かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

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第7回SPARC Japanセミナー2009 「人文系学術誌の現状:機関リポジトリ、著作権、電子ジャーナル」


修士論文も〆切間際というのにイベント続きですが、昨日は国立情報学研究所で開催されたSPARC Japanの2009年第7回セミナーに参加して来ました!

  • 概要

今回は、これまでSPARC Japanセミナーでは取り上げてこられなかった日本の人文系ジャ−ナルの現況をお伝えします。

まず、人文系の研究に欠かせない国内雑誌論文のデータベースCiNii(NII論文情報ナビゲータ)について、CiNii開発者でもある国立情報学研究所 コンテンツ科学研究系 准教授の大向一輝先生から、簡単なレクチャーをしていただきます。

次に、2003年に開始された SPARC Japan事業パートナー誌の中、唯一の人文系ジャーナル選定誌『モニュメンタ・ニポニカ』について、ご講演をお願いしています。『モニュメンタ・ニポニカ』は、ジョンズホプキンス大学の電子ジャーナルデータベース Project MUSEを通して、海外図書館での「電子ジャーナルとしての講読」を実現させています。今回は『モニュメンタ・ニポニカ』の主幹をされている上智大学の ケイト・ワイルドマン・ナカイ先生から、海外での講読状況も含め、SPARC Japanへの参画で、ジャーナルはどのように変わったのかなどをご講演いただきます。

更に、日本文化人類学会や日本オセアニア学会で、学会ジャーナル発行に主幹とし携わってこられた法政大学の山本真鳥先生からは、学会として、どのように著作権方針を決定されたかを含めたご講演をいただきます。


今回は2003年から始まるSPARC Japanの歴史で初の人文系学術出版について取り扱ったセミナーということで期待していたのですが、思った以上に興味深いお話を伺うことが出来ました。
実は前日の長尾館長×濱野智史さんのトークセッションの後、あまりPCを充電できないまま臨んだのでかなりドキドキでしたが・・・幸い残りバッテリ持続時間4分のところで閉会となり、全編メモを取ることができました!


と言うことで以下、レポートです。
いつもどおり、min2-flyが聞き取れた/理解できた/書き取れた範囲内でのメモとなっておりますので間違い等も多々含まれると思います、その点ご理解の上、参加者の方で気付かれた点等ありましたらご指摘いただければ幸いです。




SPARC JapanとSPARCセミナー(永井裕子さん、社団法人日本動物学会事務局長/UniBio Press代表)

  • 人文系の学会の話はSPARC Japanが2005年からセミナーをしてきて初めて。今までお見えでない学会の人もいるので、最初の3分でSPARCセミナーの話をしたい。
    • SPARCは図書館と研究者に学術情報流通を取り戻す運動。先導したのはアメリカ。日本では2003年にSPARC Japanが始まる。学術情報流通の変革のために予算を得て、現在6年目。
    • もともとは商業出版社の寡占の緩和と、サークルを作り直そうということ。学術情報は学会・研究者によって本来流通していたはず、というのが最初の考え。
    • 現実には日本の状況にあわせて今までにない場や団体を生み出した。
      • 学会間の情報交換の場。これはこれまで日本にはなかったもの、そのせいで日本の学会は孤立していた。先生と学会事務職だけでやっていて、海外だけでなく国内の他の学会の様子もわからなかった。
      • 学会と図書館の接点。私自身、日本国内の図書館をいくつか回らせていただいた。図書館と学会のディベートの場を持つことが大事。イギリスではUKSGで図書館、学会、情報学の会社や商業出版も加わって動いている。アメリカにはSSPがある。日本にはこのような組織がないが、SPARC Japanがその萌芽になれば。
    • 同時にSPARC Japanが示したのは学術誌の支援の難しさ。お金をかければいいということではない。わずかなお金をどうやって有効に使うかという中で、学術誌の支援はなかなか難しい。
    • 活動の成果として、数学系ジャーナルがProject Euclidに、生物系はUniBio Press設立、Monumenta NipponicaはProject MUSEへ参加。
    • 本の雑誌は販売して出版コストを得るという考えが足りない。海外で説明するたびに「なんでやっているの?」と聞かれるが、日本ではなかなかそういう考えにならない。どうやってコストを得るか?
  • SPARCセミナーについて
    • 2005年以降、年7〜9回開催
    • 「何かを教えてやろう」というのではなく、学会出版・学術出版を考える立場から講師は話をする。偉い人が何か言う場ではなく、皆様のお話もどこかでうかがう場でありたい。
    • 2010.2に今年度最後のSPARCセミナーを開催。ALPSP(Association for Learned Professional Societies Publishing)の人等を招いて行う。翻訳もつくので多くの方にご参加いただきたい。

ジャーナル論文 発信・発見・入手ツール:CiNiiとIR(機関リポジトリ)のご紹介(大向一輝さん、国立情報学研究所 コンテンツ科学研究系 准教授)

  • 自己紹介
    • 前座ではないが、15分程度でCiNiiや機関リポジトリの話をする。
    • NIIの准教授、研究テーマはwebの世界のコミュニケーションで、セマンティックウェブやソーシャルウェブの話をしている。
    • 普段は研究者だが、一方でNIIの人間として学術コンテンツ課専門員としてCiNiiのマネジメントのミッションも得た。サービスにつなげる活動をする。
  • CiNii*1とは?
    • CiNiiを知らない人は挙手を・・・あれ、いない?
    • ご存じの方も多いと思うが、国内最大級の論文検索サービス。NIIではずっと冊子体を受け入れてアーカイブしたものがあり、それに加えて国会図書館雑誌記事索引JSTのJStageといった他のアーカイブからもメタデータを受けている。約1,200万論文の検索機能を提供。
    • 集めて一つのデータベースにする際に、別々のところから同じものが来たら同定・統合する処理をした上で提供している。
    • CiNii実演
      • Googleっぽい見た目
      • 関連著者による再検索の仕組みもある
      • 論文の入手を助けることがサービスのミッション
    • 約5年サービスをしてきたが、専門家・学生・研究者のみにサービスしていればいい状況ではなくなってきた。Web2.0の中でコンセプトが問われるわけだが、サーチエンジンでポンと探すことに慣れた人の世界で学術情報サービスがクローズドだとなかったことにされてしまう。いろんな人に見ていただくことがもう一つのミッション、と考えシステムを改良。
      • 仕分けにあわないためではないが、一般に対する意味としても学術情報を広めることが大事。税金でやっている。その中でCiNiiはwebにあった形で出す、オープン化が進んでいる。
      • 論文のメタデータは完全に一般公開。そのページをGoogleなどから検索できるようにもする。
      • リニューアルすると利用が跳ね上がる。研究者以外にも使われるように。
      • システムに負荷がかかるようにもなったが、普通のユーザにももっといい情報を提供しないといけない。専門用語や、論文の中身を知らないにしても詳しい先生に出会えるような仕掛けを作った。
      • リニューアルではなんでもできそうなインタフェースから検索しかできないことを打ち出すインタフェースに。
      • サービスを提供するだけでなく、APIなどほかのサービスにも機能を提供。HTMLだけでなくXMLでレスポンスをして、他の人が取り込める。自分たちでも携帯版CiNiiを作ったり、Researchmapを作ったり。APIコンテストも行った(実例として筑波の学生が作ったシステムが紹介される)。こういうものを第三者が簡単に作れる。
      • いい環境を提供すると論文情報はさらに使われる。現在は月間1750万PV。中堅の商用サイト程度。
      • 初心者に優しいUIは専門家にも優しい。
      • ものを探す、というのは行き先を知っているものだけでなく試行錯誤をして探索行動ができるようにしないといけない。
    • 今後は人に特化した、人ベースで論文リストを見たいというような要求に応えていきたい。同姓同名の問題を機械的に処理するだけでなく、科研費のデータベースでやっているID付とマッチさせながらやるということが最終的な目標。単にデータベースを整備するだけでなく、研究者軍団としてのNIIの知見を付け加えていきたい。
  • 機関リポジトリについて
    • 大学に所属する人々が作った資料を管理・公開するために大学自体が集めて一般に公開するサービス。大学ごとにサービスがある。
    • 日本では130くらいの大学・機関が既に公開。コンテンツは約75万件。論文だけでなくいろんな種類のデジタル化されたものが公開されている。コンテンツも機関も現在右肩上がり。
    • NIIとしては機関リポジトリの構築連携支援事業である種のファンディングをするとともに、サービスとしてCiNiiで機関リポジトリも検索対象としている。ユーザも機関リポジトリコンテンツを見られる。
    • JAIROの詳細
      • 国内の機関リポジトリのコンテンツ分析
      • メタデータをまとめて検索できる
        • 簡易検索・特定の資料だけを選んだ検索も可能
      • JAIROの利用の統計も公開
    • 機関リポジトリそのもののソフト:WEKO*3
  • まとめ
    • CiNiiの紹介:専門家向けのサービスから一般の人も使う社会システムの一部として機能するように良くしていくことが私やNIIのミッション
    • 機関リポジトリ;大学ベースの新しい情報公開の経路を作ること
    • よりよいユーザエクスペリエンス、学術情報を探しやすく見つけやすくしたい。
    • 個別の部分では人に注目。人を通じて論文を探す、論文から人に出会わせる。
  • 質疑
    • 永井さん:CiNiiがものすごい勢いで進化していることは使っていても感じる。リニューアル前は使いにくかったのがあるとき突然美しくなった。大向さんのお話の中で学ぶべきは、「良い環境の中に置けば論文は使われる」ということ。どこかにコンテンツをあげていれば誰かが見てくれるという時代ではない。CiNiiの利用統計はそれを如実に表している。コンテンツが同じでも環境が変われば全然違う使われ方をする。
    • 総研大・矢代さん:瑣末な質問ですが、CiNiiの著者検索を考えられているということだがCiNiiの中には拙著や匿名希望、不明とかいう著者名も入っている。その名寄せはどうする? 特に人文系の論文で多いが。
      • 大向さん:いまやっていることは今あるデータを名寄せするところで、名無しさんまではアルゴリズムレベルでは切り分けできない。我々としては機械処理よりは各学会さん、大学さんからいただいたデータをまとめているので、元データの信頼性を高めることも重要と思う。今まではユーザから間違いの指摘があっても元のデータに伝わるフローがうまくいっていなかったとも思うが、そこまで含めて皆でデータの質を良くするワークフローを考えなければいけない。特にユーザが参加できる仕組みは作りたい。著者本人が名乗ったら直してもいい、など。それによって少しずつ問題を減らしたい。
    • 矢代さん:武田先生がβテストで行っていた著者が自分で論文を登録するのとはまた違う仕組み?
      • 大向さん:ユーザ参加もこれからいろいろ考えていく。そういったサービスとの連携も含めていいデータを見せたい。

Monumenta NipponicaのProject MUSE参加への経緯および現状(Kate Wildman Nakaiさん、上智大学国際教養学部教授/上智大学モニュメンタ・ニポニカ所長/Monumenta Nipponica editor)

  • Monumenta Nipponica*4について:ジャーナルの設立からオンライン化まで
    • 日本の文物を海外に広めるために、上智大学が1938年に設立した国際学会誌
      • 歴史、文学、宗教史、美術史についての論文、原典や資料の公開など
      • 今年で69巻。
      • 言語は設立当時は英語、独逸語他の西洋語⇒1964年から英語に統一
      • 現在は年2回発行。論文4〜5本、書評20〜25本。著者の多くは国内よりも海外の研究者。掲載率は約25%。
      • 冊子購読者の3/4は海外の大学図書館・研究機関・個人。先進国以外に冊子を配布するプログラムもあり、60カ国が冊子を購読。
    • 1995年に設立されたJSTOR*5の呼びかけを受け、1999年よりJSTORのArts and Sciences Iに入る。購読機関は創刊号以降、最近5年分を除いてオンラインで閲覧可能。最近5年分を除いたのは冊子購読が減らないための措置だが、現在はこの事情は大きく変わっている。
    • より本格的なオンライン化のきっかけは2003年にSPARCのパートナー誌に選択されたこと。そのサポートを受け、2005年よりジョンズ・ホプキンス大学の電子ジャーナルデータベースProject MUSE*6に参加、オンラインで最新号の提供を開始。
      • 現在、Project MUSEの提供ジャーナルは472誌(106出版社)、6つの購読モデルがあるがMonumenta Nipponicaはすべてのモデルに入っている。
      • JSTORとMUSEは連携しているので、来年からJSTORとMUSEによって全号がオンラインで読めるように
  • オンライン化の経験について
    • オンライン化の効果:冊子の「読者」数は不明だが、MUSEはどこからどの論文がダウンロードされているかのデータを提供している。読者数が把握できる。
      • 論文の閲覧数、ユニークIPアドレス数は年々増えている。アクセス可能な論文が増えていることもあるが、今まで冊子体にアクセスできなかった読者がかなり多い。オンライン化の喜ばしい効果である。
    • 購読者数については関係がもっと複雑。MUSEに参加したことで冊子の購読者はかなり減少。海外機関のうち55機関が購読をやめているが、すべてMUSEの購読者で冊子をやめオンラインのみに頼っている。
      • オンライン化を通じ、個別の読者の絶対数は増えているが雑誌そのものの購読者数は減っている。この傾向は今後も続き、オンラインへのますますの移行が予想される。
    • 経費回収への影響
      • もともと購読料だけでは採算は取れておらず、上智大学から予算を得ていたが、購読料の減少は気になるところ
      • MUSEは収入の70%を参加出版社にロイヤリティとして分配している。個別ジャーナルへの配分額はMUSEにおける使用率、購読者数、入っている引用索引などにより計算。引用索引等での評価は8段階、それとは別にMUSE以外のデータベースに入っているか(入っていると評価が下がる)などにより計算。Monumenta Nipponicaは合計で10点満点中の7点を獲得。
        • それに基づく使用料収入は予想もしなかったほど大きく、年々伸びている。当初は3,000ドルだったのが現在は23,000ドルにも達する。
      • 購読料は安く設定しており、機関と個人を区別していなかった、かつ代理店割引などもあったので、機関購読流収入は多くなかった。結果、MUSEからの収入は冊子購読減の損失よりもはるかに大きい。一安心。
    • 編集・体裁・内容への影響
      • 今のところ影響はそれほどない。投稿数は増えていない、ここ数カ月は落ちているが、オンライン化とは無関係であろう。論文がすぐオンラインで見られることは著者にとってはメリット。オンラインで閲覧できない媒体は避けられる運命にある。
      • 体裁については、冊子と比べオンラインはジャーナル全体ではなく個別論文が焦点となる。論文が独立したものとして閲覧されることを念頭に置く必要があり、著作権や出版情報を論文ごとに載せるといった対応を行っている。
      • 内容については、Monumenta Nipponicaは地味な、今はやりな傾向に走らない学術的なかたい伝統を維持してきた自負がある。翻訳などは今すぐの利用よりも何十年先を見据えた、英語による日本研究の積み重ねへの貢献を掲載基準としてきた。しかしオンライン化はこの姿勢に微妙に圧力を与えかねない。
        • MUSEにアクセスすれば購読と無関係にある程度の情報が見られ、その中には前月のダウンロード数ランキングがある。ランキングをみると、漫画、女性史、身体にかかわる論文が圧倒的な人気、という偏った傾向がある。よく読まれることは質の高い論文でもあり喜ばしいが、これだけが焦点になっては困る。Monumenta Nipponica全体の限られた一部。
        • 冊子体であれば探す過程でいろいろな異なる論文があることに気づき視野が広がるが、オンライン化によりその経験が失われているとすると残念。
  • 英語雑誌データベースの日本における課題
    • 「日本で発行している英語ジャーナルをどうやって海外に発信できるか」が皆さんの関心であると思うが、発信は一方通行ではなくtwo-way street。これを有効なものにするには、発信する体制とあわせて受け入れる体制にも目を向ける必要がある。
      • MUSEを購読している日本の機関は非常に限られている。日本は2008年に7機関、2009年で9機関。韓国は2008:13⇒2009:16。日本の倍。台湾も9機関、中国は13⇒35機関。日本はもう少し頑張ってもらいたい。
      • 上智を例とすると、海外のジャーナルをよく使う留学生の間では上智で購読していないことが不満となっていた。
      • 購読していない理由があるのもわかる。MUSEの購読料は安くないし、頻繁に使う人もそれほど多くない。
      • 紀伊國屋の契約を使えば10%割引もできるらしいが、海外では複数の大学・研究機関の共同によりより強い体勢から交渉している。
        • オーストラリアではいくつのかの大学が連携、紀伊國屋書店が前面に出てくる日本とは印象が違う。
    • ぜひSPARCが先陣に立って欲しい。そうでないと発信の通路が開くどころかむしろ狭まる。
  • 質疑
    • 永井さん;SPARCが支援した団体では明確な購読料の配分モデルがある。パフォーマンスに基づきお金を返す。商業出版社が学会と連携したときとは違う点。また、MUSEの場合は収入の70%を学会に返すというのもBioOne(68%)とほぼ同じ。
    • 筑波大学・逸村先生:Monumenta Nipponicaはオンラインのジャーナルとして海外に競合誌はあるの?
      • Nakaiさん:いくつかある。ハーバードやワシントン大学アメリカアジア学会の雑誌など。MUSEの中に5〜6つのジャーナルがある。
    • 逸村先生:編集方針としてよそのジャーナルと競合・協調・すみ分ける方針はある?
      • Nakaiさん:ほかは社会科学系も多いがこちらは人文系。また、私たちのメインは明治以前。もう一つは、翻訳。原典翻訳は他では出していない。
    • 早稲田総研インターナショナル・保原さん:維持と運営について。書評をお願いする場合、その先生方に原稿料をお支払いしている? あるいは、査読をお願いする場合に査読料はある? 収入と売上とで全体としてどれくらいのお金がかかって、どれくらいの収支になっているのか?
      • Nakaiさん:書評に原稿料は払わない。査読は今までは何も払っていなかったが、今は1年間の購読を差し上げようかとも考えている。全体の予算は年間1,600万円くらい。売上とMUSEが3分の1くらい。購読料は少ないし、郵送料もあるので・・・円高だと景気がいいが円安だと入りも少ない。紀要ではないが、上智大学からのサポートを受けている。
    • IOP・亀田さん:このジャーナルは上智大学で出版・編集する際にどこかでオンラインを念頭に置く組み版をすると思うが、MUSEの中にあるのか別途費用がかかっているのか?
      • Nakaiさん:冊子体を印刷会社に頼んでいて、その会社が海外のジャーナルにも出しているので、そこで版も組んでもらっている。金額的にはそれほど高くないし、MUSEからの指定を受けて小宮山印刷に出している。冊子体の印刷の一環に入っている。JSTORの場合はすべてJSTORがどこかでオンライン化作業していた。
    • 永井さん:コンテンツはXMLベースとのこと。
    • NII・杉田さん:MUSEのロイヤリティスコアの評価基準を初めて知って興味深かった。MUSE以外のデータベースでの公開がロイヤリティにかかわるとのことだが、機関リポジトリのようなものはMUSE以外のデータベースに含まれるのかと、SPARCパートナー誌には機関リポジトリのポリシーをおたずねしているがMonumenta Nipponicaは検討中とのこと。そのあたりをお聞かせいただきたい。
      • Nakaiさん:リポジトリはデータベース扱いにはならないので問題ない。リポジトリについて、海外の大学から自分の教員の書いたものを載せたいという問い合わせをよくいただくか、どうしたらいいか・・・おそらく上智大学も検討して方針をどうするか、非常に難しいと思う。自然科学と人文ではかなり事情が違う。自然科学は印刷前からなるべく早く情報を出すのが大事だが、私たちのようなところではなるべく洗練されたものを出したいし、リポジトリには実際に印刷されたものしか出したくない。途中段階のものを出したくないと思っているが、いい知恵をいただければ。
    • 永井さん:人文系の著作権ポリシーはSTMとは違っているが、それとリポジトリへのデポジットが普通のことになる動きも見えてくるので、方針は決めなければいけないかも。動物学会では出版者版しか認めていない。途中のものだと生物の名前が間違った形で流通しかねないから。
    • 永井さん:MUSEの値段が高いという話があったが、日本の図書館から何か説明いただけないか?
      • 国立民博・高橋さん:うちはあまり抵抗なく買っているし、予算的にも不自由していない。余裕がある。
    • 永井さん:UniBioも国内では苦戦している。大手を買うのが先で、余った分で検討されるから。
    • 永井さん:最後に、大学・研究機関の共同体制について。JANULやPULC等の日本のコンソーシアムの状況は海外とは違うようで、海外ではナショナルサイトライセンスで買ってもらえるが日本では難しい。コンソーシアムの交渉機能についてどなたかご意見は? 紀伊國屋さんは? 
      • 紀伊國屋の方:弊社でオープンコンソーシアムをしている。
    • 永井さん:大学図書館の反応は?
      • 紀伊國屋:先にエルゼビア等の予算が確定してからでないと難しい。永井さんのおっしゃる通り。

人文・社会系2学会の学術誌電子化の試み:日本文化人類学会と日本オセアニア学会(山本真鳥さん、日本文化人類学会/日本オセアニア学会/法政大学経済学部教授)

  • 今日の要点
    • 日本文化人類学会(大きい、会員数2,000名)、日本オセアニア学会(小さくて顔が見える、会員数300名)という異なるタイプの学会での経験について
    • 著作権慣行をメインにお話ししたい
  • 自己紹介・学会紹介
    • 山本先生:もともとは文化人類学を研究。
    • 日本文化人類学*7
      • 1934年設立。戦後、日本民族学会という名前で活動していたが2004年に改名。それまで『民族學研究』⇒『文化人類学』へ。巻号はそのまま引き継ぐ。
      • 採択率は25%。ただし1回目で通るのではなく数回書き直したもの(いわゆる照会?)された場合も含める。
      • 別冊の形で英文誌も出す。
      • 山本先生は広報情報化担当として、電子サービス関係にかかわる。1997年から10年ちょっと。
    • 日本オセアニア学会*8
      • 雑多な学問が「オセアニアを研究している」ということで集まっている。考古学、言語学、生体人類学なども含まれるが、一番多いのは文化人類学者。
      • 会員は300人くらい、年1回英文誌"People and Culture in Oceania"を発刊。和文はニューズレターのみ。
  • 雑誌電子化の形・・・どれもNIIで公開しているが、形が異なる
    • 文化人類学』は刊行後1年から有料公開。
      • NIIから2001年ころにアーカイヴ化の誘いがあった
      • 問題となったのは著作権(次項参照)
        • NIIに相談すると「総会で決議しては?」ということだったので総会決議等で対応
        • 著作権は著者に属するが、学会は電子媒体での公開を行う権利を有する・・・というような一文を入れる。
        • 学会誌にいきなりそんなことを入れると著者の権利が侵されるのでは、という議論もあったが、ファイルがダウンロードできないのでOKとなった(後にPDF化してダウンロードして再配布もできるようになったがだんまりをきめこんだ)。
    • "Japanese Review of Cultural Anthropology"は刊行と同時に無料公開
    • "People and Culture in Oceania"は刊行後半年で無料公開、2001年分から
  • 日本の人社系の学会・・・著作権の言及がないものが多い
    • あっても「著作権は著者に属する」とするだけ
    • 著作権法学会ですら書いてない。著者にあるのがごく普通?
      • なぜか:学会誌に書きためた論文をいずれ本にする場合が多い。著者に著作権がないとややこしい。権利保護というよりは学会との交渉が面倒くさいから?
  • 困ったのは機関リポジトリ制度
    • 機関リポジトリを推進する側でもあるのだが、非常に危険でもあると受け止めていた。
      • 機関リポジトリ=学術コンテンツのコモンズ的思想。学術情報の共有の考え。しかしそれが著作権者のもとで自由に行われてしまうと課金モデルとぶつかる。
      • 課金しないと誰でも見られるというが、学会はそれでは会員が減ってしまう。また、『文化人類学』の図書館購読を止められてしまうことも気になる。かなり大きな減収になる。
      • 著作権問題に対応せざるを得ない。著作権が著者にあると機関リポジトリでの公開を妨げられないし、版面権での対抗も日本ではあまりない。そこで機関リポジトリには「著者最終版のPDFを」ということに。ちゃんと論文として読みたければお金を払って会員になるなり、NIIでダウンロードしていただくなりしないといけない。
    • 学会への著作権委譲のもう一つのポイント
      • 著者がどこにいったかわからないような論文への再録や翻訳の希望があることも多く、そういうときに学会でのコントロールに意味があるのではないかと考えた。学術資源の保存として
    • 印刷体と電子媒体で基準を大きく変える
      • 冊子は紙面通りのものを使わなければ学会の許諾なしで転載できる。それを用いてお金を儲けてもOKとする。抜刷も自由に使える。
      • 電子版は、リポジトリ等に入れられるのは査読後最終原稿のpdf版のみ。その他は認めない。
    • 制度策定以前のものについても、会員の申し合わせとしてリポジトリに入れる場合は査読後最終原稿のpdf版のみとした。
    • 若い人が世代交代してくれば印刷媒体にこだわらない人も増えてくるかとは思う、そうなったらまた違った形での公開もしうるが、移行過程にある現在においては学会がなくなったり発行部数がなくならないようにコントロールが必要。
  • 英文誌の場合は?
    • JRCAは投稿できるのは会員のみ。ただしこれが読みたくて会員になっている人はいない。
    • オセアニア学会誌の方は海外からの投稿も受け入れている。日本人の論文が3分の1くらいなことも。英文誌なので投稿できないという日本人もいるが、学会大会に来るのが目的で会員になっている人がメイン。投稿できないから会員を止める、という人はいない。
    • 上記の事情もあり海外に読んでもらうために無料公開している。
  • 学会誌として成り立つ以上、金銭的に採算が取れないといけないし、それを考えながら電子化しないといけない。また、著作権問題をどう考えるかも大きな問題。
  • 質疑
    • 愛知大学・時実先生:大変ご苦労されてやってらっしゃる、特に利用許諾基準は細かく書かれていてよく出来ていると思うが、印刷媒体のコピー・転載のところでご自分の論文集・本を出される時に印刷体なら自由にOKとのことだが、論文集や本が紙ではなく電子版だけでやろうというように、となったらどうする?
      • 山本先生:考えたことがなかったがおっしゃる通り。Googleも本人に断りなくやったりしているが、それは印刷媒体なので許可がいる。枠組みにあてはまらないものは「別途許諾を要する」という項目にあてはめることになると思うが、結局「許可しない」可能性はかなりあると思う。
    • 時実先生:しかし先生方は雑誌に出した論文をまとめて本にされるのが人文科学では普通のこと。それが電子化される動きはかなり出ていて、それを断ることはできないのでは?
      • 山本先生:最近、印刷媒体でも海外で出すときに著作権を出版社に譲れということはよくあるらしい。その場合、一部の論文だけ出したりはできないということだと思うのだが、その時代になったら著作集をたとえ電子媒体であっても出すこと自体なくなるのでは? 著作集ではなくwebにリンクを貼っておけばいいのでは?
    • 時実先生:本になれば本になったというブランドがつく。ばらばらだとブランドにならない。長期保存の問題もあるし、集めてやることになるのではないかと思う。大学出版局は特に。
      • 山本先生:検討します。
    • 永井さん:人文系はお作法が理系と違うので難しい問題もある。ポリシーを決めるのが厳しいことを許諾基準を拝見していて思った。それと現実の状況、次がどうなるかということについて時実先生のご指摘はもっとも。理系はどこかに合わせればいいや、ともなるが人文系は学会によっても違って難しいかも。
    • ヒオカさん:著作権移譲承諾書はどの段階で書かせる?
      • 山本先生:現在は校正を送るときに一緒に。校正はPDFファイルで送っているので、その時にダウンロードしてもらっている。
    • ヒオカさん:著者名等は自筆で書いたものを張り付ける?
      • 山本先生:そこは印刷したものに書いて郵送してもらっている。
    • 永井さん:電子投稿査読システムがあればそこでできるが、そうでないところでは多様かも。
    • 永井さん:SPARC News letterの3号*9でSCPJ*10の取り組みも特集されている。このp.2で日本の学会は「ほとんどグレー」と言われている。海外ではグレージャーナルは少なく、日本の学会がなかなかポリシーを決められない、あるいは機関リポジトリやオープンアクセスそのものがごちゃごちゃになっている印象を受ける。10月に出たvol.2*11では、NIMSがなぜOA雑誌の道を選んだかの記事も書かれている。谷藤さんの記事はビジネスモデルとOAが理解できていないとなかなか難しいが、読んでない方は読んでみてほしい。
    • 日本オーラルヒストリー学会・小林さん:細かいお話でお伺いしたいのだが、著作権委譲制で許諾書を取るとのことだが、投稿規定にはこれは入っていない? もうひとつ、過去の電子化を進める際には承諾書を取る?
      • 山本先生:文化人類学会は過去のものも全部電子化している。委譲は受けていないが、学会の決議として電子化・公表の決議を取って、現在まで抗議を受けたことはない。最初の方については、もちろん著作権は学会に帰属するという規定があり、念のため承諾書も書いてもらっている。こういうものがないと意識していない、全然考えてない人がいると考え書面でいただいている。
    • 小林さん:総会の決議だけでの電子化と聞いてびっくりしたのだが、学会誌の論文の中には二次的著作権も生じていると思う。文化人類学会はそれを考えずにやった?
      • 山本先生:もちろん二次的な引用はありうるが、学会の常識としてあまり長いものはともかく短い数行のものは構わない、と理解している。長い引用は普通はない。「総会決議だけでいいのか?」というのはあるが、これも一種の学術データの保全であり、いろんな方が広く見られるということで、誰かの権利を害していない、むしろ著者としては喜ばしいとの理解。売り物になることはない情報で、著作権料が奪われるということはないし、公表すべきでないものという点でも学会誌誌ですでに公開しているのだから問題ないだろう。
    • 京都大学図書館・山崎さん:人文系の学会誌で、画像や図の引用で電子化にあたって著作権を確認しないといけないのでは、という話もあって公開には問題もあるので・・・という話をされる。あとは論文をもう一度自分で出版する話もあり、なかなか公開に至らない。先ほどの引用の話は、特に異論がないので踏み切ってしまったということ? 先生たちに公開を推奨するために言えることがあればいいのだが、表立ってはいけないことなのでは?
      • 山本先生:どこがひっかかるんですか?
    • 山崎さん:論文の引用については参考文献として挙げているので問題ないが、図や地図・画像は著作権が発生するとされているので駄目なのでは?
      • 山本先生:出版されたものをもう1回載せるということですよね?
    • 山崎さん:学会誌や紀要に載せたものでも、電子化した場合にはもう一度許諾を取る必要があるのでは?
      • 逸村先生:頒布権の問題ですよね。今後、そういう論文慣行がなくなるのでは? 今後の学術出版は電子化にシフトする、そうすると図や表・写真をそのまま貼りこんで使うようなことが問題になるということだが、イギリス等では「そんなものpublishしたものの電子化になんで許可がいるんだ?」と返事を受けた。過渡期なのでそういう問題があるだけでは。
      • 国立民博・高橋さん:うちでは利用許諾という形で先生にお願いして、譲渡はしれもらっていない。論文そのものは先生方個人が責任を持たれるということで、リポジトリに登録している。先生が電子化のために写真の許諾を取ってないことがあり、それで意図しない人が見てしまわないように写真だけ墨塗りにしてくれとか、一部だけ載せないというような要求もある。そうするとリポジトリでみると読めない部分があったりして、見たい場合はILLなりでpaperをコピーして出すとしている。それがいいかはわからないが、民博のリポジトリとして著者から申し出があったら削除・墨塗りしている。それも一つの解決策になるのでは? それと、イギリスの出版社に許諾を求めたら、どのページにも「この雑誌のここに載せたもの」と書けと言われて、そうした処理もした。参考になるかはわからないが。
      • 時実先生:日本人は全体に著作権に生真面目過ぎる。細かいことを言い出したらいくらでも問題はある。外国の出版社は細かいことは問題にしているとものが進まないので、大きいところでやっていく。写真を使うときも電子化されたからけしからんというケースはまずない。あったら考えればいい。オプトアウト式に対処すればいい、事前に自己検閲するのは学術分野ではまずいのではないか? アニメのようなお金の儲かるところはともかく、学術分野はもうからないのだし、文化人類学のように「えいや!」とやってしまうのはいいこと。
      • 永井さん:動物学会も同じく全部PDF化してしまった。学術情報がたくさん流通する方が学術のためになるし、ものすごい高い権利が発生するものはない。また、理系のお作法では図表を引用する際には引用することをお伝えしているし、お金を払って契約していることもある。エルゼビア等に引用の代金を払うのも学会事務局のお仕事。そのとき、相手はすでに電子化しているかも知れない。そのときに電子化云々を言うのはどうか。間に立たれている方はそうは言えないかもしれないが。
      • 永井さん:Nakai先生が言うようにだんだんジャーナルは論文単位でみられるようになる。動物学会もページごとに来年から著作権のスタンプを入れる。論文単位の購読・閲覧と機関リポジトリへの対応。
    • 山本先生:最後にNIIにお願い。PDFファイルを今は全部スキャンしていると思うが、PDFで提供できる学会のものはPDFで提供させていただきたい。うちも印刷屋さんがただでPDFファイルをくれている。それを早くきれいな版面で見られるようにしてほしい。
    • 永井さん:人文系のジャーナルのことを忘れていたわけではなかったのだが、今後は分野にとらわれず学術誌を扱いたい。



CiNii/IRのお話は自分は何度かお聞きしたことはあったのですが、あらためて月間1750万PVは凄いですね・・・。
"Monumenta Nipponica"については使用料収入について詳細に説明されていたのが大変印象的でした。
そういうランク付けがあってバックされる額が決まっているのか、という・・・
ダウンロードランキングで上位になるようなテーマに内容が引きずられるのでは、と言う懸念についても興味深いです。
もちろん被引用数重視の評価が行われる世界では既に被引用数について懸念されている現象ではあるわけですが、("Monumenta Nipponica"がどうであるかはさておき)あまり被引用数に引きずられてこなかったであろう人文学でも引用ではなく「どれだけ読まれているか」となるとつい気になってしまう、と言うこともあるのでしょうか?


山本先生の2つの学会での経験に基づくお話も興味深かったです・・・人文系でよくある雑誌論文の図書への再録は認めつつ、機関リポジトリでの電子公開は制限したいってあたりの話はSTMではあんまり出てこない悩みですね・・・(STMなら著者から著作権譲渡だけで解決、再録とかそうそうないし)。
そして質疑も込みのぶっちゃけトーク
良くある現象ですが、学会・研究者の方の方が(自分たちがコンテンツに責任を持てる立場だからこそ、かも知れませんが)著作権問題に強気で、図書館の方の方が慎重を期す傾向と言うのはここでも見られました。
民博の高橋さんのおっしゃる意図せぬ読者対策の「墨塗り」のような問題も医療の分野等で(患者のプライバシーの問題に伴い)聞くところではありましたが、人文系でも分野によっては門地の話などかなりオープンにしづらい/すべきではないネタがあるわけで・・・機関リポジトリで電子公開した場合の読者の大部分は研究者ではなく一般の人、ってことも考えると、著作権はさておき人権がらみは下手にオプトアウトでやると傷つく人がいる上に訴えられて問題になったら人文系の国内リポジトリまとめて詰む可能性もあったりしてそうそう気楽には出来ない苦労もあるよなー、とか。
もっとも、本来publishするってのは予期せぬ人に見られる公共の場にものを出すってことであって、今まで研究者がそのことを意識しなさすぎだったって話でもあるわけですが。
仲間内同士での流通がメインったってもともと図書館では誰でも見られるようになっていたんだし*12


SPARC Japan自体に人文系ジャーナルが少なく、国際発信に興味を持っている人文系学協会がどれだけ国内にあるのかも考えると話題になりにくかったのもよくわかるのですが。
今回のお話を聞いていると最後に永井さんもおっしゃられているように、今後は分野にかかわらず学術誌のトピックについて扱っていく方が面白そうだよなあ・・・と思いました。
もともと話としては人文系にも関わりうるテーマも多かったわけですし、パートナー誌に人社系は今のところ"Monumenta Nipponica"だけ(汗)なので難しい部分もあるかと思いますが、その増強も含めて今後どうなるのか注目していきたいと思います。