「OA出版の現状と戦略:ジャーナル出版の側から」(Open Access Week: 第1回SPARC Japanセミナー2011)
今週はOpen Access Weekでしたね!
オープンアクセスウィーク(Open Access Week: OAW)はアメリカのSPARCが主催しているイベントで,今年で 5回目を迎えます。今年から,「10月の最終週がオープンアクセスウィーク」に設定されました。
上記エントリでも宣言していますが、このOAWにちなんで開催されたSPARC Japanの毎年恒例、OAWセミナーに行ってきました!
10月24日〜30日は Open Access Week と位置づけられ,世界中でオープンアクセスを推進するイベントが開催されます。
今回のSPARC Japanセミナーでは,「OA出版の現況と戦略(ジャーナル出版の側から)」をテーマに,OA出版の可能性と今後についてそれぞれの分野の研究者の方からご発表いただき,検討したいと考えております。
多くの皆さまのご参加をお待ちしております。
- セミナー内容
以下の3名の方からご講演いただき,全体討議を行います。
- 斎藤 成也(国立遺伝学研究所 集団遺伝研究部門 教授)
- 友常 勉(東京外国語大学 国際日本研究センター 専任講師)
- 参加対象者
研究者,図書館員,学術出版職にある方々
- ちなみに過去のOAW関連エントリは以下から:
以下、いつものように当日のメモです。
例によってmin2-flyの聞き取れた/理解できた/書きとれた範囲のもので、特に今回、遺伝学研究所の斎藤先生のお話はテンポがいい分とりづらい部分もあり、色々抜けていると思います(汗)
ご利用の際はその点、ご了解をお願いします。
誤字・脱字や問題点等、お気づきの方はコメント・メール等でご指摘いただければ幸いです。
では、まずはNIIの安達先生による趣旨説明からです!
開会挨拶(国立情報学研究所教授・安達淳先生)
- 今年度第1回のセミナーを遅くなりましたが開催します
- 震災後、NIIの中でも仕事が混乱した。あっという間に夏になり、夏は夏で節電でばたばたしていた
- 今週はOpen Access Week. 世界中でイベントを行なっている
- 今日の話題はOA雑誌
- 出版・研究者の立場から、3人の講師に具体的な話をしていただく
- 科学技術基本政策のレベルでは日本でもOAを進めることになっているが、具体的な政策は動いていない
- 欧米ではいろいろな動きがあり、日本の研究者・学会もその動きに巻き込まれている
- 最初は瀧川先生に物理学の話を、次に斎藤先生に生物学の話を、3人目は友常先生に日本研究の立場からのお話をいただく。その後パネルディスカッション
- 具体的にOAを我が国の研究コミュニティの中でどう育てるか、という課題がある。その上での情報交換ができれば運営者として嬉しい
趣旨説明(日本動物学会事務局長/UniBio Press代表・永井裕子さん)
- 今日の趣旨も含めて安達先生にお話いただいたが・・・
- 参加者名を拝見するととても多様。学協会、図書館、出版、様々な方が来席している
- オープンアクセスもずいぶん落ち着いた論議になってきたが、まだ確立されたモデルは見つからない
素粒子物理学系ジャーナルにおけるオープンアクセスかの試み(東京大学物性研究所教授・瀧川仁先生)
はじめに
素粒子(高エネルギー)物理学とインターネット
- 高エネルギー物理学の説明
- 素粒子理論
- 高エネルギー実験
- インターネット技術の発祥地:CERN
- プレプリント・サーバの創始
- 最初にプレプリント・サーバを始めたのが高エネルギー物理
- ロスアラモス国立研究所の素粒子理論研究者、ポール・ギンスバーグが高エネルギー関連の論文を集めて公開しだす
- 後にarXiv.orgと改名、コーネル大学図書館が運営
- arXiv.orgのデモ:http://arxiv.org/
- 典型的高エネルギー物理論文の例。著者のリストだけで3ページ!
- 後にarXiv.orgと改名、コーネル大学図書館が運営
- 研究者のニーズによって生まれたリポジトリー
- 世界中の科学者が使っている、非常に重宝する。瀧川先生も毎日見ている
- ピア・レビューがあるわけではない
- 間違ったものがあっても不思議はない
- 便利でも学術雑誌に替わるものではない
- 多くの研究者は学術雑誌に載ったものを見る⇔高エネルギーは研究者人口も多くなく狭いので、あまり学術雑誌に依存していない
- 高エネルギー物理学研究者コミュニティの特徴
- 現実的にはarXiv.orgにほとんどの論文があるので、実質的にはOAは達成されている。ほとんどの研究者はarXiv.orgで読む
- わざわざ学術雑誌を見る研究者は1割に満たない。この分野に限って、雑誌は情報発信の役割は果たしていない
- いらないわけではない・・・ピア・レビューによって「正統性」を与えるために必要
- 購読費用は情報流通のためではなく、正統性付与のシステム維持のために払われている
- 高エネルギー物理関係の論文掲載誌・・・OA誌は皆無
- 高エネルギー物理は少数の雑誌でカバーされている
- コミュニティとして、論文はもうOA化されているのに、学術誌がOAじゃないのは何かおかしい、という認識
- 研究者のほとんどは雑誌自体のOA化が望ましいとしている
- OA誌に掲載される論文は1割未満
- 掲載費がない
- OA誌の質
- 購読費の意味が情報流通じゃなくて正統性の付与にあるなら、購読モデルじゃなくていいのでは?
- 全部OA化できないか?
- SCOAP3へ
SCOAP3について
- Sponsoring Consortium for Open Access Publishing in Particle Physics の略
- 2006年にCERNが提唱
- 高エネルギー物理学雑誌のOA化プロジェクト
- 図書館の購読費を集めて、いっきに色んな雑誌群をOA化してしまおう!
- 現状は購読のためにお金を払っているが、目的はpeer reviewのサポート
- もしSCOAP3がうまくいったら、公的資金や図書館の予算をコンソーシアムに集めて、出版社に経費を払うかわりに論文はOAになる
- 一見すると素晴らしいが困難な点はいろいろ
- どうやってお金を集める? みんなが一斉にやらないと無理
- どこに分配するかの優先順位は誰が決めるのか?
- お金の分配プロセス:入札でやる
- 高エネルギー物理学関連雑誌それぞれについて入札を行う
- 安さ+雑誌の質に基づくランク付けから優先順位を決める
- まだ最終的なランク付け手法の答えは出ていない点に危惧?
- 優先順位に基づいてお金を出していく
- 資金が尽きたところでおしまい、それ以下はSCOAP3の対象外にすることで競争原理がはたらく
- でもこのプロセスはどう公平に動くのか?
- 高エネルギー物理学関連雑誌それぞれについて入札を行う
- 資金を集めるプロセス
- 今年4月のCERNでのミーティングから:
- 主要な出版機関も入札に応じる姿勢を示す
- 雑誌全てOA or 高エネルギー論文だけOA の両方がある
- 8割の資金獲得でもこれだけ揉めているのに、持続可能なのか?
- どこかの国が「やめた」と言えばドミノ的にだめになる
- 入札の公平性
- 主要な出版機関も入札に応じる姿勢を示す
- とはいえ動き出す・・・各出版者にSCOAP3に応じる意志の有無を聞くsurveyが届く
- 入札参加条件・・・実績、Creative Commonsへの対応、雑誌の一部分しかOA化しない場合は助成額分の値下げを行うこと
- 今後の課題:
- 持続できなくなると出版者にしわ寄せが来る・・・一度切った購読契約の再開は困難
- 質の評価の問題
- リスクも高いが、高エネルギー分野だからこそできる実験。理想的には走ってくれることが好ましいが、そうでなくてもまあ実験としてやる価値はある
日本物理学会の新しいOA誌
- 日本にも古くから固有の雑誌がある
- 古くは100年前から数学・物理の雑誌があった
- 戦後は数学と物理に分かれて、純粋物理では2誌、応用物理関係では歴史がやや浅くなるがJapanese Journal of Applied Physicsが1962年に、2008年にはそのExpress誌、さらに1994年には光学の雑誌もある
- 日本の物理学雑誌の質は高い
- これまでの刊行体制の説明
- OA雑誌PTEP(Progress of Theoretical and Experimental Physics)創刊の計画
- 理論・・・研究費は少ないから掲載料はとらないでほしい
- 実験・・・参加者も多いしOA誌にして欲しい
- 誰が経費負担するのか?
- とりあえずオンラインのみOAとする
- 財政基盤は掲載料となるが、理論系をサポートするために研究機関等が掲載料を負担する支援も
- より具体的な今後のプラン
- 2013年から完全移行するが、1年前の2012年にPTEPを創刊
- 創刊にあたっては一般論文ではなく招待論文による特集企画を行い、雑誌の趣旨をアピール
- 投稿を促すためのキャンペーン
- 日本を代表する研究機関のオリジナルな成果を出したい
- 創刊にあたっては一般論文ではなく招待論文による特集企画を行い、雑誌の趣旨をアピール
- 雑誌の運営の仕方・・・編集委員会ん他に、大規模実験施設のオリジナルな成果投稿を促すプロモーション・チームを作る
- SCOAP3への対応、国際的な投稿促進のために海外出版機関との連携も視野に
- 2013年から完全移行するが、1年前の2012年にPTEPを創刊
- その他の世界的な物理系OA誌の動向
- New Journal of Physics:英・IOP
- Physical Review X(米・APS、2011年秋に創刊予定)
- AIP Advances(米・AIP、2011.4創刊)
- 世界的に物理系でもOA誌の創刊が盛んと言えるが、本当に持続的になるのか?
- 持続可能なOA雑誌の経営モデルとは?
-
- 機関リポジトリは学術雑誌とは別の概念
まとめと課題
- SCOAP3はリスクも高いが成功すれば大きな意義
- PTEPは研究者コミュニティの決意に基づいて創刊。OA誌としての創刊はリスクを伴うが、意義は大きい
研究者によるオープンアクセス雑誌のたちあげを!(国立遺伝学研究所教授・斎藤成也先生)
はじめに・・・自己紹介的な話
- 私自身は7名の人間でOA雑誌を立ち上げる取り組みをしている
- 大きな出版者とも関係しない、single handedlyにやっている
- 子供の頃から本が好き・・・小中高と図書委員
- インターネットは図書館だと思う。誰でもただで自由に見れることが大事。自動的にOA
- 家の中で寝転んで見ることもある。そんなとき、購読していない雑誌は家だと見られない。OAなら見られる。帰省して実家にいるときも旅行先のホテルでもOAのものしか見られない。OAこそ自由な研究の第一歩である
- 博物館と図書館は人類文明の両輪。
- 博物館は標本なのでものがないとダメ。今後も永遠に巨大な建物がいる
- 図書館は、本独特の文化もあるが、本質は情報。今後の図書館は巨大なサーバセンターになることは明らか
- 5年ぶりに研究所の図書館に行ったが・・・自分で階段上って探すようなことはもう役割を終えていると感じた
- もう1つ:編集が好き
- 東大理学部生物学科で理学部2号館にいたとき、雑誌を出していた
- 同じ時期に輪読会をやったりもしていて、皆に送るのも自分でやっていた
- 1982年からテキサス大学にいた。そのときにアメリカ中に散らばっているフルブライト奨学金受給者、30人くらい向けに回覧誌を作ったりもしていた
- 帰国後、PDを経て助手になったら、ただちに自分の夢を開始した・・・
- 尊敬する先生が学生時代に学会を立ち上げていた。なので進化学の学会をつくろうと学生のときにしたが、それはさすがに失敗
- 帰国後、東京で進化学研究会を1989年に立ち上げて、SHINKAという雑誌を作って、ISSNも取って発行していた
- 「SHINKA」なのは、当時すでに「進化」という雑誌が過去発行されていたので
- 10年後には会員400人くらいになったが、年会費1,000円でやっていた。最初はコピー機でコピー本として、のちにはプリンタでやっていた
- 掲載料1,300-1,500ドルとか聞くが、高すぎると思う
- 昔、PLoS BiologyのEditorに会ったことがあるが、高い給料で編集者が雇われてやっていた。高給取りの編集者の給料のためにやってるんだなあ、と実感した
- 編集者の給料だけでなく企業の利益もあるのだろうが、やっぱり高すぎる。編集は重要と思うが、高すぎる
- 国立遺伝学研究所ではニュースレターの編集長や、分子進化学分野の雑誌のassociate editorもしている
- 日本人類学会の機関誌の編集長を3年間、やっていたことも
- 2009年には分子系統学・進化に関するElsevierの雑誌のassociate editorも
- 他にもeditor board memberになっている雑誌がある
以下、ひたすら色んな生物系雑誌の紹介
『Molecular Biology and Evolution』 の話・・・associate editorをやっている
Molecular Phylogenetics and Evolution誌・・・Elsevierから出ている雑誌
- 査読でリジェクトしたら友達いなくなったとか
- もちろんOA雑誌ではない。遺伝学研究所でも購読をやめてしまっているのでちょっと困っている
『Human Biology』誌
- アメリカの大学がやっている雑誌。最近webサイトが変わって綺麗なデザインに
- editorの顔写真も出ている。でも2年間、査読を頼まれたことはない(苦笑)
『DNA Research』
- 日本の雑誌としては高いインパクトファクター。良い論文が載る
- 誰もが引用しないといけない、ゲノムのデータが載る
- しかも発行元は国立研究機関じゃない。彼らの決めたゲノムのデータがここに載るので引用される
- これも購読誌⇔会場から指摘、今はオープンアクセス
『Journal of Human Genetics』
- 昔は「Japanese〜」と名前にあったが、Springerに身売りしたときに取っちゃった(今はNPGに移行)
- 物理では名前の変更は不利に働くそうだが、生物系ではJapaneseを取っちゃった方がIFが高くなる
- でも身売りしてからは投稿・掲載ともに日本人以外が大部分になった
- 編集長には悪いが、悪い例? 学会員の会費を使い、科研費も受け取りながら、大部分は外国人の論文のために使っている
- もう学会の役割は終わった? ジャーナルの母体としての使命を終えた良い例だと思う
- ただ、査読者がcommentaryを書くような制度はいいのでやったらいいと思う
BioMed Central(BMC)
- Springerに買収されていたの知らなかった! いつの話?(もう随分前です>会場から)
- 著者の貢献(author contribution)について書かせるのがいい。役割を書けない人が加えられないので。
- BMCシリーズは全体的に質が高いものが揃いつつあると思う
『Journal of Molecular Evolution』・・・Springerから発行
- vol.1-10くらいまでは同人誌みたいな雑誌だった
- Springerと組んでからは普及したが、Springerは高すぎる。100万円くらいする。
- 掲載に時間がかかるなどの問題もあって、現在では後発誌に抜かれてしまった。インパクトファクターも落ちる一方
- IFが低いということは逆にいえば敷居が低いので、共著者が載らないと言ったような論文でも通ったりした(笑)
- 他のSpringerの問題・・・雑誌の宣伝ページと論文ページのアクセスが悪い
- 「Elsevierにまず最初に消えて欲しいが、いずれはSpringerも単行本だけ出す会社になって欲しい」
『International Journal of Evolutional Biology』・・・Hindawi(インドの会社?>エジプトのOA雑誌社、と会場から指摘)
- Hindawiは論文の勧誘メールがいっぱいくる。うるさいくらい
- editorial boardの半分位が日本人
- まともな研究者の名前を見ると安心する。Editorial boardの名前は大事
- でもHindawiはなんかいんちき臭い・・・
ほか、次々と雑誌の紹介・・・メモしきれず
雑誌運営の具体策:紙は細部に宿る
- 論文は電子媒体のみでOAにすればいい
- 体裁は横長がいい。PCの画面は横長だから
- 使用言語は英語
- 学会とは無関係
- 著者のメールアドレスは公開すべきではない・・・SPAMの温床
質疑:
- Q. 途中の話の中で「今年は科研費があるから投稿料が出せる」という話だったが、SHINKAの投稿料は?
- A. 数年かはただ。無名の雑誌なんだからただにしないといけない。予算はわずか70万円、サーバは年間3万円、editorはボランティア。お金を取るとしたらサーバ料金と査読者への謝金くらい。僕は査読は有料で有るべきと思うので。でもあわせて1万円くらいで十分。
休憩タイム
国際日本研究と学術デジタルコミュニケーションの現在(東京外国語大学専任講師・友常勉先生)
はじめに
- 最初は永井さんから依頼があった・・・日本動物学会の方だったので自分たちの生態が調べられるのかと思った(笑)
- でも今日の話は研究者の生態、ということになるのだろう
- 専門は日本思想史。最近は猿回しの研究なども
- 東大が立ち上げた雑誌の編集長をしており、それがここに来るきっかけになったと思う
- 今日はオープンアクセス、ということの背景や条件を考えてみたい
- 今日のトピックからは相当外れることをお断りして、お付き合いいただきたい
e-Japanologyの問題意識
- 日本学をどのように世界に発信するか、ということをやっている。そこでe-Japanoogyという名前をつけてやっている
- 日本学にかかわるデジタルコミュニケーションについて
- 学術デジタルコミュニケーション、それも人文社会科学系の高度化、という背景
- 海外の日本学・日本研究は大きな困難に直面している
- 国内の電子化の遅れが原因で、海外の日本学・日本研究者が減少している
- 東アジア図書館を持っているような図書館で、中国系資料が日本資料をはるかに上回り、中国・朝鮮系に比べ日本の電子ジャーナル購読もはるかに下回る。国際的な学術の電子化の中で、海外で行われている日本研究は大きな停滞に直面している
- どう打開するのか?
- e-Japanologyの試み:
- 実現のためのステップ
-
- 今は研究会や討論の最中。今週は科研weekだが、科研をとったり、外部資金を得ながら、外部にサーバを作って、技術開発は専門家が行う、私たちは留学生への支援やフォローをしながらネットワークを維持し、情報の往還を作りたい
- このようなe-Japanology構想は・・・学術デジタルネットワーク等の構想の中ではあくまで第一段階
- 日本研究の国際学術ネットワーク形成のために、もう一段階上のレイヤーとの結合の方向性を考えたい
米国における国際日本研究の現状: マルラ俊江報告より
- 海外の日本研究の現状を把握する際に参照するのは米国のアジア学会の研究・機関紙。その1つが10年おきくらいに出る日本研究の報告。ここで引いたのは1997年の報告
- 人文学と社会科学の差
- 人文学・・・ILL等で入手できる資料が欲しい。出版物が欲しい
- 社会科学・・・米国にはない、ILLでは入手しにくい資料が欲しい。多言語・多元的な生のデータが欲しい
- アメリカの日本研究者の内訳と動向(Marra2011から)
- 1995-2005で社会科学系の研究者の数が著しく減少している。483人⇒308人。人文系は大きく変わらない(579⇒562)
- バブル崩壊の他に、電子資源にアクセス出来ない状況もファクターになっているのではないか?
- 1995-2005で社会科学系の研究者の数が著しく減少している。483人⇒308人。人文系は大きく変わらない(579⇒562)
- アメリカの大学における日本関係のコースの状況
- 2009.6の北米東アジア図書館蔵書数
- 北米で契約可能な日本語電子資料・・・
- 新聞社や出版者の電子資料データベースはあるが、社会科学系の読みたいような電子資料はカバーされていない
- 電子資料へのアクセス環境の悪さが、社会科学系のインセンティブ低下の一因?
- 北米図書館による、日本語論文複写数・図書貸借
- マルラ論文の提言のまとめ:
- 電子的学術資料の裁量の提供方法を製作者、提供者、利用者と模索し実践する
- 機関リポジトリの整備とオープンアクセスの推進
- 一次資料へのアクセス促進
- 電子と紙の統合的な日本研究資料の利用促進
- 予算の苦境にあるからこそ、なおさら電子化が重要
- 中国の学術誌を見ると、検索回数は日本の雑誌の3倍以上、ダウンロードは6.7倍にも達する
- 新しい資料がアクセスしやすく提供されていることが大きいのではないか?
アジア学会年次大会(1995-2011)日本セッションの傾向から
- アジア学会(AAS)・・・4,000人くらいの会員がいる学会。1941年に作られた、極東・アジア戦略、戦後にどう支配していくかが主な目的の学会
- 出発点はそうだったが、そこから『菊と刀』等が生まれてきた
- 現時点では国際的なアジア研究の動向を把握するのに最適な学会
- セッション形式、査読に落ちると採用されない/individual paperもroundtableに回された上に落ちる可能性がある
- そのセッションの傾向を見ると・・・
- まとめると:
- 社会科学系に対して人文学系に日本研究は偏っている
- 社会学は日本研究、と名乗る必要がない関係もある?
- 人文学系は文学、歴史、文化・社会論が領域横断的にセッションを組む
- カルチュラル・スタディーズの方法論の浸透? 元は階級制が高いものだったが、色々なディシプリンを使う便利なツールとして制度化した
- 一次資料へのアクセスと分析を重視する分野に対して、既刊資料を用いた研究が多い
- 歴史なども、一次資料を用いるものよりは文学のテキスト等を通じて思想を見る、等のアプローチが多い
- ここにもhumanitiesとsocial sciencesのインセンティブの差
- それを補うためにinformatics、方法論のセッションもある?
- 社会科学研究の結論は地味である、研究として出す意味を感じないかも知れないが・・・大事なのはデータを集めるプロセス
- 社会科学系に対して人文学系に日本研究は偏っている
- 論点:
- 資料のアクセス環境に規定された制約を前提に、海外の日本研究は閉鎖的なジャンルに固執している
- 既刊資料への依存によって研究がルーティン化している
今後に向けて
- 領域横断的カルチュラル・スタディーズと、デジタル・アーカイブ構築事業が共存する学術知の方向性の提起
- 基盤研究の底上げが不可欠
- ジャーナルの編集はそれ自体がステータスであるだけでなく、研究者の能力と層を底上げする
パネルディスカッション
パネリスト:
- 瀧川先生
- 斎藤先生
- 友常先生
モデレータから:安達先生
3つの分野の雑誌のお話をいただいた。まず3人の講師の先生方、ご自分のお話の中でもっとしたかったことや、他の先生のお話への感想などあれば。発表中に斎藤先生から瀧川先生にプレプリントの使われ方について質問がありましたが。
瀧川先生
査読はどの分野でも重要。しかしどうちゃんと機能しているかは分野によって違う。高エネルギー、それも実験は極端な例で、何百人の研究者がデータを共有して解析したもので、結論を出すまでにもcross checkをして正しいとわかったものを出している。4ページ程度の論文でも膨大な解析とチェックがあって、1-2人のrefereeではチェックできない。Cross check自体の方がレビューより厳しい。査読は表面的なところ、ロジックなどしか見られない。一方、理論物理では査読が現実的な意味を持つ。機能する分野とない分野がある、ということ。また、素粒子理論の研究者は正しいかどうかは自分が判断する、と考えていて、Natureに載ったとかは考慮しないし、プレプリントでも自分が価値があると判断すればそう思う。コミュニティの特徴がある。もちろん領域によって違って、物性では査読は重要だが、それでも開発の際にはプレプリント等が役に立つ。
斎藤先生
プレプリントが出回ったのにリジェクトされたら?
瀧川先生
何年経ってもpublishされなかったら価値がないもの、となるだろう。publishされたかどうかの記録は厳然として残る。早く結果を知らせるにはプレプリントサーバは大事だが、それが残るかはわからない。
斎藤先生
プレプリントが出回った時点でもう「公開」となる? Natureなどでは事前に発表してはダメ、などの統制があるが、それは物理にないの?
瀧川先生
物理でもNatureに出すなら従うだろうが、Natureはもうプレプリント・サーバはOKしている。
安達先生
友常先生にお尋ねしたい。経済学分野でもプレプリントを使うことは多いと聞く。文化系の人は本を尊重するのかと思ったが、プレプリントで出してしまって・・・ということもあるという。友常先生の分野だとデータベース等の資料的なものもあると思うが、そういうところで新しい方向とか流れはある?
友常先生
特許とは無縁の業界だが、成果を巡る競争はある。博士論文の早い・遅いは問題になる。経済学については、最新の資料を使わなければいけないし論点も変わるのでありうるだろう。また、アーカイブということで言えば、それぞれのクレジットをどう守るかが問題になる。若いアーキビストの中では、日本語で画像化された資料を海外研究者が見ても意味がわからない。それにコメントをつけるようなネットワークを作る、そしてそのコメントにクレジットを残して権利を保証できないか、という試みをしている。
斎藤先生
査読とは矛盾するが、今後の出版は各大学・研究機関の紀要が、自分で立ち上げれば世界中で見られるのでいいんじゃないか、と連載記事で書いたことがある。人間文化研究機構でも雑誌を出し始めているし、民博は日本語・英語両方で出している。例えばCERNが出したらもう、CERN発でそれでいいんじゃないか? 研究機関の紀要を大事にする、という考え方。
安達先生
SCOAP3は大きな実験として興味深いし、理屈としては出版というか・・・学術出版に関わるお金を誰かが払わなければいけないのをどうするか、と。最近はほとんど全部、研究経費は国民の税金から出ているので、アメリカのリベラルな考え方としてはそこから法外な利益を出版が得るのは問題である、それを覆すにはトータルコストが同じでも利益の分だけ下がるはず、という話もある。それはマクロに見ればそうかも知れないが、個々の研究者の中でそうなるかが見もの。SCOAP3で気になるのは、ただのりへの懸念。それをどう制度化するのか? もしCERNがすべて紀要として高エネルギー物理分野のものはやる、となれば原理的には解決するが、研究所同士の競争もあってそう簡単ではないらしい。
斎藤先生
CERNでやった分はCERNで出す、KEKの分はKEKで出す、等とすれば? 論文でもデータ等と同じようにそうなればいいのではないか。各大学・研究所のcommitteeがしっかりしていないといけないが。
フロア質疑
- Q. 感想。arXivの話を聞くと、生物系と作法が違う。どこかで発表されたものを雑誌に載せていいのか、というのは生物系でよく聞かれる。それに対して物理の先生からはarXiv.orgを使って読んでいる研究者の顔はある程度わかっているので、でたらめなものは載せられない、責任を持ってやっているのだ、というようなことを言われた。長い間、SPARC/Japanに関わってarXiv.orgの流れも見ているが、ある分野のコミュニティが責任をもって支えている感じは傍から見える。それがうまく言っている理由ではないか。
- Q. 購読モデルからOAへの移行は今後考えなければいけない。Natureも、Cell Pressもやろうとしている。去年、OA Weekの会の司会をやっていてもOAモデルを考えなければいけない、という実感をひたひた得ている。購読からOAへの移行のスタートをPTEPが切るわけだが、そのかかる期間はどうやって踏んだ?
- 瀧川先生:PTEPでは不連続なプロセスを踏んだ。場合によっては段階的にもできる、著者がOA化を選択できるモデルなら徐々に変わることもあるかも知れないが、現実にはOAを選択する著者は少ない。そうなるとある時点からOA、と踏み切ることになるんだろうが、移行というのはどこかで費用が発生するわけではなく、将来永劫続く刊行費用と同じく永続的に続くもの。持続的なモデルを考えない限り、移行のコストというのはどこかで終わるものではない。
- Q. いっきにOA化する場合、もともと購読モデルで例えば年間100万円予算があったのが投稿料で30万円くらいにしかならなかった、というときに赤字を補填しながら徐々に完全に投稿料で回すようになっていくのだろうと思う。PTEPはそのあたりをどう考えられて始めたのか。
- 瀧川先生:掲載料がただであれば書き手はそこに投稿したくなるわけで、それを無理やり方向を変えるには、組織的な資金で持って掲載料を負担することが最初に必要と考えている。あくまで論文を書くのは科学者なので、研究者集団が全体でサポートする。KEKやRIKEN等にお願いして、そこの研究者が論文を出すときは機関としてサポートするようお願いしている。それを大学等にもお願いしていけば、科研費がなくてもやっていけるようになる。タイムスケールとしては3〜5年を考えている。
- 斎藤先生:関連して。日本遺伝学会の会計幹事をしているのだが、J-STAGEに雑誌を載せるときにすべてOAにする、となった。しかしそうなると機関購読が減るかと思ったが、OAになったと公表しなかったら、徐々には減っていったけどしばらくは機関購読が続いていた。
- 安達先生:斎藤先生から各雑誌についてお話をいただいたが、使う方からすればどう探せばいいのか?
- 安達先生:修士の学生がつまらない論文を輪読で紹介することがある。それはGoogleで探した結果だという。若い人がそんな無駄をするのはどうかと思うが・・・
- 斎藤先生:それは権威ある雑誌だけ見ていろ、ということ?
- 安達先生:そういうわけではないが、機関リポジトリの著者版なども含め、ランキングなしに混在するのは問題ではないか?
- 斎藤先生:それは本質的な問題ではない。ファイルの日付を見ればいい。学生が論文を判断できないのは教育の問題。でもNatureにだってくだらない論文はいっぱいある。早く大方の雑誌に凋落して欲しい
- 安達先生:文化系だとどうなのか?
- Q. 斎藤先生に。学会とは無関係、という話があったが、学会への思いについて補足を。
- 安達先生:物理分野では学会と出版の関係はどうなのでしょう? 日本の物理学コミュニティでは?
- 瀧川先生:学会の出版活動は2種類ある。会員のための出版、学会誌。これは日本語で、学会員のためのもの。そこにはオリジナルな原著論文は載らない。それ以外の、オリジナルな原著論文を載せるジャーナルは、会員のためのものではなく、学会が世界の学問の中でステータスを維持する、世界的な学問の維持に貢献するためのもの。それはインターナショナルにやる。ジャーナルまで会員のためのものにしてしまうと同人誌みたいなものになって、ステータスが上がらない。
- 安達先生:コンピュータサイエンスでもマガジンと論文誌は分かれていてそれぞれ大事だが、斎藤先生の分野だとマガジンみたいなものはあるのか?
- 斎藤先生:さっき言ったcommentaryというのは、発表された論文が色んな人に読まれて、citationはしないけど意見はいう、みたいなもの。Twitterのようなもので、それは学会活動とは切り離していい。やっぱりeditorial boardが非常に重要で、日本の学会だと日本人がメインで少し外国人が入る、となる。そのねじれが問題。それは中国も同じで、国際的なジャーナルをつくろうとアメリカ人も入れて頑張っているが、どうしてもローカルと見られて、成功とは言えない状況。学会が国ごとに作られている以上はローカリティから離れられない、だから学会と切り離して真のグローバリティを確保すればいいんじゃないか。
- 安達先生:SPARC/Japanの課題は日本の国際誌の強化なのだが、なかなか難しくて、別の見方では「科学に国境はない」なんてことも言われる中で、日本の雑誌を強くすることがどう調和するかが課題。それはそれで考えればいいのだが、電子情報通信学会の英文誌では、日本人の投稿数は同じくらいで、トータルの投稿数が多い。これは中国からの投稿が増えたから。国際性を得るとはそういうことで、外国人のために日本の研究者が査読して内容を添削して・・・ということもなきにしもあらずである。うまく受け止めにくい状況なのだが、斎藤先生からのアドバイスは?
- 安達先生:物理ではそれは解決されている?
- 安達先生:多様性は生き延びる唯一の方法でもあるかと思う。今日のセミナーは解答を見つける会ではなく、今動いていることについて情報共有し、ディスカッションする会。まだ色いろあると思うが、セミナーとしてはこれでお開きとしたい。
やあ・・・面白い!!
物理学分野のお話は、SCOAP3の状況は色々聞いていましたが、PTEPのOA化についてはノーマークだったので・・・こんな展開があったとは。
日本でも掲載料モデルのOA雑誌が回りだすというのは、過去に「日本はそのモデルほとんどない」と書いてた身としては感慨深いです。
斎藤先生のお話は言わずもがな、刺激的ですね。
学会⇔雑誌出版は分離すべき、という指摘は終了後も参加者の方と議論するくらいに、学会関係者の方は反応していたようです。
日本語の学会誌に当たり前に査読論文を出している自分のような分野だとさらに状況が違うわけですが、まあそれは今回の範囲ではなさそうなので。
友常先生のお話も、思わず太字を使ってしまうくらいに興味深かったです。
デジタル情報の発信が弱いから日本研究がしづらい⇒人が減ってるんじゃないか、というのは、もちろんバブル崩壊等で研究する魅力が失われている/中国等に関心が移っていることもあるにしても、発信の重要性を考える上で貴重なお話だと思いました。
正直、今書いている途中の博論の中で使いたい話がいっぱいで・・・いやー、行ってよかったです。
今年のOAWはこれにておしまいですが、むしろここから考えていくネタがいっぱいあるなあ、とかなんとか。