かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

RSS使って電子ジャーナルを読んでいる人はどれくらいいるのか?


RSSってなんぞ・・・って人はうちのブログ読んでいるような人の中にはあまりいないのではないかと思いますが、一応なんのことかわからない方はこちらを参照:RSS - Wikipedia
凄い端的に言うとwebサイトの更新情報とか内容とかを配信してくれる仕組みというかフォーマットというかです。


前置きはさておき。
最近、電子ジャーナル関係の統計の話が出るたびにずっと気になっているのですが、あんまり表に出てこない話として「RSSフィードから電子ジャーナルを読んでいる人間はどれくらいいるのか?」、あるいは「研究者にRSSの利用はどのくらい浸透しているのか?」という話があります。
国内に限定するとそもそも雑誌の電子化自体進んでいないのであれですが、海外の電子ジャーナルの場合大手はどこも新着記事をRSSで配信していて*1、いちいち最新号が出るたびにチェックしたり、あるいはeメールのアラートサービス等を使わなくてもRSSフィードを登録しておけば気になる雑誌の新着情報は常にゲットすることが出来ます*2
自分も最近はすっかりRSSに頼って雑誌論文を読んでいて、特に論文数が多い上にearly view*3が多くてメールアラートサービスもあんまり役に立たない"Journal of the American Society for Information Science and Technology"あたりはRSSのおかげでなんとかキャッチアップ出来ているという感じです。
電子版論文の早期公開の定着とあいまって、定期購読するような雑誌はRSSフィードを利用してのブラウジングが今後いっそう普及していくのかな・・・と思うんですが、しかし今のところ電子ジャーナルの利用においてRSSから入ってくる人間がどれくらいいるのか、という話はあまり大きく取り上げられている感じはしません。
サーチエンジンがどういう影響を及ぼすかという話はあって、そっちでは「サーチエンジンで論文を探すようになり、その際サーチエンジンでは必ずしも新しいものから並べるわけではないので古い論文もよく使われるようになる」という話はあります*4
RSSの方はむしろ新着記事への利用の集中度を高める・・・あるいは研究者がよくすると言われる「紙の新着タイトルをブラウジングする」という利用行動に取って替わりうるものになるのではないか、しかし一方で学術情報流通関連だと新着記事のメールアラートサービスなんかはそんなに普及してないっぽいと言う話もずっとあり、RSSの利用も同じくあんまり普及しないのかも知れない・・・とか、色々おもしろそうなんですが。



おもしろそう、なんですがあんまりそれに関する情報がない。
じゃあ自分で調べてみればいいじゃん、ってことで試しに自分がRSSフィードを購読している雑誌のフィード購読者数を調べてみました。


調査対象雑誌はmin2-flyが購読している以下の10誌(アルファベット順。URLは実際の購読フィード)。


で、購読者数のカウントですが、今回はmin2-flyも利用しているGoogleリーダー*5でフィードを購読している人数を数えることに。
数え方については下記のブログを参考にさせていただきました。

日本だとlivedoorリーダーの方が普及しているのかと思いますが、なにぶん今回の調査対象誌は英文誌ばかりなので。
海外でもっと普及しているRSSリーダーもあるのかも知れませんが、さしあたっては自分も使い慣れているところにしてみようかなあ、と。


で、以下実際のGoogleリーダーでの各雑誌の購読者数です。
参考までに自分のブログの購読者数と各雑誌の2007年のインパクトファクター(その雑誌の2005年、2006年の論文が2007年中に引用された回数の合計/2005年、2006年の出版論文数)、総被引用数、2007年の掲載論文数についてもあわせて載せておきます。


表.各雑誌のRSS購読者数、インパクトファクター、総被引用数、掲載論文数

雑誌名 RSS購読者数 インパクトファクター 総被引用数 掲載論文数
D-Lib Magazine 1,760 - - -
JASIST 324 1.436 3026 186
かたつむりは電子図書館の夢をみるか 179 - - -
Journal of Documentation 158 1.309 714 19
The Journal of Academic Librarianship 128 0.551 363 73
Aslib Proceedings 117 0.413 166 29
Information Processing & Management 47 1.500 1441 109
College & Research Libraries 43 0.820 474 32
Scientometrics 36 1.472 1515 129
Serials Review 36 0.761 112 23
情報管理 15 - - -


"D-lib Magazine"と"情報管理"はISIのJCR2007版に採用されておらず総被引用数等の情報を得るのが面倒なので掲載を省きました。


・・・しかし・・・見れば見るほど、なんだこれ?
全体として見れば、D-Lib Magazineの1,760という数字はなかなか高めと思いますが、残りについてはどう評価していいか微妙なところ。
実際にはGoogleリーダー以外のフィードリーダーを使っている人も多いと思いますし、同一雑誌でもフィードのはき方は色々あるのでなんらかの形でRSSリーダーで購読している人はこれより遥かに多いかとは思いますが・・・うーん、でも「おおおおお、こんなに?!」って感じではいまいちないかなあ。
特に下位がなんだろうこれ。


インパクトファクターRSS購読者数が一致しないのはある程度予想済みというか、そもそもインパクトファクターは雑誌の規模に左右されずにその影響度を測るための指標(雑誌掲載論文の平均被引用数)であり、一方で雑誌の購読者数はその規模の影響を大きく受ける(発表論文数が多い雑誌は小規模誌より雑誌全体として見ればよく読まれる)はずなので、一致したらむしろ不気味です。
また、D-lib Magazineとうちのブログが上位に出てくるのも予想済みで、これは端的に我々は無料だからです(D-lib Magazineはオープンアクセス雑誌なので誰でも無料で読めます)。
「情報管理」も同じく無料ではありますが、同誌はつい最近RSSでの目次情報配信を始めたばかりなのでこういう結果になったのだと考えられるでしょう。


しかし商業誌各誌の間のRSS購読者数の関係はけっこうカオスです。
発表論文数、総被引用数ともにトップのJASISTが購読者数324でトップなのは妥当として、発表論文数等で2位のScientometrics、3位のInformation Processing & ManagementがRSS購読者数ではJASISTに大きく水をあけられています。桁が違う。
JASISTはWiley&Blackwell, ScientometricsはSpringer, Information Processing & ManagementはElsevierの雑誌なので、じゃあ出版社のプラットフォームになにか理由があるのかと思えば同じくElsevierの雑誌であるところのThe Journal of Academic Librarianshipは購読者数128人となかなか上位にいたり。
なんなんでしょうねこれは・・・しいて挙げるならJCRにおける論文数は原著論文とレビューの数の合計なので、それ以外のニュース記事や書評、エディトリアルの多い雑誌が上位に来ているのかも知れませんが・・・にしても、ScientometricsとInformation Processing & Managementはよくわからないか(もしかしてアメリカの雑誌かどうかとかがけっこう関係している??)。


学術雑誌全体として見た場合にRSSリーダーによる購読はどれだけ普及しているのか、またRSS購読者数を決定する要因はなんなのか、ということを見極めるにはもうちょっと広範囲での分析が必要そうです。
しかしまあ、とりあえずJASISTをGoogleリーダーで閲覧している人が少なくとも自分以外に323人はいるというのはなんか安心しました。
登録しただけで読んでない人とかもいるとは思いますが、同誌やD-lib MagazineについてはRSSフィードで読んでいる人が相当数(具体的に言うと「かたつむり〜」よりは多いくらい)いるわけで・・・・・・D-libは無理でもJASISTの方は頑張ればこれ抜かせないかな・・・・・・(ブログVS学術雑誌で競っても仕方ないですが)。


この調査はやってて面白かったので余裕があったらもうちょっと範囲を広げてやってみたいですね。
とりあえずJCRに載っている図書館情報学系の雑誌はいつか全部調べてみようかなあ・・・。
あとは分野を横断して見られると相当面白いんだけど、そこまで行くと手でちまちま調べるのは面倒なのでプログラムでも書かないとやってられなさそうな。


・・・誰かプログラム書いて試してみてくれる人がいたら共著で論文書きませんか?(ぇ)

*1:Elsevier, Wiley&Blacwell, Springer, Emeraldあたりは少なくとも自分は購読しているので確実に。他もまあ、最近はRSS吐いていて当然というところがありますし

*2:本の雑誌についても国立国会図書館雑誌記事索引RSS配信をしてくれていたりはするのですが(雑誌記事索引のRSS配信について|国立国会図書館―National Diet Library)、かつ自分も図書館関係の雑誌について購読していますが、そもそも電子化されていないものが多すぎるのが残念なところ。あと雑誌記事索引に収録されるまでにけっこうタイムラグがあったりするので必ずしも最新とは限らなかったりとか

*3:査読や校正等が終わった論文を雑誌として一つの巻号にまとめる前にweb上で公開するサービス・・・の、Wiley&Blackwell上での呼び名。Elsevierだとarticle in press. どの段階のものから公開するかは雑誌によって差がある

*4:Huntington, Paul; Nicholas, David; Jamali, Hamid R; Tenopir, Carol. Article decay in the digital environment: an analysis of usage of OhioLINK by date of publication, employing deep log methods. Journal of the American Society for Information Science and Technology. 2006, vol.57, no.13, p.1840-1851, http://dx.doi.org/10.1002/asi.20383

*5:[www.google.co.jp/reader/:title]