かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

ライブラリ・コネクト・セミナー2008 -Return on Investment 〜 図書館への投資効果 〜

ってことでエルゼビア・ジャパン主催のライブラリ・コネクト・セミナー2008に参加してきました!


お土産のエルゼビアうさぎ。
足の裏に輝く「ELSEVIER」の社名がとってもキュート。


このうさぎのぬいぐるみに限らず、さすが世界最大の学術出版社エルゼビア、なんかもう何もかもが豪華と言うか太っ腹で驚きました。
参加費無料・コーヒー/お茶菓子はご自由に・昼食のお弁当も先方持ちで、英語の講演には同時通訳がつくしその上うさぎさんはじめお土産までついてくると来たもんだ。
思わず自分の大学・研究機関が年間いくらエルゼビアに払っているかと利用者数から逆算して「これで何円元とったかな・・・」とか計算してしまった人は自分だけではあるまい(?)。


セミナーの内容もどれも大変刺激的で、お土産等とは無関係に丸一日参加した甲斐がある内容でした。
さすがに丸一日にわたるセミナー全部のレビューは無理なので、以下自分が特に興味をひかれた部分についてダイジェストでまとめ。
なおセミナーは明日、大阪でも開催されるので、そちらに参加を予定されている方はここから先は明日の楽しみ、ってことで読まないでおくことをお勧めします(笑)


ScienceDirect・Scopusの最新情報(エルゼビア・ジャパン、恒吉有紀さん)

エルゼビアの電子ジャーナルプラットフォーム、ScienceDirectと、学術情報DB、Scopus等の最新ニュースついて。
残念なことにScopusは筑波大学では買ってないのですが、論文ランキングサイトである"Top Cited"*1は無料で利用できるとのことで後でいろいろ試してみようかと。
そして嬉しいニュースとしては、2008年度第3期から、ScienceDirectに検索結果の論文PDFの一括ダウンロード機能が搭載予定とのこと!
あわせて、これまでダウンロードするたびにPDF名が同じになってしまっていちいち自分で直さなければいけなかったのが、ユーザが指定したルール(論文タイトル-出版年-・・・とか)に従って自動でファイル名も振ってくれるようになるとか。
もうね・・・ScienceDirect使う時に不便に感じてたことの一番がこのファイル名の問題だったんだけど、それが解決するとかね・・・嬉しいの8割、「だからなんでいつもいつも俺が大規模な論文探索し終わってからそういう機能搭載されるかな・・・orz」ってのが2割・・・


Scopusの方では管理者向けの機能として研究者のh-indexが計算できることとかも紹介されていたり。
個人的にはh-indexだけよりはg-indexもあわせて表示できる方が好きなんだけど、h-indexくらいならともかく、g-indexとかA-indexとかAR-indexとかh(norm)とかになってくるとさすがに表示しても使い手にとってわけわからなくなるだろうしなあ・・・
計算に使う数字はたいていScopusに既に入ってるんだから、ユーザが指定したアルゴリズムで計算して指標出せるようにしてくれたりすると面白い*2とも思うけど、そんなの"Scientmetrics"誌に論文出すような人々にしか需要なさそうだしな(苦笑)


大学の図書館に対する投資:その見返りは? イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のケーススタディイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校図書館長、Ms.Paula Kaufman)

今回のセミナーの目玉、Paula Kaufumanさんによるイリノイ大学で行った図書館投資効果に関する調査報告。
大学にとっての図書館の価値を明確に、実証的に示すことを目的に、C.Tenopir博士*3がアドバイザーになって、Elsevier社や多くの研究者の協力のもとに、イリノイ大学をサンプルに行った調査。
企業図書館でのROI(Return on Investment)の研究にヒントを得て、研究助成金の獲得と図書館予算から図書館への投資効果を示す、と言うのが今回の調査内容で、教員に対して行った質問紙調査の結果をもとに、

助成金申請に引用文献を使用した教員の割合) × (図書館を通じて取得した引用文献を含む、獲得に成功した助成金の割合) × (助成金の平均額) × (助成金の数) ÷ (図書館予算) = ROI値

という計算式を用いて、図書館の投資効果を実際に示したとのこと。
イリノイ大学の場合、上の計算を行った結果図書館への投資1ドルに対し、大学には4.38ドルの助成金収入があったとのこと!


・・・いやまあ、一瞬凄い説得力があるものの図書館以外の要因を考慮に入れていないとか、研究助成金だけが図書館の目的じゃないとか、このアルゴリズムだと助成金取ってくるのが下手な研究者ばかりだと図書館と無関係に値が落ちるとか、いろいろ突っ込みどころがあるってことは、Paulaさんたち研究グループも当然理解している、とのこと。
でも大学図書館でのROIに関する研究は少ないし。
そもそも図書館の投資効果について、「貸出が何冊なのでもしこれを全部利用者が買ってた場合に比べ図書館への投資による効果は・・・」とか、「利用者が払ってもいいと思える金額が・・・」(仮想評価法)とかいう類の調査は公共図書館であったけど*4、そうじゃなくて資料を利用して得られた成果(アウトカム)を基準に投資効果を示すってのは、「やらなきゃやらなきゃ」と言われつつなかなk行われて来なかったことなので、それがついに動き出した、ってのでもう凄いことだな、とか思ったり。


今後はイリノイ大学以外の大学にも拡大して行ったり、その他の指標(教育効果とか)を扱ったり等など、十年くらいのスパンで投資効果に関する研究を続けていきたい、とのこと。
いやあ、こいつはしばらく目が離させなさそうだ・・・!


サービスこそ王様:図書館サービスの戦略的変革と将来(同、Ms. Paula Kaufman)

同じくPaula Kaufmanさんより、今度は図書館は「コレクション至上主義」から「サービス至上主義」への転換にさしかかっている、とのことで、イリノイ大学の例について報告。
特定のクラスごとに担当のライブラリアンがついてサポートする「クラスライブラリアン」の取り組みとか、Information Commons、Learning Commons等のCommons(さらに今後は研究Commonsについての検討もしているとか?!)、従来の学部図書館制度の取りやめ等など・・・
「図書館を利用者の日常生活に組み込む」という、OCLCのデンプシー氏からの引用が印象的だった。
イリノイ大学ったら大学図書館関係者の間では名の売れた図書館に強い大学だけど、まだまだとどまる気なんかないんだなぁ・・・


金額に見合う価値:電子ジャーナルの評価(東北大学附属図書館総務課長、加藤信哉さん)

東北大の加藤さんから、東北大の電子ジャーナル評価へのROIの適用例についてのご報告。
電子ジャーナル論文のパッケージごとの利用単価とILLで賄った費用の比較とか、バックファイル(過去分)とカレントファイルの利用単価の比較とバックファイルへの投資の回収に何年かかるか、とか。
結論としては電子ジャーナルパッケージの導入、バックファイルの購入のいずれも有効で、大規模の研究大学であれば金額に見合うだけの価値は十分ある、とのこと・・・
特にバックファイルは、当初は6,950件/年くらいの利用があるだろうと見込んでいたら、6,343件/の利用があったとかで・・・当初予測の約10倍っすか(汗)
この分なら投資額の回収にかかるのも当初4年以上かかる見込みが半年足らずで終わるだろうとか。
計算式に問題点もあるとのこだけど・・・いやはや、10倍以上・・・

図書館の方向性と投資尺度に対する考え方(株式会社東芝 研究開発センター 情報システム担当部長、兼図書館長、兼経営変革上席エキスパート 近藤一志さん)

東芝の研究開発センター図書館長(他役職多数)、近藤さんから東芝の研究開発センターの事例について。
企業内研究図書館の報告ってそこまで多いわけではないから興味深く聞いたのだけれど・・・いやいやいや。
東芝 研究開発センター図書館、面白い!
「研究者は研究に専念させる」ってことで図書館内にレポートの編集・発行や論文投稿の支援(OBへ回して校正してもらうとか、ネイティブに回して英文校閲してもらうとか)をやったり、ホームページの作成・管理とかも請け負うらしい。
さらにセンターの研究者の段階(見習いか独立してできる人か人を率いる立場か、とか)ごとに身に着けるべき能力等がちゃんと社内で定められていて、それに沿って各研究者ごとにどんな講習が必要か、というカルテを作るシステムが社内で動いていて、図書館もそれに従って研究者の人材育成を支援するとか。


講演中で、研究者として一人前になる段階が30歳くらい、とおっしゃっていたので、ちょうど入社後しばらくの企業内研究者が大学における院生と同じくらいの年齢・立場、ってことになるのかと思うが・・・日本の大学図書館で、ここまで大学院生の研究者としての育成を支援している例とかってあんまり聞かない気がするぞ(汗)
っていうか大学でも求められる能力とか、こんなしっかり定めていないんじゃないだろうか・・・(滝汗)


他に最近では「場としての図書館」ということも意識して、研究者同士が対話できるようなスペースも図書館内に設けようと検討中とか。
イリノイ大学でも研究コモンズとか言ってるし、特に分野の近い企業内研究図書館とかだとそういうスペースってかなり面白いかもなあ・・・ふーむ、リサーチ・コモンズ?


ミッション・イノベーション:新しい研究ツールに価値を見出す(エルゼビア・プロダクト・マーケティング担当副社長、Yukun Harsonoさん)

エルゼビア本社(アムステルダム)のYukun Harsonoさんから、エルゼビアの新しいミッションと研究ツールについて。
エルゼビアのロゴに入っている木のマークから図書館員を木の「根」に例えるプレゼンテーションとか、エルゼビア本社マジ半端ない・・・


プレゼン中でもScopus、2collabなどツールを用いたソリューションにとどまらず、研究機関と協力してポートフォリオ分析をする例とか、来年リリース予定の研究分野の強みをマップで示すツールとか・・・いやもう、トムソン・ロイターとかもそうだけど、これコンテンツプロバイダーの域を完全に超えてるって。
まさにソリューション。
完全に研究機関の「パートナー」ってのが美辞麗句抜きで本気になってきている・・・恐るべしエルゼビア。
Scopus発表から数年でここまで突っ込んでくるか・・・


実は書くのを飛ばしてしまっていたんだけど、一番最初の開会あいさつではエルゼビア・ジャパンの代表取締役の三木さんから「これからエルゼビアはScopusやScienceDirectがカバーしている範囲にとどまらず、ポッドキャストやブログ、ブックマークサービス、ソーシャルネットワーク等の範囲との相互性も視野に入れていく・・・」って話もあり・・・
あるいはYukun Harsonoさんの発表中で「バックファイルを遡及して入れていく以上に灰色文献など査読論文以外のものも探せるようにすることが求められる」なんて話もあって・・・いやマジ、どこまで勢力を広げる気なんだ、と考えると末恐ろしくなってくる。
電子ブックもどんどんコンテンツ数増やしているらしいしなー。
いやいや、はやはや。
先日、某医学情報サービス研究大会の企業ブースで「トムソン-ロイター恐るべし・・・」とか思ったばかりだけれど、本当あそこ(トムソン-ロイター)とエルゼビアの勢いはなんかもう色々とんでもないな。


ぜひいつか一緒に仕事を出来る身分になりたいもんだ・・・とりあえず筑波大学はなんとか費用をねん出してScopusも買ってくれ・・・もちろんWeb of Scienceも切っちゃいやだぜ・・・


おまけ

冒頭のうさぎさんの他にもらったお土産。

プレゼンテーション資料とボールペン。
ちゃんとリングファイルに綴じてあるあたりがマジぱねぇ。


エルゼビアのロゴ入り手帳。


中身はこんな感じ。
こんないいもの貰っていいんだろうか・・・



お土産セット。
実はエルゼビアグッズってもらったの初めてかも知れない・・・また自分の周辺の文具が学術ベンダーに染まっていく*5


どれも大切に使わせて(若干1名は飾らせて?)いただきます、ありがとうございましたm(_ _)m

*1:http://info.scopus.com/topcited/

*2:そのアルゴリズムをユーザ間で共有できるとさらに面白い

*3:この手の調査では世界トップクラスで有名なテネシー大学の先生

*4:海外ね。日本は確認していない

*5:直前まで危うくエルゼビアのセミナーにトムソンのメモ帳持っていこうとしてたのは内緒なんだゼ!