かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

来館利用が増えることは(少なくとも筑波大にとっては)必ずしもいいことではない・・・とかなんとか


「あとでトラックバックします」とコメント欄に書いておきながらずいぶん遅くなってしまいましたが、Cheekz Logsさんの先日のエントリに関するコメントエントリです。


以下、引用符内はCheekz Logsさんの記事の引用部分。

公立図書館の費用対効果

日本の図書館に関する費用対効果などを示したデータが欲しいと思ったのですが、図書館界隈の方々は認知していないようでしたので、自分で探してみようと思います。探す傍ら、ネタを見つけたら、コメントを書くような感じで。


費用対効果や公立図書館の効率性に関する研究としては、筑波大だと池内淳先生、田村肇先生あたりがやられています。

(どうでもいいけど典拠コントロール出来てるのかこれ?? CiNiiって典拠コントロールないんだっけか?)


ただまあ、今のところは仮想評価法(図書館にいくらまでなら払ってもいいか、を尋ねる調査法)や貸出冊数を最大化する/あるいは最も効率的に行う規模を求める等がメインで、「何円つぎ込むと何円のリターン」って話まではまだ出てきてなさげ。
海外だとそういう研究もあるそうで(そこら辺は上の池内先生の「動向レビュー 図書館のもたらす経済効果」に詳しい。CiNiiからは直リンクしてないけど掲載誌のカレントアウェアネス自体はwebで見られます。)日本でも今後に期待、って感じではあるのだけれど・・・なんだかんだ言って、ニーズが多様で利用者がとっちらかってる公立図書館で「効果」測定するのって難しいんだよねえ・・・
その点ではまだしも機能が限定されていて利用者が限られている大学図書館の方が効果測定はやりやすいかも知れない。


仮に大学図書館で利用料金をとった場合について

で、2005年の入館者数が103万6752人であったので、単純に割り算すると・・・770.435938円!

滞在時間が2時間を越えれば、漫画喫茶と変わらない金額。館内で飲食可能であり、快適な椅子があれば払います。

この結果からさらに逆算すると構成員全員が年間45回くらい利用するとすれば年会費モデルと来館利用モデルがイーブンになる。

来館者数目標設定として、こういうアプローチはありだと思う。また、目標としても現実的な数字のような気がする。

うーん、ここら辺は人によって考え方が割れるかも知れないけれど・・・
そもそも筑波大の附属図書館は滞在型の図書館を目指すべきなのか、ってのが焦点の一つかと。
筑波の場合、研究支援と学習(教育)支援機能によって図書館を分けることをしていないので*1、両方のユーザがごっちゃにいるわけだが。
こと研究者(特に自然科学系)に限って言えば、「来館者が多い」ことや「滞在時間が長い」ことが必ずしも誇らしいことかと言えばそうじゃないよね。
電子ジャーナルがここまで進展した状況下でわざわざ図書館まで行く、って利用者については、もちろん「図書館を使いたいから」っていうポジティブな利用も考えられる一方で、「図書館に行かなければいけないから」っていうネガティブな理由による利用者もいることも当然想定しなければならない。
欲しい雑誌の電子版がない(契約していない/存在しない)とか、学外端末からアクセスできないけれど学内で長時間占有できるオフィスがないからとか、そういう利用者については図書館に来ないでも済むように利便を図るのがむしろ現在においては図書館の重要な課題であると言える。
ぶっちゃけ、たとえ同じ建物の中に図書館があったとしたって、多くの研究者は自分の使う資料を見るためにわざわざ図書館まで出向かなければならないなんて億劫でならないんだよ。
まして紙媒体の資料をわざわざコピーしなければならないなんて(院生にやらせるとしても)どんだけ手間なんだよ、と。
参考図書の類も、借り出せないから図書館内で使わないといけないなんて面倒臭くてしょうがない。
頼むから全部電子化して自分の研究室から閲覧できるようにして欲しい。
物理的な図書館に来館する回数なんて少なければ少ないほどいいに決まっている。
歩いて図書館行ってコピーとるのだってコスト(人件費)なんだから。
(そんなこともあって、筑波大学では教員向けにはe-DDSサービス(必要な文献をPDF化して図書館に行かなくても使えるようにしてくれるサービス)が始まったりしているわけだが。学生はなあ。校費持ってないから決済面倒だろうし、しばらくは提供して貰えないだろうなあ・・・)


滞在時間についても同様で、もちろん学習利用などのために長時間滞在している場合はいいんだけれど、単に目的の資料が調達できない/発見はしたもののコピーに手間取って滞在時間が伸びている、っていう場合については滞在時間の長さ=利用者にとってのタイムロスでしかあり得ない。
この点において、図書館にいる時間は短ければ短いほどいい。
そんだけさっさと用事が済んだ、ってことなんだから。


そんなわけで、こと筑波大学附属図書館において館内の快適性を高めるために来館利用に料金をとる(それも700円/回!)ってモデルは完全にナンセンスだろう、と。
もともと行きたくないところに仕方なく行って金まで取られるってなんじゃそりゃ。
どうせすぐ帰るのに。っていうかすぐ出たいのに。
どんなに図書館が快適だろうが、自分の研究室で研究した方がはかどるに決まってるじゃん。
研究室は占有スペースなんだからカスタマイズし放題だし。
もともとお菓子も食えるし茶も飲めるよ!
必要ならばご飯だって炊けちゃう。
最後のは明らかに効率性を妨げている気は若干しているけれど。


まあもちろん、たまに教員がリラクゼーションしたいときに使うことを想定する、ってのも考えられるし、ラーニングコモンズみたいな利用者間でのコミュニケーションとかを前提とする(来館利用それ自体に価値を持たせる)取り組みは今までの議論とは全く別の価値がある(むしろこの先「館」が生き残っていくにはそっちの価値を押し出すしかない)と思うが・・・それらの取り組みで増えた(ポジティブな)来館者数と、前述のネガティブな(本当は図書館に来たくない)来館者数の比率が今の筑波大だと取りようがないはずなので、来館者数を目標として設定することはやや問題があるし、滞在型を前提として図書館について議論するのもまた問題かも、とか。
その意味では、ことの発端になった「筑波大附属図書館内のスペースはがらがら」って問題は、ある意味では附属図書館が果たすべき役割をきちんとこなしている結果である、と言う風にも捉えられるかも知れない。
実際はどうだか知らないが。
教員の来館利用が減っていれば確実にそう言っていいはずだけれどね。
学生については・・・皆が皆、占有できる研究室を与えられているわけではない(特に人文系)はずだし、同じく人文系については電子化はさっぱりだわ図書利用がメインだわで図書館に滞在せざるを得ない現状があるので、こちらについては必要以上に来館者が減っている場合、ポジティブな来館者が減っていることが危惧されるか・・・
それらの学生に対して快適な作業空間を提供する(あと研究室がまだない学群1〜3年生くらいにも)、っていうのもまた図書館にとって重要な役割であるはずなので、そっちの機能が果たせていないとしたら問題だな(っていうか研究室のない文系って皆どこで卒論書いてるの? 家? コ○ス? それこそ図書館?)。
ただ、そっちのために全体から金を取れば図書館になるべくいたくない層から反発を買うし、かと言って滞在型利用者のみ対価を求めればそもそもの根幹にある研究室の不平等問題(自由に使える研究室を持つものと持たざるものの格差)からやはり反発を招きそうだ。


色々あるけれど・・・一つ言えることは、今や物理的な「図書館」は図書館の一側面にしかすぎなくて、それを利用している/利用していないと実際の図書館利用(資料あるいはスタッフの労働による成果の利用)の有無って全然一致しなくなってきているんだよね。
間違いなく一番の金食い虫であるところの電子ジャーナル(7億の決算のうち何億が突っ込まれているんだろう。それとも図書館予算とは別枠だったっけか?)のヘビーユーザは、物理的な図書館には来ないし。
情報提供や教育/研究支援を行う組織と、それらの機能がこれまで提供されてきた場を指す名称がどっちも「図書館」なもんだから話がややこしくなるんだよなー。
"Physical Libary"と"Library Function"とかに分ければいいのか?
なんか「リアル書店」と「オンライン書店」みたいでそれもあれだが・・・リアルもなんももともと「書店」は物理的な建物だろうよ、とか・・・はてさて。





あ、もちろん以上すべて自然科学(というかSTM=Science、Technology、Medicine)系を中心とした研究重視型の大学で学生向けの図書館を別置していないタイプの大学図書館に限定した(ほとんど筑波大に限定した?)話、ってことで。
公共図書館とかは全然話が変わってくるし、逆にばりばりの研究図書館でも(より電子利用に先鋭化しているという意味で)状況はまるで異なると思うよ。
もちろん分野によっても異なるし、雑誌利用について国内誌がメインか国際誌がメインか、ってところでも変わってきそうな感じ。

*1:そもそもここまで大学院教育の進んだ大学においては「学習=研究の入門編」であるはずだしあるべきだと思うので当然っちゃあ当然だが