かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

「日本発オープンアクセス」:第6回SPARC Japanセミナー(オープンアクセスウィークセミナー)


遅ればせながら(もう金曜日だよ!)今週はオープンアクセスウィークですね!


日本はもちろん世界中でOAに関するイベントが盛り上がっています。
自分は、こちらもエントリをアップするのが遅くなってしまいましたが、水曜日に行われたSPARC Japanセミナー「日本発オープンアクセス」に参加したりしてきました。

【概要】

10月18日〜24日は、世界中でオープンアクセスを推進するイベントが開催されます。今回のSPARC Japanセミナーは、「日本発オープンアクセス」と銘打ち、日本の研究成果発信の在り方の現在と未来について討論する機会にしたいと考えております。多くの皆さまのご参加をお待ちしております。

【背景】

第4期科学技術基本計画(平成23年度〜27年度)策定(平成22年度内に閣議決定予定)に向け、「科学技術基本政策策定の基本方針」が6月16日に公開されました。「基本方針」には、「国際水準の研究環境の形成」の一環として、機関リポジトリやオープンアクセスを推進することが、「国民とともに創り進める科学・技術政策」の一環として、研究者はそれぞれの研究について、内容や成果を分かりやすく発信する取組みを進める必要があることが盛り込まれました。

セミナー内容】

「基本方針」を受ける形で、以下の3名の方からご講演いただき、全体討議を行います。

  • 1)日本の学術出版の在り方を広く俯瞰する立場から、林和弘氏(日本化学会、SPARC Japan運営委員)

http://www.nii.ac.jp/sparc/publications/newsletter/pdfper/6/sj-NewsLetter-6-2.pdf

http://openjournals.kulib.kyoto-u.ac.jp/ojs/index.php/cap/index

  • 3)トップジャーナルに掲載された日本人著者の生命科学分野の論文について、論文の著者自身の執筆による日本語レビューを、自由に閲覧・利用できるよういち早く公開する「新着論文レビュー」について、飯田啓介氏(ライフサイエンス新着論文レビュー編集人)

http://first.lifesciencedb.jp/


以下、いつものように当日のメモです。
例によってmin2-flyの聞き取れた/理解できた/書きとれた範囲のものであり、かつ今回は途中何度か出てきますがオフレコとされた部分については記録をとっていません。
ご利用の際はその点、ご了解をお願いします。
誤字・脱字や問題点等、お気づきの方はコメント・メール等でご指摘いただければ幸いです。


では、まずはNIIの杉田いづみさんから、会の趣旨説明とOA Weekの紹介ですっ。



趣旨説明(杉田いづみさん、国立情報学研究所 学術コンテンツ課 図書館連携チーム専門員)

  • 今週は米国SPARCがすすめているオープンアクセスウィーク
    • 今年は3回目。2008年は1日だけ、去年から1週間に
    • SPARC Japanでもセミナーを開催する形で参加。
    • 先週からプレイベント。来週には北京でBerlin8もある
  • ここでPR:月曜日・・・CiNiiに新機能リリース
    • 無料ダウンロードできる論文は「オープンアクセス」という文言が入るように
    • オープンアクセス推進の一助. 以前はクリックするまで課金コンテンツか否かわからなかったのが、わかるようになった
  • OA・・・日本の政策にも盛り込まれる
    • 第4期科学技術基本計画
    • SPARC Japanとしては・・・我が国の特色にあった、ビジネスモデルに見合ったOAを推進する
      • 研究者に議論・実践に参加して貰うことがそこでは重要
      • OAは皆賛成するが実践しない。基本方針の内容を絵に描いた餅にしない、さまざまな取組みを
      • それぞれの立場から第一人者に講演いただく
質疑
  • Q:「ビジネスモデルに見合った」って? 配布資料にはなかったけど?
    • A:間に合わなかった。後でwebで公開する

日本の論文誌の電子ジャーナル化に見るオープンアクセス出版の可能性と課題(林和弘さん、日本化学会学術情報部課長・SPARC Japan運営委員)

  • 私とOA:自己紹介にかえて
    • 情報科学技術協会の『情報の科学と技術』で書いた論考・・・「経費の回収を目的とせずに、学会の使命として無料に近い情報発信体制を整えることも必要ではないか」*1
      • GNUの考えから学術情報流通はオープンであるべきと考えていた。
    • 2002年の秋・・・BOAI*2について知る
      • 2005年に日本化学会の論文誌をハイブリッドOA化。化学系としては世界初
    • 2008・2009年のOAイベントのコーディネータ
      • 2008年はOAの正しい理解を求める*3、2009年はBMCと栃内先生にお話を伺う*4、OA Fridayも*5
    • 倉田先生の科研費の研究協力者として、e-scienceの実態を中心に調査
      • 科学技術政策研究所の客員研究官。イベント開催*6、文部科学時報9月号でも特集*7
    • Science Commonsプロジェクトの1つ、翻訳プロジェクトの初期メンバーでもある
    • これだけやっていればOAについてしゃべってもいい?
  • OAのビジビリティの検証
    • Chemistry Letters(5万円払うとOAにできる)をログ解析。OAのものとOAでないものを比較すると、経時的にOAの方がアクセスが増える
簡単に:OAのおさらい
  • Open Access (OA)
    • 学術電子ジャーナルへのアクセス障壁をなくす運動
    • きっかけは諸説あるが90年代〜2000年代初頭にはじまる
  • 背景
    • 論文誌の高騰・・・図書館が買い支えられない
    • そもそも学術情報は人類全体の財産・・・OA運動
    • しかしそこから流れて・・・政治の世界も入ってくる
      • 納税者への説明責任、情報公開
    • それらの背景・・・思想哲学
      • Open Society Institute:開かれた社会
      • Open Innovation:囲う小さな利益より広めて皆で利益を分かち合おう
    • 電子ジャーナル化自体もOAの背景?
      • 物流コストがいらない(印刷・配送がない)ことは重要な背景
  • OA化の手段
    • Green route:セルフアーカイブ、機関リポジトリ、政府系リポジトリ・・・購読雑誌論文への別ルート
    • Golden route:OAジャーナル・・・雑誌自体OA化。掲載料モデル、寄付モデル、機関運営モデル。新刊雑誌に多い
    • 部分的OA化・・・既存雑誌の一部を追加料金等でOAに
    • 期間(エンバーゴ)・・・Delayed OA
  • 対象読者の違い
    • 研究者向け・・・研究者間の情報格差をなくす。
      • 高等教育内の学習、異分野・境界領域で威力
    • 一般市民向け・・・NIHでいうPublic access
      • 税で行われた研究へのアクセス保障. 特に医療情報. ベースは市民の知的欲求
    • 教育目的はレベルに応じて?
      • 明確な線は引きにくいが・・・
  • 現在、査読雑誌全体の20%はOA
日本の状況
  • 日本の特徴
    • 機関リポジトリの強化
    • J-Stage利用誌の結果的OA
    • 一部の学会がOAオプション
    • 一部の機関・学会で完全OA雑誌
    • SPARC Japan、DRF等の啓発活動・・・学会と図書館の情報交換が盛ん
      • OA dayの頃にアジアでイベントがあったのは日本だけ
  • 日本の機関リポジトリ公開機関数
    • 順調に増えている
    • コンテンツ数右肩上がり、公開機関数は世界第2位。図書館は頑張っている
    • コンテンツの内訳・・・
      • 雑誌論文:20%以上. 紀要43%とあわせると60%以上はなんらかのジャーナルに掲載されたもの. 着目すべき点
      • 会議論文、学位論文等もある。ただ全体を見れば60%を超えるコンテンツがarticle
  • J-Stage
    • 参加学会、雑誌数ともに順調に増加
    • 最新では雑誌だけで700誌を超える
      • 76.3%はフリー。残りは認証はかかっているが、欧米と同じように図書館にIPアドレスで認証、個人にIDとパスワード、PPVを持っている、というのは3%以下
        • 商売っ気がない。色んな理由がある。結果的にフリー
    • 日本の電子ジャーナル化はOA向き?
      • 購読費モデルがそもそも成り立っていない。
      • 雑誌事業では稼いでいない
      • なんだかんだで10年以上、出版は続いている。廃刊になった英文誌はほとんど聞いたことがない。不思議なサステイナビリティ
    • 欧米の学協会は?
      • 英米は75〜78%くらいは出版事業で活動資金を稼いでいる。況や商業出版をや
      • ここでOAに移るのは躊躇するだろうが、稼いでいない日本はもっとやればいいのでは? もっと特徴を活かすべき
日本のOAジャーナル
  • 研究機関発行のものが生きが良い?
  • DNA Research
    • 1994創刊、2000年から電子ジャーナル化と同時にOA化
    • 2005年からOUPと提携
    • ここでしか得られない情報を載せる・・・インパクトファクター(IF)が2009年には4.917まで上がる. 2006年は3なので大きく上昇
  • Science and Technology of Advanced Materials(STAM)
    • 物質・材料研究機構が発行. 2000年創刊
    • 2008年に機関負担OAモデルに転換. 組む先をElsevierからIOPに変更. その際に上手くプロモーションを行い研究者のバックアップを得る
    • 2009年のIFは2.599. 2008年から倍増. 材料分野では非常に高い値. 日本の雑誌でIFが2を超えることはめったにない
  • 他の主な学協会の対応
    • 日本機械学会・・・2006年に既存英文誌を休止、オンラインオンリー化
      • 10を超えるdivisionに分割
      • 著者負担2-4万円でフリーアクセスに
    • 日本化学会、日本物理学会、応用物理学会はハイブリッドOAオプション
  • 人文社会学系のOAジャーナル
    • ベースは大学を中心とした出版(紀要)
    • 機関リポジトリから出版(情報発信)する試み
    • 筑波大学人文社会科学研究科×企業
    • 応用哲学会×京都大学附属図書館・・・こちらは村上先生が詳細紹介
  • 筑波大学・・・Inter Faculty
    • OJSを使った電子ジャーナル
    • 英語、フランス語、ドイツ語、ロシア語OK. 多言語雑誌
    • 2010年3.1に第1号リリース
    • 産学連携の発行体制:詳細は右のURLに: http://blog.sole-color.com/?eid=1365793
日本発のOAを実現するための課題
  • ビジネスモデル:事業性をどう担保する?
    • 購読費モデルは利潤を生みだす。OAモデルは維持費をどう賄うか、の議論。そもそも利益は埋めないかも?
    • 海外・・・PLoS、BMC、Hindawiの3スタイル
      • PLoS、BMC・・・著者負担型カスケードモデル
        • スタートは寄付や助成、継続性は掲載料で賄う
        • 査読のカスケードモデル・・・ランクの異なるジャーナルを作ってどこかで拾って掲載料を得るモデル*8
      • Hindawi・・・コスト最小限モデル
        • エジプト、インドから最小限のコストで出す。Hindawiはエジプト発。インドはMedknowもある。
    • クオリティが高くなり目的が達成されたらと商業化する例も?
      • Journal of High Energy Physics・・・Elsevierのライバル誌を倒した後にSpringerで商業化
      • BMCのトップジャーナルのいくつかは購読費モデルに移っている
  • クオリティ:質の管理と向上
    • 分野のトップジャーナルがフルオープンアクセスなケースはほとんどない。トップは購読費モデル
    • 研究者は洗練されたものを読みたい。だからお金を払う
    • OAにするとクオリティが上がる、なんてことはない。編集の努力が要る
    • 本の雑誌のもう1つの現実・・・高インパクトとされる雑誌のEigenfactor*9を見ると・・・
  • 研究者の意識
    • SPARC Japan3期のコンセプトでも言及があるが・・・
    • 研究者は自分の分野のトップジャーナルに出したい. OAだから、で雑誌を選ぶ人はまだ少ない
    • トップジャーナルはだいたい購読しているので、研究者は見かけ上、読みたいときに読めている. OAだと勘違いしている人すら
    • 良い研究者は評判の高い雑誌に出す
      • 評判の高い雑誌には能力の高い人材がいて、良い編集者・査読者を集め・・・という正のフィードバックサイクル
      • その裏で、税金由来のお金が商業出版や学会出版へ
      • ここから研究者の意識を変えるのはそう簡単ではない
    • OAでもこの正のフィードバックが作れればいい?
    • 一方、NISTEPの調査ではOAに興味のある研究者は75%いる。やり方次第?
  • ステークホルダーの理解
    • 公的機関ごとに雑誌に関する施策がある。それぞれ自分の理念・事業に従って動いていて、それを無視してはOAも電子化も進まない
    • キーになるのは科学者がどう考えるか。全部まとめて考える場を作ろう、というのが日本学術会議から提言した包括的コンソーシアム
  • OAの行方を決めるのは研究者
    • それでどういう利益が得られるかがわからないと動かない?
    • 一方で政治の要素も大きい. 研究費の出所に研究者は従わざるを得ない.
      • NIHの義務化が進めば登録率も上がる. OAを動かすには政治が必要である.
      • 政治主導には世論の後押しも必要である.
        • しかし政治で研究者が最終的に動くか? 政治よりも研究者がリーダーシップを持ってやるべきでは?
  • 進化学研究会が過去に発行していた雑誌をOAにして再生・・・Shinka:http://sayer.lab.nig.ac.jp/~shinka/zasshi.html(リンク先は休刊前のサイト)
    • 2010年内に創刊、和英混在(当面は英語原著論文を主対象とする)
    • 経費は近い将来は無料、いずれ著者負担に
    • 分野の代表たる研究者が自らOA雑誌を作る、注目に値するケース?
さいごに
まとめ
  • 日本のOA活動には一定のプレゼンスがある
  • 日本の電子ジャーナル化の状況はOA向き
  • クオリティを中心に様々な課題を解決すべき
  • 研究者がキー
  • 対象は拡大
質疑
  • Q:査読雑誌の20%がOAという話だったが、これはSTMとALPSPの数字で違うと思うが・・・
    • A:そこは比較していない。PLoS ONEに掲載された2009年の調査の結果。ちょっと考えるとカウントの仕方は難しいとも思うが・・・
  • Q:査読付き論文全体の20%がOAということならば、Gold OAが6-7%だと思うので、Hybridなものも含めてなのかと思うが・・・
    • A:そこは私が勉強不足で・・・

学会誌と機関リポジトリの協同:大学図書館による出版の再生(村上祐子さん、東北大学大学院理学研究科准教授[発表]/神崎宣次さん・大西賢人さん、京都大学[共著])

はじめに
  • 大学図書館に対するメッセージ
    • 大学図書館と学会の協同の一つの実験例として
    • うまくいっているかどうかも疑問なまま走っている
  • 大学会・・・SPARC Japanに来るような学会は中小学会から見ると綺羅星のよう
    • 中小学会・・・人文社会系のかなりの部分。会員数は数十〜数千人
      • ほぼ大学関係者、企業会員はあり得ない、学会職員はいない、事務は院生または教員が無償でやる、日本学術会議認定受けていない任意団体も多い
応用哲学会の話


  • 学会運営の基本方針
    • 既存学会運営への反省を踏まえて設立
      • 中で闘った方が良かったのでは、という点は未だに議論あり
    • 役員・・・定年制/任期の更新制限
      • 固定化を防ぐ
    • 学生会員に理事として発言権を付与
    • 運営実務から徒弟制を排除する
      • 「そのうちいいことあるから」でただ働きをさせるようなことはできるだけ排除
    • 解散手続きを規約に明記:解散すらできないから存続している学会がかなりある。この学会は手続きを明記
      • いつでもだれでも解散したくなったら言いだしていい、認められたら解散できる
    • オンラインサービス重視:国際性とオープンアクセスは譲らない
      • 情報倫理プロジェクト関係者が準備当初から「OA当然」とする
        • 情報倫理プロジェクト・・・COEのパイロットプロジェクトの1つ。京都大学が主担当。広島、千葉が当時の担当
        • その際の議論の成果でOAを譲らない、というのが最初から組み込まれていた。思想的に極端なバックグラウンド
  • 編集委員会・・・学生枠がある
    • 学生会員を編集委員に必ず含む
      • 常勤職がない人は全て学生会員になりうる規定なので、非常勤職でも編集に入れる
    • 査読以来・管理はOJSを使っている
  • 著作権規定・・・
    • 最初はクリエイティブ・コモンズを導入しようとした
    • 最終的には権利は著者帰属、ただし学会には包括許諾を与えてくれるように
    • 著者が亡くなったら著作権を学会に贈与して貰うよう規定を作る・・・後のトラブル防止
  • 下地
  • 学会サイドから見て気になる点
    • 当初は京都大学文学部内に事務局を置くつもりだった・・・京都大学の哲学研究室が作る雑誌?
      • しかし規約には事務局も2年で移転する、と記載。
    • 業務の切り分け・・・インフラは自前では持てない(金がない、管理も自前ではできない)
    • 電子ファイルの閲覧可能性と将来的な可読性・・・皆やかましい(ICTリテラシ面とのアンバランス?)
    • e-journalにする狙い・・・サービス向上と品質保証、徒弟制の軽減
      • 封入・発送業務等の負担を減らす
      • 長くなり過ぎがちな哲学の論文も掲載できる・・・16,000字までOK(字数制限なしは査読負担を考えてやめた
      • 哲学分野は査読は遅いし厳しい・・・応用哲学会は早く
  • 経費削減と徒弟制廃止
    • 無給⇒若干の謝金、へ(有給にまではできなかった
    • 会員管理の負担が大きい
図書館サイドの背景
しばらくオフレコ話
現在
  • 応用哲学会の本音・・・OJSが使いたいというよりは、京大図書館の協力が欲しかった
    • OJSにまさるシステムが出てくれば乗り換えも積極的に検討する
  • 図書館サイドの広報・・・学内学会・研究室に限定して現在はpromotion?
  • 最新号もぽつぽつ論文集まり始める
    • 使い勝手も好評価、ただし日本語インタフェースは少し変
    • トラブル復帰マニュアルがよくわからず編集委員が少し困っている?
  • 学会サイドの問題
    • 品質保証
    • 学会ホームページをどこにおくか
    • サービス強化:
      • 学会コモンズ構想・・・常勤職の数が少ない/専業非常勤が哲学では多い
      • 機関購読誌の読めない非常勤は非常に多い。人文系は非常勤率が高いほどOAに理解がある?
      • 学会の様子のYouTube発信、Twitter中継等を今後も試みていきたいと理事会も考えている
        • だめになったら学会ごと潰してしまおう
  • 図書館サイド・・・ここに協力して良かったのか?
    • 学外機関への協力の正当化
    • システム維持コスト
質疑
  • Q:一橋大学附属図書館の方。CSI委託事業でOJSを使った電子出版、リポジトリ機能との連携について進めている。今年度はOJSの実証実験をしている。京都大学では図書館のサーバを使って学外出版をしているわけだが、それがいつまで続くのか? 図書館はそれを認めているのか?
    • A:京都大学の内部事情は知らない。リポジトリ担当だったことがある過去の経緯としては、大学図書館が学会にサーバ貸しをして有償化するサービスの可能性を念頭に置いている。アメリカの大学のリポジトリは外部機関に向けて有償サービスもやっている。それが日本で可能か否か、のたたき台になると面白い。ただしこれは個人的な希望で学会サイドとしてはいつまでもただがいい。
  • Q:図書館経営として考えると、図書館の方はお金を取る可能性についてどう考えているのだろう? アメリカ等の事情を見ても、日本の図書館がどうするかは興味深い。それから、OJSのシステムについて簡単に説明があると有り難い。
    • A:最初の件は図書館の方が考えて欲しい。外部とのお金のやり取りをするのはアメリカは延滞料で慣れている。独立に会計を持って現金のやり取りをする仕組みがあるが、日本の国立大学にはそのインタフェースがない。やれるはずだし場合によってはやるべきと思うが、京大がその選択をしたら今の財政だと応用哲学会は止めざるを得ない。
    • A:. 学内紀要向けには見た目も雑誌らしくなるので導入するといいのではないか.
  • Q:論文は何の形式で提出する?
    • A:TeXかWord、+PDF。最終的なPDFは学会事務局が作る。OJSで自動で作成されることはない。当初はWordも禁止していたが、どうか、となった。学会によってはコスト削減のために全てTeX化しているところも哲学分野ではある。
  • Q:XMLはOJSでは作れない?
    • A:そこまではない。
  • Q:OJSで会員管理をしようとした、というのはどういうこと? 査読者データベースを会員にみなす?
    • A:投稿者を会員とみなす。会員=大会での発表権と投稿権なので、投稿者としてのアカウント作成
  • Q:結果的にはOJSだけでは会員管理はできない?
    • A:できない。定年制を作ったので、年齢を持つデータベースが必要になり、そこまでは図書館員に求められなかった
  • Q:お金があればできなくはない?
    • A:できなくはないが、そんなお金はない。また、それができて嬉しい学会の汎用性も低いのでは? 会員サービスとしては、年齢を含めたデータベースについては現役引退者を市分けられるといいかもしれないが・・・
  • Q:投稿管理システムを拡張して会員データベースに、というのは逆転の発想でいいと思った
    • A:当初試みた。結果、あきらめて今はたぶんExcelでやっている



休憩タイム


新たな日本語Webコンテンツ「ライフサイエンス 新着論文レビュー」(飯田啓介さん、ライフサイエンス統合データベースセンター特任 技術専門員)

自己紹介〜統合データベースプロジェクトの紹介
  • 東京農工大学大学院農学研究科修了. 農学修士
  • 東京化学同人、という出版社に就職. 化学の教科書等を出しているところ
    • 編集者の基本をたたきこまれる
  • 後、シュプリンガーに移る
    • ライフサイセンス分野の日本語書籍の編集を担当
    • 身近で雑誌の電子ジャーナル化についても見聞する
  • さらに後、共立出版蛋白質 核酸 酵素』の編集部へ。編集長にもなるが、2010年はじめに休刊。休刊が決まった頃に退社
  • 2010.4- ライフサイエンス統合データベースセンターへ
    • http://dbcls.rois.ac.jp/
    • 情報・システム研究機構の組織の一部. NII、国立極地研究所国立遺伝学研究所等と組織している
    • 目的・・・ライフサイエンス分野におけるデータベース統合化の拠点を形成すること
    • データベースの統合化と保全に努め、利便性を高めるための情報技術の開発やポータル整備を行う
    • 文献ではなくデータベース、実験データのオープンアクセス化を進めるプロジェクト?
      • 物凄い量の解析データ等を引き受けて提供する/散在するデータベースを整理し使いやすいようにする
      • 税金/研究費で得られた、個人や少数研究者では使いきれないデータを皆が使いやすくするプロジェクト
新たな日本語コンテンツ:ライフサイエンス新着レビュー「First Author's」の紹介
  • 体制
    • 編集人:飯田さん
    • サイト構築・管理:中尾光輝特任研究員
    • タイトルデザイン:岡本忍特任准教授
  • 「新着論文レビュー」とは
    • Cell, Nature, Science などのトップジャーナルに掲載された日本人が第一著者である論文に
    • 著者自身が日本語レビューを書き
    • web上でいち早く無料公開する
  • 目標:
    • 最新成果を日本語で背景からわかりやすく開発
    • 自由な引用・転載・再利用を認める
    • 精米科学分野のサイエンスコミュニティ全体への寄与を目指す
  • 対象論文:
    • Natureと生命科学系姉妹誌、Science、Cellと姉妹誌の合計20誌. レビュー誌を除く生命科学分野でIF上位20誌
    • 筆頭著者が日本人である論文を機械的に抽出
  • 対象読者:
    • 生命科学全般に関わる教員・研究者・院生・学生
      • 一般市民ではない
    • 専門分野の異なる研究者を意識
      • 結果・結論だけでなく前提やバックグラウンド、将来の展望もあわせて示す
  • 公開:
    • 出版から1カ月以内の公開を目指す
    • 今のところは出版・・・公開まで平均40日くらい。なんとかあと10日詰める
    • 毎週平均2本以上、年間100本以上を目標とする
      • 機械的に出てきたものを著者に頼んで・・・という他力本願。当初はこの半分くらいかと思ったが、やってみると本数もあるし、著者も引き受けてくれる
      • 上方修正しないといけないかも? 120、130にはなりそう
  • 著作権とクレジット:
    • 著作権は著者が保持
    • クレジット明記を条件に、転載・改変・再利用(営利含む)など全て自由にしている。コピペして印刷して売ってくれても構わない
    • クリエイティブ・コモンズの表示2.1 日本ライセンス
    • 高解像度の図をJPEGファイルとしてダウンロード可能
  • 分量と図:
    • 5,000字+図+参考文献10本程度。一般的な和文総説3〜4ページくらい。書きやすい/読み応えがある量。そんなに目くじらは立てない
    • 図:専門外読者が概略を把握できるようなもの。生データよりはわかりやすいポンチ絵を添える。全て引用・転載・再利用できるので、原著論文からはそのままは使えない
      • オリジナルの図を作ってそれを載せる
デモ
  • Twitter連携もしているよ![twitter:@first_author]
  • 図はかなり大きくて綺麗なものが見られる
  • 文献等のリンク先はPubMed/元になった原著論文もPubMedにリンク/著者の研究室web等にもリンク
再び「新着論文レビュー」紹介
  • 公開までのプロセス
    • 対象誌の出版状況を常時チェック
      • 対象が出たら即座に著者にメール以来
      • 2週間での執筆依頼。割と多くの著者が引き受けてくれる
    • 原稿受領から2週間で制作・公開
  • 新着論文レビューの売り・・・
    • 早い:出版から1カ月以内
    • 多い:毎週2本以上、年間100本以上
    • わかりやすい:原稿は一文ずつ推敲して徹底的に書きなおす
  • 誤解をうけやすい点として・・・
    • 原稿はすべて書き下ろし。アブストラクトの訳等ではない
    • レビューを書くのは原著論文の著者自身。他者レビューではない
    • 掲載論文は機械的に選択。編集による選別はない。条件に合えば選ぶ
      • 条件にあっても著者が断ると載っていないが、編集による選別はない
    • 図はすべて作り直したもの。原著論文の転載ではない
    • 貰った原稿そのままではない。生命科学専門の編集者(飯田さん)が編集を加えていいものにしようとしている
  • とにかく、わかりやすい
    • そのためには"編集"が大事。
    • 著者原稿そのままでは、専門外の人が読んでわかりやすいものにはならない
      • そうとうに手を加えることが必要。実際、かなり手が入っている
    • 一文、一文を吟味。具体的には・・・
      • 係り受け・・・できていない原稿は多い
      • 助詞の使い方(てにをは)
      • 能動体と受動態・・・英語だと受動態を良く使うが日本語にするとあまり良くない
      • 語順(主語の位置、語と語の関係をうまく示す位置)
      • 句読点、特に句点。適切に直す
      • 補うべき語、重複している語
      • 文章間のつながり
    • 国語の時間のようなことを考えて直している
      • 用語の統一等、scientificな部分でも手は入っている
  • "編集"というプロセス
    • 専門の第三者がコンテンツを整えて正確性を担保/わかりやすくする
    • 書籍・雑誌では編集者が介在するので機能
    • webでは"編集"はほとんど機能していない
      • コンテンツの信頼性、わかりやすさに大きな問題
  • 日本語コンテンツの重要性
    • 専門領域から少し離れた領域の情報を得るには日本語の方が容易い
    • 日本語コンテンツの価値を認め、その流通を促進するしくみが必要
  • コミュニティでの共有と再利用
    • これまでの紙媒体は完全な複製が不可能、「行き止まり」のメディア
    • デジタルデータは劣化させることなく/コストなしに複製・加工・再利用可能
    • サイエンスにおけるコンテンツは囲い込むよりコミュニティ全体に公開・共有して広く利益を生み出すべき
      • いわゆるオープンアクセスってそういうことでは?
  • サイエンスにおける新着論文レビューの意義
    • 学問の細分化が進むなか、研究者間の橋渡しになる
    • 学問が加速度的に発展、新しい知見にキャッチアップできない、専門以外では追いつけない、というところに役に立つ
    • 研究者コミュニティにおける「科学コミュニケーション」において大きな役割
  • 統合データベースにおける意義
    • 「統合」・・・「糊」としてデータベースをささえ、つなぐもの?
      • データベース内の色んな情報をまとめて使うとき、それらについて書いたわかりやすい日本語の解説があれば有機的に使えるのではないか?
      • 横断検索・・・諸々まとめて検索できるサービスの中でもキーとなるコンテンツ?
    • 「データベース」・・・今のところは「新しい情報が得られて嬉しい」という意識
  • 今後の展開
    • タグ付与、検索機能の充実
    • テキストマイニング的な機能の追加? 付加的な情報を加える
    • 長期的には・・・新着レビューだけではなく、さまざまな種類・性質の日本語コンテンツの公開?
新着論文レビューをやって思うこと
  • 問いかけること
    • 原著論文・実験データはだれのもの?
    • アウトリーチはだれがする?
    • サイエンスに著作権はなじむ?
    • 研究活動の出版に営利企業である出版社はどのような役目をはたす?
  • コンテンツの信頼性
    • 良質なコンテンツは従来、出版社が紙で出す
    • 今は紙以外が大きなウェイトを占める。webを見る
    • 良質なコンテンツの発信、という出版社の機能も失われつつある
    • web上のコンテンツのクオリティをどう担保すればいいのか?
  • そこに編集者はどのようにかかわるか
    • コンテンツの質を維持するにはプロ=編集者の手が必要
    • コンテンツの電子化・web化に編集者はどうかかわるか、その費用をどう分担するかサイエンスコミュニティとして検討すべき
    • 新着論文レビューが、ちっぽけだが、一つのモデルケースになればいい
質疑
  • Q:研究者は何割が受託してくれる?
    • A:6割強。最初は何もなかったが、それでも半分は引き受けてくれた。今も断られるというよりは返事が来ない。たくさんメールが来て、返事ができないのでは? 積極的に断る、という人は少ない。
  • Q:学会の方。ジャーナルの編集をしていて、日本語雑誌で難しいのが、例えば英語だと蛋白質はproteinで済むのに、日本語だと漢字にするかカタカナで書くかひらがなにするか、がある。著者の思想も含まれている。そのあたりはどう考えて編集されている?
    • A:私もその学会に所属していたので懐かしい。いつもお話するのだが、用語の統一は非常に大きなウェイトを占める。表記も多いし、1人の中でも表記が混ざる。結局は基準を決めてそれに従うしかない。いつも使うのは文科省の用語集や辞典など。「そういう風にしているからそうさせて」と言って、従ってもらっている。昔は反発する人もいたが、最近は標記に拘るような人はほとんどいなくなった気がする。
  • Q:NIMS・轟先生。非常に素晴らしい取組みと感動した。ライフサイエンス分野ではないので失礼な質問なのかもしれないが、こういうサービスは各学会の会員向け雑誌がやっていることの先取り、破壊行為にもなる気がするがどうか? また、いいサービスだと思うが永続性はあるのか? 予算カットされたから終わり、とか。
    • A:学会とはあまり関係がないが、民間が出す生命科学系雑誌とは競合するところはある。日本語レビュー誌はあるので、まともに競合する。ただ、そういう意味では民間でやらないことをしないといけないと思っている。その一つが選別をしないこと、民間は面白そうなものを選ぶがそれはしない。また、数も違う。民間は月に3〜4つ、我々はその何倍。分野も広い。生命系の雑誌は今はほとんどが医学系だが、植物でも基礎でも分け隔てなく、日本語レビュー雑誌に載らなかったようなものも取り上げる。
    • A:後の質問について。プロジェクトは今年で終わり、来年からも新しい形で続くことは決まっているが、永続性はまったくわからない。やっていって、支持いただければ続くのではないか。「こんなもんいらないよ」と言われたらなくなるが、おもしろければ支持していただけるのではないかと思う。

全体討論(コーディネータ・永井裕子さん、日本動物学会 事務局長)

  • 永井さん:まずご質問がある方、遠慮なくどうぞ。どのようなことでも。いろいろなアプローチがあるかと思うが。先生方同士では?
  • 林さん:年間事業高、1年で回るお金はいくらくらいかを、お2人に。
  • 永井さん:私も興味深い。3人の方のお話を聞いて明確なのはその点。活動する限りはどうしてもお金が付きまとう。差支えなければ。
  • 村上さん:会員400人中、半分が学生会員。会費は年間5000円、学生3000円くらい。初年度にけっこう集めたので2年度め以降の収入は低調。100-200万円の間で動いている。学会をやるときの光熱費の支払いや学生バイトの人件費、大会コストにかなりは割かれている。
    • 永井さん:その金額には出版コストがほとんどかかっていない?
    • 村上さん:出版コストはAcrobat購入、組版ができない方には学生バイトがTeX組版するコストを払ってもらっている。
  • 飯田さん:このサービスは紙に比べお金がかからない。雑誌をやっているときは印刷所の請求書が回ってきていたが、それが回ってこない。かかるお金は、1本につき1万円払っている謝金。議論はあったがそれくらいいいだろう、という。あとは図が外注で、1つ3000〜4000円くらい。1本2万円かからないくらい。一番高いのは私の人件費だが出所が違う。サーバ管理等もセンターでやっているので事実上かかっていない。そういう意味では安上がり、紙媒体ではかなわない。
  • 永井さん:学会で今、コストがかかるのはXMLを作る部分。そこのコストが、下げられるのかも。ただ学会にとっての問題は、オープンにさえすればいいという時代ではもうない。OA雑誌が20%という時代の中で、オープンにすればみんなが見てくれるというような、本当じゃないようなことを信じていた時代があったが、そうではない。ほとんどがwebに載っていて、かなりの部分はオープンになっている。どこからどう発信するのか、ということがそこで問題となる。J-Stageの中では3%だけがPPVをやっているという話だが、今、学会の中でOAで雑誌を出しているところは?
    • 会場・・・日本の学会はどれもJ-Stageで出版
  • 永井さん:出版費用は会費ベース?
    • 会場・・・会費と広告量メイン、科研費は貰っていない
  • 永井さん:コストをここまで気にするのは、アメリカもイギリスも最初は全部OAにして国が資金を出すことを検討していたのを、難しい、ということになった。機関リポジトリによるオープンアクセスはオープンアクセス雑誌とはやはり違うもの、と考えている。そこで村上先生の果敢なチャレンジに、京都大学さんがいないので話にならないが、途中の質問に返って。日本の学会はSPARC Japanの中でビジネスモデルの欠如を指摘されてきたが、それを言ったら図書館は儲けなくてもいいではないか。学会や出版はお金を作らないといけない。図書館はそういう悩みを抱えたことがない。新たなビジネスチャンスとも思える機関リポジトリからの出版でお金を取りたい、という人はいる? あるいは「こういう理由で取らない」という意見があれば。「取らない」のであれば学会側にとっては魅力的だと思わざるを得ないが。婉曲的な回答でいいので。
  • 会場:『大学図書館研究』という雑誌をAmazonクラウド上でOJS立ててやろうと考えている。逆に図書館がそういうサービスをできるとなったとき、学会の先生方は図書館員にどこまで求めている? 僕自身は機関リポジトリ業務をやっていて、既に査読を受けたり発表された研究成果を公開する作業をしている。出版にはタッチしていない。飯田さんのお話を聞いて、編集作業が大事とのことだった。コンテンツの判断は今はとても力が及ばない。どう魅力的に、正確なものを発信するか、と言う点では力不足。先生方は何を求めている?
  • 永井さん:轟先生はどうでしょう?
  • NIMS・轟先生:コンテンツの中身の価値は研究者しか判断できないのが事実。図書館の人にそこまでは言わないだろう、研究者が放棄していることになる。
  • 永井さん:学会出版の枠の中では今のお考えに賛成。逆に言えば、学術会議で話を聞いている中でも「自分たちでしか編集できない」と人文系の先生はおっしゃる。理解できている人間しか編集できない。それは化学会も動物学会もそうだと思う。そこまではない。今、村上先生のお話を聞いて頭が柔らかいと思っていたのは、前からそういう可能性があってもチャレンジする学会はなかった。非常に、小さくて、お金がなくても、図書館で出版ができる可能性はできたかと思う。
オフレコ:詳しくは書けないが、あんまり詰めない方がいい、的なこと?
  • 会場:大学のミッションとして学術活動の推進は研究の範囲では? 別法人として出版局を持つのも、学内に持つのも研究活動のうちだろう。それがある学会と協働関係でやろう、ということになっても、学内でauthorizeされていればいいのでは? それは間違った解釈?
オフレコ:詳しくは書けないけど、グレーだよってことで。
  • 永井さん:全てのものがオープンなら学術情報はうまく流通するのか。
  • 会場:「懸念がある」という表明はわかるが、データのオープン化等については指摘はおかしいと思う。
再び、パネルtoパネルへ
  • 村上さん:学会も規模や運営方法が違う。その詳細な分析があれば・・・と思う。また、図書館を通じた出版によっては、図書館が行う実証実験にのったりすればいけるとは思う。ただのりでいけるとは私たちも思っていない。飯田さんのご発表については、それは一種の、トップジャーナルのfirstになるような著者が自分で行うサイエンスコミュニケーションになっている。今、一定額以上の資金を得た研究者はサイエンスコミュニケーションを行うことが求められているが、そういうものとリンクさせる考えはある?
  • 林さん:興味はある。聞いていただければコンサルティングはできる。数えきれないくらいの学会さんからご相談は受けていて、色んな規模・分野の学会があることは肌身に感じている。OAモデルを2つ並べたのもそれ。会員数やリソースがあればBMCやPLoS ONEのような戦略的OAもできるが、そうでなければコスト最小型モデルになる。あるいは村上先生のところや機械学会さんのように紙面のクオリティを多少犠牲にしても安く出すこともありうる。その際に重要なのはその雑誌はOA向きか。個別の学会・コミュニティが情報を出すときにOAがふさわしいのか、のコンサルティングがまずいる。応用哲学会さんはそれで行くコンセンサスがあったのでやりやすい。日本化学会のように大きいとなかなかコンセンサスが得られない。個々の事情に応じて読み解く必要があると思うが、それを大規模で上から調査するのは難しい。やってみたいとは思う。科研費取れる方でどなたかご一緒にw
  • 飯田さん:何にお応えすればいいか難しいが・・・私どもは著者のことは正直、あまり見ていない。見ているのはユーザ。ユーザの役に立つものが出したい。私自身も組織もそれがモチベーション。著者の視点は全くない。この仕事をしていると対象となる論文のかなりの部分は海外のラボ。海外の方がかなりの割合を占めるので、そういう方は喜んでくれる。多くの方は日本でポストを得たいと考えていて、日本語にして日本で出せることは嬉しいとのこと。そういう点では役に立っている。
  • 永井さん:飯田さんに。なぜCNS?
  • 飯田さん:基準が要る。なんらかの基準を設けないといけないときに、選んだのがCNSだった。後付けすると、去年のインパクトファクターの上位20がそれで占められた。PNASがぎりぎり入らなかった。私自身、CNSやIFを礼賛する立場ではないが、中でもいろいろ議論があって、もっと色んなところから拾うべきと言うのもあるのだが、まずスタートをCNSで切った。いつまでそれでやるかはわからない。今のところ。
  • 永井さん:CNSに区切ると、ただでさえCNSで頭がいっぱいの人は「やっぱりね」となってしまう。アカデミズムの中で雑誌を出す学会として、Natureに出せない論文をZoological Scienceは出している、という自負がある。国がお金を出してやるなら、もうちょっと違うアイディアもあっても良かったのではないか。飯田さん一人の考えでは難しいかもしれないだろうが。学会で似たようなことをやりたい、とも言っているのだが、編集委員会から総スカンを食わされた。どう説得するかは難しいが、ちょっとわからない分野が日本語で書かれていることには説得力がある。これはなかなか面白いと思うのだが、学会出版としていいたいことを。
  • 飯田さん:私どももももっと色んなことをやりたい。1つのものとしてこれ。もっと色んな視点から日本語コンテンツは増やしたいと考えている。もう1つ、CNSに絞ってわかったのは、CNSにもつまらない論文はあるということ。
  • 轟先生:ぜひ飯田さんのチョイスでCNS以外から選んでもいいんではないか。
再びフロアから
  • 学会の方:またお金の話。謝金1万円、図表1本数千円でほとんど請求書がないとのことだが、人件費が内在化されていて見えないのではないか。自分たちが独立してやろうとするとそれが表に出てきて、購読費でどう賄うか頭を悩ませている。もし内在化しないとしたらプラットフォームどれくらいお金がかかる?
    • 飯田さん:紙と比べたらお金がかからない、という話で、人件費については紙のときもかかっていた。人件費は会社に内在化していて、人数がいると表に出てこない。どっちも内在化していたので表面化していなかった。外在化したとすると私の年間の給料が余計にかかる。サイトの構築等のお手伝いもいただいているが、その人は別に本業もあるので加えないとすればそんな感じ。
  • 林さん:内在コストの話で加えたいのは、初期情熱コスト。今のリポジトリもオープンアクセスも電子ジャーナルも、最初は熱意ある関係者が好きでやっている。そのコストは3〜5年で外に出始める。そのときにどうするかが問題ではないか。オープンアクセスは特にこの問題が出やすい。学会、図書館。データベース、全てに関わると思うが。
  • 永井さん:Shinkaという雑誌を林さんが最後に紹介されていた。その責任者の先生とは6年前から凄い喧嘩をしていた。オープンにすべき、売っているようじゃ駄目だ、という先生と、学会として見たときの問題。この間、動物学会で話をしていて、Shinkaは成功すると思うが、ある程度まできた研究者のエネルギーはどこまでもつのか。そこを考えないと、オープンアクセスで成功したジャーナルは続かない。物理の植田先生にJ-HEPがSpringerにいった理由も聞いたが、研究者は研究が本業で雑誌出版は特殊なのだと思う。とはいえ新しいOA雑誌で著名な先生も関わっていて、Shinkaは成功すると思う。
  • 永井さん:林さんに。NIMSの雑誌は何が良かった? OAだから? 担当されていた谷藤さんにも聞いたが・・・
    • 林さん:SPARC Newsletterの末尾のとおりで、1に編集者の熱意。熱意ある研究者がSTAM誌を良くしたいと考え、OAを選んだ。その段階を踏んだプロセスが大事で、OAにしたからIFが倍増した、ということではありえない。あとは、今回のプレゼンを作っていてわかったのだが、研究所は研究者の熱意が集まりやすい。大学は色んなfacultyがある。人文系や理系、という分け方は好きではないがあるし、況や学会は様々なところから来るのでコンセンサスを得にくい。ところが研究所は、NIMSなら物質や材料に関する先生が集まっているし、仕分けなどに対する危機感もあるのでジャーナルをどうするか考えられた。DNA研究所もそこにしかないキラーコンテンツで雑誌を出せた。NIMSの環境、強力な編集者、戦略的な選択、IOPをパートナーに選ぶ、そこまでには色々あった。そのくらいの要因をそろえて初めてIFは倍増する。
  • 永井さん:STAMの雑誌がOAで見られることには意義がある。OA weekにちなんでやはり言っておきたい。学会出版としてはどう対応するかは大きな問題で、村上先生の対応はある一つのやり方として、試験的であるけどもリポジトリを使ってOAにする、というのも一つの戦略と思う。林さんが話されて一貫していたことは、モデルを作らなければいけない。何があうのか、あわないのか。そして飯田さんが話されていたように、学術は皆のものなのだからコミュニティに貢献したい。そのときにOAであればいいのだ、というものではない。さまざまなやり方、モデルがあることを踏まえて、自分たちのコンテンツをOAとして出す、ということを考えていきたい。



学会の方が多いSPARC Japanセミナーという場であることもあってか、かなりコスト面の話が話題になっていましたが。
オープンアクセスでやるったってコストはかかる、という話はたびたびこのブログでも書いてきたわけですが、そのコストを抑える手段としてのリポジトリ/図書館サーバ利用の可能性、というのが、興味の対象であるとともに議論が分かれるところでもある、というか。


ここ数年、機関リポジトリアクセスログ分析に携わっている身としては、リポジトリに良質のコンテンツが集まってそれらが様々なアクセス方法からリンクされることが重要である、と考えるに至っていて。
その面ではリポジトリサーバに学外学会の雑誌が入っていても全然いいのではないか・・・と思いますが、うーん、それでその大学の先生があまりその学会内で活動されなくなるとか、中心が別の大学に移るとかすると、ややこしいことになるという懸念もありそうですね・・・


First Author'sについては、まさにこういうものが必要だと思っていたところでもあり、とても興味深かったです。
CC-BYでの公開とのことでしたので、例えばFirst Author'sの側からリポジトリにリンクという可能性があるのはもちろん、リポジトリにFirst Author's掲載論文が登録されたら、出典を明示した上で先生の論文紹介をそのままコピーするなんてのもやっちゃっていいわけですよね。
リポジトリに登録された英語論文の日本人による利用数は少ない(みんな英語読まない)傾向があるわけですが、自分はその一因は英語を読まないというより英語で専門外の分野のことを探そうとしないことにあるのでは、と考えており、その問題を解決する上でもFirst Author'sのような試みといかにうまく連携するか、というのが重要なのではないか、と思ったり。


そんなSPARC Japanセミナーが10/20(水)で、現在10/22(金)、もうそろそろOA Weekも日本では終わりに近づいてきているわけですが。
近づいているとはいえまだOpen Access Weekです。
なんでも北大のHUSCAPではこの機に論文をリポジトリに登録すると特製バッヂが貰えるイベントもあると聞きますし*12、他の大学等でも何かいいことがあるかも知れません。
図書館から何かもらえることはなくても、論文をリポジトリで公開していることで思わぬいいことが・・・という話もあるところであり、まだ未登録の論文がある方はこの機に是非、公開を検討されてみては、とかなんとかー。

*1:CiNii 論文 -  日本化学会論文誌の状況と電子ジャーナルの運用における考察(<特集>電子ジャーナル)

*2:Budapest Open Access Initiative | Read the Budapest Open Access Initiative

*3:SPARC Japan セミナー2008 「日本における最適なオープンアクセスとは何か?」で発表してきました - かたつむりは電子図書館の夢をみるか

*4:Open Access Week(第5回SPARC Japanセミナー2009)「オープンアクセスのビジネスモデルと研究者の実際」 - かたつむりは電子図書館の夢をみるか

*5:Open Access Week 2009 セミナー「Open Access "Friday & Night" 2009」 - かたつむりは電子図書館の夢をみるか

*6:「論文のオープンアクセスの動向 研究者と米国科学政策の立場から」:科学技術政策研究所所内講演会参加記録 - かたつむりは電子図書館の夢をみるか

*7:特集部分は無料閲覧可能です:http://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/jihou/detail/1296680.htm

*8:詳細は次のエントリ等を参照:Open Access Week(第5回SPARC Japanセミナー2009)「オープンアクセスのビジネスモデルと研究者の実際」 - かたつむりは電子図書館の夢をみるか, つくばリポジトリ

*9:Eigenfactorについてはこちらも参照:あなたのお気に入りの雑誌の順位は上がる? 下がる?:JCRに新導入された指標を見比べてみた:図書館情報学編 - かたつむりは電子図書館の夢をみるか

*10:Eigenfactorベースなので規模が大きい雑誌ほど基本、値は大きいはずで、大学会は購読モデルでやっているだけでは・・・という可能性もありそうですが。まあ、それだけの投稿数が集められる時点で雑誌の質を維持できているとも言える?

*11:http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bulletin/tronso, http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bulletin/prospectus

*12:HUSCAP園芸部:HUSCAPバッジ作っちゃいました。 - livedoor Blog(ブログ)