かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

「公共図書館にアウトソーシングは間違っている」


*タイトルはアニメ「さよなら絶望先生」第9話「富士に月見草は間違っている」から。


9/4のアウトソーシングに関するエントリについて、意外に図書館系のブログで言及されていました。


どちらも公共図書館の視点からの外部委託*1に関する話で、ありがたいな、と思いつつもちょこっとだけ(?)再言及。


このブログでは最近、稀にしか表に出しませんが*2、min2-flyの現在の研究テーマは図書館のアウトソーシング、それも「大学図書館の」アウトソーシングです。
公共図書館のそれにも興味がないわけではないのですが、今のところあまり公共図書館について深入りしようとは思いません。
なぜかと言えば、そもそも公共図書館で下の注で述べたような「アウトソーシング」がうまいこと成り立つとは想定しにくいから。


下の注でも書きましたが、min2-flyは基本的には「アウトソーシング」と意識して呼ぶ際には、それは組織の「競争力獲得の手段」であるべき、と考えています*3
それはたとえば自社にとってリスクの高い部門を内部に抱え込まないことだったり、自社が高い競争力を持つ部分に資源(この場合は人材)を集中的に投下すること、あるいは自社の専門性の低い部分を外部の専門性によって強化することであったりするわけですが、どの場合でも根底には「競争力を高める」ことがあるわけですよ。

 
大学図書館、というよりは現在の大学においては、この考え方は導入可能だと思います。
各大学は教育面では自分の大学の魅力をアピールして学生を確保しなければならないし、研究面では優れた研究業績を上げることでその存在を国内外にアピールしなければならない。
まあそれはもともとそうだったわけですが、昨今では特に競争が求められる場面が増えている。
学生は少子化の影響で倍率下がるどころか定員割れ起こすところがざらになって来ちゃっているし、研究でもグローバル化の影響で国際競争は求められるわ、国内でも競争的研究資金やらなんやらで競争が煽られる、と。
競争相手がだれか、と言えばもちろん他の大学*4
そんなこんなで大学においては明確な「競争」が現出しているし、「競争相手」もいるわけで、「競争力を高める」ということが大きな意義を持ちうる。
だから大学図書館アウトソーシングについても当然、大学の競争力を高めるための、大学のアウトソーシングの一環・・・としても考えることができるはずなのに、現状だとさっぱりそういう文脈で語られることがない、というのが自分にとっての研究動機なわけです。


それを踏まえて、さて。


公共図書館の、あるいはその親機関であるところの自治体の、「競争相手」って、誰?
そもそも「競争」、あるの?


図書館に限ればまあその他の文化施設レンタルビデオ店や・・・が競争相手と呼べば呼べないこともないでしょうが、でも別に客を奪い合ってなにかしなきゃいけないわけじゃないし。
自治体レベルだと周辺の他の自治体が仮想的な競争相手となり得るかも知れませんが・・・大学と違って自治体は選んで生まれてくるわけじゃないしなあ。
もちろん中には「あっちの自治体(市町村・都道府県)の方が環境がいいから引っ越します!」っていう人もいるのかも知れないけど。
多くの場合、人は職業とか家庭環境の関係で居住する地域をある程度限られるわけで、住民を巡って自治体間での競争が起こる、という状況は現状ではまだ想定できないんじゃないか、と思われます*5


そんなこんなで明確な「競争」も描きづらければ「競争相手」もよくわからない環境下で(競争力獲得手段であるところの)「アウトソーシング」と言われても、実体が掴めないというか、正直本当に成り立ちうるのかよくわからない。
もちろんコスト削減とか運営の効率化、と言うものがある程度求められる環境であることはわかるのですが・・・「アウトソーシング」って語の適用範疇とは若干違う気がするんだよなあ・・・
実際、「自治体のアウトソーシング」って本も読んだことあるのですが*6、「アウトソーシング」って語の本来の意味からはかけ離れたことを「アウトソーシング」って呼んでるだけのように思ったし。
「官から民へ」を言い換えただけだろう、みたいな。


なんだかんだ言って「アウトソーシング」は企業体においてこそ大きな効力を発揮する考えなんだろうな、と。
大学はまだ適用範囲内だと思うけど、自治体までいくとうーん・・・という感じ。
誰と競争してるんだ、あんたら、みたいな。
もちろん、シャドーボクシングよろしくそういう状況下でもアウトソーシングの中で取り入れられるところだけ取り入れてうまいこと経営しよう、と言うのであればそれもありかと思いますが・・・リアルな競争相手がいない環境下での「アウトソーシング」像をうまく描かないと、ろくでもない結果になるか、せいぜい「それはアウトソーシングじゃなくね?」って言われる結果に終わるだけの気がしてならない・・・。


別に、指定管理者制度を否定したり、公共図書館への業者の関与を否定したりしているわけではなくね。
「それはアウトソーシングになりうるのか?」と言う点が、どうにもこうにも引っかかるなあ、と。


・・・や、実際はよほどうまく練り込めばアウトソーシング足りうる気もするんだけど・・・そんなに練り込むこと自体が難しいし、それはもはや一般化可能な手法ではないんじゃないかとか・・・

*1:ちなみに何をもって「委託」とよび何を「アウトソーシング」と呼ぶかは人によってさまざま。一応、min2-flyの立ち場としては安部雅博「アウトソーシングの実務」や、逸村裕・竹内比呂也編「変わりゆく大学図書館」の第14章「アウトソーシング」(鈴木正紀著)に準拠して、「業務の企画・立案と現場での指示・運営の双方を外部組織が行うもの」のみをアウトソーシングと定義し、それ以外の外注・下請け・人材派遣とは割と厳密に区別している。さらに安部雅博「アウトソーシングの実務」とゲイリー・ハメル&C・K・プラハード「コア・コンピタンス経営」をよりどころに、「コスト削減のみを目的とするアウトソーシング」はアウトソーシング本来の姿ではなく、外部の競争資源を自社に取り入れることによって自社の競争力を高めるための手段こそがあるべきアウトソーシングであると考える。この定義だと日本でアウトソーシングやってる図書館はかなり限定され、「あるべきアウトソーシング」となると皆無に近くなる。やあ、しかし長い注だ

*2:やってる最中にネタバレ起こすの嫌だから

*3:ていうか、それ以外はアウトソーシングって呼ばないか、「失敗するアウトソーシング」とか呼称

*4:もちろん競争相手=敵、というわけではないが。そこら辺は企業だって業界団体つくったり提携してみたりがあるわけで、まあ一緒か

*5:俺が思ってるだけで実はあるのかも知れませんが、住民獲得競争。しいて言えば町おこし・村おこし?

*6:「自治体のアウトソーシング」 - かたつむりは電子図書館の夢をみるか