かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

筑波大学の華麗なる転身・・・っていうか対応早いっすねっ!!


承前:


前回のエントリで「筑波大、文献複写依頼は相当してるのに、提供は全然してなくって思いっきりアンバランスじゃん」という話をしたわけですが。
「ILLや文献複写みたいな図書館間相互協力の話なんて、みんな興味ないよねー」と思って軽い気持ちでアップしたら思いのほか反響があってびっくり(汗)
コメント欄・ブクマコメ・twitter上など様々なところで「なんでこんなことになっているのか?」という点に関する考察をいただき、誠にありがとうございますm(_ _)m
自分でも「それはありそうだよなぁ」って思っていたものから、思いもよらないもの(地の利、古い文献が足りない、図書館自体よく使われているのではないかetc...)まで色々あり、その全部を見ていくのはすぐには難しいのですが(データ収集が難しそうなのもあるし)。
とりあえず手っ取り早く出来るところで、「経年変化を見てみよう」ということについてはすぐにでも出来るのでやってみました。


用いるデータは例によって『日本の図書館:統計と名簿』の冊子版。
今回は筑波大設置後で、文献複写の提供件数/取寄件数が集計され始めた1975年以降(『日本の図書館』1976年版からのデータ)を用いて筑波大の文献複写の歴史を見ていこうかと。
開学からまだ35年くらいの大学なので、これで設置以後の変遷のほとんどを確認することが出来るはずです。


で、早速集計してみた結果が以下の表1、図1の通り。



  • 表1.筑波大学附属図書館の文献複写提供件数・取寄件数の経年変化と主な出来事等
提供件数 取寄件数 その頃の出来事 備考
1975 - 195 第二学群、芸術専門学群設置
1976 10 2180
1977 212 3341 第三学群設置
1978 174 4285
1979 577 5777 京大、岡山大に次いで取寄件数国立大中3位
1980 2527 5823
1981 3151 4245
1982 3993 6787
1983 6046 6550 国際関係学類(現国際総合学類)設置
1984 8237 7856 広島大に次いで取寄件数国立大中2位
1985 8857 6530
1986 9673 7125
1987 8091 9756 取寄件数、国立大中1位!
1988 8238 9272
1989 11041 10109 愛媛大、九州大に次いで取寄件数第3位
1990 11970 10999
1991 14230 12961 工学システム学類設置
1992 14457 12288 NACSIS-ILL運用開始
1993 16676 12998
1994 17416 13637 名古屋大、京大に次いで取寄件数第3位
1995 19612 14975
1996 23164 16384
1997 23423 17466
1998 25970 18941 提供件数ピーク、国立大中でも8位に
1999 25604 18040 取寄件数、国大中9位まで転落
2000 25931 16581
2001 18801 16284
2002 20073 17223 図書館情報大学と統合、看護・医療科学類設置
2003 17321 16479 提供件数国大中8位、取寄件数は3位
2004 10826 17706 国立大学法人
2005 6786 19779
2006 5803 17922










  • 図1.筑波大学附属図書館の文献複写提供件数・取寄件数の経年変化

・・・おおおお?
割と最近まで、筑波の提供件数と取寄件数って競っていると言うか。
むしろ提供件数の方が取寄件数より多い、普通の大学だったんじゃん、筑波大学
これは意外・・・てっきりもっと昔からフリーライドばりばりというか、他人に頼りっぱなしの大学かと思ったら、そんな風になったのはごくごく最近のことだったのね。
法人化前までの筑波大学は、「取寄件数も多いが提供件数も多い」という、大手国立大としては若干アレだけど(旧帝大とかは提供件数の方がずっと多いケースが多いので)まあ普通の範囲内にはいたわけだ。
提供件数ピーク時には、提供件数順位と取寄件数順位も割と競ってるし・・・ふーむ、なんというか意外な。


以下、割と普通の大学だった筑波大が「他人を一番頼りながら他人に頼られない大学」になっていく過程を時系列順に見ていく。

「みんな助けて!」期(1975-1980)

開学直後の頃。
提供件数は3桁前後、最初期には年間10件とかいう数字も叩き出す一方で、取寄件数は開学6年目くらい(学生受け入れ出して5年目?)の1979ですでに全国3位。
開学直後の筑波大、というと未だに学内で先輩から後輩へと語り継がれる現つくば市(当時は桜村)の開拓期なわけで、娯楽もない、物資もない、舗装道路もなければ資料もない、って感じで余所様に頼らなければいけないのもまあ仕方ないというか当然だろうな。
むしろ開学直後で学生紛争だなんだと揉めていた時期にこんだけ論文読んでた、と言うのは偉いような気もする・・・いや、まあ紛争避けて作った大学でなお紛争してるのがあれだろという気もするが・・・

安定成長期(1981-1990)

続く10年間は割と安定成長期というか、複写提供件数と取寄件数がセットでじわじわ伸びていく時代。
この間、取寄件数が一度は国立大中第1位になってみたりもする一方で、提供件数も上下しつつ伸びているため提供件数/取寄件数比は1を割ったり割らなかったりが頻繁に入れ替わっている。
まあ平和な時代。

提供件数急成長期(1991-2000)

さらにその後の10年間は、常に提供件数が取寄件数を上回っており、取寄件数も伸びてはいるものの提供件数には追いつけず、提供件数-取寄件数の差は一時6,000件を上回っている。
取寄件数の国大中での順位は割と上がったり下がったりしていて、上位に食い込むこともあれば9位ぐらいまで転落することもあったり。
一方、提供件数の伸びは20年前には年間10件とかだったのが25,000を超える年もあるくらいになり、最盛期には提供件数ランキングでも国立大中8位くらいまで食い込んでいる。
ある意味、文献複写において筑波がもっとも「普通の国立大」チックだったのがこの頃かもしんない。
他ちゃんと見てないから確かなことはあれだけど。

電子ジャーナル導入期?(2001-2003)

21世紀になって文献複写提供件数が急降下する。
この頃、電子ジャーナルが普及し始めて複写が減った、と言うのも一因かとは考えられるが・・・それにしたっていきなり年間5,000件減るかね??
ここら辺は筑波がどこと、どんな資料をやりとりしていたかを確認する必要があるやもしれない。
当時電子化・公開した資料はなかったか、とか、あとは図書館情報大とのやりとりが統合で減ったんじゃないか、とか。
しかし提供件数が減ったとはいえ、取寄件数もやや減少傾向にあったので、この頃はまだ提供/取寄比は1を超えている。
問題は、この後なのである。

国立大学法人化後(2004-2006)

2004年、提供件数が一気に7000件近く減少。
さらに2005、2006年と減少し続け、2006年には1983年の数字すら下回る5000件代にまで下落。
一方で取寄件数は大きく変わらないどころかむしろ若干増えたので、結果的に提供/取寄比が前回エントリで言及したとおり、0.4を割り込むと言う状態に。


なんでこんなことになったのか、と言うことはid:myrmecoleonさんに教えていただいた以下の資料を見るとだいたいわかります*1
ちなみに、法人化以前の複写料金は国立大は一律、1枚35円。
法人化で金額をある程度自由に設定できるようになった、とのことですが・・・


国立大学法人筑波大学附属図書館諸料金に関する細則


筑波大、法人化直後の4月1日付の規則ですでに1枚60円(25円値上げ)にしている(爆)
まあ、うちの規則も色々とあれがあれなんで本当にここに書かれた日付どおりなのかとか詳細は確認しないとあれですが、それにしたって手が早い(?)なー。
なんだろう、最初から法人化したら速攻で値上げすることを目論んでたんだとしか思えないが、だとするとその狙いは?
この期に金もうけしよう、とか考えてたわけでもあるまいし、複写業務に費やす手間を他のリソースに配分したかったとか??
本当に自分のところにしかない資料以外は受けたくなかった、とか・・・しかし皆にそれをやられたらコトだろうに、ずいぶん強気だな筑波大・・・


ちなみに同様のこと(法人化後一気に複写料金アップ)は東京大もやったそうで、確かに複写提供件数は東大も一時50,000件を超えていたのが、今じゃ取寄件数を若干上回るだけの19,000件以下にまで落ち込んでいる。
それでも19,000件あるのは「東大にしかない」資料がそんだけあるってことなのだろうが、一方筑波の数字はこれまで筑波じゃなくても手に入る資料をずいぶん受け付けてた、ってことの表れでもあるか・・・意外にユニークな雑誌とか取ってないんだよね、この大学・・・同じ値段ならともかく、値が高いなら他に頼んだ方がいい、的な資料が大多数だったってことかな。


一方で取寄件数の方は別に減りもしなかったので、結果提供/取寄比はえらいことになった、と。
取寄件数が1位なのは・・・なんだろう、けっこう順位変動あるからたまたま1位になったのかも知れないし、電子ジャーナルの整備が他の同規模大学よりやや遅れていた分、他が取寄件数減少したのにうちだけあんまり変わってないから結果1位になっている、っことなのかもしれない。
後者の場合、割と電子ジャーナルが整ってきて、そのことに皆が慣れ出したであろう2007年度以降の結果は割と今と異なるかも知れない・・・提供件数が増えることはありえないだろうが(苦笑)
相場より1枚当たり20円くらい高いってんだから、そりゃ複写してくる件数は増えないわなぁ。




色々見てきたが、結局は今の筑波大の他人に頼られないっぷりは、ある意味では法人化に速攻で対応して見せた結果である、ということか。
どういう方針でそうしたのかを知らないのでいいとも悪いとも判断できないが、どうやら大学が自分で選んだ道であることはよく分かった。
ものごっつい好意的に解釈すると「これからは電子化の時代だ! いつまでもうちに複写頼ってるんじゃねぇ!」的な意図もあるのやもしれないが・・・その割に、自分ところは他人に複写頼ってるしなぁ・・・
もっとも、もし複写取寄対象が学外紀要類であるとすれば、やっぱり「紀要電子化しろよ!」ってメッセージなのかも、と取れなくもないが・・・
・・・どうだろうなー、確かに紀要もよく複写依頼かけるけど、割と図書や雑誌もかけてる気がするぞ、自分・・・
そこらへんもより詳細を見てみないことには何とも言えないか。


とりあえず今回は、筑波大の現状は「よく他人を頼るし他人にも頼られる大学」が、法人化を機に「他人は頼るが他人には頼らせない大学」に一瞬で転身して見せた結果、ということがわかったところで良しとするかな。
・・・いやあ、しかし、値上げ効果って絶大だなあ・・・ILL担当の図書館員の方ってそこら辺、本当に気を使われてるんだろうなあ・・・本当にお疲れ様ですm(_ _)m

*1:myrmecoleonさん、ありがとうございますm(_ _)m