かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

本を読む人、雑誌読む人―科学/研究について図書館情報学的に考える


なんか最近、twitter上で色々な分野で研究をしている人が議論する場面に遭遇したり、あとからそんな場面があったのを知って悔しがったりする日々が続いています。

id:sakstyleid:klovさんなど、まとめてくれている方がいて大変助かります)


この中でもたびたび出てくるし、ここに載ってないようなところでも、文/理の2分法や人文科学・社会科学・自然科学の3分法について議論されてたりするわけですが。
そういや自分、図書館情報学の観点からあんまりそこらの議論に参加してないなー・・・とふと思いついて立てたのが今回のエントリ。
もちろん戯言なので突っ込みどころ満載と思いますが、突っ込んでもらえれば幸いです(笑)




図書館、特に大学図書館の経営やサービスについて考える場合はその主たる利用グループの一つである研究者(あとの一つは学生、さらに職員*1)の情報行動についても考えることが不可欠なわけで、割と昔から図書館情報学の中では学術情報の生産・流通に関する研究が行われてきている。
当然、興味の対象は研究者がいかにして情報を利用するかにあるわけだけど、実際には「情報を利用している」ところは目に見えないし調べにくいので、情報の媒体(メディア)がどうやって利用されているか、というところが注目されてきた。
ゆえに図書館情報学的な視点から研究者を分類する場合には、その研究者が(研究をする際に)どのメディアを、どんな風に利用するか・・・ってところが一つのキーとなる。


で、結論から言うと。
とんでもなく大雑把に言って、図書館情報学的には研究者は2つに分けることができる。
(最新の研究成果を取り入れる/発表するときに)本を読む/書く人と、雑誌論文を読む/書く人である。
これがこれまたすこぶる大雑把に見るとだいたいいわゆる「文系」「理系」の枠と重なる。


もうちょっとだけ細かく分けると、3つに分類することができる。
主に本を読む/書く人と、主に雑誌論文を読む/書く人、そしてどっちも同じくらい読む/書く人である。
これが至極大雑把に言ってだいたい「人文科学」、「自然科学」、「社会科学」の枠に当てはまる*2


ひっじょーに大雑把ではあるがこの観点が基礎にあるので、例えば研究者の文献利用に関する研究*3では大雑把に見るときは人社/自然に研究者を2分して見ることが多い。
でないと、特に雑誌論文の利用本数なんかは人文系の研究者が含まれる割合によってずいぶん差が出てしまうから。
逆に著書の数とかを見比べるのであれば、自然科学系の研究者は教科書/入門書や一般向けの本を書くことはあっても最新の研究成果を本にする、ってことはほとんどないはずなので、人社系とは分けて考える必要がある。
図書館の立場からすれば、自然科学系の人が多いところなら雑誌論文読む割合が多いのでそっち(学術雑誌)にリソースを多く傾けるのに対し、人文系が多ければ図書に多くリソースを割く、ってな感じになる。
あるいはうちでも良くする電子図書館の話をする際には、雑誌を主に読む人たちが使うような英語の学術雑誌については電子ジャーナル化がめちゃめちゃ進んでるのでそれを前提に話が出来るのに対し、図書の電子化は海外でも雑誌に比べれば遅れてるし国内壊滅的なので本を使う人向けのサービスは分けて考えないといけない、というようなことになる。


なんでこんな風に本/雑誌を使う人らが分化してきたのか・・・って言うのは考えだすときっと非常に長くなる(本としてまとまっていることの重要性とか雑誌論文の速報性とか査読文化の有無とか云々かんぬん)ので今回は割愛。
ちなみに自分は本も雑誌論文も同じくらい使う人なので、この大雑把な3分法で言うと社会科学系の研究をやっている人になる*4
ただここから先が問題で、じゃあ2分法だとどっちなんだ、と言われると非常に困る。
普段、主として使うのは雑誌論文なので、メディアの使い方としては「理系」っぽい使い方をしている、ということになるかも知れないが・・・理系? 自分が? そんな馬鹿な(笑)
もちろん図書館情報学の中にはコンピュータサイエンスばりばりな人たちもいるが、自分がやってること(社会調査とか)をいわゆる理系と呼ぶにはいくらなんでも無理がある。
かと言って文系の方に入れられても・・・そんなに本読むわけじゃないし、電子ジャーナルの話とかするときちょっと逆に疎外感覚えるし・・・みたいな。
なので自分の場合はあまり文理の2分法は好きじゃないというか、「雑誌読む人」、「本読む人」って言う分け方を(2分しなきゃいけないときは)普段はそのまま使っている。
自分は(もちろん本も読むけど)研究としては主として雑誌論文使う人です、みたいな。


こういうこまごましたところを詳細に見ていくと色々面白いというか、例えば2分法で行ったら理系、3分法なら自然科学に入るあたりでも、主に出版された論文を使う層以外に、「ぶっちゃけ論文出版は業績づくりのためで情報流通は昔なら紙の、今なら電子版のプレプリントで主に賄っています」という人ら(物理の一部や数学)とか、「雑誌論文も使うけど学会発表とかの資料をかなり使うし、そこら辺はけっこう電子化されてるのでそれで賄えちゃいます」という人ら(情報工学系)、「まずそんなにたくさん読まねえ」という人(工学とか)、「っていうか図面引いたりコンペ応募したりする」という人(建築とか)がいたり。
最後のあたりになってくると2分法なら文系扱いになるであろう芸術系にも近くなってくる。
「自然科学」扱いの分野カオス。
でもそれを言ったら社会科学にだって他と全然異なる情報利用形態を有する法学(実際の法令と、判例が非常に重要になってくる)とかもいるし、情報行動の観点から見ればそれを他と一緒くたにはできない(っていうか方情報は学術情報とは別の流通体系もあるわけだし)・・・とか考えて細分化していくとまたカオス。


そんなこんなで・・・まあ、実際にやっている研究の内容とかディシプリンから分けようとするだけでなく、メディアの使い方から分けようとしてみても色々面白いよねー、というだけの話なのだけど。
本を使うか雑誌メインで使うか、ってとこだけに注目すれば意外にdisられまくりの文/理の区別もいけそうに見えて、やっぱそれだけじゃ無理だな、とかなんとか。

*1:職員については国内だとあんまり利用者として捉えている例は聞かないか?

*2:情報行動の観点から言うとなんかいつも社会科学は人文系と自然系の間くらいの、どっちつかずな感じになる。電子化の進展とかもそうだし

*3:C.TenopirやD.Kingが良くやってる。TenopirさんのはJASISTの最近の号にオーストラリアでやった例が載ってた

*4:いやもちろん実際には両方使うから社会科学系なわけでなく社会科学系だから両方使うんですよ?