かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

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「図書館情報学教育と大学図書館におけるアウトソーシングの相関」(A-LIEP2009発表報告)


先日のエントリでも予告しましたが、A-LIEP(アジア太平洋図書館・情報教育国際会議)2009で"THE CORRELATION BETWEEN LIBRARY & INFORMATION EDUCATION AND OUTSOURCING IN ACADEMIC LIBRARIES"と題して発表してきました!
予稿集が早くもwebにアップされています(そしてそれをCA-Rの記事*1で知ると言う・・・)。


自分の発表はTrack C: Researchの第3セッションでした。


表題の日本語訳は本エントリのタイトルの通り。
抄録と著者自身による訳は以下のような感じ。

THE CORRELATION BETWEEN LIBRARY & INFORMATION EDUCATION AND OUTSOURCING IN ACADEMIC LIBRARIES (Sho Sato, Hirsoshi Itsumura)

  • Introduction.

In recent years, academic libraries in Japan have increasingly been outsourcing functions. Authors have revealed regional differences in the state of outsourcing in academic libraries in former research. We wanted to determine if these differences were due to regional differences in library & information education so we tested this hypothesis.

  • Method.

The authors sent a questionnaire to 704 academic libraries asking which of their services were outsourced and received 358 responses. We calculated the survey results regionally and compared them with some indicators like the number of people who acquired librarian certification, the number of universities that offer library certification courses, the number of universities, and the population density.

  • Results.

There were significant correlations within regions between the state of outsourcing, particularly of public services, and the number of those who acquired library certification, the number of universities that offered library certification courses, and the total number of universities.

  • Conclusion.

There is a correlation between the state of outsourcing in academic libraries and the state of library & information education. In a region that has many people with library certification, and many universities that offer library certification, academic library outsourcing will be widely used. There is little equality in the state of library & information education by region and it is possible that an over-supply of library & information education degrades the status of librarians.

図書館情報学教育と大学図書館におけるアウトソーシングの相関(佐藤翔、逸村裕)

  • はじめに

 近年、日本の大学図書館ではアウトソーシングが進められている。筆者らは過去の研究で大学図書館アウトソーシングの状況には地域ごとに差があることを明らかにした。筆者らはこの差が地域ごとの図書館情報学教育の差によるものであるか否かを明らかにしたいと考え、仮説の検証を行った。

  • 調査方法

 704の大学図書館に質問紙を配布し、358館から有効回答を得た。回答を地域ごとに集計し、結果を(地域ごとの)司書資格取得者数、司書課程を持つ大学数、大学全体の数、人口密度等と比較した。 

  • 調査結果

 地域ごとのアウトソーシングの状況、特にパブリック・サービスのアウトソーシングの状況と、司書資格取得者数、司書課程を持つ大学数、大学全体の数との間には有意な相関関係が存在した。

  • 結論

 大学図書館におけるアウトソーシングの状況と図書館情報学教育の(実施)状況との間には相関が存在する。司書資格を持つ人の多い地域、あるいは司書課程を持つ大学の数が多い地域では大学図書館アウトソーシングは広く行われる。地域ごとに・・・うお、これ"a"つけ忘れじゃね?!・・・図書館情報学教育の実施状況には差があり、また図書館情報学教育を過剰に実施すると図書館員の地位は低下する。


・・・自分で読み返している最中に色々不備に気付きましたが、それはまあさておき。
発表で用いたスライドは後ほどつくばリポジトリかどこかにアップするとして。
おおまかな内容は抄録の通りですが、日本を国立大学の職員採用区分に従って11の地域に区分した上で、それぞれの地域ごとの大学図書館における業務の委託状況と司書資格取得者数、大学数などを比較するという代物で。
よく言われるところでもある「司書資格取得者数多すぎじゃね?」って話を大学図書館の外部委託になんとか絡められないか・・・と考えて試行錯誤した感じになっています。
質疑応答で絶対来るんじゃないかと思っていた「相関関係と因果関係は違う」*2というご指摘を受けたことも示している通り、A-LIEPに間に合わせるためにかなり見切り発車した感じのある内容ですが・・・(汗)
少なくとも逆の関係はない(委託が進んでいる地域にはあまり司書がいない)ってことはわかったので、今後は関係してくるであろう他の要因の可能性についてきちんと検討していけばいいのかな、と(もっとも修論はテーマ替えしているわけですが。っていうか図書館・情報学教育国際会議だからがんばって図書館情報学教育とからめたのに実際にはあまり教育と関係ない話もあったという・・・)


相関の有無はそんなわけで「相関はあるが因果関係はないんじゃないか」というよくある問題をはらんでいるので置いておくとして。
自分が調べていて面白かったこととしては、

  • 日本海側では司書資格は取りづらい。特に北陸(国大分類だと富山、石川、福井)は取りづらい。2005年に司書資格を北陸にいながらにして取った人は27人しかいない。
  • 東京や近畿では2,000人以上、関東で1,500人、東海や九州でも1,000人以上、司書資格を取得した人がいる。2005年の司書資格取得者の80%はこれらの地域で取得している。
  • 特に4年制大学で司書課程を有するところは日本海側には全然ない。上記3県を含む北陸には2005年当時1大学もない(『日本の図書館情報学教育2005』調べ)。


ってことで、司書資格の取りやすさには大きな地域差があるということ。
国大の分類区分で言うところの甲信越(山梨、長野、新潟)と北陸は本当に取りにくい。
北海道とか東北は短大で司書課程を持っているところがけっこうあるんだけど、北陸/甲信越はそれすら少ないので。
「毎年10,000人以上取得者がいる」(確かに2005年には10,000人以上いた)と言われる司書資格だけど、取得者は地域によってかなり偏りがあるんだなあ、と。
なのでこの先司書課程の(=図書館情報学教員の)パイを広げるなら北陸か甲信越が狙い目なのではないかと思うんだけど、(とりあえず地域単位の人口/人口密度にそんなに差はないのは確認したけど)なんか司書課程が少ないことにも要因があるかも知れない(今一番大きいと考えているのはそもそも学生数が少ないんじゃないかというある意味当たり前な・・・)ので、本気で設立狙うならより詳細な調査が必要でしょう。


・・・さて、人生初国際学会(超ホームで開催とは言え)を終えて気を抜いていたいところだけど、3月はまだまだ用事が続くので・・・(苦笑)
もうしばらくは気張らないとなー。
・・・たぶんあと40年くらい(爆)

*1:2009年アジア太平洋図書館・情報教育国際会議(A-LIEP)会議録 | カレントアウェアネス・ポータル

*2:質疑中にご質問いただいた/あるいは終了後にお声掛け下さった皆さま、ありがとうございましたm(_ _)m