Open Access Week(第5回SPARC Japanセミナー2009)「オープンアクセスのビジネスモデルと研究者の実際」
すっかり更新をさぼっている間に、Open Access週間が始まっていました!
国内でもこれにちなんだイベントが色々ありますが、今日はSPARC Japanで「オープンアクセスのビジネスモデルと研究者の実際」というイベントがありました。
- 公式サイト
- スピーカーの栃内新先生の事前告知エントリ
- 参加されていたid:next49さんによるまとめ&考察エントリ
・・・正直、id:next49さん*1のまとめが素晴らしいので今回自分のメモはいらないかなー、と思わないでもないのですが(苦笑)
まとめと言うよりは非公式の詳細版と言う感じで、一応アップしておきたいと思います。
なお例によって例の如くあくまでmin2-flyが聞き取れた/理解できた/書き取れた範囲内でのメモとなっておりますので間違い等も多々含まれると思います、その点ご理解の上、参加者の方で気付かれた点等ありましたらご指摘いただければ幸いです。
概要・経緯説明(林和弘さん、日本化学会)
- Open Access Day⇒Open Access Weekの経緯の説明
- OA Week中、国内では3つのイベントがある
- SPARC Japanセミナー(今回)
- Open Access Week Friday & Night(10/23開催!)
- 詳しくはリンク先:openaccessweek.jp
- IR cures ILL event
- 1週間かけて、「ILLする前にリポジトリを探しましょう」というイベントを開催
- 参加図書館にポスターが貼られている
- OA Week中、国内では3つのイベントがある
- 今回のSPARC Japanセミナーについて
- SPARC Japanが始まって以来、初めてlibrarianとpublisherで話し合って講師選定
- Open AccessはCommercial publisher×(対)Libraryで語られがち・・・今日は違う!
- Publisherサイドから:BMCの歴史とビジネスモデルの話
- Libraryサイドから:栃内先生からOA/機関リポジトリフレンドリーな研究者のOAに対する思いを
- OAの理解のためであって喧嘩するためではない!
- 今年のミッションとゴール
- 最も成功しているOA出版社から、OA出版について理解する
- 研究者の本音からOAを理解する
- 最終的には学術コミュニケーションの良いモデルを作り上げるための勉強に
- あとで皆さんのお考えを!
Open access publishing at BioMed Central(Charlotte Hubbardさん、Journal Development Manager, BioMed Central)
- 発表の概要
- BMCの活動紹介
- ビジネスモデル
- 10年間の成長について
- Springerによる買収
- 将来的な展望
BMCの活動紹介
- BMCはpeer review OA Journal出版社として最大
- 200を超える学術誌、生物学・医学全般に加え化学、物理学の学術誌も最近追加
- OA論文数は55,000以上、毎月平均500万ダウンロード
- 即時の、バリアフリーのOA提供が一貫した方針
- OA記事の刊行のほか、OAそのもののadvocacyも実施
- BMCのOA方針
- BMCの雑誌の内訳:
- BMCシリーズ:約60タイトル。生物学・医学の広範なジャーナル。科学的な健全性がある限りすべてを受け入れる(関心レベルでの振り落としはしない)。In houseの編集チームで運用。
- Independent Journal:約130タイトル。外部の研究者・学会が運営するジャーナルのプラットフォーム提供。編集上のコントロール権は外部研究者・学協会が持つ。BMC内で現在最も成長中。
- Hybrid Journal:6タイトル。Reviews/commentaryは購読料モデルで運営。
ビジネスモデル
- 新技術の登場でビジネスモデルは変化する
- 音楽:レコードからiPod上のMP3へ
- 学術文献:紙からオンラインへ
- インターネットによる迅速かつシンプルなコンテンツ提供
- 冊子版での印刷・配布コストは非常に高い
- BMCの収入モデル:著者負担モデル(acceptされると課金)
- 収入の8〜9割は著者負担コスト
- 他にはhybridの購読料、広告料など
- 著者が負担するコストについて
- BMC Membership
- OAを支持したい・自機関の著者を支持したい機関は機関会員制度がある
- 事前支払会員とサポーター会員
- 事前支払・・・口座を開設し自機関で選んだ金額を振り込む。自機関の研究者が投稿するたびに口座から料金が引き落とされるがかなり割引される。
- サポーター会員・・・研究機関は低額の会費を支払う。所属研究者が投稿するときは15%のディスカント料金でOKに。
- 現在世界で300の会員数。約半数が事前支払、もう半数がサポーター会員。
- すべての雑誌が著者に料金を課しているわけではない
- 学会・団体等が出版にかかる全コストを負担するケースもある(著者の負担はゼロ)
- 著者負担モデル・・・たくさん掲載した方が儲かる⇔全体として品質が下がるのでは?
- そうならないために・・・編集上の決定と財務上の決定を分割
- 一方であまりにrejection rateが高いと、投稿数が多いほど編集作業が多くなるので負担が増える⇒経済的に成り立たなくなる
- その解決のための段階的な査読の実施
- 例:Genome Biology(フラグシップ。却下率が高い)⇒学術的な健全性はあるが関心度の関係で落とされたもの・・・BMC Bioinformatics等(中程度の却下率)へ(査読は済んでいるとの扱い)
-
- BMCシリーズで落とされたらBMC Research Notesへ(却下率低い)
-
- 出版料以外の収入源
- Hybrid Journal:原著論文はOAだがreviewやcommentaryは購読料を徴収。専門の編集チームにより付加価値の高いコンテンツを提供
- 広告/スポンサーシップ:e-mailでのupdateを対象に行っている。ターゲットを絞った広告が可能
- 付加的サービス:Open Repository。機関リポジトリの構築・維持をBMCが請け負う。
10年間の成長について
- 投稿数:10年で急成長。2009年はうまくいけば30,000を超えるかも?
- 日本からの投稿数もあわせて伸びている。
- 雑誌数も継続成長。当初は59誌⇒現在は200誌以上。編集長が日本人である雑誌も3誌。
- 当初は生物・医学を扱っていたが、現在は新たに2つのプラットフォーム(化学、物理学)も持つ
- 新たに学術誌を創刊するだけでなく、既存の学術誌がBMCのプラットフォームに移ってくることも。大手プラットフォームを求めたり、購読モデルからOAへの転換も。
- 移ってきた中にはImpact Factorの高いものもある。また、OA化を進める学協会の雑誌が多い。
- "Acta Vaterinaria Scandinavica":2006年にBMCにパフォーマンス向上を求めて移ってきた。以降後、投稿数が増えただけではなく著者の国籍が国際化。Impact Factorも0.3〜0.4⇒0.9へ。十獣医学の中では上位50%以内に入る雑誌に。
- 成長を支える要因
- 障壁のないアクセスによる高いビジビリティ
- OA出版が多様な分野で広く普及したこと
- Bioinformatics, Genomics, Cancer, Public Healthなど
- 隣接する分野でもサービスを提供
- 著者に対して良いサービスを提供したこと
- BMCの収入は著者にかかっている
- 著者が「いい経験をした」と思って貰えることが重要
- 著者へのsurveyの結果:95%の著者がオンライン投稿システムを評価、90%がBMCへの投稿を同僚に勧めると回答、90%がBMCで投稿して良かったと回答
- 著者のニーズに合わせたサービスの更新・・・in houseのチームにより柔軟に著者のニーズに応えられる
- 例:2006年に刊行したNeural development誌では動画を配信できるように。現在はすべてのポートフォリオで動画が配信できる。
- マーケティング:著者志向
- Impact Factor
- IFも学術誌の拡大で非常に重要な役割。歴史の浅い雑誌でもすぐにIFが得られるというだけで投稿数が劇的に増える。
- 例:"Genome Biology"は2006年にIFがついてから投稿数が3倍に。
- 現在IFがついているのが60誌。トムソン・ロイターがtrackingしている雑誌も30誌あまり。
- IFも学術誌の拡大で非常に重要な役割。歴史の浅い雑誌でもすぐにIFが得られるというだけで投稿数が劇的に増える。
- OAそのものの関心の高まり
Springerによる買収
- 大きな出版社に組み込まれたことで更なる成長が望める
- BMCにとって買収はどんな意味を持つか?
- OA出版モデルの成功が強く支持・評価されたという認識
- 今後はSpringerのグローバルなインフラ・マーケティング力を活用することで更なるプラスが得られる
- Springerの中でもBMCはあくまで自立した部隊として活動。OA方針は固く保持。
将来的な展望
まとめ
- BMCはOAビジネスモデルを成功裏に運営
- 200以上の雑誌を刊行、いずれも評価を受けている
- 今後はSpringerのインフラとマーケット力をベースに更なる成長を遂げていきたい
質疑
- NIMS・谷藤さん:まず編集者として。Cascade reviewはなるほどと思ったが、編集の立場からすれば論文がA誌に投稿されて、却下されると次の採択率のジャーナルに回すというのは結果論としてはいいと思うが、研究者コミュニティにとってはA誌とC誌のランクが自ずと広まる。投稿する側の意志としてもそうなると思うが、各誌の編集委員会はそう言う懸念についてどういう議論を?
- まず著者がA誌に投稿したが拒否された、その段階で著者にオプションとして別の雑誌もあると、その際はA誌のレビュー結果も使うので新しい雑誌に投稿する手間が省けるがどうしますか、と提示する。著者としてはあきらめるかB誌に出すか、全然関係のない雑誌に投稿するかを選べる。最後の場合は査読は一からやり直し。B誌というオプションがあることで無駄なプロセスがなくなる。
- A誌の編集長もB誌の編集長もそれなりに目標があるはずだが、そこの連携はBMC内にはあるからシームレスにいっている?
- 連携は可能な限り、進める努力はしているが連携のレベルは雑誌によっても異なる。できるだけ各雑誌にそういった連携をとるよう働きかけている。プラス、内部的な査読のツールにより円滑にA誌でリジェクトされたものをB誌やC誌にスイッチングできるようにしている。出版社としては連携が取れるようにしているがどれくらい進んでいるかは雑誌によってばらつきがある。査読のcascadeはBMCシリーズの中では健全性があれば何でも受け入れるものとinterestingレベルがあるものに分かれている。
- NIMS・谷藤さん:出版者として。世界で出されている学術雑誌のほとんどは購読型。書いた人自身、ないしはその所属機関や企業、助成団体がスポンサーして出版費用を賄うことで無料で出版サイクルをスケールを持って回しているBMCは素晴らしいと思うが、日本の事情で考えた場合、あるジャーナルが薔薇色の絵を想定したとき、出版費用の調達が問題になる。多くのケースでは大学・学会の運営費用の中では負担が難しいのでなんらかの合理的な費用負担が必要になる。著者負担モデルは奇麗だが払えない・払わない人もいるだろう。予約購読に比べると不安定さはぬぐえないと思うが、安定した出版を確立するためにはどういった費用構造がいいか、経験的に?
- 早稲田総研インターナショナル・???さん:査読について、一論文どれくらい査読をする? 200ジャーナルの刊行頻度は? 雑誌一つの平均の掲載論文数は? 著者はrejectされた場合コストを払うの? 一つの雑誌にrejectされて次の雑誌にcascadeされた場合は?
- 査読者は全雑誌最低でも2人。中にはもっと多いところも。
- すべての論文は記事として読めるようになった段階でオンライン化。1年終わった段階でannual volumeとして集めている。周期的な刊行ではなく継続して刊行している。
- 雑誌あたりの論文数は難しい。bioinformaticsは年間400〜500記事、それに対して範囲の狭い雑誌は記事数が少なくなる。典型的なところはわからないが、reject率では全体で50%。投稿の半分は記事として載る。
- 著者負担については投稿の段階でどういった方法で負担するかは決めて貰う。ただいずれにしてもacceptされたときのみ払うことになる。投稿段階で契約は結ばれるが、rejectされたら払わなくていい。cascadeされたらcascadeされた後、掲載された雑誌の掲載料を払う
研究者から見たオープンアクセス(栃内新さん、北海道大学大学院理学研究員自然史科学部門多様性生物学分野)
- BMCには毎日、お世話になっている。論文のアラートが毎日届く。
- 今度は利用者、投稿する側から見たオープンアクセス。
- 最初に告白すると私はBMCには一度も投稿したことがない。
- 先月くらいに、NatureがOA雑誌を刊行することをブログで発表
- Natureそのものをしたっていいはず。Cellは選択モデルを入れている。
- Natureの中はオープンにしなかった。そこまで勇気がない?
- Nature communicationsが成功すればいずれNature communicationsがNatureになる?
- ほかの雑誌もOAに流れ込んでいる。完全OAは多くはないが、Hybrid OAはほとんどが採用。
- 研究者にとって論文とは
- 研究者がいないと学術出版も成り立たない。生産者も消費者も研究者
- 伝統的に論文とは・・・研究が一段落したら書く。書くことによって知ってもらう。
- 対象は同じ領域の研究者。凄い小さなコミュニティで成立。
- 専門家以外の人が読むことは想定していない。文章はどうでもよくてデータが大事。どこに出すかも昔は対して重要ではなかった
- 論文発表の場
- 昔は自然科学の論文でも日本語で書かれていた。たまに英語で書いても国際誌のレベルではない
- 大学・各機関の紀要に書く。査読のないものも多い
- 玉石混交。そうであってもちゃんとした論文を書いておけば、いつか・・・10〜100年経ってだれか価値を見出してくれるからいいや、という時代
- 当時は論文は別刷りで読むもの。同僚に配って読む
- 「日本海沿岸における〜ホシムシの生殖について」とかの論文を世界で読みたい人は5人くらい。論文書いてreprintを勝手に送って歩けばいい
- 昔は別刷りを集めて歩くと研究者になった気分に。著者の所属と名前がわかれば請求できるしけっこう送ってくれる
- 1970年代後半〜1980年代に「評価」ということが言いだされる
- 世界標準の雑誌に出したものだけ業績としてみなす動き
- 紀要・国内学会誌に書いても意味がない、「書くんじゃない」という風潮
- 国際誌に出すことが奨励される
- 有名な雑誌は高い・・・研究室単位で昔、雑誌を買っていた頃は貧乏だと買えない。でも投稿は出来る。⇒買ってもいない雑誌に投稿、別刷りを配って歩く
- 論文の発見法
- 昔の論文・・・文献リストの孫びきで探す
- 最近は古い論文を一生懸命探す時代ではない
- 文献リストすらネットでひっかかるように
- 最近の論文の探し方・・・
- 新着雑誌:雑誌が増えると大変に
- カレント・コンテンツ
- ウェブ以前
- 図書館に通って新着雑誌の棚をチェック
- カレント・コンテンツ・・・著者名、タイトル、著者のアドレス等をチェックして別刷りを請求する。意外と皆くれる
- 別刷り請求:著者が負担。一部$3くらいのものを自分で買って世界に配る。今は昔ほど請求されなくなった(webで見ちゃう)
- ウェブ時代の論文発見
- 論文は誰のものか?
- 著作権を出版社に譲渡・・・著者なのに自分の論文をコピーする権利(copyright)もない。だから別刷りを買う。考えてみれば変なこと
- 税金でやった研究・・・納税者のものではないのか? なぜもう1回お金を払う?
- しかし出版に費用がかかるのも当然。でもネットだとそんなにお金かかってないような気もするが、OAだといくら売っても儲からないわけでそれはそれで申し訳ない。
- 機関リポジトリ
- 北海道大学理学部紀要・動物学の中にあった宝石の話
- 大学の中でやっていることを見える化する、ビジビリティを上げるもの・・・機関リポジトリ
- 特に北海道大学の場合(HUSCAP)は精力的にやっている
- ダウンロード数が総計300万近い。北大にしかないものがフリーでアクセスできる
- Google Scholarで7〜8年前の論文をタイトルで検索すると出版社やPubmed、検索サイトよりも上にHUSCAP。HUSCAPが世界中に見えやすくしてくれている
- 別刷りはほとんどはけない(笑)
- 研究者は自分の研究評価を気にする
- 研究をすることと評価されて研究費を貰うことが研究者の頭のほとんどを占める
- もしOAで引用されやすくなるなら、研究者もOAやリポジトリをもっと真剣に考えてくれるはず
- OAは・・・
- 読者を増やすか/被引用数を増やすか
- 論文の質を下げないか/不正がおこらないか/お金がかからないか
- 上が強いなら下は重要視しないのが科学者の本音
- 2008年のBMJに載ったP. Davisらの論文・・・OAは読者は増やすが引用は増えないのではないか?
- しかし読者が増えるだけでも魅力的。喜ばない研究者はいない、口では言うかもしれないが
- 林和弘さんの論文・・・2009年の「情報管理」に載ったChemistry Letters誌についての研究
- OAにするとダウンロードが顕著に上がる
- 数が少ないので統計的には弱いが、年を経ることにOAの方が被引用数が上がる
- 「カレントアウェアネス」掲載の三根先生の論文
- 「OAは論文の被引用数を高めるという主張の一般化は困難」
- 科学的・定量的な評価は困難。factorが多いので、実験群と対照群を厳密にとって研究しないとわからない
- ZSプロジェクトetc…⇒科学的にきちっとわかる日も近い?
- 論文の読者は研究者だけではない!
- OAにしてみわかったこと・・・専門的な研究論文を普通の人が意外に読んでいる
- 大学外の研究者:セミプロ
- 科学ライター:ダウンロードして読むと一つ$30。OAで提供すればいい記事を書いてくれる?
- 患者さん:難病/がんの患者さんは原著論文をばんばん読む人も。「参加型医学」。
- OAにより専門等の壁を乗り越えていく
- OAにしてみわかったこと・・・専門的な研究論文を普通の人が意外に読んでいる
- 費用負担の問題
- 先週貰った請求書・・・「OAにするなら$2,250」。OAにするにはお金がかかる
- 機関とかがやるようになるのはうれしい。
- BMCのニュースで機関で持つ大学等が出てきたことが発表される
- 費用の問題はなんとかなる?
- 今までだって出版費用や別刷り代を払っていたし、研究室で買っていたものが機関負担にもなったりしている
- 社会経済効果もある
- 論文の質の低下?
- PLoS Oneみたいなのも確かにある
- 新聞に取り上げられる率は断トツで高い。一般の読者はああいうものを求めている?
- 読む人が増える。つまり出版した後で恥をかく。いい加減なものを出すとぼこぼこに叩かれる
- PLoS Oneは大々的に取り上げられることも多いので、あとで大恥をかいた上に叩かれる
- 時間が経てば、駆逐される?
- まとめ
- 質疑
- 日本動物学会・永井さん:Natureの話について。NatureがなぜOAにならないかと言えば、今のOAモデルはどうしてもPublisherは今の製作コストと将来への投資を考えて1論文の掲載料を決めるかと思うが、Natureはsubscriptionが多いので、一論文100万円くらいになってしまう。それだと難しい。どのくらいが適正かもなかなか難しい。いい雑誌は本当にselectして、ある程度高いところでやっていける。しかも今の段階で勝負がついた側面も見えている。たとえばZoological Scienceに投稿するとき、いくらなら払う?
- ZS誌なら安くしてほしい。今でも少し投稿料取っていますよね?
- 永井さん:先生が投稿されていた雑誌よりはZSの方がいいと思うが?
- 著者は基本的にあまり払いたくない。大学が払ってくれるとか。著者が値段を意識することなく、例えばNatureなら100万円大学が払ってくれてもいいはず。大学の広報と出版社で話し合ってもいいはず。
- 永井さん:では今日のBMCの話とからめて。製作コストを考えると掲載料15万円でいけるが、働く人も賄うには30万円はいる。30万円は高くない?
- 自分が払うなら高いが、大学が払ってくれるなら50万円でもいい。微妙な感覚がある。個々の研究室は厳しいが、大学全体ではバカな金の使い方も良くしている。個々の研究者と交渉するのはうまくない、機関や国と交渉するというのであれば我々も後ろに立って旗を振りたい。
- 日本動物学会・永井さん:Natureの話について。NatureがなぜOAにならないかと言えば、今のOAモデルはどうしてもPublisherは今の製作コストと将来への投資を考えて1論文の掲載料を決めるかと思うが、Natureはsubscriptionが多いので、一論文100万円くらいになってしまう。それだと難しい。どのくらいが適正かもなかなか難しい。いい雑誌は本当にselectして、ある程度高いところでやっていける。しかも今の段階で勝負がついた側面も見えている。たとえばZoological Scienceに投稿するとき、いくらなら払う?
ディスカッション
- 日本動物学会・林さん:Charlotteさんに。回し続けるだけじゃなくて将来の投資のお金もいるはずだが、それをどれくらい見積もっている?
- 正直に言ってこの場で正確には申し上げられない、人件費の部分やシステムの保守費などもある。ただ、今の著者負担分はOA出版のコストを反映した数字。3年ほど前に料金の改定をしたが、今の数字はコストそのものを反映したもの。
- 林さん:PLoSだとかなりgrantが入っていたりして、それで初めて成り立つと言われていたが、BMCはOA feeで出版コストが賄えると断言してくれたことは日本の学会出版には心強い。
- ?さん:Charlotteさんのプレゼンの中に「誰が払うか」というスライドがあったが、助成団体と著者機関と著者自身の比率がわかれば教えてほしい
- 大まかな割合しか言えないが、助成機関と著者自身による支払いは分類上は分けにくい。この2つあわせて50%、残る50%の大半は著者機関。一部は著者が直接負担しているけれども免除・割引された場合がある。今は全面免除はそれほど多くはない。
- 数年前と比べてどう?
- 機関会員制度そのものも変化していて、それによっても変わってきている。もともとは支払いの方法として低い会費を払って貰う、そうするとそこの著者のものは全額著者支払はしなくていいものがあった。ただこれはジャーナルの人気も高まりOA化そのものも広まったので、低額でいくレベルではコストが見合わなくなって変わった。実際の機関会員制度のメンバー数は一定で300程度、制度の在り方自体が変わってきた。
- 林さん:300の会員はどうやって見つけた?
- 営業の方でBMCがSpringerに買収される前からコンタクトがあって、そういった働きかけとか、BMCに投稿してくれた研究者に対して働きかけたり、それぞれの図書館に働きかけたりしていた。
- 林さん:研究者は会員モデルがあっても気づかないことも多いと思う。営業チームがそういうところに気づかせているというのも大事だと思う。
- JST・張さん:雑誌のtransferについて。3つのタイプのジャーナルを紹介いただいたが、移行してくるのはindependent journalがほとんど? 似たような分野だったらジャーナルの合併をするとかいう事例はある?
- 学協会の学術誌が移行してきた場合にはeditorial boardはそのまま維持することになる。prestigeの高い雑誌で解体するようなことはない。既存のものと新しいものを統合した例は一つもない。新しい学術誌の提案があった場合、こちらと重なる部分があればそこの編集委員に新たに委員を足すということはするかも知れない。あるいは、重なる部分があるときには「一緒にできるのでは?」という提案をすることもあるが、既存のものを合体させたことはこれまでもないしこれからもない。さらに付け加えると、independent journalについてはどういったスタッフになるか、編集委員は誰になるのかと言った、編集の権限は編集委員会がすべて持っている。記事の採録・却下だけでなくscopeや査読の規定も編集委員で決める。
- JST・張さん:transferの審査はある?
- 既存の学術誌が移行する場合でも、新しく作る場合でも審査・評価は行う。我々が出したいかを評価する。
- 張さん:評価のポイントは?
- 決まった基準があるわけではない。まずはeditorial boardの能力がどれくらいあるか、どれくらい信用できるboardがあるのか、またscopeがどのくらい広範/ニッチか、競合する雑誌があるか、OA化が必要とされているかということを吟味する。もちろん全く新しいものを評価するより既存のものの評価の方がきわめて簡単である。
- 林さん:学会によってはpublishingで稼いでいるところもあると思うが、そう言うジャーナルはBMCに来ると利益をある程度下がることを覚悟しないといけないと思うが・・・そこはあきらめたようなところがくる?
- BMCでOAに移行しようと思っているところは大きな利益を望んでいるようなところではない。著者負担コストにややマージンを載せた形になる。大きくはないが小さくはないところ。すでに確立されたようなジャーナルではない。それからよく学協会から聞かれるのは、BMCで出版するとなると自分たちで追加するコストがあるかということ。答えはノー、失うものはなにもない。
- 埼玉大学・後藤さん:アジアのマネージャーとして、ローカルな言語でのOAの提供、BMCのプラットフォームを貸し出すということはある? 機関に料金を負担してもらいたいが、国民は英語を読めないので国はお金を払ってくれないと思う。言語によるdivideをなくすには自国語のOAがアジアで求められると思うが、そこら辺はどうお考えか?
- 現在、私共が出しているのはすべて英語、他の言語はない。BMCで最も投稿数の伸びが著しいのはアジア、アジアからの投稿が増えている。機関会員と言うことではアジアが弱いことは理解している、Springerの一環になったということでそこは是正・強化されるとは思う。OA化の支援では欧米と同じくらいアジア地域の支援があればいいと思う。
- NIMS・轟先生:最後のOAにすると論文の質が落ちるんじゃないかという話について。論文数は今、めちゃめちゃ増えて、OAで出しても誰も読まず研究者の業績が増えてハッピー、ってこともあるかと思う。PLoS Oneについては先月、PLoS がアクセスカウントを公表して、自分の論文が大したインパクトがないことがわかったのだが、その点についてどう思われる?
- 栃内先生:答えはないが・・・PLoS Oneは正直「これは・・・」と思うものも出ている。逆にNatureとかはそう言うのが少ないのも事実。ただしImpact Factorは一つの指標だが全てではない。ダウンロード回数等も評価の一つに含めていいのではないか。ただ場合によってはどこからのアクセスなのかもわかるはず、そういうことも解析可能なわけで、そういうことも含めてpopularity factorみたいのが出てきたり、1年でアクセスがなくてもずっとネットにあるのならいつかどこかで爆発することもありうる。ZS誌でも京都で中国輸入のサンショウウオが増えたニュースが出た途端に、ZSの中でサンショウウオ関係のアクセスが増えたこともある。そうした社会とのつながりも無視しなくていいのではないかと思う。古典的なサイエンスではないかも知れないが、短期的な問題を乗り越えていくことを次々考えていく方がいい。
- 筑波大学・佐藤*2:論文をOAにすると被引用数が増えると言う話について、統計的に見ても関連するファクターも多く難しい。むしろ「オープンになっていたから引用した(オープンになっていなければ引用しなかった)」という事例を集めて来て・・・と言うようなアプローチもあっていいのではと思うのだが、研究者的にはどうか?
- 栃内先生:自分も重要な論文について、北大では読めなかったから引用しなかったことはある。似たような論文はほかにもあることは多い。
- 轟先生:蛇足だが、論文を査読する立場からみても、対象論文が引用している論文がOAだと判定を下す時間が短くなる。*3
- アレルギー学会・?さん(ごめんなさい名前聞き取りそびれました):JStageでOAにしても全然投稿が増えない。もっともっと盛り上げられないか。先生方は時間がない。その中でOAを維持している。なんとか事務局で宣伝していければいいが一人でやっているとうまいことできない。どうやればいいだろう?
- 栃内先生:アレルギー学会は非常に関心を持っている人が多い。そこに論文があることがオープンになればアクセスはある。せっかくOAなら全国の機関リポジトリに載せて貰ってアクセスが増えることもあると思う。必ずしも研究者の投稿を気にするだけじゃなくて、広報を。プレスリリースでもどんどんやったらいいと思う。とにかくこの時代なので、webの力は凄い。ほんのちょっとでもアクセスが伸びる。
- 林さん:ただで出すだけじゃダメなのと、ただで出したうえで広報すること。それとコンテンツをしっかり、いいものを載せないと最終的にいいコンテンツがなければ見られないのは当たり前。今のwebを使った新しいプロモーションがいる。
- NII・安達先生:査読料について。IEICEだと別刷りが10〜20万円になって、学生ががんばると痛し痒しで微妙。10万円とかその辺が一つの判断材料かなと思う。3,000ドルはいかにも高い。そこで、日本的な環境の中で、公的助成で投稿料を支援するとしたらどういう形があり得るか? 個人的には今も科研費で払えるので、OAに仕向ける制度を日本的な環境の中で作るとしたらどういう風なのがありうるだろう? BMCの大学との契約と言うのは日本だと「バイオなら何学部が・・・」みたいになってうまくいかないと思う。
- 安達先生:facultyの間でOAにしている、イデオロギー的な観点から「これとこれに投稿しましょう」みたいに言うと猛烈に反対されて潰れる。それは愚かなやり方。良く聞くのは、学生がいい論文を書いたと言って持ってきて、先生が日本の学会の英文誌に投稿しろと言うと学生が泣いたという話もある。OAにフレンドリーにしろという形では特定のタイトルを名指しにするのはやはり難しい。そんなのは受け入れられるはずがないが、先生の分野ではどう?
- BMCやPLoSはランクが高いので大丈夫だが、OAならなんでも大学がサポートとはいかない。
- 安達先生:SPARC Japanの雑誌がOAにすると公的助成が受けられるとすると、日本で受け入れられるだろうか?
- 貧乏な人は受け入れる。金持ちは自分で出す、ってことでバランスは取れるのでは? 実際は自信がないが・・・
- 安達先生:学生に「ここに投稿しろ!」というときに、順序を覆すような形でOA雑誌を進められる?
- お金がなければできる。
- 安達先生:エルゼビアはただだけどOAならお金はかかる。
- お金はかかるが大学が見てくれればいい。
- 安達先生:国が見ると言うことは国が弱い雑誌を応援するということ。
- それは政策だから国が決めること。
- 安達先生:日本で可能? Internationalな立場に立てば変では?
- 競走的な立場が本当にいいのかは・・・
- 応用物理学会・伊藤さん:学会自身がマーケティングする力がないといくら補助金をもらっても弱いだけ。学術後援会がどれだけ活発で・・・という連鎖を考えないと、論文だけ考えても学生は投稿しない。どうやって強くするかという話をしないといくらお金をもらっても絵に描いた餅。
- 林さん:ビジネスモデルの話をお願いしたCharlotteさんがコンテンツのお話まで踏み込まれていたのはそう言ったところまでわかっているから。
例によってメモは長いので(苦笑)、気になったところだけ飛ばし読みしていただければ幸いです。
いやあ・・・BMCの話、栃内先生のお話、その後のディスカッションとそれぞれ大変面白かったです。
ディスカッションの方向としてはいかにしてOAを実現するか、費用負担やビジネスモデルこみでの話がかなり盛り上がっていましたが*4。
その話ももちろん大変面白かったのですが、ここのところ機関リポジトリの利用状況をずっと分析している身としては、「論文の読者は研究者だけではない!」って方向の話がやはり面白かったです。
「専門家同士での狭いコミュニケーション」と言うのは学術コミュニケーションではある程度、前提に置かれているところもあったというか、「この話に興味がある人なんてあの人とあの人・・・」と言うのが分かる世界、と言うのがあったわけですが。
どうもオープンにして見てわかってきたのは、実は「専門家にしかわからない/興味がない」なんてのは思い込みで、専門家じゃなくても分野の研究者じゃなくても読みたい人は読みたいと思うし。
栃内先生の例にあったオオサンショウウオの話のように、社会的に注目を集めた事例にかかわる研究があればそれを読みたい人も増える・・・と言うことはけっこうあって、「分野外の/研究者や学生以外には読めない、読む障壁が高い」から読んでないだけで誰でも読めるようになってれば案外読まれるし、誰かに読まれるっていうのは研究者的には嬉しいことだよね、と言う。
これは先月の日本動物学会の発表のときにも感じたことですが、「こんなに読まれるんですよ!」って話に関心を持たれる研究者の方はけっこういるので、あとはお金のところで著者が意識せずなんとかできるモデルが確立できればこれ案外最初からOAでもいけるようになりそうだし、労働力の面でも著者がそんなに苦労しなくて済むモデル(典型的なのはオプトアウト方式のOA義務化と図書館員による代行登録とか)が出来れば機関リポジトリ等の発表後のOAもそこそこ進むんじゃないかなあ、とかなんとか(逆にここが解決しないとよほどのOAのインセンティブがないときつい気も)。
ちなみにこれに関連して軽く宣伝しておくと(笑)、まさにその「メディアに取り上げられるとよく利用されるようになる」、「社会的に関心が集まっている出来事についての論文はよく利用される」という話の具体例について、10/31-11/1開催の日本図書館情報学会研究大会で発表してきます。
- 日本図書館情報学会第57回研究大会
自分たちの発表タイトルは「機関リポジトリコンテンツの受容と他メディアからの影響:高頻度利用文献を中心に」で、10/31の第2部会で16:00からです。
指導教員の逸村先生のほか、北海道大学の機関リポジトリ・HUSCAPで最強を誇ってきた教材群を抑え2009年アクセスランク1位の「アニメ聖地の成立とその展開に関する研究」*5の著者である山村先生、ブログ「略してヲタツー」*6の著者で各学会で精力的に発表されている(そしてその成果を機関リポジトリにガンガン登録されている!)岡本健さんとの共同研究となっています。
「機関リポジトリに載っていたことでこんなに目立つことがあるんだ・・・!」という実例をがんがん出していく予定ですので、興味がある方はぜひー(ここまで宣伝)。
OAによる被引用数増効果の話については、質疑でも言いましたがなかなか統計的に見るのは難しいのではないかと最近では考えています。
この点についてはid:next49さんもブログで取り上げて下さいましたが、著者となる研究者になんらかの形で聞いて見るというのも一つの手かな、と最近考えています。
一つはnext49さんがブログで書かれているように、普遍的な動向を探る調査として質問紙調査等をやるということと。
もう一つは、非購読機関の著者に引用された場合にどこから引用したか、直接インタビューで聞いて見るとかどうでしょう。
メールで著者に別刷りを依頼する/ILLで手に入れるなど購読機関以外でも論文を利用する手は色々あるわけですが、その中でOA(OA雑誌なら購読かどうかは関係ないので、購読モデルの雑誌でリポジトリに入っていたり、HybridでOAになっているものなど)になっているものを見つけて引用したと言うのはどれくらいの位置を占めているのか。
そしてもしOAになってなくても引用したかどうか・・・ってあたり明らかに出来るとけっこう面白そうだよな、と。
BMCの話の方では、セミナー後の話題の中心はやはりcascade reviewでしたねえ・・・。
著者としては「や、こりゃご丁寧に」と言ってお願い出来ると非常に楽な気もしますが。
これがうまく機能するには谷藤さんが質問でしきりに気にされていた編集委員会はどう考えているのか、と言う点がかなり鍵になるかな、とも思います。
cascade reviewでの、A誌でリジェクト⇒B誌にそのままスライド発行/B誌リジェクト⇒C誌にスライド、と言う流れが一般化すれば、A・B・C誌の間に明確な序列ができ、かつそれが固定化する(B誌の出版物の多くがA誌でリジェクトされるものであるとすれば、B誌がA誌を追い越すことはA誌の査読がうまく回っている限りにおいてありえなくなる)わけで*7。
そこのあたりをHubbardさんはinterestをどう置くか、科学としての健全性(手法や結果、考察の妥当性等を指していると考えていいんでしょうか)とは別に多くの関心を集める研究を出版することにどこまで重きを置くかが、雑誌によって異なるからまわるところではうまくまわる、と説明されるわけですが。
それがうまく回るのは基本、in houseでまかなっているBMCシリーズの雑誌がcascadeの2段目以降にいるからってことも強いんだろうなあ、とも思います。
独立系の(例えば学協会誌などでBMCのプラットフォームを利用しているところで)受け入れるにはかなりの葛藤がありそうなモデルですし、まあめったなところは受け入れないだろうな、的な。
逆に言えばBMCシリーズの中でうまく回っているところがあるということは、それだけ商業出版社としての統制が内部で取れているということでもありそうです。
BMCについては他にも、実は最初からどこかに売却するのありきでこれまでのビジネス展開があったのではないかとか、いろいろ聞いてみたいところはあったんですが・・・さすがにそれを面と向かって聞いても微妙でしょうね(苦笑)
そんなこんなで、ディスカッションもいつになく盛り上がった今回のSPARC Japanセミナーで日本のOA Weekののろしが上がったわけですが。
今後のイベントとしては、10/23の金曜日に開催されるOA Fridayがあります。
以前も宣伝しましたが、こちらも豪華メンバーによるプレゼンテーション・ディスカッションがあり大変面白そうなイベントになっています。
もともとここ最近修士論文や学会発表のために機関リポジトリ/オープンアクセス漬けの毎日を送っている自分ですが、今週は特に力を入れてその辺のことについて自分なりに考えて、金曜日の夜のディスカッションに臨めれば、これ割とOA Weekの過ごし方としては正しいのではないかと勝手に思っていたり。
・・・そのためにも、まずは一にも二にも分析なのですよ・・・