かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

「柔軟な本選び」か、それともただの責任放棄か


ネタ元:http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200802090061.html

 大学図書館が購入する本の一部を学生たちに書店で選んでもらう「ブックハンティング」が、西日本の大学を中心に広がっている。ベストセラー小説や旅行ガイド、実用書など、これまでの大学図書館にはあまりなかった本が次々と蔵書に加えられている。インターネットで簡単に資料を調べられるようになるなか、図書館離れを食い止めるとともに、大学の魅力づくりに役立てたいというねらいもあるようだ。


学生による選書の試みが最近色々出てきている(min2-flyが知っているのは西ではなく東の話だったが)っていうのは以前から知っていて、基本新しもの好きの自分としては「それは面白そうだなー」とか思っていた。
記事末尾には筑波の図書館情報メディア研究科の永田教授のコメントが寄せられていて、

「日本の大学図書館は欧米と違って授業との結びつきが薄く、学生が足を運ぶ回数が少ない。ブックハンティングは、学生の図書館利用の足がかりとして意義がある。学生のニーズを反映させながら、教育に必要な図書を充実させていけるかが課題だ」

「うんうん確かに、これをきっかけに図書館に興味持つ学生が増えて、それを教育につなげていければ良いよなー」とも思った。


あるいは、記事中での以下の学生のコメントを見ても

藤原詩織さん(19)が選んだのは「『もうひとりの自分』とうまく付き合う方法」。「就職活動中なので、将来を不安に思うことも多い。背中を押してくれる本に目がいきます」

「あー、就職活動に役立ちそうな本とか、自己啓発本とかは大学図書館にそんなに入らないだろうしね。そういうのを学生目線で選べるのは良いなー」とも思う。


でもさ。

数学や経済などの専門書のほか、映画化された「クローズド・ノート」(雫井脩介)、テレビドラマ原作の「鹿男あをによし」(万城目学)などのベストセラー小説がずらり。旅行ガイド「地球の歩き方」なども並ぶ。高杉和代・図書課長は「柔軟な本選びができた。これを機に利用者が増えてくれれば」と期待する。(高松大)

 07年は留学生を含む26人が参加し、約1100冊を購入した。学生が選んだ経済関係の蔵書を見てみると、「ヤバい経済学」「ミリオネーゼの起業入門」など目を引くタイトルの本が多い。(大阪産業大


地球の歩き方」だのベストセラー小説だのタイトルで目引く系の経済書だの、わざわざ学生によるブックハンティング組まなくても、従来の蔵書方針にないけど学生受けの良さそうな本を入れる、って決断さえ図書館サイドでしてあるなら自力で選書できるんじゃねえの、と思うんだが。
いかにも図書館側では考え付かないようなニッチな需要でしたー、ってんならわからないでもないが、ベストセラーや旅行ガイドに人気が集まることくらい、学生に聞くまでもなくわかりきっていることなのでは?
なんか「学生によるブックハンティングで選んだ本だから」って言い訳をつくることで、それまで「大学図書館にはふさわしくない!」とか批判受けかねなかったような本を図書館に置く責任逃れをしているようにも思える。
ただでさえ大学図書館の選書権なんて教員サイドに握られている部分が多いのに、純粋な学生向けの部分(授業内容とは直接関係しないような学生向け図書)の選書すら手放したら図書館員は会計/受入処理以外の何をするんだ?
ブックハンティングの試み自体は面白いし、それで今まで思いもよらなかったようなニーズを拾ったりできるならそれはいいことだと思うが、結果がベストセラーばっかり、となると別に学生に選ばせなくても週刊売上ランキングなり書評サイトなり見て買えばいいじゃん、とか思うのだが。


もっとも、対象となる冊数/金額自体そう多いわけじゃない*1ことを考えると、そもそも選んだ結果よりは「学生が選書に参加した」って過程の方を重視しているんだろうが。
そっちメインで考えるなら、参加者が後で自分が選書した本の貸出状況*2について聞くことができるとか、アフターフォロー的なこともやっていくとより図書館への興味/関心/親しみが湧くのかもな、とか思うが・・・行きつく先は図書委員会? 
一部の学生の趣味にとどまらず、全体に波及することが大事な気もするが・・・





・・・ぶっちゃけ、ベストセラー入れるより1年次の必修/通年の授業で毎週図書館で本借りないと完成できないようなレポート課す方が貸出数も伸びるし教育効果も高いと思うけどね。
「授業との結びつきが薄く、学生が足を運ぶ回数が少ない」なら授業との結びつき濃くすりゃいいのに、とかなんとか。
そういう連携を取ろうとするのは日本の図書館員/教員は嫌いなのか??
まあ指定図書制度が一部の大学除いて大コケしたお国柄だしなあ・・・ってあれは導入の方法に色々問題あった気もするが・・・

*1:高松短期大の場合、3万円×7人で21万円? 日常生活ならえらい額だが大学図書館スケールで見ると大した額でもあるまい。そこそこ値のはる学術雑誌1年購読したが利用がゼロだった、とでも思えば。

*2:回数とか