かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

図書館と出版/書店がwin-winならいいんだろってむしろ今でもけっこうそうなんじゃね?


なんか森博嗣の例のブログがあちこちで波紋を呼んでいる模様・・・


「中古に出されるより燃やしてもらった方が多少良い」みたいな挑戦的もの言いがいかんやったのかしら。
まあ買い手ありきと思われてる作家業やってる人がそんな挑戦的なもの言いしたら叩かれることもあるわな。


著作権的な側面とか、新古書店やその他の古書店の話はほかにいくらでも書いてくれる人がいそうなので置いておくとして(ちなみに森博嗣本人のブログでは雑誌のバックナンバーを買った話とかも出てるそうだが、いくらプレミアがついていようと、その代金もまた著作権者にはバックされていません)、図書館と出版・書店との関係の方をさらに考えてみたい。


・・・って、言っても、森博嗣は「発売元には気持ちのいいものじゃないだろう」みたいなこと言ってるけど、実際のところ最近ってめっきり出版業界からの図書館バッシングって聞かないと思うんだがどうか?
今回の森博嗣の例みたいな、著者個人ベースとかでの小規模ないちゃもんはある気もするんだが、出版業界が大っぴらに図書館に文句付けたのって、ベストセラー本の複本大量購入・大量貸出とか、そこら辺についてくらいだったような気もする。
まあそれがきっかけで一時かなり敵視されてたような感もあったが、そもそもベストセラー大量購入については図書館界内でも「そんなんしてるから資料費が足りなくなるんやー。お前ら無料貸本屋かー」みたいな批判があがってた(そしてうちの大学は批判する勢力の牙城である)わけで。
そういう、あからさまに「いやそりゃ図書館側がおかしいだろ?」って例以外で、出版と図書館が大っぴらに喧嘩するのって、せいぜいシリアルズ・クライシスの問題くらいなんじゃないだろうかとか思うんだが。


むしろ図書館と出版・書店の関係って持ちつ持たれつなところがある。
図書館側が資料を出してくれる元である出版と書店がないとやってけないのは当然として、出版関係の中でも学術書とか、大部の全集類とか、レファレンス・ブックやらデータベースやらなどなど、「図書館が買ってくれる」ことを前提に作られている本って割と多い(学術書の大半は教科書として学生に買わせるか、図書館に売るかしないと、売れない)し、そうじゃない本でも図書館の購入で支えられているものもけっこうあったりする。
「図書館で貸し出されたら個人の購入が減るー」なんて言えるのはそれこそ一部のベストセラー本くらいで、あとの大半はむしろ図書館も大事なお客様の一つというか、図書館にいかに売り込むかが重要だったりするような状態。
一部の書店にとっても図書館は重要な顧客だしね。
大量一括購入してくれるばかりか装備やらMARCやらでも金落としてくれるし、見計らいに売りたい本を全面に押し出したりもまあできるっちゃあできるわけで。
図書館の卸に組み込むためにほとんど割にあってねーんじゃねーかみたいな外注プラン立ててきたりする(学術雑誌とかに多いか?)のも、そういうとこが割とあるんじゃないかと思う。


そんな感じで現状でも十分win-winな関係なんじゃないかと思われる出版・書店業界と図書館なわけだが(実はlose-loseなんじゃね、という突っ込みは薄々感じている)、これをさらに強固なものにしていく方策を考えてみるのも面白い。
いい言葉だよね、win-win
「みんなで幸せになろうよ(「機動警察パトレイバー」の後藤小隊長風に)」はmin2-flyの合言葉です。


まずぱっと思いつくのは、図書館の近くに新刊書店を隣接させるなど、図書館と書店を近付けること。
「え、なんで?」と思われる向きもあるやもしれんが、英国なんかでは実際にショッピングセンターの中に図書館があって、書店とも隣接してるんだけど、どっちも特に問題ないどころか良好な関係を気付いている、って例があるらしい(http://warp.ndl.go.jp/cgi-bin/netwp/BNWPLinkChk2.cgi?fl=ndl.go.jp%2Fjp%2Flibrary%2Fcurrent%2Fno286&mt=000000000280&cl=00000000000023316&ln=CA1576.html)。
なんやかんや言ってもストック中心の図書館と、新刊を高速回転させる書店だとうまく住み分けができている、ということなんだろう。
イギリスだと「図書館をよく使う奴は本をよく買う」ってこともすでに判明しているそうなので、ならば客の集まるところに書店を置くのは双方にとって悪いことではない。


さらに言えば、もう一歩踏み込んで、書店の在庫システムと図書館のOPACの連携とかができると面白いんじゃないか。
図書館で見つからない本とか、貸出中になっている本の在庫が隣接する書店にないかすぐに検索できるシステムとかあると便利そう。
もちろん「図書館にリクエストしろよ」って発想もあるわけだが、「入手手段は問わない、今すぐ読みたい!」みたいな気分の時もあるわけで、そんなときに図書館と書店で相互連携しててくれると利用者にとっては幸いなことなんじゃないだろうか。
Amazon.co.jpで検索した本の自館所蔵を調べられるツールがあるんだから、逆があっても良さそうな道理*2


あと、資料費や集書方針の関係で図書館では購入していないシリーズものの1巻だけを書店が図書館に閲覧用として寄託する、なんてのもありかも。
「続きが読みたければ買えー!」みたいな。
たまにコミックの1巻だけカバーかけずに見本として立ち読み可能にしてる書店があるが、あれを大規模にした感じ。
カフェ併設で会計済んでない本持ち込める書店とか、ほとんど図書館みたいな内装になっちゃってて座り読み用の椅子まで用意されてる書店があるんだから、そんくらいのことはしてみても良さそうなもんだよね。
税金使ってる施設が特定企業に肩入れするのはどうなのよ、って気もするが、地域経済の活性化という側面から見れば書店-図書館の本格連携も全然ありなんじゃないかと思う。
っつーか丸善とか紀伊国屋は図書館の委託請け負ってるんだから、そのときついで隣に書店出してみたらいいんじゃないだろうか。
あるいは図書館施設の一部をもう書店にしちゃうとか。


割と夢は膨らむなー・・・
「発行後1年は提供禁止」なんてルール作るより、こういう夢みたいなアイディア考えてできそうだったら実現して・・・の方が、書籍流通業界全体が盛り上がるし、トータルの売り上げが伸びるなら著作権者へのバックもそっちの方が増えるんじゃないかな、とか思ったり。
どうせ出版流通業界とか、市場規模3兆円に満たないところに計3万くらいの出版社・取次・書店がひしめく、超大手を除けば小企業の集合体みたいな業界なんだから*3、下手に他業種といがみ合うより仲良くしつつなんとか活字文化全体を盛り上げていかないと・・・


内ゲバやってるうちにそもそも活字自体が見放されちゃ元も子もないわけで。
殴りあうより握手する方がいたくないですぜ、旦那、とか思ったり。

*1:ほかにもたくさんあるけど探してらんないので、とりあえずトラックバックしてくれたとこだけ紹介

*2:こういうことを言うとたいてい「実装済み」みたいな人がいてくれて楽しいんだけど今回はいかに

*3:2003年のデータなのでだいぶ潰れて減ってるかも(汗)