かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

「国境を越えた知の流通 過去・現在・未来:海外の日本図書館から考える」和田敦彦×江上敏哲トークセッション(『本棚の中のニッポン―海外の日本図書館と日本研究』 (江上敏哲著 笠間書院)刊行記念)


先日、当ブログでも感想エントリをアップした江上敏哲さんの著者『本棚の中のニッポン』。


本棚の中のニッポン―海外の日本図書館と日本研究

本棚の中のニッポン―海外の日本図書館と日本研究


その刊行記念トークセッションがジュンク堂書店池袋本でありました!


「関東で江上さんのお話を聞くなら今しかない!」*1
しかもトークセッションのお相手は『書物の日米関係』や『越境する書物』で米国の大学等にある日本語・日本関連図書の来歴を扱われ、江上さんの著書の中でも言及されている、早稲田大学の和田敦彦先生!


書物の日米関係―リテラシー史に向けて
書物の日米関係―リテラシー史に向けて


越境する書物―変容する読書環境のなかで
越境する書物―変容する読書環境のなかで



江上さんのお話だけでも「聞き」なのにお相手が和田先生とは。
なんのご褒美か、本にしろ。
・・・ってことで、この日は日中つくばでTAをやっていたりもしたのですが、終了後にいそいそと池袋に出かけて参加してきました。
期待どおりの盛り上がりで大満足でした・・・そして(感想エントリを書いた時にも思ったことですが、生で聞いてそれ以上に)今後の自分の研究課題も浮き彫りになってきたように思います。


上で冗談交じりに「本にしろ」と言いましたが、実際に本になるんだったら記録公開したらまずいかな・・・と思ったものの、江上さんにお聞きしたところアップしても問題ないとのことでしたので。以下、当日の記録です。
例のごとく、min2-flyの聞き取れた/理解できた/書き取れた範囲のメモであり、かつトークセッションという切れ目が少なく語りが続く形式のため、いつも以上に不十分な点も多いかと思います。
記録を取りながら自分で考えだしてしまったせいで筆がとまったりも。
ご利用の際にはその点、ご理解いただければ幸いです。
誤字脱字・事実誤認等、お気づきの点があればコメント欄等にてご指摘お願い致します。


では以下、1時間半強の楽しい時間のはじまり、はじまり。




  • 前説

海外には、日本について学ぶ学生や、日本について研究する研究者のために、日本語の本や日本について書かれた本を集めたり、日本に関する情報を整理提供する図書館がある。それら海外の日本図書館は、どういった経緯で作られ、どのような役割を内外に果たしてきたのか。また、これからの「日本の知の流通」を考えるうえで、海外の日本図書館に対し、私たちは何が出来るのか。このトークセッションでは、『書物の日米関係』『越境する書物―変容する読書環境のなかで』(新曜社)で、「リテラシー史」の観点から、米国に渡った日本語の書物と読者の関係を歴史的に追った早稲田大学の和田敦彦氏と、『本棚の中のニッポン―海外の日本図書館と日本研究』(笠間書院)で海外の日本図書館の現状を紹介した、国際日本文化研究センター資料課に勤める江上敏哲氏により、「海外の日本図書館」をめぐる問題をひろく語り合います。

  • 講師紹介
  • 和田 敦彦(わだ・あつひこ)

1994年早稲田大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。1996年信州大学人文学部助教授。2007年早稲田大学教育・総合科学学術院准教授。2008年同教授。博士(文学)。現在、早稲田大学図書館副館長。『書物の日米関係』(新曜社)で、日本図書館情報学会賞(2007年)、日本出版学会賞(2008年)、ゲスナー賞銀賞(2008年)受賞。著書に『読むということ―テクストと読書の理論から』『メディアの中の読者―読書論の現在』『国定教科書はいかに売られたか―近代出版流通の形成』(ひつじ書房)、『越境する書物―変容する読書環境のなかで』(新曜社)等がある。

  • 江上 敏哲(えがみ・としのり)

京都大学文学部卒業、同文学研究科修士課程(国語学国文学)修了。司書として、京都大学(工学研究科、附属図書館、情報学研究科(1998〜))、Harvard-Yenching Library(visiting librarian・在外研修(2007年))を経て、2008年より国際日本文化研究センター資料課にて勤務。また玉川大学教育学部立命館大学文学部、同志社大学社会学部にて非常勤講師として勤める。著書に『本棚の中のニッポン―海外の日本図書館と日本研究』(笠間書院)がある。

(以上、右記サイトより:http://www.junkudo.co.jp/tenpo/evtalk.html#20120714ikebukuro_talk


「この本を書こうと思ったきっかけは?」「地図を書きたかった。観光地に降りて最初に駅前にあるような」

  • 江上さん

簡単に自己紹介・・・っていうか経歴を紹介いただいたので詳しい紹介はしませんが、本を書かせていただきました。海外で日本のことを研究している人たち、研究者や学生、それをサポートしている大学の図書館や研究所・一般の図書館を紹介した上で、先方のニーズと日本からどんなサポートをしたらいいかを自分なりに考えた本です。

  • 和田先生

私は元々は図書館分野ではなくて、若い頃は日本文学を専攻していました。そこから読者・読書の環境に興味が移り、海外の日本図書館へも興味が。ただ、もちろん日本の図書館へも興味はありますし、図書館の歴史オタクみたいなところがある。読み手の環境やその変遷が関心。今日は色んな話が聞けるんじゃないかな、とわくわくしてきました。

  • 江上さん

・・・どうしましょ?w

  • 和田先生

色々聞きましょうか?w 新しく出たことですし。私もちょっと、どうしてこういう本を書かれたのか興味が・・・自分も書いておいてなんですがw もともと、この本を書こうと思われたきっかけは?

  • 江上さん

自分からという感じではなくて、笠間書院の編集者の方ともともと知り合いで。あるときふとメールがきて、「こういうことを考えてるんですが本を書いて見ませんか?」と。彼の意図としては、自分が笠間書院の本を海外にどう売ったらいいのか、そのために自分の出版情報や日本の出版状況を効果的に伝えるのに必要な工夫の、ノウハウ本のようなものを期待していたらしい。でも「そんなノウハウがあるなら私が知りたい」w 
どんなことがいいかなと考えたが、まずは向こうのことを知ること。情報発信の失敗例でよくあるのが、しよう、しようとしている。自分がしさえすればいいと思っている例がある。向こうのことをちゃんと知って、何を伝えてどうなって欲しいのか。先方や先方を取り巻く世界全体に何を伝えてどう変わって欲しいか、トータルで考えるべき。一度全体を知るための・・・先生も本を書かれておかんじかも知れないが、日本で知っている人がいない。

  • 和田先生

海外の図書館で働かれている方もいますし図書館同士の海外との交流もあって、知っている人もいても発信の機会がない。それを本で出していくことになると思うが、なかなか海外で・・・私が一番、欲しいと思ったのは、例えばアメリカの図書館の日本語の本のガイドブックはない。新書みたいな感じでどこになにがあってどうやったら行けるか書かれた本があれば本当はいい。ただ、私は学術系でなかなかやわらかい本が書けないのでガチガチに。でも本当はそういう本が欲しい、江上さんの本はそれに近かった。間口を広げる、色んな人が図書館を見つけるルートになる。

  • 江上さん

地図を書きたかった。観光地に降りて最初に駅前にあるような、イラストマップのような、街の全体図がわかるようなもの。それをまず書こう、と。

  • 和田先生

早稲田大学の図書館にいて嬉しいのは毎日、見学の方がいる。海外の図書館は名所になっている。行かないともったいない場所。ちょっとマニアックに大学図書館に行ってみるのはすごく面白い。建物も立派だったり来客にも丁寧だったり。隠れた観光スポット。

  • 江上さん

もちろんガチガチな決まりがあるところもありますけど、セルフ観光ガイドツアーのようなことをやっていて、「うちの見所はここですよ」とやっていたりする。しかも図書館って海外だけでなく日本でも、オープンキャンパスで来た学生でも「図書館ならふらっと入れるかな」と思える場所で、アクセスがしやすいところにある。


「国を越えて書物が向こうにあることの意味、背景を伝えるには」「本を書いた人の歴史は残っても本を持っていった人の歴史は残らない」

  • 和田先生

全般の問題もそうですが、もう少し詳しく図書館の問題に入ると。一方でむこうで驚くこともあって、それが動機にもなったのでは?

  • 江上さん

驚きですか? そう・・・いや、むしろ、私が一番おどろいたのは「日本の本、こんなにあるんだ」と。あまり言ったらあれだけど、そんなに海外の日本研究や日本図書館にもともと興味があったわけではないw ごめんなさいw 京大図書館の司書時代に海外に行く研修に応募したいと思った。でも英語が苦手だった。だから日本語のわかる人がいる図書館に行こうと思って調べたら、こんなに欧米にも日本の本がある図書館があって、そのうち幾つかには専門のライブラリアンもいることがわかった。で、集中的に行こうと思って。最初に行ったコロンビア大学図書館にはいっぱいの源氏物語の本があって。ドナルド・キーン先生がいたところですから。京大附属図書館レベルの棚だと負けていた。その驚きが今まで続いている本を書いたり話したりの原動力になっている。そういった意味では和田先生の本にもある、国を越えて書物が向こうにあることの意味、背景。そして私の場合はそれを使っているユーザやライブラリアンにもっと伝えるためには、ということを考えることが原動力だった。

  • 和田先生

私もその驚きはあった。ただ、私は最初から幻想を持っていて、ハーバードやコロンビアには日本にはないものすごいものがあるのでは、という幻想があった。でもコロンビアにはあるけれど、意外に他にはないw

  • 江上さん

ハーバードやコロンビアはケタ違いの本があるので。でも、少ないところなら少ないなりに。「こんな工夫が」とか「こんな悩みが」とか。今回、書いてませんが、イタリアでもかつて6−7件回って。あちらはまず日本専門の司書なんていないし蔵書も限られている。目録も研究者が合間を見つけてカードにしている。それに日本はどうしていったらいいか。イタリアの人たちはイタリアの人たちでどうコミュニティを組んで連携しあっているのか。調べていくと、「もっと日本が学んだ方がいいところはたくさんあるな」と。

  • 和田先生

小さい蔵書を見ていても個性的だったり、言われてみると「なんでこの本がここに・・・」とか「なんでこんな偏りが」と、色んな疑問がある。なんで本が来ているのか、そういうことに私自身関心があった。

  • 江上さん

それを紐解かれたのが『書物の日米関係』と『越境する書物』。各大学の蔵書を調査されているじゃないですか。先生の話聞いていいですかw 先生のきっかけは?

  • 和田先生

最初、コロンビア大学で調査していて。司書さんも優秀なんですが、いつ頃どうしてそんなに本が増えたのか、知らない。司書さんは今の管理には優秀なんだけど、昔のことを知らない。どんどんたらい回しになって、思い出話はしてくれるけど「どこにも書いてない」と。仕方なく、色んな資料を集めて、自分が記録を残さないといけないのかな、と。しかも最初に日本語図書館を作られた方々がだんだん年をとられて、歴史を知っている方も少なくなってきていたので。そういうことで調べ始めた・・・単純に自分が知りたかったことと、まとまった情報がなかったことが理由。海外の人にはその発想はなかったみたい。

  • 江上さん

学問全体の中では本流ではない。

  • 和田先生

日本語図書館なんてマイナーなものの歴史をやろうという人間なんて海外にはいないし、当事者も転職して変わるので。一箇所にとどまってそこの歴史をやる人がいない。

  • 江上さん

しかも作品そのものではなく周辺の事情を残そう、というのは、アメリカに限らず日本でもない発想。先生の使っておられた史料も、どこそこのメモとかだれそれに聞いたというのがたくさんあって、これは本当に苦労しはったんだなあ、と。

  • 和田先生

本を書いた人の歴史は残っても本を持っていった人の歴史は残らないことがよくわかった。図書館にいるのは書いた人ではなく提供した人で、その歴史はなかなか残らない。でも提供する人間のスキルや活動はものすごく大きな役割を果たしている。


「仲立ちの人の役割を実際になさった!」「いいですよね! いいですよね! なんかもう、すごくうれしくって」

  • 和田先生

江上さんの本ではその伝える人の役割がいろいろな形で出ている。

  • 江上さん

けっこう実務者目線で書いた。それも研究のためというより、日本にいる、日本の図書館員、出版社、情報関係者に伝えたくて書いた。緻密な調査とかはしていなくて、エッセンスを、どうやったら日本の読者に伝えられるか、と思って書いた。だからこの本を、どんどん叩いて欲しい。知り合いに会うたび「もっと切ってくれ」といっている。これを踏みつけるような本にもっともっと出て欲しい。後輩にも「ブログ書け」と盛んに言っている。「お前らが書かないと、残らない」。周辺にいる我々がどんなことをしていてどんなスキルを使ってどんな想いで残そうとしているか。意識的にやらないと、研究者や学生は調べたことを残すのが活動のメインになっているのでやっていれば自然に残るが、我々は自然にしていると残らない。意識的に残さないと、というのは思っている。ですから、どんどん叩いていって。周辺側がアウトプットしていくことが。

  • 和田先生

図書館で働いている方は謙虚なので。でも蔵書を作っていくことも1つの作品。それ自体が1つの作品なのかも知れないが、私も今回・・・来年、海外の大学に教えにいくことがあって。そこで条件として、その大学で100万円分の日本の出版史に関する蔵書を自由に作っていいとあって、「なら行く!」と。カリフォルニア大学サンタバーバラ校のワークショップで、プロジェクトの一環としてやることに。蔵書作りがしたくて、あっという間にやってしまった。ただ、そこで、「これを入れようか、あれを入れようか」と考える。ほとんど日本語蔵書がないところで日本の出版の歴史の蔵書を作るのは難しくて、やりがいがある。それともう1つ。蔵書を作るときにリストだけ作って渡してできるか? できない。まず日本の本は絶版本が半分くらいはある。古書だと手に入るかも価格もわからない。だから、私は燃えちゃったw 知り合いの古書店に連絡をとって、「リストを作ったので、完全じゃなくてもいいからできるだけ集めて、金額の交渉をしてパッケージを作ろう」と。パッケージを作って送ろう、とした。そしたらすごく感謝された。

  • 江上さん

先生の本にある仲立ちの人の役割を実際になさった!

  • 和田先生

それがしたかったんです。そういう人がいっぱいいて学問が支えられていることを身にしみてわかった。そういう人がいないと弱い部分がいっぱいできてくる。

  • 江上さん

パッケージが届いたら目録を作り・・・もともと日本語蔵書は? ほぼない?

  • 和田先生

あるにはあったが、特定サブジェクトではなかった。広く全般的な。

  • 江上さん

そこで目録をとって、本棚にならんで・・・

  • 和田先生

いいですよね! いいですよね! なんかもう、すごくうれしくって。

  • 江上さん

それは1回だけ?

  • 和田先生

別の分野は別にやられている。

  • 江上さん

日本の出版文化の本、ということはそういうことの研究者がいた?

  • 和田先生

近世江戸以降は特に、出版環境自体も視野に入れた研究が行われてきている。海外の日本研究でもそういった関心が出てきている。もちろんやっている人は少ないですが、だからこそやろう、ということもある。

  • 江上さん

ニーズがあってのことだった。それで仲立ちになられた。

  • 和田先生

日本国内でも同じようなことはまだまだ研究できると思っている。似たようなことをしている人もいるし、今ならデジタル化している人もいる。まだまだ色々な問題が本と読者の間にはある。



「なぜ日本はいらないものから電子化するのか」「今時紙になんて金を使えるか」

  • 和田先生

今回、デジタルライブラリーについても触れられていますが・・・

  • 江上さん

私ですか?!

  • 和田先生

そうです! 中身忘れられていませんか?!

  • 江上さん

古いところは書いたのが1年以上前なので・・・。
確かにデジタルライブラリーのこと、電子化が中韓に比べ遅れていることに触れています。日本語、特に人文のリソースが足りないことは、海外に聞くまでもなく日本のライブラリアンも身につまされている話。海外のライブラリアンからは「日本で声をあげてくれないと、海外からじゃ届かない」と言われる。日本の問題なんだからちゃんと声をあげてもらわないと困る、と。おっしゃるとおりで、どうしても「人文系だからしょうがないか」という気分もどこかに。むしろアメリカやヨーロッパの電子ジャーナル・ブックをいかに買うかに専心してしまう。特に自然系のものに。でもそれではよくない、とも考えながら書いた。そのテーマは割りと・・・自分、eリソースの話は苦手だったんだけど、苦手の割にはよく書いたな、というくらい紙面を割いた。1つには、eリソースの整備のされなさが欧米・アジアでの日本の存在感の下落にシンクロしている。Googleの折れ線グラフを使っていて、あれだけで何かいうのは本当はやばいんだけど、象徴として。2008年にはこんなに下がっている、というのと、日本のeリソースの不整備がシンクロして。「これはやばいんじゃないか」と言いたい。

  • 和田先生

海外からもそうですが、日本の研究系論文のデジタル化がいびつな形になっているのは国内でも深刻な問題。利用だけでなく教えてもいると、学生たちは研究論文を探して、デジタル化されたものだけ引用する。そうなるととんでもない論文ができあがる。まず学生に教えるのは、日本の人文学でデジタル化と論文価値には関係がない、ということ。口を尽くして言っている。初学者はデジタル化=ステータスと思うので、それを真っ先に使ってしまう。おそらく図書館情報学はデジタル化進んでいるのであまり意識されないでしょうが、日本文学では恐ろしいペースでそれが起こっている。歴史もそうでしょうが。人文学では相当真剣に、領域横断的に考えないと、大変なことになりかねない。学会を超えて声かけあって進めて行かないと。同じことが海外でも起こるでしょうから。

  • 江上さん

よく海外の方から言われますもん。「なぜ日本はいらないものから電子化するのか」w

  • 和田先生

それ言っちゃう?!

  • 江上さん

代理店さんと話していて、日本の雑誌で何を売っているかも聞くんですが、どれも電子化されていない。おかしいですよね? 本当はそこから電子化されていいはずがされていない。

  • 和田先生

それと同時に、図書館の管理職をやっているので、電子化されて、それが高値で売りつけられる恐怖も知っている。どっちをとっていいかは非常に難しいので・・・ともかく学生には「ちゃんと紙を読め」と。確かに、海外では深刻ですよね。予算を取るときにも電子化されたものには使えても、「今時紙になんて金を使えるか」と。でも日本のものは紙しかないので、よく苦情を言われる。

  • 江上さん

電子がないから紙を買うんじゃなくて、電子がないから買わない、となっちゃう。困りますね・・・国会図書館近代デジタルライブラリーなんかは評判もいいですし、早稲田の古典籍総合データベースも、行った先々で。

  • 和田先生

早稲田の古典籍総合データベースは近世以前の蔵書をすべて電子化しようというプロジェクトで、古典籍なら著作権問題もないのでどんどん電子化している。それは自分でも使っているし学生にも伝えている。ただ、学生でも意外に知らなかったり。

  • 江上さん

早稲田の学生さんでも? 私も常々悩んでいるんですが、自分の図書館のサービスってどうすれば伝わるんですかね?

  • 和田先生

先生でも知らない人がいますからね。そこは図書館が積極的に前に出ること。海外では図書館の人がかなりアクティブですよね? それは資格制度の違いもありますが、図書館でプロジェクトを立てたり先生を巻き込んだり積極的に活動できることがある。

  • 江上さん

向こうのプロのライブラリアンの活動の様子もいつも見学したり会議に出席したときに見ていて、たくさん学ばないといけないことがあると思っている。自分の本では海外の日本研究図書館の紹介の意図もあったんですが、裏の意図としては自分の後輩にあたる図書館員に海外の図書館事情を知ってもらうことをイメージしていた。1章まるまる使って海外でどうグループを組んで、問題解決の活動をしているか紹介して、日本の図書館員に知ってもらおうと。自分たちも問題解決のためにどう動いたらいいか考えよう、ということも考えて書いた。

  • 和田先生

日本の今の司書課程自体の問題もある。資格取得者はすごく多くても受け皿がない。その落差が悲しいしもったいない。

  • 江上さん

業界ではいつも・・・毎晩のようにTwitterでその話にw みんな言ってるんですけどね。


和田先生のアメリカの図書館に対する印象、文書館との連携、なぜ日本の図書館には漫画ない?

  • 江上さん

あの、先生が、本の取材のためにアメリカに行かれて、たくさんコミュニケーションなさったと思うんですが、どんな印象?

  • 和田先生

いっぱい教わりました。図書館では聞くもの、ということを学んだ。聞けば聞くほどかえってくる。まず教わる姿勢ができた。
あと勉強になったのは、図書館だけではなくて、ライブラリアンだけではなくて、そことアーキビスト、文書管理の方との連携が密になされているところが面白い。私たちは図書ばかり見がちですが、図書になっていない資料がいっぱいある。そこへの糸口を見つけるにはどちらかだけでなく、図書館・文書館の連携がとれていると、色々なことが見えてくる。

  • 江上さん

先生の調査でも文書は必須だったわけですよね?

  • 和田先生

はい。そして図書館の資料になっていない文書資料の保存が問題になっている。入っていればいいですけど入っていないのがいっぱいあるので。

  • 江上さん

図書のように管理しやすい形態じゃないし、パッと見で一般の人にそれがなにかわかりづらい、ということも。それは最近、図書館員の間でも、日本の公文書館・資料館・アーカイブズの人ともっと密に、というのはよく出てくる。震災のときもそうでしたし、九州の水害でも被害が出ているのではという話があって、情報交換しているところ。これまで以上にそこは意識的にやっていくと思う。
一方で、それを全部図書館員がケアできるかは難しい。図書館員の専門性とアーキビストの専門性をどう考えていくか。

  • 和田先生

図書館の中でのある種の方よりも。古書市を見ていると、早稲田にないものもある。本の形をとっていても・・・漫画もそうですが、意識的に避けた本や管理していないものがある。そこも考えないといけない。海外ではそこへの目は厳しい。「なぜないんだ」と。

  • 江上さん

なんで日本の図書館は漫画避けたり、特別視したりするんでしょうね?

  • 和田先生

いろいろな理由があると思う。早稲田でも持ってはいるけれど、集めない。大学図書館の役割・機能を狭く捉え過ぎなのかも知れないが、本当はいろんな図書館があるべきで、大学図書館の中でもマンガやサブカルに特化した図書館があるのが理想的なのに、特にacademicな図書館はどこも似たものになりがち。そういう意味では明治大学の試みはいい、どうしてあれがもっと早く出て来なかったんだろう。

  • 江上さん

一方で、漫画を特別視するんじゃなくて、日本の経済問題を考える上で、当然、純粋な目で集めるなら漫画の形の資料も入るはず。なのに我々は「漫画だから」となっちゃう。我々の目ってキツイな、という感じがする。ピュアに集めたら漫画も児童書も入るはず。

  • 和田先生

そもそも本屋がそうなってますからね。経済のところに漫画はない。

  • 江上さん

あー、京都の、四条のジュンク堂も漫画自体ないですからね。うちも漫画は買ってるんですが、先生の研究資料として。やっぱり、請求記号同じようにつけているのに、漫画だけ別置している。そっちの方が都合がいいんですよ、使う側も「漫画はあっちね」と。そうなっちゃってるんですかね。混ざっていると逆にユーザさんは困りそう。

  • 和田先生

そのへんがゆるくなっていけば少しずつでも。

  • 江上さん

あと先生、向こうの図書館で、「こんな資料もあるの?!」って経験ありません? 私が次に行くのにおすすめのところは?

  • 和田先生

どこに行っても面白いんですけど、私むしろ江上さんの行ったピッツバーグに行けてなくて、そこに行きたい。あそこには経済関係のでかいコレクションがあって見たかったんだけど、時間的に行けなかった。

  • 江上さん

行きました、行きました。郊外の保存書庫に全部あって。開架ではないみたい。車で10分くらいのところにあって。そこは大学全体の保存書庫で、他にも本がある中に。三井銀行が住友と合併するときに、もともとあった金融経済研究所の蔵書を、やめちゃうからということで、巡り巡って寄贈されたもの。何フロアかあるうちの1スペース。箱から出すだけでしんどかったみたいな話を聞いている。まだ全部は目録もない。カードしかなくて。昔の請求記号順に置くのが精一杯で、そのままで管理している。郊外にあるので見たい人は目録カードをくって、リクエストが保存書庫のスタッフに行く。スタッフは日本語も読めないので番号で探すんだけど、同じ請求記号のものだとわからなかったり。困ってるんだよ、と。先生の本ではないですが、本があるだけではなんともならない。それは自分で本を書いていても感じたし、日々の業務でも感じるところ。いかに上手に整理して、提供・利用しやすくするか。それは日本の本を日本の図書館でやるのですら苦労している、ましてや海外、それも東アジア図書館がないところでは。しんどいと思う。


「出版社からの反応は?」「電子しか金出さないよなんてところもあるんだからチャンスかな、とは思いますね」

  • 江上さん

フロアの方に聞くターンにしましょうか?

  • 和田先生

もし何かあれば。

出版社からの反応は? 特に笠間書院の方は、こういう本が出たことで日本の文学なり研究書なりをもっと海外に売り込もう、電子化しよう、という姿勢になった? それとも、内向きのまま? 日本の出版界へのご意見も含めて、あれば。

  • 江上さん

私が出版界に変えて欲しいこと・・・データベース高いな、と。某、日本の和歌がいっぱい載っている参考図書が、あのデータベースなんであんなに高いんだろうな、と。それだけでなく新聞でも雑誌でも。しかも1つずつ契約しないといけないし全部契約すると高くなるし。もうちょっと安くなりませんか?

  • 和田先生

今回、私も笠間書院からお話を伺ったときに、日本の出版社のリアクションが気になった。海外でどんな風に本が流通しているかも知らなかった、と笠間書院の方は言っていた。大量に出版するんでなく、研究書で300-500しか出していない出版の場合、海外でもまとまって買ってもらえる可能性はあるんだけど、その売り方がわからない。そういう意味では本の受け入れられ方がわかることにプラスの意味はあるのでは、と思う。

  • 江上さん

私の知り合いの若手研究者曰く、ビジネスチャンスのはずだよね、と。今、がーっと電子書籍化して売り込めば競合がいないのでガンガン売れるはず、という話はしていた。そこをね・・・ビジネスチャンスですよ、と。私はビジネスのことはわからないんですけれども。電子しか金出さないよなんてところもあるんだからチャンスかな、とは思いますね。


「教員や学会の反応は?」「なんで電子化したら売れないから出さないなんて考えるんだろう」

先ほどは出版社の反応の話でしたが、先生や、学会は? 以前、某学会が海外に資料が行くことに反対して結局なくなったり、先生の中には電子化すると無料で見られて商売あがったり、なんて言われたり。そこのお金と中での勘定があるのかと思いますが。

  • 江上さん

反応? まだ出て日が浅いので、そこまで反応が来ているわけでは・・・

  • 和田先生

海外に電子化した論文が出ていかないことへの感想ですね。

  • 江上さん

なんで電子化したら売れないから出さないなんて考えるんだろう、不思議だな、と。こういうこと言っちゃあれですが、時間の問題、世代交代の問題かな、と。

  • 和田先生

意識改革が必要なことと、電子化されたものを評価する仕組みがいる。「悪いものから先に」という話があったけれど、逆にそれが「悪い」って評価したり、逆に良いというのも評価したりできるようになれば。意識改革と、インタフェースも含めての枠付けがこれから必要とされてくる。


「特定の分野の重要な情報を探す・入手する方法を伝える取組とは?」「図書館に限らず、あらゆる人が、自分の視点でやっていただいたらいいのかな、と」

  • フロア・昔情報学研究科の図書館で江上さんのお世話になっていた方

ずっと理系の畑にいて、ライブラリアンの仕事について聞く機会がなかったので興味深かった。お話の中で、特に人文系のくくりのお話だったと思うんですが、図書館の使い方も含めて、特定の分野の重要な情報を探す・入手する方法を伝えるのが図書館員の大事な仕事と思う。これは研究者に限らず、色んな人にとって重要なノウハウであったり、能力だと思うのですが、こういうものって暗黙知というか(になっていて)、口承以外で伝える取り組みがあるともっと便利かな、と。そういう取り組みはある?

  • 江上さん

どこの大学/公共図書館でも一生懸命、講習会を開いたり、説明資料を配ったり、webにそういうのを作ったりしている。それは早稲田も。

  • 和田先生

ものすごく大事なこと。図書館も単に本を提供するだけでなく、データベースも増えたので・・・どんな形で利用すれば良いのか教えないと。先生はなかなか教えてくれないし。情報のリテラシー講習ということもありますが、図書館が授業の中に出向いて行くこと、そうなると図書館と大学教育の連携が大事。一方で問題も起こっていて、ある大学では情報講習をするときに、図書館の人がいないというか・・・職員自体が外注で、大学で責任を持って講習を立ち上げるようなことができない。ちゃんとした図書館職員を育てていけるかどうかは、大事な問題と思いますが、どこの大学でも今、意識的に取り組んでいる問題と思う。

  • 江上さん

私個人の考えとしては、その一方で、それは図書館に限った役割ではないはずで、図書館の使い方や情報検索のスキルは日々変わるはず。それは図書館に限らず、あらゆる人が・・・それまで経験知でしかなかったものを、ブログやweb、リンク集を作ってやる、ということは図書館もするけど、皆さんがそれぞれ、自分の視点でやっていただいたらいいのかな、という思いがある。この本の中では強く書けなかったんですが、海外をサポートするときに、我々は日本国内で暮らしているというだけで日本の専門家。海外で日本のことを学ぼうとしている人たちに1人1人ができることはいくらでもある。ネットを使えば相手に情報を伝えられる時代でもあるので、ちょっとした質問をしたら答えられる仕組みがあれば、1人1人がインストラクターになれる可能性はある。それをたくさんの人がたくさんの目でできれば、こんなに楽しいことはない。それもあってこの本の最後の方には「こういう情報発信をしている人がいるよ」というのを書いた。それがもっと百花繚乱にできればいい。


eリソース/共同蔵書構築

  • フロア・イェール大学東アジア図書館の方

大変申し訳無いことに江上さんの本はちょうど年度末だったので買えていなくて、私も読めていないんですが。eリソースの章だけ読めていて、2点だけ。
読んでいないのでカバーされているかも知れませんが・・・eリソース、色々な日本のeリソースの問題、媒体自体が使えなくなったものもあるし・・・私達、日本の司書や先生も言われているんでしょうが、「CD-ROMは使えなくなるからDBに」とか「こういう機能をもっと改善してくれ」とか。かなり言ってきた。日本の司書の方も言っているんでしょうが、それによってDBが少しずつ変わってきている。利用者からどんどん意見を言って、資料の利用の向上につなげていくのは図書館の使命としてできる仕事と思っている。利用者の声を直接聞いているのは図書館の人間で、いろいろ言えることは意義があると思う。
それと、蔵書・・・アメリカもだんだん、予算がなくなってきて、コレクション構築・・・共同での蔵書構築といった感じで、どこの大学で何を集めるか。昔から、江上さんの本にもあるようにやっていたのだけれど、図書館の人たちが情報交換をして、「うちはこんなものを」「うちはこれが強いんだけど、今度は・・・」と。情報交換を積極的にしている。アメリカの場合は東アジア図書館に限らず全体の方向として共同構築をしている。そうなっていくかな、と。

  • 江上さん

和田先生も書かれていた、multi volume setの共同購入もそうですが。アメリカの図書館員はコラボレーションとそのシステム化をすごいうまくやらはる。共同購入の仕組みを作って、お金を出し合って、買ったらこう提供しよう、とか。コンソーシアムを組んでマイクロフィルムを買ってお金を出したところにはコピーを送ったり。コミュニティを組んで、その中にeリソースの小委員会を作って、そこが交渉するようにしましょう、と。そういった仕組みを作ってコラボレーションをすることを、もっと日本の図書館員も学ばなければいけない。

  • 和田先生

日本の図書館でも、このへんだと山の手コンソーシアムとか、大学で集まって資料を共有しようとか。それが強まって選書・収書にまで行けばもっと面白くなりうるし、そうなればマーケットも作りやすい。ただ、日本の場合、司書さんの外注の問題もあるので、コラボレーションがどこまで機能できるか・・・

  • 江上さん

組織の中で責任持ってそういうことができる人がどれだけ残っているか。でも図書館はもともとそういう組織、横のつながりがないと単館ではなにもできない。非常勤講師として司書課程の科目も持っているんですが、その中で図書館同士の連携については丁寧に教えるようにしている。それが一番重要じゃないかな。外注できない、コアな図書館員の役割があるとすれば、それは大きな1つかな、と。


アーカイブズと図書館の連携とは?

今日のお話を伺っていて興味深い点はいくつかあって。1つは、図書館とアーカイブズの連携。それは日本とアメリカの違いに気付かされた。特にアメリカにおいて、アーカイブズと図書館との連携はどんな風にされていて、それによってどんなことが可能になっているのか。江上さんの立場からと、和田先生の場合は研究の展開についてもぜひ。

  • 江上さん

私は全然勉強できていないので勉強しないといけない。この間も・・・うちの図書館が集めないって方針なんですよね。寄贈が来た時に文書は未整理のままだったり。和田先生のお話を聞いて勉強したい。


  • 和田先生

私は勉強になったほうなので。例えば、図書館の歴史を知るにも、司書は本には詳しくても本になってなければ知らない。そこで司書さんと一緒に同じ建物内のアーキビストさんのところへ行って、アーキビストに受け渡されてそこから・・・となる。日本の図書館は文書管理の蓄積もスタッフも別組織で、全く別のセクションになってしまっている。日本もアーカイブズに対する認識自体がレベルアップすることがまず前提として必要で、その上で連携すれば色んなことが。図書館の方も、アーキビストから色んなことを教わっているし、逆もそう。お互いに教えあう機会をユーザが作る、と。面白いものが見られた。そういう場がどんどんできればおもしろい。

  • 江上さん

それは本当にそう。先生も図書館の人に色々教わっているとおっしゃってましたが、図書館員はユーザに聞かれたときに勉強している。だから、手強いユーザの方がいる図書館で勤めることは非常にワクワクする。
あと、今いったような・・・大学の中での図書館・文書館との連携については、8/4・5・6に京都である大学図書館問題研究会の大会の2日目、8/5の分科会の1つとして、大学図書館と、京都府立総合資料館のアーキビスト、それに大学事務方の方がお互いの連携について話す分科会があります。記録は公表されるのでぜひ、そちらも参照を。

  • 大場さん

あと、コメントを。お話伺っていて、私は主に国立国会図書館のデジタルを担当しているんですが、どんどん発信しなければいけない一方で、新しいことをしようとすると出版社との関係が出てくる。海外展開について、うまいこと、お互いwin-winになるような。我々には海外支援に、出版社にはビジネスになるような話ができればいいのだな、と漠然と思いました。


『本棚の中のニッポン』の電子化は?

本当に素晴らしい本と思った。コメントなのですが、私たちは独法で、海外の日本研究支援がプログラムでもある。全世界的に見ると、お二方が過ごされたアメリカは恵まれていて、ヨーロッパの図書館は小さく予算もなく、アジアにいたっては紙を買うのが難しい。私もいろんな地域の日本研究図書館を訪問していると、電子で情報が欲しい、と。特にインド・東南アジアから言われる。それをどうして日本は電子ジャーナルが少ないのかとか質問を受けるのだが・・・実は韓国・中国では国をあげて売り込んでいる。現実的にそういうことも起こっている。情報が潤沢に回って研究が活性化して日本への支援も受け入れられることが理想と思うので、海外にいらした際にでもぜひ、助けられる体制があればと。

  • 和田先生

まとめていただきましたねw

  • 江上さん

耳が痛かったのは、この本自体の電子化。難航している。どうしましょうね?

フォーマットと、どこで売るか。最初は.bookにしてボイジャーで売ろうかと思ったんですが、ボイジャーのサイトは英語をサポートしていないし、<ここは書かないほうが良さそうなので記録なし>・・・ただ、紀伊國屋書店電子書籍サイトはePub3にも対応して海外展開のつもりもあるようなので、そこでやるのがいいかなあ、どうしようかなあ、と。やることは決定していて予算もあるので、あとはフォーマット。電子化するのは簡単。PDFなら1分もかからないし。でもそれじゃ詰まらない。選択肢が多すぎて悩める時期、出版業界的には。ヘタを打ってもいいんですが、なるべくベストな選択をしたい。

  • 江上さん

私個人の考えとしては、電子化するのは簡単で、それをどう買いやすい場所に置くかが問題。メインストリーム上に置かないことには意味がない。情報発信、電子化しよう、しようとしているだけでは意味がなくて、電子化したものがつながりやすいか、どこにつながるか。それを考えるには世界全体の情報の流れがどうなっていて、どこに置けばメインストリームか、理解できれば電子化は簡単。具体的なことはプロにお任せするしかありませんが。

「もっと叩いて、切って、このテーマで色々な方とお話したい」

  • 江上さん

・・・トークショーってこんな感じで良かったでしょうか?

  • 司会

では最後に一言ずつ。

  • 江上さん

図書館で読んでもらったらいいんで、読んでいただいて、他にこういう本を書いている方がいらっしゃらないので、もっと叩いて、切っていただいて。このテーマでもっと色々な方とお話したい。ブログやTwitterでアウトプットして欲しい。

  • 和田先生

暑い中をお集まりいただいてありがとうございます。本は書いてますがこういうことをやっている人も、教え子も少なくて、なかなか関心を持ってくれる人も少ない。皆さんが1人でも多くの方に関心を持っていただければ。




最後の最後で、江上さん自らの口からmin2-flyも気になっていた話・・・『本棚の中のニッポン』自体の電子化についてお話がありましたが(笑)
「メインストリームに置かなければ意味がない」とはおっしゃるとおりで、自分の本業である学術文献のアクセス分析の方でも、欲しい人達にとってのメインストリームになってないところからは全然利用がないというのはやりだした最初の段階で気付くことでした。
ただ、終了後に少し江上さんと話していたのは、そもそも日本の電子書籍に今、メインストリーム足りうる場があるかという・・・
海外の電子書籍市場自体のメインストリームに出せばいいのかとも思いますが、まあ、なんやかや難しいそうで(汗)
それに分野自体のメインに置ければその方がより利用されそうでもあります・・・ってなると、早稲田大学図書館の蔵書検索システムWINE*2が海外からよく使われるという話がありましたが(その理由は『本棚の中のニッポン』を買って確かめてね!)、いっそそこからリンクしてもらうとか?
・・・ってのは冗談にしても、Google Booksでも、Hathi Trustでも、学術書の電子版のメインストリームに入っていくか、どうしても入っていけないってんならメインストリーム足りえるようなものを、使う方の意見を聞きながら構築するくらいの意気込みがないといけなさそうです。
CiNii BooksにWINEが海外から利用される理由になってる機能を付け加えた上で電子書籍リンクを実現とか。
論文については国内のメインストリームにはなれてるものの海外からはGoogle流入待ちになってる感じを、いっきに、こう。


そう、論文。
「なんでいらないものから電子化するのか」と言われてしまうと実に痛いところですが・・・や、アクセスログを分析する限り、人文系の紀要論文というのも実によく使われているのですよ??*3
ただ、「優先順位がおかしいだろう!」と突っ込まれればそれもそのとおりで・・・誰かが人文系のコンテンツの電子化を体系的に考えた結果ではなく、各大学等がまず公開しやすいところから公開する努力をしてきた結果ですからねー。
そろそろよく使っているものを電子化する動きも出ても、と思うのですが。
誰に働きかけると人文系の電子化って進むんですかね? 自力??


その他に気になった点というか、こちらはもう完全に純粋な興味なんですが、そうやってすべてが電子化していった場合に、本という媒体が行き来しなくなるので、和田先生のようなリテラシー史研究のあり方はどうなるんだろう、とか。
物体がないので電子記録が消えて人の記憶もなくなるとやり取り自体の歴史も追えなくなる・・・となるとそれは実は残念な気もするのですが。
一方でアクセスログとか契約時のメール送信記録とかは利用統計向けになんやかやで残っているとすれば、サーバのログを追ってみたり、メールデータを発掘するような研究スタイルに変わっていくんでしょうか。
後者だとするとデジタル考古学的でわくわくします。



・・・などなど、多くの刺激を受けて帰ってきた次第。
和田先生とのトークセッションは今回限りのようですが、江上さんが『本棚の中のニッポン』について語られる機会は近々のものでもあと2回あります。


惜しくも今回の機会を逃され、今までにもまだ聞いてない、という方はぜひこれらの機会を生かしていただければー。



最後に中身ではなくイベントの外身の感想ですが。
今回のトークセッション、会場がジュンク堂4階のカフェだったのですが、これは実にずるいですね。
会場に行く前までに5,000円くらい使いました。
トークセッションシリーズ自体は今後も続くそうですが、ご参加の方はぜひお気をつけて。


その会場のカフェ、椅子のみで机がどけられていたのですが、ドリンクやパソコンを置くために脇にテーブルがついているタイプの椅子がいいよね・・・と周りの方と話したり。
・・・それはもはやラーニングコモンズではないのか。少なくともカフェでは。


等と与太話もできるくらい、会場には知り合いの方がたくさんいらっしゃいました。
なんと京都や奈良、さらには海外からご参加の方も!
前者については、いっそ和田先生とお二人で大阪や京都のジュンク堂でもトークセッションをなされては、とか思ったり。
・・・って書いておくと本当になりそうですね・・・。