かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

「粗悪学術誌掲載で博士号 8大学院、業績として認定」についての補足+元ネタ原稿について

「LRGに連載開始するにブログ再開するぜ!」と宣言してからはや1年と9ヶ月弱。
はてなダイアリーももうすぐ終わりですよって時期ですがまだブログへの移行も終わっていない体たらく。いずれちゃんとやります。
まあなんで更新停止してたって忙しかったからとしか言いようがなく、なんで忙しかったかと言えば子育てに励んでいた結果であるので、実に健全な事実なのではないでしょうか。
息子かわいいよ息子。

さてそんな状態なのになんでブログを久々に更新したかと言えば、以下の記事が一部界隈でちょっと話題になっているからです。

インターネット専用の学術誌に論文審査がずさんな粗悪学術誌「ハゲタカジャーナル」が増えている問題で、佐藤翔(しょう)同志社大准教授(図書館情報学)が医学博士論文106本を抽出調査したところ、7.5%に当たる8本にハゲタカ誌への論文掲載が業績として明記されていた。ほとんどの大学が「査読(内容チェック)付き学術誌への論文掲載」を博士号授与の要件としており、要件を満たすためハゲタカ誌を利用した可能性がある。 ...(以下、続く)


Twitter等では一部からやれ「パンドラの箱を開けた」だとか「なぎ払い始めた」とか言われたりもしていたのですが、自分としてはそこまでのつもりはなく、「そういやどんくらいあるんだべ」と思ってやってみたら結構あったな、という話。
また、一部コメント等で「なんで全文が見られるやつだけなんだ、全部やれよ!」とか指摘もいただいていましたが、だって審査結果の要旨のところに「どこの雑誌に投稿したやつが元ネタです」って書いてないのが多いんだもん(33のおっさんにだって「もん」とか言いたくなるときはある)。
じゃあ本文まで見られるやつに限定するしかないじゃないですか・・・それでも元ネタ書いてないやつも結構あって、それは書けや!って気もします。
「なんで本文見られるやつがそんな少ないんじゃ!」ってご意見は、おっしゃるとおりですね。
付け加えると、機関リポジトリにはアップされているはずなのに、リポジトリの問題なのか全文ダウンロードに異様に時間がかかって諦めたケースもあります(1分待ってダウンロードできなかったら見限ってます)
なお実作業はアルバイトの方に出しております。ありがたい話じゃ・・・
そしてかかってる費用は自腹(といっても研究費ですが)です。


「全文はどこですか!」というコメントもあったので、元ネタ原稿の全文は以下です。
いわゆる論文ではなく、連載記事というか、コラムみたいなやつですね。

掲載情報:情報の科学と技術 68(10), 511-512, 2018


ただ、オープンサイエンスに関する連載なのに上記はOA論文ではございません(汗)
そして弊社の(同志「社」なので弊社で良い)機関リポジトリは、基本、セルフアーカイブを認めない紀要リポジトリでございます。
どうしたもんかと思いましたが、ResearchGateなら全文アップロードできるので、そっちに上げておきました。
(掲載誌の著作権条項的に、最終版全文でも本誌DOI書いておけば公開OKなのです)


基本、書かれている事実は毎日新聞記事のとおりで、むしろ記者の鳥井さんがハゲタカOAで博士を出した大学にコメントもらっているぶん、記事の情報量は新聞の方が上ですが・・・。
一応、元調査にご興味お有りの向きは上記をどうぞ。


毎日新聞記事に補足を加えるなら、これは自分のお伝えの仕方の問題で、「4本は、研究費を交付する米国の政府機関から「公正さを欠き、虚偽がある」と提訴されたことがある出版社の学術誌に掲載されていた」となっていますが、これはちょっと事実と異なります。
確か米国政府機関に訴えられている会社の雑誌掲載は1本でした。
ただ、この4本は、疑わしさの度合いが高めの雑誌であった、というのは確かです。


また、その他の4本は、"Oncotarget"という雑誌に載ったものです(これは『情報の科学と技術』にも書いています・・・どこかのブックマークコメントで3本って間違って書いてましたごめんなさい(汗))
この雑誌は、去年まではWeb of Scienceに収録されていて、悪くないインパクトファクターもついていて、ハゲタカOA回避マニュアルなんかでもまあ問題がないって見てもいいんじゃない、という扱いになりそうなものだったのが、今年になって急にWeb of Scienceから落ち、インパクトファクターもなくなった・・・ばかりかMEDLINE(PubMedの元情報)からも落とされた、というものです。
前から有志のハゲタカOAリストには載っていたので、なにか疑わしい点はあったんでしょうが、それにしたってねえ・・・投稿者としてもこういうケースを回避するのは難しいのではないか、と思います。


なお、「別にハゲタカに載ったって審査会+教授会で学位審査ちゃんとやってれば問題ない」という意見もありますが、そうならそもそも査読論文n本、みたいな要件を課さなければいいし、課してない分野もいっぱいありますよね。
よそで査読を通ったことを要件にするというのは、一種の最低限の審査のアウトソーシングなのだろうと思いますが、ならば査読を通ったと言えないかも知れないハゲタカはやっぱ問題なわけです。
もちろん、「ハゲタカじゃないことを審査会+教授会で確認した!」ということならOKなわけですし、実際審査会ではしばしば掲載誌はOKなのか、という点も議論になるかと思います。
そこがちゃんと審査されてたかどうか、が、突っ込んで聞いてみたいところですが・・・


補足は以上。
最後にハゲタカOAにどう対処したらいいのか、ですが、個人的に大学等がホワイトリストを作ってしまう方式(「ここに載ればOK」)はあまり賛成できません。
投稿先選択の自由が阻害されるし、新興領域が不利になるし。
チェックリストを課してクリアした雑誌はOK、という方式だと、Oncotargetの例もあるので、どんなチェックリストなら機能するのかが問題に。


じゃあどうすんだ、といえば、雑誌の側で査読をやっていることを証明することがベターではないかと考えています。
具体的にどんな仕組みがあるかは以下の論文なんかを参考にしていただければ。
Publons導入+そのデータをいざとなったら出せるように査読者にOKもらっておく、とかが今ならいい線かなあ・・・。


なお、「オープンサイエンスのいま」ではこれまでに以下2本の記事も公開済みです。
1本目はJ-STAGE版もOAですが、2本目はやっぱりだめなので、これもResearchGateにも上げておきました。


今後もこんな感じでややゴシップよりの学術情報ネタを書いていければと思うのでよろしければ本誌もぜひよろしく!
・・・って宣伝はしてみたものの、そもそもこの連載、いつまでが期限なんだ・・・???