かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

「機関リポジトリの新たなステージに向けて」その1「CSI委託事業を振りかえる」(平成23年度CSI委託事業報告交流会(コンテンツ系)参加記録・1日目午前)


毎年6月(たまに7月)は年に一度のCSI委託事業報告交流会のシーズンです!

最先端学術情報基盤(CSI)構築推進委託事業として、各機関が平成23年度に実施した研究開発及び調査等の結果について情報共有を図るとともに、その成果をCSI構築のために活用する方策等を検討するイベントです。


イベント説明を見てもわかりづらいですが、プログラムをご覧いただければ一目瞭然、機関リポジトリ関係者が一同に会する最大のイベントです*1
自分は2008年以降毎回参加しているので、これで5回目の参加です・・・気付けばずいぶん長く参加していることに(汗)
初参加の頃はM1とかだったんですが・・・


その初参加の頃から考えても機関リポジトリの伸長は著しく、その中心にあり続けてきたCSI委託事業の交流会、それも今年はJAIRO Cloud + Wekoの登場などさらなる飛躍も見込まれる年ということで、期待に胸踊らせての参加です。


以下、当日の記録(1日目・午前の分、主にNII・安達先生によるCSI事業の総まとめのお話分)です。
安達先生ご本人も「今後の議論の背景知識として」とおっしゃっていましたが、このあとのセッションの話の前提になる部分がまとめられており、冒頭にあって大変ありがたいお話でした。

例によってmin2-flyの聞き取れた/理解できた/書取れた範囲のものであり、ご利用の際にはその点ご留意いただくようお願いします。
誤字脱字・事実誤認等、お気づきの点があればコメント欄等でご指摘いただければ幸いですm(_ _)m




開会挨拶(国立情報学研究所長 坂内正夫先生)

  • 大学は今、非常に厳しい状況の中にある
    • その中で行われる教育・研究は我が国の未来につながる唯一の王道
    • デジタルコンテンツに代表される、膨大な情報基盤を活用できるかどうかにかかっている
      • それら情報の多くは大学で生成され、それが再利用され発展する、ポジティブなルートを形成してきた
    • さまざまなステークホルダーが流通には関わるが・・・
      • 自らが整理・発信する機関リポジトリの活動は大学にとってもコアな事業になるのでは、と思う
  • 7-8年前、機関リポジトリは日本ではあまり大きな存在ではなかった
    • 皆さんと一緒になってここまできた。本文閲覧可能コンテンツは100万件*2。大きなアクティビティに育った
    • 機関リポジトリの数も約250になっている
    • ここまで成長してきて、今後は連携しつつも自立の道を行くフェーズかと思う
  • これからの機関リポジトリに大事な3つのこと:
    • 1.ここまで育ったことでミッションを果たす基盤が出来た。その維持・発展
      • 大学が発信する様々なアクティビティが連携型のリポジトリから発信されること
      • いずれは1000万コンテンツへ
    • 2.コンテンツの量だけでなく質
      • 研究で発生するのは論文等だけではなく、デモや映像、データベースやソフトウェア、様々な形態で発信される
      • 質的な変換も遂げていく必要
    • 3.何よりも・・・機関リポジトリはNIIや大きな大学1つでがんばってもできない。全国の国公私立大学の連携でここまできた
      • 私自身はNIIに来て10年以上たつが、ここに来て図書館の方々とお付き合いし、こんな素晴らしい連携があり、真面目なコミュニティが日本の学術を支えているのだ、という意を強くした
      • 機関リポジトリがここまできたのもその連携力のおかげ。今後のアクティビティ、量的・質的発展においてもこの連携力が基本、財産であることをリマインドいただきたい

Session.1「学術機関リポジトリ構築連携支援事業の7年を振りかえる」(国立情報学研究所学術基盤推進部長 安達淳先生)

  • スライド作成はコンテンツ課の皆さんにもお手伝いいただいた
    • 完成資料は後ほどwebに公開する
    • 今後の議論の背景知識として記憶しておいてほしい
事業の概要
  • Cyber Science Infrastructure(CSI)
    • 学術コンテンツ基盤・・・色々なサービスをNIIでは実施
    • その基盤は大学図書館との連携が作っている。他に国会図書館JST、学協会など・・・
    • そのうち今日、着目するのは大学の機関リポジトリで公開される情報をどのようにうまく利用していただくか
  • 機関リポジトリとは?
    • 大学の生産物を発信するアーカイブ
    • 「無料で」・・・なぜ有料ではいけないのか??
      • 学術雑誌高騰に対するオープンアクセスがルーツにあるから
      • 今日の話ではここをまず思い出していただく
    • 大学に色々ある知的生産物をいかに社会、世の中に出していくか
  • 日本における学術情報流通の動向
    • 日本の研究者は日本語と英語、2つの言語を専ら使う
    • 日本人は年間、約7万3千本(Web of Science準拠で)論文を書く。世界の約8.1%
      • うち2万2千件は英文雑誌
    • CiNiiには日本語の雑誌が入る
    • 大学には紀要やテクニカルレポートもある
    • NIIではCiNiiのほかにSPARC Japan(日本の学会発信⇒国際的なOA)
    • 大学の生産する情報の公開
      • 社会へのアカウンタビリティ
      • 学位論文、紀要論文、様々な電子データ、データベース、ソフトウェア・・・
    • セルフアーカイブは難しい。今後、展開していく際に2つの役割を重ね持つ機関リポジトリのコンテンツ収集・展開が論点に
  • NIIによる事業の取り組み
    • 平成17年度からCSI委託事業を実施
      • 第1期、2期、3期と分けて、時々の状況に応じて課題を設定
      • 領域1・・・まず機関リポジトリを作る/コンテンツをためる、とそれ以外の活動にわけて実施
    • 今年度は第3期事業の最終期・・・とりまとめをしたい
  • 委託事業の推移
    • 第2期にふくれあがって第3期は少し数を絞っている
    • 第2期には大きな大学、先行大学が入っていたが、第3期には卒業
    • NIIは大学共同利用機関・・・国公私立すべてと連携する必要
      • 状況の違う大学とうまくやることに苦心
      • 結果としては国立大学が先行
      • 他に大学共同利用機関も途中から仲間に
事業の成果
  • 地域共同リポジトリ
    • 大学の大きさ、正確を超えて協力する仕組みが全国に展開
  • コンテンツ登録数の推移
    • (本文ありが)100万を超えた。めでたい
    • 我が国の特徴は紀要論文が非常に多いこと
    • データベース、ソフトウェア等は数が限られている
    • 登録コンテンツの大部分は本文あり
    • 大学によってはメタデータが情報である、という方針のところもある
  • 世界の中での日本のリポジトリの位置は?
    • OpenDOAR準拠・・・137機関が登録、世界4位/未登録を考えれば世界第2位(米国に次ぐ)*3
      • 未登録大学はぜひOpenDOARへ登録を!
    • 米国が圧倒的に多いが、他に英国、ドイツ、スペイン等が多い
  • 第1期における領域2事業一覧・・・
    • 7年間、そのときどきに大事だと思われていたことが思い出される
    • 別の言い方をすれば・・・今後の課題を考えるとき、既に検討済みの課題を見て、その蓄積の上で何を行うか考えなければいけない
    • リンクリゾルバ対応、評価システム、著作権、電子出版、教育分野コンテンツ収集・・・
  • 第2期・・・いくつかテーマを掲げた
    • 発信力強化、持続性確保、価値向上、e-Scienceとの連携・・・
    • 数も1つのエビデンス
      • DBやソフトウェア、研究者へのアプローチには取り組みにくいことが数に現れている
  • 第3期(現在)・・・2つの大きなジャンル
    • コンテンツ拡充
      • 博士論文/科研費成果/セルフアーカイブ/その他
      • 科研費成果論文のセルフアーカイブには応募なし・・・連携本部として考えた科研費成果を出す戦略には大学としては意欲があまりわかない?
      • 博士論文への意欲はより高いことがわかる
    • 機関リポジトリ高度化
      • 論文とDBをつなげる等、論文以外の情報の活用には応募がない・・・残念
      • 遺跡リポジトリへの取組はずっと続いている
      • 学会出版も大きなテーマ
  • 委託事業については「出口」を考えて欲しい
    • 「入口」・・・学内で取り組む環境を作ってから応募を
    • 「出口」・・・支援は永続的なものではない、出口を考えて、継続的に活動する方策を考えて応募して欲しい
      • 今後も活動は継続して行われるだろうと考えている
  • 領域3:第3期で設置
    • コミュニティ活動支援・・・機関リポジトリ周辺で何を抑えておかなければいけないか
    • コミュニティ活性化の仕組み/著作権DBの維持/人材育成/コミュニティ支援
      • これらを通じて機関リポジトリコミュニティをいかに維持・発展するか
課題
  • 機関リポジトリの国内設置率
    • 国立はほぼ設置済み/公立は26%/私立は16%
    • 大学の数も違うが、現状ではこのような数字
    • サービス開始時の企画・・・「平成27年度までに200機関、機関リポジトリ設置を増やす」
      • 現在の数とあわせて400機関以上
      • 博士号を出す大学の数と同じくらいにする
        • 博士論文の機関リポジトリ収録増には規則化が望ましいが、そうするとリポジトリのない大学が困る。その際のラストリゾートとなることも考えられる
        • 今のところは規則等はつくらず、自律的にやってもらっている。その場合でも博士論文は電子的に見られるようにしたいなら、博士号を出している大学と同程度の数はいる
    • JAIRO Cloudの現状・・・
      • 申請数は60。私立大学が多い
      • 既公開は14。独自性を出しながらやっている
    • 共用リポジトリについての多い質問・・・「既設置大学が移ることはできないの?」
      • 自然な問いだが、問題はリソース。計算機の大きさは限られるので、その資源の割り当てが問題に
      • まずは新規立ち上げ大学を優先する
      • 今後、マシンの更新時に共用リポジトリに移せるかは重要な問題になるだろう。どうするのが一番いいかは考えていきたい
      • システムがうまく維持発展するような仕組みを考えなければいけないと思っている
  • コンテンツの捕捉率
    • 紀要論文・・・46%、学位論文・・・6.2%、雑誌論文・・・3.7%
      • 紀要論文が重要な位置を占める
    • 科研費成果報告書発表論文の金融状況(サンプル:全期間+東京大学
      • 成果報告書掲載論文のうち機関リポジトリ収録・URL記載があるのはごくわずか
  • ほかにDOIも今後の課題に
まとめと今後の方向性
  • この7年間で何が達成されたか、については意見もあると思う
  • 私自身としては量的な展開は数もコンテンツも順調に増加しているとおもう 
    • 通常、こういうプロジェクトでは量が質に転化することを期待する。今後は質の変化が課題に
    • 領域2では色々やってきた・・・紀要+電子出版や新ニーズ補足など。それが全体の質向上につながっているか?
  • コミュニティ活性化・・・図書館内はうまくいっている/研究者・経営層は?
    • 経営層へのアプローチ・・・「大学として」やる、ということがどうなっているか?
    • 「普通のこと」になると「終わったこと」という雰囲気になりがち。その点のチェック
  • JAIRO Cloudによるさらなる拡大・・・1つの方向性
    • その中で周辺的なことの整備もできるかも
  • 大学を越えた連携活動の強化・持続
    • 連携協力推進会議への期待
  • 機関リポジトリの立ち位置
    • 常に新しい大学が入ってくるので、常に揺籃期のような印象
    • 振り返って考えてみると完全に今は実運用のフェーズ
    • NIIはCiNiiやKAKEN、JAIROを提供
    • 機関リポジトリの役割・・・
      • 例えばある分野で主題ポータルを作ろうというとき、コンテンツは大学ごと、バラバラにある
      • 分野別に自身の論文を集めるプロジェクトを行うのは非効率的
      • 機関リポジトリのいいところは分野横断での公開
        • 好きなところを取ってくるだけで特定分野・プロジェクトのポータルができる
    • 「付加価値」のあるサービス(何かにフォーカスしたサービス)をするには機関リポジトリがたくさんあり、整備されていることが有用
      • 「主題別ポータルがあればいい」というような個別存在に意義があるのではなく、下支えとしてのリポジトリに意義がある
  • NIIと国公私立大学図書館協力委員会による連携・協力推進会議・・・2つのいい会
    • 電子ジャーナル契約を扱うJUSTICE・・・すでに活発に活動
    • 第3の委員会として、機関リポジトリのことを扱う委員会を作るのがいい?
  • 最後に・・・オープンアクセスを忘れないで、という話
    • 秋の学会誌の科研費支援の中ではOA誌への転換支援も盛り込まれた。文科省もはっきりOA推進を明示した
      • 具体的な方策があらわれた/学会誌をOAにする
    • 機関リポジトリの重要や役割・・・SAと大学の情報発信
    • それだけではうまくいかないのでJUSTICEのような購読契約モデルも
    • すべての雑誌がOAになればセルフアーカイブはいらないのだが、そうはおそらくならない
      • Natureはずっと購読モデルだろう
    • これらの関係の中で情報提供を考えなければいけない
    • 今後も機関リポジトリに関し継続的なお仕事を期待したい
質疑応答
  • Q. リポジトリの今後について。大学の業績評価とリポジトリ経由での成果発信の関係について、政策レベルでの動きはどの程度あるだろうか?
    • A. 文科省の審議会・作業部会を傍聴している限りでは、全くない。機関リポジトリを評価メカニズムとつなげる方向性は出ていないし、そう動きそうには全く見えない。ただ、大学によっては委託事業の領域2の中で進めているところもあり、成功しているところもある
  • Q. あまり触れられていなかったが、国会図書館も学位論文のデジタル化をしようとしている。学位論文はもともと国会図書館に付託するシステムである。そことの整合性は?
    • A. 大学図書館国会図書館は館長の懇談会もあって、博士論文のことは必ず話題になる。そのやり取りを聞く範囲では、大学からは学位の制度が個々にあるわけだが、それを電子化の方向に合うようにしてやって欲しい、と要望している。しかし国会図書館としては他に優先度もありなかなか踏み切れない様子。
  • Q. 今の件に関連して。国会図書館は1990年代の博士論文の電子化は法律に基づき無許諾で行った。公表には許諾がいるので、許諾を求める努力をしたが、14万件のうち1万数千件しか公表できなかった。学位取得者の90%はひでえ奴らだ、という考え方もあるかもしれないが、そうではなくて、14万件のうち6万件くらいしか連絡先がわからなかった。ただ、今の作業は国会図書館大学図書館が時間をかけて調整した結果でそうだった。ここまでは事実で、ここから先は個人的異見だが、国会図書館大学図書館がいかに束になっても日本の学術情報流通は改善されない可能性が高い。別のアプローチが重要なのではないか。今のところ、博士論文は印刷・公表が義務付けられているが、その代わりに国立国会図書館に送ることでいい、と大学がみなす、というのを便宜的に行なっているのが実態。そこをオンラインの公表でもいい、と。もともと省令や通知レベルの話なので、そのあたりは文科省が2〜3言、書き換えるのでもいい。あるいは大学がみんなで機関リポジトリで出せばいい、としてしまえばいいのではないか。
    • A. そういうことを決めるためのガバナンスが重要。一大学でどうこうではなく、横で繋がっていく動きが、コミュニティ活動として重要になるだろう。ぜひそういう方向で努力したい。



これにて午前の部は終了!
午後からは受託機関の皆さんのご発表です・・・が、そちらのアップはおそらく夜頃に・・・。