「アジアを吹き抜けるオープンアクセスの風−過去、現在、未来」(第5回SPARC Japanセミナー2013参加記録 #sparcjp201305)
自分のブログを見て、最後の更新が昨年9月であったことに気付いた時の驚愕。
いよいよ更新が滞っていましたが・・・約半年ぶりの更新はまたもSPARC Japanセミナーですよ!
なんかほとんどSPARC Japanセミナー記録公開ブログのごとくになっていますね!!
アジア地域のオープンアクセスの進捗状況に関して, オープンアクセスジャーナル(出版),機関リポジトリ (セルフアーカイブ) の2つの道に焦点を置いて情報を共有し,併せて,今後の連携の可能性を探ることを目的とします。また各国の研究者の意識,図書館等のコミュニティによるオープンアクセス (支援)活動,オープンアクセス出版の現状,行政の政策等を取り上げ,検討してみます。図書館員,研究者,学協会の皆様の参加をお待ちしております。
アジアのOA事情、というとヨーロッパ以上にわからないところが多く、また文書で読むのとお話を伺うのでは全然イメージが違ったりすることもあるので。
今回はぜひ参加したい、と思い、大雪になるかも知れないという予報の中を新幹線でかけつけました。
・・・帰りの新幹線が止まると洒落にならない事態になるので、なんとか天候もってほしい・・・
以下、例によって当日の記録です。
例のごとくmin2-flyの聞き取れた/理解できた/書き取れた範囲のものであり、ご利用の際はその点、ご理解・ご容赦いただければ幸いです。
誤字脱字、事実誤認等、お気づきの点があればコメント欄等へお知らせ下さい。
- 総合司会:北村由美先生(京都大学附属図書館研究開発室)
開会/概要説明(杉田茂樹さん、千葉大学附属図書館/DRF)
- OAという言葉を意識して聞いたのはちょうど10年前、図書館総合展でStevan Harnad氏が来日したとき
- 今も活躍している彼
- 聴衆は図書館/出版関係者
- その場でのHarnadの発言・・・出版者としても研究者が自身の論文を自らweb公開するのは許しているところが多い
- こういうことをもっと進めていくべき
- 研究者に、自分の論文をwebに公開するいくつかの「キーストローク」をさせるだけでいいように、「場」を用意しよう
- そこから・・・国内でも機関リポジトリがぽつぽつ増えてくる
- キーストロークだけではない気付き:研究者は「電子ジャーナルってお金かかってるの??」程度の認識
- OAの主旨をわかっていただくためには、現状についてもっともっと先生方と認識を共有する必要がある
- キーストロークだけではない気付き:研究者は「電子ジャーナルってお金かかってるの??」程度の認識
- そこで・・・この10年は先生方の理解を高める/どんな背景があって、ということをよりわかってもらえるよう活動
- いろんなチャンネルを作って大学図書館・研究者の対話を増やす/self-archiveを促進する
- そして現状・・・日本では400大学が機関リポジトリを持ち、126万の文献を公開している
- 126万と言っても過去のものも多い/先生方の論文の全てが機関リポジトリに収載されているわけでもない
- 今日のセミナーでも・・・アジア各国、他国の状況を聞けるということで、私達も学べるところを学んで自分たちに役立てたい
- 仕事柄Green OAの話ばかりになってしまったが、ぜひGold OAについても多くの情報を受け取って帰りたい
OA Activities in Korea(Choi Honamさん、Korea Institute of Science and Technology Information)
Gold Road in Korea
- 韓国におけるOA雑誌の読者は医療・医学業界
- 質の高い、XMLベースの雑誌にコストがかかることは、医学関係者は承知しているし、NIHやPMCの要件であることも承知している
- 韓国の医学雑誌編集者の協会が立ち上げられている:KAMS(Korean Academy of Medical Science)
- KoreaMedの立ち上げ:http://www.koreamed.org
- 210ジャーナルが対象・・・ほとんどはFree あるいはOA
- 引用文献リンク等のサービスとしてSynopse というものも作られている
- 対象誌は全てOA/CCライセンス付与
- KISTI(Korea Institute of Science and Technology Information)の活動について
- 科学技術学協会のためのS&T Society Villageというものを、JSTAGEを参考に作った
- OAについて・・・OAKプロジェクトを実施
- 25のOA雑誌の立ち上げ:KOFSTというところと協働でやっている
- K-Pubsの立ち上げ・・・統合プラットフォーム/出版の全サイクルの迅速化・科学技術ジャーナルの国際発信を目的とする
- そこで提供されるデータは全て一般の方にもオープンになっている
- 人文社会系コミュニティについて
- 韓国には2つの助成団体・・・NRFとKOFST。NRFが人社系、KOFSTがSTMを担当
- NRFはOAに対する理解・興味を高めている・・・2012年からOA雑誌刊行を企図、新しい評価基準を使い始めている
- KOFSTも公的資金研究はOA化する方向
- 人社系におけるOAへの理解・関心度合いは他の分野に比べると低いことが問題点
- 政府助成研究に基づく学術論文の問題
- 政府の資金による研究に基づく論文に購読料を払うことに否定的意見を持つ人が韓国には多い
- SCI搭載ジャーナル掲載論文の63%は韓国政府資金の助成による・・・政府の資金による研究成果を読むのになんで海外出版者に金を払わないといけないのか?
- min2-flyコメント:このあたりの事情は日本の状況と一緒だね
- と、いうことで・・・公的資金による研究成果は自由にアクセスできるように、という立法の動きが高まるも・・・
- 直接関係する省が否定的態度をとり、立法に至らず
- 韓国のKNIHの資金援助を受けた論文については、mandateが成立!(min2-flyコメント:それ知らんかった。あとで調べたい)
Green Road in Korea
- 韓国における機関リポジトリの状況:
- 機関リポジトリのほとんどはNational Information Center、国レベルの助成機関の援助を受けている
- 以下のような3つの独自に設置されているリポジトリも:
- KAIST KOASAS:http://koasas.kaist.ac.kr/
- SNU S-Space:http://s-space.snu.ac.kr/
- Inha Dspace:http://dspace.inha.ac.kr/
- KISTIが支援する機関リポジトリ:23(2010-2013の4年間で立ち上げ)
- 韓国における機関リポジトリのモデル:
- Dspaceが基盤
- 韓国全体の共通モジュール、グローバルベースのモジュール、各大学のモジュールなどを付与
- 韓国独自モジュール・・・クエリの自動補完、統計機能etc
- KERISがサポートしているdCollectionについて:
- 大学の機関リポジトリ
- self-archiving、学術論文の共有のために使われる
- 225のシステムが設置され、steering committeeが運営
- 問題点:ほとんどはOAI-PMHに準拠していない
- 図書館システムにくっついて提供されているdCollectionが、OAI-PMH未準拠
- KERIS' KOCW(Korea Open CourseWare)
- 学ぶ機会の拡充/開かれた講義による講義の質向上
- ターゲットは一般ユーザ/2007年開始
Open Access Korea (OAK) Project
-
- 文化・スポーツ・観光省が5年前に開始。240人月、43億ウォンが投じられる。今月が最終月
- 韓国でOAの動きを促進し、先進的な情報環境を作ること等が目的
- OAK Central:http://central.oak.go.kr/
- PMC的なもの。OA雑誌論文全文を公開
- PDFからXMLにコンバージョンする機能も開発
- 全論文にDOI付与。CCライセンスで公開
- OAK Forum
- 学者、弁護士、ベンダ、助成機関、図書館員、出版者、著作権関係団体、学協会などが参加
- OA方針について等、さまざまなトピックを議論
OA Collaborations (Global)
- SCOAP3 with CERN
- 2010年にコンソーシアム参加、2014.1にMOUを締結
- 当初は紙ベース雑誌の購読者をターゲットにしたものの参加率が低かったので、対象を拡大・・・トータルの韓国配分参加費の60%をカバー、残りはKISTIkら
- 参加費の聴衆モデル・・・今年から新しいモデルに移行
- 紙の購読料+論文投稿件数データをCERNから貰って実現
- WPRIM with WPRO
- WHOの西太平洋地域オフィスと共同で立ち上げたオンラインインデクス
- 韓国の医学雑誌の80%以上が参加
OA Collaborations (Domestic)
- Ministry of Culture, Sports, Tourism(文化スポーツ観光省)との協力:
- 新たなライセンスの構築・・・CCをベンチマークとして開発
- 安全・医療関係の省庁との共同・・・
- Open Government Dataリポジトリを作る
- ここで先の新ライセンスが使われている
- 科学・情報通信規格に関する省庁(MSIP)との協力・・・
- MSIPが800のDBを調査/535が実際に使われていることを確かめる
- KISTIはそのファシリテータの役割を担う
- PSIサービスと利用促進に関する法律が2013.7に成立、2013.10から施行されたことで可能に
- National Research Funders(助成機関)
- OAポリシー実現に向け活動
- Web DBベンダー等、民間セクターが強く反対
Conclusion:まとめ
- Gold Roadの現状と課題
- 韓国の4,690の学術誌中、1,100タイトルはOAもしくはフリーアクセス
- 国全体としてのOAへの理解度はまだ低い
- 図書館のほとんどはOA雑誌について十分理解しているものの、具体的な行動は金銭的なサポートや大学トップの理解の低さによって至っていない
- 構造的にOA促進が困難
- ステークホルダーの間で立場がかなり違う/対立が激しい
- 民間企業で学術雑誌のサービスをビジネスとしてやっているところはOAに強く反対
- 公的セクターや図書館はOAを強力にサポート
- 学協会の態度は割れている
- Green Roadの現状と課題
OA & IR in The University of Hong Kong & Greater China(David Palmerさん、The University of Hong Kong Libraries)
- 中国は非常に大きい・・・人口が非常に多い
- はじめに・・・香港大学の話から
- Knowledge Exchange以前に・・・Knowledge Transfer構想
- 産学官の連携、その中における大学
- 大学のミッションの一つとして・・・教育+研究+"Knowledge Transfer" or "Knowledge Exchange"
- 世界中の大学・機関でこのような構想は進んでいる
- Canadian Institute of Health Research(CHIR)・・・Knowledge Translation:その中でOA方針も持っている
- OA方針の下、研究論文のdepositが義務付けられている
- Canadian Institute of Health Research(CHIR)・・・Knowledge Translation:その中でOA方針も持っている
- 再び香港の話:香港には8つの大学があり、政府助成金を受けている
- 香港大学におけるKE
- 担当部門・・・Office of KE
- 色々な提案を受け、その支援をする
- 例えば・・・工学部がハイテク犯罪に関する取り組みの資金提供を受け、コミュニティと協同で活動したり
- その中で図書館にも予算がつき・・・機関リポジトリやOAに関する動きを実施
- 担当部門・・・Office of KE
- 香港大学図書館の活動・・・
- CRISのバックグラウンド
- CRISのデモ・・・時間がないのでかなり飛ばされつつ
- HKU Scholars HUBのコンセプトモデル:
- 色々なデータソースがある・・・外部データ、ScopusやWOSがあり、学内のソースもある
- 内外からデータを集めて、HUBにアップロードした後に、図書館員が内容を編集・追加したり、研究者や学部が修正したり削除したりもできる
- 全てがマッシュアップされる/デジタルなエコシステム、"Collective Intelligence"が生まれる。単なる部分の集合にとどまらない大きなものが生まれる
- Office of KEは他にもOAが関連するプロジェクトに助成
- OA出版とORCID
- 今年は・・・8つの大学すべてがSCOAP3にジョインしてほしいと考えている
- ORCIDについて:図書館は教授一人ひとりにORCIDアカウントを発行
- 名寄の問題解決へ
- 文献著者だけでなく全ての専門職にとって問題・・・発明者、主任研究者、コンサルタント等
- 個人にとって自身の評判(reputation)の問題になり、機械逸失につながる
- さらに機関レベルにもつながる。引用回数が少ないのはエラーがあるせい、などということもある。その結果、ランキングが下がり政府予算がとれなくなったりする
- 機関レベルの問題になるのだから、機関が取り組むべきである
- 香港大学では・・・教授陣一人ずつにORCID recordを作成
- 教授にはopt-outの権利や自身でアカウント作成する権利もある
- どちらもしない教員の分は図書館で進める
- (その具体的手順の説明)
- 香港大学のOAに関する活動
- 台湾=中華民国
- 中国本土=中華人民共和国
- China Academy of Science(CAS):中国科学院
休憩
Open Access in Southeast Asia: Unresolved Issues and New Opportunities(Paul Kratoskaさん、NUS Press, National University of Singapore)
- 現状としては・・・「unresolved issues」、未解決の問題が答案なジアのOAには多い
- 講演のお話をいただいたときに・・・東南アジアではOAは十分確立していないのではないか、という前提からスタート。そこから派生する質問は:
- なぜ、OAに対する興味・関心がないのか?
- もし東南アジアでOAがうまくいくとしたら、どういう帰結に至るのか?
Baseline Information
- 東南アジアにおける大学
- 東南アジアにおける機関リポジトリ
- OpenDOARによれば・・・64/ROARによれば・・・107
- コンテンツ:学位論文、プレ・ポストプリント、会議論文、未刊行論文、教材etc・・・
- 大学等により維持され、コストも賄われている
- 3〜4年前の調査によると・・・どんなものを登録するかとか、登録・保存ポリシーはきちんと決まっていないところが多い
- 基本的に、明確に定義されたポリシーがないのが現状
- 東南アジアにおけるOA出版
- DOAJによれば・・・合計225で、インドネシアが最多、次いでマレーシアの雑誌が多い
- 東南アジアの研究者はなんで研究・論文の出版をするのか?
- 第一には知識創造・共有のためであるべきなんだが、実際は・・・彼らの雇用主=大学側の期待に応えるため
- 東南アジアの多くの大学は被雇用者に出版することを求める:
- 国際ランキング向上のため
- 留学生をひきつけるため
- 昇進・テニュア付与のための基準にするため
- 東南アジアの研究はほとんどが政府の資金援助を受けている
- その価値は成果物、あるいはパフォーマンス指標ではかることが重視される
- 助成金を申請するなら成果を明示しないといけない
- OAになったら東南アジアに価値をもたらすのか?
- その答えは欧米の場合と少し違う・・・東南アジアでは雑誌に掲載される成果を読むような人は少数派/雑誌の価値が高ければ、"そこに論文が載っていること"が評価される
- 大学としても価値の高い雑誌で出版されることを強く望むようになる
- 東南アジアにおける"英語での"人文社会系出版事情
- 科学技術に関する出版に比べると遅れを取っている
- 多くの大学で、科学系の出版はうまくいっているが、人文社会系はどうもうまくいっていない
- 一つには言葉の問題もあるが・・・多くは、STMの教員は人社系が大学の国際ランキングの足を引っ張っていると文句を抱いているし、大学も国際ランキングやIFを強く重視している
- 東南アジアの大学はトムソン・ロイターのランキングやISIのcitation indexをより好む。Scopusの方がアジアにおける刊行物の収録は進んでいるんだが、Scopusのリストに載ることもある程度は評価されるものの、ISIに比べれば・・・だし、シンガポールはISIに収録されている雑誌に載っても、IFが低ければあまり評価しないと言い出している
- 東南アジアのSCOPUS収載状況
- 現在、SCOPUSに載っている雑誌は20,544。そのうちアジアの雑誌は約2,300で全体の11%超。しかし東南アジアの雑誌は202で、全体の0.5%程度
- マレーシアの事例:東南アジアの中ではOA推進に積極的なので取り上げる
- OA雑誌・・・216の査読付きOA誌があり、78がDOAJ収録
- 機関リポジトリ・・・研究者はあまり登録しない
Unresolved Issues(未解決の問題)
- Article Processing Charge(APC:論文加工料)
- 資金提供者は、どの雑誌へのAPCなら資金を出してくれるのか? 制限を設けるのか?
- ISIやScopusに載っているような雑誌ならAPC支払いも認められるだろうが・・・実際、Indexに入っている雑誌ならAPCの支出も問題としているところもあるが・・・
- しかしそもそも、APCの資金を申請する先がない/大学はAPCを大学側が払うことをそもそも認めていない
- Indexに入っていないような雑誌は? 東南アジアにはそんな雑誌がいっぱいあるが??
- そこに掲載される論文のAPCを申請できるのか??
- 強奪的/略奪的なジャーナルの問題・・・いわゆる「ハゲタカ出版者」問題
- 意思決定者はその分野の専門家ではない場合が多い/そうなると、トムソン・ロイターのリストに入っているか等を判断基準にしがち
- そして・・・起こらなければいいんだが・・・特定雑誌の政治的傾向を理由にAPCを払ってもらえない、という可能性もある
- 学術研究の所有権
- OA義務化と人文社会系
- そこで一つの提案として・・・1年間のエンバーゴを設ける、というのではどうか?
- そうすれば既存の出版者・出版の仕組みがそのまま維持できないか??
- 1年間あれば、図書館でアクセスする人は雑誌の購読を続けるだろうし、その後は無料で使えるようになるし
- しかし人社系では・・・引用半減期が5-10年と言われている。私自身、ある論文を読むのに30ドル払うんだったら1年待つと思う。図書館も1年待てばいいなら購読もしないと思う
結論にかえて:東南アジアにおけるOAのSWOT分析・・・かなり飛ばされた!
- 強み/弱み・・・話すまでもないと思う
- 機会:多くの人が文献にアクセスできることの研究上のメリットとは?
- 現状・・・アジアで論文が書かれると?
- 現状、NUS Pressは・・・各国のUniv. Pressと個別に協力関係にある
- 他の国がどう考えているかの域内協力があまりない
- それをやっていけば流通範囲を広げられる?
- 他の国がどう考えているかの域内協力があまりない
「アジア」のOAの将来(土屋俊先生、大学評価・学位授与機構)
- 今日のテーマ:「吹き抜ける」を英訳するとどうなる??
- "Through"だと通り過ぎてしまう・・・ひどいタイトルだ! あとで主催者に説明してもらいたい
- 引き受けたときには気にならなかったのだが昨日、急に気になった
- Kratoskaさんのお話で僕の言いたいことはほとんどなくなったのだが・・・規定通りにディスカッションに入れるようにしたい
- 当たり前と思ってスライドに書かなかったこと3つ:
- 結論:Kratoskaさんと同じ
- アジアの科学技術生産力は増えている。増えているから、出版される論文も増える
- 従来・・・出版は購読で維持されていた、図書館が払ってきた/一方、日本以外のアジアは大して金を払っていない。あ、シンガポール、香港は払っているけれど、ほかはほとんど払っていないようなもの
- 要するに・・・図書館予算は先進国にしかなかったし、今後もそのまま続くのだろう。今後、東南アジアで図書館予算がどんどん増えることを考えるのは難しい。今よりは増えない
- しかしアジアは成長しているので論文は増える・・・その出版を誰がどう賄うのか?? それが我々の置かれた問題
- それに対する答えは・・・OAで、やるしかない、というのが重要。購読で賄うための図書館のお金はない、払えないけど出版したい、なら自分で払うしかない、終わり
- それ以上の結論は出てこないんじゃないかな?
- アジアの科学技術生産力は増えている。増えているから、出版される論文も増える
- それだけではなんなので・・・いろんなところからのコピーしたものをご覧いただきたい
- 今後の予想として・・・2020年には中国がアメリカを研究予算で圧倒しているとかいう予想も
- ACSへの投稿数ではアジアが40%以上で最大/publishされたものは欧米に負けているが質は上がるだろう/DL数もアジア最多。人口最多だから当然
- 増えた分/これから増える分をどうするか??
- 一方で、アジアにおける出版事情・・・
- 研究者は自分でやらないといけないが・・・これもけっこう面倒くさい
- 研究者にとって、研究は自らの欲求に基づいてやるのではないような環境に置かれている
- しかし・・・もしもこれから何か出そうというなら、購読にできない以上はOAしかないという、強制的な状況
- 選択の問題ではない。どういう風に域内でOAモデルを立てるか、という状況
- そういう意味で、Kratoskaさんが提案するようなモデルをどう立てるかという話
- しかしながら・・・そんなことは研究者や大学が考えればいい
- 図書館はクビ突っ込んだら絶対損する。やめた方がいい
- どうすればいいか?
- ハゲタカでもなんでもいいから、海外のOA雑誌にどんどん出せばいい。出せないならしょうがない、それはそれでいい質の管理
- 「それじゃ海外にお金が出て行く」と思うかも知れないが、サービスをお金で買っているので、「輸入」と同じこと。輸入は得意なんだからこのままやればいい。皮肉に感じるかも知れないが、もちろん皮肉である
- 我が国にはJ-STAGEというわけのわからないプラットフォームもある。OAにできるプラットフォーム。ここに、アジアの方に来ていただいて載っけていただくというのも手
- いつまでJSTの体力があるかはわからないが・・・
- 図書館の人に唯一できることは、今まで育ててきた機関リポジトリを、「出版プラットフォーム」と読み替える、再定義すること
- 再定義したら、あとはそれは出版者の仕事なので、大学出版等に渡せばいい。定義を変えるだけ変えて、あとは手を離すことが大事、ということを結論にしたい
- 〜司会の北村さんから、主催側は今回のタイトルを気に入っているし、英訳は全然違いますと注が入る〜
パネルディスカッション
- モデレータ:
- 加藤信哉さん(筑波大学附属図書館)
- パネリスト:
- Choi Honamさん
- David Palmerさん
- Paul Kratoskaさん
- 土屋俊先生
- 尾城孝一さん(国立情報学研究所)
冒頭:尾城孝一さんによるご発表:「日本の機関リポジトリ これからの10年を考える」
- これまで10年、機関リポジトリに関わってきた経験を踏まえて、今後の10年を考えた話題提供をする
- 日本の機関リポジトリ・・・この10年で急速に増えている
- 日本の機関リポジトリの反省点
- 「図書館」リポジトリにとどまった・・・当初は学内合意等を得ようと活動していたが、作ったあとは「図書館のもの」という壁を越えられなかった
- Green OAが進まなかった・・・日本の査読論文の5.2%しかリポジトリでは補足できていない
- ポリシーが弱い・・・日本では北大、学位論文に関する文科省方針くらい(min2-fly注:あとは岡山大とか)。Hita-hitaは、担当者がかわるうちにだんだん「ひた・・・・・・・・・ひた・・・・・・・・」くらいになっていって、いずれ消える。草の根だけでなくトップダウンもほしい
- 文献リポジトリの壁を越えられなかった・・・紀要論文リポジトリの壁を越えられない。論文が生まれるまでにある膨大な量のコンテンツ、実験データ等をうまく組織化・共有・再利用できるようにしたいといけないと言われているが、今の機関リポジトリはその域に至っていない
- CSI委託事業の成果の展開ができなかった・・・NIIが8年間やってきた事業で、27の研究開発・コミュニティ支援プロジェクトにお金を出してきた。いくら出したかは今日は言いたくないが、個々のプロジェクトとして成果を挙げたものも、全国的に展開できなかった。例えばSCPJという日本の学協会著作権ポリシーDBとか、ROATという機関リポジトリコンテンツ評価とか、一部の図書館の取り組みで終わってなかなか普及しなかった
- Lynchによる古典的定義の確認
- 図書館にとっての機関リポジトリを持つことの古典的意義
- 紙の時代・・・外部から買ってきてコレクションを作って学内に提供するのが図書館
- 外部情報源が電子化されると利用者は図書館を経由しなくなる/図書館のコレクションは空洞化するし存在感も薄れる
- その中で図書館もあらためて自らの役割を考えざるを得ない・・・学内で生み出された教育・研究成果を集めて組織化して外に発信する。それが新時代の図書館と図書館コレクションであり、機関リポジトリ
- こういった定義・意義も念頭に置きつつ新委員会でちょうどいま、来年度以降の枠組みを考えている
- 戦略的重点課題:
- ポリシー
- システム基盤
- コンテンツ
- 人
- いずれにしても、今後10年を考える上での重要なポイント・・・機関リポジトリをもっと教員の近くに置くこと
- そして・・・これまでの経緯や知見や技術を(上から目線でいやなんだけど)アジアの新興国に広めていくことが日本の責務(ではないか?)
- 書いてて自分でもピンと来ないけど・・・
- 例えば・・・マレーシアの大学、Open University的な機関に、NIIの開発したWEKOを使って、教育コンテンツの発信システムを作るプロジェクトが始まりつつある
- こういった活動を積み重ねて、機関リポジトリを通じた学術情報のOAをもっとアジアに広められればいいと思う
パネリストからのコメント
- 加藤さん:
尾城さんから短いプレゼンテーションがあった。これを土台にして、アジアのOAをどうするかを大きなテーマとしつつ、日本の機関リポジトリに関する提言でもあったので、まずパネリストのコメントを得たい
- Palmerさん:
非常に素晴らしいことだと思う。多くのことを成し遂げられている。数もそうだし、多くの人たちをOAのグループに巻き込んでこられた。
今や日本にはOAについて知っている人が多い。これはとてもポジティブなことだと思う。
- Kratoskaさん:
良いゲストと思われないリスクをおかして問題提起したい。言語に関して。
OAとはいうが、オープンになるのは資料が書かれた言語を読み書きできてはじめてできる。これは日本に限らず、東南アジアでも、各国でOAについてどう対応されるにしろ、その国の言語で行われる。私がお聞きしたいのは、OAといった場合に、言語による違いを埋めるための橋渡しはどうするのか、ということ。
- 加藤さん:
おそらくOA以前に、言語障壁や文化障壁がある、ということと思う。どなたかコメントあれば。
- 土屋先生:
言葉の違いは、勉強してもらえばいい。
- Palmerさん:
確かに言語は大きな問題、今でも大きな問題ではあるが、少しは問題の程度は改善されていると思う。Google翻訳で。早いけれど正確ではないというが、ほとんどみんな使っている。
一方で、Google翻訳や類似の機械翻訳を使う以外に、多くの国は研究者に英語での出版を求めている。英語で出版した方がインパクトが大きいので。
- Kratoskaさん:
日本語は学ぶのが難しい言語とおもっていたので、すぐに学べそうな印象が得られたのはいいことだった。
英語で出版することを強要することは二層化を進めてしまうのではないか。英語で教育された人は出版しやすい状態になる。シンガポール、香港、マレーシア、フィリピンの研究者が論文出版が容易になる一方で、他地域の人では出版できる人が少数になる。東南アジアの研究者の多くは英語でインパクトのある論文を書けるだけの能力は持ち合わせていないのではないか。
- Choiさん:
言語の壁について、所属機関で行っているプロジェクトを紹介したい。韓国語のできる中国人を雇用して、彼らに中国語の書誌DBを韓国語に翻訳してもらった。そして、その中で特定の文献を韓国の人が誰か読みたい、ということになれば、我々のシステムにリクエストを出してもらうと、韓国語のできる中国人のところにリクエストが届いて、オンデマンドで翻訳してもらえる。
2年前にはじめて、今も続いている。実用化されていくと思う。
- 加藤さん:
言語の壁についてコメントいただいたが、議論の時間もないので、パネリストからの補足よりも、今日は多様なお話を多様な観点からいただいたので、フロアから発表者に対して質問があればお願いしたい。
フロアから質問出ず
- 加藤さん:
ではパネリストから、補足などあれば。
- Kratoskaさん:
コメントと質問を。
まず、OAに関して、前提の一つに図書館は今後、支払わなければいけない金額は少なくなるだろうといわれている。Duke大学の調査では、教授が1年に出版した論文の件数を数えて、APCが1本1500ドルとして総額いくらか計算したら、ジャーナル購読料よりも高かったという。可能性として、図書館そのものが支払う金額は減っても、大学全体として支払うコストは今までよりも増えてしまうといえる。
次に、これは皆さんに質問。機関リポジトリを使ったことがある方、論文を書く立場であれば、所属大学の機関リポジトリにどれだけ論文を登録したことがある?
会場で挙手をとる・・・論文書いた事がある人はだいたいリポジトリに登録している、会場の殆どの人はリポジトリ登録論文を読んだことがある。さすがSPJセミナー!
- 加藤さん:
リポジトリやOAをもっと進めていくための推進力、力とは?
- Palmerさん:
成功例としてNIHのPMCがあげられると思う。deposit率は80%を超えているという。同じようなものを各国でやって、関係者/政府が勢いを高めていけばいい。
PMC成功の秘訣は、登録しないと助成金が与えられない、という仕組みにしたこと。何か研究者にとって重要なもの、助成金や評価の対象にすることが効果を持つのでは。
- 土屋先生:
アメリカで実際にグラントを拒否された人はいるの? それから、Elsevierからの指摘として、PMCに入っているものの多くは出版者が入れている分で、研究者はself-archiveしていない。ということで、研究者を信じてはいけない
- Kratoskaさん:
2つのアプローチがある。一つは研究者にセルフアーカイブするよう、説得する。これは、不可能だと思っておいた方がいい(笑)
もう1つは、大学の管理者、adminが、セルフアーカイブしなければならない、ということだと思う。私の経験でもそうだし、書かれたものを読んだこともある。そのためには、大学当局あるいは助成機関が、要件としてセルフアーカイブを求めると入れることに尽きると思う。
- 土屋先生:
ただ、研究者としてはその意見には反対。研究をそういう強制の下に行うことは、健全な研究の推進とは言えないのではないか?
- Choiさん:
韓国の現状として、リポジトリの利用は初歩的な段階で、コンテンツも利用もpoor。ただ、面白い話がある。KAISTという研究機関で、機関リポジトリを大学内の研究者の業績評価とリンクさせた。研究者あるいは教授が成果をdepositしない場合、成果が評価されない。業績評価に響く、とした。これはKAIST総長の意思でそうなった。トップに機関リポジトリ推進の意思がないとうまくいかないのではないか。
- 土屋先生:
やはりそれは本末転倒ではないか。研究の進行が重要なんであって、日頃の研究ぶりや生活ぶりを見ていればいい、ということであれば、publishingで評価する必要もない。全く一般の人に知られなくても研究そのものが進めばいいじゃないか、ということの、どこがいけないんですか?
- Kratoskaさん:
最近、ノーベル賞をとったある研究者が、「もし今、私が若い研究者であったなら、私が挙げたような成果は出せなかっただろう」。今の研究には一生がかかったが、若手は出版することに追われていて私のやったような研究はできないだろう、と
- 加藤さん:
北風と太陽というか、トップダウン VS 研究はそんなものではない、という主張の繰り返しのようである
- 加藤さん:
最後に、せっかくアジア各国から皆さん集まったので、協力関係について具体的にこんなことができればいいんじゃないか、ということがあればご提案いただきたい
- Choiさん:
私の考えとしては、まずはコンセンサスが必要であり、そしてやっていこうという意思も必要と思う。
ただ、最初は政府が法律なりなんらかの仕組みで強制的に、ある程度のレベル、クリティカル・マスに達するまで強く推進することが必要ではないか。
いったん一定レベルに達すれば自律的に動いていくと思うが、そうなるまでは政府の強い後押しなり法律が必要と思う。
- Kratoskaさん:
先ほどのプレゼンでも触れたが、大学出版局が他の出版局と協力していけないかという交渉を、私自身、他の出版者を訪ねて話を持ちかけている。
最初に行った時はお茶を飲んで帰ってくる。2回、3回と訪ねるうちに、よく知り合って、はじめて何か一緒にやりましょう、という話になる。
私の観点からすると、相手を説得しようと思ったらまずお互いによく知り合うことが大事。出版であれば、リポジトリであれ、大きな方針ができたからやろうというのではなく、小さなことの積み重ねではじめてできることと思う。出版であれば出版の立場で、OAリポジトリであればリポジトリの立場で。小さなことの積み重ねで初めて動くと思う。
そのような小さなステップの一つが、今日ここで開いているような、このようなセッションではないかと思う。発表の機会をいただき、フィードバックもいただけたことを大変感謝している。こういったことがプロセスの一つであり、その機会をいただけたことを大変感謝している。
- 加藤さん:
まとめの挨拶を取られたような形になりましたが(笑)
ちょうど時間なので、これでパネルディスカッションを終えたいと思います。
各国の、それぞれにかなり異なる事情をまずは知るところから始まったセミナーであるので、パネルディスカッションはかなりまとめづらいところもあったのかもしれませんが。
最後に加藤さんが「締めをとられた」と評していらっしゃるKratoskaさんのコメントが、実にそのとおりというか、まずは互いに頻繁に会ったりするプロセスを踏んでいきましょう、と。
その中で連携とかもできるところから出てくるといいんじゃないですかね。
とか書くとまるで「お互いの事情が知れて良かったねー」とか思っているかのようですが、実際のところはいまいち掴みきれていなかった韓国の事情を詳しく知れたり。
CIRSの背景にあるKnowledge Exchangeってどんな理念なんだかが知れた+あれイタリア企業が開発してイタリアで普及していきそうなの?! っていう事態を知れたのは、面白かったですし。
休憩後、Kratoskaさん⇒土屋先生あたりはコトの核心をついているというか、「これから増えるのはアジアの論文だけど」「増えた分の購買力はアジアにはない」というところをどうカバーするかに踏み込んでいて、さらにその解決策としてOAをとるしかなく、もしOA出版自力でやる方向に流れれば「コンテンツはすべていったん欧米に流す」現状の流れが変化しうるし、まあそうならなくても再輸入にお金がいる事態ではなくなるかも知れない、って方向につながってきたのは「おおーっ」って感じでした。
HINARIとか色々あるとはいえ、そもそも通貨の価値自体が大きく違う国々は、日本や欧米に比べてだいぶ安い価格で今でもジャーナル買ってるんだと思うんですよ(でないと買えないはず・・・それとも、本当に買ってない??)。
でも査読関係の編集作業は先進国で行っているとすると、コストがまかないきれないはずで、そこはお金払える国々にひっかぶせている面が今でもあるんだと思うんですが。
それですら成り立たないくらいにコンテンツが増えてきたときにさあどうなるか、というところは一つにはOAなのかなあ、と思います。
(もう一つはそもそも学術成果の発表方法自体を論文ではなくするとかそっちの方向)
まあ逆に言えば現状、アジアは自分たちの研究成果の選別/加工作業をすっかり欧米に乗っかってしまっているとも言えるので、それを自力でなんとかできるようにならにゃいかん、ってことでもあるんですが。
この論文出版の欧米依存とか、あるいはディスカッション中で話題になった言語の二重性についてとか、日本で機関リポジトリやOA考えているときとまるで共通した話題がアジア各国でも出ていることがわかったのは本当に大きな収穫でした。
記録しそこねましたが閉会の挨拶で尾城さんが「次はまたトピックを絞ってやりましょう」とおっしゃっていましたが、ぜひ定期的に情報交換する形になるといいですね!