かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

逆だ逆、現状のやばさを認識してるから理想を掲げるんだよ図書館系ブロガーは

 しかし図書館業務のアウトソーシングはなくならない。行政にしろ学校にしろ図書館というのは真っ先に予算が削られ、切り詰められていく組織なのだ。経験の浅い人材で適当に業務を回しているだけでも表向きの数字*2は悪化しないから行政や議会で問題視されにくい。しかしこの寒い事情がずっと続くとどうなるか?そこまでは誰も分からない。

 図書館業界のブログを見ていると、その辺のお寒い事情をよく分からずに*3高い理想を掲げて現状を批判しているところばかりで泣けてくる。人材とそのためのコストに対する配慮が少なすぎる。あなたが気にしているサービスを行う主体は、多くは極めて大雑把な仕様に従って業務を行っている民間企業やNPOなのだ。過去の仕事をなぞることはできても高度なサービスの構築や向上など望むべくもない。例え自治体や大学に図書館運営・サービスに対する不満や要望の声が伝わっても、結局は民間の末端のパート・アルバイトに負担が要求されるだけのことなのだ。そこまで理解している図書館関連のブログが一体いくつあることか*4。


*2 資料数や貸出冊数のような単純な統計。詳細なサービス評価のことではない。
*3 そもそも委託の詳しい実態は隠されていることが多いから。「指定管理者制度公共図書館業務を行っている会社が実は更に別の会社に図書館業務の請負をやらせている」ことがあるという事情とか。
*4 図書館関係のブログで言及される外部委託や指定管理者制度の認識はすさまじく教科書的で実際の業者がどう動いているかの把握がされていない


ここで批判されている「図書館関連のブログ」にうちが含まれるのかは知らないが・・・
もしうちが含まれるなら、それらの事情を知らないでこれまでの図書館系の議論をしているんだ、と思われてたならちょっと心外かも・・・一応、自分、現在の研究テーマ思いきり「大学図書館アウトソーシング」なので*1
公共図書館については文献で知りうる範囲でしか知らないけれど、大学図書館については学会でそのテーマで発表するくらいには理解しているつもりです。
放っておけばアウトソーシング*2はなくならないどころか拡大するだろうし、それが最終的にどういう事態を招くかはわからない・・・ってのも賛同。




ただ、それと理想を掲げて現状を批判することへの批判、はまるで別物だろう。
現状、アウトソーシングが拡大していることの一つの要因は(引用元のコメント欄でも散見されるが)そもそも図書館に対する期待値が低いことなのだから。
さしあたり「図書館でもっとこんなことをしてくれてもいいんじゃないか!」みたいな意見をガンガンぶつけて行って、図書館全体に求められる要求スペックを上げないと・・・「こんな安い給料でこんなことやってられるか!」とか、「こんな安い給料でそんな高スペックなことできるスタッフ雇えるか!」っていう状況にならんと、そりゃ今のままなら委託/派遣化は進むだろ。
大学が休みの日のアルバイトカウンタースタッフも平日の正職員カウンタースタッフも見分けつかないもん、ぶっちゃけ。
でも適切なリンクリゾルバ、マイライブラリ機能、電子ジャーナル検索システムを組み込んだ図書館システムを開発するのが・・・あるいは「どの」サービスが適切で、「どの」電子ジャーナルの利用が多くてどれを導入すれば学内の研究成果が向上すると考えられるのか、って判断が時給800円のアルバイトに出来るとも思えない。
そこで「アルバイトのスタッフにそんなことまでやらせるわけには・・・」といってサービスの運用事態を断るなら、日本の図書館はそこまでだろ。
「高度なサービスの構築や向上を望むべくもない」からって高度なサービスの構築や向上を望まなかったら、図書館は永遠に「パート・アルバイトが(かなり無理をすれば)運営できるもの」の位置にとどまるわけで、それじゃこのやばい現状はひたすら続くだけじゃないか。
そもそもパート・アルバイト(だけ)じゃ図書館は運営できないものである=ある程度の給料と待遇でなければ雇用出来ないような高い能力を持つ職員が必要な、高度なサービスを行うものである、って方向にいかにして持って行くか・・・それをサービスの運営主体そのものと言うよりは議会/行政/大学経営者/利用者etcのステークホルダーに浸透させることは図書館業界全体の生存戦略として最重要なものの一つだろう。
現場に負担を押し付けるためではなく、上層部から上手いこと金ぶんどってくるための理想。
大学図書館でいえば昨今の機関リポジトリ関連予算とかさ。
まあもちろん、そもそも図書館が本当に設置主体の経営(この場合は金勘定ではなく設置主体の目的達成)に貢献できることが大前提となるわけだけど。


長々書いたけど、つまるところは

行政にしろ学校にしろ図書館というのは真っ先に予算が削られ、切り詰められていく組織なのだ。

こっちをなんとかするために掲げる理想が必要なんじゃないの、ということで。

*1:日本図書館情報学会春季研究集会が面白いことになっている件 - かたつむりは電子図書館の夢をみるか」等を参照

*2:まあ引用元におけるアウトソーシングの用法自体、自分は日本全体でまかり通っている誤用だと思いますが。あんなもん大半はアウトソーシングでもなんでもねえ。参照:http://www.socj.net/aisatsu.html