かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

「Wikipediaは百科事典である」と言われて当たり前なのに驚いた


情報科学技術協会(INFOSTA)のセミナー、「実践! Wikipedia」に行ってきました。


講師はウィキペディア*1でWikimania2005からWikimaniaにも参加され続けているほどだという太田尚志さんと、昨年、Wikipediaの引用に関するコラムを朝日新聞に書かれていた*2愛知大学の時実象一先生。
それぞれWikipediaを主に書く立場からと、主に利用する場合からWikipediaの理念や注意点について紹介されていました。
さらに会場にはWikipediaの管理者の一人であるKs aka 98さん*3もいらしていて、質疑応答等で議論に参加されたり、管理者の立場からの説明もされていたりしました。


特に全体で強調されていたのは、Wikipedia五本の柱*4と、Wikipedia執筆の三つの方針。

Wikipedia:五本の柱(2008-07-31参照)(一部抜粋)

Wikipedia:中立的な観点はウィキペディアの記事における方針の三つのうちのひとつです。ほかの二つは検証可能性 (Verifiability) と独自の研究を含めない、です。ウィキペディアではこれらの方針を合わせて記事名前空間に書くことができる情報の種類と質を決定しています。これら三つの方針は相互補完的、議論の余地がないものであり、他のガイドラインや利用者同士での合意によって覆されるものではありません。これらの方針はほかの二つと切り離して考えるべきではなく、編集する際にはこれら三つの方針を合わせて理解するよう努めてください。

Wikipedia:中立的な観点(2008-07-31参照)


その中でも、五本の柱の「ウィキペディアは百科事典です」と、三つの方針の「検証可能性」(確認できる出典を明記すること、明記できないような自分しか知らない事実とかは書かないこと)については執筆する場合の注意点としてかなり強くプッシュされていたり。
後者については確かに、出典が明記されないで事実が書いてあることが現状は多くて、それだと検証が不可能(あるいは限りなく面倒)ってのがあり。
Wikipediaを利用する場合にも、そのまま引用は無茶*5でも出典の方は引用してなんら問題なかったりするし、出典明記はとてもありがたい。


一方、ちょっと引っかかったと言うか、あたりまえなんだけど面白いな、と思ったのはむしろ前者。
Wikipediaの編集・管理に携わっている、いわばWikipediaを書くのが好きな人が中心になっているWikipediaのコミュニティと言うのは普段あまり意識していないというか、てっきりその項目についてたまたま詳しく知っている人がちょちょっと書いて・・・とか言うのが集積されて現在に至っているものかと思っていたので(普段自分がサブカル系しか見てないせいもあるかも知れないが)、記事を書くために(知っていることを洗い直すためでもなく)色々調べたり、お金貰っているわけでもないのに色々チェックしていたり、と言う人たちの集まりがあることも(冷静に考えてみると至極当然なのかも知れないが)ちょっと驚いたし、その人たちの中から"(Wikipediaは)「質も量も」最高の百科事典を目指すのだから、質を引き上げることも大切"という発言があったこと、そしてそれをかなり意識されているらしいということにはちょっとどころでなく驚いた。
そうか、「百科事典としてのWikipedia」全体のことを考えて活動している人たちがいるんだ、みたいな。
「全体の質」を真剣に考えている人たちがいるんだ、Wikipediaは、と。


こんな当たり前のこと(だってWikipediaが百科事典であることはどのページにも「フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』」と明示してあるんだし)で何で自分が驚いたかと言えば、たぶん自分にとってはもうWikipediaは「百科事典」とは次元の違う、一種プラットフォーム、あるいはインフラストラクチャーみたいなものに感じられていたからで、単一のコンテンツとして考えることが最近はなかったからではないかと思う。
だって今「プラットフォーム」とか「インフラストラクチャー」とか検索したら見事に検索上位にいるし、Wikipedia
最近じゃたいていの言葉を検索したら2ちゃんねるはてなWikipediaの3つがひっかかってくる(特に2ちゃんねるを除く2者はかなり上位に。2ちゃんは他でヒットしないようなマイナーな言葉だと上位に)って有様で、イメージWikipediaも他同様の「場を提供する」ものになってるのかなー、と思っていたのだが・・・実際にはWikipediaには百科事典として、共通する理念や方針を掲げて書いている人たちが中心にいるんだなー。
だから他では法に反したり訴訟沙汰になったり運営に不利益を及ぼすようなこと以外は野放し*6に近いことも多いけどWikipediaは色々話し合って(それもインフラの一部ローカルルールとしてだけではなく全体の方針としても)決めたり落としどころ見つけたりしている、と・・・ふーむ。


もっとも、Wikipediaの記事書いている人たちの中にも先の理念や方針をろくに読まないで書いている人とか理解していない人、見ても賛同できない人も多いだろうし、「ウィキペディアには確固としたルールはありません」な以上、今後の流れによってはWikipediaも場だけ提供してあとは皆好き勝手にやる、って流れもありうるのかも知れないけれど。
そこら辺は、自分としてはどっちがいいとはいい難い・・・出典明記ひとつとっても、確かに明記されている記事の方が有難いんだけど、じゃあ出典明記できないような事項を削ったWikipediaが(研究に使うときでなく私的になんか見ているときに)面白いかと言われるとはてー、な部分もあるし(2ちゃんねる由来の都市伝説とか、出典明記しようないこともあるし)、Ks aka 98さんのチンドン屋の記事*7のように気合い入った出典明記を求められたら書く気失う人も多そうだし。
他の事辞典には絶対載らない、出典明記の難しいようなところが知りたくてWikipediaを見る(「風聞が知りたい」って時とか)ってこともあり・・・うーん・・・


ま、いち使い手としてはこれまでどおりちょっと気になる言葉があったらぱっと引く、って使い方をするんだろうけど。
最近見たのだと鯨骨生物群集とか面白かった。
PDF直リンクな文献のメタデータとかもうちょっときちっと書いててくれるとより有難い感じ。
あとはひとりかくれんぼとか、全然出典明記ちゃんとしてないけどこういうWikipedia以外の事辞典に絶対のらない都市伝説とかのってるのはやっぱ面白いよな、とか。
これが十年、百年たってもう噂として廃れきったあたりにもまだ残ってたら・・・とか思うとわくわくしてくるよね!

*1:Wikipedia:ウィキペディアン - Wikipedia

*2:朝日新聞東京本社版 2007.7.24

*3:利用者:Ks aka 98 - Wikipedia

*4:Wikipedia:五本の柱 - Wikipedia

*5:時実先生の講演中で紹介されていたSandra Ordonezさんのコメントに曰く、「一般的に、特に大学のレベルにおいては、事典を引用することは好ましくない」("It's usually not advisable, particularly at the university level, to cite an encyclopedia.") Times-Herald, Vallejo Benicia, 2007, 6.17 自分のことを考えても、語の定義のところで参考や説明のために挙げるとかはするけれど、がっちり引用としてあげるような場合(例えば図書館情報学で、ロトカの法則について説明する場合とか)にはWikipediaでも百科事典でもなくロトカの原著論文(レポートなら、せめて日本語に訳された奴)を引用しろや、と思う

*6:2ちゃんねるは全部野放しかも知らんが。で、利用者が捕まったり訴えられたりする、と。

*7:チンドン屋 - Wikipedia