「研究助成機関が刊行するオープンアクセス誌」(第4回 SPARC Japanセミナー2012)
SPARC JapanセミナーではOA出版に関する議論が最近盛んです。
OAメガジャーナル、日本も科研費でOA出版助成が、など、出版社、学会、図書館など様々なステークホルダーが参加している昨今ですが、その中で最近の大きな話題としてはハワード・ヒューズ財団、マックスプランク、Wellcome trustといった研究助成機関が自ら一流の成果を発行するOA雑誌、eLifeをこの冬に創刊する・・・という話題があります。
もともと研究助成機関はOAにおいて重要な役割を担ってきたわけですが、ついに自ら出版者として参加する、ということでここ数年のOA出版の動向としても大注目の一件なわけですが、今回のSPARC JapanセミナーではそのeLifeから、Mark Patterson氏を招いてのお話でした!
2003年,ブダペストオープンアクセスイニシャチブ(BOAI)はオープンアクセス実現のためのふたつの方策を提案しました。ひとつは,研究者が執筆論文をみずからインターネット公開する「セルフ・アーカイビング」です。 大学・研究機関が設置する機関リポジトリや,PubMed Central 等の政府系アーカイブなどの形で発展してきています。もうひとつは,無料で利用できる電子ジャーナルを創刊し,そこに論文発表を行うというものです。そうした電子ジャーナルは「オープンアクセスジャーナル」と呼ばれ,現在世界で約8,000誌を数えます(スウェーデン・ルンド大学調べ)。
オープンアクセスジャーナルの出版には,商業出版社も参入し,近年では「オープンアクセスメガジャーナル」と呼ばれる従来の学術雑誌とは異質のメディアも生まれてきています。こうした電子学術情報流通環境の急速な展開の下で,今後,学術コミュニケーションの姿はどう変わっていくのでしょうか。
今回の SPARC Japan セミナーでは,今冬に創刊される eLife 誌 Managing Executive Editor の Mark Patterson 氏をお招きします。eLife は,世界有数の研究助成機関である,英国:ウェルカム・トラスト,米国:ハワード・ヒューズ医学研究所(HHMI),ドイツ:マックス・プランク協会の3団体が合同で刊行する生命科学分野のオープンアクセスジャーナルで,論文出版加工料(Article Processing Charge(APC))は当面の間無料とされています。本セミナーでは,研究助成団体による学術出版にフォーカスし,オープンアクセス出版の現在と未来について議論を深めます。多くのみなさまのご来場をお待ちします。(当日は通訳がつきます)
OAメガジャーナルとも商業出版によるOAとも異なる路線で、当初は著者投稿料もゼロ、というモデルの登場は驚きとともに迎えられたわけですが、いったい何を企図しての創刊なのか、Pattersonさん自らのバックグラウンドから始まるお話は「研究成果/データの再利用」という事前に思っていたのと少し違う方向で、でも大変な盛り上がりを見せていきます。
他にもこれまであまりお話を伺ったことのない学会出版、商業出版の方からのお話もあり、Pattersonさんからむしろそちらに突っ込んだ質問もあったりで大変おもしろいセミナーでした!
以下、例によって当日のメモです。
例のごとくmin2-flyの聞き取れた/理解できた/書き取れた範囲でのメモであり、ご利用の際はその点、ご理解いただければとおもいます。
誤字脱字・事実誤認等お気づきの点があれば、コメント等でご指摘下さい。
では、最初にNIIの尾城さんのお話から!
開会挨拶(尾城孝一さん、国立情報学研究所/次長)
- 昨今のオープンアクセス(OA)、特にGold路線・・・OA雑誌の展開はめまぐるしい
- OA雑誌をめぐる動向に関して特筆すべきトピックをあげてみると?
- 商業出版社が購読料モデルを補う形で、OA市場にビジネスとして乗り出してきている
- 今年2月のセミナーで取り上げたが、PLoS ONEに代表されるOAメガジャーナルの創刊が相次いでいる
- その中で今日のテーマは・・・eLife
- 一方で・・・機関リポジトリに対する精力的な取り組み
- ともあれ、今日のセミナーは神戸外大の谷本さんに総合司会をお願いした上で・・・
- 宮崎大の市原さんから導入の話
- eLifeのPattersonさんからeLifeの目指すところの講演
- その後、土屋先生モデレートによる、パネルディスカッション
- 研究者コミュニティ・出版社・大学図書館の代表者によるディスカッション
- OA、学術出版、学術コミュニケーションの行く末に関して様々なステークホルダーの立場からの有意義な議論を期待したい
「オープンアクセス出版の動向」(市原瑞基さん、宮崎大学附属図書館)
- APCの成功例・・・PLoS ONE
- PLoS ONEのような雑誌・・・OAメガジャーナルと呼ばれる
- 従来より素早く大量の論文を載せることでAPCによる運営を実現
- 商業出版社も参戦中
- eLifeはOAメガジャーナルとは違う・・・査読による厳選/質の高いものだけ載せる
- eLifeに対するブログ記事への反応*5:
- 雑誌が赤字になったとしても、助成した著者に外部で発表する追加費用の助成がいらないので、助成団体にとっては有益?
- エディター/レビュアーに対価が支払われることが重要
- 短期・中期的にはPLoSやBMCのようなAPCによるOA雑誌にダメージを与えるのでOA出版を結果的に衰退させる?
- min2-flyコメント:ほかにも意見多数! コメントメモし切れないよ! 詳しくは出典等参照
- 様々な意見がある。このあとのディスカッションで深められるだろう
- 大学図書館側の立場からの私見
- 多くの大学ではビッグディール契約で利用者に雑誌を提供
- 多くの雑誌を提供できるメリットはある⇔購読規模維持の問題
- 購読規模の維持は困難になりつつある・・・出版社も認識中?
- OA雑誌、OAMJにも手を出しつつある
- 多くの大学ではビッグディール契約で利用者に雑誌を提供
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- ビッグディール契約が止まって読めている雑誌が読めなくなったら研究者もOAに気付き出す?
- 研究者によってはOAに懐疑的だったり・・・そのような教員の目標は一流雑誌にacceptされることだから?
- 研究者が求めるのは質の高い論文。eLifeのような試みはそのような研究者の選択を増やす?
- 最終的には研究者の求めるもの/持続可能なものが残る?
- 研究者が求めるのは・・・雑誌の質/投稿料の安さ/出版までのスピード
- IFにかわる雑誌の質の評価や、雑誌単位でなく論文単位での評価、ポストレビュー
- ビッグディール契約が止まって読めている雑誌が読めなくなったら研究者もOAに気付き出す?
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- 他のOA出版モデルは持続性に疑義もある?
- eLifeやPeer Jのような試みは興味深い
- 他のOA出版モデルは持続性に疑義もある?
「eLife:研究者主導の生命科学・生物医科学分野のオープンアクセスジャーナル」(Mark Pattersonさん、Managing Executive Editor/eLife)
- 司会紹介
- もとは遺伝学の研究者。2011.11より現職
- Nature⇒PLoS(何誌か創刊)。OA雑誌出版社グループの設立者の一人でもある
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- 本日はほとんどeLifeの説明をするが、その前にまず私のバックグラウンドの話からする
- なぜOAを重要と考え、支持しているかおわかりいただけるはず
- OA政策に関する英国・各国の状況
- その後、eLifenについて・・・モチベーション、何をしているか、進捗状況等
- 本日はほとんどeLifeの説明をするが、その前にまず私のバックグラウンドの話からする
- Pattersonさんのバックグラウンド
- ご紹介もあったので簡単に
- 研究者としてキャリアを開始。30年ほど前
- その後、出版業界に移る。そこで仕事の幅を広げて、遺伝学の視野を更に広げる
- 書くこと/編集を体験
- 2003年にPLoS、OA出版に仕事を写す。8-9年仕事をして、昨年からeLifeを担当
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- 今はもうこれは取るに足らないこと。ものの数秒で答えを得られる
- 当時より何倍も早くデータを検索・調査できる。非常に強力なツールで、公表されているDBを色々使うことができるようになっている
- 今はもうこれは取るに足らないこと。ものの数秒で答えを得られる
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- このようなデータの共有、公開がヒトゲノムプロジェクトに結実した
- 40億ドルの投資が8,000億ドルの経済的影響、30万以上の雇用をもたらした。研究成果のオープンがどれだけ力強いものかを非常に協力に示している*6
- このようなデータの共有、公開がヒトゲノムプロジェクトに結実した
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- 今表示しているのはかなり早い段階で、2001年に刊行されたOAのメリット論文*7
- 遺伝学データをオープンにすることでツールにつかえる/より強力なツールが作れる
- 同じことを文献に適用できるはず、というのが著者の主張。遺伝学の世界で起こったことと論文のOAには類似性がある
- 今表示しているのはかなり早い段階で、2001年に刊行されたOAのメリット論文*7
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- Open Access > Free Access
- OAはフリーアクセス以上に多くのことを内包する。アクセスの障害を取り除くだけでなく再利用もできるようにする。それが強力なものとなる
- Open Access > Free Access
- 過去6-12ヶ月のOAの世界の政策動向
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- イギリス(2)
- Fnchグループの設立・・・Finchがリーダー/研究に関する情報へのアクセスを如何に広げるかを目的に活動。報告書が発表され*8、OA出版のサポートや、著者がいかに刊行費用を賄うか、その支援メカニズムにも言及。
- 助成機関もOA方針を強化。例えばWellcome Trustは2006年頃からOAを支持してきたが、それを強調し、よりリベラルなライセンスの導入で研究成果の再利用も推進している。一方で方針を遵守させるための制裁も用意
- RCUK・・・イギリスの公的助成機関の集合体。ここでもOA政策を強化・強調。刊行費用支払いのサポート等を打ち出している。
- ガーディアン/The Economist等、メディアでも一連の動きが取り上げられている。研究者だけでなくより広く一般にもOAが知られるようになっている
- イギリス(2)
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- これらの一連のイギリスの政策の中で強調されていること・・・「再利用が重要である」
- ライセンスはCreative CommonsのCC-BYがスタンダードになっている。著作権法に基づくライセンスで、法的根拠もしっかりしている
- CC-BYを使うと「研究情報を自由に再利用できる」ということに。OA出版のゴールドスタンダードになっている
- これらの一連のイギリスの政策の中で強調されていること・・・「再利用が重要である」
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- ひとつ付け足すと。英国ではこの動きがOAコミュニティ全てに好意的に受け入れられたわけではない
- ほとんどの人は賛同しているが、一部の人は快く思っていない。あまりにもGold路線、OA出版に注目しすぎていて、Green路線、リポジトリがないがしろにされていることが理由?
- 私はどちらか一つではなく、両方のアプローチがいると考えている。研究コミュニティは冊子⇒オンラインへの過渡期で、それが終わるには複雑なプロセスがいる。
- その実現には複数のアプローチをとりつつ、一番うまくいきそうなところに落ち着くことがいるだろう。
- Peer Jのような新しい試みも含めて、どちらかではなく両方のアプローチから最適なところに収束させることが必要ではないか。
- ひとつ付け足すと。英国ではこの動きがOAコミュニティ全てに好意的に受け入れられたわけではない
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- ヨーロッパ・アメリカの状況
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- これらの動向から、政策を見ることがOAにおいて重要であることがよくわかる
- 日本では文部科学省からOA政策が出されるかどうか、今のところは明確ではないらしいが、今こそ日本もOA政策を策定していくときではないか?
- これらの動向から、政策を見ることがOAにおいて重要であることがよくわかる
- eLifeについて
- 残りの時間はeLifeの話をしていきたい
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- eLifeのモチベーション
- 正式スタート発表は2011.6だったが、それに先立って何ヶ月も助成機関各位と綿密な話し合いがあった。その背後の動機とは?
- eLifeのモチベーション
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- OAの成長・・・PLoS、BMC、Hindawiの主要OA出版社の状況から
- 3社の刊行論文だけ見ても、そのOA論文は2011年には5万を超える数に
- OAの成長・・・PLoS、BMC、Hindawiの主要OA出版社の状況から
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- さらに実際にある研究者が凄い良い論文を書いたとすれば・・・今は購読モデル雑誌が主な投稿候補になる
- そこでOA雑誌が候補に上がるようになれば、いい論文が集まり、OA雑誌の更なる発展につながるのではないか??
- さらに実際にある研究者が凄い良い論文を書いたとすれば・・・今は購読モデル雑誌が主な投稿候補になる
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- もう1つの動機・・・雑誌の発表プロセスに関するもの
- 研究者はどのようなプロセスを経て研究成果を発表するか、その批判がNature / Scienceに掲載されたことがある
- 特にprestigeの高い雑誌を狙うとハードルが高く、競争はますます激しくなっている
- その査読者は時に強硬な態度に出ることがある。著者に特定の実験の追加を求めるなど。それに対して研究者や助成機関はあまりにも妥当性のない/非現実的な要求をしていると見る場合もある
- 「そこまで求められても無理ではないか」となる。さらに実際にやり直して提出しても掲載不許可となることがある。
- もう1つの動機・・・雑誌の発表プロセスに関するもの
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- この編集に関するプロセスをきちんとした科学に基づいた、科学者によるものにすることがeLifeのモチベーションの2つめ
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- 3つめのモチベーション・・・コンテンツ表示方法をdigital firstにすること
- 冊子体で発行するというやり方にあまりにも多くの制約を受けている。まずdigital、とはなっていない
- eLifeではコンテンツを表示し、幅広く行き渡らせることを如何に改善するか、そのプラットフォームとしてeLifeを使いたい
- 3つめのモチベーション・・・コンテンツ表示方法をdigital firstにすること
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- 以上から導かれるeLifeのゴール:
- OA
- より良いプロセス
- コンテンツのよりよいプレゼンテーション
- さらにこれらの変化を触媒として研究コミュニティの中で広い変化を起こしたい。単なる一雑誌の成功にとどまるものではない
- 以上から導かれるeLifeのゴール:
- eLifeの機能
- eLifeの射程(scope)
- 対象領域は幅広くライフサイエンス全般。基礎研究から応用・臨床研究まで、可能な限り幅広いものを扱う。現行の他誌に比べるとユニーク?
- なるべく選択的に、取捨選択して本当に素晴らしい、意味のあるものだけ選ぶ。どのように影響を与えるかについての考え方は幅広く持ちたい。生物学の根源的な理解を深める研究だとか、研究の新しい筋道をつける新たなプロセスに関することとか、実務的・実際的に意味のある、遺伝的に改変したトマトとか。何をもってインパクトかは幅広く考えたい。
- eLifeの射程(scope)
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- eLifeの編集者・編集関係者・・・いずれも著名な/評判の確立した研究者
- だからこそeLifeへ注目が集まっている
- eLifeの編集者・編集関係者・・・いずれも著名な/評判の確立した研究者
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- eLifeの編集プロセス
- 最初に投稿された論文を仕分ける。厳選したものだけ掲載するため、多くの論文は掲載を断る
- 実際に査読する論文の数を絞り込む
- 最初の篩分けを通過したものはreviewing editorのもとに届く。査読を組織する人。そこのやり方が少し違う
- reviewレポートが届くと、reviewing editorは協議して決める
- 色々なレポートを1つのレターにまとめて著者に送られる。そこにどんな要件を満たせば掲載するか明示。無理な実験要求等はこの段階で排除する
- 修正原稿が著者から帰ってきたら、もうreviewing editorが作業をする。reviewerに再び返すことはしない、この時点で十分な評価は論文に対してなされたし、reviewerの意見も十分反映されたとみなす。それによって査読期間・労力を短縮
- 最初に投稿された論文を仕分ける。厳選したものだけ掲載するため、多くの論文は掲載を断る
- eLifeの編集プロセス
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- 著者に素晴らしい体験をしていただける場所を今後は目指す。
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- デジタル・ファーストの原則について・・・
- 論文の数/長さは制限しない。然るべき理由があっての長さは必要(もちろんむやみな長さは困る)
- 指針の提言はするが、ポイントを制限・制約することはしない
- フォーマット・・・できるだけ使いやすいもの。リッチメディアの使用を推奨する
- ビデオ・オーディオ等の音声・映像メディアも組み込めるし、基礎をなすデータも提供できうる
- 掲載後、さらに付加価値をつけることも可能に!
- 詳しくは後で話す
- 論文の数/長さは制限しない。然るべき理由があっての長さは必要(もちろんむやみな長さは困る)
- Born Free
- 最初からデジタルと同時に最初からフリー。もう長く話す必要はないだろうが。
- CC-Byを採用するし、PubMednにも収録。さらに当初は掲載料無料
- 付随するファイルの扱い
- eLifeの情報収集のやり方・・・論文提出時に使っているデータセットに関する質問も表示する
- 著者にデータセット引用のための情報を作り、提供していこうとしている
- 文章による説明とそれを裏付けるデータの結びつきを高めていく
- 説明文とsummary data、summary dataとraw data、メインの図とその補足となる図
- ここで重要になるのは・・・すべてのresearch objectに一意の識別子がつく
- 検索/発見/引用可能になり、論文とそのデータの結びつきを明確に示すことができる
- 掲載後のコンテンツに対する価値の付加実現の方法
- 論文インパクトに関する指標を提供することで実現する
- 指標についてはPLoSが先駆者。論文全てに「metrics」タブがあって、そこを開くと論文の解析情報を色々見ることが出来る
- 出版後の累積アクセス数(某グラフ表示)・・・PLoS上とPMC上の両方がでる/月ごとの詳細も閲覧可能
- 引用あるいはデータの使われ方の詳細を見ることで幅広いデータを見ることができる。Social services上での状況も見られる
- 色々なデータを収集して、論文をそのデータで飾ってみると、論文の持つインパクトの感触がつかめる
- 研究者にとってはこのようなアプローチを使うことで雑誌のImpact Factorから離れられる。
- IFは執着している人も多いが、あれは雑誌の影響の度合いを見るもの。それ以外のアプローチもあることを示すのにこれは良いのではないかと考えている。
-
- ここまでの話でおわかりとも思うが、私はIFのファンではない。
- IFはinnovationのバリアになっている。取って代わるものが切実に求められている。オンラインの情報、研究成果の流通が、真に力を発揮するには、別の方法が求められている。
- ここまでの話でおわかりとも思うが、私はIFのファンではない。
-
- 今後、今年3月までにやってみたいこと・・・
- 読者・利用者に素晴らしい経験のできるwebサイトの構築
- 色々なソースデータが使えるようにする
- 複数のロケーションでコンテンツを使えるように(PMC、機関リポジトリ)
- 人がアクセスしやすいだけでなくコンピュータにとってもアクセスしやすいこと
- 指標の改善
- 今後、今年3月までにやってみたいこと・・・
- 現在までの進捗状況
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- 実際に雑誌を刊行するためのインフラ準備
- 既に整っている。今年の夏までにスタートさせるべく、支援付きのインフラの使用を考えている
- 野望は多くあるが、まずははじめる、ということで体勢を整えている。ご質問があれば後ほど
- 既に整っている。今年の夏までにスタートさせるべく、支援付きのインフラの使用を考えている
- 実際に雑誌を刊行するためのインフラ準備
- おわりに
- eLifeがよりよいものになる確信を得ている
- 研究情報・学術情報流通に影響を与えること、ユニークなビジョンを示せると考えている
- 強力な/フェアな方法で研究・教育を行うことに貢献していきたいと考えている
質疑応答
- Q. IOP(Institute of Physics)の方。お話を聞くまで、fundingが特殊なだけの雑誌かと思っていたが、雑誌自体がhigh quality、scopeの広さ、査読プロセスの特徴、データ運用等、トップレベルを目指していることを初めて知った。それでもなお最初の誤解に基づく質問をしたい。やはりfundingが特殊、というのは、助成機関の支援を受けているのは特殊と思う。物理学分野ではSCOAP3という、複数の購読期間が複数の出版社をサポートする試みもあるが、eLifeは複数助成機関が1つの出版をサポートするというのでユニーク。しかしその点の話はあまりなかった。もっと聞きたい。また、fundが切れたら通常のAPCモデルになると思うが、いつまでfundが続くかの見通しは? また、どうしてこのようなfundを受けられた?
-
- A. eLifeについて理解していただけただけでも来た甲斐があったと思う。実はこの取組は私が参加するずっと前から始まっていた。まず助成機関から話があった。科学に助成金を出したいが、その分野のコミュニケーションが必ずしも効果的ではないせいで、研究成果の価値が低く見られているのでは、という懸念が背景にあった。eLifeが直接、それを向上させることで、全体的なコミュニケーションの向上を図りたい、というのが背景。
複数年かけて、強いコミットメントを助成機関から得ているが、一番求められているのは持続可能性。継続すること。その点で、助成以外の資金源やAPCは探っていかねばならない。今のところ、具体的に持続可能性を実現するための方策がはっきり見えているわけではないが、この雑誌をベストなものにすることで、その基盤の上に持続可能性は自然にのっかってくるのではないか。助成機関による助成金の行方には色々な可能性があるが、雑誌自身をパワフルなことにすることで、収入源についての他の選択肢も考えられる。例えばこれをベースにしたスピンオフなど。
休憩タイム
パネルディスカッション
- モデレータ
- 土屋俊先生(大学評価・学位授与機構/教授)
- パネリスト
- Mark Pattersonさん
- 斎藤博久先生(国立成育医療研究センター/副研究所長)
- 小島陽介さん(カルガージャパン/代表取締役社長)
- 内島秀樹さん(DRF、筑波大学附属図書館/情報管理課長)
- 土屋先生
前半はeLife中心にご紹介いただいた。2月にはPLoS ONE関係の講演もあって最近のOAの出版の動向を整理しながら、知識流通・生産の動向を考えていこうということ。
Pattersonさんがおみえになったのとあわせて、日本の学会出版の状況と、biomedical分野で伝統的にやってきた、必ずしも規模は大きくない商業出版のお話をいただく。
それから、今日は図書館関係の方は少ないのだが、図書館関係者を代表して筑波大学の内島さんにお話いただく。
最初に少し、それぞれのお立場からのお話をいただいてから、ディスカッションに入りたい。
ただ、ちょっと先ほど、質問打ち切っちゃったので、最初に質問あれば取りたい。
Pattersonさんへの質疑の続き
- Q. 物質・材料研究機構・谷藤さん:休み時間を挟んだので少し忘れたが・・・一番、お聞きしたかったのはこの1年、このセミナーで話題にあまり出なかった再利用の話。アクセスの障害を失くす、だけではなく、自由にinnovativeな科学を目指した再利用のお話をいただいた。元データを生ファイルで取れるとか、その利用回数を測れるとか。日本では存在しない先端的なことをされようとしているが、科学者コミュニティは本当に、その論文の文脈の中で意味のあるデータを、生データとしてとって、何か加えて再利用するニーズを持っているのか? 科学は先人の知見に基づき、積まれて進展してきた。それは再利用等を保障しなくても、引用等の形であったり論文の文脈の前提で同じ実験をやったりしてやっていることなのに、それを加速するニーズとは?
-
- A. データに関してのみのご質問? OA全体ですか? (Q. 再利用に関してです、と返答)。再利用に関してであれば、論文対象かと思うが、科学者は研究成果の量が多すぎて対処しきれなくなっている。OAはその手助けになると考えている。色々な論文が重要な中で、自身の研究にもっとも関係のある情報を探す手立てとして、生データの上にツールをのせて提供することで役に立てるのではないか。
- もうひとつの例について。ある問題を考えてみる。生物医学、遺伝子分野で、ある病気と遺伝子の間の関係のevidenceを探そうとすると、通常は長い時間がかかるが、それに関するデータとツールを提供することでよりパワフルなツールになると思う。ただ、その具体的な方法はまだわからない。ツールによって方法は変わるし今はないようなツールもあると思う。
パネリスト各位の発表
「Allergology Internationalの変革と医学系雑誌 Editor-in-Chiefの仕事」(斎藤博久先生)
- セミナーに来るのは初めて。何を話せば良いのかわからないまま来てしまった。
- 日本アレルギー学会の紹介
- 会員数は2012.4で1万人を超える。会費収入だけで1億5千万円以上に。雑誌出版費用もそこから捻出
- 以前は会員全員に和文誌と英文誌を送っていたが、現在は英文誌は財政難があった関係で希望者のみ冊子配布とした
- 冊子郵送料の削減/学会の赤字解消へ
- 会員数は1万人でもまだ少ない? 患者の数に比べると・・
- 喘息は日本人の5%、小学生なら10%以上。スギ花粉症に至っては若い人の7割は陽性で症状はその半数くらい
- 他にも食物アレルギー、アトピー性皮膚炎・・・
- もっともっと、今後会員は増える可能性がある。入会理由も専門医を目指す、というのが多い
- 今のところ専門医は4,000人程度で、現在は特にメリットがないのだが将来はありそう、ということで多くの入会・セミナー受講がある。
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- 財政的には潤っている
- それで雑誌運営が賄えている。非常に恵まれた環境
- 財政的には潤っている
- 学会誌"Allergology International"の変革
- オープンアクセスジャーナルとしての発展と今後の課題
- アレルギー分野のIFは現在、急上昇中・・・競合誌のIFはどんどん上がっている
- 逆にJournal of Immunologyのような基礎系の雑誌が昔に比べて下げている。昔と関係が逆転
- 特に日本でその傾向が顕著
- アレルギー分野のIFは現在、急上昇中・・・競合誌のIFはどんどん上がっている
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- 背景・・・基礎系では動物実験等をするsolidな研究が多いが、臨床医の立場としては吸引で済むから薬の開発はあまり興味が無い
- 日本の医者は忙しい。一番忙しいときには1週間に300人くらい観ていた。海外との差に驚くくらい。専門医でも隙がない、英語で論文書く隙がない
- それでもなお、研究しないと、データを全部輸入しているような状況で、日本人に最適な医療が提供できなくなってしまう。そういうことも考えている
- 日本の医者は忙しい。一番忙しいときには1週間に300人くらい観ていた。海外との差に驚くくらい。専門医でも隙がない、英語で論文書く隙がない
- 背景・・・基礎系では動物実験等をするsolidな研究が多いが、臨床医の立場としては吸引で済むから薬の開発はあまり興味が無い
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- 日本発の臨床研究を世界に発信する雑誌がいる。その手段・・・OA雑誌を学会費用でまかなえる立場を使い、まずは雑誌のステータスを高めたい
- プラットフォーム・・・Pattersonさんのお話で印象を受けたが、研究所の副所長をやっているので、所属者の皆にeLifeへの投稿を勧めたいと思う。encourageしたい
- "Allergology International"は自営サーバなのでraw dataを出すとかには弱いのだが、個々の論文の被引用数を出すとかも、今後は考えていきたい
- プラットフォーム・・・Pattersonさんのお話で印象を受けたが、研究所の副所長をやっているので、所属者の皆にeLifeへの投稿を勧めたいと思う。encourageしたい
- 日本発の臨床研究を世界に発信する雑誌がいる。その手段・・・OA雑誌を学会費用でまかなえる立場を使い、まずは雑誌のステータスを高めたい
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- 著作権・・・現在は学会が持っている
- 得られるメリットはそんなにないと考えつつある
- 1万人もいる学会で保守的な方もいるので難しいかも知れないが、よりよい臨床研究を発表できる、ステータスを高めるために説得していきたい
- 著作権・・・現在は学会が持っている
- 特に"Allergology International"で心がけていること・・・著者へのインストラクション
- 臨床研究の前登録をやれ、ということにしている。よりよい臨床研究推進には絶対に必要
- 特にアレルギー分野では健康食品のようなものが出てくる。アレルギーの多くは死なないこともあって、効かない・胡散臭いデータが多い
- 後付け解析によるデータがものすごく多いのでそれを排除したい
- 前登録とは?・・・患者の利益を守るために、臨床研究の介入試験(薬が効いたか効かないかの試験)には事前登録が強く推奨され、ほぼ義務化されている
- 日本の臨床研究でも義務と言われている。違反した場合は研究費の打ち切りという話も
- 具体的には「患者さんの自覚症状で点数が10⇒6に減ったら有効と判断します」というような基準を宣言しておく。それを宣言しないと、後付け解析ということをされ始める
- 色々なデータを調べて、有意差が出たところに基づいて「有効である」という論文が出してこられる。それだとほんとうに良い臨床研究が育たない
- "Allergology International"はもう5年前から事前登録したサイトを書け、となっている
- 日本の遅れている臨床研究をなんとかencourageしたい
「出版社カルガーの動向」(小島陽介さん)
- まずカルガーとは、というお話をしながら、カルガーのOAに関する取り組みについてかいつまんでお話を
- Karger・・・代々の家族経営企業。2つの事業部がある
- 外国雑誌の取次部門と、出版社部門。今日は出版社部門の話をする。
- Karger・・・代々の家族経営企業。2つの事業部がある
- KARGER
- 従来の出版以外に電子化にともなって新たな仕事も
- 過去に出版された雑誌論文の電子化
- 色々なところからアクセスされ、論文を見つけやすいための方策・・・PubMedはじめ二次情報DBとの連携
- ディスカバリー・ツール、リンク・リゾルバにも対応。雑誌発見の手立てを実施
- Shibboleth認証/プラットフォーム関連技術導入
- カルガーの雑誌出版の動向
- 紙媒体の雑誌購読ビジネスはまだ続けている/個人・機関購読ともある
- 1998年以降、インターネット対応/電子化に伴い投稿数が増えている
- 著者に対してauthor's choice(後述)等の新たな選択肢も提供
- カルガーにおける出版ビジネス転換期
- カルガーにおけるOpen Access動向
- もうひとつのカルガーによるOA:Case Report
- 症例報告集。臨床現場に特化したOpen Access Journal
- 駆け出しの先生方に受け入れられている。日々の業務の知見をまとめて載せられるので、人気がある
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- 全世界的なOAのニーズの高まりへの対応もやっていこう、という状況
- 2013年から、オフィシャルな/ちゃんとしたOA雑誌も創刊する
- 6誌創刊予定。そのうちのいくつかは購読モデルからの切り替え。いくつかは新創刊
- このチャレンジからOAについて実証実験、要所を得ていきたいと考えている
- 全世界的なOAのニーズの高まりへの対応もやっていこう、という状況
「図書館から見たOAジャーナルへの期待」(内島秀樹さん)
- 自己紹介
- 機関リポジトリの人、と思われがちだがずっと電子ジャーナル担当だったので興味がある
- 図書館から見たOAジャーナルへの期待・・・歴史も振り返りつつ
- 米SPARCは昔は高い雑誌に対抗する代替誌を支援して出版社に対抗しようとした(Create Change)
- しかし代替側も利益を追い出して今では成功例とは言われなくなった
- 米SPARCは昔は高い雑誌に対抗する代替誌を支援して出版社に対抗しようとした(Create Change)
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- 国立大学図書館協議会(当時)・・・Create Changeを昔は支援
- Create Change・・・今読んでも通じそうなことが書いてある
- 「読めないものが多い」というのは現在には(ビッグ・ディールによって)あてはまらないが、JUSTICE等で問題にもなっているがこのままは続かない
- 新しい環境が必要に
- 「読めないものが多い」というのは現在には(ビッグ・ディールによって)あてはまらないが、JUSTICE等で問題にもなっているがこのままは続かない
- 図書館からの将来展望
- Finch Reportの影響は? イギリスの論文は世界の6%。その影響は今後十分ありえる
- 購読⇒OAへの移行も進むだろう
- 図書館を介さない学術コミュニケーションの隆盛は避けられない? OAは運動を越えて、実務に影響を及ぼしつつある
- 一部の人がやっているものではなく図書館業務を解体するものになりつつある
- 図書館の役割の再構築を考える必要がある?
パネルディスカッション
- 土屋先生:
せっかくPattersonさんいらっしゃるので、eLifeについて確認したいことをお聞きしたい。まずはパネリスト間で。最初に皆さんの質問を聞いてから、まとめてPttersonさんから。
- 斎藤先生:
研究所員の投稿を促したいと考えているが。NatureやScience等の既存誌が、査読過程でsolidなデータを重視しすぎる、ということをおっしゃっていたと思う。そうすると、eLifeとしてはそういうものよりも、何を重視する? 何を採択基準として重視する?
- 小島さん:プラットフォームを開発して使いやすいものにするとのことだったが、eLifeは科学分野の検索がeLifeプラットフォームで完結すると思っている? そういうのはもっと別の会社に任せてシンプルなOAにしてもいいのでは?
- 内島さん:PLoSの話を聞いた時にもした質問だが、将来の話はわからないところもあるだろうが、APCはいずれ採用する、スピンオフ=ビジネスモデルも考えていると思う。購読モデルを続けることはもうきつくて、OA雑誌にはこの状況を打開して欲しいわけだが、APCは的確な競争相手がいて、妥当なラインに維持されることが重要と思う。その点のご展望を聞きたい。
- Pattersonさん:
- 斎藤先生の質問について:
掲載の判断基準についてと思う。主観的な判断を迫られるもの。複数の科学者が判断することになるが、私達が心がけるのはできるだけ色々な意見を包含したい。
何人かの方は賢威のある雑誌はトレンドになっている/引用が見込まれるものに注目しすぎている、と批判している。
私たちはそれを回避したい。純粋な科学にまつわる部分で判断をしていきたい。
- 小島さんの質問について:
プラットフォームについて。プレゼンの中では技術的な話をしなかったが、まず独自プラットフォームではなく今はHighWireのプラットフォームを使っている。
オープンコンテンツにとってプラットフォームはいくつかある方がいい。HighWire以外にPMCももう1つのプラットフォームと考えている。
HighWire採用の理由は、ここにはオープンソースレイヤがあったので。Drupalが使われている。オープンソースコミュニティの発展はこれをベースに作られているので、その上に新しいツールができてコンテンツの活用が広がることが考えられる。これを使っておけば今後もオープンソースコンテンツを活用できると考えた。
コンテンツは他にコンピュータサイエンティストが使うような場所にも分けて置いてある。フレキシブルなインタフェースを作る役にも立つ。APIを使ってコンテンツにアクセスもできる。コンテンツは複数のプラットフォームにあり、色々な人が色々な方法で使うが、そのrootは一緒、という考え方。
- 内島さんの質問について:
コストに関しての質問と思う。問題としては大きいが、大きな機会もはらんでいる。
eLifeが前に進むにあたってコスト削減の機会は色々あると思う。従来は色々なコストがかかっていたが、削減できるものが多いこともわかっている。
APCがどうなるか、具体的な金額は言えないが、コスト削減のチャンスはいっぱいある。
苦労はしているがPeer Jのようなものもあるわけで、できるということは見え始めていると思う。
- Pattersonさん:
OAの方針の変化について私の方から質問したい。
OASPA*10、OA出版社の団体で議論に参加していたことがあるのだが、カルガーはCCの中でも一番厳しいライセンスを使っているよう。
なんでそのライセンスを選んだ? また、今後OASPAに入る可能性はある?
- カルガー・エディトリアルマネージャの方:
必ずしもそれを選んできたというよりも、今までの出版社の歴史を考えると、読むだけ、というのが・・・120年の歴史もあって保守的だった。
読むだけでコンテンツに手を入れないのが普通のことだと思っていた。
それが流れとして変わりつつあることは本社も理解している。
これは「選んだ」というよりも過去にはそれが一般的な形だった。それをずっと続けるかは、流れの過渡期と思う。
この先、これを変えるつもりについては、今はニュートラルな状況にある。
- 小島さん:
いわゆる学術利用は認めているが、商業利用について、特に医学系出版社だと論文別刷りビジネスが大きい。
そのあたりは逆にPattersonさんはどう考えている?
オープンだと別刷りを欲しがるような製薬企業が刷って配ったりしそうだが。
- Pattersonさん:
別刷りに関して、PLoSは今でも別刷りを販売している。医学系の雑誌で別刷りに価値があるのは確か。
ただ、商業的な別刷りと、雑誌の刊行プロセスの関係には歴史的な問題も指摘されている。
出版プロセスが整合性のあるものでなかった。商業的な別刷りと通常の出版プロセスは別に考えるべき、という意見が多い。
商業的な再利用をどうするかはメインの問題としてあるが、より重要なのは派生的な使用。学術目的の翻訳を許可していない点等はどう考える?
- 小島さん:
学術利用であればKARGERは認めている。エンドユーザの良心に任せているところもあるが、学術利用すると言った人が実際どうしているかわからない。
なので、KARGERとしての結論はまだ出ていない。
- 土屋先生:
関連して、学会における著作権保持とOAの問題の指摘もあった。
OA雑誌におけるライセンス、CC-BYが理想的というが、あれは著作権者が宣伝するもの、
著作権保持を学会が保持するままでいくのか、著者との著作権譲渡契約をするのか、雑誌によってスタイルあると思うが、eLifeはどうなりそう?
- Pattersonさん:
著作権は当然、著者に帰属する。OA出版社はどこも著者に著作権が帰属しているだろう。それを出版社と特定条件下で使えるようにしている。それがCC-BY。
CC-BYなら興味のある人はどんな目的でも使えるようになる。そのような取り決めを、著作権者である著者と永続的に結んでいる、という考え。
OA出版社の場合は著作権者・著者とdistributionの契約を結んでいる、ということになる。
結局のところ、著者に残る権利は「引用される権利」。ソースが明示されること、ソースが誰か示される権利が残る。
研究者が唯一気にするのはそこ。科学者は自分の成果が幅広く普及し、興味を持つ人に利用されることを望んでいる。
その場合でも自分がクレジット、情報の出どころであることが明示されていれば良い、そこが重要になる。ライセンス中でもそこは明記されている。
そう考えていくと、先ほどのコメントについてつい、何故だろうと思ってしまう。
目的のチェックができないというが、なぜチェックがいる? 引用さえされていれば目的は商用でも学術でもいいのではないか?
- 土屋先生:
今までの雑誌出版社のモデルは著者から権利を譲り受けていたのが、変わってきているので。
日本の場合は学会出版の権利関係が、ちゃんとしろと言いつつ、OAを推進するには混乱しそうなところ。どうしたらいいんでしょう?
斎藤先生のところは今は、著者は学会に権利譲渡して、学会が出版している形?
- 斎藤先生:
そう。理由はない。習慣。私個人はサインも面倒だし利益にならないし著者帰属にすべきと思う。
- 土屋先生:
その場合でもライセンシングはいるだろう。
パネリストの皆さんに質問する時間はとれなかったが、Pattersonさんへの質問を優先させたい。
- Q. NISTEP・林さん:
どうしても聞きたい点が2点ある。その観点から。
データパブリッシングにも乗り出すとのことだが、そこにもコストはいる。データのコピーエディットをするとそこにコストができて、APCに跳ね返りかねないが、どうお考え?
もう1つは、お話を伺うとPattersonさんは研究者の情報受発信スタイルを変えようというミッションがあるように見えるが、データハンドリングサービスを新たに提供しようとすると、研究者の実験・研究手法の新たなシステムに踏み込まざるをえない。そうなると研究者のスタイルそのものを変えるプラットフォームにいずれは変えるおつもりなのか?
- Pattersonさん
データ出版の方向に動いている、わけではない。出版・掲載された論文と付随するデータの接続、コネクションをうまくしたいと考えている。
例えば、論文のソースデータが何かあったとしても、そのファイルはそう大きくはないと思う。そのコストは私達がホストする。
大きなデータセットについては各種のイニシアティブとコラボレーションすればいいのではないかと考えている。
2点目は面白いご質問。我々は研究手法に影響を与えるとのお考えだが、私たちは逆だと思う。出版は研究活動をやりやすくするために色々なことをやる。
出版の方法は変わるが研究の方法は変わらないと思う。研究結果の再現性がかけている等の問題の指摘があるので、これまで以上に良い方法で研究成果を提示することで、研究者がデータや方法論からその結論に至るロジックのお手伝いが必要と思う。なので、私たちは出版により、研究活動をよりやりやすいものに手助けしていきたい。
- Q. 佐藤翔(min2-fly):
一雑誌にとどまらない、業界を変えるものにしたいとのお話だったが、どうやって変えられると考えている? 規模感がわからない。一誌で変えられるのか。影響力を増すためのお考えを聞きたい。
- Pattersonさん
規模感と影響について。私たちは収録する研究成果の量では勝負したくない。私はできれば、研究成果を色々な目的で利用可能になる度合いを評価して欲しい。
研究とは今、地球上の生命や、日常の作業をより良く理解するためにしている。eLifeがその結果をさらに他の人が使えるお手伝い、触媒としての役割を果たせれば、すばらしいあり方と考えている。
- 土屋先生:
まだ続きそうな議論ではあるのですが時間なので。
最後にパネリストの皆さんと通訳の2人にも拍手を。
最後に自分でも質問していますが、eLifeの狙いは大変おもしろいと思うので、それが今後どう波及していくのか・・・というところが気になります。
同じように助成団体が出版に乗り出すことを狙っているのか、あるいはそこから商業出版が変わることを狙っているのか。
「一誌だけにとどまるものではない」といい、最後にそこから起こるであろう変革を「Fantastic」と結んだPattersonさんのビジョンのこれからに引き続き注目していきたいところです。
ちなみに、終了後。
Pattersonさんのところに行って「ところで今日のお話はOAですかね? ブログに上げたいんですが」と聞いたところ、「もちろんいいよ、ここで否と言えるわけないじゃないか(笑)」とのことでした。
・・・他の方のお許しはいただいていませんが、とりあえず今回のこの記事はCC-BY扱いということで!
ご自由に再利用等いただければと思います。
2012-08-24
一部誤字を修正(Creative change ⇒Create changeへ)。
ご指摘ありがとうございましたm(_ _)m
2012-08-25
Pattersonさんのお名前のスペルを修正。
お名前を間違えるなんてなんて失礼を・・・(大汗)
申し訳ありませんでした&ご指摘ありがとうございましたm(_ _)m
*1:Laakso M, Welling P, Bukvova H, Nyman L, Bjork B-C, et al. (2011) The Development of Open Access Journal Publishing from 1993 to 2009. PLoS ONE 6(6): e20961. doi:10.1371/journal.pone.0020961 http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0020961
*2:Bjork B-C, Welling P, Laakso M, Majlender P, Hedlund T, et al. (2010) Open Access to the Scientific Journal Literature: Situation 2009. PLoS ONE 5(6): e11273. doi:10.1371/journal.pone.0011273 http://www.plosone.org/article/info:doi/10.1371/journal.pone.0011273
*3:三根慎二. オープンアクセスジャーナルの現状. 大学図書館研究. 2007, vol.80, p.54-64. http://hdl.handle.net/2237/10118
*4:上記三根先生の論文等
*5:Top-Tier Open Access Journal Arrives with Fanfare, Few Details - The Scholarly Kitchen
*6:http://battelle.org/docs/default-document-library/economic_impact_of_the_human_genome_project.pdf?sfvrsn=2
*7:http://www.sciencemag.org/content/291/5512/2318.1.summary
*8:http://www.sciencemag.org/content/291/5512/2318.1.summary