かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

シラバスからの雑誌論文の引用(参照)分析?


先日、"JASIST(Journal of the American Society for Information Science and Technology)"誌にこんな論文が載っていました。*1


中身についてはタイトルのままで、オンライン上のシラバスについて各種の検索エンジンAPIを使って機械的に検索してきて、分野ごとに雑誌論文がどれだけ教育に用いられているか(シラバス/授業でのリーディングリストから引用されているか)を見た、と言うもの。
母集団となる論文はThomson*2のSCI*3とSSCI*4に収録されている2003年の論文。
分析の結果、自然科学分野についてはシラバスからの引用はSCI上における引用(つまり、雑誌論文同士での引用)から見て多くて数%程度で有効とは言えない一方で、社会科学分野では雑誌論文同士での引用の10%くらいはシラバスからの引用*5があり、特に政治学図書館情報学あたりでは分析対象とするのには十分な程度の引用関係があった、とか。
で、特に図書館情報学について注目して詳細を見たところ、他の論文から多く引用されている論文が必ずしもシラバスで多く引用されているわけではなく、逆にシラバスから多く引用されていても他の雑誌論文からは引用されていない論文もあったりと、論文からの引用とシラバスからの引用は割と違う動きを見せているとのこと。
そんなわけで、社会科学、中でも図書館情報学などの一部の分野については、従来の研究に対するインパクトとは別に、シラバスなどからの引用数を研究の「教育へのインパクト」として評価の視点の一つに加えても良いのではないか、とかなんとか。


これは、なかなか、面白い。
自然科学系で最新の研究成果がシラバスにはあまり引用されないのに対して社会科学では引用がある、と言う点については、当該論文中でも考察されているけど、両者の学部教育の違いかな、と。
自然科学系は学部のうちは割と基礎的なことをやるのが多いのに対して、社会科学とかは割と学部段階でも学年が上がってくると最新の内容についても扱うことがある、と言うのは実際に授業を受けていても、周りの友人を見ていても思う。
なので、特にシラバスからの引用が多い分野については、シラバスによく用いられる=教育上評価されていることも研究の評価に加えて良いのではないか、と言うのもしっくり来る話・・・それによっていかに研究と教育が結びついているか、ということも示せるわけだし。
これは早速、うちのシラバスでも試してみねばー・・・


・・・って、思って知識情報・図書館学類のシラバスとか見てたんだけどさ・・・
そもそも雑誌論文の紹介なんか全然ない!
学群生時代も、レジュメの中で紹介されているのを見た覚えはあるが、シラバスにそんなん載ってたのを見た覚えはない!
いきなり頓挫ですよこん畜生・・・っていうか、そもそも英語圏では*6こんな研究が成り立つほどに、シラバスとか授業のリーディングリストとかで雑誌論文挙げられているのか?


ってことで、試しにマサチューセッツ工科大学オープンコースウェア*7で、Googleで最初にヒットした授業で"readings"として挙げられているものを見てみると・・・


多っ!
なにこれなにこれ、"Required"(必ず読め)だけで28本あるよ!
"Recommended"(読むことを勧める)に至っては・・・43本? 44本?
なんという・・・まあ、ほとんどは図書の1章とかが多いとは言え・・・「アメリカの大学の講義は学生に良く資料を読ませる」とは聞いてたが、いやいやいや、いやいやいや。
ちなみにざっと見で、この中に雑誌論文は7本くらい。
資料数に比べれば少ないとは言え、けっこうな数である。
なるほど、こんな感じでものすごい量の資料を読むべきものとして挙げていて、かつそれをweb上で詳細に公開しているところが結構な数あるという前提ならば、シラバスで挙げられた雑誌論文の分析、と言うのも十分いけそうな話である。


日本では・・・現状、ちょっと厳しいかなー。
図書とかならいける気もするが、雑誌論文となるとなかなか・・・そもそもここまで詳細な読むべき資料のリストが上がってるところってのもなかなか・・・
オープンコースウェアとかが日本でももっとガンガン普及+読むべき資料のリストを、授業中にレジュメで挙げたり口頭でいうだけじゃなくてちゃんと作ってwebで公開、とかする大学が増えるとかなりいけそうな気もするが。


もっとも、日本の場合も先生個人でやっているところとかはけっこうありそうだから、Koushaさんたちの研究と同様の手法で検索してみれば意外にヒットするかも知れないけれど。
そこら辺は自分の"Automatic"の部分のスキルのなさが悔やまれる・・・最近、必要にかられて学群1年生の頃以来にプログラミングに触れ始めている*8んだけれど、やっぱこれ使えると別にシステム作る人じゃなくてもいろいろ便利だよなー。


後日、余力があってもうちょっとプログラミングと仲直り出来たら色々試してみたい感じではある。
・・・いずれにせよKoushaさんたちの調査ほどの結果は出ない気もするが・・・
・・・というか、70本以上も文献あがっている講義文献リストとかあったら、自分なら心が折れるかなんか変なスイッチ入って超ハイテンションになるかな気がする・・・。




2008 7/26 20:50 コメントを受け誤字修正
"抗議ノート"⇒"講義ノート"

*1:正確には自分が見たのは雑誌として出版される前に、査読と編集が済んだ段階でwebにアップする"articles in press"と呼ばれる状態のものですが。JASISTについては最近むしろ出版後の論文をあんまり読んでない気がする・・・

*2:当時? 現在はトムソン-ロイター

*3:Science Citation Index、主に自然科学分野の引用文献データベース

*4:Social Science Citation Index、同じく社会科学分野の引用文献データベース

*5:引用、と言うよりはリストにして挙げられている場合が多いので「参照」とかの方がしっくり来るかも知らん。「以下のものを読んでおくように」みたいな

*6:あ、当然今回紹介している論文は英語で検索かけているので、日本のwebページの英語版以外は検索対象は海外サイトですよ?

*7:大学の授業に関する資料、講義ノートとかレジュメとかもちろんシラバスや参照文献リストに場合によっては授業の映像まで、webで公開して自由に利用できるようにしよう、と言う取組み。マサチューセッツ工科大学は発祥の地

*8:ちなみにRuby. 理由は、2学期にRuby使う授業のTAも引き受けたので、研究に使えてかつTAにも役立ってこりゃいいや、と思ったから。