かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

「Open Access Week:日本におけるオープンアクセス この10年これからの10年:セッション2 オープンアクセスと日本&セッション3 オープンアクセスは研究・学術活動にどのような未来をもたらすか」(第5回 SPARC Japanセミナー2012 参加記録2)

引き続いてOAW特別編SPARC Japanセミナー、午後の部の記録です。

オープンアクセスを推進するイベントが世界で毎年開催されます。無料で論文にアクセスできるようにする制度や基盤作りに加えて,研究や教育を推進することを目的とした論文情報の自在な活用を支援する活動に発展し,現在では情報流通や評価という側面も併せ持つ,より大きな活動に拡がりました。これら活動の趣旨を広め,賛同する科学者,図書館,出版社が共に研究環境支援について考えるのがオープンアクセス週間です。
今年は10月22日(月)から10月28日(日)となっており,NIIでは26日(金)にセミナーを開催いたします。今回は全日の講演日として,海外事例の紹介,国内のさまざまな立場の方々の活動報告,オープンアクセス運動が研究や教育にもたらす影響について情報を共有し,日本におけるオープンアクセスの全体像を俯瞰する会として企画いたしました。さらに今後のオープンアクセス運動についても,政策的な側面からの講演も織り交ぜ,皆様と一緒に将来を展望したいと考えています。


以下、例によってmin2-flyの聞き取れた/理解できた/書取れた範囲でのメモです。
午後はバイオ、物理というOAに関する動きが色々出ている2分野の先生方+図書館系の先生方によるお話の後、白熱のパネルディスカッションに突入。
まずは有田先生の、いきなりのパンチの聞いたバイオ系のお話から!!



第2セッション:オープンアクセスと日本

生命科学はどうしたらオープンになるか」(有田正規先生、東京大学大学院理学系研究科 生物化学専攻)

はじめの質問
  • Q. 今の職業じゃないとしたら?
    • A. 牧場経営
  • Q. つきたくないのは?
    • A. 接客業
  • 今回のチャンスは有難いが、僕の意見が生命科学全体と思わないで
  • 生命科学の特徴=「オープンじゃない」
    • 統計上、OA論文が多いが、オープンが好きなわけじゃない
    • 研究スタイルは徒弟制。「白い巨塔」のまま。
    • とにかく偉くなってお金取ってポスドクをとるのが研究の進め方
      • 自分はお金だけマネジメントしていかに多くの他人を働かせるか?
      • お金を取るには有名なジャーナル!・・・CNSに何本論文を書くか
    • そんな人達がOAを心から支持なんてするわけない
  • エラくなった後は?
    • 仲間を増やす。とにかく人に頭を下げて自分のラボを大きくする
    • 人が増えれば論文も増えるし網羅的に研究できる。CNSはなくても数を稼げる
    • 生命は数物に比べ分野としてはるかにクローズド。OAの対局
  • OAが盛んなのはインパクトファクターが高いから。それだけ。ビジビリティ
    • OA雑誌は通りやすくもある。PLoS ONEは年に1万も通すのにIFが4。権威あるJBCすら最近は落ち目で4.7、PLoS ONEに並ぶ
    • 微生物学の非常にいい雑誌も、1-2年の実験じゃ通らないような雑誌なのにIFはPLoS ONEより低い
    • コンピュータサイエンスのJACMだってPLoS ONEよりずっと低い
    • 分野内のクオリティとIFは全然関係ないが、今の研究者の評価では毎年、IFやh-indexを聞かれる。だからIF
  • OAはなんか格好良い。今時っぽい。だから選ぶ、というのもある
    • CNS落ちた⇒OAにしよう、というのもよくある
  • 今後のOAは?・・・時間とともに進む
    • 税金を使ったものは公開せよという圧力で公開に
    • 情報量はどんどん爆発。囲い込むよりもオープンにしてどこかに預けてしまったほうが安くなる
    • 人一人のゲノムを読むのが数万円とか、食品中の成分を測るのが3,000円とかいう時代がもうすぐ来る
      • そのときに信用/信頼される=ブランドが一番価値を持つようになる
  • ブランド重視の時代にはどうなる?
    • 現在・・・伝統サイエンス
      • データは囲い込んでしゃぶり尽くす
      • 研究者は特権階級、研究クラブのドレスコードをまとい、メンターの弟子でないと入れない
    • 今後・・・オープンサイエンス
      • データは腐る前に預けた方がよくなる
      • 研究者・・・職業研究者に。「論文書いてればいいんでしょ」となる。年1本書けば給料、そういう時代
        • OAJはこの時代の産物。従来は特権階級の同人誌だった雑誌が、研究日誌になったのがOAは雑誌
        • 研究クラブ/特権階級を残したままでOA雑誌にしようとするので騒いでいるだけ。いずれデータは囲い込まず、研究者はただの職業になる。そうなればOA雑誌は当然
  • 今後はゴールドのOA雑誌が中心で、図書館の役割はなくなるだろう
    • ゲートキーパーはいらない、出版者と著者が直につながる
    • 「いいね!」ボタンのようなratingがゲートキーパーの役割をはたすようになる
    • 雑誌もwebも全部一緒くた、フラットになる。そこにどう研究として価値のあるものを残すか、ブランディングするかが今後考えるべきこと
  • 生命科学をオープンにして、それから?
    • 意識改革がいる。今の研究者は「論文とWikipediaを一緒にするな」とかいうかも知れないが、そんな時代は20年もして今のシニアが消えれば終わる
      • その頃には職業研究者の集団に成り下がる。大衆化する
    • 大学・研究機関のブランドが重要・・・そことタイアップする雑誌が今後、どんどん出てくるだろう(min2flyコメント:それ紀要じゃね?)
      • 有名な国際会議とのタイアップも増える
      • 対抗するには「いいね!」ボタンのような評価の仕組みを取り入れる必要がある
      • えらい先生が若手のポストを握っている限りは上のようにはならない。皆の評価を確立するには、研究者ここにBIのようにデフォルトでお金を配り、それら研究者が評価する相手にお金を配ればいい
      • エフォートが今はまるで機能していないが、エフォートに合わせて自分の研究費をどのボスに何万円上げるか選べるようにすれば、民主的にお金配分を達成できる?
  • 参考になるのはスポーツ:
    • J1 / J2のように、サッカーのようにcompeteするようになれば良い世界
    • 文科省の英語名にはMEXT、Sportsが入っている。これは今考えると実に先見の明がある

「物理分野の研究者からみたジャーナルOAについて」(植田憲一先生、電気通信大学 レーザー新世代研究センター)

はじめの質問
  • Q. 物理学者じゃないとしたら?
    • A. 文学者。文章ヘタで諦めたけど
  • Q. なりたくない職業は?
    • A. セールスマン。無理だと思う。
  • 研究者としての私からみたOAの話をする
    • ただ、自分に与えた自分の役割は・・・大事なことは、今なにが変わっているかだけでなく、変わらない重要さ
    • リタイアして消えていくべき研究者の代表。
    • 物理学者はだいたいへそ曲がり。人の予測に反したい
  • 研究者は幾つもの役割がある・・・著者、研究者、編集者、学会の理事、etc・・・
    • その立場によってみんな違うことを言う。publicな立場とpersonalな利益
  • 著者としては:
    • OA・・・みんなに読まれるのはいい(権威があるところ)
    • 著者負担・・・研究費が減るなら困る
    • 論文発表に機関格差が出るなら大問題。大きな大学なら出せるのに地方大学だといい仕事をしても出せない、というのは絶対にあってはならない
    • 研究者にとって重要なのはライセンス緩和。データ再利用がどれだけできるか。自分の論文なんだから次にどう使うかはどうこう言われたくない
    • 本当にいい雑誌が残るのか? また、一極集中=独占が起こるならそれも反対
    • 自分が思う存分、好きな事を書ける雑誌が欲しい
  • 読者として:
    • ただは嬉しいが質の保証は欲しい
    • まったくのフリーだと質が落ちる。ただより高いものはない?
  • 査読者として:
    • 本来、OAと査読は無関係のはず
    • ただ、OAMJは毎日出版なので、査読の期日が厳しくなる。それは嫌かも
  • 編集者として:
    • 査読者以上に負担がかかる
    • 質と定常的な出版の軋轢がある。トップジャーナルならいいが、弱小ジャーナルだとリジェクトしすぎると次の号が出ないなんてことも。著者支払いの場合、リジェクト=収入カットになってしまう
      • しかし裾野のジャーナルもないと困る
  • 編集長として:
    • トップジャーナルは問題ない
    • 強くないところ・・・一流誌の圧力が強くなる
    • OA化には競争力を求めているフシもある
    • 従来、編集長は出版委員長と別で、質さえ保てば出版が成り立つか考えなくてよかった。それを考えないといけなくなる
    • OA化=論文の質低下のメカニズムがあるように思える
  • 学会員/理事として:
    • ただではやっていけない
    • 論文品質の向上とは無関係? 競争力がどうなるかが重要
    • 従来のOAは費用がはっきりしなかった。著者が支払うお金にだんだん定まってきたが、最終的な払いはどこかはクエスチョン
  • より大きな公益性:
    • 研究者には特権性が、という批判もあるが、研究者そのものがわがままでいい加減でも、その生産物はpublicにreturnされている
    • 学問分野の差を越えて学術活動全般をどうするかが大事。現在の制度、100年以上かけて作ってきたものをそんなポンポン変えてしまっていいものではない
    • OA化がどこにいくか、安定的かつ持続可能な絵が描けるかまで考える必要がある
  • Optics Express・・・Gold OAでこの分野で一番成功
    • それでも赤字解消にはそうとうかかった
    • 今は論文数も増えて黒字になっているが、分野の研究が急速に進んだわけではない。論文数≠クオリティ
  • OAの保存則:
    • Goldにしても結局、コストはかかるのだから払い方が変わるだけで金額は一緒では?
    • 物理学者に浮かぶ「すごい考え」はだいたい危ない。永久機関とかエネルギー保存則に挑戦とか
      • 入出力はバランスがとれていないとおかしい
  • 学術出版のステイクホルダーとは?
    • ステイクホルダー=掛金を払った人
    • OA化を自ら進めようとするのは正しいが、他人に強いるのは、持続可能な舞台を作って「さあここで」というところまでやらないと
      • 理念が正しいからやれ、ってものではない
  • 現状のOAは短期間としてはいいが、最終的にどこにいくのかよくわからない
    • 出版者にとってOA=差別化。みんながOAになると差がなくなる。最終ゴールはどこ? 100%がOAになるとメリットがなくなるのでは?
    • OA化が最後、どこに続くのか議論しないと難しい
    • 今のところOA化が質につながる保証はないし、研究者としては研究自体の質の方が重要

「SCOAP3と日本:高エネルギー物理学」(野崎光昭先生、高エネルギー加速器研究機構

はじめの質問
  • Q. 今の職業じゃなければ?
    • A. 映画監督
  • Q. つきたくないのは?
    • A. 医者と弁護士
  • 今日はSCOAP3の話をする・・・前に、高エネルギー物理学とは、という話から
    • 分野の宣伝でなく、その理解がないとSCOAP3の背景がわからない
  • 高エネルギー物理学とは?
    • 高エネルギー=高いエネルギー(大きな運動量)を、作るのではなく使う領域(相対性理論
      • 大きな運動量・・・波長の短い波に対応(量子力学
      • 短い波長を使う=小さなものを「見る」(光学)
        • プラチナバンドはつながりやすい、というのと同じ理屈
    • 小さいものを見るには高いエネルギーがいる
  • 目標・・・自然界の最も基本的な法則を知るなど、根源的な問題に答えること
  • 高エネルギー実験
    • 粒子を高いエネルギーまで加速するには・・・電気的な力で引っ張る
    • ・・・(高エネルギー物理学、特に加速器についての説明・・・大変おもしろいのですが分野外の話はなかなか的を射た形ではメモれないのですよ by min2fly)
    • LHC (Large Hadron Collider)・・・1周27km=山手線一周
      • スイスの地下100m地点にトンネルを掘って加速器を設置、加速した粒子をぶつけるところを測定器で観測
      • 測定器も6-7階だてのビルくらいの大きさがある
      • ATLAS実験・・・世界40カ国が参加
        • (実験グループの定例会議の写真がほとんど国際会議みたいになってる!)
  • 高エネルギー物理学の論文:
    • ATLAS実験グループの論文・・・ElsevierのPhysics Letter Bに掲載
    • 著者は「ATLAS Collaboration」
    • 29ページの論文だが、本文は17ページで終わり、「ATLAS Collaboration」の著者名リストと所属機関リストで残り12ページ
      • Collaboratorは3,000人くらいいる。実験論文は毎日のように生産されている
  • 日本における高エネルギー物理学(HEP)論文をめぐる状況
    • Progress of Theoretical Physics(PTP)
    • 実験論文はほとんど海外に投稿されている
      • 日本人のみでも海外との共同でも
      • 評価の高い実験論文誌は海外にしかない状況
      • 国内誌だと海外の共同研究者を説得しないといけない・・・国内誌は共著者の所属図書館になかったりするので
    • 過去にも国内誌への投稿促進の試みはあった
      • 定着はしなかった
      • 実験系から見ると、PTPは小林・益川理論も載ったり朝永先生の論文が載ったりはするものの、理論に偏っていて出しにくい
      • JPSJ・・・「Japan」がタイトルについている雑誌には出しにくい
    • arXivの存在・・・HEPの研究者が普段使うのはarXiv。あまり研究者はジャーナルに関心を持たない
  • 日本のHEP論文をめぐる最近の大きな変革
    • PTPとJPSJの統合・・・OAとは別の流れ
    • 日本発の素粒子原子核・宇宙実験分野の成果が出るように
      • ニュートリノ、Bファクトリーなど、世界が注目する実験成果が日本で出るように
      • 日本発のデータが全部海外のジャーナル・・・「まずいよね」というのは身内からも言われるように
    • CERNからKEKへのお誘い・・・「SCOAP3に入らない?」・・・2006-2007年頃に来た黒船
      • 世界トップレベルの雑誌が参加するもので、日本は無理かなあ・・・という雰囲気が当初はあった
      • SCOAP3云々よりもまずは日本発のジャーナルのクオリティ強化が重要?
        • そのためにOAにしておけば、海外の共著者も説得できる?
        • 独自にOA雑誌を持とう、という流れに
    • 結果・・・2012年にPTP+JPSJ=PTEP創刊。来年からは通常の投稿システムでの受付開始、さらに2014年からのSCOAP3にも参加
  • PTEP創刊
    • PTP + Experimentalで理論・実験どちらもカバーするよ、ということに
    • 独自にOA誌として創刊/原則APC(著者支払い)で運営
    • 論文が多いのは理論・・・単著もしくは2-3名がほとんど。何千人も著者がいる実験系とはスタイルが全く違う
      • その(理論の)投稿はなんらかの支援をしないといけない
      • 実験系は何百億円もお金使っている。12万円とかなんのその/理論系はせいぜい科研の基盤C。12万円を何本も、は無理
      • 当面は研究機関による支援を実施。KEK理研が積極的にサポート
    • 実現可能性を高めている要因:
      • コミュニティがよくまとまっている・・・1,000人に行かない規模
      • 大規模実験/協同もやりなれている・・・つくばでも数百人参加の実験をやっている
      • 分野の大黒柱になる研究所も存在する・・・その音頭でまとまる
  • SCOAP3の仕組み:
    • 各大学が出版者に支払っていたお金を、研究者・図書館からなるSCOAP3コンソーシアムに払う
    • SCOAP3コンソーシアムは入札によって出版者を選定・・・集まったお金で払える分だけ、出版者にAPCを一括して払う
    • SCOAP3の理念と実際
      • 理念:公的資金で行われた研究は万人に公開
      • 実際:自分の研究成果が載っている雑誌すら購読できていない=値段をなんとかする仕組みを作らないと・・・!
      • 研究者のコンソーシアムによる、価格高騰を抑えるためのメカニズム
        • 従来の購読料をそこに回す
    • HEPだからできた?
      • 主な雑誌数が限られている・・・SCOAP3が選んだ12誌に、世界7,500の査読論文のうち75%が掲載されている
      • CERN(欧州の国際機関。LHCでHiggs粒子を発見したりで世界中の研究者がいる)が音頭をとっている・・・世界全体をリードする研究所の旗振りが大きい
      • 国際的なプロジェクトをやり慣れている/必要なものは自作する文化もある
        • 各種の実験装置も、WWWも、arXivも、INSPIREも、HEPの研究者は必要なものは自力で作る
  • まとめと今後の課題
    • 色々な動きがHEP分野の雑誌で同時並行している
    • いかに進めるか? まあなんとか進んでいる
    • 研究者/日本のコミュニティの一員としては・・・いい論文をいかに日本の雑誌に出してもらうか?
    • SCOAP3として・・・今後どうやって持続可能なシステムにしていくのか?
      • 国内の集金についてはこれからNIIの安達先生も含めやるところ
      • 世界中の方も・・・「うまくいった」報告をいずれこの場でできればいい

「OAと図書館:IRは研究を支えるインフラとなり得るか?」(栗山正光先生、常磐大学 人間科学部現代社会学科)

はじめの質問
  • Q. 今の職業じゃなかったとすれば?
    • A. マンガ家になりたかった
  • Q. つきたくない職業は?
    • A. 血を見るのは医者も肉屋も全部ダメ
  • 現在は司書課程の教員だが、もとは大学図書館
    • その思い出話も含めてする。気楽にお聞きいただければ
  • 今日のテーマはこの10年、だが、30年前の話から始める
  • 1980年代・・・図書館業務をコンピュータで機械化する、プチ変革期。プチ「坂の上の雲
    • 通常業務機械化。カード目録⇒オンライン目録。抄録索引誌⇒文献情報データベース
    • そのピークがNACSIS-CAT/ILL
      • 業務効率の劇的改善に成功
  • 電子化の流れは止まらず
    • 目録⇒本文自体の電子化・提供へ
    • 電子図書館プロジェクト・・・いくつかの大学図書館に予算措置/紀要、貴重書(著作権の問題のないもの)を電子化
      • NACSIS-ELS(現NII-ELS)・・・学会誌の電子化
    • 電子ジャーナルの導入・・・商業出版者による
      • コンソーシアムによる価格交渉とビッグ・ディール
      • シリアルズ・クライシス自体は未解決のまま
    • NACSIS-CAT/ILLのような達成感はないまま、モヤモヤしたまま次のステージへ
  • 21世紀・・・大学図書館の新たな目標:OA擁護と機関リポジトリ
    • 入れ物を作ってもコンテンツがなかなか集まらないのが世界共通の悩み
    • 海外ではOA・セルフアーカイブ義務化の動きが出ている(研究助成機関 or 大学)
    • 国内では義務化は数機関のみ。PR活動による地道なコンテンツ拡充(「ひたひた」 or "hita-hita")
  • 支援と連携・・・NII
  • デジタルリポジトリ連合(DRF)
    • 栗山先生はアドバイザの1人
    • 日本の機関リポジトリ設置期間による自主的な連合組織
    • メーリングリスト等による情報交換/イベント開催/研修実施/PR誌の発行/国際会議へn参加/海外文献の翻訳・・・
  • 機関リポジトリが研究を支えるインフラとなり得るか?
    • これまでの事業・・・図書館内部で努力すれば成果が上がるものだった
    • OAと機関リポジトリ・・・研究者、出版業界、助成団体の動向に大きく依存する
      • 例:Green OAが義務化されれば機関リポジトリは存在感を増す/Gold OAが進展すれば存在意義を失う/巨大蛇(邪)鳴(めがじゃあなる=メガジャーナル)
      • 関係者との密接な連携が不可欠
    • 機関リポジトリ自体はインフラになり得る・・・Finch Reportより:
      • 「正規の出版を補完する役割を担うべき」?
      • デジタル保存や研究データ、灰色文献へのアクセス保障
      • 別に「図書館がやれ」とは書いてはいない
    • BOAI-10(BOAIから10年を受けての改定宣言)
      • インフラと持続可能性の部分で、すべての高等教育機関は自分でリポジトリを持つか、コンソーシアムに参加するか、アウトソースでリポジトリサービスを使うべき、とある
      • 国際的に重要な文書で機関リポジトリがインフラに位置づけられているのは確か/「図書館」とは書かれていない
  • なぜ図書館員はOAに肩入れするのか?
    • OAと雑誌価格の高騰はからみ合っているが基本的に別問題?・・・雑誌価格高騰が収まる or 十分な資金があればOAはいらない、とは言わないはず
    • 今までの図書館のビジネスモデル、サービスの形は雑誌を購読して提供する。足りない部分はILLで補完してきた。電子ジャーナル化しても基本は変わらない
      • OAになると根本的に崩壊してしまう
    • しかし・・・「すべての読者にその本を」「すべての本にその読者を」「読者の時間を節約せよ」(ランガナタン・図書館学の5原則から)
      • この当時は閉架⇒開架書庫にせよ、検索ツールを充実せよ、ということだったが、OAにすればこの3原則は満たされる。むしろ図書館がなくてOAの方が原則を満たせる
      • 理想を追い求める限り、図書館は必然的にOAに行き着く。そのときに図書館にできるのは研究を支えるインフラの部分を買って出ることではないか

「OAとIRをめぐる日本の政策」(宇陀則彦先生、筑波大学 図書館情報メディア系)

はじめの質問
  • Q.今の職業以外でつきたいのは?
    • A.ちょうど最近、学生とそういう話をしていた。なりたいのはサッカー日本代表の監督。ザックはなかなかだが、私なら優勝は間違いない。
  • Q. IRも?
    • A. それはちょっと簡便を・・・
  • Q.つきたくない職業は?
    • A. 数字に弱いので経理は嫌だ。私が経理につくとその会社は潰れると思う。今日のスライドの中の数字もほとんど覚えていないと思ってもらっていい
  • 今日はおおむね、学術調査官としての話。
  • 「審議のまとめ」の章立て
    • 何も知らずに見ると違和感があると思う。ぜひ、議事録もいっしょに読んで欲しい。特に42-46回。それも面倒なら42回と46回
    • 通常、議事録というのは面白くないのだが、今回のはジェットコースターのようで面白い。これも読めば「審議のまとめ」もよく分かる
    • 以下、本体の紹介
  • 公的助成を受けた研究成果はOAに、というのがまず出だしに
  • 日本の研究は世界トップクラス⇔国際的に有力な雑誌はあまりない、という(SPJではある意味いつもの)話
    • 国際的に通用するジャーナルをどう育成しよう?
  • この審議のまとめは複雑な文脈が絡み合っていて、それをどうほどいて1つのストーリーにするか苦労した
    • 1つは科研費研究成果公開促進費(学術定期刊行物)のあり方を見なおさないといけない、というミッションがあった
      • 当初は文科省はこれを早くやりたかった。H.25の公募要領に間に合わせたかった
    • しかしものがOAである以上、単に科研の成果公開促進費の文言を変えるだけでなく、背景を踏まえて整理した上で位置づけの理屈を付ける必要があった
    • もう1つ、SPARC Japanの人は知識の共通基盤があるが、作業部会は色々な分野の先生がいたのでこの場だと当たり前のことを網羅的に議論する必要もあった
      • 議論としては健全だった?
    • その中で・・・土屋先生、倉田先生、安達先生が意見を述べつつ、九大・有川先生がストーリーを作っていった
    • さらに成果公開促進費だけに言及をとどめると、日本もGoldになったかと思われかねない。Green=機関リポジトリもバランスよく書く必要があった(ある、と安達先生から提言があった)
  • 日本のジャーナルといえども、日本に閉じるのではなく、諸外国からの投稿もある以上、投稿したくなるような、日本以外の編集者も含めた雑誌に・・・みたいな話も
  • 最終的に・・・1章の最後では
    • 電子ジャーナル化/OAジャーナル化への取組を含め・・・
    • 機関リポジトリの活用も有益・・・とさらっと機関リポジトリにも触れている
    • 機関リポジトリは我が国における「知識インフラ」・・・
    • 上記のようなことをするにはJSPS、JST、NII、NDLの連携が・・・
  • 2章:当初のミッションを満たす部分
    • 論点:日本の学術情報発信力強化=学会だけの話にしてしまっていいのか?
    • 複数の学会の協力体制の申請も可能に
    • 成果公開促進費(学術定期刊行物)はどんどん減っていた・・・改善でこれがどうなるか、は、作業部会のレベルを越えてしまうのでどうなるか・・・
    • 電子化についてきちんと言及・・・紙媒体の費用以外にも柔軟に助成
    • 成果公開促進費評価体制の話・・・ジャーナル編集関係者が審査に参加すべき?
    • 応募区分は英語が基本に・・・分野と内容次第では例外も
    • 「オープンアクセス誌(スタートアップ支援)」の設置
実際の公募要領を見ながらどうなったかを確認
  • 3章:2章は科研費特化。その理由、OAの必要性をこちらに持ってきている
  • 4章:機関リポジトリってなんなのか、をまとめて整理した章
    • 知識インフラ構築の中核要素
    • 図書館を中心とした自発的な努力
    • 「しかしながら」よりいっそうの整備・拡充が求められる
      • 「自発的な努力でやってくれてるけど不十分」的な書き方・・・だけど怒らないでね(汗)
      • 文科省の文書に「図書館の努力」と明記された点が重要
  • 5章:SPARC Japanにも言及
第3セッション:【パネルディスカッション】オープンアクセスは研究・学術活動にどのような未来をもたらすか
  • 谷藤さん

今日はここまで質問時間を設けなかったので、まず議論ではなく、単純な質問があれば。

  • Q. NIMS・轟先生

SCOAP3について、野崎先生に。Gold OAは質のKeepが難しい、と植田先生がおっしゃっていたが、SCOAP3になるとその力学は変わってくる?

  • A. 野崎先生

今回参加する12誌で75%を占めている。漏れている雑誌でクオリティが高いのは、Phys. Rev. Lettersだけ。あれは高すぎるので落ちた。どうするかは現在交渉中。他は質の高いものは入っている。

  • A. 植田先生

SCOAP3では価格とクオリティを50/50で毎年、チェックするとのこと。Phys. Rev. Let. は価値はノン・リニアと主張している。

  • Q. 谷藤さん

通訳の方に。「裾野のジャーナル」って英語でなんて訳しました?

  • A. 通訳の方

「non-major」とか「low-appearlower tier」とか(2つめの方はちょっと自信がない*1)。

ディスカッション
  • 谷藤さん

ここからはディスカッション。
OAは科学者にどういう意味を持つか? 研究成果のre-useを国際規模で広げようという政策、相互に補いながら各種の取り組みが発展することはあり得るか? OAによるフラット化に有田先生も言及されていたり、購読誌のreplacementとは別の話、ということもあったかと思う。図書館員が研究そのものの基盤を支える話。宇陀先生のお話も政府もそう理解、という話だと思う。
「なにがあるからなには消える」ではなく、互いに補い合うとはどういうことなのか。
また、OAがある程度の割合になったとき、個々の著者が支払うというのは流通システムとしてどういうふうになるのか、とも考えた。
それから、OAによる障害なきアクセスが科学の進歩に寄与するとはどういうことか、なんてことも考えた。

お昼休みには方向性について軽く話すと、議論がわかれた。まず、野崎先生からお話を聞きたい。

  • 野崎先生

OAは研究者から見ると、研究をいかに進めるか、それにどう役に立つ・・・そう思っているから参加している。OAにすることで高くて買えなかった人も読めるようになるし、零細企業の研究者を支援する仕組みを作ればいい論文がより集まるかもしれない。
あくまでも研究を発展させたい。どう発展させたいかは、高エネがどういうものなのかもお話したが、その状況は分野によって違うだろう。分野ごとの状況を理解した上で、研究者と図書館が議論しながら分野にあった仕組みを作るのがいいのではないか。場合によってはOAは選ばれないかもしれない。
先ほど、研究者は機関リポジトリに登録しないという話があったが、それは研究者が使わないから。役に立つものを作らないと無駄な努力をすることになる。HEPではSCOAP3を作って、お金持ちが貧しい人を支える形にした。しかしこれはHEPだからできるのだろう。それぞれの分野がそれぞれの仕組みを作ったらいいのではないか?

  • 有田先生

生命科学では、Open ScienceとかOpen Dataとも言われるが、論文だけが成果ではない。ゲノム解析やシステムを作る人にとっては、論文を書くというのはものができたあとに伝統にしたがって無理やりやらなければいけない、面倒なこと。本当はOAになった時点で論文の形式はやめて、バックグラウンドデータそのものをreferできるような媒体にすべきではないか。なぜ昔ながらの紙媒体を一生懸命真似るのか。

  • 植田先生

ビジビリティの観点から言えば、研究者個人は雑誌のビジビリティはどうでもいい。だからプレプリントがあった。研究者が見せたい相手は自分の競争者であって、他の人は研究上、あまり関係ない。そういうことは出版者や若手には重要かも知れないが、自立した研究者ならやろうと思えば自力でできる。

  • 谷藤さん

物材機構からフロアに轟先生もいらしているので、ぜひご意見を。ご自分の領域におけるOAについて。

  • 轟先生

材料学の中でも風変わりなことをしているのだけれど・・・OAの話が生命やバイオで先行している理由を有田先生のお話でいただいたが、材料科学はそこまでではないもののIFはやはり重視される。私自身はOAが大好きだが、それはボスではないから。私の下には誰もいないし、IFを稼ぐモチベーションよりも自分の成果が素人にも受けがいいので、オープンにすることで見てもらった方がいい、という格好。そういう考え方の人はたくさんいるわけではない。研究者は評価・評価・評価。話がまとまらないが・・・その中でも理念的にはOAでいたい。本物の仕事をすれば勝手に広がるはず、というのが・・・材料の人は使われてなんぼで特許・事業化しないと意味が無い。障壁なきオープンで合ったほうがいい、というのはそういう考えによる。

化学ではけっこう皆にOAってなんですか、と聞かれるが、あまり皆、自分たちが関係しているという意識がない。JACSだとかAngewanteに出したいが、今までは無料で出していたのにお金を払わないといけないなんてなんでだ、という段階。今日、ここに来たのは、他の分野や日本での議論の状況を知りたかったから。

  • Haynesさん

ジャーナルはどういう人のためにあるか。1つは著者のため。1つは読者のため。著者のため=インパクトやステータスにつながること。購読モデルでもOAモデルでも、著者に対する役割は担ってきた。一方、読者は? ジャーナルにしろ論文にしろ、ダウンロードしてPDFで、というのは最も効率的かつ効果的、というわけではないし、使い勝手がいい形でもない。
科学者・研究者が求めているのは、テクニックやアルゴリズムや化学式の一部や数式の一部。研究者が必要なものを容易に入手できるサービス・ツールの開発が出版者の役割であり、それが生産性の向上にもつながる。
OAによってデータ・マイニングや論文のエンリッチメント、セマンティックなタグをつける、といったことが出版者にとってやりやすくなる、そういうきっかけにはつながると思う。

  • 谷藤さん

Haynesさんのプレゼンの後半でリンキング等の話があったが、あれはOAも購読も含めたentireな考え?

  • Haynesさん

ええ、ビジネスモデルとは独立で、OAでも購読でも使える考え方と思う。

  • 谷藤さん

OAが必要/必要でない分野のイメージを会場の人たちは掴んだのではと思うが、それと切り離して。研究成果を皆に読んでもらいたいという、その最初の動機と、成果と受けた人と助成金と・・・が番号によってつながって、個々の研究者の研究成果の履歴が見やすくなる、言い換えれば定量化される、それが全く予想しない文脈でも使われるかも知れない。そういう時代が近いうちにくる。そういう受け止め方はあっている?

  • Haynesさん

確かにビジビリティだけではない。文献へのアクセスが良くなったかと研究者に聞くと、アクセスはもう十分だという。もうビジビリティの問題ではなくなっている。研究の成果、生産性をfunderや政府が判断しやすい、そのツールが構築できれば科学の生産性や効率等も見えてくるだろう。

  • 谷藤さん

そういう世界は歓迎すべきもの? 有田先生は?

  • 有田先生

もちろん歓迎する。本や論文の形を今後もずっと続けていこうと思うのではなく、研究成果を分解して、再構築して、別の視点から見るとか、研究成果をデータとみなしてデータ・マイニングするアプローチを見ていきたい。そういうことをやっている研究者を取り込んで、図書館は本ではなくデータベースを扱う施設になれば・・・

  • 野崎先生

成果が論文だけに限らない、というのは我々の分野でも深刻な問題。例えば加速器は、あれを作ったことがそもそも凄い。ジャーナルの評価と別の指標がいる。ただ、ああいう誰が見ても素晴らしいものはいいんだけれど、それ以外のものについて危惧しているのは、そのデータが本当に正しいのか誰が評価するのか。あるデータが東大のリポジトリに載ったら、それが間違いのないものか、リポジトリは保障するのか? 今のシステムはそれは保障するものではないはず。論文以外のデータを残すことは我々の実験グループでも将来の人が解析できるように保存する動きはあるが、そのデータの質を誰が保障するのか。ジャーナルは査読で質を保証する仕組みを含む。

  • 植田先生

著者IDの問題について。ORCIDについて最近、ある会議で話題になった。ORCIDは中国・韓国を中心に、同姓同名の方を同定できず不利になっていることをなんとかしようというのが最初の動機。実際にいま、ORCIDも動き出したが、それをどう扱うかはこれから、やりながらの議論になる。財政当局が使えるものになるかもしれないが、現状はまだそれをすべきかも定まっていない。民間出版者でそういう使い方はするかもしれないが・・・データを入れるときにどういうことが許容されるかも含めて議論して決まるのだと思う。

  • 安達先生

僕は基本的にはオープンでないよりもオープンである方がより良いだろうという漠然たる気持ちで仕事をしている。OAはビジビリティを上げるとか、税金を使った効果が出ていることを示すという観点もあり、それは評価にもつながる・・・fundingの視点での説明が多いが、OAの系譜を考えると、これは基本的に出版者が膨大な利益をあげていたしわ寄せが大学図書館に来ていたことからはじまる。方策はいろいろあったがOAに収斂して、その後、税金を使ったものは公開すべきとか言う話になっていった。
リポジトリについても野崎先生からはネガティブな、厳しい意見もあったが、多くの出版者のセルフアーカイブの許可は、自分のwebか機関リポジトリでの公開、という風になっている。制約がある。そのルールを変えようという話と、ルールの中で最善を尽くすことをごっちゃにしていることがある。ルールを変えるならトップダウンにやればいいが、それはPubMed Central、NIHのPublic Accessと同じような議論が起こる。
もう1つ、OAで不思議なのは誰も本の話をしない。著作物をOAにしろ、というのは誰も言わない。教科書では進んでいることもあるが。もし本当に理念的なことをいえば、大学の教員の小説は無料で公開しろ、というような言いがかりもつけうる。
また、データまで共有するとみんなハッピー、とは皆さんいうが、これは非常に難しいと思う。野崎先生もおっしゃっていたが、データの中身がきちんとわからなければ再利用はできない。ちょっといい加減、と思うと結局使えなくて、全部自分でとることになる。なんとなくデータを保存することにあえてネガティブなことを言えば、SLの動態保存みたいなもので、ずっとSLを残すのは面白いかも知れないが、それが科学やエンジニアリングの世界でいいことなのか。論文、著作物に行きがちなのは、ある程度抽象化された知識、知の交換がもっとも効率的だから。生のデータが集まったから知を再生産、というのは本当の専門家同士だけの話で、外のコミュニティに出すのであれば言語化したものがいる。インフラとしてのデータとか専門の論文の世界を抽象化したところに知識の構造がある。そこにどうコストを払うのか。アメリカの大学図書館はデータキュレーションの取り組みもしているが、研究成果データを文献と結びつけて構造化するプロセスは従来以上に多大な努力を要する。必要なコミュニティはもうやっている。化学者は化合物を網羅するためにDBがいる。研究者はそういうところには網羅性・オープン性を要求する。OAが新たな知の基盤になる期待感はあるが、道のりは遠いし、100%OAになるのはそう近い将来ではないだろう。研究者は競争的に仕事をしているのでオープンへのジレンマもある。人の仕事は知りたいが、人より先に成果を出したい。ただ、OAはいいこと。

  • 谷藤さん

データリポジトリはNIMSでもやっているが、研究者と一緒にやるべきもので、かつやっていることによってデータ構造も違う。しかもそれをやっても何かすぐにいいことがあるのか。

  • 有田先生

安達先生の話に基本は賛成だが、生命科学の場合はデータを全てとっておくことが重要。例えばmicro-array(?)の研究でも、初期のものは半分以上が間違っていたという話がある。論文だけだとその間違いに基いてやることになる。生データがあればその間違いに気づける。

  • 安達先生

ライフサイエンス統合データベースはNIIと同じく情報・システム研究機構の中でやっているので、その難しさは知っている。それでも統合時に確執があってうまくいかない。もちろん、先生が言われるようなものをデータとして確保することは重要だが、主に強調したいのは、それに対する投資は生半可なものではない、ということ。

  • 谷藤さん

Haynesさんに。学会出版として、論文からデータを抽出してデータベース化した、新たなサービスの展開や付加価値が出てきているが、あの方向性はこれからも進む? 図書館側から見ればそんなことより購読料を上げないで、と思うのだが

  • Haynesさん

おしゃるとおりで、単純に論文を出版するならそれが冊子でもオンラインでもテキスト/グラフィック/参考文献リンクで済むのに、データを扱うとなると形態もファイルも様々。何十年も前からsuppl. dataは持っているが、どうしたものか、ということはある。どうすれば有用/アクセスしやすくできるのか。コストがかからずにできるものでもない。それを可能にするビジネスモデルはどんなものか。今でも明確ではない。
ただ、これに対処する賢い方法はあると思う。例えばRoyal Society of ChemistryではChemSpiderというサービスをやっている。クラウドで、何千という化学者が参加してデータ提供している。

  • 安達先生

おっしゃっているのは「crowdsourcing」の方の「クラウド」?

  • Haynesさん

そう、Wikipediaの方。
(min2flyコメント:これは補足しないと、カタカナにしちゃうとCloud computingの方のクラウドとわからないので安達先生が確認してくださったのかと。大変ありがたい・・・rとlは発音聞き取りにくいっす・・・文脈でわかるけど)

  • 野崎先生

CERNLHCで出てくるようなデータは、そうそう追試ができるものではない。今の解析能力では出てこないものがあるかも知れない、なのでデータを残すという動きはある。一方で、データは年間で何十ペタバイトになり、世界中のデータセンターをグリッドにしておいておこう、というものでもある。その維持には非常にコストもかかる。いい知恵があればご教授いただきたいくらい。

  • 谷藤さん

大園さんのプレゼンで研究データ保存支援の話もあったが・・・

  • 大園さん

欧州研究図書館協会の試み。支援というか、そういうこともしないといけない、という提言。これから歩き出そうというもの。

  • 有田先生

クラウドソーシングの話も出たが。生命科学ではタンパク質の立体構造をクラウド化して解かせる、という話もある。同じようにすべてのサイエンスが誰でも参加できる土台ができつつある。LHCのデータも在野の人がゲーム感覚で分析できるプラットフォームを作ればいけるのでは?

  • 野崎先生

我々のデータは何かキーワードを入れれば出てくるというものではなく、高度に物理の知識があってはじめて出てくるものなので・・・確かにCETIのような、市民参加のプロジェクトもあるしああやってできればいいが、今のところは・・・

  • 有田先生

僕はもう、みんなが面白いと思うものが残る世界になると思う。国や大学の壁なんかなくなる。自分の大学やポジションは、もちろん僕も気になるが、それを抜きにして皆が役に立つ/面白いから、とならないとダメではないか。

  • 植田先生

天文学は市民参加もあるが、ああいう分野はローデータとパブリッシュされる成果の間に長い道がある。そこを説明できる一般の方はなかなかいない。

  • 安達先生

Dataについて、アメリカのNSFが打ち出した、コンピュータサイエンスで言われているのは、機械学習Cloud computing、Crowdsourcing、ということになって、道を探している。具体的なものを提示できればと思うが、crowdsourcingは解決策として提示されている。

  • 谷藤さん

審議会ではデータ保存は話題になった?

  • 宇陀先生

ちらっとは出たがこれから、という感じ。ビッグデータの話は出た。

  • 安達先生

パネリストに物理の先生もいるので質問を。野崎先生がSCOAP3でHEPの97%はarXivにある、ということだった。定評のある雑誌がなくてもコミュニティ内では情報共有できている。それなのに10M Euroをかけて、12の雑誌をOAにするという。それは、arXivにある論文の、査読というプロセスに払うと考えられるが、その理解はそれでいい?

  • 谷藤さん

最後の10分はSCOAP3と思っていたので、ぴったし。

  • 野崎先生

その理解でいい。日々の研究のために情報を得るにはarXivでいい。その上でなおOA雑誌を、というのは、査読を通ったもの・・・というか査読の仕組みを維持したいから。

  • 植田先生

HEPはかなり特殊。arXivに入っているだけじゃなくて、論文へのアクセス自体がarXivとINSPIREに完全に閉じた世界を作っている。最終的に雑誌のどこに価値があるのかはずっと議論しているが、最後は査読、そこで保証することがarXivのほかに雑誌がいる理由。

  • Haynesさん

確かに物理は特殊。ただ、物理学者の間でもarXivの使い方は領域によって違う、というのは午前にも言った通り。HEPの研究者は朝のコーヒーの前にまずarXivをチェックするんだろう。HEPの雑誌は、投稿することに重要性がある。著者のためのもの。読み手ではなく信頼されるブランドに載ることに価値がある。

  • 野崎さん

arXivに載るとジャーナルに載る前からもう引用もされ始める。出版前から引用が始まる。

  • 谷藤さん

栗山先生、どうしましょう? というのは、audienceの半分くらいは図書館の方で、リポジトリの必要性は意見もあったが、ここから一段上がる、5−10年と考えると、データ保存はハードルが高い。大変そう、というのがじっくりわかった。それだけが解決ではない。研究・教育そのものを助けるものとしての機関リポジトリにとって今後10年とは?

  • 栗山さん

現在の機関リポジトリの理論的根拠で一番わかりやすいのは、Harnadがいう、査読済みの論文をアーカイブする、許可された原稿を載せる、という形。それさえもできていない。せいぜい20%。ひとまず査読済み論文で許諾のあるものは全部載せてしまえば、分野によって違うという話もあったが、原理的には全分野でOAが実現できる。単純かも知れないがそれが一番わかりやすい。そこから先は、できれば、データの保存とか付加価値をつけるところに進めればいいが、まずは査読済み論文のアーカイブを着実にやることではないか。

  • 谷藤さん

OA Weekにちなんで研究者にインタビューしている図書館も多い。研究者と連携しながら、ということは皆わかっていて、データ保存までは道のりは長いものの、そもそも「保存する」ことを続ければ・・・ただ、CC-BYにすることはリポジトリのハードルを下げるのでしょうか?

  • 高橋さん・Elsevier
    • ElsevierはCC-BYについて聞くには・・・取り組み遅かったので・・・
  • 谷藤さん

NIMSの英文誌はCC-BYにするよう求められているのだが、私自身は商用も含めての許諾を躊躇している。研究・教育目的での自由な利用はいいのだが、範囲が広がることは躊躇する。研究をする人にとっての将来に本当にプラスになるの?

  • 高橋さん
    • CELL Reportは著者が選択できるようになっている。
  • 安達先生
    • 機関リポジトリについてはFinch ReportやHarnadとの議論も続いているが、ぜひ皆さんからご意見あれば伺いたいのだが、機関リポジトリ自体は広い概念で、博士論文公開にも使えるような一般的なもの。存在価値はある。ただ、セルフ・アーカイブに関する限り、研究に専念している研究者ほど「論文を発表もうしているのになぜそこにまで」ということで評判が悪い。「面倒くさいことはしたくない」という。イギリス等は制度化の方向で、OA雑誌 or 機関リポジトリにしようとしている。日本でいえば科研費の成果は全部機関リポジトリ、というようなもの。ただ、同時にOA雑誌に出せ、となると、助成機関が投稿して良い/悪い雑誌を決める、ということでもある。今まで研究者は自分で投稿先を選べたのが、「OA誌の方が楽だから」とか「APC払わなくていいから」という雑誌選びになる。それは学問の発展の阻害要因にならないか? 次の日本のステップはこの制度化をどうするか。科研費の成果はOA化、となるとそれが科学の阻害要因にならないか。
  • 谷藤さん

最後に1人、1言ずつ。

  • 安達先生

当面はSCOAP3をがんばる。

  • 宇陀先生

図書館にとっての利用者は2種類。目の前の人と、可能性、いつか誰かのため。本も雑誌もそうだった。「役に立つの」というのとすぐ聞かれるが、短絡的な役に立つ/立たないではなくインフラとして図書館は働くべきでは。

  • 栗山先生

図書館員は図書館員であることにこだわらない方がいい。

  • 野崎先生

今後10年、HEPは日本から情報発信の仕組みを定着させたい。いい研究はしているわけだから、これまで欧米に頼っていたところを変えたい。CNS症候群、そういうことをやっているような分野はまだまだ幼い。物理は自分たちで世界に誇れるジャーナルを育てる。

  • 植田先生

インパクトファクターよりも被引用数よりも自己評価が一番大事。世の中みんなにダメって言われたっていいと思えることをやる。そういう、自分で判断する訓練が要る。その点では査読を・・・査読の部分をどう強くするかが日本にとっては重要。日本も諸外国の学会もお金がかかっていないから、と思っているが、競争の激しいジャーナルではプロフェッショナルも入っている。研究クオリティを維持・発展させる査読を追求し続けなければ。

  • 有田先生

知識は論文の形だけではない、ということを強調したい。知識を蓄えるアーカイバーとして。

  • Haynesさん

現在、出版という意味では大きな変化がいろいろ起こっている。その中には破壊的な、イノベーションにつながるものもある。大きな変化があるのは間違いないのだが、結局は全部プラスの方向に働くのでは、と思う。研究者にも図書館関係者にも。私は学術情報流通の将来については楽観的に見ている。情報の提供者とテクノロジーの間で新しいパートナーシップが生まれ、情報がより豊かな形で提供され、科学・研究の進展に役立てられるのではないか。




事前に筑波大の某先生から、「宇陀先生がおとなしくしていたら煽ってきて」との指示を受けていたのですが、会場から煽る間もない、マイクの奪い合いのごときこのパネルディスカッション・・・!*2


個人的な感想としては、有田先生/植田先生・野崎先生/安達先生のそれぞれの方向性、そして皆さんご自身がおっしゃるように分野ごとにまるで違う、というか実質は人によって言うことが違う、ということを勘案すると、まだまだお話を伺うべき方がいるかな、と思ったり(これだけいっぱい色々聞いたのに!)


CiNiiのアクセスログ中の機関リポジトリ利用を分析したりしているのですが*3、機関リポジトリをよく使われているのは人社系の方・・・という傾向もあったりして、そういう点では今回のパネリストの皆さんはリポジトリ担当の方にはあえて厳しいことをおっしゃるかもしれない層であったのかも、とか。
紀要を研究に使う人なら昨今じゃリポジトリにアクセスしない週の方が少ないかもしれないような感じですし。


そう、紀要と言えば有田先生の「これからは機関とジャーナルのパートナーシップが出てくるかも・・・」というお話には「それなんて紀要?!」と思わずメモに書き込んだりしてました。
一周回って紀要に帰ってくる・・・のだとすると、紀要的な仕組みが現存していた日本はいっきに世界をリードする存在に・・・!?(なるかなあ・・・や、今でも日本の機関リポジトリは世界で一番成功していると個人的には思っていますが)


オープンアクセスウィークも残すところあと1日ですが、オープンアクセスをめぐる動向自体は来週以降もめまぐるしく変化するはずですので。
引き続きの注目と、華々しい1週間が終わってからの地道な取り組みこそがOAの実現につながっていくのでしょう・・・とかそれっぽいことを言って無理やりしめます(汗)

*1:2012-10-28、参加していた方からコメントをいただき修正。ありがとうございますm(_ _)m

*2:ちなみにその某先生に宇陀先生が「文科省の文書に「図書館の努力」と明記された点が重要)」とおっしゃっていたむねを伝えたところ、「染まってきたね!」とおっしゃっていました。ブログに書いてOKとの承諾はいただいたのでこっそり書き足して置いたり

*3:参照:つくばリポジトリ ただしこの週末は筑波大は停電中なのでリポジトリにもアクセス出来ないのですが(汗)