かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

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arXivから資金協力を求められている日本のヘビーユーザ機関:どうする東大、京大、・・・、筑波大?


物理学分野を中心とするプレプリントサーバarXivを運営するコーネル大学が、資金面での協力を募ることを発表しましたね。


すでにいくつもの分野にとってなくてはならないものであり、最も成功したプレプリントサーバ/分野別リポジトリの例とも見られているarXivについて「今のビジネスモデルじゃきつい」というメッセージが出されたことで、すでに海外のネット上では色々と議論がかわされています。


ちなみにホワイトペーパーによれば、現在arXivの運営にコーネル大学は年間40万ドルの予算を組んでいるそうです(80%は人件費)。
年間の総ダウンロード数は3,000万回くらいとのことなので、ダウンロード数ベースで課金すると1回1.3セントという計算に。なんて安い。
2009年のarXivへの投稿数は64,047件とのことで、投稿ベースで課金すると1本7ドルにいかないくらいとか。これでも意外に安い。


しかし閲覧者や投稿者に直接課金することはせず、とりあえず向こう3年間はダウンロード数に基づいて計算したヘビーユーザを中心に、機関単位で資金協力をお願いする方向でいくとのこと*1
その間にビジネスモデルをしっかり考えていこう、ということらしいです。


で、協力の内容ですが、まずダウンロード数が特に多いヘビーユーザ100機関(この100機関で利用の55%)は各年間4,000ドル払って欲しいとのこと。
次にダウンロード数が101-200位の機関(利用の25%)は年間3,200ドル、それより下の機関で協力してもいいというところは年間2,300ドル払って欲しいな、だそうです。
利用数は毎年集計し、前年の数字に基づいて翌年どうなるかが決まる・・・ということで、すでに2009年の年間ダウンロード数上位200機関も発表されています。


ちなみにクローリングと思われるアクセスは弾いたり、機関名がわからないアクセスや大学・研究機関等以外と考えられるアクセスは省いているそうです。
最終的に機関が特定できたのは3,000万ダウンロード中約780万とか。
「なんで投稿数じゃなくてダウンロード数?」と言う点については、ホワイトペーパーによると、(投稿が減るのを防ぐ目的もありますが)arXivでは投稿者に所属機関を書かせる義務はないし、所属機関についての典拠管理もないからとか。
実にわかりやすい理由。


すでに特にアクセスの多い25機関のほとんどは年4,000ドルの協力を約束した、ということでプレスリリースでも紹介されています。
コーネル大学のあるアメリカ国内はもちろん、ぶっちぎりでダウンロード数1位のドイツ・マックスプランク研究所、2位のスイス・CERN、3位のイギリス・ケンブリッジ大学等、世界中の機関から協力表明が出されており、ダウンロード数上位10機関の中では8機関が参加を表明しています。


ん? 
8機関?
2つほど足りなくね、と思いチェックしたところ・・・案の定というか、東京大学(4位)と京都大学(9位)の名前がプレスリリースには入っていませんでした(汗)
プレスリリースに入ってないだけでもう協力の申し出をされているのかも知れませんが・・・SCOAP3もそうですが、日本の場合、こういうのに協力したくてもどこからお金を出すのかとかはっきりしないし、動きづらいところがあるのかも知れません。
金額的には4,000ドルなら図書館の予算規模考えれば大したことない額だし、出せるものなら出したいってところも多そうですが。


ちなみに東大・京大も含め、日本の大学・研究機関で2009年のarXiv利用数上位200機関入りをしていた(つまり直接的に資金協力のお願いをされている)機関は以下の通りです。

国内順位 世界順位 機関名 ダウンロード回数
1 4 東京大学 119248
2 9 京都大学 94836
3 28 東北大学 44591
4 37 大阪大学 38605
5 51 名古屋大学 33579
6 52 埼玉大学 33576
7 58 分子科学研究所 31981
  • ここまでが4,000ドル請求対象。以下、3,200ドル請求対象
国内順位 世界順位 機関名 ダウンロード回数
8 122 国立天文台 17756
9 127 東京工業大学 17075
10 132 北海道大学 16753
11 134 九州大学 16644
12 142 広島大学 15357
13 151 早稲田大学 14770
14 174 筑波大学 12629
15 200 東京理科大学 10934


おおーっと筑波大学も他人事ではなかった(汗)
2009年は年間12,629ダウンロードですか・・・たぶんその中の5回くらいは自分ですね。
3,200ドルの中に占める割合で計算すると・・・130円分くらいが自分のダウンロードから発生したことになるのかな?
むう、それくらいなら払ってもいい気も。
学内でペットボトル1回買うのを我慢すればなんとか。


ちなみに国(ドメイン)別で200位以内に入った機関の数を見ると、ぶっちぎりで多いのはやはりというかアメリカで、次に多いのがドイツ、その次がイギリスで、15機関がランクインしている日本も地味に4番目だったりします。
まずは国内ではこの15機関がどう動くかが注目されるわけですが・・・どうかなあ、arXivは色々とお世話になってるし潰れられると大変困るので協力できることがあればしたい/していただきたいところではあるのですが。
自分は年間500円くらいなら出してもいい気もします。
ニコニコ動画には年間6,000円払ってるわけですし*2、その12分の1くらいはarXivにお世話になっている気も*3
ただまあ、今回協力が求められているのはあくまで個人ではなく機関ですし、そうなると機関ごとに考え方も違ってくるかも知れません。
我が筑波大学はどうするのか・・・っていうかこれ誰が判断するんだろう、図書館・・・?


いっそコーネル大から12,629ダウンロード分のログデータ貰ってきて、IPアドレスから研究室ごとに割り振って各自で自腹切りますか?(笑)
自分はたぶん130円くらい、多くてもせいぜい500円くらいだと思うのでそれでも異論ないですが、数理物質科学研究科の人とかそれだとけっこう困る感じでしょうか。
年100本とかダウンロードしていると2,500〜3,000円くらいにはなるかもですが・・・pay per viewで某社とか某社の論文1本読んだようなもんだと思えばー*4

*1:応じなくても利用制限がされたりはしないそうです

*2:500円*12ヶ月。プレミアム会員なので

*3:研究対象として、ということであればめちゃめちゃお世話になってもいます

*4:コーネル大がせっかく「利用は無料にしたい」と言っているのになんでやねんって感じの発言ではあります、我ながら。でも校費から出すよりてっとり早いかもよ?