かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

「明日の図書館情報学を拓く:アーカイブズと図書館経営」 その1

ゼミの先生の、さらに恩師の先生であるところの高山正也先生の退職記念論文集。
「退職記念論文集」と銘打ちながら、

本書は一つの「論文集」とはいえ、オリジナルな知見を前面に押し出した原著論文というよりも、各テーマの動向を広く知ることができる解説論文を中心としており、このため、大学の図書館司書課程において図書館経営やそれに関連する授業を受けた人ならば、十分に理解・咀嚼できる内容となっている。

と、まるで教科書にでも使えそうな野心的な本でもある*1
だいたい退職記念論文集が樹村房から出るって時点で割と凄い。


内容は、前半はアーカイブズ、後半は図書館関係の論文集となっている。
アーカイブズについては専門外」とか思っていたが、執筆陣を見ると図書館情報学の分野で知られた人が多く、研究分野としては割と被っていることを知る。


共同研究室に置いてあって持ち帰るわけにはいかない(っつーか先生の本だし)なので、今日はとりあえず前半分くらいまで読むことにした。


アーカイブズについては近畿大学の田窪直規先生の「評価選別論の死角:実証的アーカイブズへの視座」が特に面白かった。
文書館などで保存する記録と廃棄する記録の取捨選択作業(評価選別作業)をする際の基準について、「アーキビストが将来の利用可能性を予測して取捨選択を行うべき」とする論と、「将来の利用可能性なんか予測不可能だから別の方法で取捨選択しよう(記録を残した組織に取捨選択させる・現在の社会の中で残すべき出来事・歴史事象に関する記録を選ぶ、など)」という論があって、現在は後者の論の方が優勢だが前者も根強い、と現状を紹介し、自身はあくまで利用中心に考えるべきという立場を選ぶ、とした上で、「そもそもどの論も全部机上の空論で、ちゃんとした利用調査やってないじゃん」とばっさり切り捨てる。
文体がそもそも過激な先生方(山本順一先生とかね?)の論文も読んでて面白いが、精緻で感情を抑えた文体で進めてきたうえで一転、ばっさり切る、ってのも非常に格好良い。
本当に良い論文は読んでて面白いもんだよなー、と再認識。


他には東大の根本彰先生の、「図書館の思想:国立国会図書館と政府情報へのアクセス」も頷くところが多かった。
インターネットを通じたe-Govによって法令データベースをはじめ基本的な政府情報が自由にアクセスできるようになっているのに、法律公布の基準にもなっていて一番重要なはずの「官報」が、過去1週間分のみしか無料で出来ない(それ以前のものは検索まで有料)なのはどうなのよ、とか。
アメリカ民主主義と図書館を結びつけるものとしてのFDLP制度(連邦政府各部門の刊行物を、全国1000館以上の図書館を通じて配布する仕組み)と日本の納本制度との相違とか。
だいたい、よくよく考えてみれば公の行政機関である公共図書館に関する教科書の中で、政府刊行物が、一般の流通に乗らず入手が困難な「灰色文献」として挙げられているっていうのは酷い話だよな。
そこら辺からなんとかしていかんと・・・それこそ、どこぞの資料購入費がウン十万円に削られた公共図書館なんか、政府刊行資料すらろくすっぽ受入られないような状況になるだろうに。


と、半分くらい読んだところで今日の研究意欲が途切れたので、続きは明日以降に読むことに。
時間泥棒(はてなバーのダウンロードとWikipedia)にだいぶ時間を持っていかれたのも痛かった・・・

*1:実際には教科書に指定する先生はいないだろう。定価5250円の本を教科書に指定したらさすがに学生もキレるだろうから