かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

「出版が変わる、学びが変わる:大学教育改革と電子出版のクロスロードに立つ図書館」千葉大学・大日本印刷株式会社主催シンポジウム参加記録


千葉大学では現在、図書館の増改築を機に「アカデミック・リンク」という新たな構想の実現に向けた事業が展開されています。


この「アカデミック・リンク」構想に関連して、千葉大学大日本印刷DNP)はデジタル環境下の大学における教育研究改革を促進する共同プロジェクトを、今年4月から発足することになったそうで。
そのプロジェクトの開始にあたり、千葉大学DNP共催のシンポジウム「出版が変わる、学びが変わる:大学教育改革と電子出版のクロスロードに立つ図書館」が開催されました!

 千葉大学は高等教育の質の向上を求める社会の要請に応え、大学における学びを変革するために、「アカデミック・リンク」という構想を提案しています。大日本印刷株式会社は、そのような学びを支える出版界の電子化の推進に取り組んできました。両者は、デジタル環境下の大学における教育研究の改革を促進し、日本の現状を打破するために平成23年4月から共同のプロジェクトを発足させることで合意し、その企図に関心を持たれる方とともにこの課題と計画を広く共有し、発展させる場として、このシンポジウムを企画、開催することといたしました。
 プロジェクトの発足にあたり、現状認識を示し当面の取組みを提案する基調講演、実際の大学教育現場からの事例報告、そして、教育・図書館・出版という多角的な視点からのディスカッションを通して、電子出版の時代の中で変わりゆく高等教育の展望・未来像を語り合うことで、出版社、大学、そして高等教育改革に関心を持つすべての人々とともに日本の大学教育と知識基盤の構築の将来を構想したいと考えます。


図書館増改築に関わる新機能、というと昨今はラーニングコモンズあるいは「場としての機能」の話が思いつくわけですが。
今回のシンポジウムでは"「学習とコンテンツの近接」による能動的学習の実現"というアカデミック・リンクの構想と関連して、様々なコンテンツを統合的に提供すること、そしてそれを学習といかに結びつけるか、という点を主眼に活発な議論が行われていました。
この方面(ラーニング・マネジメント・システムや授業のコンテンツ化等も含む方面)と図書館を組み合わせる話は、必要性は以前から指摘されていたものの*1国内での実践例はそうなかったわけで・・・場所だけでなく新たに組織も作り取り組もう、というアカデミック・リンクの取り組みは、シンポジウム中の文科省の飯澤さんのお言葉にもあるとおり、「まさに先導的なもの」であると思います。
実際にそこでどのような取り組みがなされるのか、どんな課題があるのか、さらにコンテンツの提供元である学術出版にはどのようなことが求められるのか、それに対応できるのか、ということを考える上で今回のシンポジウムは多くの示唆を含むものでした。


ということで以下、いつものように当日のメモです。
なお例によってあくまでmin2-flyの聞き取れた/理解できた/書きとれた範囲でのメモであり、今回全体の議論の濃さに対して個々の発表時間が決して長くなかった(つまりみなさんかなり早口だった(汗))こともあって不完全なものとなっています。
ご利用の際はその点、ご理解いただければ幸いです。
誤字脱字・事実誤認等、お気づきの点がありましたらコメント欄等を通じお知らせいただけると大変助かります。


では、まずは附属図書館長、西村先生の開会のご挨拶から!


開会挨拶(西村靖敬先生、千葉大学附属図書館長)

  • 千葉大学は附属図書館の改築・増築を機にアカデミック・リンク事業に取り組む
    • 大日本印刷と連携、いくつかのプロジェクトを実施する
    • その一端を紹介する機会になれば
  • アカデミック・リンクについて(詳しくは竹内先生の発表を)
    • 構想の発端・・・10年前に作成された総合メディアホール構想
      • 附属図書館を改築して全学の情報環境に関する機能を統合、統合的な連携機構を構築する構想
    • 3年前にこの総合メディアホール構想に手直し
      • 「図書館機能に基づく学習支援を軸に、教育改革に寄与する」というコンセプト
    • 構想を煮詰めていた平成20年・・・中教審答申が出る
      • 単位制度の実質化、教育方法改善、教職員の職能開発
      • アカデミック・リンクの理念はこれに合致するもの
    • 「学生が能動的に参加する授業の充実」「情報化技術を用いた教育方法」「教育環境の整備と快適な学習環境の実現」を第二期中期目標に
      • アクティブ・ラーニング導入、ICT活用、TAの充実等を通した学習の双方向性確保、主体的学びに裏打ちされた情報発信能力
      • 附属図書館・・・教員と連携した授業と密着した情報提供機能の拡充等
    • 教育改革・質の向上を目指したもの・・・アカデミック・リンク
  • 今日のシンポジウムが今後の大学教育の発展方向を示し、大学教育を支える電子出版のあり方を考える一助になれば

文部科学省挨拶(飯澤隆夫さん、研究振興局情報課学術基盤整備室長)

  • 今度は高等教育質の向上の要請に応えようとしている
    • アカデミック・リンク構想・・・
      • 図書館の機能を強化することによる学習・コンテンツの近接の実現と、学生の能動的な学習を推進する、先進的なものと聞く
    • さらにDNPが協働することで・・・
      • 大学の学びのありようを変革するものとして大いに期待している
  • 千葉大学・土屋教授も委員に迎え、文部科学省科学技術審議会で、審議のまとめを作成している*2
    • 社会全体の電子化、学術情報流通変化、教育機能への要請の高まり、研究の説明責任などに大学図書館も対応を求められる
    • ラーニングコモンズ整備、レファレンス・サービス、情報リテラシー教育、教員との共同・・・
      • 図書館・図書館職員の教育活動への直接的関与の必要が指摘される
    • そのなかで千葉大学の取り組みはまさに先導的なもの
  • 活発な意見交換が行われ、シンポジウムが有意義なものになることを期待している

基調講演1  『千葉大学アカデミック・リンクの挑戦:図書館機能に基づく学習支援の実現にむけて』(竹内比呂也先生、千葉大学文学部教授)

  • 私の役割:アカデミック・リンクがなにものかの説明
    • シンポジウムタイトルには3つのプレイヤーが含まれる。出版、教育、図書館
      • 電子出版の動きは急速
      • 社会は高等教育質の改善に強い要求
      • それが交差する場所にあるのが図書館、ということで今回のタイトルになっている
    • 他の方とのバランスを考えると・・・図書館の観点から話すのがいいと考える
      • 図書館の視点が強く出た説明になる、とあらかじめ言い訳
  • 大学図書館に関する歴史的背景
    • 大学図書館・・・研究の支援と学習・教育の支援を主たる目的とする
    • 研究の支援:学術情報システムが1980年代から大学図書館の中心的機能に
      • そのモデルの下で、資源の分散・共有化を外国雑誌を中心に行う
      • 相互協力で日本の研究者が必要とする文献を、自分の図書館になくても提供
      • しかし1999年を機に変質する
        • 電子ジャーナルの導入とビッグ・ディールの普及
      • 各大学の研究情報環境は劇的に改善
        • 研究室にいながらにして必要な論文が手に入る
        • 個々の大学図書館に行くことはほとんどない
    • 学習・教育の支援については?
      • 国の政策で動いてきた、ということはない。各図書館ないしは大学の努力で実現
      • 1960年の東京大学附属図書館「岸本改革」・・・東大学内の総合目録、レファレンス・ルームの整備と、指定図書制度の導入
        • 指定図書制度は1970-1980年代に多くの大学図書館で導入されるも、うまくいかなかった
        • その要員:教育・学習支援の観点でありながら、図書館の一人相撲だった
      • 1980年代・・・情報リテラシー教育にシフト
        • 教育との密接な関係があったのかは議論
        • 成功したかはよくわからない
      • 教育・学習支援はまだ展開の余地がずいぶんある
  • 千葉大学でこれまで取り組んできたこと:
  • リエゾン・ライブラリアンプロジェクト
    • 教員・図書館員の連携強化
    • 図書館だけの取り組みはうまくいかなかったことを踏まえたもの
    • 授業資料ナビ・・・2010年度には普遍コア科目(教養科目)69科目で作成されている
    • ポッドキャスティング・・・学生に教員の語りを提供する
    • 機関リポジトリ・・・学術情報資源を構築する
  • これを踏まえて・・・アカデミック・リンク構想
    • 「『学習とコンテンツの近接』による能動的学習の実現」
    • 社会の要請:知識基盤社会、学習社会を生きる市民を養成することへの支援
    • 学生の要請:学習の場、ディスカッション能力・・・
    • 究極の目的:自ら生涯学び続ける、自ら考える力を持つ学生を社会に送り出すこと
  • 具体的なイメージは? 学生視点からの説明
    • 場所としてのアカデミック・リンク
      • アクティブ・ラーニング・スペース:快適な場
      • コンテンツ・ラボ:コンテンツ
      • ティーチング・ハブ
    • 最大限重要:コンテンツの提供
      • 従来・・・図書館は蔵書の提供で授業に貢献。しかし学習⇔コンテンツは遠かった?
      • 近づけるための努力が要る。
        • 様々なコンテンツの統合的提供:教材・教科書の電子化。授業そのものの動画教材化。実験風景の動画教材化。電子ジャーナル・電子書籍提供。web資源のナビゲーション。機関リポジトリへの蓄積・・・
        • それらと学習をどう近づける?:オフィスアワーをアカデミック・リンクで/DB利用指導、情報リテラシー教育を個別の学生のニーズ・スキルに合わせて提供/学生による学生への学習支援
    • アクティブ・ラーニング・スペース:
      • 学生から見たアカデミック・リンクそのもの。学生を直接的に支援
      • スペースがあればいいわけではない。いかに適切なコンテンツをうまく提供するのか?
    • コンテンツ・ラボ:
      • 学生・教職員が使うコンテンツ提供機能強化のためのもの
      • ティーチング・ハブとの連携で授業の動画提供、教材提供等、授業のコンテンツ化が実現できないか?
      • 学内でのコンテンツ作成と同時に、学外コンテンツの導入も極めて重要
        • すでにコンテンツがある出版業界との連携を考える必要がある
        • そこでの議論の中でDNPと意見公開の機会があり、コンテンツ・ラボの試みに賛同いただいた
    • ティーチング・ハブ:
      • ラーニング・マネジメント・システムを中心に、いかに豊かなコンテンツを提供するか?
      • 配信・公開に重点
      • コンテンツ・ラボとティーチング・ハブがバックヤードとして機能する
    • その実現には、各学部・センターとの連携、大学間の地域連携、高大連携、留学生対応等の国際連携も重要になる
    • 基盤になるもの・・・図書館基盤、情報通信基盤、eラーニングの基盤。その共同の下での構想で、図書館の一人相撲ではない
  • 具体的にそこで何をやるの?
    • 母体として・・・研究開発をするアカデミック・リンクセンターを作る
      • 研究開発センター
      • アクティブラーニング推進部門
      • 各部門と3機能がうまく連携し機能するようにする
    • 学内他部署との連携:普遍教育センター、認証システム
    • 例:絶版資料の電子的提供、授業そのものへのアクセス提供、教材提供、学生の情報利用・スキルの身につけ方を観察する研究プロジェクト、新しい大学図書館員像、学習力・教育力を高める取り組み、学生が学生支援に参加することでどう学習を進められるのか、etc…
      • 様々な活動に取り組みながら全体を意識する
  • 出版、教育、図書館それぞれがどうアカデミック・リンクに関わるか?
    • 例:ラーニング・マネジメント・システム(LMS)を通した授業と関連コンテンツの統合的利用
      • 教材電子化、授業の動画提供
      • Moodle*3によるLMS。小テスト、課題、アンケートの提供と学生のアクセス管理
      • 授業資料ナビによる関連資料への案内・提供。電子書籍をそこでいかに提供するか。web上の資源をどう提供するか
      • それらを使う、アクティブ・ラーニング・スペースにいる学生は一元的にアクセスできるようになる⇔電子的にできればいいだけではない。学習端末、電子書籍端末、オンデマンド印刷、図書・・・欲しい形での提供環境構築が重要
        • そこで重要なのはなんなのか? 技術的・制度的課題は?
  • 学習支援のためのコンテンツ提供をどう考えればいいのか?
    • 千葉大だけで利益を得ようというものではない
    • 様々なコンテンツを提供しようとすれば・・・権利処理の問題が発生する
    • 提供環境が様々あるとして・・・それをどう最適化できる?
    • どういう形なら授業とコンテンツ提供がうまく結びつく?
    • 人的支援とは? 教員、学生自身、図書館員はどう関わる? いかにきちんと考える?(唯一解はない)
    • コンテンツ提供と学習効果についての基礎的なデータの収集・分析・提供
  • アカデミック・リンクの理念を考えるなら・・・
    • なにより重要なのは必要なコンテンツが提供され続けること
    • 教員が作る教材はもちろんある
    • 従来の図書館・・・学外で構築された資料を購入して学内利用者に提供すること
      • 電子情報環境下においてもこれを続けられることの保障が重要である
      • 学習・教育に使いやすい形と、ニーズが供給者に伝わること、すべての関係者が納得出来る価格モデルがあること
    • 当面のアカデミック・リンクの目的・・・コンテンツ供給のためのプロデューサー?
  • 困ったことがある学生がアカデミック・リンクに来れば・・・
    • コンテンツが手に入る
    • 支援してくれる人がいる
    • 自分で学習を進められる、となれば目的は達成される
    • アカデミック・リンク・センター・・・時限的なもの
      • 必要な研究目的を果たしたら、各部局が成果を活かしてアカデミック・リンクで教育・学習を支援してくれればいい
      • 短期決戦

基調講演2   『【仕分け】の時代の学術出版 ―新しい学術コミュニケーションの形を求めて、あるいは電子出版時代に学術出版は存在意義を示せるか』 (鈴木哲也さん、京都大学学術出版会専務理事 編集長)

はじめに
  • 事業仕分け:その業務の存在意義が問われる⇔存在意義を示すには今の営みを仕分ける必要がある
    • 何を残し、やめ、新しく何を始めるのか
  • この問題は薄々は学術出版者は感じている
    • 自覚的な取り組みはお寒い限り
    • ある指標で見れば大学出版・学術出版は拡大している
    • 大学出版に限定すると・・・2010年には32大学・770点の本が出ている
      • 1990年代後半-2000年代前半に出版部設置ブームが起こる。大学出版は活性化している、という錯覚?
      • 1大学出版部あたりの刊行点数は漸減している。最も点数が多かったのは2000年代前半。2004年に29出版部から830点。2010年は1校あたり15%減
      • 「本がつくりにくくなった、売れなくなった」で出版部の人間は思考停止している。新しい試行錯誤は業界内で生まれない
    • 電子出版の話の前段として、大学出版の立ち位置を総括したい
本当に豊かになったのか? メディアの多様化と学術コミュニケーション:学術コミュニケーションの変化と出版の疲弊
  • 研究の観点から:
    • 出版される成果の量は増えた
    • それ以上に「出版」へのニーズが増えた。成果評価へのニーズ。「このプロジェクトの評価をAにするために本を出したい」
    • 初版部数はどんどん減っている。京大の場合、特殊な分野(文学や東洋史研究)以外は初版1,000部に設定
      • 「安いねえ」とよく言われる。初版1,000部なので・・・と答えると、「うちなら500部で倍の値段にする」と言われる
      • ビジネスとしては1000部刷って700部売るのも、500部刷って350部売るのも値段が倍なら一緒。しかし350部はほとんど同業者、雑誌でやればいい。800-900ならば、プロジェクトの2回り外くらいの関係者まで含む。同業者・同じ関心以外に広がる。意味がぜんぜん違う
    • しかし研究成果を右から左に本にすると・・・
      • Chodorow (1999):アメリカの大学出版部のほとんどが1990年代末には赤字になった。本が200-300部しか売れなくなった。プロジェクトの評価のため、テニュア獲得のための本は誰も真面目な成果として読んでくれない。ビジネス規模が縮小してしまった。それが日本でも進行?
  • 教育の観点から・・・大学院教育が変わった
    • 大学院重点化で院生数が増える。その大学の学部以外出身の院生が増える。それは悪いことではないが、教育が変質する
    • 例:京都大学の化学。量子化学に重点がある。しかし岡山大で学部を終えた院生はそうしたトレーニングはない。従来の教科書、授業では成り立たない、基礎から始めることが必要になる
      • シラバスの達成課題も変わる。しかし大学出版は教科書という点では貢献出来ていない。安くするために薄くなり、基本的な演習や周辺記述が減る。ごく限られた教科書になる
      • 層の厚い研究者ができない。個別の研究はできても領域全体を見渡せる研究者が育たない
  • オンライン化の進展:
    • オンライン化でロングテールになる?
    • Evans (2008)のScience掲載論文:オンライン化でだいたい同じ領域の論文しか引用されなくなった*4
      • 「『種の起源』は50年で科学全体を変えたが、今我々に同じことはできるか?」
    • この点については良かった?
      • 社会が実験してくれた結果も踏まえて、何をデジタル化するためのヒントになる
原理的な問い直しと「仕分け」による、新しい可能性の模索:学術コミュニケーションの再構築のために
  • 今の学術コミュニケーションの要件:
    • 細分化・速報化。厚みがない。領域全体を俯瞰できる研究者がいない
    • 国際性、英文による発信
    • 『Science』のSTM論文でアリストテレスが引用されることもある。研究の深さ、歴史性、他の領域に発信する指向を学部・大学院教育で示す必要?
  • メディアは様々、チャネルはいくつかある・・・どう仕分けるか?
    • 具体的に・・・紙が有効なものもまだあるはず。1冊持っていれば一生ものになるような分厚い本は紙で研究室に置くことがありうる?
      • 普遍知識。領域に限られない古典的事柄は紙としてじっくり読むことが適合的では?
    • 紙の限界。いくら微細・詳細に文字を書いても、実験の反応等は語りきれない。画像・映像で見れば一目瞭然。電子コンテンツが役立つ
      • 紙はフィールドに持っていけないことも。浅瀬の生物の採取プロトコルマニュアルを作成したが、「水に濡れても大丈夫にして」と言われて特殊な紙を作った。普通の紙はすぐ駄目になる。これを別メディアで作れないか?
      • 紙である必要がないもの。個別的な知見等。
      • 紙を使わないことで公開できるもの。地域研究ではフィールドノートが一番面白い。本になるのは抽出されたものだが、京大のリポジトリでフィールドノートをそのまま公開、あるいは翻刻して公開できないか? これは紙では駄目。膨大なノートは紙で表現できないが、公開出来ればデータを参照できる
  • 試行錯誤の例
    • ベゴン『生態学』・・・分厚い本の翻訳。6000部売れた

生態学―個体・個体群・群集の科学

生態学―個体・個体群・群集の科学

  • 作者: マイケルベゴン,コリンタウンゼント,ジョンハーパー,Michael Begon,Colin R. Townsend,John L. Harper,堀道雄
  • 出版社/メーカー: 京都大学学術出版会
  • 発売日: 2003/04
  • メディア: 大型本
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    • 西洋古典叢書」・・・業界ではいつやめるのかと言われたが、大きな粗利益をあげている
    • 「近代社会思想コレクション」・・・年2冊くらい、未翻訳の本を出す
    • 西洋古典学事典』・・・A4で1700ページ、28,000円だが3ヶ月で1,500部売り切れた。増刷分もすぐ半分売れた

西洋古典学事典

西洋古典学事典

      • 市場は待っている。会社員やお医者さん等、プロじゃないところで売れている。2-3周り外、学術の周辺層で求められている
  • リポジトリへの協力
    • 儲けた分の還元・・・電子的なものに挑戦しよう
    • なぜ無料から?:有料コンテンツ作成は大変。無料で公開して反応を見てみる
    • 西洋古典学事典』が売れたので・・・iPadアプリも始めている
  • 電子書籍フィーバーで学術出版は中心的な役割を果たしていない
    • すぐ「お勉強系は別ですね」と言われる。今の電子出版は携帯で小説を読ませることが第一。他は勝手にやって、ということ
    • このままでは一層周辺化される。何をするか?
    • リポジトリにあげてみていろいろな反応があった。「教材としてp.○-○を使えますか?」という問い合わせがある
      • 立命館大学から・・・本の40ページ分をシラバス2コマで使いたい、との問い合わせ
      • 有料にするが、1冊買ってもらうのも難しい。その部分のみ価格設定して販売
    • 既存コンテンツを電子化してコースウェア化する。そのとき1冊まるごとはうまくいかない。部分売りを考える
      • 大学出版部は現在32参加。コンテンツ数は膨大。「東大のこの部分、名大のこの部分・・・でシラバスを作れないか?」というようなことができないか
      • 最も近い道
    • 他に・・・メーカーとしては新しいものを作りたい。何ができる?(電子の話)
      • 認知科学臨床医学など。見られることが重要?
      • iPadが防水になれば、水に濡れながら資料を使うこともできる
      • 総合的事典を研究書として提供?
    • 教科書としては・・・(電子の話)
      • 学習者のレベルによって語り方を変えられる。院生向け/高校生向け、など。同じことでも表現を変えられる
      • 教育は本来個別的なもの。個別のニーズにひとつの書籍が応えることが電子技術で可能になる
    • 資料(フィールドノート等)
  • 実際にやってみると・・・克服すべき課題
    • 我々は新しいコンテンツの開発力を持っているのか?
      • プロのコンテンツ制作会社に頼むと・・・動画が5分位流れる。本の中に動画を埋めこんで、5分見るか?
      • 「じゃあ何分にする?」・・・答えられない。せいぜい30-15秒?(CMと同じくらい)
    • 費用が大きい
      • 映像を入れるとカメラ、音声、ディレクターが入る。それくらい人が要る。非常に大きな費用がいる
      • 印刷コストなんて本当に小さなもの。ケタが違う、とまでは言わないが何倍も費用が違う。出版とマルチメディアの格差
    • 普及販売システムの未確立
    • 我々だけでは解決できない。DNPは大きいが、出版者は一般に非常に小さな経営体。新たな投資コストは担えない
      • 新しいコンテンツを作る能力もない。紙の本なら提案できるが、動画は誰かに頼らざるをえない
      • 学術出版は、学術出版だけでは変えられない。セクターを越えた協同が重要。
最後に
  • コンテツの権利処理にはあえて触れない
    • それは詳しい人間が触れるべき
    • 従来議論とは違う考えを持っている。パネルの時にでも補足出来れば

事例報告 『よみがえる事典 ―参考図書の電子的再生と活用―』 (佐藤宗子先生、千葉大学教育学部教授)

  • 日本児童文学学会が作成した『児童文学事典』の電子的再生について
    • まだ机上の案。不確定なことが多いのが実情
『児童文学事典』とは?
  • 概要

児童文学事典

児童文学事典

    • 日本児童文学学会編集
    • 1988年刊行、東京書籍出版
    • 日本、海外両方の情報を集めた中型の事典
    • 執筆者数は315名、2,404項目
    • 日本・海外双方含めたひきやすいサイズの事典。1,100ページ。3刷まで行く
  • 学会では改訂がたびたび話題に。しかし具体的に進まない
    • 1990年代以降の出版状況
    • 中心的編集委員の逝去
    • 版元から「うちでは無理」と言われた、というので検討中のまま。厳しい状況+小規模学会でちっとも進まず
    • 他にも事典はあるが目的が異なり、類書がないまま使い込まれて、千葉大学では1,100ページのうち500ページくらい欠落してしまっていた
      • 千葉大では古書で全ページ揃ったものを買ったが、千葉大がこうなら他でも同様の事態があると考えられる
電子的再生が開くもの
  • 本来なら新版を出すべきだが・・・今のところは第一段階として、早く最低限の修正をした版を出したい
    • 当時の版はかなりいいもの。有効で普遍性を持つ内容を含む
  • 電子版の利便性:
    • 同時利用可能に
    • 五十音配列からの脱却
      • 参考に理系分野の事典を少し見せてもらった。それを応用するなら・・・
      • 直接検索のほか、属性によるグルーピングやそこからの追加調査が容易に
      • 他の事項へのジャンプ、グループ項目の概観容易性
  • 一度改訂版ができれば・・・
    • そこから新訂版への道も開けるかも
    • 事項の追加、補強が期待される
      • 時代に即した事項の追加。例えば「ジェンダー」など。「読む事典」への可能性
  • 利用者層の広がり:
    • 児童文学・文化の学生、研究者
      • 学生の中には幅広い学部・学科が含まれる。研究者はさらに広い範囲。建築学専門家が『絵本の中にあらわれた家』というような研究をすることもある
        • 電子版が利用出来るようになれば、思いも寄らないほど広範囲の研究者にとりあえずの手がかりを提供できる?
  • 検索の広がり:
    • 外部の関連ページへのリンクを貼ることができる。利便性は大きい
      • 例えば・・・近代デジタルライブラリーにリンクをする、国際子ども図書館のwebページにリンクする、など
      • あるいは文学館・記念館のページに飛ぶ、青空文庫で本文を確認する、海外ページへリンクする、など。
        • 海外の信頼できるページにリンクしていることはいい?(変なページに飛ばない
  • 紙媒体がなくなると考えているわけではない
    • 電子媒体と紙の共存は大前提

事例報告 『e-learning環境の活用による物理学教育の改革』( 山本和貫先生、千葉大学大学院融合科学研究科准教授)

はじめに
  • 学部1-2年生対象の教育でやっていること、やりたいと考えていることについての事例報告
  • メインはMoodleを用いた、授業<家庭学習について
  • 理系の授業は講義と演習、それらを踏まえた実験科目がある
    • それぞれについてMoodleの活用例
  • e-learning導入の意義
    • 単位の実質化・・・1単位45時間の学習。2単位科目は90時間の勉学を必要とする
      • 授業は2時間×15回。30時間。残る60時間は各自で勉強して、となっている
    • 60時間分の家庭学習を行うように設定する必要
      • 1日に2科目受けたら、家で8時間の学習が要る。どう実現する?
      • 予習しないとついてこられないくらい難しくする・・・現実的ではない
      • 宿題を課す・・・少なくとも1-2時間は学習してくれる
    • 1単位4時間分の宿題? 学生も大変だが教員もそれなりに大変
      • そこの省力化ができないか?
      • 例えば計算問題・・・紙媒体でやると授業、レポート提出、採点と時間がどんどん広がる
        • e-learningであれば正解かどうかはすぐわかる。次の授業までに前の週の内容は理解してくれる
        • 教員にしても採点を繰り返す必要がないので省力化。また、問題の正答率やリトライ率も統計的にわかる。次の授業でわかっていなかったところの説明ができる
      • 手で書くようなレポート・・・同様に簡単にアップロードできる
        • 通常、やりとりだけで莫大な時間がかかるところを、画面上でコメントを付けて送り返せる
        • 次週までに教員のコメントが返ってくれば、学生にとってもメリット
    • しかし新規導入は大変?
      • できるだけ少ない努力で大きな教育効果をあげるには?・・・そこでMoodle
  • Moodle
    • オープンソースソフトウェア。業者に依頼して導入するとお金はかかるが、基本は無料
    • 利用者の意見が開発者にフィードバックされる仕組みがよくできている
    • 千葉大では何年か前から導入、H.22から本格導入
    • Moodleでできること:
      • ファイルのアップロード:Word、PPT、Flash、ビデオ・・・
      • 小テスト
      • 課題:レポート等のアップロード・チェック・返却
      • フォーラム:電子掲示板。学生・教員が同時に意見を出しディスカッションできる
      • ワークショップ:フォーラムをより高度にしたもの? 教員だけでなく学生が相互にアップされたファイルを採点したりできる
    • ここではアップロード、小テスト、課題の実例を紹介
講義科目でのMoodleの活用
  • 講義配布資料等をアップロード。学生が自由に見られる・自分で印刷して次の授業へ持ってこられる
    • 配布資料を前もって学生が入手できる。それに目を通して授業に来てもらえる
  • 課題モジュール:学生が宿題などをアップロードする
    • 例えば証明問題に解答、PDF化してアップ、など
    • 従来:次の授業で提出、その次に返却⇒次の週までに採点までできる
  • 講義科目で使用する際の問題:著作権法上の課題
    • 教科書中の図・表を配布する場合・・・Moodleにアップできるといいのだが、現状では難しい
演習科目でのMoodleの活用
  • 小テスト・モジュール:
    • 数値問題・・・計算、穴埋め、択一などいろいろな問題を作れる
    • オンラインで採点できるのでその場で答えがわかる・その場で考え直せる
    • いろいろな教員が作った問題を共有、DB化、ランダム提示することができる
      • 一定の問題数を確保できていれば、個々人に違う問題を出すこともできる
  • 課題:
    • 証明問題等は電子化にはなじまない。どう電子化に載せるか?(数式表現等)
    • 誰がなじませるか、がもっと問題
    • 解決策の例・・・マークシート式のものを電子化する・OSSの数学オンラインテスト・評価システムと連携できるのでそれとの関係
実験科目でのMoodleの活用
  • リソース・モジュール:
    • 実験テキストのダウンロード、課題のアップロード
    • 実験ビデオ教材の貼付け・・・YouTubeへのリンクが可能
      • きっかけ:特色GPのパーソナル・デスク・ラボ
        • 操作手順をビデオで作成、YouTubeで公開。それにリンクすればあらかじめ閲覧できる
  • 課題:
    • ビデオ教材作成はお金がかかる。どうやる?
    • 千葉大・・化学でもビデオを作っている。東大の物理実験もYouTubeで見られる。うまい具合に共有しながらやるのがひとつの手?
まとめ
  • e-learningを使って自宅で学生に勉強させるのが大きな目的
  • 講義、実験、演習それぞれでやりたいことがあるが、課題もある


 

試行プロジェクト報告 『よみがえる事典 ―参考図書の電子的再生と活用―』( 安平進さん(丸善株式会社デジタル化推進本部)、発表者:米田 奈穂さん (千葉大学情報部)、池尻亮子さん(同左) )

  • 佐藤先生から話のあった事典再生をアカデミック・リンクでどう実現するか?
  • 電子化事典は紙媒体とは異なり、事典内でのリンクが可能になる
  • 電子化してweb上にあることで、外部の関連分野の情報ともつながる
  • 作品・論文全文・動画や音声へのリンクも可能になる
  • それを実現するには・・・既存資料の権利処理、リンク先のライセンス処理が必要になる
    • これを行い、ノウハウを蓄積することで既存資料電子化のモデルを作成することが1つの目的
  • 電子資料作成は利用者にもメリット
    • その利用状況を調査し、利用方法を提案していくことも目的
  • 電子的再生で期待される効果
    • コンテンツの即時性が増す、実態に即した提供
    • 関連項目・全文の容易な入手
    • これらの効果を得るには権利処理、ライセンシング、ビジネスモデルの検討・構築、利用調査に基づく効果的方法の提案が必要
      • このモデルの開発により、当該資料だけでなく他分野資料の電子的再生にまで広げていきたい
  • 教員、学生が便利に、安心して電子的資料を利用でき、出版者・著者も安心して提供できる仕組みを作りたい
    • 実際はこれから・・・いつか結果を報告したい

試行プロジェクト報告 『e-learning環境の活用による物理学教育の改革』( 安平進さん(丸善株式会社デジタル化推進本部)、米田 奈穂さん (千葉大学情報部)、発表者:池尻亮子さん(同左) )

  • 目的:物理学教育に資する刊行されていない教材の電子化と、他教科へ展開できるモデルの確立
  • 小テストを例にMoodleについて説明
    • 千葉大学Moodleを活用した予習・復習について
    • 現在は小テストの問題はそれぞれの先生が作成している
    • 電子版にあわせた問題作成は従来と異なる難しさも
    • であれば、教員個々がつくらず、全員で共有すればいいのでは?
    • 特にB1-2向けの学部教育ならいろいろな教員が作成したものが共有可能
  • 期待される効果:
    • 授業外学習の充実
    • コース管理システムと連動した教材提供による、結果の迅速なフィードバックと学習モチベーションの向上
    • 複数教員が共通で行う専門基礎科目の共通教材作成により、違う先生でも同じ内容・質の保障
    • 学生の学習成果の確認、教員の労力減少による実質的指導時間の確保
  • 課題:問題は誰が作るのか?
    • 教員へのサポートが必要?
    • 出版物の問題を活用する場合・・・権利処理を行う必要
    • コース管理システムはMoodleだけではない・・・Moodleに限定せずモジュール化することが必要?
  • アカデミック・リンクでは・・・
    • まずは物理学での教材作成を通じてモデルの確立
    • 化学や数学へもモデルを広げていきたいと考えている

試行プロジェクト報告 『Ustreamを利用した講義配信システムとその教育利用展開』 (川本一彦先生、千葉大学総合メディア基盤センター准教授)

  • コンテンツの電子化:
    • アカデミック・リンクでは・・・公刊物(すでに出ている物)、非公刊物(これから作る物)、授業(生もの)を電子化しよう、と考えている
    • 私が話すのは生ものの部分
  • コンテンツスタジオ・編集室がアカデミック・リンクに設置される予定
    • スタジオ150平方メートル、編集室100平方メートルの箱物
    • 来年度の秋以降に完成予定
  • 動画を撮って配信することは決まっている
    • 自前でサーバを置くか、クラウドにするか。
    • 我々は外に置くことを考えている。コストのこともあるが、自前でやってしまうより新しいICT革新にキャッチアップするならそのほうがいいと判断
  • クラウド時代の講義配信
    • MIT:YouTubeにのっけたり、iTunes Uのような試みも
    • ネットで講演等が見られる時代にもうなっている
  • しかしどこまで公開するか?
    • すべて一般公開してしまうと・・・外のサービスをそのまま使える
      • 学外に全部を公開するわけでは、必ずしもない。学内関係者に限ることもある
      • 全公開:知の継承や宣伝、学外限定公開:単位互換、学内でも全部見られるか受講生に限るか、等
    • Moodleとの連携も考える必要
  • そこでUstream
    • Liveもできる
    • アクセス制限もできる仕組みがある
    • 実験的に使ってみて今後、評価
  • まとめ
    • まず授業配信への需要、生中継への需要の有無を調査
    • アクセスコントロールを幅広く試す
    • ICT革新にキャッチアップして取り入れていきたい




休憩


パネルディスカッション

  • 司会: 川本一彦先生
  • 川本先生:パネルに先立って、千葉大関係者には発表の場があったので、初登場のお2人から簡単なシンポジウムの話題提供を、自己紹介を兼ねてご講演いただきたい。
黒田さんから
  • ほとんどの問題点は鈴木さんが指摘してくれたので、若干の補足と問題意識を述べたい
  • 出版業界一般ではダウンサイジングが始まっている
    • 出版者が潰れた
    • 新刊点数が出せなくなり、減っている
    • 紙の流通が変わっているとき。ここはDNPに詳しい方が多いだろうが、大きな要素になる
      • 今までのビジネスモデルを前提にするといつなんどき潰れるかわからない。個人的には強烈な危機感
      • ここ2-3年が正念場? サボると後々、つながらない
    • それを前提にアカデミック・リンクや電子に関わる取り組みを考える必要
  • 大学そのものが大きく変化
    • それにそって新しいステージへの変化が始まっている
    • 東大で言えば・・・理想の教科書、進化する教科書としてデジタル化に関する動きがある
    • 情報学環・山内先生の言葉:多様化のスタート。多様なコンテンツの展開の開始である、と積極的に捉えたい
    • そうは言っても・・・新しいコンテンツ開発の実験的試行錯誤は決定的に不足している
      • デジタル化そのものは技術的に問題はないかも知れないが、教材を作る理論的ベースがない。教科書作成は多少かぶるが、最大の効果を発揮する映像やリンクについて勉強不足
      • どう関わっていくかが大きな課題
      • 組織的なチャレンジを進めていきたいが、社内だけでは進まない
        • DNP慶應のメディアセンターと協力して実験プロジェクトを実施中
        • コンテンツをデジタル化し、慶應内部で電子コンテンツとして提供、デバイス・PC環境で実際に利用されるか、意味があるかを調査
        • 技術的にもDNPによるオーサリング、京セラによる配信等、役割を切り分けて実験を進めている。最適なものについてけっこう見えてきている
    • 出版者の動きが鈍い、既得権益にしがみついているとの意見もあるが・・・
      • 電子において、紙と同じような再生産の仕組みをどう回すかが全く見えない。それで躊躇してしまう
      • 慶應の実験はそれをクリアするための試みのひとつ。もうひとつは、過去のコンテンツの電子化
        • それをするには図書館や機関にまとめてセットで買ってもらう、その後は年間契約、というような組み合わせによる一定規模の金額を作る必要がある。それを資本にリッチコンテンツを作る
  • <携帯に届いたメールに対応するためにここのメモ取れず。ごめんなさい>
  • 複数のアクターが連携して大きなチームを作り、技術・資本・販売面を形作っていければ、いい展開をお見せできるのではないか?
長丁さんから:「電子出版で変わる『著作権契約と印税』」
  • DNPで行っている仕事の中で今回のテーマに近いものを紹介する
  • DNPでは今年の夏を目処に、著作権と印税を管理するクラウドサービスを展開する
    • ユーザは出版者をターゲットに
    • 電子出版物の権利がどう変わってくるのか?
  • コンテンツの長寿命化
    • いったん販売ルートに載ったコンテンツは長期間売られ続ける
    • アナログ出版は売れる⇒重版、の波。最後は品切重版未定(絶版)
    • 電子は徐々に減っていくロングテール。陳列コストがほとんどないので年数ダウンロードでも起き続ける
  • コンテンツの細分化(再考性)
    • 実用書・学術出版物
    • 読者、編集方法のニーズに合わせて細分化される、編集され再生産される
    • 章ごとの販売、記事単位・コラム単位・写真やイラスト単位での流通、既存雑誌からテーマによってコンテンツをくくり直してムック化して販売
    • 学術書の場合の例・・・「物理化学」の教科書。著名なものにはバロー、ムーア、アトキンスの定番教科書がある。それぞれ上下巻で7,000-10,000円。他に教養課程の教科書としてポーリングの『一般化学』上下もある。

バーロー 物理化学 上 第6版

バーロー 物理化学 上 第6版

バーロー 物理化学 下 第6版

バーロー 物理化学 下 第6版

物理化学 (上)

物理化学 (上)

ムーア 物理化学 下

ムーア 物理化学 下

アトキンス 物理化学(上)

アトキンス 物理化学(上)

アトキンス 物理化学(下)

アトキンス 物理化学(下)

一般化学〈上〉 (1974年)

一般化学〈上〉 (1974年)

一般化学〈下〉 (1974年)

一般化学〈下〉 (1974年)

    • ここから章やテーマごとに抜き出す(バローの熱力学と例外、ムーアの基礎数物と量子力学基礎、アトキンスの分子基礎理論とグラフ、など)需要
    • その場合も出版契約に基づいて印税を計算する必要。DNPの現在のソリューションはそこを行うもの
  • 支払い印税の少額化
    • 細分化に伴う
    • 電子流通しているコンテンツで販売から6ヶ月以上たっているものの40%は年間10ダウンロード以下のペース
    • 年間支払い最低金額を最初に決めておいて、達しない場合は印税をプール、達したときに渡す
  • 著作権相続
    • 多くの書物に適用されるように
    • 従来は著名作家、特殊な分野に限られたが、ロングテールの世界では年3冊でも記録して権利者に返す必要が出る。これも出版者の課題?
    • 支払額が長期・少額化
    • 著作権は知の生成の循環において重要なリソース。価値を著者に返す。ビジネス的課題。ここを中心に当社は支援をしていく
ディスカッション
  • 川本先生:電子化、出版、教育における新しい方法・モデルを考えることが共通の問題としてあると思う。
  • 川本先生:パネルに先立って、参加申し込み時に簡単なアンケートを取った。結果を集計した。話題提供としてアンケート結果のまとめを紹介しながらディスカッションしたい。なおこの資料は千葉大学普遍教育センターの先生が作成。
  • 川本先生:まず来場者の所属。大学関係者、図書館に限らずが4割くらい。想定していたより出版社・書店所属が43%と大きな割合を占める。こういう時代の中で我々の試みに興味をいただいたのだろう。また、学生が5%いる。こういうシンポジウムに来るということはそれなりの覚悟があるのだろうし、教員の側から「こうしよう」とは言うが学生の声を聞きたい。遠慮無く質疑で質問をぶつけて欲しい。
  • 川本先生:「大学の教科書の電子化の実現時期」について尋ねた。5年以内が4割、10年を入れると8割はこの10年で電子化が進むと考えている。「進まない」も無視できない割合いる。
    • 自由記述欄で、阻害要因となるファクターを尋ねた。出版業界が抱えている課題、電子化に伴う教材開発・教授法、教員の抵抗感・意識など気持ちの問題などが指摘されている。
    • ここからディスカッション。長丁さん、あるいは黒田さん、何かお考えがあれば? ちょっと無茶ぶり?
  • 黒田さん:東大出版会としては電子出版の契約書を作ってお送りしているところ。返事もけっこう来ている。大きな問題は顕在化していない。受け取った方にも疑問はあるだろう、それにどう説明するかが課題にはなっているが、いろんな展開を想定した契約書を作成した。著作権料の支払いも「1万円以上たまったら支払います」などとしている。それ以上に、中に入っている図版などを、電子化にあたって再度権利関係をあたらないといけない。それが手間。解決するいい方策がない。文書ばかりなら問題ないのだが、お寺から借りた資料など、ただでさえ高いのに・・・。
    • 既得権については、紙の本のことしか考えていなかったので。いろいろ前提が変わる。再販制度など。どう価格を決めるのか。合理的と言うが何が合理的なのか。学術出版に限れば、何かにしがみついているわけではない。
  • 川本先生:既存のものはもちろん、電子化を前提にこれから作るときに、著者と出版者の契約の体系は、新しい項目が入ったり電子化に関わって新しい契約形態がいるのか。今のまま進めてもいいのか。どうでしょう?
  • 長丁さん:電子書籍、ボーンデジタルで生まれるものの契約は作成者と流通、出版で契約していると思う。アナログ書籍が電子化される際は、今は出版社側が主導権を持って、既存のものの権利に加え電子化の権利も下さい、と申し出ている状況。これから出るものは、電子化の権利も包含して出版する権利を依頼しているケースがある。そういう状況。
  • 川本先生:電子化に合わせての教授法等については先生方のお考えを聞きたい。山本先生はMoodleでやられているが、今の延長だとwebにコンテンツをあげることであって、教室の授業そのものは変わらない、という気もする。もっと電子教科書が使えて、あるいはiPadを学生全員が持っていたりすると、授業は変わる? そういうものは使わない?
  • 山本先生:授業は変わる。デジタル化されたもので効果があるのは動画。例えば波の性質を見るときに、波のシミュレーションを時間・空間変化を追って見られる、動かすことができる。それをMoodleにアップできるなら、パラメータを変えて波の変化を見ることが、自分で試せるようになる。そういうコンテンツができれば学生は遊びながら学ぶことができる。そういうコンテンツが、い一部の書籍ではDVDが付録でついたりできるようになっているが、そういうものを学生が自習するときに使えるようになると理解が進むと思う。3次元の図もそう。黒板は2次元だが、3Dなら3次元のポテンシャルや立体構造を見ることができる。そういうコンテンツは効果があると思う。
  • 川本先生:STMにいると電子化は歓迎ムード。複雑な現象の可視化に効果的。しかし千葉大学は総合大学。工学部や自然科学は電子化・電子教科書に積極的な気持ちがなくはないが、佐藤先生や竹内先生、教育学部や文学部の講義の中で電子教科書は入ってくる? 入ってこない、という答えでもいいが。
  • 佐藤先生:別々のことをあげたい。教育学部全体の内容から言えば、私は未だにレポートは手書き、としている。教員養成では手書きの要素を学ぶ必要があるし、話を聞きながら適切にノートをとる訓練を学生がしないと教えることができない。アナログ要素が教育にはある。文学に関しては、昨年国際ペンの大会が開かれていて、そこでも調べること・読むことの差異がある、と言われた。作品をじっくり読むとは手で読むということ。特に児童文学では絵本は1つのメディアである。なので、私がやっている授業では電子化は参考的に進んでくれることをまず望む。一方で、授業については大学院の教育学研究科では現職の教員が来る夜間の授業がある。昼も夜も同じ授業なのだが、どうしても昼間の授業で活発に議論した内容が、夜間、教師と1on1や1on2だと、質が変わってしまう。生でその場にいるから90分もつので、90分映像を見るのは苦痛であるが、学校現場で授業に来られず欠席したとか、活発な議論を見ることで学ぶこともある。教員養成にあっては、生の授業配信の可能性もあるかと思う。
  • 竹内先生:私は所属は文学部だが図書館情報学を教えているので文学研究とは違う。ただ、文学でも歴史でも資料の電子化は重要だと思う。教科書でも参考書でも、写本でもいろいろなものがあるし、いろんな学習や研究の素材が電子化されていることは文学系でも抵抗ないのではないか。また、私の立場で言うと、教科書を電子化することで長丁さんからお話があったような、複数の教科書を組み合わせて独自の教科書を作るようになれば、教え方が変わることもあるだろう。教育内容の標準化が進む可能性もある。司書養成の内容は文部科学省の省令で決まっているが、実際は中身は教員の工夫によっている。資格としては共通部分がないといけないはずだが、そこが保障されているかは疑問。電子教科書を複数の人が知恵を出しながら作れれば、資格教育において教授法の改善になるかも知れない。
  • 川本先生:次の話。「大学教育の情報化」が進むかどうか。出版に限らず、LMSやe-learningのシステムを使って授業そのものを電子化してしまうかどうか。e-portfolioやwebinarの達成時期はどうなるか。これも先ほどとパーセンテージは一緒、5年以内40%、10年以内80%。当初予想よりパーセンテージが大きい。関心がある参加者が多いので必然的に高くなるのだろうが。
    • 阻害要因としては、教員の意識・意欲、教員がすでに多忙すぎる、学内サポート体制の問題、予算、使いこなせない学生へのケア、など。
    • 教員の意識・意欲は議論になりにくいので取り上げない。サポート体制等は今後考えなければいけないと思うが、例えば黒田さん、教科書を作る際に大学教員が教科書や電子書籍を前提とするコンテンツを作る相談に行くと、モノが出るまでにどういうプロセスがいる? 教員はどのくらいのことをしておかないといけない? リテラシー能力が不足しているとすればどう解決する?
  • 黒田さん:まだ細かい取り組みが進んでいないことが前提で、正直わからない。想像すると、教科書ないし授業でどういう学習効果を高めるか、という狙いの部分はあまり変わらない。その過程で、最大限効果を高めるためにどういうものを埋め込むかの判断で、編集者にかなりの知識が要求されるようになるだろう。しかもおそらく自前でできる部分とそうでない部分が分かれるので、編集者がどういう人と連携できるかを打ち合わせの中で伝えて、チームの組み方を考えないといけないのではないか。その時にコストの面も今までと違う原価計算がいるし、大学だけの教材なら話は早いが外に出すならそのあたりも考えないといけない。図書館がプロデューサーになると竹内先生の話になったが、よりミクロなところで出版社がプロデュース的な役割をどの程度考えられるか。
  • 長丁さん:去年の秋から大学教科書の電子化に興味を持って、複数の大学を訪ね歩いて状況を聞いている。いずれも人伝に渡る中では、当然かも知れないが、大規模大学が先行している。ヒト・モノ・カネがそこそこ潤沢で内製できるところは先生方自らが進めている。しかしアカデミックの世界でデジタル・ディバイドが進むのも問題。コンテンツ内容の標準化が進んで、後に進む大学が標準化されたコンテンツやクラウドを利用出来る環境が早く出来ればいい。
  • 川本先生:学生に対するケアとか単位認定方式、学習評価方法の必要性等について竹内先生にコメントいただければ。
  • 竹内先生:学生へのケアについては、人的支援は不可欠とアカデミック・リンクでも考えている。それを教員がやるのか、図書館員がやるのか、学生がやるのか。混成チームでやるのが基本の考えで、学生から見ればチョイスできるのがいいだろう。学生が学生に聞くことのハードルの低さはよく聞かれるところであり機能するだろうと楽観視しているが、学生支援をする学生をどう育成するのかが重要になるだろう。それから今日はアカデミック・リンクの話をかなりすっ飛ばしてしまったが、アクティブ・ラーニング・スペースは基本的にグループで勉強し、ディスカッションできる場所、ということをかなり意識している。同級生と集まることを否定することは毛頭なくて、むしろそれを推進すると考えている。対面教育も集まっての授業も否定する気はない。むしろ単位の実質化の中で、授業中で十分理解出来ていないことをどのようにサポートするかに大きなポイントがあると考えている。
  • 川本先生:次のスライド。「アカデミック・リンク」への関心についての自由記述。教育改革へのインパクト、成果物が開放されるか、電子化された図書の活用事例などへの問いある。他には電子書籍に変わったあとの、大学と図書館の今後のあり方の予測、など。工学部の人間なら4年生になれば研究室配属されるが、1−3年生は居場所がない。授業を受けて、食堂でたむろして帰る。そういった1−3年生が大学にいて勉強できる、議論できる場としての図書館という箱物は重要だろう、という議論はしてきた。
フロア質疑応答(質問者名は記録しないよ!)
  • Q. 教員。2点。電子書籍と教育の電子化について、これは2つの設問で回答者の傾向も同じ?
    • 川本先生:データはtableで持っているのだが手元ではすぐには出せない。
  • Q. 竹内先生のプレゼンで、研究開発部門、アクティブ・ラーニング部門とコンテンツ・ラボ、アクティブ・ラーニング・スペース、ティーチング・ハブの関係とガバナンス、今後の評価などのロードマップがあれば教えて欲しい。
    • 竹内先生:2つの部門と3つの機能全体のガバナンスについて? ガバナンスというほど立派なものはない、走りながら考えるしかないだろう。部門は人が張り付き、機能は具体的に別れるとは考えていない。様々なプロジェクトを実行する中で我々が目的とする3つの機能が実現されると想定。
      • 具体的なロードマップは内部的にはつくってあるが、今ターゲットとなっている学生がどういう人かを考えると、B1-2が最初のターゲットになるだろう。図書館がすでに行っている授業資料ナビもそこをターゲットにしている。入ってすぐ、授業にあまり慣れていない人への学習支援がメインになるのは間違いない。
  • Q. 教員。ガバナンスの話に関連して竹内先生に。今回のプロジェクトにあたっていろいろな部門を巻き込むと思うが、そこをどう調整するのか? 組織による文化があるところをどのように? 組織の違いをどう乗り越えるのか。例えばFDも教員をきちんとサポートする姿勢があるところもあれば、名人芸を押し付けるようなところもある。情報リテラシーも図書館の考えと情報センター・FDで想定するところにずれがある。そのようなずれや違いをどう乗り越える?
    • 竹内先生:あったら教えて、と言いたくなるが(笑) アカデミック・リンクの、特に研究開発部門を推進する人間から話すと分かりやすいかも知れない。これは私自身と、情報メディア基盤センター、普遍教育センターがそれぞれ人を出すことで整備する。いわゆる情報部門も、教育も、図書館も文化の違いがあるだろう。それをなんとか乗り越えよう、ということで作られている。それ以外でいろんな人を巻き込む戦略についてはそれほどあるわけではない。関心をもっていただける先生にまず関わっていただいて、具体的な成果を見せてそれが次のプロジェクトを呼ぶ、という形をとっていくしかないかと思う。そういった意味では佐藤先生、山本先生にはすでに関わっていただいているわけでは、それが1つのモデルとして広まっていけばいい、というのが現時点での答え。
  • Q. 出版の人。長丁さんのプレゼンで著作権管理や印税の支払いのお話で出てきたことで、教科書がムック的になることには、出版社の立場で言えば、雑誌に関しては個々のコンテンツ配信、記事単位での配信はやっているが、単行本ではどうだろうか? 章ごとや単元ごとというのは考えもするが。多くの学生に紙でも電子媒体でも多くのいい本を読んでもらいたいと出版社としては考えている。人文で言えばプラトンの『国家』やヴィトゲンシュタインを読む形で進んでいって欲しい。授業の中では掻い摘んで、ということもあろうが、出版社としては1冊通して読んで欲しい。教科書の意義にも通じるが、教科書自体のムック化を便利と感じる意見もあったが・・・電子書籍化が進むと個々の書籍ではなく先生が授業しやすいようカスタマイズされるとすれば、実際に先生はそういうふうに授業を進める? 1人1人が教科書をまとめて進めるとすると、既刊本が売れなくなることにもつながる。そうなったときになにかお考えはある?
    • 長丁さん:電子化によって起こるムック本は一般書と学術書で方向が全く違うだろう。一般書はコンテンツの二次利用で、持っているネタを組み合わせを変える。二度美味しい。学術書はムックという言葉を使うのはどうかと思うが、教育・学習の方法を考えた場合に、先程の物理化学の例で言えば、原著はいずれも『物理化学』という本だが中身はだいぶ違う。有機系、セラミックス、量子力学それぞれの出身の特徴がある。それを学部の先生が教える際に、「この部分はこの先生」というのを選んで教えたいニーズがある。教育としてはいいだろうが、出版社さんにすればこれまでまるまる売れていたものが4−5分の1しか売れないのはどうかというのもわかる。しかし逆に言えばシェア的になかったものが一部でも売れるのではいいのでは?
  • Q. しかしもう30年以上、その3冊を持っていたのでは・・・
    • 長丁さん:私も3冊は持っていない。買ったのはムーアだけ、あとは図書館で利用。
  • 土屋俊先生:それは既存の出版の既得権益の構造の話。大学教育は大きく変わろうとしている、それに反するのは反逆。
  • 鈴木さん:本にはそれぞれメッセージがある、そういうものをつくってきた。しかしそれでは教育では使えない、というのも事実。そこを様々に組み合わせて使うこともあるだろう。書かれたものは現実と乖離する。だからこそ、100年とか50年生きるものを作る必要がある。紙でやるならそういうものだろう。その点で先生方に申し上げたいのは、先ほど電子ブックの要件の話があったが、先生方から出されたリソースはiPadアプリを作るときに全然使えなかった。先生方の持っている動画は講演など仲間内のためのもの。本はその場にいない人のためのものなので、それでは使えない。電子出版ではそのクオリティが重要になる。仮に定価1,000円とすると、読者はマイケル・サンデルを要求する。電子化することによってリソースのクオリティがものすごく重視されるようになる。
  • 千葉大学・全先生:あまり大学を舐めてもらっては困る。大学教員は教授法を教わってはいない。学会発表と一般向けのものが違うのも当然。今のはクオリティの話ではなく、教員がずぼらなだけ。仲間内のためのものを外向けに出した。それは編集者が教えないといけない。それが編集者の役割。それから学生にわかりやすく、ということは、あまりわかりやすすぎるのも困る。物理は3次元だからいいだろうが、数学はn次元になる。それを理解できなくならないか。理系の学生は最近、抽象的なことを理解しようとしない。3次元まではわかるが・・・という。人にものを教えることを踏まえた大学での教え方をまずやらないと、それを踏まえた上での電子化したコンテンツである。電子化したコンテンツを組み合わせれば、というのであれば簡単だろうが、アカデミック・リンクではそういうこともぜひ踏まえて。
    • 竹内先生:今のお話は常に意識していきたい。それから本のばらばら化について申し上げると、1つの授業はそれだけで済むわけではない。その授業を学ぶ学生がさらに読むべき本も提示している。それは事前学習にも使えるかも知れないし、さらに深めることにも使えるだろう。ばらばらにした本だけで教育が成り立つとは思わない。コンテンツを提供し続けること、質の良いコンテンツをたくさん学生に読ませることは重要と考えている。アカデミック・リンクを出発点にして学習を深めていくことになる。その役に立つ資料を出版社には出していただきたい。
  • 川本先生:最後に学生さんから、これだけは聞きたいということがあれば。
    • 千葉大学・文学部の学生さん:学生にあまり便利さを追求させるな、ということに賛成。就職活動で求められるのは自分で問題を解決する力とか能動的に動く力。やる気のない学生もいるが意欲のある学生もいる。あまり便利になりすぎないようなコンテンツを増やして欲しい。で、質問だが、最近の研究では書籍としての本だけでなく映像や映画を研究することが多い。映画の場面を見てそこで使われている表象について議論するなど。その際に学生が使える電子コンテンツの整備はどうなるのか? ここまでは教員が上から提示する話だが、学生がゼミで用いるコンテンツを、権利処理して提供できるような環境ができればいい。
    • 土屋俊先生:大変重要な指摘。大学図書館は非図書資料、ビデオ等をたくさん買って、不必要に高い値段で、不必要に高い装置と合わせて買っている。レーザーディスクなんかどっかいっちゃった。これが全然ライセンシングされていない、1回きりのライセンスで、ダビングしてオンライン配布などはできない。それなりの金額を費やしてきたものが実際にはほとんど使われていない。作った側から見れば誰も使えない状態にしちゃっている。これはアカデミック・リンクでぜひライセンシングしていただきたい。

閉会挨拶(西村達也さん、大日本印刷株式会社常務役員)

  • オープニングは千葉大館長の西村さん、エンディングはDNPの西村(笑)
  • 千葉大学は私の知る限り、国立大学では唯一、設立以来、印刷社振興学の先行印刷写真工学の専攻*5がある
    • DNPにも優秀な人材が多数入社
    • 基盤技術の確立・情報コミュニケーション企業としての技術・企画で広く活躍していただいている
  • 千葉大学は高等教育の質の向上に向けて大学における学びの変革をアカデミック・リンクを通じて実現しようとしている
    • DNPはそれを支える出版・印刷業界において、CHIグループ株式会社を立ち上げている
      • 参加にはTRC、丸善ジュンク堂などなど・・・
      • 「知の生成と流通に革新をもたらす企業集団でありたい」
    • DNPとしてはCHIと一緒になって今日議論されているような課題に大いに対応していきたい
    • 千葉大DNP双方が大学の教育・研究改革を推進すべく、協同プロジェクトを開始
      • 課題を共有・発展させる場としての今日のシンポジウム
  • 本プロジェクトをきっかけに・・・
    • 出版社、大学、高等教育改革に関心を持つ全ての方々とともに、日本の大学、ひいては日本の国力向上を



ご覧のとおり、約4時間、休憩を考えれば3時間半強のイベントだったのですが、その中で非常に濃い内容が展開されていました・・・。
なのでとても全体を概観しての感想をすぐにはまとめられないのですが、いくつか気づいた点・気になった点だけ。

アカデミック・リンクで電子化するものとしての公刊資料(学術出版者が関わる物)、非公刊資料(教材)、授業、というのは明確で、かつそれぞれに関わるプレイヤーも見えやすくて理解しやすかったです。
今回は出版者の方も多く、会場もDNP、ということでコンテンツ関連の話が中心になった面もあるのでしょうが、逆に大学図書館と学習環境の話でここまでコンテンツをしっかり押している例は最近あまり見なかったようにも思いますし。
Moodleは筑波大にも入っているはずなので自分でも機会があれば活用しようかな、と思いました。


学術書の部分売りについては、会場から1冊を買って通しで読んで欲しい、との出版社側からのご意見もありましたが。
これについてはDNPの長丁さんが「私自身、3種類の教科書のうち1種類だけ買って残りは図書館で読んで済ませた」とおっしゃっているように、実際には授業等で部分的にしか用いない図書は、今も買っていないケースがかなりあると思います。
過去に自分も、毎回別の図書・雑誌等を扱う輪講形式の授業はいくつか取りましたが、一部の章しか用いない図書についてはコピーだけ取って全文は見ない、ということも結構あり・・・(特にもともと複数の著者の論考をまとめた形式の図書については、ある著者の執筆した章しか用がない、ということも多々あり)。
それが部分売りで購入するのが一般的になれば今までお金になってなかった部分もお金になるわけで。
もちろん今まで1冊通しで買っていたのが部分買いされるとどうなるか、ってのもあるわけですが・・・どうだろう、1冊通しで使う教科書ならさすがに買っていたしなあ・・・


今まで自分の中では国内の電子書籍に関する話題って研究よりか一般書に絡むもので教育の文脈とうまく接続されていなかったのですが、今回のシンポジウムで大学教育、電子書籍出版と図書館に関する考えがけっこう変わったのは大きな収穫です。
他にもe-learningや動画配信、人的支援と場の提供など、ばらばらだったものがひとつにつながっていく、「アカデミック・リンク」の名のとおりリンクされていくのは面白い経験でした。


その他、考えるところは色々ありますが、今回のシンポジウムでは主催者のご厚意で電源とプラス腕章をご提供いただいた代わりに早急に記録をブログにアップすること、というお約束をしてきたので、今日のところはこのあたりにて(笑)


自分ももっといろいろ学習しないとなー、学部生時代遊んでばっかいたからなあ・・・

*1:例えばこのブログで取り上げた大図研オープンカレッジで永田先生も指摘していました。参照:「ラーニング・コモンズ : 学びの場の新しいカタチ」-第17回 大図研オープンカレッジ - かたつむりは電子図書館の夢をみるか

*2:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/1301602.htm

*3:コース: Japanese Moodle

*4:Science版:Electronic Publication and the Narrowing of Science and Scholarship | Science. Google Scholarで検索するとオープンアクセス版も無料で閲覧可能

*5:2011-02-28 23:52 @kanako_ebiさんのご指摘を受け修正