で分類する「カーネギー分類」の手法で、筑波大学と同じ「博士号授与多角型」(5つ以上の分野で、年合計50件以上の博士号を授与)にあてはまる表1の27大学について調べます。*4

  • 表1 カーネギー分類による「博士号授与多角型」大学(27大学)*5
大学名 国公私
お茶の水女子大学 国立
愛媛大学 国立
岡山大学 国立
京都大学 国立
金沢大学 国立
九州大学 国立
熊本大学 国立
広島大学 国立
山口大学 国立
鹿児島大学 国立
新潟大学 国立
神戸大学 国立
千葉大学 国立
大阪大学 国立
筑波大学 国立
東京大学 国立
東北大学 国立
北海道大学 国立
名古屋大学 国立
大阪市立大学 公立
大阪府立大学 公立
慶應義塾大学 私立
早稲田大学 私立
中央大学 私立
東海大学 私立
日本大学 私立
明治大学 私立


いわゆる旧帝大に、(一橋や東工大など分野に特化しているところを除く)比較的規模の大きな地方国立、大手私立が加わっている感じ。
公立は大阪の府・市私立大のみです(学位データが平成16年度版なので、首都大学東京は計算から除いています)。


で、この27大学をまずは文献複写の取寄件数(他大学に依頼して、実際に取り寄せた件数。ページ数ではなく受付数単位)で降順に並び変えたのが表2.

  • 表2 複写取寄件数 降順*6
大学名 国公私 複写提供件数 複写取寄件数
筑波大学 国立 5803 17922
東京大学 国立 18381 16625
慶應義塾大学 私立 43307 15350
京都大学 国立 33685 13792
東北大学 国立 57468 13604
日本大学 私立 17824 12937
広島大学 国立 8833 11550
北海道大学 国立 16233 11082
神戸大学 国立 14755 10919
金沢大学 国立 11329 9604
岡山大学 国立 10187 9284
鹿児島大学 国立 8523 9222
大阪大学 国立 42920 9103
名古屋大学 国立 19298 9050
早稲田大学 私立 15660 8748
九州大学 国立 33602 8613
大阪市立大学 公立 13130 8234
大阪府立大学 公立 6230 7545
新潟大学 国立 9429 7531
千葉大学 国立 14657 6466
愛媛大学 国立 6523 6341
山口大学 国立 5554 6023
熊本大学 国立 4602 5846
東海大学 私立 6704 5238
お茶の水女子大学 国立 1433 3161
明治大学 私立 3526 2662
中央大学 私立 1824 2405


見事に「博士号授与多角型(以下、博士多角型)」の中で筑波大が1位という結果に。
他を見てないので確かなことを断言は出来ませんが、この分だとおそらく日本の大学全体でも筑波大の1位は揺るがないだろうなあ・・・どんだけ他大学に頼っているんだー、と言いたいところだけれどごめんなさい自分もたぶん年に10件前後は依頼している気がします(サービス対象数が20000人オーバーくらいなので、皆が自分と同じくらい文献複写を使うと複写件数は今の10倍以上に跳ね上がりますね(汗))。
仕方ないじゃん、欲しい資料がないんやさかい(ニッチな資料ばかり欲しがるせいでもある)。


2位は東大、3位慶應、4位京大という風に続きますが、筑波以外はどこも提供件数(他の依頼を受けて提供した件数)の方が取寄件数よりも多い、という結果に。
特に慶應・京都はざっと見でも取寄件数の数倍くらいは提供していますね。


そこで今度は提供件数の降順で並び変えたものが表3.

  • 表3 複写提供件数 降順
大学名 国公私 複写提供件数 複写取寄件数
東北大学 国立 57468 13604
慶應義塾大学 私立 43307 15350
大阪大学 国立 42920 9103
京都大学 国立 33685 13792
九州大学 国立 33602 8613
名古屋大学 国立 19298 9050
東京大学 国立 18381 16625
日本大学 私立 17824 12937
北海道大学 国立 16233 11082
早稲田大学 私立 15660 8748
神戸大学 国立 14755 10919
千葉大学 国立 14657 6466
大阪市立大学 公立 13130 8234
金沢大学 国立 11329 9604
岡山大学 国立 10187 9284
新潟大学 国立 9429 7531
広島大学 国立 8833 11550
鹿児島大学 国立 8523 9222
東海大学 私立 6704 5238
愛媛大学 国立 6523 6341
大阪府立大学 公立 6230 7545
筑波大学 国立 5803 17922
山口大学 国立 5554 6023
熊本大学 国立 4602 5846
明治大学 私立 3526 2662
中央大学 私立 1824 2405
お茶の水女子大学 国立 1433 3161


提供件数1位の東北大(57,468件)を筆頭に、5位の九州大まで軒並み提供件数30,000を超えるという結果に。
このうち私立である慶應義塾大学を除く4大学はいわゆる外国雑誌センター館*7なので、まあ提供件数が多いのも当然と言えば当然であるのですが(ちなみに東北、大阪、九州は生物・医学系のセンター館、京都は理工学系のセンター館。同じく理工系のセンター館である東工大の図書館は、カーネギー分類上が博士多角型ではないため今回はノーカウント)。


・・・しかし・・・他の取寄件数上位大学が軒並み提供件数でも上位グループ(上位7位以内)に入っているのに対し、筑波大は22/27という結果に(苦笑)
あらためて、筑波の提供件数に対する取寄件数比はおかしい気がしてきますな。


単にランクを並び変えるだけだとよくわからないな・・・ってことで、提供件数-取寄件数の差や比についても見比べてみることに。


まず提供件数-取寄件数の差を出したのが表4(降順).


  • 表4 提供件数-取寄件数 降順
大学名 国公私 複写提供件数 複写取寄件数 提供-取寄 提供/取寄
東北大学 国立 57468 13604 43864 4.22
大阪大学 国立 42920 9103 33817 4.71
慶應義塾大学 私立 43307 15350 27957 2.82
九州大学 国立 33602 8613 24989 3.9
京都大学 国立 33685 13792 19893 2.44
名古屋大学 国立 19298 9050 10248 2.13
千葉大学 国立 14657 6466 8191 2.27
早稲田大学 私立 15660 8748 6912 1.79
北海道大学 国立 16233 11082 5151 1.46
大阪市立大学 公立 13130 8234 4896 1.59
日本大学 私立 17824 12937 4887 1.38
神戸大学 国立 14755 10919 3836 1.35
新潟大学 国立 9429 7531 1898 1.25
東京大学 国立 18381 16625 1756 1.11
金沢大学 国立 11329 9604 1725 1.18
東海大学 私立 6704 5238 1466 1.28
岡山大学 国立 10187 9284 903 1.1
明治大学 私立 3526 2662 864 1.32
愛媛大学 国立 6523 6341 182 1.03
山口大学 国立 5554 6023 -469 0.92
中央大学 私立 1824 2405 -581 0.76
鹿児島大学 国立 8523 9222 -699 0.92
熊本大学 国立 4602 5846 -1244 0.79
大阪府立大学 公立 6230 7545 -1315 0.83
お茶の水女子大学 国立 1433 3161 -1728 0.45
広島大学 国立 8833 11550 -2717 0.76
筑波大学 国立 5803 17922 -12119 0.32


筑波ひでぇっ!
マイナスが!
マイナス方向に桁違いであります、サー!


・・・だ、だが待て、これは単に筑波大の規模が大きいからで、必ずしも提供/取寄の不均衡を示すものであると断言できるとは・・・


ってことで、提供/取寄の値で降順に並び変えたのが表5.


  • 表5 提供件数/取寄件数 降順
大学名 国公私 複写提供件数 複写取寄件数 提供-取寄 提供/取寄
大阪大学 国立 42920 9103 33817 4.71
東北大学 国立 57468 13604 43864 4.22
九州大学 国立 33602 8613 24989 3.9
慶應義塾大学 私立 43307 15350 27957 2.82
京都大学 国立 33685 13792 19893 2.44
千葉大学 国立 14657 6466 8191 2.27
名古屋大学 国立 19298 9050 10248 2.13
早稲田大学 私立 15660 8748 6912 1.79
大阪市立大学 公立 13130 8234 4896 1.59
北海道大学 国立 16233 11082 5151 1.46
日本大学 私立 17824 12937 4887 1.38
神戸大学 国立 14755 10919 3836 1.35
明治大学 私立 3526 2662 864 1.32
東海大学 私立 6704 5238 1466 1.28
新潟大学 国立 9429 7531 1898 1.25
金沢大学 国立 11329 9604 1725 1.18
東京大学 国立 18381 16625 1756 1.11
岡山大学 国立 10187 9284 903 1.1
愛媛大学 国立 6523 6341 182 1.03
山口大学 国立 5554 6023 -469 0.92
鹿児島大学 国立 8523 9222 -699 0.92
大阪府立大学 公立 6230 7545 -1315 0.83
熊本大学 国立 4602 5846 -1244 0.79
中央大学 私立 1824 2405 -581 0.76
広島大学 国立 8833 11550 -2717 0.76
お茶の水女子大学 国立 1433 3161 -1728 0.45
筑波大学 国立 5803 17922 -12119 0.32


やっぱり駄目だったーorz
提供/取寄比0.32・・・お茶の水女子大学が近いっちゃあ近いが、国立で似たランクの大学として語られる広島大と比べても1/2未満、と来たか・・・うわっちゃあ。
外国雑誌センター館と比べるのは愚かにしても、ほとんどの国立/公立大学が1.0を超えている(提供-取寄バランスが拮抗している)中で、この数字は凄いなぁ。
筑波が変な大学と言われる由縁もよくわかる。
こりゃ変だ。


まあ、冷静な話、複写受付時の価格が高いんだから複写提供数が少ないのは当然っちゃあ当然なんだが(筑波以外から取り寄せ可能なら筑波以外から取り寄せたいのはわかるが)、むしろなんでこんなに複写依頼件数が多いんだ・・・?
文献複写等の分析、と言うことではなんと言ってもREFORM*8でのNACSIS-ILLのログ解析だと思うが・・・あそこでも筑波の依頼件数は多い、ということが言われていたが、REFORMの性格上筑波単独をとことん分析する、ってことにはならないしなぁ。
果て・・・電子ジャーナルの整備があんまり進んでなかった(最近改善された)って経緯があるから、そこら辺が複写件数を伸ばしているんだろうか・・・わからん・・・。


しかも今後、中央図書館の改修工事で使えない資料が増えるとますます複写依頼件数なんかも伸びることが考えられるわけで、一方で当然依頼される件数は減るだろう、と考えると・・・ますますこの不均衡は高まる可能性があるわけで。


良い方向に解釈すれば「図書館がうまく利用者を文献複写に誘導出来ている」ってことなのかも知れないが・・・うーん、外から見たら不公平のそしりは免れん気もするなこりゃ(汗)


ここら辺(ILLの不均衡)を突っつくと筑波の面白さと脆さが見えてくる気がするんだが・・・しばらく動向を追ってみるかなー。

      • -

5/31 14:33 誤記訂正 SCREAL⇒REFORM

*1:雑誌記事や図書の中の一部分等について、自分の図書館にない場合に所蔵している他の図書館に依頼してコピーを送ってもらうこと。日本の大学図書館のほとんどはNACSIS-ILLというシステムに参加しているので、このやりとりがお互いスムーズにできるようになっている

*2:日本図書館協会図書館調査事業委員会編. 日本の図書館:統計と名簿 2007. 東京, 日本図書館協会.

*3:データがフロッピー(苦笑)に入って売られているバージョン

*4:日本の大学のカーネギー分類の手法にはいくつかありますが、自分は三田図書館・情報学会2007年度研究大会での長谷川豊祐さんの発表「大学図書館における館員数の現状と課題」で用いられたのと同じ分類方法を用いています。ただ、分類結果の件数は長谷川さんが29件なのに対し自分が27件と若干のずれがあります(原因はよくわからない)]

*5:学位数データは平成16年度博士・修士の学位授与状況. 大学資料. 2006, no. 17, p. 1-74.に基づく

*6:データはすべて分館も含めた合計。なお京都大学名古屋大学は提供件数について、九州大学は取寄件数について、大阪府立大学大阪市立大学はその双方について合計の値が『日本の図書館』中に明示されていなかったため、各図書館の値の合計値とした

*7:「学術情報基盤整備を図るために,分野別に9大学に配置された拠点図書館」、詳しくはこちら(説明もリンク先の引用):http://wwwsoc.nii.ac.jp/ncop/

*8:千葉大学文学部 人文学科 行動科学コース 認知情報科学専修 – Department of Cognitive and Information Sciences, Chiba University参照