かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

研究、学術雑誌、大学図書館、学会の未来はどうなる?:第143回三田図書館・情報学会月例会「学術情報の発信と流通の将来像:「『大学図書館の整備及び学術情報流通の在り方について』:審議のまとめ」を受けて」


地味に久々に三田図書館・情報学会の月例会に参加してきました。

  • 演題:学術情報の発信と流通の将来像:「『大学図書館の整備及び学術情報流通の在り方について』:審議のまとめ」を受けて
  • 発表者:倉田敬子氏(慶應義塾大学文学部),杉田茂樹氏(北海道大学附属図書館学術システム課),林 和弘氏(日本化学会学術情報部課長)
  • 日時:2010年3月27日(土) 14:00-16:00
  • 場所:慶應義塾大学(三田)西校舎513教室
  • 概要:

「『大学図書館の整備及び学術情報流通の在り方について』:審議のまとめ」にあるように,電子ジャーナルの導入によって大学図書館は大きな変化を被り,さまざまな課題に直面している。しかし,学術情報の発信・流通の変化を考えるなら,それは始まりに過ぎないように思える。学術情報の電子化は研究活動プロセスそのものの変化とも相まって,学術情報の発信・流通の仕方をより根本的に変化させる可能性がある。この月例会では,大学図書館,学会(出版社),研究者の立場から,現在の課題に止まらず,学術情報の発信・流通の将来像と,そこにおける大学図書館,学会,研究者の果たす役割,その多様な可能性について検討してみたい。


最近、研究関係のエントリが続いていたところでなんともタイムリーなテーマです*1


以下、いつものようにメモです。
例によってmin2-flyが聞きとれた/理解できた/書きとれた範囲での記述となっておりますので、その点ご理解いただければ幸いです。




「学術情報の発信と流通の将来」(慶應義塾大学・倉田敬子先生)

  • 2009.7の「大学図書館の整備及び学術情報流通発信の在り方について(審議のまとめ)」*2について話して欲しいとの事務局からの要望であったが・・・
    • 個人的な意見としては、あまり面白い話が出来ない。
    • 電子ジャーナルの効率的な整備と学術情報発信・流通の推進と言う2本の柱が審議のまとめ
    • 4月に始まった委員会で7月にまとめろとのことだったので、話し合っているというよりは言わないとまずいから言っている、という話
    • 電子ジャーナルが中心になるのはもはやどうしようもないが、現在は持続性のある体制ではない、なのでがんばろうと言う話。
      • もっと端的に言えばどこからお金を持ってくるか。これ以上、言う話はない。
    • 学術情報発信・流通の推進については3つの話
      • オープンアクセス、機関リポジトリ、日本の学会学術雑誌の電子化拡充。そりゃそう、がんばって。
    • 「当たり前」という話。文部科学省が言ってくれることに一定の意味はある。
    • 反論することはない、その通りのものである。電子ジャーナルの推進にウルトラCの対策があったらこっちが聞きたい、そんな政策期待されてもあるわけがない。
    • 「審議のまとめ」で意味があるかもしれないと思うのはそこではない。これまでは大学図書館の話しかしてこなかった委員会で、「情報発信の全体を考えないと」という話が出てきたことに意味がある。ずっと言われてきた話を、文部科学省大学図書館の整備と並んで一言いわないといけない、と認識したことは評価すべき。
    • 個人的にもWGでこういう話は出来たが、本委員会でもオープンアクセスの話を語れるようになったことに隔世の感がある。大きな展開。
    • ただ、全体が変わる中で大学図書館がどうなるか、電子メディア中心の世界の全体像は見えていないので、審議のまとめや報告書にも書けない。委員会でまとめるにはわかりきったことを書くしかない、という感覚。
  • それでは話が終わってしまう・・・審議のまとめの話を枕に、まだ全然見えてはこないが先にあるのでは、と思える学術情報発信・流通の将来像について話したい
    • 言いっぱなしにして、それを受けて杉田さんが大学図書館の役割、林さんが学協会の役割の一端を話してくれるはず
  • 根本的な課題は?
    • 電子化(紙⇒電子メディアへ)。この意味は?
    • 伝統的な学術雑誌以外の発信・流通の可能性:他にもメディアはあったが、中心は学術雑誌。それがひょっとしたら変わる可能性?
  • 電子化の問題とは?
    • 所有⇒アクセスへ
      • 大学図書館が力を持っていたのは資料を持っていたから。所蔵する資料の量が大学図書館の力を決めた、と言っても過言ではない。大きな予算があり規模があれば強い。
      • これからはアクセスできればいい。今はアクセスとお金が結びついているが、そこがもう一つ工夫できると、アクセスの有無の方が大きな問題になる可能性。
    • 全部がデータとして併存する
      • 本、雑誌論文、ソフトウェア、raw dataが全てデータとして同じ扱いをされる可能性
      • 違うのであれば違うものとして扱わないと一緒くたになってしまう。区別や特徴を生かす工夫が要る
    • データの保有保全、保存体制をどう作ればいい?
      • 根本から考え直さなければいけない。
      • もっとも考えるべきはデータの共有と利活用。どれだけ多くの人がアクセスし、利用できる社会システムを作れるか
  • 電子化への対応
    • アクセス権
      • 費用の問題
      • 永続性の保障・・・けっこう難しい? 電子的なものは常に流動、インタフェースや媒体も変わる。アクセスの永続保障は難しいのでは?
      • ビジネスモデルは模索中。今までと同様、あるいは代替するようなモデルは限界?
    • 物流⇒データ処理へ。データ処理にどれだけお金をかけられる/お金をとれるか。
    • 研究データ、論文等の特徴ごとに適切な標準・権利保護がいる
      • 著作権では大雑把すぎる。それぞれにあった標準・基準が要る。なんでもアクセスできればいい、ということでもないと思う
  • 学術雑誌以外の発信・流通
    • オープンアクセス
      • 商業出版・学会の購読モデル⇒利用を無料にするモデル
        • ビジネスモデルとしては大きな転換だが、費用負担の再構築の問題
        • この話抜きには学術情報流通は語れない。それが文部科学省が触れざるを得なくなった、ということ。
      • 発信・流通の主体は変わったようには思えない
        • 問題はここ。大学図書館は? 機関リポジトリの構築は発信・流通の主体になるつもりがあるの?
        • 一般の人々の発信は学術情報流通の世界に組み込まれる可能性はあるのか? OAは利用を無料にするということなので、一般の人が発信・流通の主体になることは考えていない。論理的必然として、そこまでいくのか? 行かないのか?
    • 雑誌・雑誌論文はなくなるのか?
      • 今はまったくそんな様子はないが、やっと最近になって雑誌・雑誌論文の本当の電子版が出てきた
      • 端的に表れたのがCellの「未来の論文」*3。紙版と対応しない電子ジャーナル。個別にやられていることを集めて一つの形にしたもの
        • 論文を単なるPDFではなくenhancedしようというのはCellに限ったことではない。
        • 印刷版と電子ジャーナルの乖離は決定的。「便利な冊子版」だった電子ジャーナルが、そうではないものになってくるのではないか。
        • 現に多くの電子ジャーナルでSupplementデータ等、論文を補佐する、印刷版では制限があって載らないものを電子的に公開している。医学・物理等では利用は一般的になっている。査読を通すためにもデータをたくさん公開する方向。詳細な手続き・方法を根拠として要求されることも
        • YouTubePodcast等の利用も一般化。Cellに載せるくらいの論文ならインタビューを受けてもいい、という感覚があるとの著者の意見もある。
  • 研究活動そのものの変化が裏にある?
    • 共同研究の増加:単独ではもう無理
    • データ中心科学:根拠を持って進めないといけない
      • 膨大なデータをどう保存・流通させるのか
  • 学術情報流通全体を考える=研究活動の変化を受け、学術情報の発信・流通を誰が行い支えるのか
    • 紙のシステムそのままでは無理。新しい形のシステムをどう保障するか、根本に立ち返り考えるべきでは?
    • 学術雑誌は紙を媒体にしたから発展。紙で育った人間は一生、紙で終わるはず。しかし次、あるいは次の次の世代は? 当たり前のようにビデオ、画像、インターネットで育った世代は紙だなんだとは言わないのではないか。どういう形で成果を流そうとするのか。
    • 一方で「論文」というのは良くできたメディアでもある。消えることはないと思うが、多元化の流れは避けられない
    • 大学図書館、学会、出版社の役割は再構築するしかないのではないか。ただ、学術情報流通全体の流れを見て位置づけないと大変なのでは、と思う
    • 大学図書館・学会に話を振って、私の話は終わりたい

「平成8年の電子図書館構想」(北海道大学・杉田茂樹さん)

  • 学術情報流通の将来と言う話だが・・・
    • 後ろ向き、過去を振り返る話をしたい
  • H.8にいくつかの国立大学で電子図書館予算。北大はあぶれたが、当時電子図書館構想を立てた。それがどう今に至ったか
    • 配布資料にあるのは概算要求に使った資料。
    • 全体像のポンチ絵を見ると・・・現在(H.8当時の):図書館は17時まで、借りられると使えない、検索端末は埋まっている、本の中身を探すのは大変
      • 将来像:図書館が提供するサービスは電子化、17時に走りこまなくても研究室から使える、電子的なデリバリー
      • 各地からかき集めないといけなかった資料を、マルチメディアデータベースで利用できるようにすれば・・・というイメージ
      • デリバリーは郵送・学内便からネット経由で送れるようにしたい
  • これらを含む、6つの機能を有する電子図書館について概算要求
    • 1.総合電子図書館/情報発信図書館機能:著作権の切れた所蔵資料の全文電子化、著作権の生きたものの目次DB化、北大紀要等の全文DB化、外部コンテンツのネットワーク経由での利用確保
    • 2.貴重資料のDB化:痛んでいるものも多いので現物利用の代替にも
    • 3.マルチメディア図書館:画像(写真・古地図・外交書簡)、音声(アイヌ民謡等)、映像、データなどを多角的にDB化
    • 4.先端DB図書館:外にあるものを買って学内に提供。CD-ROMを買って学内にサーバに(当時。今はネットで外部ものにアクセス)
    • 5.インターネット図書館・オンデマンド図書館・24時間図書館:頭を掻いてしまうような話だが・・・ネット経由で24時間サービス。オンデマンド。学外からの利用の構想も
    • 6.全国共同サーバ図書館:できたシステムを全国に開放。サーバ貸しのようなイメージ。北大の電子図書館システムを通じて他の大学図書館の電子的発信にも使って貰う構想
  • それから15年・・・
  • 続く10年間に起きた主なできごと
    • 巨大な電子コンテンツの現出:プロジェクトグーテンベルク青空文庫WikipediaWiki Source、Google、OCA・・・
      • 図書館資料の電子化は単館ではなくグローバルに取組むものに
    • 電子ジャーナルの成立:2000年くらいには主要国際誌はオンラインで読める
    • ユビキタス環境
      • 24時間/外から使える電子図書館は技術の進歩で乗り越えられた
      • 電子ジャーナルもproxy、今後はシボレス認証等で図書館を飛び超えてどこからでも使えるようになる
    • オープンアクセス思潮の誕生
      • H.8には紀要・学位論文どまりの構想だったが、現在は商業学術誌でもGreenであれば公開できる。2006に2004はElsevierもGreenに*4。H.8の発想を超える
    • 骨董指向の終焉
      • 古地図、古い書簡と言う話をしたが・・・1990年代の電子図書館にはそういうものが多かった。それについてH.14の審議のまとめでは大学図書館への期待が研究成果の発信に。H.18の報告では従来の電子図書館の反省点として、大学の教育・研究との連携に欠け電子化対象が偏っていることが挙げられた。
      • 好事家向けの資料を電子化する図書館員の自己満足の時代は終わり。大学の教育・研究に密着することが求められる
  • 北大では:H.16にNIIのリポジトリ実装実験プロジェクトに参加。その成果として北海道大学学術リポジトリ実験版、というものを公開。現在のHUSCAP*5
    • 現在5年目、3万件のコンテンツ、300万ダウンロード
    • 北海道大学の構成員が生み出したものが北海道大学にとって最も重要なもの。図書館の頭もそちらに向きつつある
    • 機関リポジトリコンテンツは学内教員に寄贈を要求する形。従来から、教員著書を図書館に納めてもらっていたものを電子的に受け継いでいる。
      • 著書なら書庫に放り込んでいたものを、デジタル化したのでWebサイトに保存している。
    • 5年間、リポジトリをやってきて思うこと・・・
      • 掲載されているものは出版社・学会で著者の権利として公開許諾をされたもの。その周りには出版社はダメと言っている北大の教員の研究成果がある
      • 図書館の役割は従来は外界のものを取りこんで利用者に提供することであったが、機関リポジトリはベクトルが逆と時々言われる。外のものを中に取組むのではなく、中のものを外に出すこと。それを敷衍するならば、中で生み出されたものを後世に継承する役割として、出版社に許されようが許されまいが書かれたものは保存し、公開できないものはダークアーカイブしておくべきではないか。
      • 審議のまとめの中でオープンアクセスを制度的に推進しよう、と言った話に結び付けるなら、図書館が納本制度として構成員の書いたものは全て集め、公開できるものは公開する・・・といった形になるのではないか。
      • 北大は学内で出版・刊行されたものは必ず図書館に納本すると言う制度があるが、その一部を変えて所属構成員はなにか書いたら一部寄贈せよ、とするだけで制度的な文献収集につながるのではないか
  • 過去と現在ばかりではあれなので未来の話も
    • Cellの「未来の論文」は確かに面白い。これはもう論文と言うより、研究グループのwebサイトであるかのよう。
    • それを一遍の論文と見るよりは、あるグループが一つのテーマについてwebサイトを作る、その中に論文・中間生産物等を全て詰め込んでおけば研究情報発信の新たな形になるのではないか?
      • 例えば日本学術振興会がCellのシステムを買って、基盤研究を取った人はそのサイトに研究過程・成果を全てアップせよ、それを持って研究報告とする、とすればいいのでは? 普通、科研を取ると研究チームで最後に報告書を作っているが、それを学振がホスティングすればいいのでは?
      • それを大学図書館が行うこともできるだろう。

「学会出版から見た学術情報流通と学会の将来」(日本化学会・林和弘さん)

  • あくまで個人の立場として。化学会がこう思っている、という話ではない
  • 倉田先生の最後のお話から・・・
    • 研究活動が変化し、学術雑誌以外の発信が見えてきたところで学会の役割はどう変わるかと言う問い
    • では学会ってなんだ?・・・Wikipediaの引用*6
  • 論文誌の電子化:出版者の視点から
    • 1995-2000くらいは最新号の電子ジャーナル化の浸透。見た目は冊子のような電子ジャーナル化。
    • 2000-2005:過去分の電子化とカレントなものは電子的であることを利用したサービスの浸透。PubMed/CrossRefなど、論文単位でネットワーキング
    • 2005-2010:web2.0へのトライ&エラー。Springer等の電子ブック。オープンアクセス対応(PLoSの創刊等)
    • 2010-:モバイルデバイスへの対応が盛ん?
  • サービスを支える電子化の取組み・・・日本化学会の例の説明
    • 2010には全文xhtml、電子ブック、モバイル対応も
    • 国際的に遜色のない電子ジャーナルサービスを実現できている
    • 2010.03にはePubファイルの試験公開。電子ブックリーダー、iPadiPhoneで閲覧できる。KindleDXでの実験も実施中
    • Twitter, Blog, SNSと拡散しても面白いが・・・学会としては保守的でも本質的な話をすべきと思うので次からはそういう話
  • 論文誌は業績を「固定」するメディア
    • 論文を「書け、書け」と言われる
      • 誰に:ボスあるいは大学、機関
      • どこに:できるだけimpactのあるところ=すでにブランドの高いメディア
      • なんのために:自分の昇進、研究費獲得、生活の保障
      • それらのメディアはTwitter, SNS, Blogではありえない。生活を担っているのは論文誌。
      • ブログScholarly Kitchenでのエントリ*7より:業績評価としての学術論文誌の役割が変化するのは数年単位ではなく数十年単位
      • 個人的にも納得。日本化学会の雑誌の個人購読者はまだ1200人くらいいて、50-60代に山
        • 2006年には全体で1600人、やはり50-60代で山。減ってはいるが、意志決定者の年齢層は紙が好き。さらに冊子を取っている人にID等をただで渡しても電子ジャーナルを使わない。みんな紙を使い続ける。50-60代の人が70代になるまで紙が生きるとすれば、まだ数十年は紙が続く
      • 変わるとは思うが、焦りすぎるとうまく進まない
  • ピアレビューの変化
    • 学会が最後まで残るのはピアレビュー?
    • 学会でもピアレビューの変化はある・・・もともとピアレビューは紙の時代に最適化システム、今の電子査読システムはそれの通信手段を電子化しただけのもの。まだまだ変わる
    • オープンピアレビュー・・・PLoS ONE*8での最低限のピアレビュー+出版後の評価*9
      • 最近注目されているもの:Atmospheric Chemistry and Physics*10・・・投稿と同時に公開、審査員もオープンに審査、良いとなったら世の中に公開*11
        • 論文が投稿されるとプレプリントの状態でサイトに掲載、コメント、レビュアーの査読、editorの決定等が出る。受理されると普通の雑誌として流通
        • 査読料を取るシステム。ページあたり20-40ユーロくらい。
        • IFは4.927。Geo Scienceとしてはけっこう高い。
      • しかしその前にHTML版へのコメント機能やNature Precedings*12等の死屍累々
  • ピアレビューだけがキーポイントか?
    • ピアレビューの段階では情報はフロー。査読工程、一連の論文群の中でフローである
    • それがある段階でフィックスされ、フィックスされたものがストックされる。そのフィックスされるまでのコミュニケーションが学会の役割
    • 研究者⇔出版社の双方向のブランディング。ある分野で権威になると学会誌のeditorになり、いい論文を集め、雑誌の評価があがり、そこに投稿したものがいずれ権威になりeditorになる・・・という正のフィードバック関係による双方向ブランディング。そこでやりとりしているものはフローで、固まった段階でストックとして保存される
      • いかにいい人材を学会に持てるかを考え、そのためにはいい研究者、編集者、査読者がいる。鶏と卵、どっちもやらないといけない
  • 大手学会主導のデータ共有について
    • e-Science, Cyber-infrastructure
    • しかし化学の世界では古くからデータ公開・共有が。1907年には化合物データのCASへの登録が始まる
    • 1965には結晶の構造を集めるデータベースも始まっていて、誰でもアクセスできる
    • 最近の話・・・2007年にはChemSpider*13ができる。化合物の構造データベース、かつ論文の中からリンクで化合物の物性・構造式等に飛ばす、Hub的な役割。インタラクティブなサービス。ベンチャーが始めイギリスの学会が買い取った。
    • それを使って新たなscienceが生まれたか?
      • まだそこまで来ていない。これからどうなるかはこれからの研究対象だが、データ共有に基づくe-Scienceについては倉田先生の研究を待ちたい
  • 学会がデータ共有より気をつけるべきは・・・大手商業出版社の学会化
    • 電子投稿査読システムによって出版社に投稿者、編集員、査読者、論文の善し悪しの情報が自動でたまる。同時にアクセス数、被引用数も手の内にしている
    • 研究者のデータベースが商業出版にある。学会で一番大事なのは会員DB、その優れたものが商業出版にある
    • ネットワーキングのサポート、研究者間のコミュニケーションをenhanceしだしたら新しいサービスになる。NatureはすでにNature Network*14を始めてもいる。
      • 研究者間のコネクト、ディスカッション、発見のサポート。
      • Webに最適化しただけでなく、良い先生を捕まえて書いてもらうと言う人脈もプラスできる
    • 大手商業出版社が学会に取って代わる?
      • 大手商業出版は個々の研究者にパーソナライズした論文情報をモバイル配信している
      • それぞれの研究者にあった論文情報が配信される。学会も図書館も感知しないところで。
  • 学会の役割と将来
    • 学会は研究者がなくならない限り残る
    • 学会事務局が残るかは微妙。運用の担い手が変わる?
      • 既存の学会が進化? 大手出版社が取って代わる? 図書館?
      • 中心は研究者自身。うかうかしていると研究者自身がやってしまう
        • CHEM-STATION*15:化学の院生2人で公開したポータルサイト。かなりのアクセスを得て、企業スポンサーも得てsustainableなポータルに。
        • 目指す先は研究者のコミュニケーション。2人の院生は1人はアカポスを得て、1人は製薬関係の研究者。放っておくと研究者自身がやってしまう
    • 日本の特殊性を活かしたい
      • 欧米の大手学会は出版事業で7〜8割の事業収入を稼ぐ。その利潤を教育等に回しているモデル。なのでオープンアクセスにどうしても消極的。
      • 日本の学会は稼いでいないので、OAの軋轢が少ない。
      • 日本はいまだ研究者のボランティア参加率が高い。Chem Abであれば専従Ph.Dが1000人いるが、日本は研究者自身がやっているので新しい枠組みにはかえって対応しやすいはず

ディスカッション(司会進行:筑波大学・逸村裕先生)

  • 倉田先生:杉田さんに。将来の話で機関リポジトリがうちのものを外に発信する機能を本当に取り込む方向に行こうとしたら、今、大学図書館全体の中での機関リポジトリの位置付けが難しいのでは? 大学全体の中で、図書館全体の中で機関リポジトリの位置付けはそういう方向にいける? 現状、それがなぜそういう方向にいくのが難しい?
    • 杉田さん:この5年間の感想としては、図書館内が一番問題。機関リポジトリについての理解が一番良いのは大学の経営層。経営層は総論賛成で、各論はどうでもいいと思っている。お金はくれないが賛成はしてくれる。次に先生方は、面倒くさいと言うだけ。反対する先生も中にはいるが、理解はしてくれる、面倒くさがるが。理解すらしてくれないのが図書館職員。これまでかなり限定された世界で限定された仕事をしていた図書館員は、大学職員である前に自分は図書館司書だと思っている人が多い。これからは図書館職員である前に大学職員である、という方向にシフトしなければいけないと思っているのだが、なかなか難しい。一方で大学全体として、ということであるが経営層は割とのりのり。北大の例でいえば館長は登録義務化に積極的。私は4月から別の大学に行くことになっているのだが、北大として機関リポジトリへの登録を義務化する制度整備をするための中期計画を異動前に出していけと言われている。大学のトップでは外圧もあり、その方向に行こうとしている。個々の先生方については、今は北大ではWeb of Scienceでヒットした先生にメールを送っていて、返信率は49%くらい。開始当時から変わらない。道のりは長い。ハーナッドは機関義務化をしなければ15%程度の登録にとどまるとしており、機関リポジトリが中心に位置するには長い道のりがある。
  • 倉田先生:林さんに。日本の特殊性って本当にそんなにうまくいくかはわからないと思うが。気になったのは、研究者がボランティアでやれちゃうことはそんなにある? 研究者は研究以外のことをやりたがらないのでは? 編集・査読を良くやっている人がいるのはわかるが、それが社会システム的に体制化できるだけの力になる?
    • 林さん:突っ込まれるだろうと思ったところを突っ込まれた。学会と言うのは実はやくざなところで、プロフェッショナルを目指しつついかに先生のボランティアに頼るか、が学会事務局の効率最適化。先生が100人集まると面白いもので、本当に研究しかしたくない人と、「いっちょやってやるか」と言う人に別れる。後者の中で、さらに出来る人をいかに目利きして発見して仕事を振るか・・・というのが。日本の学会で不足しているのは編集の部分の専従。欧米ではPh.D取得者がeditor⇒academicの世界へもどる、というパスがあるが、日本にはそのキャリアパスはない。それから、経営のための法務についてはどれだけできる先生でも対応できない。米英は専従の弁護士はいるし、専従のロビイストがいるという話も聞くので、そういうところに専門性はあるかと思う。ただ、学会の中心はあくまで研究者なので、その先生方がやりたいようにやれるようにやる、というのは学会運営の肝だと思う。Wikipediaによれば学会の誕生は大学の保守的な経営に反発して生まれたもの、という話もあり、研究者の自発的なコミュニケーションを妨げないものが学会であると思う。
  • 日本動物学会事務局長・永井裕子さん:倉田先生へ。Cellは生物学で深く関与するところなので「やられたな」とも思う。私自身も先生がおっしゃっていたように紙版と電子版の乖離が大きくなると思うが、そのときに学会出版と論文の分離が起こるかどうか? 研究者としてどう思われるか?
    • 倉田先生:今の段階において、多様なバージョンが出てくるのは電子化の必然。紙だから一つに固定できた。電子化した瞬間に色んなバージョンが出るに決まっている。今は無理やり紙との対応を絆にpublisher versionを決めている。それが業績の固定になり、固定させてはじめて識別もできるし成果とも言える。今まではそれが出版によって自動的になされていた。電子の社会になったらいくらでもversionが出てきて、探せばネット上に転がっている。それは今の体制でやっていれば必然で、今後もいろんなversionが出てきていろいろなものがある社会になる。そこで学会の役割は、一つは固定に力を注ぐことかとは思う。研究者は評価しなくてはいけない、業績評価機能を持つ限りある種の固定化もあわせてできないといけないのでは。
  • 永井さん:杉田さんへ。何年か前にロンドンの国際会議で若手が話していたことが目に見えたような気がする。Cellの話にも関わって、webサイトで研究成果そのものを出すこともわかるが、同時に内から外への発信のいったときに、機関リポジトリと雑誌サイトがますます乖離するのでは?
    • 杉田さん:査読を経る前のものしか公開できない場合への対処としては、最近思うのはOAにすることも大事だけれど、図書館としてOpenにできなくても持っておく、ということも重要なのではないかと思う。オープンにするばかりでなく、持っておくことも重要と感じるし、そのうえでプレプリントでも見せたいなら見せればいいし、そこは著者次第かも。倉田先生への質問の感想として、自分は論文は将来なくなって電子メディアの特性を生かした日々、変わるものになるのではないかと思う。昔は遠くに同じものを送るには固定するしかなかった、必要悪であってもう固定しなくてもいいのでは。
  • 永井さん:林さんへ。大手出版社が学会化することはあると思う。学会で出版を委託しているところは気付いていないと思うので、もっと色々なところでお話しいただきたい。質問は、学会事務局とおっしゃっていたが学会編集局のこと? 事務局はバックヤードでマネジメントする仕事もあるが、どういう意味か詳しく。
    • 林さん:商業出版の学会化については数年前に気づいて某社に話した際にはあまり受け入れられてなかったが、数年の間にずいぶん変わった。正直、今から変えるのは難しいかも。日本の政策として知財確保等の面からいかないと、NatureやElsevierには勝てないのではないか。それから学会事務局については旧来の事務局はいらないという意味で、事務局自体は必要。ある先生とディスカッションして言われたのは、お金を集めたり投機するのは研究者は嫌なので、そこは事務局が要る、と。旧来の学協会が今のまま、将来に対応できるかは違うと思う。もっとスケールメリットを生かした、最適化されたインフラに基づいた学会が現れたときに、そこで進化できるところと絶滅するところが分かれて、生き残れるところとそうでないところがるのではないか。
  • 倉田先生:杉田さんの話を聞いていて思い出したこと。欧米の大学ではやたらとIRが登録制に変わっている。オープンではない。どうもどこも機関mandateに変わっていて、根拠はないが、とにかく集めるだけ集めておいて内部公開だけやっている様子。なんでもかんでもオープンと言う話ではなく、データとして保存しておくということが基調として出てくるのかも。
  • 林さん:もうひとつ言い忘れたのは、学会の生き残りで重要なのは対面する集会の運営。お祭りは人間の本能、インターネットではできないこともあるのでそこは生き残れる。それから、学会・出版・論文が切り離されたときにどうなるかについては2007年の図書館総合展で話したが、学会は認証機関になると思う。学会が認証するものにスタンプを押すような役割。
  • 逸村先生:杉田さんはCOAR*16という国際的機関リポジトリ団体のvice presidentでもあり、国際的な動きも期待できるかも。



倉田先生が最初にお話しされた後に杉田さん・林さんに問題提起し、それに杉田さん・林さんがそれぞれ大学図書館/学会の役割について応えられるという形で、ディスカッションも含めかなり明快な会であったなあ、と思ったり。
果たしてCellのような方向に行くのかはさておき*17、今後は単なる紙版の雑誌の流通ルートを電子的に変えただけではない、電子媒体の特性を生かした学術情報発信が出てくるであろう、という見解は講演者の御三方に共通で。
考え方に差があるのはどこまでそういう風に変わるのか、そして現在の雑誌・論文の果たしている研究成果あるいは業績の固定化の役割はどうなるのか、というあたりですね。
倉田先生は多様な形式は現れつつも現在の論文的なものも残るだろうという考えで、林さんもなんらかの業績の固定化は必要とする考え、一方で杉田さんは論文と言う形はいずれなくなっていくのではないか/固定化、というのも紙の時代に情報を一元流通するための必要悪ではないか、という見解。


min2-fly個人的にはやはりなんらかの形での固定化、というのは研究の世界にはないと困るのではないかと考えています。
端的にいって、固定化してもらえないメディアはやはり引用しづらいです。
引用した後で内容の記述が書きかえられてしまっていると「おいおい(汗)」となりますし、実際に新聞各社のニュース記事等で特に注釈なく中身が書きかえられている(そのせいでリンク先と話がかみ合わなくなっている)という例を見かけられた方も多いのではないかと思います。
まあ研究成果については常時差分を取っておいてそれら全ての公開を義務付ける、という風にしておけば一応チェックは出来るわけですが、その場合も参照した日付との照らし合わせとかが必要で・・・とか。
同じく評価についても、どの時点で評価していいのかわからないし評価した後で重要な書き換えが行われても困るし・・・。


もっとも、そのあたりは紙の時代に慣れ親しんだ人間の感覚で、いずれは固定化されないのが当然になるのでは、とも言えるわけですが。
言えるわけですが、しかし実際のところ現在においても紙の時代に慣れ親しんだ人間が義務教育+高等教育を通じて紙媒体を多用しながら教育を行ってさらに紙に親しんだ人間を生産していることを考えると、実際は紙の時代ってそうそう終わらないんじゃないか、という気も・・・。
加えて先日のエントリにも挙げたとおり、基本研究の世界は若者からは変わりませんしね*18
林さんのお話の中で「今、冊子体を購読している40-50代の人が引退する70代になる頃までは紙はなくせないだろうと思う」というお話をされていましたが、そうなるとあと20-30年?
さらに実際にはその下の世代でも「電子ジャーナルは使うけど読むときは紙に印刷する」派の世代がいるはずなので、そこも含めると固定化の習慣を持っているであろう世代はさらに数十年ということにも・・・


他方で研究者はお金の出し手と雇い手によって義務化されれば大部分はそれに応じるはずなので、杉田さんのお話にあったように最初から助成期間は各研究チームに「未来の論文」風のサイトを構築するように(システムは助成期間側持ち)、と言われれば不平は大量に漏らしながらも従われるのではないか、という気もします。
となるとやはり複数のフォーマットで情報が流通する状態が今後しばらく(あるいはずっと)続くって方向なのかなあ・・・という気も。


それとこちらは杉田さんのお話にあった機関リポジトリについて、外に公開できない(権利的な問題等で)ものも含めて図書館がすべて持っておく・・・というのは良いと思います。
個人的にはさらにそれを一歩進めて、大学なり図書館なりとして構成員が作成した情報の管理・バックアップや外部への発信等を一元的に支援するような仕組みはできないものか、とも思ったり。
最近でもロチェスター大学での機関リポジトリへの執筆ツール組み込み*19やNIMS eSciDocなどの例がありますが*20、執筆段階から原稿のバージョン管理や共著者等との共有、バックアップ等を行うシステムを作り、外部投稿時にはそこからファイルを送り、リポジトリとして公開する場合にはなんらかのチェックをつけるだけ・・・とか。
もっと言ってしまえば、以前Twitterでもポストしていたのですが、DropBox*21リポジトリとしてのインタフェースも被せたようなシステムとか大学全体で導入できると超便利じゃないですか、とかなんとか。
普通にフォルダ使う感覚でファイルを全部ローカルのみでなくオンラインでもストレージしておいてバージョン管理もでき、かつフォルダ単位で共有したり公開したりも出来たりとか。
で、図書館はそこに入っているファイルを全部アーカイブしておけば構成員が日々生産するすべてのデータが手に入る、と・・・漏洩するとえらいこっちゃですし、学内でも競争等は存在するでしょうから扱いには大変慎重になるべきとは思いますが、学内で生産された情報の保存と発信の役割を担う、ということであればそれくらいでかいこと言ってしまった方がインパクト強いし実際便利だよ、と。
執筆中の論文やデータは共同研究者との共有フォルダに入れておいていちいちメール送ったりアップロードしたりしなくても勝手に更新&共有される、論文が完成したときに(相手方の投稿システム上、おそらく論文原稿自体は相手方のシステムにアップロードするとかしないといけないでしょうが)容量が大きすぎていちいち相手に送るのが面倒なsupplment dataなんかはそのままフォルダ内で公開設定にチェック入れるなりして相手にURLだけ伝える、とか。
同時に投稿原稿は図書館への投稿用フォルダにもコピー入れておく、受理されたら最終版を出すついでにやっぱり最終版も図書館の投稿フォルダに入れておく、とか。メール送るよりさらに楽。
ついでに言えばレポート提出時はメール書かないでもファイル名に学籍番号なりいれた上で提出用フォルダに移しておくだけとか、レポートにコメントするのもそのファイル開いてコメント書き込んで保存して「あとは見ておけ」って伝えるだけでいいし・・・とか考えだし始めると夢が広がりますね!
つい直前に自分が紙の世代であると言っていた人間がよく言うわ、とも思いますが(苦笑)
しかしまあ、もし数十年かけてしか大きくは変われないのが研究や学術情報流通の世界だったとしても、いやそうであるからこそ、早めに「こういう技術を使ってこういう風にできるはずだ!」と言うことは叫んでおかないとますます変化しなくなるという話でもあり・・・来るかどうかもわからない自分が任期なし教員になれるような時に、そういうシステムがあって楽が出来るためには、早いうちから欲しい欲しいと言っておく必要があるのでは、とかなんとか。


最後はだいぶ話が脱線しましたが(苦笑)、まあそれくらい語りたくなるような刺激のあるイベントでした、ということでー。

*1:と言っても、もちろん月例会のテーマはずっと以前に決まっていたので、自分の方が最近研究関連のエントリばかり書いているせいであるわけですが

*2:大学図書館の整備及び学術情報流通の在り方について(審議のまとめ):文部科学省

*3:http://www.cell.com/abstract/S0092-8674%2809%2901439-1

*4:2010-03-29 11:19修正

*5:

*6:学会 - Wikipedia

*7:原文:Why Hasn't Scientific Publishing Been Disrupted Already? - The Scholarly Kitchenid:kany1120さんによる紹介&日本語訳:何故科学出版はまだ崩壊していないのか? - kany blog

*8:PLOS ONE: accelerating the publication of peer-reviewed science

*9:PLoS ONEの出版後評価のあまり使われていないっぷりについては自分の次のエントリも参照:誰が論文に点数をつけるのか?:PLoS ONEのarticle level metrics調査 - かたつむりは電子図書館の夢をみるか

*10:ACP - Home

*11:http://www.atmos-chem-phys-discuss.net/papers_in_open_discussion.html

*12:Home : Nature Precedings

*13:ChemSpider | Search and share chemistry

*14:http://network.nature.com/

*15:Chem-Station (ケムステ) | 化学ポータルサイト

*16:COAR – Towards a global knowledge commons. ちなみに杉田さんはトップページの写真最前列左から2番目

*17:個人的にはタブブラウザは好きですがブラウザの画面内のタブの切りかえ好きじゃないのであのフォーマットは流行らないで欲しいです

*18:研究の規範は若者からは変わらず、かつて若者だった者が変える - かたつむりは電子図書館の夢をみるか

*19:CA1709 - 米国ロチェスター大学での研究者・学生の行動調査 / 西川真樹子 | カレントアウェアネス・ポータル

*20:http://www.slideshare.net/keita.bando/possibilities-of-material-research-repository-nims-escidoc-as-esciencemasao-takaku-final

*21:Dropbox、日本語での説明は次を参照:Dropbox徹底解剖 - 一度使ったら手放せなくなる! オンラインストレージサービスの本命 | Webワーカー向け便利サービス | Web担当者Forum