かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

図書館で飲み物を売って儲けるとしたら?


ちょっと前に流行っていた図書館有料化議論のまとめ、第3段をid:kunimiyaさんがアップされていました。

で、こちらを見て初めて知ったのですが、こんな記事がアップされていたのですね。

公共図書館は、
おそらく誰にも動かせない。
ただ朽ちるのみ。

もしも動かせる誰かがいるとしたら、


やるべきことは2つ

館内での飲み物・食べ物の自由化
複数の図書館の蔵書の合併



☆館内での飲み物・食べ物の自由化にさいして

入館料や年間費を取るのではなく、
館内で飲み物・食べ物を売ってお金を稼ぐのです。
(館内への飲み物・食べ物の持込は禁止する

蔵書の合併の方はブックマークコメントでも「ILLはどう捉えているんだ?」って突っ込みが入っていたりしましたが、まあ置いておいて。
入館料ではなく、飲食物の販売によって収益を出そう、というモデルの方は面白い気がする。
実際、海外の例を出すまでもなく日本の図書館でも館内に自動販売機置いているところはある(いわゆる「ゲート内」にあるところもある)し、近々筑波大にも図書館喫茶が出来るということであるので、これが仮に図書館が直営で売り上げを図書館費に繰り入れることが出来たらもしかするとけっこうな収入になるのかも知れない。


「しかし飲食物売って稼ぐって言ったってそうそう上手くいくのかよ?」ってのは当然の疑問。
元記事さんでは館内を居心地のいい空間にすることなど色々提案されているのですが、そっちのコストまで考えると面倒なのでとりあえず端的に「図書館で飲み物を売ってもうけられるのか?」という点について考えてみたい。

1.単純計算モデル

まず難しいことは考えずに、「仮に図書館の入館者が皆飲み物を買ったとして、それってどんくらいの額になるのか?」ってことを考える。
しかし残念なことに公共図書館の入館者数の全国的な統計ですぐに入手できるものはない。
そこで申し訳ないがここは一つ、統計資料を公開されている山中湖情報創造館さんのデータに基づいて計算してみることに。


山中湖情報創造館のwebページで公開されている利用統計によれば、平成18年度の山中湖情報創造館の総入館者数は133,238*1
仮にこの全員が毎回、1本120円の飲料を購入して飲んだとすると、その場合の収益は

133,238 * 120 = 15,988,560円

1,600万円
お、なんかこれは「十分に資料費くらいは賄える額なんじゃねーの」という気がしてきたぞ。
ちなみにいつもの『日本の図書館 統計と名簿』の2006年版*2によれば2006年の公共図書館の資料費の平均は10,642,361円くらい(総資料費/総図書館数で計算)。
実際の情報創造館の資料費がいくらかわからない(『日本の図書館』の冊子版を見に行けばわかるが・・・例によって深夜なので・・・)が、1,600万円あればけっこうペイできることは確かそうだ。
情報創造館はもともと有料化議論の火付け役である丸山さんの働かれているところでもあるところだし*3、すでにライブラリーショップが設置されていたりすることも考えれば、飲料の販売についても現実的に考えることが出来るかも知れない。


2.喫茶店モデル

とは言うものの。
冷静に考えて、単純計算モデルの計算は原価も考えてなければ販売コストも考えていない。
自販機の飲料の原価は40〜45円程度*4だと言うからこれだけで上の資産額の2/3程度にはなるし、自販機で売るにせよShopで売るにせよ前者は自販機の電気代+設置コスト、後者は冷蔵庫のコストなどもかかるのでさらに金額は目減りするだろう。


そこら辺のコスト計算を正確にやりはじめるとまた面倒そうなので、ここではてっとり早く現実の喫茶店との対比で飲料販売モデルについて考えてみる。
サンプルはわれらがスタバックスコーヒージャパン
Wikipediaでさっき(2008.1.13 23:00)調べたらもう筑波大附属図書館にオープンすること書いてあるのね。


さて、日経テレコン21*5で調べたところ、2007年3月期決算におけるスターバックスコーヒージャパンの経常利益は5,135,000,000円、うち営業利益は5,042,000,0000円。
一方、同期の店舗数は602店舗なので、これまた単純に計算すると

5,042,000,000 / 602 = 8,375,415

840万円くらいが1年間の1店舗の利益となる(利益、なのですでに人件費等のコストは除かれた額)。
単純計算での試算に対すると半額くらいになっているが、それでもまあ結構な額ではある。
前述のとおり公共図書館の資料費平均が1,000万円ちょっとであることを考えると、減額分を補うには十分な利益であると言っても良いかも知れない。


全国チェーンどころか国際的なショップである天下のスターバックスであることを十分に考慮しないといけないわけだが・・・まあ、全く問題にもならないような額ではない、ということは確かなようだなー。
っていうかこれならけっこういけるんじゃね?
もちろん図書館最大のコストであるところの人件費を賄うには全然足りないので、飲食販売モデルだけで自立した図書館経営をするのは相当よく練らないと難しそうだが、さしあたり資料費の減額への対応とかくらいなら(公費による図書館運営を補助するものとしては)利用者から直接金をとるよりも遙かに受けが良さそうだし。
資料の利用に対価とってないから図書館法触れないし。


もっとも、間に企業をかませるとマージンがばっと抜かれるので自治体行政が自力で運営するか、あるいは図書館運営を担っている指定管理者が自らショップ展開しないと意味がない、と言うのが痛いところではあるが・・・そういうこと出来るのかな、今の日本・・・