かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

司書は専門職と呼べますか?


ネタ元:2007-07-15 - 図書館学の門をたたく**えるえす。

でも1950年(ごろでなかったかと思う)に図書館法ができて、いろいろ制定されて、今司書資格は他大学の講習で取ることが出来る。

その結果、社会には何万人もの資格取得者がいる。

何万人もが技能を有している職業を、果たして専門職と呼べるのか?

(中略)

だから私は、図書館情報学の発展や、専門課程に意味を持たせるのなら、まずこの司書制度の改善が真っ先に必要だと、思うんだけどな。


司書職制度との話だと、図情なら(っていうか日本中でもトップクラスに)薬袋先生がご専門。
最近でも文部科学省の司書講習の話に参加されてるし*1
公共図書館論」の授業なんかでも言われてる専門性確立のためのご提案としては司書資格に資格試験を設けることなんかがある。
専門職制度としての司書制度の話としては「図書館運動は何を残したか―図書館員の専門性」を書かれていて、専門職についてだけじゃなくて日本の図書館運動(特に公共図書館)の問題点なんかも分かってかなり面白い*2


で、この「図書館運動は何を残したか」でも取り上げられていることだが、専門職としての司書職について考える上ではそもそも「専門職ってなに?」というところを定義しないといけない。
「専門的な仕事」ったって世の中の職業は(たとえそれがコンビニのアルバイトであろうが)どんなものであれなんらかの形での専門性を有する場合がほとんどであり、ではそれらたいていの職業と区別して「専門職」と定義されるのは、なんぞや? という話。


この点について「図書館運動は何を残したか」では2つの「専門職」の定義を紹介していて、min2-flyもこの見解におおむね賛同している。
2つと言うのは、

  1. 法律家(弁護士)、医師などの伝統的な「プロフェッション」
  2. 地方自治体職員の専門職種(一般事務職に対する警察官や消防士、教員など)

で、著者が言うには公立図書館界で司書を「専門職」と位置付けるときには下の定義が用いられることが一般的だが、一方で司書の専門性確立のための運動や議論では前者(プロフェッション)の定義にそった専門職として司書職を確立させよう、という方向に行くことが多い。


さて、タイトルの「司書は専門職と呼べますか?」という疑問についてだが、後者の定義でなら司書が専門職と呼べるか否かは自治体が司書職制度を採用しているか否かで違ってくる。
司書職制度ってのもまた説明が必要な言葉だが、「図書館運動〜」では「図書館界では、司書有資格者を事務職員とは別枠で正職員として採用し、図書館に配置する」制度、と定義する。
で、「司書職制度」のより一般的な表現が「専門職制度」である、としているので、地方自治体が司書職制度を敷いている場合にはその自治体の中においては司書は専門職と呼べることになる。
呼べるって言うか専門職である。
反面、司書職制度がない自治体(一般事務職員として採用された後で図書館に行けるかどうか決まる自治体)では司書は専門職ではないことになる。
ゆえに多くの自治体で司書職制度が採用され、図書館の職員を事務職と別に採用する制度が浸透して司書の採用が増えれば司書になれる人も増えるし司書職も専門職になれるし万々歳だね! ・・・となるかと言えば、ことはそんな簡単ではない。
警察官や消防士、小中高の教員みたいに相当の数が必要で専門職としての人事異動が確保されている場合ならともかく、小さな自治体の図書館みたいに職員数にも職場数にも限りがあるところで下手に司書職制度なんか採用しようものならあっという間に人事の硬直化が起こるし、司書として採用された人のその後のキャリアプランもよくわからんことになる。
昇進するとは異動することである、それが日本人事。
ほかにもいろいろと問題はあり、司書職制度を巡る議論も一筋縄ではいかない感じ。


以上が第2の定義における司書と専門職の議論なわけだが、さてあえて後回しにした前者の定義(プロフェッションとしての専門職、という定義)の場合だとどうかと言うと・・・これはもう、非常に明確なことに、司書は専門職ではないと言える。
っていうか司書に限らず、前者の定義における「専門職」とは非常に限られた存在である。
図書館運動〜」中でプロフェッションとしての専門職の要件として市川昭午さんの定義が紹介されているのだが、それによれば、専門職とは以下の5つの要件を兼ね備えた職業である。

(1)職務の公共性
 社会の存続に不可欠で、ほとんどすべての人々に必要なサービスを提供する人間関係に関する職務であること。

(2)専門技術性
 長期の専門的教育を必要とし、高等教育機関における学習と現場における実習を修得した者にのみ、適格試験などを経て資格が認められること。

(3)専門的自律性
 専門的判断に関して他者の指図を受けない職務上の自律性を持ち、専門能力の水準を自主的に維持するための自主規律の権能を持つ職業団体があること。

(4)専門職倫理
 他人のプライバシーへの関与、職務上の自律性といった諸特権が社会的に是認される反面、職務上の秘密の保持などの職業的倫理が要求されること。

(5)社会的評価
 以上のような条件を備えた職業は、その重要性、資格修得の困難性からいって、それにふさわしい社会的地位と経済的報償が与えられること。


(「図書館運動は何を残したか」p.33〜34より抜粋)


世に数多の職種あれ、これらすべての要件を満たして「専門職」の位置づけを完全に確立されている、と認められる職業は法律家、医師、聖職者(最後はその社会における宗教の重要度にもよるが)の伝統的な「プロフェッション」くらいである、と言われている。
教師なんかは割と惜しい線ではあるが「専門職」と認められることを目指している段階であるとされるし(そもそも上の定義は教師の専門職性を希求する中で出てきた話)、看護師や学芸員なんかも専門職として定義されることもあるが、より厳密にはやはり専門職となる途上にある「準専門職」であると言う。
図書館員に関しても同様で、日本より100年は進んでると言われる*3アメリカにおいても図書館員は専門職としての位置づけをだいぶ築いてはいるものの、なお確固たる地位を得るための努力の途上であるという。*4
ことほど左様に伝統的な意味での「専門職」としての地位獲得は大変なのである。
日本でも色々努力はしてきたようだが、実を結んだとは言えないことは今の図書館界をご覧のとおり。*5


まあ、少なくとも年に数万人が、それも20数単位取得するだけで(大学卒業も要件だが)なれる資格をこの定義の上で「専門職」と呼ぶ人はいないわなー。
大学卒業している人なら学部に通い直す必要すらないわけですよ、司書講習あるし。
大学院で図書館情報学の学位とあと何でもいいからもう一個学位とらなきゃいけない*6なんて厳しい制約があるアメリカでも「準」だというのなら、日本では「準」と呼べるかどうかすら微妙なところだよね。


まあもっとも、専門職として確立することが本当に必要なのかも微妙なところだと思うが。
「専門職」にはもちろんメリットもあるが、それらのメリットの多くは「必要性」と「希少価値」に裏付けられるわけで。
医師や弁護士はどちらも現代社会にはなくてはならない職業であり、かつなるのが難しくて確保が困難な職業だから高い給料や専門職としての尊敬(後者は人によっては微妙だが)を得ているわけですよ。
「必要性」が認められることは図書館員にとってはうれしいことかもしれないが、「希少価値」は・・・どうだ?
例えば国立国会図書館(それも上級の方の)職員級の難易度と難関度の試験(百人受けて合格者一人の年とかあったよね? 国家公務員一種行政より倍率高くね?)を潜り抜けないと図書館員になれない、となれば誰もが図書館員を専門職として認めるだろうが・・・そんな状態で図書館員のなり手いるのかね(汗)
仮にそれを実現するとすればそうとう厳密に図書館の専門性と非専門性の議論を行い、図書館員内で明確な階級構造を造れば(それこそ公務員におけるキャリアとノンキャリのごとく)・・・いやあ、地方とかじゃ無理だろどう考えても。


ま、別にそんなハイレベルな意味での「専門職」でなく、「準専門職」くらいの位置づけ狙いでいけばいける気もするが。
毎年何万人も司書資格持ってる人がいるってことは、それだけ図書館で勤めたいと考える人も(まあ全部ではないだろうが。半分と見積もっても一万人くらい? 実際は五千人くらいか)いるわけで、それに対する採用の少なさから逆算して倍率設定すれば適切なレベルでの資格試験とかは設定できないこともなさそうではある。
ただ、この場合も結局「図書館で働きたいけど働けない」問題は解決しないんだけどね(苦笑)
そもそも図書館で働く権利を得ること自体が困難になってるわけだから。


実際のところは自治体の司書職制度確立と司書資格取得の難易度上昇を同時に進めていけば今言われているような「司書資格を持っている人が図書館で働けない」問題は「図書館で働きたいけど司書資格が取れない」問題に変わり、後者は一般的に資格が必要な職種なら問題視されない事象だからいいのかな、と思うが。
あー、でも先に述べた司書職制度の問題点の方は解決されてないな、それだと。


ここら辺の話は非常に面白いんだが、現在だと(故意に今回は無視したが)指定管理者/委託・派遣などの問題も絡んでくるのでさらにややこしいね。
専門職制度の確立ってのはイコール専門職以外と専門職を差別する制度の確立のことですが、それに図書館界は耐えられるかなー、みたいな。
ここら辺の問題に直球で突っ込んでく学生って最近だといるのかしら・・・
俺は(さんざん書き散らしてあれだが)公共図書館よりは大学図書館メイン(そもそも大学図書館員は司書ではないので今回の議論だと前者の定義でしか専門職性が語れないが大学の場合は教員と事務員という区別もついてきてあーややこしい。でもこっちの話題の方が好き)なんだが。
来週の着手で誰かこっち系に切り込む人はいるのかねえ・・・?
あとは今後に期待かー?!

*1:参照:「図書館の振興:文部科学省

*2:たぶん図情図書館にたくさん置いてある

*3:逆説的にね。実際には日本が100年遅れている、と言われることの方が多い

*4:詳しくはここ参照http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/limedio/dlam/M79/M793959/4.pdf

*5:努力の詳細は「図書館運動は何を残したか」参照。図書館にあるって言ったけど、やっぱこれ手元に一冊は欲しい本だなあ

*6:いや、その分学位を同時に二つ取りやすいようにはなってるんだけどね