かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

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「学会の仕事とその経営を知る」:第1回SPARC Japanセミナー2010


3日連続イベントレポート更新、3日目は2010年度最初のSPARC Japanセミナー「学会の仕事とその経営を知る」です。

国際学術情報流通基盤整備事業は、日本の学協会等が刊行する学術雑誌の電子ジャーナルを支援・強化することによって、海外に流出する我が国の優れた研究成果を我が国の研究者自身の手に取り戻し、海外への研究成果発信の一層の普及を推進する事業です。

学術雑誌の電子ジャーナル化の進展により、研究成果の流通形態は急激な変化を遂げていますが、我が国の学術雑誌の電子化、国際化等への対応は十分とはいえない状況が続いてきました。

このような中、文部科学省からの支援によって、2003年(平成15年度)から開始された本事業は、日本発の学術雑誌、特に英文論文誌を電子化するとともに、これらを安定的に発信できるビジネスモデルを創出し、日本の学術雑誌の海外への認知度を向上させることを目指して、パートナー誌とともに活動してまいりました

2006年(平成18年度)からは平成15-17年度の事業に続く第2期という位置づけのもと、第1期で果たせなかった課題の解決を図りながら、学協会を超えた横断的な支援活動を行い、自立した学会誌出版活動が醸成される環境の整備を目指します。

日本学術会議における協力連携学術団体数は、約1800団体です。自社ビルを持ち、数十名の職員を組織として持つ学会がある一方で、研究者の手弁 当に近い形で、ある学問領域を守る学会も存在します。学会の多くは、ジャーナルの出版を活動の柱としています。
今回のセミナーでは、学会の経営、ジャーナル編集、ジャーナルの販売、そして電子化したジャーナルの今後にそれぞれ焦点をあて、4学会の実務 担当者から現場の生の声を聞きます。
学会関係者、研究者の方々には、今後の学会活動の参考となりますよう。そして図書館の方々には、学会はどういった活動を行い、ジャーナルを今 後どのように出版していきたいと考えているかをご理解頂く機会になれば幸いです。


今回は昨日のCSI委託事業報告交流会から連続ということもあり、全国の大学図書館の方の参加も多かったそうで会場は大盛況でした。
そのCSI委託事業報告交流会のディスカッションでも終盤は日本の学術情報・学術出版の話が取り上げられており、日本の学会の方々がご講演される今日のセミナーとの接続も良いのでは、とかなんとか。
考えて見るとSPARC Japanセミナーで国内学会の方のみが発表、というのも随分久しぶりと言うか自分が参加するようになってからはあんまり記憶にないと言うか・・・。
それだけに今日のイベントで改めて、日本の学会のお仕事とその経営について知ることが出来れば、と期待しての参加でもあります。


では以下、いつものようにレポートです。
ここ数日で何度目かわかりませんが、min2-flyの聞きとれた/理解できた/書きとれた範囲のメモであり、その点ご了解のうえお読みいただければ幸いです。
間違い、問題等ありましたらコメント等を通じてご指摘いただけると助かります。


さて、日本の学会の仕事とその経営とは―?



開会挨拶(根岸正光先生、SPARC Japan運営委員長)

  • SPARC Japanの事業について
    • 平成15年から開始
      • 昨年は1年間、今後について検討した
      • 今年度から3年間を第3期と位置付ける
      • 第3期の目標は「日本型のビジネスモデルに裏打ちされたオープンアクセス」。
        • ただの「オープンアクセス」だと誤解が多いので前置きをつけた
      • 研究者、学会、図書館が同じテーブルで議論できることが必要。セミナーもその意見交換の場の一つになることを期待している
  • 本日は第1回セミナー
    • 昨年度に図書館の雑誌担当者が学会編集者に本音を語る、というクローズドな会があったらしい
      • その成果、ということで関連の方々にご講演いただく
    • 本日の講演は日本の学会をリードしてきた方々。貴重なお話が聞けると思う
    • 今後も各種テーマで続々展開。ぜひ参加いただければ
司会の永井裕子さんから補足
  • 学会は図書館を知らず、図書館は学会を知らない
    • 8月には図書館の側から、「こういう風にオープンアクセスを広げようとしている」というようなお話をしていただきたい
    • 電子ジャーナルコンテンツをどのように研究者に届けているかもお話いただきたい

今後の学会経営:出版経費の削減は可能か(永井裕子さん、日本動物学会事務局長)

  • 学会とは?
    • 大事なことは学会誌、論文誌等の成果発表の場の提供
      • 今日は会員管理等ではなく、出版に焦点を当てたい
    • その学問領域を過去、現在、未来において支え、進展させ、責任を負う人が善意によって集う場
      • 学問領域を支える人間の集団の場。理想論だが
  • 日本の学術出版の特殊事情のおさらい
    • 日本の出版を規定する2つのもの:科研費補助金とJstage
      • 日本の学会は政府の補助を受けて出版してきた
      • JStageは大きな恩恵であるとともに、日本の発信そのものを規定している
  • 科研費補助金研究成果公開促進費、学術定期刊行物について
    • 平成20年度補助条件・・・印刷媒体にしか使えない
      • 直接出版費、欧文校閲費、海外レフェリーへの論文郵送料
        • 日本のトップジャーナルで投稿査読システムがなくて郵送費なんて話をするところはないだろうが、まだ残っている
    • 平成21年度からやっと電子ジャーナルにも使えるように
  • ALPSPのMark Wareによるジャーナル出版のワークフロー
    • プロダクションワークフローに入ったらXMLをすぐに作っている。2007年段階ですぐにそう
  • 一方、日本ではいきなり印刷版のプロダクションになる。XMLはほとんどの雑誌が作っていない
    • 科研費が冊子体のみ補助していた
      • 科研費が必要なので電子ジャーナル作成に進めなかった
      • JStageによって最低限のセットとPDFは出来たが、Mark Wareによるような電子ジャーナル出版は行われていない。出来ているのは商業出版に委託した場合のみ
      • XMLを作らず冊子体を印刷していた
    • 一方で出版費を使うほど科研費が来る、という構図が4年前まであった
      • 電子化するより紙刷ってた方がお金が貰える
    • 平成21年度から電子ジャーナル出版経費も出るようになったが・・・
      • 大変な申請書を埋めないといけない。その申請書の項目が電子ジャーナルに対応していない。大混乱を招いた
      • 電子ジャーナル用の申請用紙を作って欲しい
  • JStageの問題
    • 日本最大の国営プラットフォーム
      • J-STAGE トップ
      • 弱小学会には大変有り難いが、同時にXMLは採用せずBibファイル、それも全文を含まないBibファイルしか作っていない
      • 全文にタグ・DTDのあるようなものではない。それを作れ、と言われていた
      • JStageとしては仕方がなかったのだろうが、今でもそのまま
  • 日本の電子ジャーナル
    • はじめに冊子体ありき、のまま。XML⇒印刷へ、という過程にならなかった
    • PDFと、JStageが日本の電子ジャーナルを規定している
    • では日本の印刷会社は?
      • カニシ印刷曰く「日本はもう電子ジャーナルを作れない。世界はXMLへ行ってしまったが」
    • 日本における電子化の定義とは? PDFなのか? JStageが国際的な標準か?
  • 日本動物学会の場合、出版経費をどう下げているか?
    • 小話:2003年に一度、申請書を1ケタ間違えて1900万円であるべきところ190万円しか貰えなかった年があった
    • 4年前から科研費は4分の1カットに。それにどう対応したか?
      • ずっと前から印刷経費は下がってくる、という話を出版者にし続けていた
    • 冊子の製作数も減らしている。2005年には1500部刷っていたが、今は600部くらい
      • 印刷料を減らす。さらに送付料も減る。2005⇒2009年で300万円⇒115万円に
    • 公益社団化すると会員に配布するためにお金は使いにくくなる
    • 電子投稿査読システムは製作費の削減により維持
  • (商業出版への)委託なのか学会出版か?
    • 委託すると学会へのロイヤリティは限られる
    • 一方で出版費を高額取られる。図書館から購読費を取る一方で、商業出版は学会からも費用を取る
    • BioOne(非営利出版)ではけっこうな額が戻ってきている
  • まとめ
    • ジャーナルを今後どうしたい? 国際誌を目指す? どんな位置を狙う?
    • 競合雑誌はどんな雑誌? それに対抗するには何が必要?
    • それを踏まえて、出版経費をあらためて検討する。5年後くらい先を見て
    • 科研費を取り続けるか? 続くかは分からないのに
    • デジタルコンテンツを日本で作り続ける意味って?
    • 電子ジャーナル販売の検討・再考をしないといけない

学会編集業務の実際(橋本勝美さん、日本疫学会)

  • 紹介
    • 学会出版⇒商業出版⇒現職へ
    • 運営側が無理やりこの場に引っ張り出した(笑)
  • 日本疫学会
    • 会員数1520名
      • 研究者、臨床、保健衛生関係
    • Journal of Epidemiology(JE)
      • http://www.jstage.jst.go.jp/browse/jea/-char/ja/
      • 英文査読誌
      • 年6回+Supplement
      • 冊子・オンラインを公開しているが冊子は減らす方向
      • IFは1.643、採択率は25〜30%程度
      • 公開プラットフォームはJstage
      • 編集室は専任の編集担当者、編集委員からなる
  • JEの編集業務
    • 投稿・査読管理
    • アクセプト・出版管理
    • 資料作成
    • 情報収集
    • web管理
    • 予算など
  • 出版フローについて
    • 査読フローはオンライン投稿査読システムがあり、そんなに複雑ではない。投稿論文のチェックと結果送信。査読状況の把握
    • 受理後、出版までのフローは印刷、英文校閲、著者とのやり取りを含みかなり複雑
  • JE編集室の目標
    • 編集委員長を引き継ぎしてもスムーズに出版する
      • オンライン投稿査読システムは必須
        • 海外・国内システムを比較して決める。選択基準は著者、編集委員、査読者への使いやすさやいくつかの機能等、費用、サポート=国内代理店の有無
          • 国内代理店がないと時差のせいでサポートが受けられないことが!
        • 導入したシステムはアクセプト後、出版過程でも活用している。引き継ぎしても記録は残る
        • 理事会資料用にレポートもここから出す
      • 編集委員専用にマニュアル・内部手続きをのせたwebを開設
        • 橋本さんが作成。極めて簡単なもの。問いあわせがあったものをスクリーンショット取ってマニュアル化してのせたり。
    • 世界標準の雑誌に近づけるには?
      • ネイティブによる英文校閲導入、スタイルの決定、オンライン早期公開など
      • スタイルの決定について
        • 英文校閲者、印刷会社、編集室で話し合い。AMACSEのスタイルマニュアルを参照しつつスタイル決定
          • スタイルの半自動編集、XML作成:NLM-DTDPubMedによりreferencesのチェックをできる。著者名に間違いがあったら指摘する、など
      • オンライン早期公開は必須。受理⇒本公開まで半年かかっていたのを、2か月ほど短縮。でもまだかかっているので対策は必要
      • 世界標準に近づくには世界の動向を知る必要がある。
        • ICMJEのUniform Requirementのチェック。
        • COPE:二重投稿、その他倫理についての情報が得られる。
        • CSEアメリカ・イギリスの雑誌の動向がわかる。年に1度アメリカで総会とセミナーがある。セミナー資料も2〜3カ月後に公開
        • Web of Scienceによる分析も実施
        • セミナー参加も情報収集として重要。SPARC Japanのほか、JST図書館総合展CSEのイベント、JAMJEなど。
        • 集めた情報は編集委員会で共有。
  • この2年半の活動の結果:
    • 投稿数、特に海外からの投稿数が増加
      • しかし無料で投稿できるのでかなり酷いもの、雑誌名を間違えているような投稿もある
      • 編集委員の負担も大きい。オンライン投稿システムの料金もかかる
      • 4月から掲載料を取ることにしたら、多少はいいものが増えた
    • 掲載論文も質の悪いものもあるがいいものも増えている
      • 海外からの掲載数も増えている
    • 2年半で結果は出ていると言えるが、平たんではない。
      • 1人出版なので全て自分でやらないといけない。何を誰に聞けばいいか。SAPRCのことも知らず、人にものを聞きまくってきた
        • それによってネットワークも広がり、解決できて進んできた
  • とはいえ失敗もある
    • 最初の校閲会社は安かろう、悪かろう。意味のない校閲になってしまった
      • 1人のNative校閲者に変更。費用は倍以上になったが質は上がった
    • 印刷会社も最初、営業文句にのって実績のない会社に依頼してしまった
      • 思い切って変更。現在は満足のいく雑誌に
  • 今後の課題
    • 受理⇒出版フローが複雑で公開に時間がかかる。簡略化しないと
    • 収支構造の改善。冊子を減らす/掲載料
    • 世界標準に追いつく努力をしているが世界標準はどんどん逃げていく。考えないと。
  • 質疑
    • Q:オンライン投稿査読システムについて、Manuscript Centralというものを採用したとのことだが、どのような契約?
      • 年間契約。前年の投稿数に基づいて契約。少なめに契約して、超えたら追加分を払う
    • Q:費用のオーダーは?
      • 時にもよるが、今は円高なので安くなっている。当初計画よりは。1論文あたり3,500円くらい。プラス、サポート料や変更するとかかった時間にのっとってチャージ。それも投稿システムによって違うが
    • Q:英文校閲会社でひっかかったという校閲会社の名前は・・・?
      • あとで(笑)
    • 永井さん:Manuscript Centralは動物学会も使っている。初期は年間120万円くらいだが、今は70万円くらい。長く使うと安くなる。これがないとやってられない。他にEditorial Managerというものもある。Elsevierなどはこちら。一方、ACSはMC。
      • 林さん:ただ、ACSはそうとうお金をかけて作り直している。
    • 永井さん:初期費用数は交渉次第。MCは今、トムソン・ロイターの参加にあるので、アメリカに行って直接交渉してきた。ただ、問題は日本のブランチとの契約もあり・・・今、日本で使える投稿システムの小さなクローズドの会を開きたいと考えている。そのときはぜひ。
    • Q:同じく医学ジャーナルを出している学会。英文校閲について、私たちの学会ではやっていたものをやめた。チェックのために時間がかかる。2週間くらい。早く出すために、ブレーキがかかってしまうが?
      • しかし今の校閲状況だと、なしではできない。英語と言えないようなものがacceptされる。日本人同士ならわかっても、世界で見ると日本人同士にしか通じない英語はわからない。なので、そこは時間をかけてもいいと考えている。ネイティブチェックは義務付けしているし、査読でも英語は見ているが、内容は良くても英語が悪いものはリジェクトしない方針。なのでこちらで変える。
    • Q:早期公開と本公開の違いって? 早期公開時に見える論文と本公開論文は?
      • スタイルは同じ。早期公開はDOIはあるが、ページや巻・号はない。ただDOIはあるので引用はできる。
    • Q:受理から本公開までの期間が長いような気もするが、この期間のネックは?
      • 悪循環だが、1人でやっているのでいい加減なことをしないためには、混乱を避けるためにも1号に掲載する分ずつ校閲に回している。五月雨式には管理が複雑化するので出来ない。もう少し人手がいれば。

電子情報通信学会のオンラインジャーナルの取り組みについて(水橋慶さん、電子情報通信学会 出版事業部ソサイエティ誌出版課 課長代理)

  • 電子情報通信が書きについて
    • 1917年創立、あと7年で100周年
    • 33,000名の会員、分野ごとに4ソサイエティ1グループ. 全国に支部、海外にも6カ所セクションを置いている
    • 関係定期出版物・・・各ソサイエティ・分野の英文論文誌4誌、和文論文誌4誌、2004年から紙なしオンラインジャーナル、71の専門委員会による技術研究報告(年間9500件)
      • オンラインジャーナル立ち上げ時にはSPARC Japanの支援を受ける
      • 今年10月には新しい雑誌を準備中。これもペーパーレスの方向で検討
  • ビジネスモデルについて
    • オンライン化以前・・・投稿数は伸びても発行数はなかなか伸びない
      • 著者負担の原則:掲載料が収入の柱だが、あまり高くもできないのでそれだけではペイしない
      • 図書館向けの価格は学術団体として、低く抑えたい
      • 結果、掲載論文数が増えるほど財政を圧迫
    • そこで冊子体からオンラインへ
      • 1998年から冊子・オンライン同時作成。自前のページで公開。しかし中心は冊子、オンラインは無料公開だった。和文は刊行後6カ月で公開、英文は2週間で公開
      • 収支構造を改善するために会員へ配布するのは冊子からオンライン版に切り替え。あわせてオンライン版を有料化
        • 個人でどうしても欲しい人はオプションとして、有料で冊子も出る。賛助会員はまだ冊子体ベース
      • サイトライセンス・・・IPアドレスによる機関認証
        • 本格実施に向けてはSPARC Japanからもアドバイスを受ける
          • 値段設定に苦慮。サイトライセンスを行うと会員が減るかも知れない、それをカバーできる値段設定に悩む
          • 図書館コンソーシアムと話すことをSPARC Japanから勧められる。そこでJANULの窓口とコンタクト、後にPULCの人も参加
          • 機関のランク分け(最小、小、中、大)、料金体系も設定。あわせて、オプションの方の冊子は1部あたりの単価をかなり上げて設定
    • 冊子体ベースの頃の購読料
      • 学会誌2万円/年、和文論文誌6,000円/年、英文論文誌1万円/年
    • 投稿数(英文論文誌)は2000(1,100件)⇒2009年(2,700件)で倍以上に
  • オンライン版の特徴
    • 同時アクセス制限なし、VPN等を認める、契約すれば追加費用なしで創刊号から見られる、ただし解約したらアクセスは保障しない
    • 料金体系は3年ごとに見直す(図書館への配慮)、しかし契約は1年単位
  • なお、今回は国内の話・・・英文論文誌は国内・海外で対応を分けている
  • 質疑
    • Q:財政状況で、収入の柱が掲載料とあった。研究者が増え、投稿論文数が増えるほど財政を圧迫とのことで、このままだと遠からずまた苦しくなるのでは? 次の一手は?
      • 冊子体の発行部数が減ったので今は財政状況は改善された。
    • Q:でも電子化してもそうなるのでは?
      • 電子化後は改善されていて、掲載論文数が増えても問題ない。あれは冊子体刊行時の問題。
    • 永井さん:日本の学会の多くは安い金額で図書館に冊子を売っていた。これは完全に赤字どころではない。電子情報通信学会さえもそう、ということ。水橋さん、海外のブランチはなにをされている?
      • 海外会員の獲得が最大の目的で、シンポジウムの開催等がメイン。各地域の人にやってもらっていて、年間の活動量としてまとまったお金は渡しているが謝礼は渡していない。

日本化学会の論文誌事業の現況とXMLの活用(林和弘さん、日本化学会学術情報部 課長)

  • 昨日までアモイに居て、資料は朝の4時までかかって作った。
  • 今回はePubの話をするので、ePubで発表資料も作ってみた・・・が、文字化けはするし日本語も汚い。
    • 中身はXHTML. これでプレゼンをどうするか? 初めての試みなので色々あるが、トライさせていただければ。
  • 自己紹介
    • もともとは化学の研究をしていた。電子ジャーナルに興味を持ち、そのまま就職
  • 電子ジャーナルのフロー
    • 投稿、査読、組版、web公開/印刷・・・
      • すべて電子化した。その経験を生かして今後を考える
  • 電子化には2つの方法がある。国産自力と海外委託。
    • 国産自力開発運用:BCSJ & ChemLett
      • 化学一般誌のトップジャーナルのIFの平均は10くらい、上の2誌は1.7とか1.4とか
      • 出版費を削減しつつ電子化、開発費をかけずに電子投稿査読システム開発、電子ジャーナル購読導入、オープンアクセス対応・PR、XML出版
      • 日本でも国際的に遜色ない電子ジャーナルサービスが出来る(各種サービス、標準、ツールへの対応)
    • 海外出版者提携:国内学協会合同レビュー誌・The Chemical Report:Wiley/アジアの合同誌・Chemistry: an Asian Journal:Wiley
      • CAJはヨーロッパの連合ジャーナルの真似。野依先生たちを中心にWileyと共同で作っている。
        • 直接、中国とやるのは難しかったが、間にWileyが入るとまとまった。個人的見解だが。
        • 世界の化学系雑誌で一番IFの高い、ACWEの編集長を担ぎ出してきた。最初のIFは約4.2で、日本が関係している化学雑誌ではトップジャーナル
    • じゃあ、どっちがいいんだ? 自前? 商業出版者と組む?
  • 名を取るか? 実を取るか?
    • すべて委託しては学会の意義が
    • 委託することで学会が潤うなら、学会にメリットもある
      • 潤うためには出版社とのタフな交渉が要る。Big dealとの契約交渉に似ている。日本の先生方や事務局がやるのはきつい?
    • 自前・委託どっちもキープできればいいかも
      • 自前を一度やめるともう再開できない。休刊した雑誌はもう再開しない、新創刊の方が楽
      • 自分でやっていれば手の内がわかる。出版者のオファーを見てもどこで稼ごうとしているかがわかる
    • 外と組むのも自前でやるのもなかなか厳しいが・・・業界としてはポスト・Big dealを考える必要
      • 今のbig dealはこのままでは続かないだろう
      • 学会としては会員が必要とする雑誌を作り続ける必要がある
  • XML出版フローの話
    • SGMLの頃から取組んでいた
      • 先進過ぎてうまくいかない
      • 2008年にXML出版に取組み、2010年にはePub、全文xhtmlを公開
        • Kindleは白黒なのでお蔵入り
  • ワンソース・マルチユースの理想と現実
    • 日本は最初にPDFを作って、そこからXMLやHTMLを起こしている。これが高コスト、遅い出版を招く
    • 理想としてはメタデータ付きで作って変換すること
      • しかしここで校正という曲者。今は著者がPDFで校正する。これが組版の問題に。朱が入れば戻ってやることに
      • それを解決するのがXML-APシステム。修正を組版で直すとXMLも直る
  • 英文誌-和文誌問題
    • 英文誌でできていることを和文誌に活かす? しかしそこは社会的問題
      • どのようにXMLデータを効率よく作成するか
      • できたデータをどう流通させるか?
      • いずれ英文・和文で違うのは、日本の電子出版事情を見ての通り
  • モバイル対応
    • 雑誌タイトルからの離脱の可能性
      • 図書館経由だと、名残がタイトルに残りやすい
      • モバイルの場合、直接端末に送る。個々の研究者に個々の論文を
    • Elsevierは全論文に出版者名と雑誌の表紙がわかるように論文を組んでいる。そこはさすが
      • しかしこれは本当の波か?
    • 雑誌を図書館経由で売っている場合は事務の相手は図書館
      • モバイル化すれば直接会員へ
      • 会員に直接流すのは論文だけではない。学会の情報発信戦略自体考える必要
    • しかし日本の学会は人・モノ・金が欧米より貧弱
  • ものごとは一度流行る⇒「やっぱ駄目じゃん」⇒実力で少しずつ伸びて行く
    • モバイルやePubはどこにいる?
    • 林さんの感覚的にはいよいよ来てはいるだろうが、また「やっぱり・・・」と落ちるところもあるのではないか
  • 学会の存在意義
    • 研究者がいる限り学会はなくならない
      • 運用の担い手は変わるかも?
    • 既存の学会が進化すればいいが・・・
      • 図書館員が機関リポジトリ等を通じて変わる可能性も
      • 大手商業出版者も学会機能化。三田でも話したが*1あらゆる情報を持つ学会が研究者にサービスし出すと学会機能になる、そこが読者に直接サービスし出したら・・・
    • 学会・・・中世ヨーロッパで保守的な大学に反発した知識人が各々で集まって情報交換を始めたのが起こり
      • ここにKeyがある

ディスカッション

  • 永井さん:林さんの話は今のフロントライン。ある商業出版は次のステージを考えていて、研究者と学生の間の学術コミュニケーションを考えているという。図書館としてはいかがか? 機関リポジトリのことも触れられていたが・・・
  • Q:林さんのお話の中でワンソース・マルチユースの話があったが、著者校正からPDFに戻るところに無駄があるとのことだが、PDFからXMLを書き変えるシステムがあるという話かとりたいしたが・・・
    • 厳密に言うとXMLそのものではないが、XMLに良く似た・・・開くと画面左に組版画面、右にXMLが出てどっちかを編集すると他方にも反映できる仕組み。以前からソフトはあったが、以前は高くて大手のものにしか使えていなかった。その値段が下がってきている。話分についてはInDesignプラグインがどれくらい対応するか
  • 永井さん:8月には図書館側から学会に向けて、今度はリポジトリの話を是非したい。そういうご講演をお願いしたいと思う。次のSPARC Japanセミナーは7月6日で、John Haynes氏に海外の現状を話していただく。通訳も入るので是非来ていただければ。



日本の学会が出している学会誌について、具体的な業務の内容やビジネスモデルに踏み込んで色々とお話がありましたが・・・
うーん、内製と委託の話とか、委託の場合でもお金を持っていかれるので利潤を得るのはかなり頑張って交渉しないときついこともあるとか、そのあたりはなんとも悩ましそうですね。
大きいプラットフォームに載っていれば目につきそうな気もしつつ、一度手放すと再度取り戻すのは困難と言う林さんのご指摘もあり。
内製する場合でもワークフローとXML作成の問題等、興味深い話(でもSPARC Japanではずっと言われている問題ですね、XMLは)もあり・・・
リポジトリについても今はあまりこのあたり話題になっていませんが、紀要電子出版と言う点ではそのうち重要な問題になる可能性もありうるところでしょうか。
逆に言えばそここそ(後でいろんな目的に使いまわせるソースがきちんと作られている、それも組織化されたものである)が専業でやっている人々の強みとなり得るとも言え、出版者(学会あるいは商業出版いずれにせよ)が必要な要因としてあり続けるのでしょうか。
それとも案外、図書館でもさらっと対応してくる?


第3期SPARC Japanは学会、図書館、研究者の対話の場と言うことで、永井さんのお話にもありましたが8月には図書館員からリポジトリについて話す機会も設ける予定であるとか。
期せずして3日連続の自分のイベント記録も商業出版系、大学図書館、そして今日の学会と学術情報流通に関わり得る3者それぞれの動向を見る機会となったわけですが・・・
最後の方の林さんのお話にもありましたが、この3者、役割がこれからかなり交錯していきそうですよね。
電子化はじめ急速な時代の変化に対応するなかで各々のポジショニングがどうなるのか、学術情報流通の在り方の議論として今後も注目していきたいところです、とかなんとか。