かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

図書館総合展・3日目感想―ずっとDRFのターン!―


11/8-10と、

という冗談みたいなサイクルの中にいたために延び延びになってた総合展3日目の感想です(汗)


2日目が割と会場を細かく移動していたのに対し、3日目は朝から晩までDRF(Digital Repository Federation)のフォーラムにいました。

しかし、一般には「機関リポジトリ」なんて単語自体全然知られてないだろうに会場がこれだけ一杯になる、というあたりが土屋先生がおっしゃってた「機関リポジトリの不思議な盛り上がり」を端的に示している、とも考えられるか・・・

以下、各セッションごとの感想と、全体を通じて。

第一部 機関リポジトリの将来像を考える(基調講演) 10:30-12:00

慶應義塾大学の倉田敬子先生と、筑波大学の逸村裕先生による基調講演。
それぞれ機関リポジトリの現在にいたる状況を、倉田先生は世界的な学術情報流通の動向から、逸村先生は国内での学術情報流通政策の移り変わりからまとめられていた。
「機関リポジトリ自体がなんだかわからない」っていう人はさすがにこれ聞いただけで理解するのは難しいだろうけど、「ある程度知っているけど詳しい経緯とかは知らない」って言う人への導入部としては基調講演としてふさわしいのではないかな、とか思った。

・・・しかし、逸村先生の授業聞いた時も、倉田先生の「学術情報流通とオープンアクセス」を読んだ時も思ったことだけど・・・色々な立場の人らの複雑な目論見が絡み合った結果として今の機関リポジトリを巡る状況があるのなー。
必ずしも関係者同士が敵対しているわけではないので「呉越同舟」というとちょっと違うのかも知れないが・・・そう言いたくなるような雰囲気があるよね、話を聞いていると。
オープンアクセスと電子アーカイブ、それぞれの思惑が絡み合ったところに今の機関リポジトリがあるわけで、してみると倉田先生の言うようにこれからは自分たちがどの方向を目指すのか、ってことを意識しないで漫然とやっているとよくわからんことになりそうだ。

第二部 DRF参加大学による事例報告 13:00-14:30

「事例報告」と銘打ちつつ、その実態は各国立大学附属図書館員による寸劇3部作(笑)
1本目は北大が先生方に機関リポジトリの理念をわかってもらうために始めた、というかの有名な「寸劇」。
2本目は樽商大の鈴木さんと北大・杉田さんらをコーディネータに、小樽商科大で来週から始めると言う新文献複写モデルと機関リポジトリの関連について。
3本目は千葉大・土屋先生脚本で、日本の各機関リポジトリがROARやOAIsterなどの海外の活動と連携したり、国内事例について海外で発表したりすることの重要性について。
それぞれ、台本を演者が読む、という形式のまさしく劇っぽい形式で進んでいき・・・うーん、なんだろうね、これ(爆)
日本の国立大学図書館員は演劇が好きなのかな?
山形大の米澤さんとか面白すぎだったよ、しかし(笑)


形式の問題はさておき、2本目の小樽商科大の話あたりから土屋先生はじめREFORMの面々が乱入したり(というか土屋先生に引っ張り込まれて佐藤義則先生がPPT資料の説明をさせられていた)、質疑が白熱したりして議論としても面白いことになってくる。
ちなみに樽商大の新しい文献複写モデルとは、樽商大の先生が著者である文献については無料で複写を受け付ける、というもの。
相場が35円/枚とかで、某国立大が50円とか60円/枚で受け付けている中、無料とはまた大胆な話。
それによって樽商大の研究者の論文の複写依頼が樽商大に集中すれば、現状では把握できない(他大学-他大学での文献複写では把握しようのない)樽商大の研究者の文献需要実態が把握できるようになるし、それによって「これだけ先生の論文に複写依頼がよく来るので、機関リポジトリに掲載されてはどうでしょう?」と教員に薦めることが出来れば、結果的にはILL需要自体をいずれは減らしていくことにもなるのではないか・・・というのが狙いらしい。
なかなか面白い取り組みであると思うが、会場からは「いちいち著者所属機関を調べて依頼するのは図書館員にとって負担」とか「樽商大の著者の論文が樽商大に所蔵されてない場合は?」とか、実現過程における疑問が色々と出されていたりして、興味はあるけど疑問も残る様子。


質疑全体ではNIIへの要望/NIIからの要望や各実践例の詳細についてなど、割と万遍無く話が盛り上がる。
やっぱ寸劇が緊張感をほぐして口をやわらかくする効果もあったのかもなあ・・・うーむ、あなどりがたし・・・

第三部 パネルディスカッション 15:30-17:00

千葉大・土屋先生を座長に、栗山正光先生(常盤大)、佐藤義則先生(東北学院大)らの先生方と、Springer Japan、Elsevier Japanら商業学術出版社、IOP英国物理学会、日本化学会など国内外の学会出版の代表者の方々、それにSCPJ(Society Copyright Policies in Japan. 日本の学協会の著作権ポリシーを調べて公開するプロジェクト)*1代表ってことで筑波大図書館の斎藤未夏さんをパネリストに迎えたディスカッション。
・・・最初、パネリストだけ見た時は、近くに座っていた先生と「図書館サイドによる学術出版社の吊るしあげに斎藤さんが巻き添え食らうんじゃないか」、なんて冗談を交わしてたりもしたのだけど(笑)
実態は、むしろ学術出版による「出版はそんな甘いもんじゃねえ!」的なお説教タイムの様相を呈してきていたような(爆)
日本化学会の代表はSPARC-Japanでも活躍されている林和弘さん、と言うことで押し負けることはないだろうと最初から思っていたけど・・・他の出版系の皆さんも、引かないばかりか攻める、攻める。


いくら査読者が対価をとらないって言ったって査読者を組織してきちんと回すのにかかるコストは馬鹿にならないだろうし、DTPにかかるコストだって相当なもんだろうから。
いくら原稿がボーン・デジタルって言ったってそいつを編集して整形して外に出すのはけっこうな手間なわけで。
ましてテキスト形式版も出す、なんて言ったら・・・って考えるとそうとう面倒なもんがあるよな。
もちろん、いったんフォーマットが出来てしまえばあとはそんなに難しくないのかも知れないが、この場合は出版サイドで実際にかかる手間ではなく仮に研究者が自身でやる羽目になった場合にかかる手間を考えねばならないわけで・・・うん、どう考えてもメンドイ。
っつーかそれがメンドイから商業出版や学会における出版担当部門が成立するわけで・・・ってことを考えると、「研究者に望まれたからやっているんであって逆ではない」っていうElsevierの方の発言は至極もっともっちゃあもっともな話。
「『学術情報流通を研究者の手に取り戻せ』って、もともとあんたらが望んで手放したんだろうがよ」、みたいな。
その意味ではIOP英国物理学会の亀田さんのおっしゃってた「査読も図書館間で連携して、原稿を機関リポジトリで発表する、って言うのならばそれでもいい。それは図書館が出版側になるだけだ」って言うご意見も、至極もっともな話。
その先に「それは図書館の役割ではない」と続くと、さて、ではそもそも大学図書館の「役割」ってなんじゃ、と言う風に続いていくのでそれは泥沼になりそうな気もするが・・・
あるいは日本化学会の林さんが提唱されたスタンプ形式(機関リポジトリに搭載された原稿について、出版側が査読の枠組みを通して受理・却下を決めていく形式)も実現してみれば案外面白いかも知れないが・・・図書館側がしかるべきコストを負担するのであれば。


まあ、結局は第一部の基調講演に立ち帰って、「機関リポジトリ」ってものを「オープンアクセス」の枠組みだけから捉えるべきなのか否かを図書館はよく考えるべき、ってことだろうね。
「皆が無料で論文を読めるようになる!」って言うと聞こえはいいけど、その実態が「でも論文を発表するには凄いお金か手間がかかる!」ってことなのだとしたら、本当にそれでいいのかは慎重に考えないといけないだろう、とかなんとか。


・・・個人的には学術雑誌掲載論文の搭載も勿論やってくれて構わないんだけど、それ以上にとりあえず紀要論文や国内学会誌でまだ電子化されていないものの搭載の方に重点を置いて欲しい、とか思ったりもするんだけどね・・・
電子ジャーナルが割と潤沢に使える国立大学のエゴなのかも知れないが。
しかし手前の大学の紀要もろくに電子化してない身で人さまの出版物に「オープンなアクセスを」とか言えるのかよ、とかなんとか。
ILLにかかる手間はどっちも(電子化されてなくて所蔵のない紀要論文も、電子化されているけど購読してないジャーナル記事も)一緒じゃい。


全体雑感

〆で土屋先生が(結局、まとまりのないまま時間切れになったことについて)「これが日本の機関リポジトリの状況をあらわしている」とおっしゃっていたが、その通りなんだろうなあ、とかなんとか。
オープンアクセス/電子アーカイブ、と言う大きな2潮流に限らず、さまざまな勢力/団体/個人のあらゆる思惑が混在していて、この先どうなるかがよくわからない状態。
最終的にどこに落ち着くのか、が見えてくるのはまだまだ先なんだろうなー。