かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

「町の本屋」の生き残りと大型書店増加傾向への疑問


ネタ元:http://book.asahi.com/clip/TKY200708170254.html

日本書店商業組合連合会が昨年5月にまとめた書店の「経営実態調査報告書」によると、新刊書籍が「ほとんど入らない」店が50%、ベストセラーとなると55%近くにのぼった。

これは「町の本屋」には痛すぎる状況だよなあ・・・。
ちなみにネタ元では定義がないが、出版流通関係の授業の定義を引用すると「床面積300坪以下」が中小書店に該当。
そのうち市街地ではなく郊外に存在し、駐車場等を要する中型書店(「郊外型書店」)を除いたものがここでいう「町の本屋」にあたると思われる。


ネタ元でも言及されているが、これら「町の本屋」をめぐる状況はかなり深刻。
ただでさえ出版流通業界自体が不振なうえに、「町の本屋」の売上の大きな部分を占めてた雑誌やコミックについてコンビニエンスストアに客を食われ。
消費者の行動が「商店街や市街地で買い物」から「駐車場のある郊外のショッピングセンターでまとめて買い物」に移ってきたことで、ショッピングセンターに上手く潜り込んだり広い駐車場を完備している郊外型書店に客を食われ。
挙句、オンライン書店にまで客を食われ。
もうメタメタです。


そんなわけで書店の数自体は近年減る一方なのだが、反面、新たに出店する書店も結構な数があり、書店全体の総床面積は逆に増加傾向にある。
これは「ジュンク堂」や「紀伊国屋」みたいな超大型・大型の書店の数が増えているため。
これら大型書店はけっこう当たっているところが多いそうで、これもネタ元の記事中にもあるがオンライン書店にリアルな書店(店舗を有し現物をディスプレイする形態の従来型書店)が対抗するには大型化するしかない、みたいなことも言われてたりする。
で、近所になんでも揃う大型書店が出来ちゃったら、そりゃあ「町の本屋」さんの売り上げはますます減少しますよねー、ってことで「町の本屋」は益々追いつめられるのでした。


授業で一度、この「町の本屋」がこれから生き残っていくためにはどうすればいいか、っていうレポート課題が出されたことがあって、その際に色々考えたのだが、基本的には

  • 他店との差別化
  • 顧客ニーズの把握

というごくごく一般的なところに落ち着くのではないか、と言うのがmin2-flyの結論だった。
もっとも、この2つの戦略をどう組み合わせるのか、ってところが非常に難しい。
都心部みたいに日本中・・・とまでは言わずとも、顧客の範囲が非常に広いとろこでは差別化戦略は有効であり得て、実際に神保町とかには個性的な店が軒を連ねているわけだが。
「町の本屋さん」と言われるような書店の立地のイメージでこれをやると、対象になる顧客の数が限定され過ぎていて商売として成り立たないだろうことが目に見えている。
ゆえに中小書店の中でも都心部以外、一般的な地方都市の商店街や駅前にあるような「町の本屋さん」はそこを使うだろう人々の、それもあまり奇抜でないニーズに応える形にしていくことが求められるのではないかと思う*1


当たり前だが駅前/駅中では通勤途中/帰宅前の客が立ち寄るだろうから良く読まれるだろう雑誌類の品ぞろえに注意しよう、とか。
子どもの多い住宅街にあるなら絵本/児童書には若干力を入れよう、とか。
ただ、この場合も他の分野を全部切り捨ててよいかと言われれば、当たり前だがそんなわけはなく、顧客の層に関わらず売れる可能性がある(誰もが読みたがるかもしれないと思われる)本はなるべく店頭におけるようにしておかないと、「え、そんな本もないの?」→「もういいや、次からは最初から大きなところに行くかネットで注文しよ」ってことになりかねない。
というか、なる。
ではそういう誰もが「あって当たり前でしょ?」と思うのはどんな本か、と言えば・・・おそらくそれは新刊書の、それもベストセラーなのではないだろうか。
はい、やっと話が冒頭につながった。


一部の例外*2を除けば、基本的に人は「なんでも揃ってる本屋」でなくとも、「自分が欲しい本がある本屋」があればそれで十分なはずである。
実際には「客の欲しい本」を100%把握するのなんて無理だしどんな本にも需要がありうるので、大型/超大型書店みたいなのが生まれるわけだが、これらは「特殊な客の需要」まで満たそうとしているから大型化が必要なのであって、客の方も自分が探そうとしている本が普通の本屋になさそうだと分かっているから多少距離があっても超大型書店に足を運んだりするのである。
対して、ごく日常的な需要(研究に使うとかいうわけではない本)で、しかもそんなに特別でもなさそうな本(テレビや新聞で取り上げられているような話題の本/ベストセラー)であれば近所の「町の本屋」にもあるんじゃないかと考えるだろうし、あって然るべきだとすら思うかも知れない。
以前、書店でバイトをしている友達が「新聞で紹介されている本もないのか! どうなってるんだ!」みたいなクレームがしょっちゅうで困る、と言っていたが、クレーマー側の気持ちもわかる。
「この本屋(町の本屋)が明らかに皆が欲しがるだろう本を置かないでどうするんだ?」と言うのは、まあまっとうな意見だろう。
特殊でマイナーな需要もホットで客を集めるだろう需要も満たせなかったら、いったい「町の本屋」は何を売っているのか、と。
ちょっと前にブームになって今となってはなんか今更感が出てきちゃった本とかか。
そういや麻生太郎の「とてつもない日本」とか、欲しい時にはつくば中回ってもなかったけど、今は平台に山作ってるな。
そんなことやってりゃ生き残るも厳しくなるわな、と。


ただそれが(責任皆無とまでは言わないが)書店側の問題ではなく、流通からの配本事情でいたしかたないことであったとすると、なんつーかもう「町の本屋」さんはどうしたらいいんでしょうね、って感じだろう。
買い切り制にすれば問屋から買えるだろうが・・・それはそれで中小書店でやるのはリスク高いしなー。
っていうか目利きが求められるようなことが今の「町の本屋」さんにできるのかも謎だし。
大手取次も対策には乗り出したとのことだが、まだ課題も多いらしいし、その課題を克服するまでの間にどれだけの「町の本屋」がさらに店をたたむことになるのか、という話でもある。
出版不況の波はまず弱い者から叩くのであるなー。


・・・しかし、「町の本屋」の問題も大変そうだが、大型書店は大型書店であんまり数増やしすぎてもどうするんだろうな?
ああいうのはある程度数が限られているから「○○に行けば何でも揃う」ってことになって客を集め、ほかで売れないようなマイナーな商品を扱うことにもメリットが生まれるわけだが、必要以上に増加すると単に大量の売れない在庫を抱えた書店、っていうことになるのではないかとか思ってしまうのだが。
今の段階ではまだそんなに大型書店が存在しない地方に次々と出店してる、ってことなんだろうと思うが、陣取りゲームが終わった後はどうするつもりなんだろう?
特に話題になるようなこともなく普通にそこにあるものとして定着するんだろうか。
食品・雑貨の小売における大手スーパーの存在みたいに。
問題は書籍や雑誌という商品と他の大型商品店が扱う商品との差異がいったいなにを起こすのか、って当たりか?
百貨店の不振*3を数年遅れで後追いするようなことにならにゃいいのだが。

*1:ここら辺は公共図書館の蔵書構成とかにも通じそうではあるが、規模と形態の面で図書館と書店では「奇抜なニーズ」の閾値が全く違うので一緒くたには語れまい。図書館で「奇抜なニーズ」扱いされる本ってきっと本当に奇抜なんだろうし

*2:「本が好き!」とか、「たくさん本がある環境が好き!」みたいなフェチを持つ人。「一部の例外」と言ったが実際にはけっこうな数がいるんじゃないかと思う。もっとも、多数派であるかはわからない

*3:最近は持ち直してるんだよね?