かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

結局、置く場所がないんだって―筑波の蔵書一部使用不能問題


筑波の蔵書使用不能問題&スターバックス参入に関する批判が、卒業生の方からあったそうですね。


id:myrmecoleonさんにidコールで呼ばれたので、スルーする気でいたのですが、一応一言、二言。

今年3月に資料調査に行ったときは、耐震改修工事の予定について公示が出ていた様子は全くなかったんですが。ここは学外者にも開放している公共図書館であるわけだし、利用者への説明責任は十全に果たされていたのか、そもそも経年劣化した明治・大正期の書籍や雑誌の移管についてどれだけの配慮が払われているのか、図書館の公式ページを見てもさっぱりわからないので、とりあえずリンクだけ張っときます。

公式ページ見てもよくわからないのはその通りですね。
一応、2月末日で学内教員に対しては改修工事について通達が行っており、3月段階では既にインターネットで工事に関する情報も出ていましたが・・・
情報発信としてはぶっちゃけ不十分だと思います・・・今回、見事に学外の方からその点についてクレームがついているわけですし。
筑波大の情報発信は図書館に限らず全般に不器用なので、いい加減それを担当する役職でも置いて外部から人を招いて本腰入れてやればいいと思います。


資料の移管については最大限配慮を払っているために、小分けにして下手に利用可能にしたりするとそれこそ散逸しかねないので*1、すべて学内数か所の保管場所に劣化しないように箱詰めにして保管してあります。
いくらかの資料は学内の他の図書館で利用可能になっているので、そちらは該当図書館で利用可能のはずです。*2
箱詰めされて保管状態になっている方は残念ながら下手に箱開けて中身探して提供して・・・なんてやってたらそれこそ散逸しかねないので、工事期間中は利用停止、ということに。


よく「空き教室でもなんでもいいから・・・」とか「どこか学内の他の場所で利用できるように」ってな意見もありますが、さすがに図書館側もそこら辺を考慮しないでいきなり箱詰めにする、なんて結論に至ったわけではなく。
図書館資料を提供する場合、単に「スペースがある」だけでは駄目なのですよ。
これは自分も図書館建築の授業を受けるまではよくわかってなかったんですが、まず床がどれだけの重みに耐えられるか、という問題。
学内に余っている教室はそれなりにあるかも知れませんが、一般的な教室の床の積載荷重は1平方メートル当たり230kg(建築基準法施行令に痛がった場合)。
これに対して、図書館の書架スペースに求められる積載荷重は、開架スペース(それなりに書架間の間隔があって、人がすれ違えるくらいのスペース)で500kg(公共図書館等、歩くスペースを多めにとってある場合)から800kg、集密書庫(筑波で言えば過去の雑誌等に使われている、移動式の書架)で1.2t。
つまり図書館の書架をそのまま教室に持ってきた場合、床が抜けます
筑波の、旧東京教育大蔵書があるあたりはかなり書架間隔狭めだったと思うので、相当な確率で床が抜けます。
床が抜けないように配慮するのならば今の図書館で使っているスペースの3−4倍くらいのスペースが必要で、しかも今使っている書架は使えない(あれにいっぱい本をつめて置いただけで床がやばい)ので、新たに書架を用意する必要があります。
そんだけの書架を用意する余裕もそんだけのスペースもさすがに学内にはない(と思う)ので、最終的に蔵書の一部は箱詰めして倉庫等へ・・・ということになったわけです*3
図書館側ではかなり一生懸命学内で資料を(利用可能な状態で)移管できるような積載荷重の大きいスペース探したらしいですが、結局見つけることが出来なかったそうで現在に至る、と。


今は積載荷重の話だけしましたが、他にも図書館資料を移動するとなれば耐震の問題*4とか、ゲートのない場所に資料を置くとなると管理はどうするのか、そのための労働力が(一方で耐震工事のための資料移動をしながら)確保できるのか、などなど問題は尽きず・・・
いや本当、図書館ってそうとうめんどくさい建物なんですよ。



「そこまで切羽詰って耐震工事する必要があるのか!」って話ですが、これは強調してし過ぎることはないと思いますが、あります
耐震指標にIs値というのがあって、以下のページに詳しく説明が載っているのですが。


建築は専門ではないので指標の計算式とかは詳しく分からないのですが、このIs値が0.6以上ある建物だと大地震の場合でもおおむね小破程度で済み、0.4-0.6の場合は中破、0.4以下だと大地震が起きた場合、多くの建物が大破または倒壊する危険性がある、とされています。
国立大の場合、加えて官庁施設の総合耐震計画基準(国土交通省)というのも適用されるので、Is値は0.7以上あることが求められるとされています*5
で、じゃあ筑波の中央図書館のIs値は、というと・・・0.31らしいです
上記のリンク先で「下回ると大地震が起きたらヤバい」とされているIs値0.4を大きく下回っています。
Is値0.3未満だとそうとうヤバい、ってことになるのですが、それをかろうじて0.01上回っている、という・・・なんで今まで放っておいたんだ、というのも話すと長くなるのであれですが、まあとにかく筑波の中央図書館の耐震性能は学校施設としてありえないくらい低く、普通に大地震が起きたら倒壊の危険性があるラインです
改修工事をこれ以上遅らせるのは危険、ってことですな。



しかもなぜか2階の新聞閲覧コーナーにスターバックスが入ってるよ?! なんでわざわざここにスタバが存在する必要が? スタバなら近所に2、3軒あるじゃないか。それより旧東京教育大旧蔵資料の閲覧体制を整備してくれよ!


まず、スタバの整備と旧東京教育大資料の閲覧体制整備は全然別の話です。
第一に、スタバ参入のための工事をしている際には耐震工事がここまで大事になるとはわかってなかったはず。
第二に、スタバを作らなければ東京教育大資料の閲覧体制が整備できる・・・ということは特にありません。
スタバ入れる程度の工事費じゃ移管先を確保して床を全部補強する、なんてことは出来ないでしょうし、その後のランニングコスト(管理する人員のコスト)についてはスタバはスターバックスがやってくれますが図書館資料だと大学関係者がやる必要があるわけですし。
あと、これは私見なので人によって感じ方違うかも知れませんが、筑波の中央図書館の「近所」にはスタバどころかタリーズエクセルシオールドトール他、それ系のチェーンの喫茶店は全然ないと思います。
っていうか筑波全体でスタバ2−3軒くらいだし。
つくば駅近くのQ't、研究学園の方に最近出来た奴、Youワールドの方にある奴・・・ってことで・・・まあ、確かに自転車になれた春日キャンパスの人間なら片道15分くらいで中央図書館からQ'tのスタバまで行けなくもないかも知れないけれど・・・普通に「近所に」ってイメージをそれで行っちゃうと、つくばエクスプレスつくば駅筑波大学の近所、ってことになる気が(苦笑)
実際、それまで車で遠くのスタバに行ってたような人は近くなって喜んでましたし、「なんでスタバなんだ!」って意見も直前まで競ってたドトールの方が安いのに、ってことであって、コーヒーチェーンを入れること自体への反対は学内紙で一名強硬に反対されている方がいた以外は*6あんまりいなかった気が。


だいたい関連領域で卒論・修論・博論を執筆する予定の方々にとって、「資料2〜3年閲覧不可」は致命的な事態になりかねないぞ

これは全くもってその通りで、まずこんな事態になることを知らずに筑波大の資料を目当てに修士・博士に進学された方については大学として全力でお詫びするとともになんらかの対策を真剣に考える必要があると思います。
改修特別貸出で借り出せる分があると言っても、研究中に必要になる資料について事前に全て予想するなんて不可能ですし、まして箱詰めにする資料の時期が時期だけに「ここにしかない」なんて資料だともう大変なことになりますし。
その後、自分も院のあれこれが忙しくてこの問題の保障がどうなったかはフォローしていないのですが、もしきちんとした対応策がまだならば、大学としてこの件に取り組めるかがどうかが今後の大学院受験者の信用(すでにかなり失われている?)に関わるのではないかと思います。


スターバックスのチーズケーキの味については自分は食べたことないですし、味覚は個人によって違うものだと思うので・・・そもそも筑波の中央図書館のスタバにあったっけ、チーズケーキ?
あと、「スターバックス誘致」って言い方だとまるでスターバックスを狙って釣ったみたいですが、それは誤解です。
筑波大学厚生会の基準に則って公募を出し、応募してきた企業の中から企画書等に基づいていくつかに業者が絞られ、最終的にドトールとスタバの一騎打ちでスタバが買ったためにスタバが入っています。
(「図書館に喫茶店を」って動きが先で、スタバに決まったのは結果です。決めて見たら国内の大学図書館にスタバが入るのが初だった、と言う・・・)。
ニュースで旧蔵書使用不能があんまり取り上げられないのは、実はこの手の工事に伴う資料の利用不能って大学図書館では頻繁に起こっているので、スタバ参入に比べて単にニュース価値がないのかな、と。
「利用者の不満爆発!」とかだとまた話が違うのかな、とは思いますが。


以上、「一言、二言」とか言ってめちゃめちゃ長くなりましたが、まとめると

  • 筑波大学中央図書館は、早急に改修工事しないとまずいレベルで耐震強度が低い
  • 資料を利用可能な状態でどこかに移管するのは、物理的にもコスト(人員)の面でも難しい。特に問題は床の積載荷重が図書館以外だと全然足りない。
  • スタバと耐震補強は無関係
  • 資料が使えなくなることについての保障は、十分に行われるべき
  • とにかく告知は本当に遅い! 頑張ってスペース探して、見つからなくて・・・ってことなのかもしれないが、それにしても遅い!
    • ただしこれが図書館の告知が遅いのか、図書館にすら工事日程が知らされていなかったのかは不明。というか、今の段階で個々の職員レベルでは工事日程の詳細は知らされていないらしい(滝汗)*7ので、後者の可能性大。


と言った感じです。
工事の告知遅れの問題はどこで情報が止まってたのかわからないので・・・逆にスタバ側にとっても工事でしばらく閉店せざるを得なくなったのは寝耳に水っぽかったですし。
あるいは、大学以前の段階*8に原因があるのかも知れないので、誰かをやり玉に挙げて責められるような話でもないのかも、とか。
筑波大の中央図書館が現在の耐震基準を満たした仕様に切り替わるぎりぎり直前なんて最悪なタイミングで建設されたのが諸悪の根源、とか言い出しても切りないですしねー。

関連エントリ

*1:図書館員の管理の範疇を超えるし、図書館員以外の人には特別貸出で借りた人以外は責任持たせるわけにもいかないでしょう、それこそ真に保管のことを考えるなら

*2:詳しくは図書館webページ参照

*3:もちろん、倉庫等を開放しても利用可能な状態で排架出来る量は限られるうえ、排架出来なかった分を保管できなくなります

*4:まさに今そのために工事しているのに皮肉な話ですが

*5:今後の国立大学等施設の整備充実に関する調査研究協力者会議(第22回・平成17年度第1回)配付資料[参考資料1]

*6:あれだってスタバ反対、ってことだったのでタリーズとか国内チェーンなら違うのかも

*7:寝耳に大洪水 - ダメな図書館員の日々

*8:国とか?