かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

「欧米日の電子ジャーナル・コンソーシアムの10年と今後」(図書館総合展フォーラム参加記録その2)


前回更新*1からすっかり間があいてしまいましたが(汗)、図書館総合展フォーラム参加記録第2弾。
今回は11/26に丸一日かけて開催された国公私立大学図書館協力委員会と日本図書館協会大学図書館部会主催のフォーラム、「欧米日の電子ジャーナル・コンソーシアムの10年と今後」です!


26日(総合展3日目)も興味深いフォーラム目白押しだったわけですが、その中で今回このフォーラムを選んだのは、講演者のお1人であるLorraine Estelleさんのところにこの2月にインタビュー調査に伺ったから・・・というのも大きいですが。
何よりまあ、自分の一番の本業(学術情報流通/大学図書館)に関わる話に、ということもあり・・・*2
他にあまりweb上でこのフォーラムについて発信されている方もいなかったので、結果的には良かったかなあ、とかなんとか。
超面白かったですし!(と、感じるのが既にマニアックという気もしないでもないですが)


では以下、いつもの通りの当日のメモです。
例によってmin2-flyが聞きとれた/理解できた/書きとれた範囲のメモであり、また総合展3日目ということもあって「後ろから見ていて、時々動きが止まっているのが見えて面白かった」と評されるように時折記録する手が止まってしまっていたりもしたのでいつも以上に不完全な部分もあるかと思います。
ご利用時にはその点、ご理解いただければ幸いです。
誤字脱字ほか、お気づきの点がおありの際にはコメント欄等を通じてご指摘いただければ助かります。



開会のあいさつ(田村俊作先生、慶應義塾大学メディアセンター長)

  • 電子ジャーナル、コンソーシアムについてお集まりの皆さんに今さら説明しなくてもいいかと思う
    • 経験の蓄積がなされてきた
  • 外国雑誌の価格問題は電子ジャーナルコンソーシアムよりもっと古い
    • 長い出版社との交渉の歴史がある
    • その中で大学図書館なりに、共同で出版社と交渉する経験を積み、鍛えられてきた
  • 電子ジャーナルの問題は単なる価格の問題ではない
    • 我が国の学術情報の在り方、その中での大学図書館の役割、という大きな流れの一部
    • そうした流れの中で先月、NIIと国公私立大学図書館協力委員会の間で、我が国の学術情報基盤の強化に向け、連携を強める協定を結んだ
    • その下で、これから国公私立大学図書館全体にまたがるコンソーシアムを作り、JANULやPULCの役割を担わせる方向で動いている
  • 今日のシンポジウムはこういうこれまでの電子ジャーナルをめぐる我が国の動向を踏まえた上で、あらためて現状と課題を整理し、今後の展望を切り開くもの
    • 会場の皆様も積極的に参加し、全体を実りあるものにすることに協力して欲しい

基調講演1:"Developing a shared service for journal negotiations"(Lorraine Estelleさん、JISC Collections)

自己紹介とJISC collectionについて
  • JISC collectionsのシニア・エグゼクティブ・オフィサー(CEO)
  • JISC collectionsとは・・・イギリスの主要なコンソーシアム
    • 2006年に設立。companyであるが、大学に配分された公的な資金を使っている。companyという形態により税制上有利に
    • イギリスの全ての大学と研究組織が参加、180以上のメンバー。継続教育や職業訓練を行う学校にもサービスを提供している
    • 目的:電子情報資源について、メンバーのためにベストな価格を設定できるように交渉する。条件も詰める。
    • 2009年には・・・JISC collectionsは4300万ポンドの経費節約をもたらした、と推計されている
  • 電子情報資源のライセンスモデル
    • 120のライセンス契約と5,500の購読
      • 契約中、36は電子ジャーナルに関するもの。「NESLi2」と呼んでいる
      • 他に80の電子リソースの契約。データベース、レファレンス資料、マルチメディア資料、電子書籍
      • その他に最も誇りにしているものとして、イギリスの国立アーカイブ。大学に対しオンラインリソースを無料、恒久的に提供する。雑誌アーカイブ、歴史的な書籍、一次資料等の契約が含まれている
  • JISC collectionの組織とガバナンス
    • 11人のスタッフ
      • ほとんどはライセンスチーム。出版社との交渉のスペシャリスト
        • 価格交渉、ライセンス契約を担当
        • さまざまなバックグラウンドを持つスタッフの知見が活かされている。元出版社、アグリゲータ、図書館等のバックグラウンドを持っている
    • ガバナンスに関して・・・Board og managementという理事会のような統治機構
      • 外部から2人の取締役が参加。イギリスの大学に助成している機関から任命されている
        • そのうち1名が、companyの会長職。
      • その他にさらに2人、大学が直接選ぶ2人の外部委員。現在はいずれも図書館員
      • 他にexecutive directorとして社内から2人
  • 雑誌のライセンシングにとどまらない幅広い役割
    • 研究プロジェクト/調査・研究
      • 例・・・査読の価値を測る
      • 出版における査読にはどの程度の金銭的な価値があるのか?
      • 出版社は常に査読の価値について述べるが、学術・研究者が出版業界に与える価値を計算する
      • 査読、編集員として働くコストは年間1億1000万ポンド以上である、という結果に
    • コンテンツ・デリバリー・サービス
      • アカデミック・アーカイブのように、アグリゲーション・デリバリーを行う
    • 図書館への集中管理・効率的サービス
      • 機械可読ライセンスの提供。各機関はそれをダウンロードして電子情報源マネジメントシステムで使える
    • 出版社との共同プロジェクト
      • 例:電子書籍に関するトライアルプロジェクト。お互いに納得のできる契約を目指す
電子ジャーナルの契約交渉
  • 電子ジャーナルに関する活動
    • ライセンス契約は36、うち20は大手出版社との契約
      • 個別交渉、どういう風に合意して契約に持っていくか、というプロセスをJISC collectionsが担当
    • 個別契約はリソースを使うし、高くつく。そこで中小規模出版社に対してはNESLi2というモデルを作る
      • まず出版社はプロポーザルを作る
      • そのオファーが良い、ということであればさらに議論を進める
  • 電子ジャーナルの交渉に関して、現在は興味深い時代である
    • コンソーシアム交渉の性質、契約のタイプが変わってきている
    • イギリスでは2010年にSCONULが、top concern surveyを実施。その中で図書館は非常に懸念されていた
      • shared serviceの検討、共同調達・共同購入の検討、
      • 共同調達・購入の懸念は図書館セクターに限らない。イギリス政府は公的セクターでの共同調達を通した資金の活用・経費削減を検討し出している
      • では、JISC collectionやその他のコンソーシアムはその取組みから学ぶべきことを見出せるか?
        • 私の感触としては、大学・学術図書館を小売店の集合体のように扱うのは良い例えではない。学術雑誌市場には特有の性質がある
        • 学術機関は小売りチェーンと違って競争し合っているし、その機関の研究者・学生のニーズを満たすという制約もある
        • 小売りチェーンは非常に大きく、競争関係にある複数の生産者から同じ製品の買える。学術論文の世界では2つとして同じ論文はないし、図書館は特定の出版社からジャーナルを購入しないといけない。市場の力が電子ジャーナルの世界では当てはまらない。
  • 市場のシェアと価格の上昇
    • 最近行った、大学図書館等に対する、支出先の上位6出版社がどこであるか、という調査
      • 上位6出版社への支出のうち、54%はElsevier、22%はWiley-Blackwellに払っている。残りは24%
    • 図書館の定期刊行物向けの全支出で見ると、Elsevier向けが29%、Wiley-Blackwellで11%。この2社で40%に至る
    • 厳しい経済状況の中で、2010年には規模の小さい出版社が価格を据え置いているのに対し、規模の大きい出版社は値段を引き上げている。今年は平均5%値上げすると思われる。イギリスの消費者価格の上昇率は2.7%でしかない
    • 傾向は国際的に共通。Library Journalの調査によれば2009年には平均7.6%、2010年には4.4%、2011年も7%以上の上昇と推定されている
    • ElsevierとWiley-Blackwellの利益
      • 2009年のRead Elsevierの調整済み営業利益は15億7千万ポンドで利益率25.9%
      • Wileyは2億4300万ドルの利益で利益率14.3%。STM系で特に伸びている
    • 市場シェアの意味
      • 出版社は図書館予算の制約を当然わかっていると考えられる。お客を増やしてビジネスを大きくすることはできない
        • 図書館予算というパイのより大きな部分を取ってビジネスを大きくする、と考えているだろう
      • ビジネスを大きくする方法・・・1.雑誌を買収する/2.価格を上げる
        • 出版社の交渉代表者は商品の価値をわかっていてトレーニングも受けているし、多くのデータも持っている。利用データやダウンロードのデータ、国際的な市場や研究者がどのような環境にいるか、各国の大学の資金状況など
        • 対抗するには図書館員もそれらをきちんと理解して交渉する必要がある
  • JISC Usage Statistics Portal(JUSP)
    • 利用統計のためのポータル。このポータルは図書館のコレクションについての分析、電子ジャーナルの利用についての分析支援をするもの。電子ジャーナルコレクションんいに(2010-12-07修正)ついて大学経営者に情報提供することを目的とする
      • 出版社が統計を提出する際のプロトコルを守っていることを前提とする。SUSHIプロトコルで利用統計を提供できることが必要
    • デモ:
      • タイトル別の利用状況データ。画面はOUPのパッケージについて示したもの
      • 他社のパッケージとの比較等もできる
      • 各図書館で図を作成できるようなツールも提供。
      • 全体の状況の把握にも
電子ジャーナルコンソーシアムは時代の変化にあわせて変わってきている
  • 今のモデルには長い歴史がある。期限を遡れば、1995年のpilotプロジェクトから始まり、1999年にNESLiとなった
    • 当時の根本原則・・・政府資金はもうあてに出来ない/大学図書館資料費はもう期待できない、という根底
    • この根本原則と、過去の冊子体の支出を元にした価格設定によって、価格交渉をしてきた
    • オプト-インモデル。出版社との交渉が完了してから合意の枠組み参加するかを機関ごとに決める
    • このやり方の利点・・・交渉終結後に傘下の有無を決められる。コレクション・ライセンスは集中的に管理される
    • 大きな弱点もある・・・参加機関が交渉後に参加を決めるので、交渉担当者は資金的な裏付けを持ってテーブルにつけない。
      • 交渉力が弱まる
      • 出版社にとっても非効率的。各機関向けに請求書を起こさないといけないし時間もかかる。
      • 交渉時のデータは冊子体についての古いデータであった
      • 電子ジャーナルに対するアクセスはイギリス全体で見た場合に偏ったものになっていた
  • スコットランドではこのモデルを変えて、新たなモデルを導入・・・SHEDLモデル
    • この仕組みの下ではスコットランドの全18大学が特定のジャーナルパッケージについて交渉して欲しい、と決め、参加を確約する
      • 事前に設定した通りの価格帯で交渉できれば全機関が契約し、全機関がアクセスできるようになる
    • このモデルの強み:
      • 魅力的な価格を交渉で獲得・・・資金的な裏付けを持って交渉で来たため
      • ライセンス契約も簡略、支払いも1回で済む
      • スコットランドの大学は同じコンテンツに同じようなアクセスを得られる。研究者にとって大きな利益
    • このモデルの課題:
      • 参加機関中でのコストの再配分。人文系の大学が科学系の雑誌にどれだけコストを負担すべきか、逆は?
      • スコットランドの大学の中でそれなりにプレゼンスのある出版社以外とは交渉しにくい
    • ただ、このモデルは特定の出版社に対しては唯一、ずっと使い続けられるもの?
      • Elsevierの担当者のICOLCでの発言:「国全体が参加するようなコンソーシアムとでなければ付き合えない」
  • コミュニティのコラボレーションとコミュニケーション
    • SHEDLのモデルはかなりのコラボレーション・コミュニケーション・協議が必要
      • 18大学すべての合意と確約が要るし、交渉の進捗状況の報告とフィードバックもいる。コンソーシアム、大学のかなりのコミットメントが要る
    • コミュニケーションの改善を図るため、JISC collectionsでは最近、電子情報資源ワーキンググループを立ち上げた
      • 担当者が集まってコミュニケーションできるフォーラムを提供
日本のコンソーシアムが成功するためにいる要因とは?
  • 1.ガバナンスがしっかりしていること
    • コンソーシアムが組織としてきっちりしていること。大学図書館のために交渉しており、扱う金額は高額。組織がきちんと管理されている、と大学側に信頼して貰うためにもしっかりしたガバナンス、強力な組織体制が要る
  • 2.リソースを購読する際の強力なモデルとコストの再配分のモデル
  • 3.学術出版業界への理解が深い交渉担当者。
    • イギリス政府の共同調達の話は椅子やクリップなら上手くいくだろうが、雑誌の購入は特異。特別な市場の力が働いている
  • 4.交渉者に対して、事前に合意の上で判断基準(parameter)が与えられること
    • JISC collectionsの当初の交渉は絶望的なもの。いちいち運営委員会に諮らないといけないので交渉が伸び、出版社は関心を失っていった
    • 事前に条件を設定してその上で仕事することで、いちいち運営委員会に戻らなくてよくなった
  • 5.一番大事なこと・・・コミュニケーション
    • 良い仕事をいくらしても、「やっている」と伝えなければ意味がない。大学に進捗を報告しないとお互い、フラストレーションがたまる
    • 色々なフォーラム、電子版のニュースレター、webサイトでのアップデート、クローズドなスペースでの各機関の契約進捗を語れる仕組み等を用意
  • 6.全ての参加メンバーからサポートを得ること
    • 実際には困難。イギリスは180の多様な大学が参加。有名大規模大から小規模・特定分野に特化した大学など。それら全てと連絡を取り合い、確約を取り付けることがいる。
    • 出版社は常に裏をかいて個別に大学と契約しようとする。それをされると大きなダメージになる。しっかりした個別大学からのサポートがいる。
質疑
  • Q. JISC collectionのサービスの料金は個別に大学が支払うのか?
    • A. そう。政府を通して。
  • Q. コストの再配分ってどうする?
    • A. 難しい点。色々実験している。ただ、2つ以上の基準で判断しないといけない。今は大学の規模や学生数、助成金獲得額、雑誌の利用状況などを見ている。
  • Q. Eリソースについてファンディングはある?
    • A. イギリスでは政府からのファンディングは、カレント分については受け取っていない。1回限りの支出、ということで資金助成を受けることはあるが、それはデジタルアーカイブの購入等に使う。継続購入については政府からはお金を出さない、大学が負担せよ、ということになっている。
  • Q. 測定基準の中にusageデータは含まれている?
    • A. 含まれていることもある。スコットランドの例ではどの基準を使うかを選べるし、今のモデルの中には利用状況も基準に含まれている。基準についてはJISCのwebサイトにも載っている。BlockBloc(2010-12-08修正) payment studymethodsというところでこのレポートを読める。
  • Q. イギリスの大学のfundingは非常に危機に瀕していて学生がデモを起こしていたりもするが、それはJISCの財政状況に影響したりしないの?
    • A. 影響はある。イギリスの大学セクターは大幅な資金削減に見舞われている、70%の資金が削減される見込みである。JISC collectionsも削減対象であるが、年末までその額はわからない。おそらく40%程度?
    • 司会・逸村先生:大学生の授業料が3倍になる、という話もあるそうである。

基調講演2:「図書館ライセンシング考」(資料作成:Tom Sanvilleさん、Lyrasis図書館サービス部長/報告者・土屋俊先生、千葉大学

最初に:土屋先生
  • 今週はアメリカから人を呼ぶには最悪の週。Thanks Givingがあるので、まともなアメリカ人は家に帰る
    • まともなアメリカの図書館員はまともなアメリカ人なので、ほとんどはこれない。そこで自分が代理をすることに
    • 本人も大変残念がっていて、事前質問に対する答えをいただいてスライドを作った
    • 訳自体は慶應義塾大学の市古みどりさんが作成
  • トム・サンビルさんについて
    • Lyrarisという巨大なネットワークの、ライブラリ・サービスのディレクター
    • Lyrasis・・・アメリカ最大のコンソーシアム。そこのライセンシングの専門家
    • その前はOhio LinkのCEOとして、ずっと仕事をされていた
    • この10〜20年間はICOLCのリーダーシップを取ってきた人でもある
      • ICLOC:年2回集まるだけの会議だが、彼が声をかけると100〜200人集まるリーダーシップ
    • それ以前はOCLCのvice presidentやコカ・コーラ社のマーケティング
    • MBAを持っている。図書館情報学のバックグラウンドはない
  • 今日の話の留保事項:
    • 「私はすべてを知っているというにはもう若くない」(オスカー・ワイルド
    • 「予測はそもそも非常に困難である。それが未来についての予測だと大変だ」(ニールス・ボーア
    • 「こんなことに決まりなんかない! 何かを実現しようとしているのだから」(トマス・エジソン
    • 「専門家とは、犯しうる失敗をすべて、ひとつの狭い領域でおかしたことがある人だ」(ニールス・ボーア
  • さらに、念頭に置くべきこと:
    • 現行のグループ・ライセンシング、コンソーシアム・ライセンシングは従来の出版システムが壊れていることの反映にすぎない
      • 価格設定も印刷主流の時代に生まれたものである
      • 土屋先生コメント:交渉の基本にあるのは印刷時代の支払いである、というのは否定できない。
    • どういう風に生まれてきたかだが、出版社やデータベースセンターに対抗するために生まれた
    • 非常に高い効率性と経費節減をもたらしたが、システムが壊れた原因への対処ではなく状況への対処なので利益は減少気味
    • 変化への対応ではなく要因への対応がいる
    • 予算の伸びは期待できない。世界的に。一方で利用者の期待は高まり、技術革新は激しい。研究論文はどんどん増えている。1図書館での問題解決は不可能。図書館経営の効率化、生産性への向上により情報へのアクセスを確保するために努力せねばならない
    • 現在のグループ契約は根本的に出版業の仕組みを変えるものではない、ということを理解する必要がある。グループ契約が効果をあげているからと言ってそれが全てではなくて、もっと根本的な要因・・・その解説は今日はないのだが・・・そこの追及に議論を向ける必要がある
    • しかしとりあえずはグループ契約について
15年間を振り返って
  • 交渉のやり方は以前よりもはるかに良くなった
    • 基本的な契約条件が確立されてきた。提供できるもの・できないものの理解はある程度、安定してきたし、その他の例えばauthorized userの定義の概念的安定は見られてきた。契約条件への誤解や齟齬はだいぶ減った
  • 電子ジャーナル化によって学術雑誌を頒布する+パッケージを購入する、というビッグ・ディールが支出に見合う価値を提供したことも事実
  • しかし出版社の貪欲さ、もっと欲しい、値上げしたい、利益率を高めたい、ということは続いている。その中には学会出版も含まれる。
  • 従来の情報流通の根本的な問題にはあたっていない。グループ契約は対症療法である。それでもこれだけの成果は出た
  • 出版社側の変化
    • 技術革新、合併の繰り返しにより価値の高いパッケージを安く作れるようになっている
      • 合併の結果として価値の高いパッケージが出来たのは事実
    • 根本的な態度は変わらない
      • タイトルと論文が増えるのだから価格が高くなるのは当然、という態度はずっと一貫している
    • 研究者・大学経営者はこの問題を正しく認識していない
      • 供給側の単純な論理自体は否定できないが、それによって起きている問題を認識せずに、自分たちの役割への認識もない
    • それに図書館が取るべき立場は?
      • 出版社のいいなりである限り、問題の解決は不可能
      • オープンアクセスの新しいモデルは切り札にならない
      • みんなで「ノー」と言わないと何も変わらないが、皆で「ノー」というのは難しい
    • 研究者がwebを使って出版社に頼らず出版する、あるいはarXivにが最新のアクセス手段になって出版社が査読をmanageするというような役割分担も考えたが、中途半端なだけな感じもする
    • 弱小学会は大規模出版社に抱え込まれて、どんどん価格上昇に向かう
    • 土屋先生による要約:出版社は電子ジャーナルの時代になって、企業としての成功を遂げてきている。それに対して対応する大学、研究者側は問題の正しい認識がなく、現在提案中の方法もどれも中途半端
  • 図書館側の変化
    • 問題について、研究者や大学経営者と根本的な原因にぶつかることをしていない
      • ハーバード大学、カリフォルニア大学デジタルライブラリー等はあるが、それらはisolatedな話に過ぎない。大半のところでは対症療法にとどまっている
      • 図書館がやっているのも対症療法=グループ契約
    • 図書館が学内で話すときはcollectionをどう作っているか、誰が読んでいるのかということではなく、研究成果やサービスの評価(ダウンロード数など)の議論になってしまっている
    • 予算不足なので電子ジャーナルの価値と必要性をさらに強調する
    • どれだけのコレクションにアクセスできるかが図書館の重大な関心事になっている
    • 印刷版をまだ持っていることが色々な形で問題になっている。印刷版をシェアする動きも
    • 予算に限りがあることが、必要は発明の母になり、新たな集団行動を引き起こす可能性も?
    • 今後についての明暗は(サンビルさんは)持っていない
  • コンソーシアム合併の背景と動向
    • コンソーシアムは政治的にも経済的にも上手に合併しないといけない時代
    • 州を超えたコンソーシアムは非常に強力だが、地域との連携は難しくなる。
    • Lyrasisは大きくて動かし方に困難も。Lyrasisを一般化はできないが、他にも大きな合併は起こっている
      • 経済力の低下や支援の打ち切りによる
    • サンビルさん自身は・・・国としてのコンソーシアム、が政治的にも経済的にもいいのだと考えている
      • アメリカはどうもできそうもないが・・・
    • もっとも重要なのは、コンソーシアムでどういう活動をするか
      • メンバーが経済的にアクセスを拡大するという第一目標があることをちゃんと理解することが、他の目標の達成にもつながり、個々ばらばらな伝統的やり方にもとらわれなくなる
    • 伝統的な大きな図書館が勝手にやっている、というのはOhio Linkの頃から批判的だった
コンソーシアム交渉の原則について
  • コンソーシアム交渉の原則の前に
    • 14の原則。特に1と2に基づいて他の全ての原則を導く
      • それがうまくいくかはライセンスが集中化されていて予算が集中しているかにかかっている。集中していれば原則をどう動かすかの選択ができる
      • Ohio Linkはかなり大きな予算を州から得てやっていた。基本的には全ての出版社のコンテンツをローカルにロードする方針によって、克明なusage logを取ってさまざまな交渉をしてきた
        • 20人弱の、技術的な専任スタッフがいて、サーバを動かし州内の80数大学とコミュニケーションしてきた。その経験に基づく。
  • 経済的原則
    • 1.費用あたりのコンテンツとアクセスが劇的に増えるものではなくてはならない
    • 2.経済的に持続可能なモデルでなくてはならない
    • 3.利用し続けるために支払い続ける、いまのサイトライセンスよりもいいものでなくてはならない
    • 4.グループ契約は個別契約よりも決して多くを支払うことはない
    • 5.個別の図書館がいいめを見ているなら、それを図書館レベルに広げないといけない
  • 構造的原則
    • 1.永久アクセス、アーカイビング、保存のニーズを反映しなければならない
    • 2.プリントも電子も出所は1つなのでうまく運用する
    • 3.ILLとの相互補完
    • 4.カレントと過去分は別々に考えるべき
    • 5.アクセスを提供する最良のビジネスモデルと実際のニーズを混同してはいけない。それらは同じものではない
    • 6.フリーライドや低額参加は悪いことではない。非常に安い価格で参加している館は国立大学の中にもあるが、悪いことではない
    • 7.外からは見えないコミュニケーションの枠組みを作らなければいけない。どういうグループ交渉をしているかは隠す
    • 8.ベンダーにはどこから予算が出るかは明かしてはいけない
    • 9.幅広く交渉するときには協力体制を一層強力にすることが必要だ
北米図書館の予算状況と将来予測
  • アメリカの大学の状況・・・楽観できない
    • 州立大学の多くはどんどんお金が減っている
      • これからさらに状況は厳しくなると予想される
      • 図書館への予算の出し方は州によっても違う。コンソーシアムも厳しくなるかも?
    • 私立大学も寄付などが減っている
  • どうしたらいいか、の明確な答えもない
    • グループ契約等が進んできたことで、小規模出版やOAに予算がまわらない、という損失も
    • 予算が減ると、図書館は出版社に価格譲歩を引き出すために「もう買わない」と言う、ということも起こる?
  • コンソーシアムを作ることの個別の図書館にとってのメリット
    • みんなが協力することでメリットを得られるいくつかの優先事項は存在する
      • 最優先、というのは別々にあっても、幅の広いアジェンダを設定したコンソーシアムが必要
      • 国立情報学研究所と国公私立大学のサインした内容も幅広いものになっているが、あんなようなもので、という意味
      • その中には発見、供給、アクセス保障、効率的オペレーション、世界的・国内的政策など全部取りこんでしまうのがいいのではないか
      • Ohio Linkが上手くいった一因は、多様な州内の大学が全て何らかの利益が得られたこと。協力が最良、というのを生み出した
  • 巨大コンソーシアムの組織構造のあり方
    • 日本でもし巨大なものが作れれば500〜600大学になる
    • 金とポリティクスをうまく組み合わせるのが重要、というのは前述の通り
    • ガバナンスの実際の形成は場所によっても異なるだろうが、強いガバナンスは大事。政策、戦略、経済資源のガバナンスは教育・研究の責任的立場にある人が直接参加すべき。図書館はそれに巻きこんでいく、組織の成功における図書館の役割を責任者に理解して貰うことが大事
    • 実際のコンソーシアムの運用、実行への落としこみを考えた場合にはコンソーシアムの管理者や図書館員が行うべき。委員会のメーリングリスト等で運営するのではなく、強力に集中したコンソーシアムスタッフを置くべき
    • すべてのステークホルダーを巻き込むことがコンソーシアム成功の鍵




休憩タイム



現況報告

「国立大学図書館協会(JANUL)電子ジャーナル・コンソーシアム 〜過去・現在・未来〜」(尾城孝一さん、東京大学附属図書館)
  • JANUL電子ジャーナルコンソーシアムの活動の過去を振り返り、現状を総括し、これから先どういう方向に進もうとしているかお話しする
    • これまでのコンソーシアム関係者・・・あわせて131名
    • 中には既に鬼籍に入った方も含まれている。こうした方々の献身的努力によってコンソーシアムの活動は支えられてきた
  • 国立大学図書館協会の概要
    • 91の図書館を会員とする組織
    • 会員間の緊密な連携により様々な活動
    • その中でも近年は電子ジャーナルの活動
  • JANULコンソーシアムの概要
    • 電子ジャーナルの安定的提供により学術情報基盤を確立する
    • 学内・大学間の情報格差を解消する
    • 2000年に設立
    • いわゆる「オープンコンソーシアム」。緩やかな結び付き
      • Estelleさんの話にあった「オプト-イン」モデル。
      • 交渉窓口は一括化しているが、契約を結ぶか否かは各大学の判断にゆだねられている。予算が一元化しているわけではない。契約・支払いはばらばら
  • コンソーシアムのライフサイクル
    • 萌芽期、初期発展期、発展期、成熟期、解消またはメタコンソーシアム期、があるとされる
    • JANLUJANUL(2010-12-07修正)は成熟期の終わり(笑) 成熟し切ってしまった、と思う。
    • 萌芽期・・・コンソーシアムの活動に先んじる、準備的な段階
    • 初期発展期
      • 準備期間を経て、2000年9月に電子ジャーナル・タスクフォース設立
    • 発展期
      • 2002年以降、対象出版社も増加
      • 文部科学省から「電子ジャーナル導入経費」の予算措置
      • 2003年から合意対象出版社は13社、国立大学の平均利用可能タイトル数は3,800に
      • 出版社交渉以外に・・・利用動向調査、研修会、他のコンソーシアムとの連携の模索、ICOLCへの参加
    • 成熟期
      • 2004年以降・・・成熟期に入った
      • 交渉対象リソースの拡大。カレント以外にバックファイル、電子ブック、人社系の電子コレクションに対象拡大
      • コンソーシアム組織を現体制に整備
      • 次のフェーズに向けて、成熟期で終わってしまうのではないように、メタコンソーシアムへの発展に向けた準備
  • コンソーシアム活動の成果・・・
    • 1990年をピークに冊子体の外国雑誌購読タイトル数は減少
    • 電子ジャーナルは多く読めるようになっている
  • 国立大学・外国雑誌の経費
    • Elsevier、Wiley-Blackwell、Springerの3社で全体の半数以上
  • 規模による大学間の平均受入数の格差
    • 電子ジャーナル導入以前は大きな格差、電子ジャーナル導入で縮小
  • 電子ジャーナルの利用実態・・・SCREAL調査(2007)
    • 結果から:化学、生物学、医学、歯学、薬学では回答者の半数以上は電子ジャーナルを「ほぼ毎日」使っている
    • 人文社会系でも電子ジャーナルの利用者は増えている
    • 年齢によらずみんな電子ジャーナルを付けっている
    • 電子ジャーナルは我が国の学術研究を支える基盤の地位を築いている
  • しかし将来に向けた課題・・・基盤は盤石?
    • 組織の問題:出版社の交渉を中心とするコンソーシアムの活動は・・・何人かのボランティアに依存
      • 情報の収集、分析、シミュレーション等を十分に行えない
      • 活動にかかる知識・経験の継承も容易ではない
      • 現在の体制は限界に達しつつある?
    • JANULとPULCはJCOLCを構築したが、その活動は限定的
    • ビッグ・ディールを維持することが困難になっている
      • その代わり、毎年の値上がりが図書館・大学の予算を直撃する
      • しかしやめると、アクセスできるジャーナルの数が激減する
      • 値上げを伴わずにアクセス可能にしたい
    • コンソーシアムの問題・・・JANULはこれ以上会員が増えない。コンソーシアムとしての力をこれ以上増やせない
      • 学術コミュニティ全体で考えなければならない問題
  • トムさんの話で・・・「コンソーシアムは原因じゃなく状況に対処している」とのことだったが
    • 状況に対処しているだけ
    • 解決策と思われる法則・・・JANULとPULCの連携強化+NIIの協力
    • コンソーシアム連携で難しい状況を乗り切っていきたい
  • 解決策としてのコンソーシアム連携
    • バックファイルを含む電子ジャーナルの確保と恒久的アクセス手法、ほか
    • 詳しい組織案の説明
      • 新組織に伴って今のJANUL、PULCは暫定的に解消
      • 実現すると参加数は500を超える。かなり大きい
        • 画面を見せつつ新コンソーシアムの試案について説明
        • 将来は電子リソースの総合ユーティリティを目指している
  • 最後に:
    • 常に未来は不安なものだと思うが、こうした不安がある。それを解消し電子リソースの基盤をより確かなものにするために、連携に向けて一歩踏み出したところ
「公私立大学図書館コンソーシアム(PULC)2003〜2010 PULCは何をしてきたか」(中元誠さん、早稲田大学図書館)
  • 課題と展望については尾城さんと話が重複するので、私はPULCとして何をしてきたかを中心に話したい
    • PULCは私立大学図書館コンソーシアムとして2003年からスタート。何をしてきたか、時系列で萌芽から現在まで扱いたい。
    • 尾城さんのお話のライフサイクルの中でPULCはどういう状況にあるか興味深いが、今日のハンドアウトでPULCは発展期にあるとなっていた。本当かな?
    • 今後、国立大学と歩調を合わせて日本の大学図書館が全体で取り組まないと、というのは共有していると思う
  • PULCは何をしてきたか
    • 1999 Elsevierの円価格・並行輸入問題
    • 2000.6 私立大学図書館協会、日本医学図書館協会、日本薬学図書館協議会、「外国雑誌の価格問題を考えるシンポジウム」開催、公正取引委員会に申し立て
    • 2002 公正取引委員会から独禁法違反ではないとの裁定。データベースの導入でいくつかの大学がコンソーシアムを組み始める
    • 2003 私立大学への文科省補助金制度開始。データベース向けコンソーシアムの実績を踏まえて「私立大学図書館コンソーシアム」の呼び掛け
      • データベースのコンソーシアムに関わった大手私立大学が手を挙げる
      • コンソーシアムは私立大学図書館協会の外で、手を挙げれば4年制私立ならどこでも参加できる
    • 2004 参加館に対する購読実態調査実施(〜至現在)。版元説明会開催。参加する4年制私立大学が100を超える。PULC限定の利用実態調査も実施
    • 2005 電子ジャーナルバックファイルの共同購入をNII、JANUL、PULCで取組み。なかなかうまくいった
    • 2006 公私立大学図書館コンソーシアム、へ。公立・私立全体のアンブレラになる。
      • ガバナンスは幹事会で運用。組織が大きくなるにつれてガバナンスも拡大。公立大学も幹事に参加
    • 2007 国公私立大学の電子ジャーナル利用実態調査・・・SCREAL調査。
    • 2008 参加大学が300を超える
      • 組織がどんどん拡大している、ということでは確かに発展? どこまで大きくなるのかはわからない
      • 2010.11には382大学(私立325、公立56、その他=防衛大学校1)
    • 2010 CLOCKSS、NII、JANUL、PULCで電子ジャーナルアーカイブの国際連携について協定を締結
  • 購読実態調査の結果
    • 注目すべき点・・・小規模大学、中規模大学は2006⇒2009で参加数≒回答数が急増、大規模大学は23前後で一定
      • 今後も増えていくとすると小規模大学が、幅広いすそ野を代表する形でPULCに加わってくるのではないか
    • 各規模において・・・電子ジャーナル契約数、データベース契約数の伸び率は?
      • 小規模の2006⇔2009は電子ジャーナルタイトル数伸び率300%超、データベースは400%超、お金の伸び率は195%
      • 中規模の伸び率はタイトル数500%超、支払いの伸びは180%超
      • 大規模・・・タイトル数200%超、支払いの伸びは135%
    • しかしこのまま伸びていくのか?
      • 心もとない・・・
  • コンソーシアム参加による経費削減率の試算(2006年PULCの場合)
  • 2003年度から私立大学には電子ジャーナル導入の補助
    • 事業経費としては右肩上がり
    • 補助金と経費の間はどんどん広がる。電子ジャーナル・データベースの導入は進むが、補助金の充足率は下がる
    • 採択されている大学の数は増えている
    • 補助金総額は36億円。非常に貴重な基盤
    • 電子ジャーナルデータベースを支える財政基盤を考える場合、私立大学の場合は政府からの資金援助が大きな要素を占める。
  • 課題として抱えているものは?
    • 国立大学と状況はあまり変わらない、コンソーシアムのガバナンス
      • どう作っていくか?
      • 新しいガバナンスのもとで、コンソーシアムに入ってこない裾野の拡大・・・スケールメリット
    • 資金の流れをどのように考えるか
      • まだまだ課題は大きい。即解決するのかもよくわからない。
      • 新しい枠組みの中でやっていきたい。

ディスカッション

ショートコメント1:古田元夫先生、東京大学附属図書館長・教授
  • 図書館業界と言う立場で見ても、ビッグ・ディールと表裏一体だったコンソーシアムからどう、次のコンソーシアムを作れるのか、が大きな課題と認識している
    • ビッグ・ディールの功罪はお話にもあったとおり。歴史的意義が大きかったことは明確。冊子体時の支出をそれほど超えない範囲でアクセスが増大した。格差も縮まった。大きな意味がある
    • 一方で、このモデルである限りは出版社主導で、出版社の値上げに大学が従わざるを得ない。他方で財政は応じられない、対応できない
    • 相対的にはお金がある東大だが、もはやニッチもサッチもいかない
  • ビッグ・ディールが大学共通経費になったことで・・・一般の教員の危機感が低下
    • 電子ジャーナルの問題を自らの問題として大学教職員が受け取りづらい
  • 次世代の学術情報を我々はどう扱うのか?
    • ボランティア組織ではないコンソーシアムで、学術情報全体のモデル作りに積極的な役割を果たせるコンソーシアム
    • 公私立大学と一緒に作る中でそこを追及していきたい。今までの話は私自身にとっても有益だった
ショートコメント2:深澤良彰先生、早稲田大学理工学術院教授
  • 私が前にいるのは・・・1998年-2002年まで、早稲田大学図書館のシステム担当副館長だった
    • OPACシステムを変えた頃
    • 当時の裏で問題になっていたことが電子ジャーナルの価格
    • その後、私情協の理事として活動。コンソーシアムとして活動するほかに、国からの支援を貰うことで対応しようとしてきた。
  • 中元さんのスライドの最後にもあったが、2008年までは補助金が増えていたのが、2009年からはいくら払っているかではなく、いくつ購読しているかで補助金を出すようになり、図書館のための補助である、という部分もクリアではなくなった
    • 2008年段階で36億円の補助を、300以上の私立大にばらまいてきた。それをもっと有効に使えないか?
  • もう1つの視点・・・早稲田の図書館の方はPULCのメンバーとして出版社と厳しい交渉をしていたが、一般には私立大学図書館の人はお公家様
    • 本が好きでそれを扱って生きていきたい。出版社の野獣のような人とやり合うのは・・・
    • お公家さんでは交渉では負けてしまう。中元さんのようなやくざがいる。その力をいかに結集して闘って行くのか
  • 3つめの視点・・・日本学術会議の委員会メンバーとして、コンソーシアム間の連携強化の施策を考えている
    • そこで専任の人としてやくざを置く、ということを提言してきた
    • 連携に向けて一歩踏み出せたことには大きな期待をしている
  • この3点がキーだと思うが、さらにそのベースにあるのは大学図書館と出版の戦いは大学の負け戦だと思っている
    • いつから負け戦になった?・・・寡占化が進んでしまったときからもう負け戦になってしまっている
    • 寡占化が起きているものは周りに多い。例えば牛丼は吉野家すき家松屋。そこは値下げ戦争をしている
      • 値下げ戦争が起こるのは味は別のところが好きでも、安ければ別に行く
      • しかし研究者としては「これはいい成果だからあそこのジャーナルへ」、「関連するいい論文はここに載っているから見てこい」と言ってしまう、高かろうが安かろうが。そういう構造である以上、大学は出版に勝てない
    • できることは・・・有利な状況で講和条約を結ぶこと、そのためには先の3点(コンソーシアム連携で力を蓄える、その交渉をするやくざを集める、国のお金をいかに有効に使うか)があると思う
ディスカッション(司会・逸村裕先生、筑波大学大学院図書館情報メディア研究科・教授)
  • パネリスト
    • Lorraine Estelleさん
    • 古田元夫先生
    • 深澤良彰先生
    • 土屋俊先生
    • 安達淳先生(国立情報学研究所学術基盤推進部長・教授)
    • 尾城孝一さん
    • 中元誠さん
  • 逸村先生:はじめに会場の質問から。Estelleさんに。Electronic information resources working groupについて、詳しく説明をいただきたい。
    • Estelleさん:このWGには12人のメンバーがいて、ほとんどは大学図書館長。所属は様々。研究大学も教育大学もある。また、複数名、serials librarianも関わっていて、日常的な契約の進行状況について情報を提供している。オブザーバとしてイギリスの国立図書館の人も参加している。集まるのは年4回、ほかにlistservも。
      • 果たす機能は主に2つ。1つは交渉担当者にディールについてのアドバイスをする。条件が満たされない場合に、いつコミッティ側に指示を仰ぐべきかなども。
      • もう1つは様々な研究・調査のスポンサーをすること。最近では、査読のコストを推定するというのがあった。別の研究では、C. Tenopirが中心になったものだが、学術機関の投資に対するReturn on Investment(ROI)の研究も行っている。投資の結果どれくらいの見返りがあるかの研究。
  • 逸村先生:続いてEstelleさんに。「日本にとって」という話の中で、コンソーシアム運営では参加者に逃げられないことが重要と理解したが、小規模大学に逃げられないために効果的な説明としてはどのようなものがある?
    • Estelleさん:むずかしいところではある。コンソーシアム内での結束の維持は困難。また、質問は「小さな大学を」とあるが、出版社が直接交渉しようとするのは大規模大学。「あなたのところなら特別な条件でやりますよ」と直接交渉しようとしてくる。コンソーシアム内での結束を強めるにはコミュニケーションを強めることが重要。全メンバーに交渉の状況を知らせておくことが重要。また、効果があったこととして、私と同僚でロールプレイをしてみたことがあった。私が交渉者で同僚が出版社。私がコンソーシアムから離れる役割を演じたが、そのロールプレイ中で同僚はポケットから電話を取り出して電話のふりをして、「今、ある大学が特別な契約を・・・」と言って交渉を進めようとする、というのを演じて見せた。
  • 逸村先生:では尾城さん、中元さんに。
  • 尾城さん:いただいた質問でJNLCについて、というのがあったのだが・・・会場で、どなたか詳しい方がいらしたら説明を。
    • 会場:JNLCとは研究関連の独法のコンソーシアム。3年前から、連絡会を行っていて、それ以外はメールベース。始まったばかりなので活動内容としては情報共有とコンソーシアム交渉。去年、2年目のときにACSと契約成立。現在も他の出版社と交渉を継続中。
  • 尾城さん:質問の趣旨がわからなかったが、大学図書館以外のコンソーシアムとの連家も意識はしている。将来的には国研のコンソーシアムとか、日本には医学・薬学図書館関係のコンソーシアムもあるので、そういったコンソーシアムとうまく連携・協力していきたい。しかしまずは、JANULとPULCの結び付きを強めて、そのコンソーシアムを軌道に乗せることがまずやるべきことと考えている。いきなりall Japanのコンソーシアムを、と言っても、それぞれの歴史的背景も異なるし、コンソーシアムを構成している機関の形態も母体も全く異なる。その調整は慎重にある必要があると思う。コンソーシアムは参加機関の数だけ増えれば強化されるわけではないと思うので、まずは大学図書館のコンソーシアムの連携強化を目指していきたい。
  • 土屋先生:個人的意見。今の尾城さんの意見はそれでいいが、自分は国研との連携はナンセンスと思う。academicとgovernmentはpricingのあり方が違う。
  • 中元さん:土屋先生のご意見は一つの意見として。交渉人の育成について、それを育てるプログラムは存在するか、その経験を共有・公開することは可能かという質問をいただいた。常識的にやくざの育成プログラムはこの世にないので難しい気はするが、私立大学図書館に限らず、大学図書館図書館界全般にも言えるのかも知れないが、お公家様ということで、穏やかな職場の環境、穏やかな職業人としての一生、というイメージが世間にはある。しかしコンソーシアムで野獣のような・・・先生の言葉で私の言葉ではないが・・・野獣のような出版社とやくざな大学図書館が切った貼ったする、というのは、図書館界全体に幅広い人材が求められているのは間違いない。これは育成と言うことではなく、伝統的な図書館業務に精通することはもちろんだが、新しいプロフェッショナルも求められているのは確か。そうした人たちを大学図書館の世界に引き込んでくる努力もしないといけない。それがやくざかは知らないが、野獣のような出版社の人は現実に・・・野獣かは知らないが、近い方法を取る、口では穏やかなようでちょっと離れて見れば野獣、という人は現実にいる。人材育成プログラムも内部的に必要かもしれないが、すぐには思いつかない。
  • 尾城さん:優れた交渉人は、出版社との間の交渉の現場に身を置いて、その中で育っていくものと考えている。実際、私もコンソーシアムの中で出版社との交渉を10年くらい前から、断続的に関わっているが、10年前は私もお公家さんのような図書館員だったようですが、今隣にいらっしゃる土屋先生とかと一緒に出版社と交渉する中で、だんだんお公家さん的要素が薄れてきたなあ、と実感している。そういう意味では、今度作ろうとしている新しいコンソーシアムの組織の中で事務局をNIIに置く。その中で、実務研修員という形で各大学の若手の方々を受け入れられる制度を作ろう、と話をしている。最前線の現場に身を置かないと駄目なんだろう。後ろの方から見ていても、たぶん駄目。そういう制度ができますので、野獣のような図書館員になりたい方は是非、一緒になにかやれるようになればいい。
  • 深澤先生:基本的にはOJTしかない。やくざでいう舎弟から修羅場を味わい、だんだん組長になる。そういうプロセスしかないが、重要なのは、そういう素質の持ち主を見抜くこと。やくざになりうる素質を見抜ける管理者が必要。皆さんの中に館長だとか事務のえらい人がいれば、そういう方を見抜く能力を養っていただきたい。
  • 古田先生:この場にいるのは図書館関係者が大半なのであえて言わなくていいかもしれないが、交渉人の養成と言うと「商社で経験がある人を・・・」とか「弁護士で・・・」とかいう話がすぐ出てくる。しかし、ここで問題になっているのは、学術情報と言う商品であって、A社が駄目ならB社、という世界ではない、というのが基本的問題。それはやはり図書館のことに精通しているお公家さんをなんとか訓練してやくざにする、というのが、回りくどいようでもきちんとする、ということ以外に方法はないと思う。
  • 土屋先生:もっと簡単な道がある。出版社の人が野獣なら、出版社の人を雇えばいい。ただちに野獣のような図書館員が生まれる。給料が下がってもいいならぜひ。
  • 尾城さん:でも今の出版社の人たちってそれほど野獣っぽくない。そこらへんにもいるけれど、それほど怖くない。
  • 逸村先生:野獣とやくざから離れよう(笑) 他に質問は?
  • 尾城さん:現在のJANULでは利用データを十分に分析できていない、との指摘があった。確かに利用のデータは交渉のためにも重要。午前中のEstelleさんのお話にもあったSUSHIというプロトコルを使えばCOUNTERという標準的な利用統計データの集約は簡単。それができないのは、ワークコースが足りないからそこまで手が出せていない。手が増えればすぐにでも出来る。JISCのような形で、usage statistics portalを作るのはすぐにできる。
  • 尾城さん:もう1つJANUL関係。成熟しきったというJANULについて、オープン型の功罪分析と別のコンソーシアムモデルの検討等、推進すべきことがあったのでは、との指摘。確かにあったかもしれないが、過去を振り返っても仕方ない。今後の新しい組織の中で、色んなモデルについても検討して、有効なら取り入れていきたい。必ずしも今のオープン型、オプト-イン型に固執しているわけではない。変わらねばいけないときは変わりたい。
  • 中元さん:ガバナンスについて考えることへの質問があった。ガバナンスは重要。NIIと国公私立大学図書館協力委員会の橋渡しをする、連携強力推進会議というのができる。その下で、電子ジャーナルコンソーシアムの連携や、包括的な事業項目にあがっていたものも推進したいと考えている。新しい仕掛けで事態が改善するかはまさにこれから。
  • 中元さん:もう1つ、ILLの今後について。ILLそのものは現在のJANUL、PULCが交渉している価格モデルの中でも条項は必ず盛り込む。電子形態でもILLに提供できる契約になっているが、実効性をどうもたせるかは、現状ではまだ執行段階。アクセス格差が縮まったことは事実だが、格差は存在する。すると、ILLの一極集中も容易に想像出来て、慎重な対応が要る。ただ、情報格差の解消のために作ってきたILLを将来どうすべきかは、今後の課題。
  • 土屋先生:課題は今後のものに決まっている。ILLについては僕も調べているが、外国雑誌へのILLリクエストは基本的に半減〜3分の1へ。普通の感覚ではいつ止めるかを考える時代。いつ原始的な手段に頼るのを止めるか。その時、どう代替手段を作るかを考えるべき。いつまでNACSIS-ILLを使うのかは、そろそろ考えるタイミングではないか。
  • 安達先生:今回のコンソーシアムはNIIにとって有り難い組織で、従来からやってきた目録等の事業を本当に大学図書館のものとして運用する、その際に国公私を超えた大学にNIIが貢献できる場が与えられた、と認識している。ということで、今から振り返れば国策でやってきた色々な事業を21世紀の中で今後、今まで培ってきた価値をsurviveし発展するためにどうやっていくかを議論し、方向を定めていく枠組みができたと思う。主たる関心は電子ジャーナルだが、NIIとしてはより広いフレームワークで捉えている。ILLだけでなくCATなどもこういった場で真剣に議論し、それを自らのものとして責任を持っていく人材がこうした場で活躍することを強く期待している。連携、とはよく言うが、具体的に金、人、場所で協力する。
    • 交渉人についてだが、まず金があれば交渉力が増す。まず金を集めたい。それから情報。JISCと同じように分析して判断・決断につなげたい。そして何より必要なのは理念。理念がない限りアカデミックでも安いのを買っておけばいい、となる。理念を持って、何をするのがいいことなのかを大学の意志として出していける場ができた。そういうところで人材が育っていく場を、提供できることは大変光栄に思うし、今後もこれを支援し、きちっとコミットしていきたい。
  • 逸村先生:本来は質問が終わったところで今の安達先生の話だったのだが・・・他に質問は? 事前にはない? それはちょうど良かった。他に会場から追加の質問はある?
  • 会場:土屋先生に。ILLについて。いつ止めるか考えるべきというお話だが、これからどんどん必要になるとは私も思わないのだが、ちょっと出番はあるかもと思っていた。止めたらいい、というのはどういうパースペクティブ
  • 土屋先生:電子的ILLの可能性を考えないといけない。どこに何があるかの情報についてはNACSIS-CATに頼っている、NACSIS-ILLでは。しかしCATにおける電子ジャーナルの扱いはよくわからないことになっている。そこをなんとかして、どこの大学が何を持っているかの情報が一元管理されて欲しい。それが今までのCATのやり方でできるか、なんとかしたい。もう1つは、紙の送りっこ、というILLのスタイルはもういくらなんでもないだろう。そういうことはNDLさんにやってもらえばいい。しかし電子的ILLについては出版社の抵抗も根強い。印刷版を郵送すれば・・・という契約が多いが、そこをこそ、コンソーシアムで連携して交渉しては。そこで「ユーザにはこれをさせないから」みたいなことの押し引きはあるだろうが、そうなれば今のような紙のコピーの郵送によるILLはなくてもいいだろう。
  • 逸村先生:安達先生、なにか。
  • 安達先生:私どもの研究所は使われなくなったサービスは止めて他に投資するよう外から言われ、自ら努力もしているが、現実には始めたサービスを止めるのは難しい。学会のwebのホストも止めると言ったが、「続けて欲しい」と言われている。私としてはサービスを止める、という意識はなく、いらないよね・・・と思われたものからは新しいサービスに行く。
  • 土屋先生:ILLのシステムにお金はかかっていないが、図書館全体として人件費にお金がかかっている。そこをどうする?
  • 安達先生:電子化したらお金はいらない、とは思うだろうが、今の日本では何かを止めるとどこに悪影響が及ぶかわからない中で、サービスを止めるというのは・・・
  • 土屋先生:サービスを止めろと言うのではなく、図書館で考えれば、という。
  • 安達先生:図書館でそれが物凄い負担なら話せばいいだろうが、プライオリティは別にあるのではないか。そこにプライオリティがあるなら議論すればいい。
  • 土屋先生:人を確保しなければいけないときに極めて労働集約的なものをどうするか、というのは図書館が考えるべき。使われなくなっていつの間にか消えるというのは綺麗だが、どこかで学会のwebのように決断しないといけないのだろう。
  • 慶應義塾大学・市古みどりさん:私の立場でこんな質問をしていいのかはわからないが、人件費の話があったので、今回の新しい組織について。今のところ手弁当と言うか各大学がそれぞれ負担をして人を出す流れになっているが、実際問題としてそれを大学に持って帰った時に、大学がお金を負担することの意味をうまく説明できないと、それをやることで大学にどういう効果があってどういいかを説明できないと難しいと思う。うまく納得して貰う妙案があれば。私の大学でも、そういうところに踏み込んでいけないと、という意見もいただいているのだが、どう説明するか悩んでもいる。
  • 土屋先生:深澤先生をどう説得すればいいか、ですよね?
  • 深澤先生:私は研究推進と情報化推進担当の理事なので気は楽ですが、理事会に上がって来たら理事会はノーと思う。早稲田大学の人間が外に出ていくときは、必ずその分のお金をいただいている。フルタイムならフルタイム分の給料、3日出るならその分を貰うのが普通。その状況で今回は特別だから手弁当、というのでは通らない。逆に言えば財源をどこかで作ろう、というのが私の案で、文部科学省のお金やNIIにたかることを考えないといけない。
  • 土屋先生:もともとこういうときは国立大学の図書館がイニシアティブをとって、どこかの部課長と話をすると、審議会でお墨付きがつけばやっていた。その前提と言うのは、学術情報課が昔は大学に50億円くらい渡していたものを運営費交付金に持っていかれて、今はもう情報課に手持ちのお金はない。
  • 深澤先生:でも私立から見れば私立には36億円出ている。36億円から5,000万円抜いて渡す、とか。
  • 土屋先生:それは運営費交付金と似ていて、大学にすべて渡しちゃったんだから各大学が持ち寄ってやるのが筋、と言われる。JISCがどうしてうまくいっているのか聞くのがいいのでは?
  • 土屋先生:いわゆる連合王国なので、4王国がそれぞれに高等教育のファンディングを持っていて、その規模に応じて情報関係の経費をGB全体で使う枠を作っているのがJISC。そこからJISC collectionsのお金が出ている。日本は途中がない、各お金は直接配られる。間を作ろうとしても難しい、というのが違いかと思う。
  • 安達先生:JISCのいみじくも出た、top-slicingということについて聞きたい。日本でやるなら、国立大学に出ているお金のうち5%は情報インフラに使う、となれば相当のお金が大学の情報基盤として確保できる。HEFCEの持っているお金の数字が、しかし全然出てこない。パーセンテージで決まって、政府が変わってお金が変われば変わるのか、top-slicingというのは理念的なものでHEFCEがお金をいくら出すか決めているのか。日本の政府を説得するのにUKでやっている、というのは非常に影響を受けると思うので是非知りたい。
  • Estelleさん:非常に複雑で難しいが、連合王国についての理解しなければならない点として、政府が直接大学に資金を交付することはない。政府の直接拠出は大学の自治への介入、と見られる。政府は各国の高等教育助成会議に資金を提供し、助成会議はJISCにどれだけの資金を提供するか決めている。大学に配分される前にまずJISCに提供される。これは全国レベルでいかに効率的にお金を使うかを指してもいる。全ての大学について、いかに効率的にお金を提供できるかを指した言葉。実際に出す金額はHEFCEが決めている。パーセンテージについては存じないが、トータルから見ると非常に小さい。
  • 土屋先生:深澤先生の試算なら大学の予算の4〜5%が情報関係予算で、それに電子ジャーナルは含まれていないという。
  • 深澤先生:早稲田の全予算の3〜4%が情報関係。その中に図書館は入っていない。
  • 土屋先生:そこから考えると、1兆の5%くらいが目安かな、安達先生?
  • 安達先生:500億円あれば。今はNIIは100億円の攻防戦、その60%はネットワーク。500億円あれば・・・
  • 土屋先生:でもベンダーの人いるからここで値段言っちゃだめだよ(笑)
  • 安達先生:この場を借りて御礼申し上げたい。パブコメにたくさんの意見が来て、かえって多すぎると言うくらい。NIIとしては、図書館等の経費が運営費交付金にまぎれてダイレクトに図書館をサポートできなくなってきた、ということについて、どうにかお金をとって工夫したいと考えている。ただ、もともと大学共同利用機関で、教育よりも研究主体で、プロジェクト経費しか取れない。日本の審議会で考え方を緩めていただければ、もっと活動の幅も広がる。いろんな場でそういうことをおっしゃっていただけると有り難いと思う。私どもの機関として、努力の範囲と言うか、できるだけ予算を確保するというのはしたい。それがストレートには使えない状況もあって、機関リポジトリは出来てもコンソーシアムの人件費にはストレートに使えない。そこはうまくお金を出す工夫を。機関リポジトリは大学もお金を出すし、として転がしている。国立大学には運営費、私立大学には助成、と行くものには使途を書いていないので、その辺をうまく工夫することが重要だと思う。NIIが全部お金を持つのは昨今の事情だと非常に困難。みんながお金を出し合うことは今後ますます求められるだろう。ぜひ、その辺については先鞭をつけて、国公私を超えたコンソーシアムとしてうまく機能するものにしていきたい。
  • 土屋先生:続けて。理念が大事と言うことで、大学の理念の問題もあるが、図書館に関しても図書館間協力がどうしても必要なんだ、というのを過去の活動の実績からもっと主張しないといけないんじゃないだろうか。ILLが極めてシステマティックに動いているのはその一つの形態だが、それだけが図書館間協力ではない。今回のコンソーシアムもあるし、そういうことへのコミットメントが重要。大学にいると、出張するとすぐに「それがうちの何の役にたつ?」と聞く上司がいたりするが、なんで1つの図書館ではうまくいかないのかについて自分で説明できないといけないのだと思う、その理念の共有が進んで欲しいなあ。
  • 深澤先生:その理念の問題は何かって言うと、コンソーシアムが大きくなると色々な大学が入ってくる。私立には国立より小さなところもいっぱいある。英語のジャーナルなんかいらない、というところもあれば、大きな規模で研究型のところもある。国立大学より広いレンジをPULCはサポートしてきている。連携して大きくなるのは力も増えるし重要だが、各大学の個性に対しどうアジャストするのかのお知恵を借りることが必要。前に座っているのはでかい大学の人ばかりでこういう議論しても面白くない、本当はもっと小さな大学の方のご意見も聞きたい。
  • 尾城さん:規模が違う大学でコンソーシアムを作る、その間の利害対立をどう調整するか。おそらくそれはイギリスでも同じようなことが起こっていると思う。200くらいの大学がメンバーであるJISC collectionsでも起こっているのではないか。JISC collectionsにはJournals WGがあると思う、図書館員のWGがあると思う。そこには大規模から小規模まで入っているとのことだが、その辺を少し。
  • Estelleさん:確かにJournal WGはあった。過去形なのは、これが電子情報リソースWGになったから。そうなったのは、現在の世界では1つのフォーマットに拘ってWGを作るのは理にかなわない、と思ったから。Elsevierとやり取りするとき、Elsevierはデータベースも電子書籍も扱っている。だから名前を変えた。また、ご指摘のように色々なタイプの大学と幅広く連携しようということで、出身母体の大学は様々。規模も違うし、研究主体と教育主体かなど。幅広い人材と一緒にやるのは重要なことでもある。
  • 土屋先生:そんな形で人を集めないといけないのだろうが、そこで考えていただきたい、集まる側の人に考えていただきたいのは、我々はどうしても自分の大学のことだけを考えてしまいがちだが、小規模大学なら自分だけでなく小規模大学全体、という視野を持ってほしい。全部のタイプをカバーしようと思えば大学の数だけ参加者が必要でまとまらない。広い視野を持って議論に臨んでほしい。
  • 会場:少し話を戻すが。人件費の話や、今回の連携ではサーバの維持やシステムの維持もお金がかかってくるだろう。NIIに資源があると言ってもそういうところに割く資源がないわけではない、となると、法人かなにかを作って、そこにお金を拠出して貰って、形はわからないがポストを置いてやるとか考えられるのでは、と思ったのだが。そういう風にして集めたお金を使って事業費に使うとか。その辺の可能性についてご意見があれば。中元さんと尾城さんにお願いしたい。
  • 中元さん:ご指摘は確かにその通りで、私もガバナンスどうするのか、やらなければいけないことはいっぱいある、新しいガバナンスのもとで資金の流れをどう作るのか、と話してきた。人件費や、サーバ資源をどうするか等、お金の問題に最終的に収斂する。先ほどからJISCの資金の流れやNIIの資金の流れがどうなっているかであるとか、日本における国の資金の流れ、私学なら補助金、国立なら運営費交付金がある。その辺を整理して新しい流れを作らないといけない、そのために理念、という話だが。交渉人について先ほどから話になっていたが、相手が出版社から役所になってしまった。役所の方がもっと大変かとは思うが、やらないといけない。新しい枠組みを考えないとしょうがない。国からの資金の流れを新しいガバナンスのもとでどう、こちらに呼び寄せるのか。今、WGを作って、具体的に来年の4月からどうするか、再来年から・・・という議論を始めたところ。その枠組みの中でご指摘の提案は共通理解にもなっている。具体的な話はしにくいが。
  • 尾城さん:新しい組織を立ち上げるためのWGの中でやはり人件費を含めた活動資金の確保が議論になっている。当面はNII、大学、図書館の資源の持ち寄りで立ち上げようと考えているが、それはあまりに不安定。なるべく早い段階で独自の財源を作っていかなければならない、という議論はしている。それを確保するための手段はメンバーシップであったり、協会の補助であったり、方策は検討を続けている。財源確保の見通しが立ってから組織を立ち上げた方がいいとも思われるかも知れないが、新しいものを作ってどう変わるんだ、というのを見せてからじゃないとお金は集まらないのかとも思う。立ち上げのときは何人かの力で突破するしかないのではないかな、とも思う。
  • 中元さん:私立大学、小規模が多数なわけだが、ここに視点を動かしたときにall Japanのコンソーシアムとしての活動をどう展開するのかという話になると。PULCでも私立大学の半分しかorganizedできていない。それも十分に出来ているかは定かではない。メンバーシップ・フォーを取っているわけでない、ボランタリな一部の大手の大学図書館が活動しているに過ぎないという実態もある。では翻って、小規模の私立大の実態に目を向けたとき、皆さんご存じだと思うが図書館に専任職員が1人もいない大学がたくさんある。声をかけても届く先がない、という大学が現実にいっぱいある。基盤的整備、あるいは底上げの図り方は依然として課題。国立大学はコンソーシアム立ち上げのときから横の連携が作りやすかった。私学と公立はそこの問題があることもご理解いただきたい。
  • 逸村先生:最後の質問を受けたいが、いかがだろうか? パネリストから何か最後にあれば。
  • 土屋先生:余計なことたくさん言ったが、10年たって、成熟してしまったコンソーシアムが朽ち果てるのみにはならないで欲しい。逆に言えば10年前はこんなあけすけにお金の話できなかった。どこにも財源がない、実際問題として。その中でどうするかは問題になるが、これをやると楽しいのは「国中集めてもこれしか集まりませんでしたから」というのをElsevierに言えるようになる。実現すれば、色々なことができるんじゃないか。電子ジャーナルは図書館の世界において、図書館の仕事が電子化する重要なきっかけでもある。そこにくっついてくることが面白いものもあるのではないか。プリントベースから電子ベースに変わるときに横のつながりができていたこと、NIIのようなサポート体制があったことは素晴らしいことだと思うので、どうぞ頑張って下さい、と他人事のように(笑)



詳しい感想はまた後日・・・としたいところですがこのパターンだと後日に書かないんだよな(苦笑)
Estelleさん、SanvilSanvilleさん(2010-12-07修正)(土屋先生が代演)のお話はもちろんのこと、PULCの話も自分はあまり詳しくなかったので、大変興味深くかつ参考になりました。
その後のディスカッションでも、手弁当での人の割り当ては説得できないという話など、私大と国大の差を感じる話もあり・・・規模はもちろんそうですが、国公私の別を超えるというのはこういう違いについてもお互い理解していくってことなのかなあ、と思ったり。


さて、これにて自分が詳しく記録を取っているフォーラムは(たった2つですが、他の時間帯は聴講ではなく「参加」しちゃっていたりもしたので)打ち止めです。
その他のイベントについて何かアップするかは、今後次第ということで。
というか総合展に参加して他の仕事しなかった分のつけをいつ払い終えられるか次第と言うか・・・

*1:Code4Lib Japan Meeting & Exhibits 2010(図書館総合展フォーラム参加記録その1) - かたつむりは電子図書館の夢をみるか

*2:その論で言えば2日目はDRFに参加していないとおかしいわけですが。っていうか参加したかったですが。L-1とどん被りは辛かった・・・