かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

小学生は犯行予告とかすんな。絶対すんな。


なにやら「小学生はガンガン犯行予告すればいいよ」エントリと「そんなこと冗談でも言うなー」エントリが、最近まで地味に盛り上がっていたのが急にホッテントリに入って注目を集めているようです。


そもそもの発端は埼玉県の小学生がニコニコ動画ので埼玉県の小学生を殺す、という趣旨のコメントを書き込んで、実際に埼玉県の小学校では集団下校等の措置が取られ。
一方、ニコニコ動画の利用者から通報を受けた警察は小学生に事情を聞いた上で、児童相談所に通告した、という事件らしい。


とりあえず日刊スレッドガイドが犯行予告ではなく小学生がニコニコ動画を利用していること自体への反応で満ちているのはさておき(苦笑)

 調べでは、女児は2月15日午後7時半ごろ、自宅のパソコンから「埼玉の小学生の女子を2月29日13時に殺します」と書き込んだ疑い。埼玉県内の小学校では、児童を集団下校させるなどの影響が出た。

 女児はパソコンに詳しく、動画投稿などで人気のサイト「ニコニコ動画」上に、自室のパソコンから同じ文章を10回程度書き込んでいた。
 (NIKKEI NETの記事より)

「パソコンに詳しいなら自室から書きこんだら特定されることくらい知っとけよ」とかいう突っ込みもさておき、あー、まあ1回2回くらいならともかく、10回もそんなコメント流す奴がいたら不気味に思って通報する奴も出そうではある。
これがSchoolDaysのMADに「誠氏ね」って書きこんで通報⇒逮捕とかだったら全力で擁護に回るところだったかも知れんが。


閑話休題


で、「ガンガンすればいい派(限定あり/なし)」がガンガンすればいい、という理由も人それぞれでそれらを一つ一つ見ていくのは大変なので各エントリを見ていただくとして。
自分が気になった点としては、以下のあたり。

これは唯一の均衡ではなく、揺さぶれは動く均衡だ、みんながみんな一斉に犯行予告をし始めれば、これはもう対処のしようがないわけだから別の均衡点に移るしかなくなる。その均衡点とは統治者は何も対処しない、被統治者は犯行予告しまくるという均衡だ。
http://d.hatena.ne.jp/Muichkine/20080304/1204640744#tb

ところが、「小学生はガンガン犯行予告とかすればいいと思うよ」を読むと、

ここには、その馬鹿馬鹿しさを変えていくことのできる方策が書かれていたわけである。

このエントリに対して、僕が素朴に感動した、というのはそういうわけだ。

つまり、社会というのは*3変えられるのである。

僕が一人でこそこそつまらん犯行予告計画をたてても社会はこれっぽっちも変わらない。

しかし、「小学生がガンガン犯行予告」をすると、社会は変わるかもしれないのだ。

だから実際に、本気で見てみたいのだ。
小学生はガンガン犯行予告とかすればいいと「本気で」思うよ - logical cypher scape2

このエントリのタイトルに「ある意味で」と付いているが、どういう意味で犯行予告の量産に賛成なのかと言うと、ガンガン馬鹿なやつがネットで犯行予告なんぞしてくれれば、ガンガンそうした馬鹿な奴は警察にしょっ引かれて、結果としてネットから馬鹿なやつが減る、しかもそれは犯行予告という実質的には「無意味な」行為が排除されるものであり、全体に対する影響は無いに等しい。全体にはそれがあろうがなかろうが大きな影響を持たない行為によって、馬鹿なユーザーが消えるのである。素晴らしい。
小学生はガンガン犯行予告とかすればいいと「ある意味で」思うよ。 - 絶倫ファクトリー

そんなに上手く行くかなあ?
最初のid:Muichkineさんのエントリでは統治者は「対処しない」という均衡を想定しているし、最後のid:klovさんは犯行予告をしたユーザーがしょっ引かれることで馬鹿なユーザーが消える素晴らしさを説いているが、自分はちょっとそこまで楽観的にはなれない。


例えば、最初の小学生女子児童による犯行予告事件へのブックマークコメントを見ても

「少なくとも小学生くらいはネットを規制するかキッズなんたらを経由させるべきだと思うんです。まあそれを回避出来る子なら,あほの子よりはマシにネットを捉えられると思うんです。エロ目的でも英語は覚えますしね。」(id:akibanagitoさん)


「 同様の事件が多発し過ぎです…。10歳か…当時をギリギリ思い起こせる年齢だからなぁ。小学生から違法含み動画はいかがなものか。監視付きネットにしとけ。」(id:tailtameさん)


「小学生が2chやニコニコの文化に影響されまくって「小学生殺す」って…親はどんだけネットに無頓着なんだ。犯罪多発地区にガキを置いてけぼりにするようなものだろ。少しは管理しろや」(id:nam323さん)
はてなブックマーク - ネットに殺害予告 女児を児童相談所に通告 - MSN産経ニュース


あるいは日刊スレッドガイドへのコメントの反応を見ても

※3. Posted by   2008年03月04日 13:08
いいかげんネットは規制したほうがいいだろ


※11. Posted by   2008年03月04日 13:21
この書き込み見たな
誰も反応してなくてワロタが捕まるとはね
ニコニコはニュースで扱うようになって一気にゆとり化が進んだな
政府はいい加減子供にネットさせるのやめさせろよ


※14. Posted by   2008年03月04日 13:28
ニコニコ年齢で規制したらいいのに


※19. Posted by . 2008年03月04日 13:34
ニコニコにはイジメだろうと思われる動画がいくらかあるのを見たな。住んでる地域、実名、写真入りで流してる悪質なのももあった。流石にそれは運営と教育委員会、警察に通報したわ…。
その後うp主が削除したがどうなったんだろ?指導を行なってくれただろうか…実名写真晒された子が可哀想だった。ようつべにも上げたみたいだし。
本当もう子供はネット禁止にしたほうがいいよ。ろくなことない。


※29. Posted by 2008年03月04日 13:51
○君が死亡 でググってみ。今は消されてるが、これもイジメのような実名入りの小学生が作った動画だった。
ただ米が「通報しました」「タイーホ」だらけ。その動画罪になる可能性を指摘した米もあった。
ニコニコにはまともな人もいるんだけどなぁ…一部の沸いた奴のせいでおかしくなる。
ネットを子供に教えるもんじゃないな。

http://guideline.livedoor.biz/archives/51045409.html、どうも本名っぽいものが書いてるところだけ年のため一応修正)


ってな感じで、小学生のネット利用(あるいはニコニコ動画利用)自体の管理・規制体制を強めるか、いっそ小学生はネット禁止にしてしまえって意見が出てきている。
もちろん実際にはそうじゃないコメントも沢山あるので決して規制派が強いってわけではないが、無視できない数ではあるし、もし小学生がガンガン犯行予告はじめた日にはそれがいっそう増えることもありうるわけで。
つまり統治者は「犯行予告に対して何もしない」というオプションの代わりに、「小学生はそもそもネット利用を禁止または著しく制限する」というオプションが取り得る、と。
昨今、ただでさえ有害サイトやらフィルタリングの必要性やらが問題になっている中で、「特に有害とは見なされないが書き込みはできるサービス」(はてなダイアリーはじめ多くのブログはそうだな)使った犯行予告が氾濫しようもんなら(ニコニコ動画はどう捉えるか難しいところだ・・・)子供のネット利用自体ある程度の規制をかけよう、っていう意見にますます論拠を与えることになる。
その際、万が一にでも韓国式の方法でも取られようものなら、利用登録性のサービスについてはそもそも匿名性自体が廃されることにもなりかねない。

なお、殆どのサイトの利用者登録に住民登録番号を必要とすることにより、インターネット上の無記名性を廃した。特に無記名性を維持した国と比べると電子政府に関するサービスの幅が大きく評価が高い。
韓国のインターネット - Wikipedia

(まあ今だってそれこそIPから特定するなりなんなりで実際は言うほど匿名じゃないんだけどさ。)


小学生がガンガン犯行予告することによって犯行予告が無意味化する前に規制を一層強められる可能性があるわけで、しかもその際には本来はインターネットが使えたって犯行予告なんかしない多くの小学生も巻き添えくらって規制の範疇に置かれる、と。
っていうかこの手の流れ(ツール・サービスを悪用する奴がいるからツール・サービス自体に規制をかけられて悪用しないユーザーまで煽りを食らう)はもうさんざん目にしてきたじゃん。
P2PしかりDL違法化しかり*1
その際、どんだけ「不適切な利用を制限できないからって適切な利用者にまで縛りを設けるのはおかしい」って主張したってなかなか統治者サイドに受け入れさせられないってことも経験済みなわけで・・・何もそんな危険性を増やしかねないような賭けを推奨せんでもいいのではないか、と。



sakstyleの以下の主張には自分も賛同する部分も多いのだけれども。

罵倒語のゲームないし犯行予告のゲームが、その馬鹿馬鹿しい取り締まりによってできない、というのはどうなのよ、ということだ。

そういう取り締まりによっていくつかのゲームができなくなる社会よりも、様々なゲームが自由にできる社会の方が望ましいと、僕は思っている。
小学生はガンガン犯行予告とかすればいいと「本気で」思うよ - logical cypher scape2

でも様々なゲームが自由にできる社会を手に入れるための賭けの結果として、「そもそも子供はゲームができなくなる社会」を招く危険性があるならば、この賭けはあまりにハイリスクだと自分は思う。
ニコニコ動画で『○県の小学生を○月○日○時に殺します』というゲーム」をする自由を手に入れるために「ニコニコ動画で『誠氏ね』とか『ウッウーウマウマ(゚∀゚)』というゲーム」すら手放すリスクを負うのは、少なくとも自分が小学生だったら嫌だ。
そのせいでwebリテラシーの足りないまま大人になる奴が増えて、結果成人のネット利用まで大きく規制されるように・・・なんて事態にでもなろうもんなら目もあてられない。


そんなわけで、自分としては声を大にして主張したい。
小学生はネットで犯行予告なんかすんな。
絶対すんな。
その戦法はリスクが高すぎる、犯行予告ゲームができる社会を実現したければもっと別の手段を考えた方がいい*2





・・・しっかし最近のうちではまれに見るくらいに図書館と関係ないエントリだなこれ・・・
いや、当初は図書館情報学的に犯行予告について考えようかとも思ったんだけど、ニュースソースの一つでだいたいそっちからのアプローチの答えは出ちゃっているので。

ネットジャーナリストの井上トシユキ氏は「携帯電話の書き込みをめぐり、2004年に長崎県佐世保市の小学校で起きた同級生殺人事件から、このような現状は予想できた。これほど子どもがネットに親しんでいる以上、大人がいくら規制しても意味はない。それよりも裏側の情報が持つ意味、危険性をしっかりと伝えることが必要ではないか」と語った。
Expired

情報を鵜呑みにせず、すべての情報には発信者のなんらかの意図があること、あるいは自分が発信者となる場合にはその情報がどのような相手にどう受け取られてどんな影響を持ちうるのかってのをよく考えること。
そういうことが出来るような子供をいかしにして育てるかを考えることは、図書館情報学なり情報リテラシー教育なりの大きな役割である、とかなんとか。
元記事で言えば、「いたずらで面白半分にやった。こんな騒ぎになるとは思わなかった」の「こんな騒ぎになるとは思わなかった」の部分をどうにかしよう、と。
大騒ぎになることを予想していて、かつそれによって自分およびコミュニティにどのようなリスクが降りかかるかも十分に理解した上で、それでもなお自分の求める何かを実現するために「犯行予告をする」という選択肢を選ぶ者については・・・「犯行予告をする」という選択肢がその者の目的実現にとって適切であるとするならば、うちらの範疇ではない気がする(「犯行予告ゲームが自由にできるような社会を実現する」ことが目的ならば、少なくとも自分は「小学生がガンガン犯行予告をする」は適切ではないと思うが)。




・・・しかし、こうして見るともしかして一番統治者を信用してないのって全エントリの中で俺なのか・・・?
「均衡を崩された場合、次も統治者がナッシュ均衡になるような最適解を選ぶとは限らない」って言ってるようなもんだしな・・・もんなのか? ゲーム理論はよくわからない・・・ちゃんと勉強しようとは思っているんだが・・・

*1:まあDL違法化は実刑はないが

*2:犯行予告ゲーム自体の是非についてはまた別に考えたいが・・・今のところの予想としては、絶対にこのゲームはルールを守らない奴(対象を匿名ではなく特定できる個人あるいはグループに先鋭化しようとする奴と、実際に犯行を実行することで「犯行予告の有無と犯行の実現に相関がない」前提を崩そうとする奴)が出てくると思う。特に後者で注意がいるのは「自分を含むグループを殺すと宣言した上で実際に自殺する奴」と「他人の犯行予告を実行に移すことで『犯行予告をする』という行為に本来なかったはずの意味・情報を持たせようとする奴」。予告後自殺の方は「犯行予告どおりに人が死んだ」という状況を演出してみせることで実際には意味を持たない犯行予告があたかも有意味であるかのように見せかけられることにより、社会に混乱を与えられる。一人二人ならしばらくは気づかれないかも知れないが、このルール破りを行う奴が多数現れ出すと危険。他者予告の実現の方はより危険で、「犯行予告=殺人対象を選ぶ際の指標」とすることで予告文に意味を持たせ、ゲームのプレイヤー全体に加害者となる可能性を持たせられる(自分ではやるつもりなんかなかったのに、「お前の予告を見たから実際にやってみたんだ」とか言われたらどうするか。ホラーの類ではよくある話だよね、冗談で「○○死ね」って書いたら本当に死んだとかは)。さらに言うとこっちは一人でも出来るし、実際には犯行予告と無関係に誰かを殺したいと思っていた奴が「予告をみてやった」とか語り出した日には一層の混乱を招く(もっとも、本当に危険なのはやっぱり数ある犯行予告の中から無作為に選んで実行した、って方だが。もちろんそんな状況で予告者を法律上の罪に問うのは難しいかも知れないが、「罪の意識」からも逃れられるかは別物だし)。「そんなバカなことをする奴がいるはずがない」という意見は、そもそも犯行予告自体が面白半分のゲームであったことを考えると意味をなさないのではないかとも思うし、犯行予告という従来刺激的であったはずのゲームが刺激を失うことで過激化する可能性は否定できないようにも思う。そんな社会で自分ないし自分の大切な人が犯行予告のターゲットに含まれたら・・・と考えると非常に不安な気分になるので、やっぱり犯行予告ゲーム自体ルールの徹底っていう前提が土台無理だからやめとこうぜ、って感じか。もともと犯行予告ゲーム自体、現在の社会におけるルール破りなんだから、それをやってる者が犯行予告ゲームのルールだけは守る、っていうのも変な話だし。もちろんその手のルール破りはどんなゲームでも起こり得るとは思うが、犯行予告ゲームはルール破りの結果が容易に実際の殺人につながりそうだからなあ・・・「危ないって言われている遊びをして友達を死なせてしまう」ってのは鬱になる青春もののフィクションでよくある題材な気もするが・・・って、別に考えるもなんもここでだいたい考え述べてしまっているな全く