「アカデミック・リンクは何をめざしているか:高等教育における図書館を基盤とした新たな学習環境の構築に向けて」(第11回情報メディア学会研究大会参加記録)
今年ついにオープンし、多くの大学/図書館関係者の注目の的となっている千葉大学アカデミック・リンク。
アカデミック・リンクは,千葉大学において「生涯学び続ける基礎的な能力」「知識活用能力」を持つ『考える学生』を育成するために,附属図書館,総合メディア基盤センター,普遍教育センターが協力して立ち上げる,教育・学習のための新しいコンセプトです。これは,平成20年12月の中教審答申「学士課程教育の構築に向けて」において提示された,知識基盤社会,学習社会における市民の育成,高等教育のグローバル化の中での質の維持・向上,職業人としての基礎能力、創造的人材の育成といった,大学に向けられた社会的要請に対する大学からの一つの回答でもあります。
皆さんもう現地でご覧になったでしょうか?
・・・僕はまだ行けていませんorz*1
そんなアカデミック・リンクに、もともと興味のあった方はさらに興味が湧き、興味がなかった方でも大学関係者なら誰しも注目せずにはいられなくなるであろう、千葉大学附属図書館長/アカデミック・リンク・センター長の竹内先生の講演「アカデミック・リンクは何をめざしているか:高等教育における図書館を基盤とした新たな学習環境の構築に向けて」が、7/7の第11回情報メディア学会研究大会で行われました!
- 研究大会URL
自分もいずれ行く日に向けてテンションを上げて臨むべく、参加してきました。
午後に行われたパネルディスカッションとも見事に接続していて、エントリ末尾にあるとおり竹内先生が午後、いらっしゃれなかったことがつくづく残念でした。
日曜日はダウンしていたこともあってアップロードまで日が開いてしまいましたが、以下、例によって当日のメモです。
min2-flyが聞き取れた/理解できた/書き取れた範囲の内容であり、ご利用の際はその点、ご注意願います。
誤字脱字、事実誤認等、お気づきの点があればコメント等でご指摘いただければ幸いです。
なお、午後のパネルディスカッションの記録については別エントリでのアップを予定しております。
基調講演「アカデミック・リンクは何をめざしているか:高等教育における図書館を基盤とした新たな学習環境の構築に向けて」(竹内比呂也先生、千葉大学附属図書館長/アカデミック・リンク・センター長/文学部教授)
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- 各所で話す機会をいただいていて、「この間も聞いた」という話もあるかも。広い心でうけとめて。
大学と図書館の歴史的関係
- 中世の大学におけるテキストの配布
- 「ステーショナリー」が学習のための教科書(オーセンティックなテキスト)を供給
- 大学教員が認めたテキストを写本原稿として提供する。後に大学出版会へとつながる流れ
- グーテンベルク革命
- 実は大学は衰退した?・・・face to faceでなくても知識を入手する機会の実現
- 共同組合としての大学(学生・教員の共同体)が資料を求めて歩き彷徨う必要がなくなる/定住できる環境の実現
- アメリカにおける「大学院」発足(ジョンズ・ホプキンス大学)
- 研究と教育の両立がアメリカでも広がっていく
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- 当時の授業スタイル・・・「筆記主義」
- 教師が話したことを学生は写す
- 新渡戸稲造のノート・・・まず下書き⇒清書まで
- 当時の授業スタイル・・・「筆記主義」
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- 京都帝国大学では原書購読、演習、卒論重視
- 東京帝大との高文試験合格者数競争に敗けて方針転換
- 京都帝国大学では原書購読、演習、卒論重視
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- 京都帝国大学・・・教員だけでなく学生にも貸出実施/参考図書も使われる/明治末にはレファレンスサービスも!
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- その後の大学の状況
- 1970年代以降、文化系を中心に私大数増加
- 文系教育が私学に重点を移したことで、図書館整備は軽視された?
- 私学における学生運動も何も変えなかった
- 今日では私学の図書館は委託が進む・・・
- その後の大学の状況
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- 一方で・・・1970年代以降、文部省の答申で大学図書館が出てくるように
- 1973年の第3次答申以降、研究支援の流れ
- 1980年審議会答申はじめ色々出ている
- それらの政策文書間の連続性には疑問?
- 言葉の概念自体、文書ごとに違ったり/言葉は同じでも同じことは議論されていない
- 教育・学習に関する言及は2010.12の「審議のまとめ」までほとんど出てこない
- 一方で・・・1970年代以降、文部省の答申で大学図書館が出てくるように
高等教育政策における大学図書館
- 日本の高等教育・・・アメリカの強い影響/事前・事後学習を前提とする単位制度
- それを支える図書館の役割は論じられるべき/言及があってしかるべき
- しかし学習・教育サイドでそのような言及は少ない
- 文部省で大学教育を管轄するところと大学図書館を管轄するところが違うことの影響?
- 1998「21世紀の大学像と今後の改革方策について」のなかでは大学図書館へも言及
- 閲覧席数や開館時間など、施設・設備利用が中心
- 1998「21世紀の大学像と今後の改革方策について」のなかでは大学図書館へも言及
- 1990年代になってようやく教育改革の気運高まりとともに図書館への関心が高まる
- 2000年代、教育GPで図書館を取り上げたものが脚光を浴びる・・・図書館関係者だけでなく教育関係者にも知られるように
- ex: ラーニング・コモンズ
- 大学教育における考え方の変化
- 中教審答申「学士課程教育の構築に向けて」(2008)
- 学士力:課題解決能力重視
- 単位制度の実質化:事前・事後学習重視
- 教育方法の改善・・・アクティブ・ラーニング
- 初年次教育の配慮
- 中教審答申「学士課程教育の構築に向けて」(2008)
- アクティブ・ラーニング
- 今や猫も杓子も・・・
- 知識習得だけでなく知識活用能力を習得する(溝上)
- ペアであることが重要。知識活用能力だけでもいけない
- 後者にだけ目が行き過ぎてもいけない。知識の習得があってこそ知識活用能力はいきる
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- 学習・授業スタイルも変化
- 出席・聴講のみ⇒質問・与えられた課題の実施⇒自ら課題を発見、解決
- 今の日本/アカデミック・リンクを見ていると、上の2ステップ目まではできているが、第3段階はよくわからない
- 多くの図書館でアクティブ・ラーニングのためのスペースは賑わっている。しかしだから学生はアクティブ・ラーニングをしていると考えるのは早い
- 学習・授業スタイルも変化
- 「学士力」
- 一方で・・・知識を得るという意味で、大学の役割は?
- 学生にとってGoogleで見えないものは存在しない?
- その中でコンテンツ提供環境をどう変えていくのか?
- なにもしなくていい、という人はこの学会では少数派と思う
- そこで千葉大は何を考えたか・・・?
- 「長い前置きですいません」(笑)
千葉大学アカデミック・リンク
- 千葉大学におけるこれまでのとりくみ
- 突然、アカデミック・リンクと言い出したわけではない
- リエゾン・ライブラリアン・プロジェクト
- ポッドキャスティング
- 機関リポジトリ:CURATOR
- 図書館員が常に教員と接する機会を持つ
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- 授業を切り口に図書館員と教員が向き合うモデルは成り立ちうる、ということがわかった
- この考えがアカデミック・リンクの礎に
- 授業を切り口に図書館員と教員が向き合うモデルは成り立ちうる、ということがわかった
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- 総合メディアホール(仮称)構想
- 1998当時から構想は出ていた/図書館基盤とネットワーク基盤の融合
- 当時、ネットワーク基盤は不十分/図書館もコンテンツを流すにはネットワークセンターの協力が必要だった
- 今日ではその側面は大きく形を変えた
- 総合メディアホール(仮称)構想
- アカデミック・リンクによる千葉大学の教育改革・・・「大風呂敷」
- 目的:「考える学生の創造」
- 生涯学び続けることができる/知識基盤社会を生き抜ける学生
- 図書館内部でいくらやっても、教育サイドにアピールしなければなにも動かないという意識から大風呂敷を広げる
- 「風呂敷は広げ慣れると大きなものも小さく見えるようになります」
- アクティブ・ラーニング・スペース=空間、十分なコンテンツの提供、コンテンツを使って学習を進めるための人的リソース
- 3つの有機的な融合がアカデミックの基本
- その場として図書館をベースにするのがもっともふさわしいと考えた
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- 建物構成の説明:(min2-flyメモ:ここはスライドを参照しないと説明困難)
- 建物に手を入れるきっかけは旧館の耐震改修/耐震改修だけで済ませず新しいものを作る・・・6000平米増築
- アカデミック・リンクのコンセプトと新たな学習環境構築が認められて
- 図書館の一角に書店を入れることも計画。日本の大学では初?
- 厚生施設工事の関係。今年秋には書店が図書館へ
- 建物構成の説明:(min2-flyメモ:ここはスライドを参照しないと説明困難)
- 「コンテンツ」を活用する新しい学習環境・・・その特徴は?
- 特徴1:プレゼンテーションスペース
- 外部とのしきりをあけて外とつながることができる
- ふらっと入ってはふらっと出ることができる場で、色々な人が様々なことを話す
- 見る/見られること。相互に刺激を受ける、知的な刺激を受ける
- 「知的刺激満載の場」(読売新聞報道より)
- 何かに気付いた学生がコンテンツを使ってさらなる学びを得る仕掛け
- 特徴1:プレゼンテーションスペース
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- 特徴3:ラーニング・コモンズ機能
- これは多くの大学で既に取り入れられていること
- 可動式の設備
- よく使われる。時間帯によっては完全に満員
- 今の学生はゆったり座るだろうかと思ったら、小さい机にいっぱい学生が座って机が余るように
- 50脚椅子を追加
- 特徴3:ラーニング・コモンズ機能
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- 特徴4:多様な学習環境の整備
- 自由に使ってもらうことをポイントに
- 特徴4:多様な学習環境の整備
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- 特徴5:学習支援・コンテンツ活用の促進
- 授業資料ナビも継続
- 「1210あかりんアワー」(アカリン=アカデミック・リンク。消える主人公の方ではないよ!(min2-fly注))
- 教員が自らの研究を語る。その際、関連著作物を紹介してもらう。そのコーナーは毎回設置+ずっと残す
- 話を聞いて面白いと思ったら、教員の紹介した文献をすぐ手に取れる
- 様々な刺激を受けられるようにする+刺激を受けたらすぐコンテンツが手に取れる
- 特徴5:学習支援・コンテンツ活用の促進
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- 人的支援・・・分野別の大学院生+図書館員、教員のオフィスアワー
- 一つの空間に教員、図書館員、大学院生がいて、いつでも質問を受けることを見せる
- 人的支援・・・分野別の大学院生+図書館員、教員のオフィスアワー
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- 特徴の整理:
- 学生に対し知的な刺激はいっぱい・・・授業/セミナーもその1つ
- 面白そうなことに気付いた学生には多様なコンテンツを提供する。紙もあるが電子も。学生がほしい形で入手できるように
- 学習については、スキルが十分にない学生にはオフィスアワーや情報資源の使い方のサポート、学生による学習支援などのハイブリッドな人的支援
- 特徴の整理:
- アカデミック・リンク・センター・・・図書館と別組織として立ち上げ
- 図書館は国立大学において教育研究施設ではない。教育にものがいいにくい。そこで別に立ち上げ
- 図書館系、情報系などの教員が兼務として研究開発部門を持ち、図書館員、特任教員がアクティブラーニング推進部門を持つ
- 7つのプロジェクトによってアカデミック・リンクの目指す学習環境構築へ
- プロジェクト紹介・・・「隠れた資源を「みせる」」
- オンライン・クラスルームプロジェクト
- 授業そのものの電子化
- レガシー・コンテンツ再生プロジェクト
- 価値ある資料の電子化/再生
- デジタル・コースパックプロジェクト
- 教材の電子化
- オンライン・クラスルームプロジェクト
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- 学生が学習時に使いたいスタイルでいかに提供するか?
- 電子を望むなら電子、図書が良ければ図書、望むならプリントオンデマンドも
- プリントオンデマンド機械は図書館に入る書店に置くことを計画
- 紙が欲しい学生には極めて有効?
- 学生が学習時に使いたいスタイルでいかに提供するか?
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- 例:『児童文学事典』の電子化
- 出版社として採算があわずもう出せないものを電子化・PODで新品も作れる
- 例:『児童文学事典』の電子化
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- デジタル・コースパック
- 既にある著作物を権利処理して使えるようにする
- 学内でオリジナルのものを電子化して共有する
- 「コースパック・トライアル」:地中海地域史b
- 26点の読むべき資料が教員から挙げられる・・・
- 雑誌論文16点は比較的処理容易
- 書籍の一部10点・・・許可は3点、無回答6点、出版社が倒産1点
- 許諾をとる部分がかなり大きな問題に
- デジタル・コースパック
- プロジェクト紹介・・・「学生の力を高める」
- 情報利用行動定点観測・・・学生の行動はアカデミック・リンクで変わるか?
- アカデミック・リンク・センターは4年間の時限プロジェクト
- その後は図書館等で実践を引き継ぐ、としている
- なんらかの効果/成果は測定しないといけない
- 2011年度は質問紙、2012年度は質的調査を実施予定
- 空間利用については工学部、建築系の教員と協力して進める
- 情報利用行動定点観測・・・学生の行動はアカデミック・リンクで変わるか?
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- 「参加する学習プロジェクト」
- 学生が教える側になることで、自らの学習を深める契機となるものとして実施
- 院生が学習支援デスクに/情報共有も行い自身の実践に活かす
- 2012.1-2に施行、4月下旬から本格実施
- 施行から見えた課題・解決・・・
- 午前中は来ない/物理といっても理学物理と工学物理では違うので分野を考える必要がある、など
- 同じ空間で仕切りなく、学生・教員・図書館員が学生の相談に応じる
- 「参加する学習プロジェクト」
- この中で図書館員はどういう役割を担うのか?
何が実現を阻むのか・・・これまでに直面してきた問題
- アカデミック・リンクで考えること・・・コンテンツの活用が最も基礎に
- 地下鉄を歩いていたら読売新聞の「知らなければ戦えない」というコピーが目に入った。「知らなければ」を支えるのが、コンテンツ
- しかし・・・教育に使いやすいコンテンツが電子化されていない=学生に届かない、見えない、存在に気づかないから買わない、売れないので出版されない
- 『児童文学事典』も有用性は認められていたのに事業にならないから出なくなった
- 負のスパイラルをどこかで断ち切らないといけない
- 図書の電子化・提供は想定以上に時間がかかる
- アカデミック・リンクの目的・・・コンテンツを使い続ける人間の育成でもある
- 本屋にしてみれば将来、ちゃんと本を買ってくれる人間の育成なのに、なかなかコンテンツが提供されない・・・
- 現時点でのアカデミック・リンクの評価
- 1日利用者は平日2000人以上、土日でも500-600人
- あかりんアワーもうまくいっている/人的支援も定着
- なのに本来、もっとも図書館の強みであるはずのコンテンツ提供が十分でない
質疑
- Q. 筑波大・宇陀則彦先生:
午後のコーディネータでもある。竹内先生は午後、いらっしゃらないそうなので聞いておきたい。
まずラーニングコモンズが賑わっているからアクティブラーニングがなされているわけではないというのは重要な指摘と思ったら。しかしどうなったらアクティブラーニングがなされていることが観測できるのか?
- A.
難しいが・・・質的調査、インタビューをやりたいと考えている。昨年度、質問紙をやったときに協力者は募っているので、そこに丁寧に聞いていく作業をやらざるを得ないかと思う。
- Q. 筑波大・宇陀則彦先生:
2つめ。やはり図書館だけでなく大学全体を巻き込んでいるのは凄いことと思う。「本部」ではなく「全体」を巻き込むのが重要と思うのだが、なぜ千葉大ではそれができたのか? 偶然? 必然?
- A.
(ここはあまり流してほしくない、とのことなので一部オフレコ)各学部のリソースだけではできないことが多い、全学的にやることが必要という意識を持っている人が多く、全学的にやるということが理解を得やすいし、リソースは出せなくても使いたい、という要望があった。
もう1つは、タイミングが絶妙だった。中教審の答申直後で、審議のまとめや大学改革実行プランに取り上げられたことが大きい。遅くても早くても駄目だったろう。
3つめは事務当局の理解がすごくあったこと。プロジェクトを出した時に、千葉大学からの概算要求第1位にしていただけた。
- Q. 立命館・安東さん(午後のパネリスト)
午後いらっしゃらないということで残念。
私が午後に発言したいと考えているのは、授業そのものを変えないと、教材・コンテンツを活用した学習が進まないのではないかと思う。図書館が授業周辺に一生懸命取り組んでも、どこまで効果が出るのか難しいのではないか。一方で授業そのものを変えるのは一般的に難しいと言われているが、なぜ難しいのか腑に落ちない。なんでなんだろう?
- A.
その問題は共有しているが、部局長として先生方に変えろ、とも言えない。
ただなにもできないわけではない。授業も外から見える教室で行われるようになってきている。嫌でもそういうところを見てもらうしかないだろう。積極的に「変えないと駄目です」と言われても、私もそうだが教員は他人に言われると反発する。外堀を埋めるのが大きなポイントで、授業が変わらなくても外堀が埋まって学生の意識が変われば学習が変わる。我々が変えたいのは授業ではなく学習。授業はその切り口の1つ、そうであって構わない。そこで学生が「おもしろいな」と気づいたことを自分で勉強してくれるようになればいい。授業が変わらなければ学生は変わらないということに私は懐疑的で、そこは4年間でやってみていきたい。
講演後、お昼休み・昼食タイムで散っていった各参加者の皆さんが、テンションも高く講演内容について語り合っていたことは言うまでもありません。
やはり現地で見たいなー、アカデミック・リンク・・・それも1回、数時間ぱーっと見るとかだけでなく、長期滞在して色々観察できたらとても楽しそうです・・・。
博論が・・・博論がなければ・・・(涙
この講演の後で「ラーニング・コモンズ×ディスカバリー・サービス」という午後のディスカッションのテーマを聞けば、そこが非常になめらかにつながっていることが伝わってくるのですが。
ただ、当然ながら事前に講演内容を知らなかったパネリストの皆さんにはそれぞれご苦労があったそうで・・・?
そのあたりについては引き続きアップロード予定のパネルディスカッション記録をお待ちください(笑)
*1:オープン前には通りすがったのですが、とか負け惜しみにもなっていない負け惜しみ