かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

条例でも規制されてない資料を図書館が勝手に「18歳未満に貸さない」とか決められる道理ってなに?


堺市BL所蔵問題についてはもう言及してたのでこれ以上言及しないかと思ったんだけど、朝日新聞での報道でかなり本気で問題だと思うところがあったのでやっぱり言及する。


特にやばいのは以下。

BL小説は作者も読者も主に女性で、文章の合間に、1冊で計数ページの挿絵があるのが一般的。堺市立図書館では全裸の男性が抱き合ったり、下半身に顔をうずめたりしている挿絵がある作品も扱っているが「1冊あたり1、2ページに過ぎず、大阪府条例の有害図書にあたるものは一切ない」としている。

堺市立図書館は8月、露骨な性描写があるイラストや文章があるBL小説について(1)今後、収集しない(2)18歳未満に貸さない、などとする方針を決めた。

(いずれもhttp://www.asahi.com/national/update/1105/OSK200811040115.htmlより部分抜粋)


条例で18歳未満に売っちゃいけないことに「なってない」ものを図書館が独自に18禁制限もうけるって??*1


まだ出版社が自主規制で「成人向」マーク付けてるやつは書庫入れとかならわからないでもないけど(っていうかわかるけど)、そういう基準ですらなく「露骨な性描写があるイラストや文章があるBL小説」は18歳未満に貸さない、ときたもんだ。
なにその恣意性でいくらでもどうにでも出来る基準。
本屋で18歳未満でも、中学生でも小学生でもお金出せば買える本を、図書館がありがたくも「これは18歳未満には読ませられない本ですよ」って区別して読めないようにしてくれるんだー。
しかもその本を選ぶ基準は図書館設定で。
どこの検閲機関様だよ堺市立図書館。


「男性向けも入れればOK」云々言ってる人もいるけどもともとちゃんと探せば男性向けのポルノだっていくらでもあるっていうか戦記物で女スパイがつかまりゃあ凌辱されるし渡辺淳一だって入ってるしナボコフの『ロリータ』とかも入ってる図書館には普通に入ってるからロリぺドな人も安心しとけ。
「表紙が云々」っつーなら『ドグラマグラ』とか大槻ケンヂの『ステーシー』とかどう扱うんだ。
露骨な性描写がある文章ってんなら『不夜城』には男性同士がシャワーで性交するシーンがあるけどどうするんですか先生ー。


そこら辺のくだらない議論まとめて「とりあえずさすがにこれはやばいだろ・・・」ってのを公的に規制しているのが有害図書指定で、出版社が自主規制しているのが成人向マークじゃん。
それ以上の規制なりゾーニングは(もちろん主たる読者を考慮して児童向けコーナーに置かないとかの配置を決めるのは図書館だけど)個人なり家庭なりの判断基準に任されるところであろうに、それを図書館が勝手に「18歳未満には貸しません」って決められるとか、どういう事態??
どういう道理がそこにあるわけ??
なんの道理があって堺市立図書館は図書館お墨付きの「18歳未満には貸せないBL本」とやらをご指定くださるっていうんですか本当に。
NDLの米兵裁判資料の利用停止ですら「情報公開法に基づき公開されないはずの資料だった」って(まあそれが道理があるのかわからないけど)理由があり、その他の図書館における閲覧制限系の話だって基本的にはプライバシー侵害なり資料を見られることでの第三者への不利益の可能性なり(『石に泳ぐ魚』を規制するかどうかとか、被差別部落の地名が載った資料をどうするかとか)があっての話だろうに・・・


・・・まあ、ある意味じゃそもそもそういう論争になりそうなものを収集しないことで議論を避けているところが多いだろう中で実際に収集して、それに閲覧制限をかけようとしたことで議論を作った点は評価に値するとは思うけど(ものすごく皮肉な意味で)。
それにしたって、考えうる中でトップクラスに最悪な対応(ある意味じゃ資料を廃棄した場合以上に最悪な対応)だと言わざるを得ない・・・「思想善導」の時代と何が違うんだよ、マジで*2


これ放置したら図書館が情報へのアクセスを積極的に規制する立場へ転向することを認めることになりかねんっていうかなるだろもう・・・っていうかそれですら道理がねえ、自治体が未成年に見せることを不利益と「判断しなかった」ものを図書館が見せなくすることに本当に一切の道理なんかねえ。


道理がねえ。
何一つ道理がねえよ、堺市立図書館の対応には。

*1:有害図書についてはここら辺参照:有害図書 - Wikipedia, 大阪府有害図書指定になっているものリストはここら辺から:http://www.pref.osaka.jp/koseishonen/jorei_public/hokatsu/hokatsu.html

*2:もちろん現場ではいろいろあるんだと思うし、図書館が望んでそうなったわけじゃないとは思うけどね・・・思うけど、でもこれはdisるわ。