かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

「OA出版の現状と戦略:ジャーナル出版の側から」(Open Access Week: 第1回SPARC Japanセミナー2011)


今週はOpen Access Weekでしたね!

オープンアクセスウィーク(Open Access Week: OAW)はアメリカのSPARCが主催しているイベントで,今年で 5回目を迎えます。今年から,「10月の最終週がオープンアクセスウィーク」に設定されました。

http://cont.library.osaka-u.ac.jp/oaw/


上記エントリでも宣言していますが、このOAWにちなんで開催されたSPARC Japanの毎年恒例、OAWセミナーに行ってきました!


10月24日〜30日は Open Access Week と位置づけられ,世界中でオープンアクセスを推進するイベントが開催されます。
今回のSPARC Japanセミナーでは,「OA出版の現況と戦略(ジャーナル出版の側から)」をテーマに,OA出版の可能性と今後についてそれぞれの分野の研究者の方からご発表いただき,検討したいと考えております。
多くの皆さまのご参加をお待ちしております。

以下の3名の方からご講演いただき,全体討議を行います。

  • 参加対象者

研究者,図書館員,学術出版職にある方々


以下、いつものように当日のメモです。
例によってmin2-flyの聞き取れた/理解できた/書きとれた範囲のもので、特に今回、遺伝学研究所の斎藤先生のお話はテンポがいい分とりづらい部分もあり、色々抜けていると思います(汗)
ご利用の際はその点、ご了解をお願いします。
誤字・脱字や問題点等、お気づきの方はコメント・メール等でご指摘いただければ幸いです。


では、まずはNIIの安達先生による趣旨説明からです!



開会挨拶(国立情報学研究所教授・安達淳先生)

  • 今年度第1回のセミナーを遅くなりましたが開催します
    • 震災後、NIIの中でも仕事が混乱した。あっという間に夏になり、夏は夏で節電でばたばたしていた
    • 今週はOpen Access Week. 世界中でイベントを行なっている
      • 先日、韓国のOAのシンポジウムで日本の現状の話をしてきたりもした
      • 今日のセミナーはOAWのイベントとするために今週中にしなければいけない。でも国立情報学研究所(NII)の会議室埋まっていたのでベルサール九段をとった
  • 今日の話題はOA雑誌
    • 出版・研究者の立場から、3人の講師に具体的な話をしていただく
    • 科学技術基本政策のレベルでは日本でもOAを進めることになっているが、具体的な政策は動いていない
    • 欧米ではいろいろな動きがあり、日本の研究者・学会もその動きに巻き込まれている
    • 最初は瀧川先生に物理学の話を、次に斎藤先生に生物学の話を、3人目は友常先生に日本研究の立場からのお話をいただく。その後パネルディスカッション
  • 具体的にOAを我が国の研究コミュニティの中でどう育てるか、という課題がある。その上での情報交換ができれば運営者として嬉しい

趣旨説明(日本動物学会事務局長/UniBio Press代表・永井裕子さん)

  • セミナーが今日、こうやって開催できることが嬉しい
    • SPARC Japanを支援してくれているNIIに御礼申し上げたい
  • 今日の趣旨も含めて安達先生にお話いただいたが・・・
    • 参加者名を拝見するととても多様。学協会、図書館、出版、様々な方が来席している
  • オープンアクセスもずいぶん落ち着いた論議になってきたが、まだ確立されたモデルは見つからない
    • BioMed CentralをSpringerが買収したことからも、OAはなんらかの持続可能性を獲得できるのだろう
    • 問題は、購読モデルを使っている学会が、OAモデルに移行できるか
      • 海外の動向を見ると移行費用の大きさが問題になっている
    • 文科省の学術審議会の中でも科研費に関連してホットな議論が続いている
      • 諸外国の中でOA雑誌への支援を明確に打ち出しているところはそこまで明確にはない
      • 日本政府が科研費としてやるとなると大きなフェーズに来ていると言える。それを学会、研究者はどう考えるか、本当にいいモデルとは? 3人の先生のお話を聞いて考えたい
      • その後、意義のあるディスカッションをしたい

素粒子物理学系ジャーナルにおけるオープンアクセスかの試み(東京大学物性研究所教授・瀧川仁先生)

はじめに
  • 今日は物理学コミュニティのOA雑誌の試みについて紹介したい
  • 私は2年ほど前から日本物理学会の刊行委員長をしている。その関係で雑誌に関わっている
  • 本来の専門は物性なので自分の専門とは外れるが、今日は素粒子分野で試みられているOA化の話をしたい
  • 講演内容:
    • 素粒子(高エネルギー)物理学とインターネット
      • 雑誌の電子化、OAを牽引してきた分野。SCOAP3のような野心的な実験もしている、そのコミュニティについてまず話す
    • SCOAPR3について
      • 高エネルギー分野の雑誌をいっきにOA化する壮大な計画。まだうまくいくかは危ぶまれるが走りつつあるので現状と将来の話を
    • 日本物理学会の新しいOA誌
      • 偶然、物理学会でも昔からある雑誌を新しい名前でOA雑誌として立ち上げる計画がある。その話をする
    • まとめと課題
素粒子(高エネルギー)物理学とインターネット
  • 高エネルギー物理学の説明
    • <席移動のためメモとれず・・・素粒子物理学とはなにか、の説明部分>
    • 研究者は実験/理論に完全に2分される。他の分野だと実験をやりながらモデルを考えると思うが、物理学では実験をやる人は実験、理論は理論、と分化する
      • 実験研究者は加速器で粒子を発生させてその性質を見る。その中にはまだ理論的に予想はされても発見されていない粒子を発見する試みもある
      • 理論は実験データを説明する理論を作ったり、未発見の粒子について考えたりする
      • 実験と理論が助けあいながら学問が進展していく、という性質の分野
    • 論文の書き方/研究のやり方も理論と実験で違う
  • 素粒子理論
    • ある部分、紙と鉛筆と黒板があればできる。研究費はかからない、というのが理論研究のスタイル
    • 最近は変わってきている・・・スーパーコンピュータを使って素粒子の世界を再現・計算によってシュミレートする
      • 大規模コンピュータを使うのでお金がかかるようになってきている
      • ただし実験装置に比べるとお金の桁が違う。超巨大な予算はいらない
    • arXivに入っている論文を見てみると・・・高エネルギー関連の9割以上は理論論文! 実験は1割以下
    • 個人または小グループの研究
  • 高エネルギー実験
    • 超巨大な実験装置がいる。物性なら一つの研究室でできるが、高エネルギーでは巨大な施設がいる
      • CERNLHCは山手線沿線と同じくらい(!)の大きさ
      • 費用も巨大で一国では賄えない。建設自体が国際共同プログラム
    • 実験も1つの実験に何百人も関わる。異分野では考えにくい状況
    • 日本でも東海村のJ-PARCなどの加速器。4-5年前に完成してどんどん性能を上げている
    • ニュートリノの観測装置であるスーパー・カミオカンデ神岡鉱山の地下深くにある。東海村ニュートリノをここで観測するとか巨大実験
    • 理論より圧倒的に大きな費用を使う一方、重要な実験結果はめったに出ない(ので論文は1割程度)
    • これだけのデータを使うとなると情報処理が非常に重要になる・・・高エネルギー物理分野は情報技術でも先端を走る
  • インターネット技術の発祥地:CERN
    • ネットワークを通じた実験データの共有
    • WWWを最初にやったのがCERNWikipediaで見ると1990年の一番最初のwebサーバはCERNにある
      • 高エネルギーで一番世の中に大きな影響を与えたのはインターネット技術の開発?
  • プレプリント・サーバの創始
    • 最初にプレプリント・サーバを始めたのが高エネルギー物理
    • ロスアラモス国立研究所素粒子理論研究者、ポール・ギンスバーグが高エネルギー関連の論文を集めて公開しだす
    • 研究者のニーズによって生まれたリポジトリ
      • 世界中の科学者が使っている、非常に重宝する。瀧川先生も毎日見ている
    • ピア・レビューがあるわけではない
      • 間違ったものがあっても不思議はない
      • 便利でも学術雑誌に替わるものではない
      • 多くの研究者は学術雑誌に載ったものを見る⇔高エネルギーは研究者人口も多くなく狭いので、あまり学術雑誌に依存していない
  • 高エネルギー物理学研究者コミュニティの特徴
    • 現実的にはarXiv.orgにほとんどの論文があるので、実質的にはOAは達成されている。ほとんどの研究者はarXiv.orgで読む
    • わざわざ学術雑誌を見る研究者は1割に満たない。この分野に限って、雑誌は情報発信の役割は果たしていない
    • いらないわけではない・・・ピア・レビューによって「正統性」を与えるために必要
      • 購読費用は情報流通のためではなく、正統性付与のシステム維持のために払われている
    • 高エネルギー物理関係の論文掲載誌・・・OA誌は皆無
      • 高エネルギー物理は少数の雑誌でカバーされている
    • コミュニティとして、論文はもうOA化されているのに、学術誌がOAじゃないのは何かおかしい、という認識
      • 研究者のほとんどは雑誌自体のOA化が望ましいとしている
    • OA誌に掲載される論文は1割未満
      • 掲載費がない
      • OA誌の質
    • 購読費の意味が情報流通じゃなくて正統性の付与にあるなら、購読モデルじゃなくていいのでは?
      • 全部OA化できないか?
      • SCOAP3へ
SCOAP3について
  • Sponsoring Consortium for Open Access Publishing in Particle Physics の略
  • 2006年にCERNが提唱
  • 高エネルギー物理学雑誌のOA化プロジェクト
  • 図書館の購読費を集めて、いっきに色んな雑誌群をOA化してしまおう!
    • 現状は購読のためにお金を払っているが、目的はpeer reviewのサポート
    • もしSCOAP3がうまくいったら、公的資金や図書館の予算をコンソーシアムに集めて、出版社に経費を払うかわりに論文はOAになる
  • 一見すると素晴らしいが困難な点はいろいろ
    • どうやってお金を集める? みんなが一斉にやらないと無理
    • どこに分配するかの優先順位は誰が決めるのか?
  • お金の分配プロセス:入札でやる
    • 高エネルギー物理学関連雑誌それぞれについて入札を行う
      • 安さ+雑誌の質に基づくランク付けから優先順位を決める
      • まだ最終的なランク付け手法の答えは出ていない点に危惧?
    • 優先順位に基づいてお金を出していく
      • 資金が尽きたところでおしまい、それ以下はSCOAP3の対象外にすることで競争原理がはたらく
      • でもこのプロセスはどう公平に動くのか?
  • 資金を集めるプロセス
    • 論文を出している研究者の割合に従って配分
      • アメリカは24%、日本は7%
      • CERNの担当者が4年かけて色んな国の代表者を説得していく。だんだん資金は集まるように
    • 現在、必要額の7割程度まで達成
      • 日本の負担分8%も今年合意。NIIの安達先生が交渉しつつ、研究機関の代表であるKEKや図書館の代表である国公私大学図書館協力委員会の間で合意
      • 実質8割の資金が集まった状況
    • 日本としては資金が走りだしたからには日本の雑誌もSCOAP3に加えたい・・・入札が欧米に偏らず、地域的分布にも配慮して多様性をもたせる、という一文を追加
  • 今年4月のCERNでのミーティングから:
    • 主要な出版機関も入札に応じる姿勢を示す
      • 雑誌全てOA or 高エネルギー論文だけOA の両方がある
    • 8割の資金獲得でもこれだけ揉めているのに、持続可能なのか?
      • どこかの国が「やめた」と言えばドミノ的にだめになる
      • 入札の公平性
  • とはいえ動き出す・・・各出版者にSCOAP3に応じる意志の有無を聞くsurveyが届く
    • 入札参加条件・・・実績、Creative Commonsへの対応、雑誌の一部分しかOA化しない場合は助成額分の値下げを行うこと
  • 今後の課題:
    • 持続できなくなると出版者にしわ寄せが来る・・・一度切った購読契約の再開は困難
    • 質の評価の問題
    • リスクも高いが、高エネルギー分野だからこそできる実験。理想的には走ってくれることが好ましいが、そうでなくてもまあ実験としてやる価値はある
日本物理学会の新しいOA誌
  • 日本にも古くから固有の雑誌がある
    • 古くは100年前から数学・物理の雑誌があった
    • 戦後は数学と物理に分かれて、純粋物理では2誌、応用物理関係では歴史がやや浅くなるがJapanese Journal of Applied Physicsが1962年に、2008年にはそのExpress誌、さらに1994年には光学の雑誌もある
  • 日本の物理学雑誌の質は高い
    • 日本は多くの物理学者がノーベル賞受賞・・・うち江崎先生は物性で、他は皆さん高エネルギー物理
    • 高エネルギー分野でノーベル賞を受賞した論文5つのうち、3つは日本の雑誌に発表されたもの
  • これまでの刊行体制の説明
    • 物理学会・応用物理学会共同で物理系学術誌刊行センター(PCAP)を立てる。京都の理論物理学刊行会の雑誌もオンライン版はここで
    • 理論物理学刊行会も単独での維持は困難。2013年から雑誌を物理学会から出すことに
      • その機に理論だけでなく実験論文も入れることにして、名前をPTEP(Theoretical & Experiment)に変えることに
  • OA雑誌PTEP(Progress of Theoretical and Experimental Physics)創刊の計画
    • 理論・・・研究費は少ないから掲載料はとらないでほしい
    • 実験・・・参加者も多いしOA誌にして欲しい
      • 誰が経費負担するのか?
    • とりあえずオンラインのみOAとする
      • 財政基盤は掲載料となるが、理論系をサポートするために研究機関等が掲載料を負担する支援も
  • より具体的な今後のプラン
    • 2013年から完全移行するが、1年前の2012年にPTEPを創刊
      • 創刊にあたっては一般論文ではなく招待論文による特集企画を行い、雑誌の趣旨をアピール
        • 投稿を促すためのキャンペーン
        • 日本を代表する研究機関のオリジナルな成果を出したい
    • 雑誌の運営の仕方・・・編集委員会ん他に、大規模実験施設のオリジナルな成果投稿を促すプロモーション・チームを作る
    • SCOAP3への対応、国際的な投稿促進のために海外出版機関との連携も視野に
  • その他の世界的な物理系OA誌の動向
    • New Journal of Physics:英・IOP
    • Physical Review X(米・APS、2011年秋に創刊予定)
    • AIP Advances(米・AIP、2011.4創刊)
    • 世界的に物理系でもOA誌の創刊が盛んと言えるが、本当に持続的になるのか?
  • 持続可能なOA雑誌の経営モデルとは?
    • 今の雑誌の経費は図書館が払っている・その元は公的資金
    • 著者も投稿にあたって投稿料を払っているが少ない・・・雑誌購読費から研究費へredirectすることからサポートするようなシステムがいる?
    • 例えば・・・科研費でOA誌を重点的に支援?
    • 成果をOAにするときだけ使える経費を作る?
      • なんらかの「はずみ」がOA誌の持続には不可欠
まとめと課題
  • SCOAP3はリスクも高いが成功すれば大きな意義
  • PTEPは研究者コミュニティの決意に基づいて創刊。OA誌としての創刊はリスクを伴うが、意義は大きい

研究者によるオープンアクセス雑誌のたちあげを!(国立遺伝学研究所教授・斎藤成也先生)

はじめに・・・自己紹介的な話
  • 私自身は7名の人間でOA雑誌を立ち上げる取り組みをしている
    • 大きな出版者とも関係しない、single handedlyにやっている
  • 子供の頃から本が好き・・・小中高と図書委員
    • インターネットは図書館だと思う。誰でもただで自由に見れることが大事。自動的にOA
    • 家の中で寝転んで見ることもある。そんなとき、購読していない雑誌は家だと見られない。OAなら見られる。帰省して実家にいるときも旅行先のホテルでもOAのものしか見られない。OAこそ自由な研究の第一歩である
  • 博物館と図書館は人類文明の両輪。
    • 博物館は標本なのでものがないとダメ。今後も永遠に巨大な建物がいる
    • 図書館は、本独特の文化もあるが、本質は情報。今後の図書館は巨大なサーバセンターになることは明らか
      • 5年ぶりに研究所の図書館に行ったが・・・自分で階段上って探すようなことはもう役割を終えていると感じた
  • もう1つ:編集が好き
    • 東大理学部生物学科で理学部2号館にいたとき、雑誌を出していた
    • 同じ時期に輪読会をやったりもしていて、皆に送るのも自分でやっていた
    • 1982年からテキサス大学にいた。そのときにアメリカ中に散らばっているフルブライト奨学金受給者、30人くらい向けに回覧誌を作ったりもしていた
    • 帰国後、PDを経て助手になったら、ただちに自分の夢を開始した・・・
      • 尊敬する先生が学生時代に学会を立ち上げていた。なので進化学の学会をつくろうと学生のときにしたが、それはさすがに失敗
      • 帰国後、東京で進化学研究会を1989年に立ち上げて、SHINKAという雑誌を作って、ISSNも取って発行していた
        • 「SHINKA」なのは、当時すでに「進化」という雑誌が過去発行されていたので
        • 10年後には会員400人くらいになったが、年会費1,000円でやっていた。最初はコピー機でコピー本として、のちにはプリンタでやっていた
        • 掲載料1,300-1,500ドルとか聞くが、高すぎると思う
        • 昔、PLoS BiologyのEditorに会ったことがあるが、高い給料で編集者が雇われてやっていた。高給取りの編集者の給料のためにやってるんだなあ、と実感した
        • 編集者の給料だけでなく企業の利益もあるのだろうが、やっぱり高すぎる。編集は重要と思うが、高すぎる
    • 国立遺伝学研究所ではニュースレターの編集長や、分子進化学分野の雑誌のassociate editorもしている
    • 日本人類学会の機関誌の編集長を3年間、やっていたことも
    • 2009年には分子系統学・進化に関するElsevierの雑誌のassociate editorも
    • 他にもeditor board memberになっている雑誌がある
以下、ひたすら色んな生物系雑誌の紹介
『Molecular Biology and Evolution』 の話・・・associate editorをやっている
  • 日本人がけっこうassociate editorに入っている
  • 購読しないと読めない。研究所にいないと読めないので、編集委員会でいつもOAにするよう言っているが、発行元のOUPは儲かっているせいか手放そうとしない
      • 先日、論文を出したが、掲載料は10万円くらい。科研費が通ってないと気軽に払えない額
    • 使っているeditorial systemは"Scholar ONE"・・・査読者を見つけるのにはいい
Molecular Phylogenetics and Evolution誌・・・Elsevierから出ている雑誌
  • 査読でリジェクトしたら友達いなくなったとか
    • もちろんOA雑誌ではない。遺伝学研究所でも購読をやめてしまっているのでちょっと困っている
J-STAGEで公開している『Anthropological Science』
  • J-STAGEのサイトのデザインの問題点。デザインも何もない。理解出来ない。
『Human Biology』誌
  • アメリカの大学がやっている雑誌。最近webサイトが変わって綺麗なデザインに
  • editorの顔写真も出ている。でも2年間、査読を頼まれたことはない(苦笑)
『DNA Research』
  • 本の雑誌としては高いインパクトファクター。良い論文が載る
    • 誰もが引用しないといけない、ゲノムのデータが載る
    • しかも発行元は国立研究機関じゃない。彼らの決めたゲノムのデータがここに載るので引用される
  • これも購読誌⇔会場から指摘、今はオープンアクセス
『Journal of Human Genetics』
  • 昔は「Japanese〜」と名前にあったが、Springerに身売りしたときに取っちゃった(今はNPGに移行)
    • 物理では名前の変更は不利に働くそうだが、生物系ではJapaneseを取っちゃった方がIFが高くなる
  • でも身売りしてからは投稿・掲載ともに日本人以外が大部分になった
    • 編集長には悪いが、悪い例? 学会員の会費を使い、科研費も受け取りながら、大部分は外国人の論文のために使っている
    • もう学会の役割は終わった? ジャーナルの母体としての使命を終えた良い例だと思う
    • ただ、査読者がcommentaryを書くような制度はいいのでやったらいいと思う
BioMed Central(BMC)
  • Springerに買収されていたの知らなかった! いつの話?(もう随分前です>会場から)
  • 著者の貢献(author contribution)について書かせるのがいい。役割を書けない人が加えられないので。
  • BMCシリーズは全体的に質が高いものが揃いつつあると思う
『Journal of Molecular Evolution』・・・Springerから発行
  • vol.1-10くらいまでは同人誌みたいな雑誌だった
  • Springerと組んでからは普及したが、Springerは高すぎる。100万円くらいする。
  • 掲載に時間がかかるなどの問題もあって、現在では後発誌に抜かれてしまった。インパクトファクターも落ちる一方
    • IFが低いということは逆にいえば敷居が低いので、共著者が載らないと言ったような論文でも通ったりした(笑)
  • 他のSpringerの問題・・・雑誌の宣伝ページと論文ページのアクセスが悪い
    • 「Elsevierにまず最初に消えて欲しいが、いずれはSpringerも単行本だけ出す会社になって欲しい」
『International Journal of Evolutional Biology』・・・Hindawi(インドの会社?>エジプトのOA雑誌社、と会場から指摘)
  • Hindawiは論文の勧誘メールがいっぱいくる。うるさいくらい
  • editorial boardの半分位が日本人
    • まともな研究者の名前を見ると安心する。Editorial boardの名前は大事
  • でもHindawiはなんかいんちき臭い・・・
ほか、次々と雑誌の紹介・・・メモしきれず
たくさん見て分かること:
  • インターネットによって世界はフラットになった。Googleで探せばNatureもほかも一緒に出てくる
雑誌運営の具体策:紙は細部に宿る
  • 論文は電子媒体のみでOAにすればいい
  • 体裁は横長がいい。PCの画面は横長だから
  • 使用言語は英語
  • 学会とは無関係
  • 著者のメールアドレスは公開すべきではない・・・SPAMの温床
質疑:
  • Q. 途中の話の中で「今年は科研費があるから投稿料が出せる」という話だったが、SHINKAの投稿料は?
    • A. 数年かはただ。無名の雑誌なんだからただにしないといけない。予算はわずか70万円、サーバは年間3万円、editorはボランティア。お金を取るとしたらサーバ料金と査読者への謝金くらい。僕は査読は有料で有るべきと思うので。でもあわせて1万円くらいで十分。




休憩タイム



国際日本研究と学術デジタルコミュニケーションの現在(東京外国語大学専任講師・友常勉先生)

はじめに
  • 最初は永井さんから依頼があった・・・日本動物学会の方だったので自分たちの生態が調べられるのかと思った(笑)
    • でも今日の話は研究者の生態、ということになるのだろう
  • 専門は日本思想史。最近は猿回しの研究なども
    • 東大が立ち上げた雑誌の編集長をしており、それがここに来るきっかけになったと思う
  • 今日はオープンアクセス、ということの背景や条件を考えてみたい
    • 今日のトピックからは相当外れることをお断りして、お付き合いいただきたい
e-Japanologyの問題意識
  • 日本学をどのように世界に発信するか、ということをやっている。そこでe-Japanoogyという名前をつけてやっている
    • 日本学にかかわるデジタルコミュニケーションについて
  • 学術デジタルコミュニケーション、それも人文社会科学系の高度化、という背景
    • NDLや学会単位での取り組み、あるいは日本化学会の林さんを中心とする国際標準ジャーナルフォーマット導入等
    • これに対して日本国内で国際標準のサービスは進んでいない
    • 2001年に出版・取次の鈴木書店倒産に伴って、学会誌の取り扱いがなくなり、いくつかの学会が機関誌と学会誌管理に大きな混乱をきたした
      • 出版者を中心とした取りまとめの条件が2001年にいったん、失われてしまった
    • ただ、データベースの世界では大きな変化が起きている
      • 人文学系にはアーカイブが重要。近デジ、アジ歴、神戸大や大分大のリポジトリ、・・・
        • ジャーナルだけでなくデータベースを海外でどう活用できるようにするか、というのも不可分の条件
  • 海外の日本学・日本研究は大きな困難に直面している
    • 国内の電子化の遅れが原因で、海外の日本学・日本研究者が減少している
    • 東アジア図書館を持っているような図書館で、中国系資料が日本資料をはるかに上回り、中国・朝鮮系に比べ日本の電子ジャーナル購読もはるかに下回る。国際的な学術の電子化の中で、海外で行われている日本研究は大きな停滞に直面している
      • どう打開するのか?
  • e-Japanologyの試み:
    • 東京外国語大学を中心に、多摩地区エリアで協力関係にある大学のあいだで、日本研究の国際アクセス環境高度化に向けたパイロットプロジェクト
      • 作ったコンテンツを海外提携大に持って行って使ったり配信してもらう
      • コンテンツを作った教員が出向いて授業をしたり、コンテンツのメンテナンスをしたりする
    • そのコンテンツを元にクラウド基盤で配信
    • 海外の日本学・日本研究者を支援、日本の研究成果にアクセスできる環境も構築したい
    • 日本学の学術コミュニティの基盤を作る
      • 大事なのは・・・日本語学習者のコミュニティを作ること
      • 3.11の後で留学生は激減した。激減した留学生をいかにもう一度獲得するかが大学の問題意識
        • そこにおいては・・・Sonyやアニメ等のコンテンツが海外にあることは潜在的日本語学習者の層の存在を意味する。それが日本に来るプロセスをどう作るのか?
      • 今いる留学生、海外の潜在的学習者、国内の学習者を結びつけるネットワークを作りたい
        • それをリードするのに必要なのが基盤レイヤー
  • 実現のためのステップ
    • 日本学・日本研究の概念化と国際環境の把握
      • 海外で地盤沈下しているといっても地域差がある。それを見たい
      • ボローニャ・プロセスで海外の日本研究所が東アジア研究所等に統合されて、専門性のステータスが希薄している。そういうことも含めて環境を把握する
    • コンテンツ作成の支援
    • コンテンツ配信の技術支援
    • 遠隔教育
    • 認証・検疫システムの構築
    • 多言語で発信することも含めたナビゲーション技術の開発・・・とりあえずはCJKを考えているが、海外研究者へのアクセスサービスを提供したい
    • 内外留学生を対称としたデジタル・アクセス・サービス
    • 今は研究会や討論の最中。今週は科研weekだが、科研をとったり、外部資金を得ながら、外部にサーバを作って、技術開発は専門家が行う、私たちは留学生への支援やフォローをしながらネットワークを維持し、情報の往還を作りたい
  • このようなe-Japanology構想は・・・学術デジタルネットワーク等の構想の中ではあくまで第一段階
    • 日本研究の国際学術ネットワーク形成のために、もう一段階上のレイヤーとの結合の方向性を考えたい
米国における国際日本研究の現状: マルラ俊江報告より
  • 海外の日本研究の現状を把握する際に参照するのは米国のアジア学会の研究・機関紙。その1つが10年おきくらいに出る日本研究の報告。ここで引いたのは1997年の報告
  • 人文学と社会科学の差
    • 人文学・・・ILL等で入手できる資料が欲しい。出版物が欲しい
    • 社会科学・・・米国にはない、ILLでは入手しにくい資料が欲しい。多言語・多元的な生のデータが欲しい
  • アメリカの日本研究者の内訳と動向(Marra2011から)
    • 1995-2005で社会科学系の研究者の数が著しく減少している。483人⇒308人。人文系は大きく変わらない(579⇒562)
      • バブル崩壊の他に、電子資源にアクセス出来ない状況もファクターになっているのではないか?
  • アメリカの大学における日本関係のコースの状況
    • 言語学、東アジア研究、日本語研究等は増えている
    • 問題は減っているところ。社会学は1995⇒2005でコースを持っている大学が40%減っている。経営学も減っている。
      • 明らかに社会科学系の分野で日本コース設置が減っている
  • 2009.6のデータベース・電子ジャーナル購読資料数
    • 電子ジャーナルははっきりと中国語が多く、日本語は少ない。
    • 購読上位図書館20館の合計で中国語ジャーナルは231、朝鮮語100、日本93
  • 北米で契約可能な日本語電子資料・・・
    • 新聞社や出版者の電子資料データベースはあるが、社会科学系の読みたいような電子資料はカバーされていない
    • 電子資料へのアクセス環境の悪さが、社会科学系のインセンティブ低下の一因?
  • 北米図書館による、日本語論文複写数・図書貸借
    • 論文複写は増加傾向にあるが、図書の貸借は減っている。100-200件くらい
    • 日本語の電子書籍も買われておらず、図書の貸借も減っているということは・・・研究者のインセンティブが減って、研究者数も減っている?
  • マルラ論文の提言のまとめ:
    • 電子的学術資料の裁量の提供方法を製作者、提供者、利用者と模索し実践する
    • 機関リポジトリの整備とオープンアクセスの推進
    • 一次資料へのアクセス促進
    • 電子と紙の統合的な日本研究資料の利用促進
  • 予算の苦境にあるからこそ、なおさら電子化が重要
    • 中国の学術誌を見ると、検索回数は日本の雑誌の3倍以上、ダウンロードは6.7倍にも達する
    • 新しい資料がアクセスしやすく提供されていることが大きいのではないか?
アジア学会年次大会(1995-2011)日本セッションの傾向から
  • アジア学会(AAS)・・・4,000人くらいの会員がいる学会。1941年に作られた、極東・アジア戦略、戦後にどう支配していくかが主な目的の学会
    • 出発点はそうだったが、そこから『菊と刀』等が生まれてきた
    • 現時点では国際的なアジア研究の動向を把握するのに最適な学会
  • セッション形式、査読に落ちると採用されない/individual paperもroundtableに回された上に落ちる可能性がある
  • そのセッションの傾向を見ると・・・
    • 歴史のセッションが多い。続いて日本のアイデンティティ現代日本社会の問題を反映したセッション、次いで女性研究
    • 文学に特化したものは歴史に比べて目立っていない。学際セッションに含まれることが多いから?
    • 社会科学系・・・ビジネスのセッションは2011年に1回あった以外は0. 2011年はAAS創設70周年で111セッションあった大きな大会だから?
  • まとめると:
    • 社会科学系に対して人文学系に日本研究は偏っている
      • 社会学は日本研究、と名乗る必要がない関係もある?
    • 人文学系は文学、歴史、文化・社会論が領域横断的にセッションを組む
    • 一次資料へのアクセスと分析を重視する分野に対して、既刊資料を用いた研究が多い
      • 歴史なども、一次資料を用いるものよりは文学のテキスト等を通じて思想を見る、等のアプローチが多い
    • ここにもhumanitiesとsocial sciencesのインセンティブの差
      • それを補うためにinformatics、方法論のセッションもある?
    • 社会科学研究の結論は地味である、研究として出す意味を感じないかも知れないが・・・大事なのはデータを集めるプロセス
  • 論点:
    • 資料のアクセス環境に規定された制約を前提に、海外の日本研究は閉鎖的なジャンルに固執している
    • 既刊資料への依存によって研究がルーティン化している
今後に向けて
  • 領域横断的カルチュラル・スタディーズと、デジタル・アーカイブ構築事業が共存する学術知の方向性の提起
    • 基盤研究の底上げが不可欠
    • ジャーナルの編集はそれ自体がステータスであるだけでなく、研究者の能力と層を底上げする



パネルディスカッション

パネリスト:
  • 瀧川先生
  • 斎藤先生
  • 友常先生
モデレータから:安達先生

3つの分野の雑誌のお話をいただいた。まず3人の講師の先生方、ご自分のお話の中でもっとしたかったことや、他の先生のお話への感想などあれば。発表中に斎藤先生から瀧川先生にプレプリントの使われ方について質問がありましたが。

瀧川先生

査読はどの分野でも重要。しかしどうちゃんと機能しているかは分野によって違う。高エネルギー、それも実験は極端な例で、何百人の研究者がデータを共有して解析したもので、結論を出すまでにもcross checkをして正しいとわかったものを出している。4ページ程度の論文でも膨大な解析とチェックがあって、1-2人のrefereeではチェックできない。Cross check自体の方がレビューより厳しい。査読は表面的なところ、ロジックなどしか見られない。一方、理論物理では査読が現実的な意味を持つ。機能する分野とない分野がある、ということ。また、素粒子理論の研究者は正しいかどうかは自分が判断する、と考えていて、Natureに載ったとかは考慮しないし、プレプリントでも自分が価値があると判断すればそう思う。コミュニティの特徴がある。もちろん領域によって違って、物性では査読は重要だが、それでも開発の際にはプレプリント等が役に立つ。

安達先生

発見・発明の先取権の主張にプレプリントは機能する? プレプリントで出したら先取権を取って、細かい修正があって査読になっても・・・ということ?

斎藤先生

プレプリントが出回ったのにリジェクトされたら?

瀧川先生

何年経ってもpublishされなかったら価値がないもの、となるだろう。publishされたかどうかの記録は厳然として残る。早く結果を知らせるにはプレプリントサーバは大事だが、それが残るかはわからない。

斎藤先生

プレプリントが出回った時点でもう「公開」となる? Natureなどでは事前に発表してはダメ、などの統制があるが、それは物理にないの?

瀧川先生

物理でもNatureに出すなら従うだろうが、Natureはもうプレプリント・サーバはOKしている。

安達先生

量子コンピュータ研究者は論文ごとにarXivを使うかどうかを戦略的に判断している。研究者同士の競争もあるので、その手段として使っているように感じる。

安達先生

友常先生にお尋ねしたい。経済学分野でもプレプリントを使うことは多いと聞く。文化系の人は本を尊重するのかと思ったが、プレプリントで出してしまって・・・ということもあるという。友常先生の分野だとデータベース等の資料的なものもあると思うが、そういうところで新しい方向とか流れはある?

友常先生

特許とは無縁の業界だが、成果を巡る競争はある。博士論文の早い・遅いは問題になる。経済学については、最新の資料を使わなければいけないし論点も変わるのでありうるだろう。また、アーカイブということで言えば、それぞれのクレジットをどう守るかが問題になる。若いアーキビストの中では、日本語で画像化された資料を海外研究者が見ても意味がわからない。それにコメントをつけるようなネットワークを作る、そしてそのコメントにクレジットを残して権利を保証できないか、という試みをしている。

斎藤先生

査読とは矛盾するが、今後の出版は各大学・研究機関の紀要が、自分で立ち上げれば世界中で見られるのでいいんじゃないか、と連載記事で書いたことがある。人間文化研究機構でも雑誌を出し始めているし、民博は日本語・英語両方で出している。例えばCERNが出したらもう、CERN発でそれでいいんじゃないか? 研究機関の紀要を大事にする、という考え方。

安達先生

SCOAP3は大きな実験として興味深いし、理屈としては出版というか・・・学術出版に関わるお金を誰かが払わなければいけないのをどうするか、と。最近はほとんど全部、研究経費は国民の税金から出ているので、アメリカのリベラルな考え方としてはそこから法外な利益を出版が得るのは問題である、それを覆すにはトータルコストが同じでも利益の分だけ下がるはず、という話もある。それはマクロに見ればそうかも知れないが、個々の研究者の中でそうなるかが見もの。SCOAP3で気になるのは、ただのりへの懸念。それをどう制度化するのか? もしCERNがすべて紀要として高エネルギー物理分野のものはやる、となれば原理的には解決するが、研究所同士の競争もあってそう簡単ではないらしい。

斎藤先生

CERNでやった分はCERNで出す、KEKの分はKEKで出す、等とすれば? 論文でもデータ等と同じようにそうなればいいのではないか。各大学・研究所のcommitteeがしっかりしていないといけないが。

フロア質疑
  • Q. 感想。arXivの話を聞くと、生物系と作法が違う。どこかで発表されたものを雑誌に載せていいのか、というのは生物系でよく聞かれる。それに対して物理の先生からはarXiv.orgを使って読んでいる研究者の顔はある程度わかっているので、でたらめなものは載せられない、責任を持ってやっているのだ、というようなことを言われた。長い間、SPARC/Japanに関わってarXiv.orgの流れも見ているが、ある分野のコミュニティが責任をもって支えている感じは傍から見える。それがうまく言っている理由ではないか。
  • Q. 購読モデルからOAへの移行は今後考えなければいけない。Natureも、Cell Pressもやろうとしている。去年、OA Weekの会の司会をやっていてもOAモデルを考えなければいけない、という実感をひたひた得ている。購読からOAへの移行のスタートをPTEPが切るわけだが、そのかかる期間はどうやって踏んだ?
    • 瀧川先生:PTEPでは不連続なプロセスを踏んだ。場合によっては段階的にもできる、著者がOA化を選択できるモデルなら徐々に変わることもあるかも知れないが、現実にはOAを選択する著者は少ない。そうなるとある時点からOA、と踏み切ることになるんだろうが、移行というのはどこかで費用が発生するわけではなく、将来永劫続く刊行費用と同じく永続的に続くもの。持続的なモデルを考えない限り、移行のコストというのはどこかで終わるものではない。
  • Q. いっきにOA化する場合、もともと購読モデルで例えば年間100万円予算があったのが投稿料で30万円くらいにしかならなかった、というときに赤字を補填しながら徐々に完全に投稿料で回すようになっていくのだろうと思う。PTEPはそのあたりをどう考えられて始めたのか。
    • 瀧川先生:掲載料がただであれば書き手はそこに投稿したくなるわけで、それを無理やり方向を変えるには、組織的な資金で持って掲載料を負担することが最初に必要と考えている。あくまで論文を書くのは科学者なので、研究者集団が全体でサポートする。KEKやRIKEN等にお願いして、そこの研究者が論文を出すときは機関としてサポートするようお願いしている。それを大学等にもお願いしていけば、科研費がなくてもやっていけるようになる。タイムスケールとしては3〜5年を考えている。
    • 斎藤先生:関連して。日本遺伝学会の会計幹事をしているのだが、J-STAGEに雑誌を載せるときにすべてOAにする、となった。しかしそうなると機関購読が減るかと思ったが、OAになったと公表しなかったら、徐々には減っていったけどしばらくは機関購読が続いていた。
  • 安達先生:斎藤先生から各雑誌についてお話をいただいたが、使う方からすればどう探せばいいのか?
    • 斎藤先生:Googleでいい。世の中Google。いっぱいリンク貼っておけば勝手に目立つ。データベースの構造なんかどうでもいい、テキストがあればいい、という議論すらデータベース界隈ではある。Googleで探せればそれでいい。
  • 安達先生:修士の学生がつまらない論文を輪読で紹介することがある。それはGoogleで探した結果だという。若い人がそんな無駄をするのはどうかと思うが・・・
    • 斎藤先生:それは権威ある雑誌だけ見ていろ、ということ?
  • 安達先生:そういうわけではないが、機関リポジトリの著者版なども含め、ランキングなしに混在するのは問題ではないか?
    • 斎藤先生:それは本質的な問題ではない。ファイルの日付を見ればいい。学生が論文を判断できないのは教育の問題。でもNatureにだってくだらない論文はいっぱいある。早く大方の雑誌に凋落して欲しい
  • 安達先生:文化系だとどうなのか?
    • 友常先生:Twitterみたいに勝手にどんどんリンクして仲間作ってくれることに期待したいので、プラットフォーム作ったら投げてしまう。ただ、ナビゲーションは必要。画像だけ作ってなんの情報が見られるのかわからないようなアーカイブが多い。どんどん書きこんでもらって、それがナビゲーションになる、という状況をコミュニティとしては期待したい。
  • Q. 斎藤先生に。学会とは無関係、という話があったが、学会への思いについて補足を。
    • 斎藤先生:まず日本の学会とアメリカの学会は違う。日本は母語は日本語で学会発表も日本語だが、雑誌は英語でエディターも学会員じゃない海外の人だったりする。雑誌と学会員がどんどん乖離している。そうなると、学会は年次大会だけやればいい。最初から学会として、年次大会メインで機関誌を出さない、というのは生き残るモデルだと思う。動物学会も『Zoological Science』はいずれ切り離した方がいい。
  • 安達先生:物理分野では学会と出版の関係はどうなのでしょう? 日本の物理学コミュニティでは?
    • 瀧川先生:学会の出版活動は2種類ある。会員のための出版、学会誌。これは日本語で、学会員のためのもの。そこにはオリジナルな原著論文は載らない。それ以外の、オリジナルな原著論文を載せるジャーナルは、会員のためのものではなく、学会が世界の学問の中でステータスを維持する、世界的な学問の維持に貢献するためのもの。それはインターナショナルにやる。ジャーナルまで会員のためのものにしてしまうと同人誌みたいなものになって、ステータスが上がらない。
  • 安達先生:コンピュータサイエンスでもマガジンと論文誌は分かれていてそれぞれ大事だが、斎藤先生の分野だとマガジンみたいなものはあるのか?
    • 斎藤先生:さっき言ったcommentaryというのは、発表された論文が色んな人に読まれて、citationはしないけど意見はいう、みたいなもの。Twitterのようなもので、それは学会活動とは切り離していい。やっぱりeditorial boardが非常に重要で、日本の学会だと日本人がメインで少し外国人が入る、となる。そのねじれが問題。それは中国も同じで、国際的なジャーナルをつくろうとアメリカ人も入れて頑張っているが、どうしてもローカルと見られて、成功とは言えない状況。学会が国ごとに作られている以上はローカリティから離れられない、だから学会と切り離して真のグローバリティを確保すればいいんじゃないか。
  • 安達先生:SPARC/Japanの課題は日本の国際誌の強化なのだが、なかなか難しくて、別の見方では「科学に国境はない」なんてことも言われる中で、日本の雑誌を強くすることがどう調和するかが課題。それはそれで考えればいいのだが、電子情報通信学会の英文誌では、日本人の投稿数は同じくらいで、トータルの投稿数が多い。これは中国からの投稿が増えたから。国際性を得るとはそういうことで、外国人のために日本の研究者が査読して内容を添削して・・・ということもなきにしもあらずである。うまく受け止めにくい状況なのだが、斎藤先生からのアドバイスは?
    • 斎藤先生:ODAと考えればいい。他の国の科学者のために働き、年会費を払い、それは文科省も出している。おかしいともいうが、日本が豊かで大人なのであればODAのようなものである。
  • 安達先生:物理ではそれは解決されている?
    • 瀧川先生:アメリカのAPSなんかは世界中から投稿されて完全にインターナショナル。その背景には今までのアメリカの物理研究の底力がある。アメリカでオリジナルな成果が出たら、それに続くものは同じ雑誌に出す。APSPhys. Rev.なんかは全てにおいて優越しているわけだが、日本の物理系のジャーナルでも日本でいい成果が出ると、それに続くものは同じ雑誌に出してくる。多様なアイディアが色んなところで受け入れられるには色んなキャラクターのある雑誌の存在が必要。雑誌ごとに特徴が出てくればそれは財産になる。それが次々出てくるのがいい状況で、日本の雑誌のクオリティは日本の研究の質のバロメータにもなる。
  • 安達先生:多様性は生き延びる唯一の方法でもあるかと思う。今日のセミナーは解答を見つける会ではなく、今動いていることについて情報共有し、ディスカッションする会。まだ色いろあると思うが、セミナーとしてはこれでお開きとしたい。


やあ・・・面白い!!
物理学分野のお話は、SCOAP3の状況は色々聞いていましたが、PTEPのOA化についてはノーマークだったので・・・こんな展開があったとは。
日本でも掲載料モデルのOA雑誌が回りだすというのは、過去に「日本はそのモデルほとんどない」と書いてた身としては感慨深いです。


斎藤先生のお話は言わずもがな、刺激的ですね。
学会⇔雑誌出版は分離すべき、という指摘は終了後も参加者の方と議論するくらいに、学会関係者の方は反応していたようです。
日本語の学会誌に当たり前に査読論文を出している自分のような分野だとさらに状況が違うわけですが、まあそれは今回の範囲ではなさそうなので。


友常先生のお話も、思わず太字を使ってしまうくらいに興味深かったです。
デジタル情報の発信が弱いから日本研究がしづらい⇒人が減ってるんじゃないか、というのは、もちろんバブル崩壊等で研究する魅力が失われている/中国等に関心が移っていることもあるにしても、発信の重要性を考える上で貴重なお話だと思いました。


正直、今書いている途中の博論の中で使いたい話がいっぱいで・・・いやー、行ってよかったです。
今年のOAWはこれにておしまいですが、むしろここから考えていくネタがいっぱいあるなあ、とかなんとか。