「日本の大企業にはGoogle、Amazon、Appleの恐ろしさを知らない無垢な人が多すぎる」/「図書館は国会図書館がやってくれないと自分ではできないと考えている?」・・・「再編される出版コンテンツ市場と図書館の役割」:三田図書館・情報学会第144回月例会
『ブックビジネス2.0』が発売されましたね!
- 作者: 岡本真,仲俣暁生,津田大介,橋本大也,長尾真,野口祐子,渡辺智暁,金正勲
- 出版社/メーカー: 実業之日本社
- 発売日: 2010/07/16
- メディア: 単行本
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自分も遅ればせながら本日、購入してきました(まだ読んでいません(汗))。
この本に限らず何かと電子書籍・電子図書館が話題になることが最近多いですが、今月の三田図書館・情報学会の月例会も角川書店の新名さん、『出版流通合理化構想の検証』等の著書でも知られる湯浅先生のお二人を招いての、電子書籍関連のテーマについての会でした。
演題:再編される出版コンテンツ市場と図書館の役割
- 概要:
新しい電子書籍リーダーの発売が多くの関心を集めています。また,文芸書の新刊が電子書籍で発売され,デジタル雑誌の実証実験がおこなわれるなど,日本の出版流通業界にも大きな変化が起きようとしています。このような状況で,図書館が果たすべき役割も見直しを迫られています。
この研究会ではΣブックが発売された時代から一貫して電子書籍に関わってこられた角川書店の新名氏と,出版コンテンツの変容を絶えずフォローし,図書館に求められる役割を提言されてきた湯浅氏を講師に迎えます。そして,電子書籍ビジネスの現状と課題から,出版界と図書館界の連携の可能性まで,幅広くお話しいただく予定です。
ディスカッションでの新名さんのAmazonに関するお話が大変刺激的でしたが、それに限らず新名さんからは角川書店自身の状態も含めて数字を大いに取り入れたご発表があり、湯浅先生からは今こうして電子書籍が話題になる以前からの流れも踏まえてのお話があってと、とても面白い会でした。
以下、いつものように参加記録です。
なお例によってmin2-flyの聞きとれた/理解できた/書きとれた範囲の記録ですので、ご利用の際はその点ご理解願います。
お気づきの点等おありの場合はコメント欄などでご指摘いただければ幸いです。
では最初に角川書店の新名さんから、出版界で今起こりつつあることについてのご紹介です!
「電子書籍の現在:2010年、出版界に何が起きつつあるのか」(新名新さん、株式会社角川書店常務取締役)
- 自己紹介
- まず現在の出版業がどうなっているかについて
- 角川書店に限ると・・・
- では、角川の電子出版でどんなものが売れている?
- まず売っているものは・・・
- そのうち強いのはメディアミックス作品
- コミックスの大人買いが多い
- 場所を取らない。全26巻あるようなコミックスをまとめて買っても、PCの中なら問題がない
- 対面販売ではない・・・官能系が強い
- ハードな官能系は角川では出していないが、BL(男性同士の恋愛を描いた小説・コミックス)が売れている
- 20〜30代のインテリ女性がほぼ120%。この中にも読んでいる方がいるかも。ご愛読ありがとうございます。
- 対面書店だと買いにくい、というようなものは良く売れるよう。ただしケータイを中心に、色々なところから社会的に問題視する声も。売り場を限ったり、子供がアクセスできない仕組みを作ることを業界としてもやっている。一方、官能系を置かないことを売りにしている電子書店も
- 電子出版の特色を活かした企画
- アニメ・コミックの部署が強いこともあり、声優にも強い人気。今や紅白にも出るし、音楽のベスト10の3〜4本はアニメ主題歌
- そこで声優が実際に声を出してくれる、声優写真集を企画して出した。非常にヒットした。
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- 紙の本では声が出ないが電子書籍なら出る。良く売れた
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- 電子出版をめぐる環境
- 実は電子出版にも取次がある!
- 出版社系業界団体
- 日本電子書籍出版協会
- もとはテキスト系だがコミックスの会社も今は入っている。三省懇談会等によって電子書籍の普及の障害を取り除いたり
- デジタルコミック協議会
- コミックス系34社+業者4社で同様の問題を扱う
- ほかにも電子出版関連団体は色々ある。色々なところが団体を作っている
- 日本電子書籍出版協会
- Amazonの動向1:なか見!検索
- Amazonの動向2:Kindle
- ちょっと古いデータだが全世界で300万台以上売れている
- Kindle2で200ドルを切るくらい
- e-inkによって書き変え時だけ電力を使う。読むだけなら1度の充電で1週間は持つ。10時間しか持たないiPadは毎日充電しないといけない
- Kindleを一番買ったのは60代男性。次いで50代、70代。アメリカは高齢者が中心にまず購入
- 字が大きくできるから?
- 最初から42万冊以上のタイトル数。新刊ベストセラーも発売と同時にどんどん投入
- コミックスは難しい?
- ページ送り速度と解像度の問題。通常版Kindleでコミックスを読むのは辛い?
- 英語圏以外で一番、Kindleを買ったのは日本人。日本人のデバイス好きの表れ?
- Amazon Japanでは来年には日本版を出したいとも
- 2009年のクリスマスには一瞬だけ、電子書籍の売り上げが紙を超えた
- うわさに過ぎないが・・・アメリカではAmazonがKindleを無償配布するのではないか、との根強い噂
- ロイヤリティ70%のオプション
- 電子書籍は非再販商品。価格決定権はAmazonに。
- ちょっと古いデータだが全世界で300万台以上売れている
- 結論として:出版社の直面する問題
- 編集者・・・紙が電子になるだけなら問題ないが、新しいタイプのコンテンツの登場に対応できる人がいない
- 活字と動画・音楽を組み合わせて何が作れる? それを誰がプロデュースし編集する?
- 日本では紙と電子が何年後にどれだけ置き換わる? どちらにどれだけ投資すればいい?
- 新しいコンテンツのプラットフォームとしては書籍は有効
- 映画・音楽を聞きながら/見ながら何か調べるとき、映像・音楽を止めて調べるのは考えにくい
- 書籍は手を止めて探すことがやりやすい。新しい時代のコンテンツのプラットフォームとして力を持つのでは? 書籍はそういうプラットフォームへ
- 製作現場は結構大変なことに
- 営業が一番大きい
- これまでの出版社の営業は初版部数決定、価格決定、書店への販促が仕事
- 電子書籍には初版部数も重版もなく、価格は出版社は決められない。営業の仕事がなくなる
- 営業はどうしよう?
- 編集者・・・紙が電子になるだけなら問題ないが、新しいタイプのコンテンツの登場に対応できる人がいない
- 最後に・・・『クラウド時代と<クール革命>』の紹介
- 社長が書いた本。はらはらしつつ編集したがいい本なのでぜひ
- 作者: 角川歴彦,片方善治
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/03/10
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「再編される出版コンテンツ市場と図書館の役割」(湯浅俊彦先生、夙川学院短期大学准教授/国立国会図書館納本制度審議会委員)
まず問題意識から:
- 2000年には『デジタル時代の出版メディア』という本を出版
- 作者: 湯浅俊彦
- 出版社/メーカー: ポット出版
- 発売日: 2000/08
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- では、2000年の湯浅の主張は外れたか?
- 2010年現在、ふたたび本を書こうと考えているが・・・
- 電子出版前史、書誌情報・物流情報のデジタル化についても研究
- 『出版流通合理化構想の検証:ISBN導入の歴史的意義』
- 作者: 湯浅俊彦
- 出版社/メーカー: ポット出版
- 発売日: 2005/10/06
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-
- ISBNにまつわる図書館・出版社の問題、当時の歴史を検証してきた
- コンテンツの電子化の前に書誌情報・物流情報電子化の流れがあり、そのとき既に「書誌データベースへの疑問」というようなコンテンツ自体がデジタル化されるという論考も
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「IT革命としての電子出版」
- では講談社の経営実態は?
- すべての売り上げが前年比で落ちてる
- 14年連続減少。7年前には戦後初の赤字決算といっていたが、そこからさらに500億円近く落ちている
- 雑誌の販売不振と広告モデルの変化
- インターネット広告はクリックされれば関心のある顧客を捕まえられるが、雑誌、新聞、テレビの広告は効果があるのか?
- もし経済状態が改善しても再び雑誌が売れるのかはわからない
- 雑誌自体は休刊してもデジタル版等で広告枠を残さないといけない
- 次々挑戦してはうまくいかない
- 日本ABC協会による統計にもデジタル雑誌が登場
- デジタル雑誌コンソーシアムが2010.1-2に実証実験
- インターネット広告はクリックされれば関心のある顧客を捕まえられるが、雑誌、新聞、テレビの広告は効果があるのか?
- すべての売り上げが前年比で落ちてる
- 各端末・サービスの話
- 出版社の取組み・・・
では図書館は? 新たなプロバイダーとしての図書館
- 電子出版と電子図書館
- Ariadneについてもそうだった・・・
- 当時100タイトルくらい電子化して、「今後どんどん増える」と言っていたがそんなことはなかった
- 出版業界は図書館にデータを渡すとただでとられると考えている。だから進まないが、長尾先生は諦めていない
- もし出版社の許諾の下にAriadneが進められていたらGoogle登場以前にかなりものができた?
- 日本の電子書籍を阻むもの:
- (1)テキスト化の課題
- (2)本の権威
- (3)独立系の出版社が多すぎる
- (4)品切れ放置の商慣行
- 「重版未定」や「重版検討中」など。「絶版」にすると著作権者が怒ると言うこともあるが・・・出版契約上の欧米との文化の違い
- 国立国会図書館の新たな挑戦
質疑応答(強調はmin2-flyによります)
Q:新名さんへ。図書館とのかかわりについても幾つかご意見あるかと思うが、何かあれば。
A(新名さん):
出版社はこれまで複本問題をめぐって、大手は特に図書館と矛を交える関係。我々も対策委員会を作ったことがある。
それも出版界が図書館に対して警戒心を持っていることの基盤になった。
長尾プランについても、私個人は面白いとも思っているが、出版界の中で意見を聞くと「そこを委ねてしまって、その後のプラットフォームの歯止めはどこまで行くのか?」ということを警戒している人が多い。
それを煽った図書館関係者もいる。
「図書館法はすぐ改正できるが著作者隣接権はすぐには・・・」みたいなことをおっしゃった方がいて、感情的な対立も生んでいる。
また、民業圧迫の部分については、あの部分をやりたいと考えている出版社もある。
しかしそれがAmazon、Apple、Googleの勢力に対抗できるものが作れるかは、個人的には非常に疑問でもある。
Sonyや凸版、朝日新聞、KDDIが組んで電子書店をやりたい、紀伊國屋が電子書店をやりたいという話があって、コンテンツを出してほしいと相談もある。
いかに業界のトップブランドが組んでも、Amazon一つにかなわないのではないか。
象徴的なのは、コンテンツを集めたいということでSony、KDDIが通信とハードウェアを担い、凸版と朝日新聞がコンテンツ集めを担当するということで朝日新聞の人が来た。
朝日新聞から来たのは書評の担当であった人でもあるが、そのとき半分からかい、半分本気でいったのは、「朝日新聞は大企業だと思っているだろうが、零細である我々から見たら朝日新聞はAmazonより小さい。本当に(朝日新聞で)できるの?」と言ったら絶句していた。
日本の大企業にはGoogle、Amazon、Appleの恐ろしさを知らない無垢な人々が多すぎる。
仕事でそれらとやり合うことは多いが、例えばAmazonのKindleで最初から大量にデータがあったのは、あれはAmazonが作ってくれとお願いしたって出版社がやってくれるわけはない。
じゃあなんで出来たかと言えば、print on demandのためのデータというのものがアメリカでは最初からあった。
そのデータを、日本の出版社や書店なら品切れ重版未定のために使うと考えるだろうが、Amazonは違う。
Amazonは例えばダヴィンチ・コード発売時に10万部買ったとして、1週間持つだろうと考えていたのが3日で売り切れたとする。
そこでもし出版社にも在庫がなければ、Amazonは迷わずprint on demandで刷って売る。
そのprint on demandの本にはISBNも入るし、print on demandであることは読者に明示しない。
さすがにpaper backに限られているし、print on demandの方が原価は高いが、そうすることで「Amazonに品切れはない」というブランドを作る。
そのためのprint on demandデータがアメリカの出版社にはあって、それがKindleに流された。
だからKindleには最初からデータが大量にあって売れた。
こういう発想を日本の出版社は持てるか? そういう相手と一戦交えようとしているのを朝日新聞の人たちはわかっているのか?
Q:千代田のWeb図書館の現場を担当している。単館でコンテンツを増やそうと思うと難しいものがある。今度、日比谷図書館でもWeb図書館をやり、かなりのブランドになると思うのだが、出版社の間では公共図書館を新たなマーケティングツールとするような戦略はある? 日比谷のバックにはDNPもいるので面白い展開にもなりそうだが・・・
A(新名さん):
図書館の電子書籍で一番ネックになるのは著者。
著作者隣接権が出版社にないので、我々の一存でなかなか動かせない。
図書館との対立との話もあるが、出版社はまだビジネスの観点でものを見るが、著者は一個人なので感情でものを見る。
「図書館のせいで売れない」とか思いがちで、我々が話を持って行っても「うん」と言わない。
マーケティングツールに図書館はなると思うが、そこに至るまでに著作権者の意識改革をする必要がある。
A(湯浅さん):
他の公共図書館の館長と話す機会もあるが、NDLがなにかやってくれるならできるが自分たちではできない、という発想がある。
一方で社会教育委員会や市議会では「iPad時代に図書館はなにしてるの?」とも言われて困ると言う。
コンテンツをもっと増やすことが千代田等でできなければよそに広がることもないだろう。
・・・いや、ディスカッションでのAmazonの話が面白くてそれまでに考えたことがかなり吹っ飛んでしまったのですが・・・
Print on demandを、絶版本のために使うのではなく品切れで重版が間に合わない新刊本に使っていたとか。
しかもそのデータを電子書籍用に使いまわすとか。
なるほど、そいつは「そういう相手と一戦交えようとしているのを朝日新聞の人たちはわかっているのか?」との疑問もわかります。
同人界隈におけるダウンロード販売の普及っぷりとか*6、本じゃないけどYouTubeと棲み分けて独自に展開できているニコニコ動画のことなんかを考えると、依然、日本語と言う言語の壁がある日本で独自に商売成立させるってのは決して無理ではないはず。
無理ではないはずですが、とかくコンテンツ数を揃えないことには話にならないわけで、そこで日本の出版界隈のこれまでの慣行(契約等を結ばない)ってのが・・・それ自体は、逆に出版社から著者の権利を取り戻そうとしているオープンアクセス業界のことを考えてみても決して悪いことではないのですが・・・ネックになっている感じが伝わってきました。
新名さんのお話の中で電子書籍販売サイト数の多さが紹介されていましたが、いやいや、フォーマット等が統一されていない今の状況でそんなにあるのは収拾つかなくなるだけでは感も(汗
大きなところが本気で日本語で売ってきたらまとめて吹き飛ばない?
あとは、後半で話題になった長尾プランについて。
自分は参加するイベントの傾向の関係もあって、出版業界の中でも比較的長尾プランを肯定的に受け止めている方とお会いする機会が多いのですが、業界全体としてはやはり批判と言うか、警戒感を抱かれているのですね。
それを図書館関係者が煽って悪化させた、と言われてしまえばなんとも・・・危機感を煽って「一丸になってなんとかしよう!」という方向に行くことを期待したケースもあるかとは思いますが、お互いdisりあって対立してしまえばどうにも話が進まなくなってしまいますね・・・うーむ。
色々考えるところはありますが、すぐにはまとまりそうにもないですね。
ただ、最後に湯浅先生からあった「NDLがやってくれないと」という発想、あるいは「誰かがやってくれないと」という発想、という点は興味深いようにも思います。
もちろん予算の制限も時間の制限も人の制限もあり、単館レベルで出来ることには限りがあるのは当然とも思いますが、他方で業者にただ「やって」とお願いするだけでコンテンツが増えるんだったら今までの電子書籍関連サービスが「いつか来た道」呼ばわりされることもなかっただろう、というのも確かで。
湯浅先生から「やるなら日本の図書館全体で出版界に頼まないと」というご発言もありましたが、なんらかの形で出来ることがあるなら模索していかないと、他者任せで状況の変化に対応するのに追われているだけだとどうにもならんのかな、とかなんとか。
未来は自分の手で切り開くもの。
そこでNDLが自ら動き出したところは評価に値すると思うのですが、あとは出版社とどう友好関係築きうるのかですかねえ・・・*7
*1:Amazonでは売り切れ・マーケットプレイスにもない様子。NDL-OPACの書誌情報は次の通り:国立国会図書館オンライン | National Diet Library Online
*2:
*3:
*5:No.11 電子書籍の流通・利用・保存に関する調査研究 | カレントアウェアネス・ポータル
*6:そういえば最近自分が買った18歳未満が買えない本は全部ダウンロード購入ですね・・・
*7:築かないでやっちゃえ、といけるような規定も我が国にはないわけですしねー・・・