「電子ジャーナルと機関リポジトリ、オープンアクセスの根っこは一つ、学術情報流通の問題」・・・国立大学図書館協会北海道地区協会セミナー「次世代ライブラリアンシップのための基礎知識」第2回参加記録
既に5日ほど前の話になってしまいましたが・・・日本図書館情報学会研究大会の前日に北海道大学で開催された国立大学図書館協会北海道地区協会セミナー、「次世代ライブラリアンシップのための基礎知識」に参加してきました!
プレ・オープンアクセスウィーク*1イベントとのことで、OA week2010関連では日本で最初の催しでしょうか?
「次世代ライブラリアンシップのための」とある通り、現職の図書館員の方向けのセミナーであり、国立大学図書館協会北海道地区のイベントでもあるのですが、道内からは国立大学だけではなく公立・私立大学からも、あるいは日本図書館情報学会前日という日程もあってか現職の方だけではなく研究者の方も(自分以外にも)参加される等、大変盛況でした!
かつ、講演者の方々のお話も大変刺激的なものであり、加えて会場の立地(日当たり良好ガラス張り)もあって、10月の北海道とは思えない熱気あふれるセミナーでした! 正直暑かった。
以下、いつものようにイベントの記録です。
なお例によって例のごとく、min2-flyの聞きとれた/理解できた/書きとれた範囲でのメモ、かつ今回については「公開しても問題ないと判断した」範囲でのメモですので、ご利用の際にはその点ご理解のほどお願いします。
誤字・脱字、事実誤認、「いやここは公開するとまずい」という部分などお気づきの方は、コメント欄等にてお知らせいただければ幸いです・・・あ、最後の部分はコメント欄だとまずいですね、プロフィールにメールアドレス書いてあるのでそちらにご指摘願います。
では、まずは静岡大学附属図書館の加藤先生から、研究者視点でのオープンアクセスとビッグディール、そして図書館員に求めるもののお話です!
講演:「オープンアクセス,ポスト・ビッグディール,大学図書館」(加藤憲二先生、静岡大学附属図書館長)
最初に・・・静岡大学附属図書館リニューアルの紹介
- ラーニング・コモンズ的なグループ学習スペースを作ろうというのがメインだったが、館長室を潰して入口にギャラリーを作った
- あとは同じようなラーニング・コモンズスペース
- 思った以上に良かったことが2つ。入館者数が増えるのは予想通りだが・・・
- 若い先生が勝手にゼミをやってくれている。課長と館長でそういうことが起こるためにどうしたらいいか考えていたら、もうやっていた
- その周りでは平気で自分の学習をしている。これが一番望んでいた姿
- 日本の講義のセンスは50年以上古い。自分の講義を見せたがらない、それでかえって強制的に授業評価されたり軋轢が起こる
- オープンにすれば評価もなにもない。面白ければ人が聞きに来る
- 2010.4に開館してから3〜4名の先生が既にゼミに使ってくれている
- 他に静かに使えるスペースも。博士課程の留学生が論文を書くスペース。
- もう1つの予想外の良かったこと・・・図書館職員が自信を持った
- 自分たちがお金を持てばなんでもできる。教員・学生とのインタラクションも
- 思った以上に良かったことが2つ。入館者数が増えるのは予想通りだが・・・
- 今日の最大のメッセージ・・・ライブラリアンにとっての創造性とは? 創造的な仕事ってなんだろう?
- ルーチンワークじゃない、新しい、日本の厳しい状況を開くには皆さんの力が必要
- Bergstromの論文がら
- 医者はだいたい患者よりも患者の状態とどうしたらいいかがわかるだろう。
- 教員は学生が何を勉強したらいいかだいたいわかる
- 図書館員はそのようなアドバンテージを欠く
二つのオープンアクセス
- オープンアクセスジャーナル(雑誌全体のオープンアクセス)
- 2,000ドルくらい
- 著者の選択による論文ごとのオープンアクセス化
- 形は同じだが基本的な考え方はずいぶん違う
- 著者選択を実施している雑誌は5,000以上ある
- その時に要求される価格は3,000ドル. 1論文で30万円弱
日本微生物生態学会の場合
- 7-8年前に英文誌を創刊。JSME(Journal of Microbes and Environments)*2
- 完全フリーOAジャーナル
- 学会数は1,000人くらい。会員は若くアクティブ。
- 2001年に英文誌化。複数社から誘いが来る
- 新しくてマイナーだったので科学研究費の助成金を貰えなかったが、4-5年格闘してトムソン・ロイターのIFをつけて貰った。最初から2を超えていて悪くない数字
- そうすると科研費の出版助成も来た. 国のスタンスとしてOAをサポートする、ということも加味されたかもしれないが・・・
- 年間300ページ、45論文、経費450万円(1本10万円)、学会員の負担だけで成り立っている
- これが可能な理由は単純. ただし大手出版との間でその理由の部分がおかしくなっている.
- 論文は作るのも査読もボランティア. 学会の編集委員長もボランティア.
- 海外出版社も査読も編集もボランティア. チーフ・エディターは給料・活動資金が出る.
- JISCが英国人が査読と編集にかけているコストを金額で出した.
- 論文1つの査読に3-5時間. 編集も真面目にやれば週1日は潰れる. それを積算すると膨大な金額に.
- 大手はチーフ以外にはお金を払わない. その上で成り立っている. もう少し謙虚になった方がいい、と出版社には伝えている.
電子情報の発信・コスト
- OA論文はよく読まれる. 「お金を払って読ませる」へのシフト
- 電子ジャーナル, OAが広がっていることで、インパクトファクターの世界で軒並み水増し現象が起こるのではないか?
- ろくに読まずに引用する・・・統計的に処理されて被引用数が全体に水増しされる
- そのインフレーションにより徐々に価値がなくなってくる
- 2-3年で見え始めるのではないか?
- 論文の検索・・・学生はあまり先入観を持っていない
- 出てきた順番に読む
- ファーストアクセスのものから読むとなると・・・publisher, 名前の品質保証の価値が薄れる
- 本人たちの考えはわからないが、Natureは読み間違えていると思う
- Natureの中で全部完結するように動くのはインフレを加速するだけで、インパクトファクターの価値が貨幣価値がなくなるようになくなるのでは?
- じゃあどうなる?
- 雑誌の表紙の価値・出版社の品質保障ではなく、個々の論文がどうか、ということに行く可能性がある
- 一研究者として考えていること
- 雑誌の表紙の価値・出版社の品質保障ではなく、個々の論文がどうか、ということに行く可能性がある
大学は情報の受発信にどのように金を使うべきか?
- オープンアクセス権込みのビッグディール契約・・・
- SpringerとMax Planckでやったが、うまくいかなかった
- Max Planckの規模ではうまくいかないのは当然。規模が大きすぎて誰が専属スタッフかの特定から問題
- 日本の場合はやりやすい。体力のある大学ならこのモデルの可能性はある?
- ICOLCの期間中に出版社と話をしたところ、可能性はあるとの考え
- 著者選択のOAは、基礎科学に馴染むのか?
- 東大で平均1人あたりの外部資金獲得は多分800万、北大で300万? 静岡は100万
- 1本30万で学生数人抱えていたら100万ではやっていけない
- 払える研究室とそうではない研究室の格差が広がる
- 加藤先生は・・・去年はバブル、今年は貧しいお父さん
- author's choiceのある雑誌に3,000ドル出すよりは学生に何か買ってやった方が・・・と思ってしまう
- いけいけの国、機関とそうでないところで差がつくのはまずい
- 東大で平均1人あたりの外部資金獲得は多分800万、北大で300万? 静岡は100万
- <研究>はもっとフェアに、本当にかしこい奴が「かしこい」と評価されるべきではないか?
- 研究、あるいは研究者集団の品位
- 某社の雑誌に日本の全科学アカデミーが出している論文の割合は10%⇒8%に落ちる
- 「オーストラリアは留学生の獲得に熱心だが日本はどうする? 日本はshrinkするんじゃないか?」
- それに対する加藤先生の答えは日本の「研究、あるいは研究者集団の品位」.
- 某社の雑誌に日本の全科学アカデミーが出している論文の割合は10%⇒8%に落ちる
- 中国の台頭と日本の地位
- 相対的な日本の地位は下がる
- 絶対数も減っている(by トムソン・ロイターのグローバルレポート). 法人化の影響?
- 時間は当然なくなる. 若い人がそうならないよう気をつけてはいるが、日本の絶対数が伸びないのはそこも影響?
- これは真剣にしかるべき人が考えないといけない問題?
- 数が出ればいいわけではないが、アクティビティの指標ではある
日本からの学術情報発信の近未来
- 究極的には、日本はpublisher(学術出版者)を持てなかった国
- 世界文化の中で戦略がなかった
- 全人類の2%しか使わない日本語が母語であることは問題?
- 何十年やっても英語に差はあるし、書くスピードが違う. 日本語なら聞いてなくても人の話がわかるが・・・
- しかしドイツ語は? スウェーデン語は? 文法や文化圏は近い等の理由もあっても、きっちりやっている
- 皆さんもこれからおくすることなく立ち向かってほしい。わからなければ「わかるように言え」と言えばいい。ネイティブにはその責任がある
- 時間をかけて議論ができないところは厳しいが、そうではない世界では色んな場でもっと発言しないと
- もっとICOCL等の海外の場に、図書館員も云ってほしい. 何がどうなっているのか. お友達を作って、峻険として欲しい.
- 色々な形で日本が見えていくように.
- ICOLCでフランスのコンソーシアムと話す機会があった. フランスはコンソーシアムを3人でまとめている. 電子ジャーナルのバックファイルに取り組んでいる.
- 誰かが、ではなく1人1人が感触を持つこと. 仲間で一緒に向かっていく必要.
- UKでは研究者の労働を対価に変えてみて、という結果を紹介いただいたので近々発表されるはず.
- ただし、研究者もまずい
- 「追いつけ、追い越せ」の文化・・・学問としっかり向き合う教育をしていない
機関リポジトリとオープンアクセス
- リポジトリと電子ジャーナルでやっている人が分断してしまっていない?
- なんとかつなげたい
- publisherの雑誌に関するフェーズは混沌としているが、いきつくところがオープンアクセスだとすると、リポジトリとジャーナルの話は凄く近い
- Open accessは論文の流通力強化
- リポジトリに取組んでいる側にとってはオープンアクセス雑誌は簡単でいい
- どんどん蓄積される
- 「どこからでもアクセスできるんだからリポジトリに入れる必要はないのでは?」と言う人が出る
- 正しいが、「違うんです」と言わないと次がない
- Googleのロボットがなにかを拾うためにはどこにあってもいい. 雑誌の方に最初に行くかも知れない. それでいいんだろう.
- その研究者が本当はどんなことを出来ているのか、という全体像を知る必要も必ずある.
- 加藤先生が大学院生だった25-30年前は1論文ではなく、できる人の論文を何本か読んで、思考方法を学んでいた. 「なんでこんなことを考えた」を知るには前の論文を読む必要がある
- scienceは1人の頭から出るもの、究極的に. その意味でもしっかり作っていきましょう
研究者にとってのリポジトリの意味
- 専門はそれぞれの先生に任せる、は、やめませんか?
- 日本の中に「この分野はこの人」という図書館員を
- 研究者は自分の世界を守ることが第一. それが研究を進めている、実際は. 特に40-50代の研究者は.
- 学内で2人の先生が争ったら、判断するのは図書館員. 理事にも図書館長にも出来ない.
- 予算のせめぎ合いの中での雑誌の選定等だけではない.
- 某社の副社長との話・・・Big dealの中にあるlong tailを、切らない
- 「次にこの中から何かが出てくるのを待っている」
- 市場原理に依存すれば、正しい. しかしScienceは市場原理に任せていい?
- 市場原理は短い. 漠然とした危機感を研究者が持つのは、全体がそれでいいのか、日の当らない分野が痩せていいのか?
- 「数学なんて100万年後に役に立てばいいんだ」という言葉. 市場原理だけでは駄目
- とはいえ、研究者に任せると「自分が一番」. いいこともあるがろくでもないことも.
- professionalがlibrarianの中で育って、日本の中でleadするくらいに育って、「この分野はいいんじゃないの?」みたいな話をして欲しい.
- その関係の研究者たちとも立ち話をして、その教授がなんというかも見て欲しい.
- professionalがlibrarianの中で育って、日本の中でleadするくらいに育って、「この分野はいいんじゃないの?」みたいな話をして欲しい.
- 「次にこの中から何かが出てくるのを待っている」
どこから手をつける?
- いやしくも大学ならば・・・文献検索の格差は好ましいことではない
- そのためにやるべきことは・・・セーフティネット作り. それが図書館の仕事.
- 大きな大学を中心に、バックファイルの購入などを個別の財産ではなく、ILLとしてつなげないと.
- 電子情報を紙としてつなげても仕方ないが、publisherはnational licenseでない限り頷かない
- 理想としてはnational license目指して頑張るべき? ドイツができたことが日本ではできないor時間をかければできる?
国立大学図書館という資産をどのように活かすか?
- Publisher、研究者、図書館
- 研究者のまとまりの弱さが問題
- 韓国でも小さい学会が乱立. ワシントンはまとまっている. 日本では化学と物理学はまとまってきているがまだ弱い
- 研究者集団をまとめる役割が大学にはあり、その仕事が図書館の仕事の一つに
- 図書館は横につながりがあり、それが力になる
- 研究者のまとまりの弱さが問題
クリエイティブな仕事を:
- 大変だと思うが、大変な中に人生がある
講演:「わたしを眠らせない7つの難問〜電子ジャーナル契約の諸相・続」(尾城孝一さん、東京大学附属図書館情報管理課長)
最初に
- 前回(今年はじめ)と同じく電子ジャーナル契約の諸相の話の続き
- 同じ話をするのはなんだが、9カ月で事態が劇的に変化したわけでもない
- なんとか前回と違った切り口で・・・と考えている
- 今日の内容は国立大学図書館協会の特別委員会の検討内容と個人的な考えが混じり合っている
- あくまで特別員会の公式見解ではなく、個人的な考えとして聞いてほしい
- タイトルの元ネタ:カレン・ハンター『私を眠らせない12の難問:電子学術雑誌をビジネスにするには』*3
- 電子ジャーナル契約の難問・・・次から次へと思いついてしまう
- 最終的に7つにまとめるために何日も眠れない夜を過ごしてしまった(笑)
第1の難問:電子ジャーナルは学術情報の基盤となりえているか?
- 国立大学の雑誌受け入れ数の平均・・・
- 洋雑誌の冊子受入数は1990年代を境に激減
- 電子ジャーナルはコンソーシアム活動が始まった2000年代に急激に数を増やす、2008年には大学平均7.318種類のジャーナルが読めるように
- タイトル数急上昇の要因・・・ビッグ・ディールの積極的取り入れにあることは間違いない
- 国立大学規模別(学部規模別)の雑誌受け入れ数の推移・・・
- 洋雑誌の冊子・電子ジャーナルの和を示している
- 電子ジャーナル登場前の格差は1:10くらいあった
- 電子ジャーナル導入で1:3まで格差は縮まっている.
- 国大図書館協会のコンソーシアムが立ちあがったとき・・・
- 大学間の情報格差是正を目標の1つに掲げてきた
- 数字を見る限り、紙の時代に比べて電子ジャーナルの時代になって大規模大学と中小規模大学の格差は急激に縮まったことがわかる
- アクセスできるタイトル数は増え、格差も縮まっている
- 国立大学の電子ジャーナル利用環境は素晴らしい状況にある
- 電子ジャーナルの利用・・・2007年のSCREALによる実態調査
- 化学、生物学、医歯薬学では半数以上の研究者がほぼ毎日、電子ジャーナルを使っている
- 人文社会系でも2001⇒2007で4倍くらい利用者が増えている
- 年齢による差がなく、20代でも50代でも同じように電子ジャーナルを使っている
- 電子ジャーナルは今や学術研究を支える上で不可欠な基盤を築いている!
- しかしながら・・・その基盤は本当に盤石か?
- ある年以前のコンテンツはバックファイルとして別売りされている・・・買った大学は今後も安心してアクセス
- カレントファイル・・・毎年の契約の対象
- うち、購読誌・・・冊子体から買っていた雑誌. キャンセル後も、買っていた期間の分のアクセス権は大学に残る
- 非購読誌・・・冊子体は買っていなかった雑誌. ビッグ・ディール契約をしている限りのアクセス. キャンセル後は、何も残らない.
- おまけで見えているもの、試供品. このアクセス権が危うい状態にある.
- コレクションの弱体化?
- 短期間にアクセス権が飛躍的に伸びたのはビッグ・ディールのおかげ
- ビッグ・ディールは大手に偏った、ゆがんだ雑誌コレクションができて、単発の優れたジャーナルのキャンセルが進む、との指摘
- この問題は現実に起こっている. 日本物理学会の調査によれば・・・2002⇒2006年で中小規模大学で大手出版社の雑誌が増え、アメリカ物理学会の雑誌が減り、大規模大学でも日本物理学会等の雑誌が減少
- 見かけ上のタイトル数は増えているが、その陰でビッグ・ディールに含まれない、本当に必要な学会誌の購読が中止されているかもしれない??
- 地方中小大学の研究者から必要なジャーナルにアクセスできない、との悲鳴も上がっている. 国立大学では平均7,000以上、電子ジャーナルになって格差も縮んでいるはずなのに、なぜ?
- 先生方が読みたかったのはビッグ・ディールタイトルではなく、単発の学会誌なのでは? それがビッグ・ディールの犠牲になってキャンセルされている?
- 今の電子ジャーナルの繁栄は見掛け上の反映、砂上の楼閣?
第2の難問:電子ジャーナルの価格高騰問題とは一体何なのか?
- 今や社会問題・・・新聞に載ることも
- Library Journalの調査を集計すると・・・
- 海外の自然科学分野の雑誌は毎年平均前年比8%値上がりしている
- しかし値上がりはずっと続いているのに、なぜ一挙に社会問題化したのか?
- 20年くらい前・・・東工大図書館(外国雑誌センター館)で外国雑誌の受入をしていたが、当時の値上がり(毎年10%)に比べると今はコンソーシアムによって抑えられている. なのになぜ、全国的な問題に?
- 紙の時代には・・・研究室が研究室予算で外国雑誌を購読
- 図書館はそれを取りまとめて業者に発注、支払いだけ行う
- 雑誌の値上がりに伴って研究室で買える数はどんどん減る. しかし購読主体が研究室に分散していて、全体の問題と思われていなかった?
- 電子ジャーナル・・・サイトライセンス. 全学的に予算を集約して契約する.
- 図書館がその取りまとめ・調整の役割を担う. 研究室単位に分散・潜在していた価格・予算問題も図書館に集約されて顕在化
- 学術雑誌の価格上昇問題は数十前から存在したが、紙の時代には各研究室の問題だった. 電子ジャーナルの時代になって表に出てきた
- 図書館はプレゼンスを高める代償として価格・予算問題をもいっきに引き受けることに. それが「電子ジャーナルの価格高騰問題」の真の姿では?
第3の難問:どうすれば値上がりは抑えられるのか?
- 値上がりの要因:
- 特殊な商品で代替品が存在せず、競争が存在しない売り手市場
- 論文数は毎年3%程度の割合で増加
- 市場の3分の2を商業出版社が独占
- 価格上昇に対する非弾力的な需要
- 電子ジャーナルの機能開発費用が価格に上乗せされる
- 代替品が存在しない問題:
- 論文数の増加問題:論文数はそんなに重要か?
- 今や論文の内容の判断は読者に任されてしまっている. 大多数は共有知識でも新規の発見でもない. 個々の研究者が質を上げる努力をしないと学術界の信用は失墜する
- 若手研究者は論文数を書かないと認めてもらえない. 対策として、論文の業績リストを研究費申請等に載せるのではなく、関連する質の高い論文数本のみ書かせては、という指摘が岩波の『科学』8月号に掲載される
- 論文の本数によるのではない評価システムがないかぎり、論文の質の低下は続き学問が崩壊する危険がある、との指摘記事
- そうした評価システムがない限り、論文は増え続け、価格も上がり続ける
- 価格に対する非弾力的な需要問題:
- 電子ジャーナルの時代は・・・購入予算が全学共通経費化、1本になる
- 図書館はその予算の調整をする
- ジャーナルを使うのは研究者なのに、電子ジャーナルの契約・支払いをするのは図書館
- 使用者と支払者が乖離する. そうなると、使用者の要求に歯止めが効かなくなる
- 自らの腹が(一見)痛まない(実際は研究費が削られるのだがそれが見えない)研究者の要求に歯止めがなく、「あれもこれも」となる
- 代理人である図書館員はその要求にあらがえない
- それを解決するには・・・全学共通経費システムを洗練させる必要
- 使用者である研究者自身が電子ジャーナルの費用負担をするようなメカニズムを取り入れないといけない
- それは結局は商業出版者の思うツボ
- 電子ジャーナルの時代は・・・購入予算が全学共通経費化、1本になる
- その他の値上げを抑えるアイディア:
- 交渉力の強化のためのプロの交渉人の雇用
- 図書館員に交渉を任せず商社のプロを雇えば安くなる?
- そういうことを云う人はたくさんいる. 大学のえらい先生に多い.
- 電子ジャーナル交渉については図書館員である自分の方がそこらの商社の人間よりよほど経験も知識もある. プライドを傷つけられる意見.
- コンソーシアム連携
- 国立大学図書館協会のコンソーシアムと、公私立大学のコンソーシアムであるPULCの連携を強めて全日本のコンソーシアムの動きは進んでいる
- 連携の第一の目標は交渉力強化による値上げの抑え込み
- 合体すると参加館500くらい、世界第2位くらいのコンソーシアムになる. それを背景に交渉できれば今より値上げが抑えられる?
- 過大な期待は関係者にプレッシャーを与える. 関係者には尾城さんも含まれるので、過大な期待は止めて(笑
- 交渉だけでは5つの値上がり要因を取り除けないことも自明の理. コンソーシアム連携の真の目的は交渉力の強化だけでなく、電子ジャーナルの基盤を作ること.
- ボイコット・キャンペーン・・・ex:カリフォルニア大学 V.S. Nature
- ビッグ・ディールをやめる/オープンアクセスの推進?
- そう簡単にはいくまい
- 交渉力の強化のためのプロの交渉人の雇用
第4の難問:ビッグ・ディールをめぐる真のジレンマとは?
- ビッグ・ディールを継続するには・・・毎年の値上げに追随する必要がある
- やめてしまうと・・・アクセスできるタイトルが激減する
- 図書館が追い込まれているジレンマ
- ビッグ・ディールをやめても大丈夫な中間の道をこの3年くらい検討・模索
- ビッグ・ディールから抜けることは、「選ばないモデル」から「選ぶモデル」への移行
- どう選ぶか、が難しい
- ビッグ・ディールから抜けることは、「選ばないモデル」から「選ぶモデル」への移行
- やめてしまうと・・・アクセスできるタイトルが激減する
- どう選ぶか? 東大でも検討
- なかなか委員会の中でも合意が得られない
- 選定基準は色々ある・・・特に東大のような総合大学では簡単には基準が決められない
- ビッグ・ディールと図書館の隠微な関係
- なんでこんなアヘンのような契約形態を取り入れてしまった?
- 紙の時代・・・雑誌は研究室・研究者が自腹で買ってきた
- 本当に必要な雑誌は利用者が自分で決めてきた
- 電子ジャーナルの時代・・・サイトライセンスへ
- 一定額払うと全学からアクセスできる/経費も全学化/雑誌選定も図書館へ
- 委員会等が決めるにしても、図書館に責任が集まってくる.
- それまで、図書館ははっきり云って主体的に雑誌選定をしていなかった・・・困った
- そこでビッグ・ディール・・・選定問題も迂回でき、アクセスできる数も増え、図書館の存在感も増す
- ビッグ・ディールの本質は「選ばない」こと
- 厄介な問題を回避するための最適なモデル
- 本当の図書館員のジレンマは、「ビッグ・ディールは続けられないが、やめると選定という難問に直面しないといけない」ということ
- あらためて選定・雑誌のコレクション構築の問題に取り組む覚悟があるか、を問われている
第5の難問:ビッグ・ディールからの出口はあるのか?
- バックファイルへのアクセス環境を整えることでうまく抜け出せないか:国立大学図書館協会の模索
- バックファイルの多くは一括払いの買い取り契約になっている
- British Libraryの白書によれば、STM論文でダウンロードされるものの20-25%が5年以上前の論文、SCREALの調査でも6年以上前の論文利用が一定数、Springerのバックファイルの利用も一定数ある
- 国立大学全体の整備状況:
- 海外・・・ドイツが一番バックファイルの整備が進んでいる
- 日本学術会議の提言:
- バックファイルについて拡充を進めるべし、との記述
- バックファイルの整備・・・国の財源で買って全大学からアクセスできるように
- カレント分は各大学に委ねる
- 毎年、バックファイルを買い足すことでカレント分の契約負担をなるべく軽くするように
- バックファイルは国としての学術情報基盤. カレントはそれぞれがそれぞれの特徴に応じて整備すべし、との考えによる.
- 具体的なシナリオ・・・
- 標準バックファイルを国として購入
- カレントとバックファイルの隙間も買う
- カレントは5年に固定して毎年ずらし、毎年できる1年分の隙間を国が買う
- 図書館はバックファイルを可能な限りカレントに近い刊行まで購入する
- その上でカレントの購入をやめた上で、カレントの利用についての基本料金を払う代わりに安めの設定のpay per viewをできるように
- 利用者である研究者自身がそれを負担することで価格の非弾力性の問題も解決
- この方式がうまくいけば・・・選定の難問を回避しつつビッグ・ディールから抜け、価格の弾力性も回復できる!
- 虫のいい案だがまだまだ荒っぽい. もっと洗練させて実現性のある計画にしないといけない.
第6の難問:オープンアクセス誌を無条件に受け入れてよいのか?
- オープンアクセス誌とはいってもコストはかかるのでビジネスモデルが必要
- 著者支払いモデルが増えてきている
- 読者による負担から著者による負担へ
- 完全オープンアクセス誌(全論文が著者支払いモデル)とハイブリッド(著者が選べる)の2つのモデル
- 著者支払いには問題も多い・・・慎重な検討が必要
- 1. OA出版社は信用できる?
- 2. 査読は適切?
- 3. 支払額は適当?
- 4. 誰が支払う?
- 5. 発信面での格差ができる?
- 6. フリーライダーが助長されない?・・・最大の恩恵を受けるのは大手製薬会社、民間企業研究所. 民間企業研究者は論文をあまり発表しない. 新たな製品開発のために人の論文は
読むが発表はしない. そういう人に最適のモデル.
-
- 7. 大学は二重払いを強いられるのでは?
- 8. 商業出版社を利するシステムでは?
- 9. 学問の自由を損なうのでは?
- 10. STM分野でのみ可能なシステムでは?
- Springer・・・2011年から著者支払いによる完全OA誌を刊行する. Wiley-Blackwellも検討中
- 商業出版社は著者支払によるOA雑誌がビジネスとして成り立つと判断した.
- また悩みが1つ増えた・・・
第7の難問:機関リポジトリは学術雑誌の価格問題を解決してくれるか?
- 学術雑誌と機関リポジトリ:排他的ではなく補完的な関係
- 学術雑誌の値上げが引き起こす問題:
- 図書館の財政問題の解決には機関リポジトリは直結しない
- 意義を否定するものではない. 学術コミュニケーションの構造改革に長い目で見ればつながっていく可能性を秘めている.
- 長い目でみないといけない. そのためにもはやりすたりにとらわれず、今後も粘り強く継続して続けていく必要がある.
最後にして最大の難問(おまけ):われわれはSciVerseに対抗できるか?
- SciVerse・・・今年、Elsevierがリリースした新プラットフォーム
- 問題は・・・これにどのようなビジネスモデルをつけてくるのか?
- そこが難しい、というのがElsevierの意見
- 10年前に考えた10年先のシステムのイメージ・・・これを完成させつつあるのがElsevier
- 完全に先をこされた
- ビジネスモデルが出来たら完成. Elsevierの世界制覇の最終形態.
- これに対抗する手段があるか?
パネルディスカッションおよびフロアとの意見交換
パネリスト:
- 加藤憲二先生
- 尾城孝一さん
進行役:
- 山本和雄さん(北海道大学附属図書館学術システム課長)
話題提供1:「一般人を対象としたオープンアクセス論文の利用状況に関する調査、の現時点での報告」(高鍋唯さん・筑波大学大学院図書館情報メディア研究科)
- まえおき:
- 知識情報図書館・学類4年生の数間裕紀さんの研究を代理で紹介する
- OAの社会的意義を考える:
- 科学技術・学術審議会 学術情報基盤作業部会の審議のまとめ*4より:
- 透明性の確保
- 説明責任
- 学術活動の活性化
- 科学技術・学術審議会 学術情報基盤作業部会の審議のまとめ*4より:
- これを実現するには・・・研究者以外の一般人のOA論文の利用、というのがあるかがポイントに
- しかしそのような調査はない
- やってみた
- 調査の概要:インターネットによるパネル調査
- 事前登録されたパネルを対象とするもの
- 今日、報告するのはOAの認知度、役に立つと思うかどうか、どんな論文を利用したいと考えているか
- 調査結果・・・OAの認知度
- 回答者中、OAを知っていた人は16.4%. 過去に論文を読んだことがある人だと34.6%になる. 論文を読んだようなことがある人の間では認知度が高い.
- 学歴別で見ると・・・大卒以上でも論文を読んだことがない人はOAをあまり知らない. 大卒以外でも論文を読んだことがあればOAをそこそこ知っている.
- OAは(あなたの)生活の役に立つと思う?
- どちらかといえば/いわなくても役に立つ、は55%くらい. 論文読んだことがある人だと7割以上.
- これも学歴とはあまり関係がない.
- 読みたい論文の分野
- 心理学、医学、情報学、環境学など
- ただし性差が大きい. 女性は心理学・医学、男性は情報学・工学・経済学など.
- (min2-flyコメント): 情報学って男の子だよな!
- 今後は・・・研究成果は最終的に外部発表を考えている
- 山本さんのコメント:かなり一般の方も評価しているような感じ? 一般人対象、ということは学術雑誌とか読んでいないような人?
- 加藤先生:論文の中身は識別できる? 英語論文は読まれている?
- 逸村先生:今回はそこまでは踏み込めていない. 設問について議論もしたが、英語はそう読まないだろう.
- 佐藤:ログ分析では英語論文は日本人からはアクセスされていない.
- 山本さん:日本では、海外の先進的な文物の国内での紹介というのは大学の重要な役割であった. 研究者の成果を日本の人々に日本語で伝えていくことも重要なのだろう.
話題提供2:「rliaisonプロジェクト」(長谷川さん・小樽商科大学附属図書館、ジョウ(?)さん*5・北海道大学、帯広畜産大学)
- 小樽商科大学の専属司書制度と外部競争的資金への応募
- 北海道大学での取組み・・・研究者への個別インタビュー
- HUSCAPの名前は浸透しているが、先生がどうするとHUSCAPに登録できるかわからない、ということでコンテンツ数が伸び悩む
- われわれはどう働きかけるべきか、を先生にご相談するために個別インタビューへ
- 個別インタビューのたびに、次に訪問すべき先生を聞く・・・次々に次の訪問先を予約する
- 「いいとも作戦」!
- 完全な営業ではなく、先生の専門分野やよく利用する雑誌、研究生活、図書館への要望について、HUSCAPへの説明など、さまざまな話を伺う
- 個別に話すことでHUSCAPの目的や具体的な登録方法もわかり、多くのコンテンツを貰えるように
- 3カ月で12名の先生、4名の院生へインタビュー. 先生が所属する部局図書室職員にも同行して貰う
- 結果はブログ形式で情報共有
- 個別インタビューの効果はあがっても、研究者数が多くてらちが明かない
- HUSCAPの名前は浸透しているが、先生がどうするとHUSCAPに登録できるかわからない、ということでコンテンツ数が伸び悩む
- 効果的に広報するために・・・図書館委員をつとめている先生との個別面談
- 部局ごとに事情にあわせたHUSCAPの拡充方法を相談
- 10部局に対して2カ月で実施、結果、先生の協力を得て6会場で説明会を実施、170名の先生が参加
- さらに2部局で、先生から教授会でHUSCAPへの協力の呼び掛け
- 図書館職員と研究者との理解が深まればサービス全体の向上にもつながるのではないか?
- 部局ごとに事情にあわせたHUSCAPの拡充方法を相談
- 山本さんコメント:リポジトリに関する発表。尾城課長の講演の中で学術情報流通の問題に触れられていたが、その中で対策としてあげられているものにOAやリポジトリがある。リポジトリを推進しているのは図書館員。その中でコミュニティを作って頑張っているが、世界的状況を見ても登録・無料公開されているものはまだまだである。それをどうしたらいいか? 図書館員だけでなく、大学図書館組織としての議論もある。一方で個人の問題と考えれば論文を書き、読んでいる先生方1人、1人にそういう知識が必要。今、まさにそういう方向まで進んできているのではないかと思う。ご質問、ご指摘などこの件についてあれば。
- 加藤先生:小樽商科大はどのくらいのペースで先生を回っている? 日常業務の外なのだし大変では? どれくらい進んだ?
- 長谷川さん:後期の先生方を対象に、目標30名で初めて、個別にメールをお送りしてもご返事いただけない場合もあった。それでも職員4名ほどが中心になって、だいたい目標に近い数の訪問はさせていただいていると思います。
- 加藤先生:研究者の視点でいうと、僕は雑誌の副編集長をしていて、査読者を選ぶときに海外のリポジトリを使う。「この分野にいるな」は知っているので名前を入れて探して査読者として適切かは判断できる。欧米は良くできている。
- 山本さん:その場合、先生のリポジトリなり業績リストの確認時はどう辿りつく?
- 加藤先生:名前と所属くらいは知っていれば、あるいは分野を入れれば拾えるので。
話題提供3:「オープンアクセスウィーク!」(鈴木雅子さん、北海道大学附属図書館/デジタルリポジトリ連合・DRF)
- 今日の講演会はプレオープンアクセスウィークイベントとしても企画している。それを知っていただこうと思って紹介をしようと。
- OA week・・・今年は10/18-24
- オープンアクセスの意義を広めるための促進週間. オランダなどで盛況、日本でもやろうということでDRFでもやっている
- ポスター、三角スタンドなどのグッズもwikiで公開中. どなたでも参加できる.
- 余談あるいは宣伝:参加機関イベントとして北大でも5周年記念の講演会をします.
- こういうところで、図書館として何かやろうというような意志表示を出していくことが今後の図書館員として重要では?
- 月刊DRF・・・今月号にはmin2-flyの記事もあるよ!*6
- オープンアクセスの世界は機関リポジトリ担当者だけでは考えられない、図書館全体の問題
- 図書館員全員に読んでいただきたい、ということで月間で作成.
- 担当者だけでなく、カウンター担当などが「私もつけて作業しよう」とかやってもOK. 全員で考えていきましょう.
- 「ひとつでも置けば立派な参加館」
- 山本さん:元気のいい図書館員がリポジトリに集まる一方、既存の雑誌システムと表裏一体なのだから・・・という課題もある。若い力が集まって突破口が見える? どうなるんだろう? 電子ジャーナル関係で尾城課長、去年、今年とご報告いただいたが、どうなるかわからないがいずれはああいうものが巷の噂では破たんすると言われつつ続いている。今後、どうなる? 先ほど、課題を指摘いただいたが図書館員のマンパワーはリポジトリに向いているようでもある。その辺はどう?
- 尾城さん:電子ジャーナルの契約等を担当する人と機関リポジトリ担当が完全に分かれてしまっている。ジャーナル担当者はけっこう大変で、まわりを見ても暗い。しかしプライドを持ってきちんと仕事している。一方、リポジトリはご存じのように明るくやっている。そもそも電子ジャーナルとリポジトリを含むOAの問題は根っこは一つ、学術情報流通の問題として考えないといけないのかな、と思う。この問題は図書館員だけで考えても限界がある。図書館員としてできることで考えられることはやり尽くしてしまったので、次は先生方と共闘しないといけない。先生方にどう働きかけるかが重要。特にこれまで図書館サービスは読者としての研究者に対するものが主だったが、今後は読者だけではなく、著者としての研究者への働きかけが重要になる。先ほどの小樽商科大のrliaisonと北大の「いいとも作戦」は、研究者と協働するという点で大変いい事例。Good practice. あとは、やはり図書館・図書館員の身内だけでコミュニティができてしまっているので、それだけではもう駄目。そこから如何に外に出るかを考えないといけない時期なのかと思う。
- 逸村先生:図書館情報メディア研究科で教員をしているが、それとは別に図書館の副館長でもある。筑波大学には事務系の副館長と研究開発担当の自分がいるが、筑波大学では研究者の教育業績システムを持っていたが、それが研究担当副学長の目にとまって、リポジトリと統合する方向に動いている。そうなると、今までは図書館コミュニティで済んでいたことが、学内のシビアな他部署とのやり取りにもさらされる。図書館だけで、機関リポジトリをやっていればというのが、大学内だけでもシビアな目が飛んでくるようになった。表に出るなら出るで風当たりも強いので、覚悟を決めてやらないといけない。
- 山本さん:DRFがらみの金沢でもそういうことを考えているとのことだが・・・私より鈴木さんの方が詳しいのでは? 研究者にひとつひとつIDをつけていく、それをNIIと連携しながらしかるべきものを。金沢はCSIで手を挙げてついているので、他大学でも応用可能な具体的な成果が出るのでは?
- 加藤先生:それはe-govとどう連携する?
- 逸村先生:当然、e-govについても話題に上っている。KAKENやトムソン・ロイター、SCOPUSなど。そういったものを全部一緒くたに名寄せしよう、というのは国際的にも国内的にも動きがある。ただ、日本語は漢字とひらがな、あとローマ字の書き方も人によって考えが違うとか。同姓同名問題もあり、色んなところで同一に動いている。一応、相互的に一元化を目指して入るが、その中に機関リポジトリコミュニティも組み込まれようとしている。 NIIでがんばってやってもいる。
- 加藤先生:とっても大きな仕事なので、DRFでやるには対象が大きすぎる。国の仕事してやらないと。
- 逸村先生:人文社会系では図書についてはNDL、アメリカならLCやOCLC、NACO等がやっているし、ヨーロッパでは著者名の名寄せと様々な活動を、というのもある。ただヨーロッパではドイツがプライバシーに厳しくてやりにくいとかもあるが、全体として電子環境下の名寄せをなんとかしようというのが動いている。
- 山本さん:リポジトリと著者IDとなると新しい話のようでもあるが昔から図書館が作ってきた著者名典拠、あれもそうそうに諦めてしまっているところもあるが、ああいうものを・・・著作性というのがいつまで維持されるのかも疑問視されているのかとも思うが。匿名性に移行するにしても個人の特定は必要。そこは図書館員は世間的にも自分たちでも自負している役割だろうと思う。
- 古賀先生・京都大学附属図書館:先ほどの話とは離れたところで、今日のパネリストの方に2つ。まず、尾城さんへ。ビッグ・ディールの出口にpay per viewとおっしゃられていたが、そこでひっかかるのが会計処理. 私もやむ負えずPPVで見ることはあるが、会計が非常に嫌がる。コピーはいいがダウンロードであればファイルを見せてくれ、とか云われてしまう。そういう会計処理の仕方こそ提案しないといけないのではないか、と思うが。もう1つは今日のお話とずれるが、先ほどの名寄せや書誌レコードの議論とからめて、電子書籍にどう立ち向かうのかも考えないといけない。契約もそうだし、MARCやメタデータ標準、交換をどうするか。そういうところも総務省は云いだしている。しかも世間的なインパクトとしては電子書籍の方が出版社や著者や国会図書館、あるいは業者、色んなところを巻きこむインパクトも強いようにも見える。ここまでOAについての取組みをどうやって電子書籍時代に応用できる?
- 尾城さん:PPVの問題は・・・良く考えていない(苦笑) これから考えないといけないが、東大の場合は今のところ、クレジットカードを配っている。公費で落とせる法人カード。まずはそれが使える。大学によっては色々あるみたいだが、かえって私立大学なんかでは煩いと言う。うまく考えないといけないですね。
- 加藤先生:ビッグ・ディールから撤退するときにどうしても必要になる。ちょっとそういう話もした。研究者のモラルの存在を前提にすれば、プリペイド的なものを大学で買う、というのでいいのでは。教員のモラルの低さで起こる問題は大学内の問題。一括。今、1人数件で数千件でやっているのが何万件になるんでしょ? 契約時に何千ペーパー、と。
- 尾城さん:そうすると結局、自分の腹が痛まない。早い者勝ち。
- 加藤先生:給料を減らして対応、とか(笑)
- 尾城さん:先生方がきちんとルールを決めてやってくれるならそれでいいのではないか。
- 加藤先生:例えばE社の契約で落ちる分野があったときに、その分野は何本、と決めるとか。
- 尾城さん:あとはPPVの問題は大学院生の利用を考えないといけない。ちゃんと考えないといけない・・・んですよね。
- 山本さん:最初にE社が云ってきた提案である時点からPPV、という提案があったが、その提案はペンディングしている。そんなの提案されても困る、と。当時もモラルの問題が出て、図書館員では対応できない、と。
- 尾城さん:PPVのそうした問題もとりあえず棚上げできたのがビッグ・ディール。本当にビッグ・ディールって素晴らしいシステムでなかなかやめられない。でも、・・・
- 山本さん:尾城課長のバックファイル購入式も2000年くらいに却下したやり方。ただ、当時と今では状況も変わってきている。
- 山本さん:電子書籍・・・は、どうも紙のブックのanalogyで発散してそれが良くない。そこに拘る意味があるのか?
- 尾城さん;おっしゃる通り。そこを突破しないと流通は進まない。その紙じゃない、完全に電子になった書籍の流通についてのモデルを色々作るための、なんかプロジェクトというか、公募しているんですよね?
- 逸村先生:電子書籍については総務省、文科省、経産省の合同報告書が出てビジネスモデルを作ろうとしている。大学は教科書レベルで動くだろうが、今週、慶應がいくつかの出版社と組んでやるとのこと。そこでやるのが2,000冊という話で、2,000じゃどう考えてもきつい。日本の電子書籍のプラットフォームは100を超えるのが現状で、そこをどう対応するのか。大学図書館のターゲットとするというのも、先生方が自分の著書が電子化されて見返りがないことにも抵抗があるだろうし、共著者の許可をどう取るかとか、いくつもクリアしないといけないことがある。なによりもビジネスコストを誰がどう負担するのか、と言われている。
- 尾城先生:教科書が厚すぎるのでは? 今の学生は分厚い教科書をリニアに読む習慣がないのでは? 断片的なものを組み合わせているとか。
- 逸村先生:教育の問題もある。『白熱教室』でも、ハーバードでやるのは「これだけ読め」と言われたのを読まないといけない。電子ではどんなブックリーダーでもパソコンでも読み返しづらい。紙は読み返すのが簡単。読書環境としてそれが効くのではないか? 日本の場合は教育のせい、かつての指定図書のように図書館員にリストを渡してもそれを使った授業をしないので、学生は読まない。関心はある。
- 加藤先生:タイトルリストしか検索できないんじゃ学生読まないから章目次をくれ、というのをやっている。そういうことも普通にやられる?
- 逸村先生:日本の学生がどれだけ慣れてくれるか、ということもある。高校くらいからそういう風に読むんだ、と書いて中等教育からやっていれば。大学でいきなりやっても通らないのでは?
ディスカッションが盛り上がりを見せているところでしたがここで時間切れ、その後は懇親会へ・・・となりました。
懇親会でご挨拶させていただいた皆様、ありがとうございましたm(_ _)m
しかし最後のパネルディスカッションも勿論ながら、加藤先生と尾城さんのご講演はどちらも現状の問題点や「これでいいのか?」という部分をずばずば指摘されていて、大変刺激的でした。
ディスカッション中での尾城さんの発言にもありましたが、「電子ジャーナルと機関リポジトリ、オープンアクセスの根っこは一つ、学術情報流通の問題」で、その中で商業出版社と深く、かつ直接対峙するお仕事をされているお2人のお話はためにもなるし面白いなあ、とかなんとか。
さて、これにて北海道出張関連の記録はアップし終え・・・って自分の発表の解説がまだか(汗)
そちらはまた折を見て。
*1:オープンアクセスウィークに関してはこちらのサイト等を参照:http://cont.library.osaka-u.ac.jp/oaw/
*3:CiNii 論文 - 私を眠らせない12の難問 : 電子学術誌をビジネスにするには
*4:大学図書館の整備及び学術情報流通の在り方について(審議のまとめ):文部科学省
*5:お名前の字がわかりません、ごめんなさいm(_ _)m
*6:http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/index.php?%E6%9C%88%E5%88%8ADRF