かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

「図書館は利用者の秘密を守る」問題・・・このパターンって想定されているのか?

米国バーモント州のキンボール公共図書館が、ネット上で大きな批判にさらされている、とSchool Library Journal誌が報じています。事の発端は、行方不明になった12歳の少女が、行方不明になる直前に、同館のPCを用いてSNSMySpace”上で不審者と接触した疑いがあり、警察が同館のPCを調査しようと来館したが、令状を持っていなかったため、図書館員がPCの提供を拒んだというものです。

7時間後、令状を持って再度訪れた警察に図書館側はコンピューターを引き渡した。
 1週間後、ベネットはおじ(性犯罪者として登録されている)の家から1マイルのところで遺体で発見された。
 (中略)
 当局は図書館のコンピューターから事件に関連する情報が見つかったか否かを明らかにしていない。 


(原文)
Seven hours later the police returned with a warrant, and library director Amy Grasmick turned over the computers.
A week later, Bennett’s body was found a mile from the home of her uncle, Michael Jacques, a registered sex offender.
 (中略)
 Authorities have not disclosed whether any information relating to the girl’s disappearance was found on the library computers.


これだけの情報じゃ状況が掴みきれない部分もあるけれど・・・
"computers"ってことは少女がどのコンピュータ使ってたか特定できていなくて図書館のPC複数台持っていったのかも知れないし、そうなるとその少女以外の履歴の問題が噛むのでそりゃ令状なしで提供、って判断は難しいだろうし。
捜査につながるような有益な情報が本当に入っていたかもわからないし、7時間早ければどうにかなったのか、というのもわからない。
そもそも警察が図書館に来た段階で少女の行方不明が事件性の高いものだと考えられていたのか、本人による失踪の可能性もあるとみられていたのか、とか・・・「少女が遺体で発見された」という結果が見えている状況ならいくらでも図書館を批判できるけれど、そうじゃない状況下で実際に自分が判断を迫られたらどうするか、と言うのを考える場合、そこら辺(他者の履歴まで提供されうるものだったのか/事件性がどれくらい高いと考えられていたのか)が重要になってくるのかも。
・・・いや、でも警察が動いてる段階で事件性は相当高かったんじゃないかとも思うけど・・・最初に令状をとっておけば、とも言えるけどカレントアウェアネスのブクマコメにもあるようにそれで令状乱発されてもなあ・・・


ところで、「図書館は利用者の秘密を守る」というのは日本における「図書館の自由に関する宣言*1にも当然含まれていて、日本の公共図書館においても捜査令状なしには利用履歴を外部に開示することはしないことになっているわけですが。
この条項って、今回みたいに「当人の了解を得ることが不可能な状況下において、利用者本人の安全を守るために第三者が履歴の開示を求めた場合」について定めた当時に想定していたのかな?
資料が図書・雑誌類に限られている間は、例えば図書館利用者が図書館資料を利用して誤って毒物を生成してそれを飲んでしまった、みたいに限定的な状況でしか起こり得ない事態だったと思うけど、アメリカほどではないと言え日本でだって公共図書館へのPC導入は進められていく方向なわけで、そうなるとアメリカの事件を対岸の火事、とも言ってられないと思うんだけど。
今回の事件は全体像がわからないし、判断が難しいと思うけれど・・・これがもし、事件性が明らかで(行方不明者の年齢がより幼い/犯罪に巻き込まれた証拠が明らかである)緊急性が高い(7時間あれば助けられる公算がある)場合だったらどうするんだろう?
やっぱり令状がないと駄目?
それともそこは履歴を提供してもOK、とかって決めてあるのかな??
資料の履歴データを返却と同時に削除するのと同様、ウェブの利用履歴もそもそも残らないように設定するのかも知れないけれど・・・


最終的には今回の事件同様、現場で判断することになるんだろうけど。
そこでの選択によってはウェブで吊るし上げを食らうこともあり得るってことで・・・でも吊るし上げなんかより、「利用者の秘密を守る」ことと少女の命を守ることを(結果的に。判断の段階で少女の命がかかっている、と図書館員が思っていたかはこの記事だとよくわからない)判断する立場に置かれて、その結果を受け入れなきゃいけないことの方がきっとずっと重いよな。

*1:参照:404