かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

科学、技術、医学分野の学術出版に関する「ブリュッセル宣言」(Brussels declaration on STM publishing)

35出版社と8出版協会、学術情報の流通に関する「10か条の宣言」を発表 | カレントアウェアネス・ポータル

昨日に引き続きカレントアウェアネスから。
Elsevier、Blackwellなど大手学術出版社や出版協会が、学術情報の流通に関する「10箇条の宣言」を発表したとのこと。
以下、つたないながらも宣言の訳。

  1. 出版者の使命は、独立採算のビジネスモデルを通じて、最大限広い範囲に知識を普及させることである
    The mission of publishers is to maximise the dissemination of knowledge through ecomomically self-sustaining business models.)

  2. 出版者は査読のプロセスとSTM journals*1を、組織し、マネージメントし、金銭的にサポートする
    (Publishers organise, manage and financially support the peer review processes of STM journals.)

  3. 出版者は学術コミュニティの利益のために、雑誌を世に出し、支え、広く普及し、発展させる
    (Publishers launch, sustain, promote and develop journals for the benefit of the scholarly community.)

  4. 現在の出版者のライセンスモデルは、研究成果へのアクセスを大きく向上させている
    (Current publisher licensing models are delivering massive rises in scholarly access to research outputs.)

  5. 著作権は著者・出版者双方の先行投資を守っている
    (Copyright protects the investment of both authors and publishers.)

  6. 出版者は権利的に保護されたアーカイブ(それは学問を永続的に保障するものである)の構築を支援する
    (Publishers support the creation of rights-protected archives that preserve scholarship in perpetuity.)

  7. すべての研究者は、自由に生のままの研究データを使用することができる
    (Raw research data should be made freely available to all researchers.)

  8. どのメディアにおいても、出版活動にはコストがつきものである
    (Publishing in all media has associated costs.)

  9. 寄託された原稿を無料公開する試み*2には、(出版社の)購読料収入を不安定にしてしまうために、査読の仕組みを衰えさせてしまう危険性がある
    (Open deposit of accepted manuscripts risks destabilising subscription revenues and undermining peer review.)

  10. 「万能の」解決方法はない
    ("One size fits all" solutions will not work.)


カレントアウェアネスでは特に9番目の宣言が取り上げられていた。
確かに、今の学術情報流通の枠組みの中で商業出版社*3が果たしてる役割って馬鹿にできない。
全部研究者が自前でやろうとしたら、研究に集中できなくなるだろうことは必至。


一方で、先日のノルウェーの大学(Blackwellの電子ジャーナルが高すぎるとして契約交渉を結ばなかったというか結べなかった?)みたいな例を見ると・・・そうは言っても高すぎるんじゃないかなあ、って気がする。


研究者の研究成果を利用するのに「なんで間に出版社が入る必要があるのかー」って言いだすやつらが出てきたのは必然的だよね。


野菜だってスーパーで買うより農家の直売所で買った方が安くあがるうえに鮮度も高いんだから、研究成果だって研究者同士で直接やりとりできたら良いのじゃないか。


ただ、野菜だったら素人でもある程度目利きができるんだが、研究論文となるとそうもいかないから、専門家による品質保証=査読が必要なわけで。
これを営利出版社がが仲介しないでどの程度フォローすることができるのか。


あと、野菜を直売所で売る場合には売れる量なんてたかが知れてるけど、大手の物流にのせればはるかに大きな規模で売ることができる。
学術情報流通における営利出版社も大手物流と同じ役割を果たしているんだが、野菜以上に「物流にのる=人に知られて、引用される」ことが重要な科学コミュニティの中で営利抜きでの出版モデルがどこまで通用するのか。


もろもろ考えると、宣言出されるまでもなく商業出版社への依存から抜け出し切るのは不可能ってなもんだよなあ。


それでもこんな宣言出してくるのは、やっぱ風当たりが強いからなのか。
あるいは進むオープンアクセスの動きに危機感を覚えたのか。
優位を保ち続けるためには油断禁物、獅子は兎を狩るときも全力を尽くす・・・とは言え、油断しないでなにが王者か(by金ピカの人)って言葉もあるんだし、もうちょっと油断してても良いのではないかなあ・・・ラスボスが油断してくんないと主人公が苦戦するじゃん・・・

*1:Scientific、Technical、Medical=科学、技術、医学分野の学術雑誌

*2:オープンアクセス、オープンアーカイブのことか

*3:ちなみに「出版者」と「出版社」の使い分けのこととかを気にするのは図書館屋くらいのもんか? 「出版者」は企業以外のものも含みうる・・・ってくらいの理解なんだが、はてさて。どっちもでいいじゃん、って気もする