かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

学士課程教育の改革戦略(IDE高等教育フォーラム)


「学生の教育・学習の話をするなら図書館のことばかり見てたら駄目だ!」みたいな話をして早数ヶ月*1
言った本人が図書館系のイベントばかりに参加していちゃ話になんないだろう、ってことで今回は図書館以外の大学教育のフォーラムに参加してきました*2

IDE高等教育フォーラム「学士課程教育の改革戦略」

2008 年12月の中教審「学士課程教育答申」にみられるように、高等教育の焦点は、量的拡大から質的改革へとシフトしています。では具体的にどのようにして大学の中で改革への動きを作っていくのか。単に改革の必要性ではなく、大学全体としての責任とリーダシップ、学生の学習状況の調査、そして教員への働きかけなどを含めた戦略が必要です。
またそこには、大学間連携も重要な役割を果たします。カリフォルニア大学10キャンパス連合の教育改善プロジェクトを率いておられるブラウン教授にその経験をお聞きするとともに、教育改善のためのデータ収集、大学間連携の可能性を模索します。


以下はいつものように簡易レビューです。
自分の聞き取れた/理解できた範囲に基づく内容なのでその点については請御容赦。




学士課程教育改革の構図(金子元久さん・東京大学

  • 高等教育の改革は国際的に大きな問題に
    • 大学教育のユニバーサル化:「こんだけ金をかけてどれくらい成果が出ている?」
    • 量的な拡大から質的な構造の変化へ
  • 政治的な関心の高まり
  • 大学・・・発想は学問自体から出る/社会的関心とのミスマッチ
  • 社会的な要求と大学内部からの変革を結びつけるメカニズムをどう作るか?
  • 従来の学部教育改革
    • FD:「正しい教員像」が前提にある。多様化した状況にそぐわない。
    • GP:他の大学に広まったという話を聞かない。いい事例を他の大学が生かすためのメカニズムがいる。
    • インプット中心:教育者がいかに頑張るかが中心に。問題は学生がそれをどう受け取っているか。
  • 個別の大学、学部学科、教員が意識的に改革を進めていくメカニズムが必要
  • 新しい戦略の2つの軸
    • 実態の把握:Monitoring
    • 自律的革新とコントロール:Innovation & Control
      • 下からのinnovationと上からのcontrol
  • 教育成果評価の問題点
    • 専門領域別試験:専門家が一致できるか/ペーパーテストができるか
    • 一般能力試験:厳密にならない/大学入学前にかなり決まっている(大学の成果ではない)
    • むしろ学習成果より学習過程のモニタリングが重要?:試みも色々ある
      • 今日の話へ

Using Assessment of Learning to Improve Undergraduate Education (Clair Brownさん・カリフォルニア大学)

  • 知事や有権者に成果を聞かれた際に応えられるような数字の評価(魔法の数字)はカリフォルニア大学では用意していない
    • もっといいやり方があるはず
  • 評価(Assessment):組織の改善をすることが目標
  • 説明責任(Accountability):組織を一般に知ってもらうこと
  • CLA:オンラインで試験を実施
    • 1年生と4年生に実施・比較
    • 相対評価(大学間比較)
    • Clairさんは賛同しない
    • 中退率が高いと成績の悪い学生が4年時に消えているので評価が上がってしまう?
  • UCバークレー:化学部の事例
    • 3〜4年生を集めて実験室でプロジェクト、研究に関するあらゆる経験をさせる
    • オンラインのポートフォリオ
  • 「膨大な情報を集めるだけで結果がなにもないじゃないか」という認証評価への批判
    • UCでは正しいやり方でやる/無駄な統計データを取るのはやめる
    • データの収集だけにとらわれないで、費用対効果で効率的にやるにはデータ収集を最小限に

学習行動調査からみえてくるもの(両角亜希子さん・東京大学

  • 東大で行った学習調査:CRUMP調査の結果について
    • 全国127大学、288学部、48,233人を対象に実施
    • 回答者は大学によく来ている/比較的真面目な学生が多いなどのバイアスはある
  • 多様な学生にどういう教育が合っているのかを明らかにすることが大事
    • 学生の4類型・・・学生の自己・社会認識の度合い(やりたいこととか社会で活躍できる能力を認識しているか)とやりたいことが大学教育の射程に入っているか、の軸で分類
      • 高同調型:やりたいこともわかっているし大学教育の射程内
      • 独立型:やりたいことはわかっているが大学の外で満たすタイプ。東大にも多い
      • 受容型:やりたいことはよくわからないが大学教育で見つけたいと思っている。
      • 疎外型:やりたいこともわからないが大学教育を通じて見つけようとも思っていない。
  • 上記4タイプと偏差値ランキングの関係
    • 偏差値の高い(>55)ところでも疎外型は約1割。少なくない。
    • 入学試験をクリアしたことと学生がやりたいことを見つけているかは別の話
  • 学問分野別の学生タイプ
    • 分野によって学生のタイプがかなり違う
    • 保健、家政、教育など具体的な職業が見えるところは高同調型が多い
    • 人社はやりたいことがはっきりしなかったり大学教育とあってるかわかんない学生多い
    • 工学部、農学部は意外に高同調が多くない。受容型がかなりいる。
  • 学生タイプによる学習行動
    • 高同調は成績のための努力もするし積極的に授業に参加するし予復習もする。成績も比較的いいしパフォーマンスも高いし満足度も高い。
    • 独立型は授業からの拘束を嫌う。自由にやらせて欲しい嗜好が強い。能力は高同調と同じくらい高いことが多く、興味をかきたてるような授業を望む。
    • 受容型は擬似アクティブ。満足度も高いし一見積極的に参加してそうだが、あんまり身についてなくて成績良くないし能力も身についていない。わかりやすい授業が好き。
    • 疎外型は成績悪いし大学やめたいし・・・こういう学生をどう大学教育の射程に組み込むかは大きな問題。
  • タイプ別の学習時間
    • 高同調は授業、授業関連、授業と関係ない学習のすべての時間が最高。
    • 受容型の学生は授業と関係ない学習は疎外型よりもしない。
    • 偏差値別とかにわけて細かく見ても、これらの学生類型の動向はかなり安定している。
  • 教育方法の違いによるインパク
    • 出席重視の授業を受けると、高同調/受容型の学生は学習時間が減る(min2-flyコメント:出席重視は出席さえしてりゃ単位取れるからでは?)
    • グループワークなどの学生参加型の授業は顕著に学習時間に影響する。特に疎外型の学生は参加型の授業によって時間が伸びる。参加を促せば前向きになる?
  • 授業の出席率の平均は87.4%!
    • 授業に参加しているだけで効果あるのか?
    • 1日1時間以上授業外で勉強するか、授業のみなのかを調べる・・・
      • 経済学部は大半は授業のみ
      • 工学部は授業のみも多いが、授業外学習も多い(min2-flyコメント:そりゃレポートとか試験の関係では? 理工系と人社系は難度が違いすぎる)
  • 授業外の学習と自分の能力への自信
    • 授業+授業外は一番自信持ってる、どっちも参加してないのは一番自信がない(当たり前)
    • 授業だけ出ている人よりも、授業には出てないけど授業外でなんかやっている学生の方が自信は高い(min2-flyコメント:「授業なんか出てられっか」って自信家とかいるのでは?)
    • ちなみに自己の能力感と偏差値は関係がない。影響するのは学び方の姿勢
    • ちなみに専門性に対する自己の能力への自信は、1年生と4年生で全然変わらない(伸びてない)か、下手すると4年生の方が低い(外国語能力は顕著に4年生の方が低い)
      • min2-flyコメント:・・・そりゃ大学としてはどうなんだろうなあ・・・(汗) まあ、英語能力は俺も1年生のときと4年生のときなら1年生の方が高かったよ。院に入る直前から再び英語はじめて今なら1年生の頃よりずっと高い自信あるけど。だって英語学部の2年以降のカリキュラムで全然やらないし。
  • 大学による効果は?
    • 高同調型の多い(4割以上)のA類型大学と、疎外型学生の割合が2.5割以上のC類型大学の比較
    • A類型は学年が上がるにつれ1か月に読む本の数が増えたり学習時間がどの類型でも伸びたり
    • C類型は学年が上がっても本を読む冊数が変わらなかったり、疎外型学生の割合は上に行くほど増えたり
      • Peer効果:どういう学生が集まるかが影響する

パネルディスカッション:学士課程教育改革の戦略

  • パネリスト
    • 金子元久さん
    • Clair Brownさん
    • 両角亜希子さん
    • 北村彰英さん(千葉大学理事)
  • 北村さんよりコメント
    • Brownさんへ:
      • 我々はどうしても「評価を押し付けられている」という意識がある。評価のプレッシャーが強いのにそこからどういう成果が出てくるのかが明確ではなかった。アメリカでもそういう状況であることがよくわかった。学部主体、学問分野ごとに具体的に見ようと言うのは新鮮な印象を持った。ただ付加価値の評価が出しにくいのは弱点にならざるを得ない。
    • 両角先生へ:
      • 各大学がこの調査・分析結果をどのように使ってみようと考えているのか非常に興味がある。この宝の山を色々な大学でうまく使われるといいのではないかと思う。
      • 機関ごとのベンチマーキングが非常に重要。両角先生を代表とする呼びかけがあった場合には協力することがメリットになると思う。千葉大学は呼びかけがあったら喜んで協力したい。
  • フロアからの質問
    • Brown先生へ
      • 「教員主体型」とはいい言葉だが、どうやって教員に興味を持ってもらうのか? 主体でやっていこうと言っても誰も動かない、それでトップダウン型でやることになる気がする。歓心を持って、動き出してもらうところはどういう風にクリアーにしたのか。
        • 教員の協議会で学習目標をカリキュラムに組み込むことを義務付けた。大学の経営チームもこれを支持してくれた。バークレー校以外のキャンパスでは義務付けは教員の会議で行われず、学長・学部長等の経営トップからの義務付けだった。ただバークレー校以外のキャンパスでもバークレー同様に行われた。
        • まずバークレー校で真っ先にやったのは教員による委員会作り。学部をまたいでリーダーシップを取ってくれそうな人間がわかっていたので入ってもらった。また、評価に関する専門家も雇い入れた。ほとんどが教員、そして重要な事務スタッフも入ると言う形。そして春までに学習目標を作ってカリキュラムに組み入れるよう義務付けた。WSでは叩かれることもあったが、リーダーシップをとる人に浸透していけば・・・
      • UCの学生の最近目立つ変化って?
        • 教室には皆あまり来ない、ノートもオンラインでとる(そりゃweb使えたらなあ・・・)
        • 教室には試験前にしか来ないし、来てもネットやメールしてる
        • クラブとかで学生間のつながりは強い
        • 正直に言って今の学生がどのように学習しているのかわかっていない。
        • 1割くらいの十分に勉強していない学生は教室の外で素晴らしいことをやっているかも知れない。すべての学生には手を伸ばせない。
        • もしかすると学生はネットワークから知識を得ているのかも知れない。その成果物を提出してくれればいい。
      • FDはもう流行らないのか? UCにはFDオフィスはなくてTeaching & Learningセンターがあるようだが、FDという言葉を使わないのはなぜ?
        • もともとFDオフィスはUCにはない。トレーニングはインフォーマルなレベルでやっていた。
    • 両角先生へ
      • 学問分野のクロスで入試や学部・学科の参考になるのでは
        • そのあたり今後研究していきたい。
      • 各大学がどう使うのか興味がある
        • 日本の大学ではなかなかそういう体制が整っていない。まずハガキを出して呼びかけるべき相手が大学の誰だかわからない。
      • 学生の4類型間の移動はどのくらいある?
        • 今回の調査は一時点でとったものだが、1年生に多い受容型が4年生になると減っていたりするので、途中で変わっているんだろうとは思う。高同調型学生は必ずしもベストでいいとも思っていない。高校教育まででよくわからないうちに何になりたいかを決めて入ってきて、それが1回崩れてまたやりたいことができる・・・というのは自然だと思う。移動はかなり自然。
      • 各大学での学生文化が上級生から下級生に影響するんじゃないかと思うが、学習時間にどう影響する?
        • 今回の質問項目では上級生⇔下級生の関係は導いていない。ただ、友達の数が多いとかネットワークのある学生は疎外学生になる割合が少ない。また、上級生⇒下級生への指導などは偏差値の高いところでは重要だが、学生グループの中でもリーダーになって引っ張っていく学生が誰もいないような大学もあって、そういうところでは学生ネットワークの重要性は全然見られない。
      • 学生の4類型ってどうデータから導いた?
        • 具体的な質問項目3つから合成。「1.卒業後にやりたいことがあるかいなか」、「(やりたいことがある人)やりたいことは大学教育の内容とあっている?」⇒あっているは高同調、あってないは独立。「(やりたいことがない人)大学教育を通じて見つけたいか?」⇒見つけたいは受容型、見つけたくないは疎外型。
      • 4類型の分類は分野別に違うと言うことだが、保健以外はそんなに影響ないとも読めるのでは?
      • 授業のみ熱心な学生が大半、ということだが5−6割なら大半ってこともないのでは?



Clairさんの話はなんか色々やってます、ていうことはわかるんだけど。
具体的に学生がどういう学習をしていて、それが改革でどうよくなったのか、って話がもっとあっても良かったかも。
数字とかじゃなくて個別具体の事例でいいから・・・そういうのがあるともっと良さがイメージできた感じ。
まあ、配布された資料に詳しいレジュメもあるっぽいのでそっちを読むとまたわかるのかも知れないけど。


両角さんの話はおもしろすぎる。
今回あまり詳細にメモ取る予定なかったのに、ガシガシタイピングしてしまったよ。
IDE関係ではとっくに一般化している話なのかね・・・ちゃんんとフォローせんとあかんかなあ。
高同調/独立/受容/疎外かあ・・・自分は研究室配属までは独立、配属後は高同調かねえ。
まわりの友達は・・・まあ全タイプいそうかなあ・・・若干独立が多いような気もするけど。
授業にはそんなに出てこないけどやることはっきりしてて進んでいく、とか。


まあ独立しすぎてて逆に1年長く学んでいる友人も多かったりするんだけどね!

*1:つくばリポジトリ

*2:ちなみに「アニメ世代」問題はとりあえず江上さんの補足エントリ待ちということで