かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

国立国会図書館が閲覧制限かけたという資料が閲覧できる図書館を意地になって探してみた


国立国会図書館が、1990年から閲覧可能だった「合衆国軍隊構成員等に対する刑事裁判権関係実務資料」なる資料を、法務省からの依頼を受け今年6月に閲覧禁止にした上でNDL-OPAC*1からもデータを削除したと報道され、波紋を起こしています。


米兵の起こした事件についての裁判権の放棄についての日米密約に関する資料について、しかもよりによって政府からの依頼を受けての閲覧禁止措置と言うことで反対する意見が多いのは当然であり、同時に図書館関係者の中でも図書館の自由との兼ね合いや、公文書管理の面から異議・突っ込みが入りまくっています。
しんぶん赤旗」の報道を信じるとすれば

同資料は「マル秘」指定になっていますが、古書店で販売されていたものを国会図書館が入手し、一九九〇年三月に蔵書として登録しました。

国会図書館の法務省資料/政府圧力で閲覧禁止/米兵犯罪への特権収録(参照:2008-08-14

ということなので、市井で入手してきたものについて政府から依頼を受け禁止措置*2、それも18年以上経ってから、ってどんだけ突っ込みどころ満載なんだと言う話でもあり。
マル秘の資料がなんで古書店にあるねん、とか*3
なんで18年もほったらかしておいて今更・・・とか。


まあそれはいったん置いておいて。
閲覧禁止措置に関する国会図書館側の見解として、webで入手できるものでは以下が一番詳細なようでした(でもソースがわからない・・・冊子?)。

★「検察資料158」利用禁止措置の見解(8月4日)国立国会図書館

平成20年8月4日
国立国会図書館
収集書誌部

<資料名>
『合衆国軍隊構成員等に対する刑事裁判権関係実務資料〔検察提要 6〕』(検
察資料158)


<利用禁止の経緯および理由>
上記資料について利用禁止措置をとり、NDL-OPAC(資料検索システム)に掲示
ないこととした。理由は以下のとおり。

  1. 国立国会図書館が収集し所蔵する資料は、国民の文化財として蓄積し、その原状を保存して後世に永く伝えるとともに、これを広く国民に公開し、その利用に供すべきものであるが、プライバシーなどの人権を侵害する資料や著作権侵害の資料など、やむを得ず利用を制限せざるを得ない資料が稀にあり、国立国会図書館資料利用規則に基づいて利用を制限することがある。
  2. これらの資料の利用制限については、恣意的に行わないよう基準を設け、関係部局長をメンバーとする委員会が判断することにしている。
  3. この資料についても、この手続きによって利用制限(禁止)措置を行った。
  4. その理由は、この資料に含まれる情報が、情報公開法により開示請求された場合非公開とするものである(行政機関の保有する情報の公開に関する法律第5条第4号)ので、非公開とする旨の発行者の公的な決定があり、上記委員会において審議し、情報公開法上の不開示情報に当たると判断したものである。
  5. この資料の場合、現時点では発行者の公的な決定と異なる判断を国立国会図書館が下すに足る理由も見出しえなかった。
  6. NDL-OPAC(資料検索システム)に掲示しないこととしたのは、上記情報がその存在自体を明らかにしない情報であるとされている(上記法第8条)ためである。
  7. この制度は、個々の資料に関し、将来的な保存・利用を保障しつつ、資料の返還・廃棄を求める発行者等と利用する者との間に生じる対立を、客観的な基準によって調整しようとするものであり、利用の制限に当たっては謙抑的に運用するよう努めている。
  8. また、社会状況の変化などに応じ、制限を定期的に見直すことにしている。


http://blogs.yahoo.co.jp/siminkjp/14570426.html(参照:2008-08-14


「情報公開法上の不開示情報に当たる」ねー・・・でもだからそれ法務省自らが所有してた資料じゃなくて古書店から買ってきたものなんじゃ・・・いや、「赤旗」の報道についての収集書誌部の見解については明らかじゃないからあれだけど・・・いったん市井に流れてた情報でも、もう1回国会図書館の元に戻ってきたら情報公開法の不開示とか関係するのか??
別に関係しないけど、本来秘密にしておきたかったものだから手元に戻ったなら隠します、ってこと??
よくわからんなー。


まあいったん外に流れたって点は置いておいて、そもそも不開示にすべき情報なのかについては中身を見ないとなんとも判断しづらい。
上の文面を見る限りだと実際には著作権侵害とか人権侵害があるってわけではなく法務省サイドの都合で不開示になったっぽいけど、そうは言っても既に"Nice boat"騒動に鍛えられた僕らのこと。
中身を見ないで「開示しろー!」て言って、後で中身を見て「これはまずいだろJK. むしろなんで今まで公開してた」みたいなことになっても・・・まあないだろうとは思うけどね。


しかしそうなると、「中身を見てみないと中身を見られなくしたことについて妥当かどうか判断できない!」というトートロジーチックな事態になるわけで・・・なんの珍問答だ・・・
と、ここでふと気付いたんだけど。
本当に中身見られないのか?
実際のところ、上の説明にもあるように国会図書館ではプライバシーに関わる資料とかで閲覧に制限措置かけている資料ってのはけっこうある。
でも別にすべての図書館が国立国会図書館の措置に従わなければならない理由とか法律とか特にないので、国会図書館で利用制限かけてても他所では見られる資料とかもあったりするわけで。
今回の場合「部外秘の資料」ってことで一般の出版物とかに比べると入手が難しそうなところもある反面、「古書店で売られるくらい流通してたんだから他にもあるんじゃねーのー?」という可能性もあり。
本当はあんまりこの手の資料の探索って得意じゃない(電子ジャーナル万歳な人間なので)んだけど、これは一つ調べて見ても面白そうかも。


で、調べ方。
今回、探索に使ったのは皆大好きNACSIS Webcat
全国の大学図書館のほとんどが参加しているという大学図書館の総合目録データベースで、こいつを使えば探している資料の日本中の大学図書館での所蔵が一目でわかると言う優れもの。
お値段無料で誰でもお使いいただけます。
今はWebcat Plusっていう、もうちょっとイマドキなデザインでさらに付加価値のある機能を提供してくれるサービスもあるんだけど、今回は玄人好みにWebcatで。
まあ結果は変わらないしね。


で、探索方法ですが、まず馬鹿正直に「合衆国軍隊構成員等に対する刑事裁判権関係実務資料」で探索をかけたところヒット件数はゼロ*4
少なくともこの名前で登録しているところはない様子。


初手でいきなり詰まった感じですが、ここで気になるのは収集書誌部の見解表明にある"「検察資料158」利用禁止措置の見解"という言葉。
つまりこれ、もしかして資料名としては「検察資料」の方で入っている可能性があるのではないか、と。
で、試しに「検察資料」で検索かけて見た結果が以下の通り。

1. 検察資料 / 法務府檢務局. -- 1号 (1950.4)-
2. 検察資料. -- 法務省刑事局
3. 検察資料. -- 法務府検務局
4. 左翼事件實録 ; 第1卷 - ◆UC81C◆11◆UAD8C◆. -- 大檢察廳 捜査局, 1965

(検索結果ページはリンク貼ってもエラー起こすから貼らないよ! 以下、同じだよ!)


よしきた!
これを見る限り、「検察資料」なる資料は図書として登録されている場合と、逐次刊行物(雑誌など、終了を予定せず定期または不定期で同一タイトルで継続して刊行される資料)として登録されている場合があるらしい。
灰色文献*5にありがちなことだが、図書館としても扱いが複雑な資料なようだ。
ただし、もしかすると自分が不勉強なだけで「検察資料」ってタイトルの図書と雑誌がある可能性があるので、その点は要注意。


2件目のレコードの方が図書(的な)扱いで資料が登録されている方で、こっちだとそれこそ「合衆国軍隊構成員等に対する刑事裁判権関係実務資料」みたいに報告書タイトルと「検察資料 ○○○」って番号が振られた形式で出てくるんだけど、残念ながらこちらには「検察資料158」の該当はなし。
で、1件目のレコードの詳細を見ると、日本の大学図書館で「検察資料」を所蔵しているのは全12館。
そのうち、158号を所蔵している図書館は・・・

北大 図 1-38,40-53,55-74,76-89,91,97-101,103,105-106,108-111,
113-126,128-135,137,139-145,147-149,151-152,155,
158-160,163-164,167-169,171,173<1950-1975>


あった!
どうやら日本の大学図書館では観測範囲で唯一、北海道大学図書館に「検察資料158」があるらしい。


ちなみに上の表示を開設すると、まず「北大」は当たり前だけど所蔵機関名。
ただしこれも見りゃわかるとおり略称が用いられていて、中には見ただけだと何大学だかよくわからんところもあるので、詳細を見るにはリンク先をクリックすることが必要。
次の「図」はその機関のどこにあるか。
図書館以外とか分館におかれている資料についてはここの表示で判別できる。
次の数字の羅列は所蔵している号で、今回はこれが一番大事。
「○-△」ってなってる場合は「○号から△号まで全部所蔵しています」ってことで、例えば「1-3」って表示なら1、2、3号全部所蔵されている。
一方、「○,△」ってなっているときは「○号と△号を所蔵しています」ってことなので、「1,3」って表示の場合は1号と3号はあるけど2号は所蔵が抜け落ちている*6
特に逐次刊行物の場合は欠号や遺失、購入中止とかによってあるタイトルを買ってても欲しい号があるとは限らないので、ここの数字をよくチェックしてから欲しい号が置いてある図書館に出向いたりコピーの依頼をしたりしないと無駄足を踏むことになる。


と、まあNACSIS-Webcatの検索結果の見方(大雑把な)はさておき、どうやら目当ての資料が北大にあるらしいことがわかってきたので、今度は実際に北海道大学附属図書館のOPAC(オンライン目録)を検索する。


最初からOPACページに行ってもいいけど、北大の場合は附属図書館webサイトのトップページに検索窓があるので、ここから目当ての資料のタイトルを入手しても簡単に資料検索が出来る。
で、検索結果がこちら

  1. [図書].三鷹事件公判速記録 / 法務府檢務局[編] ; 1 - 10. - [東京] : [法務府檢察局] , [1950.4-]. - (検察資料 ; 1, 2, 4, 6, 15, 20, 25, 27, 35, 37). - 1950. <20988379>[BA37833517]
  2. [図書].検察資料. - [東京] : 法務府検務局. - . <20988378>[BN08716497]
  3. [雑誌].検察資料 / 法務府檢務局. - 1号 (1950.4)-. - 東京. - 1950. <30016913>[AN00336155]


http://opac.lib.hokudai.ac.jp/opac/opac-query?local=0&vfile=1&jf=&vfile=1&jf=1&vfile=1&jf=2&vfile=2&jf=&vfile=2&jf=1&vfile=2&jf=2&vfile=3&jf=&vfile=4&jf=&dpmc=0&sort=0&disp=1&bzsort=0&search.x=42&search.y=18&mode=2&TGSRC=0&IRKBN=0&LANG=0&kywd=%E6%A4%9C%E5%AF%9F%E8%B3%87%E6%96%99(参照:2008-08-14)


やっぱりここでも「検察資料」は図書扱いの場合と雑誌扱いの場合があるようだけど、今回は雑誌の方を見てみると。

検察資料 / 法務府檢務局
ケンサツ シリョウ

巻次年月次 1号 (1950.4)-
出版者 東京
注記事項 発行所変更:法務府検務局→法務省刑事局
著者標目 法務府檢務局 <ホウムフ ケンムキョク>
本文言語 日本語
コード類 書誌ID=30016913 NCID=AN00336155

(中略)

製本巻号 製本年次 製本後配架場所 請求記号 資料番号 状 態 コメント
151-152,158-159 1969-1972 本館・書庫・法和雑誌 0170341116

http://opac.lib.hokudai.ac.jp/opac/binding-query?mode=2&key=B121869052419616&zcode=30016913&zlplace=901142123&TGSRC=0&IRKBN=0)(参照:2008-08-14)

こいつが、年代的も「1972年」と割とビンゴっぽい。
ちなみにここの見方は「検察資料」の151-152号、158-159号の4号がまとめて1冊の本のように製本されていて、それが本館書庫の法学系の和雑誌コーナーにありますよ、ってこと。
発行所も噂の法務省刑事局なので、まあだいたいこいつかなー。
あとは現物が確認できればいいんだが、さすがに北海道だと気軽にはいけないし、研究の用事でもないのに文献複写依頼するのも先方に迷惑ではないかと思うので実際の現物確認は、北大近辺に在住の方か、本格的に今回の閲覧禁止措置について研究される方や、件の資料の内容を実際に確認したい方にお任せしたいな、とかなんとか。
あ、ちなみに北大図書館の書庫は入室に制限がある(学部学生・一般市民は入室できないので、必要事項を書類に記入のうえ、希望する資料を図書館員に持ってきてもらって利用することになる。かつ、館外貸出は一般市民の方は不可、とのこと)ので、直接来館利用される場合は事前に確認のうえで行ってください。
郵送での複写依頼については、大学等の構成員の方は自分の所属する大学図書館経由で、それ以外の方は最寄りの図書館に相談してみてください。


まあ、そんなこんなで。
現物確認してないのでもしかするとたまたま発行年と号と資料名の一部が同じだけの異なる資料かも知れませんが、おそらくは例え国立国会図書館で閲覧禁止にしてても、北海道大学まで出向くか複写依頼すれば「検察資料 158」は読めるみたいです。
たぶんそっち方面は詳しくないので今回手を出していませんが、法律系の専門図書館とかも細かく調査していけばもっと所蔵しているところは出てくるんじゃないかと言う予感。
あと文書館とかも。


それにしても、げに素晴らしきは多様な収集方針を持つ複数の図書館が存在して資料収集に日夜励んでいるってことですな。
探せばどこかにはあるだろうという安心感・・・とともに、「部外秘」のはずの資料もどっかに漏れればすかさず集めてきてアーカイブして提供している図書館ってものの執念も感じますなー。


っていうかよく持ってたな北大・・・あと、「部外秘」漏れすぎじゃねえか大丈夫か日本・・・


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2008-08-15 一部誤記修正 「逐次巻号物」⇒「逐次刊行物」

*1:国立国会図書館の所蔵資料をオンラインで検索できるシステム。最新資料を除けば図書等の情報探索の基礎となるもの・・・なんだけど、今回はこいつが使えない縛りがあるのがつらい(苦笑)

*2:民事で特に問題とかになっていたわけではない

*3:でも今回いろいろ調べてたところ、けっこう部外秘扱いの資料って古書店でやり取りされてるのね。注記に「マル秘とあり」とか書いてあったりするのでプレミアもつくんだろうなー

*4:本来なら最初に所蔵が登録されたという1990.3月の『日本全国書誌』で国立国会図書館に同名の資料があったことを確認したかったんだけど、図書館情報学図書館に1990年の日本全国書誌ありやがらねえでやんの(爆) 筑波大学中央図書館にはあるはずだけど、お盆休みで4連休中なので今回はあきらめた

*5:一般の販売ルートに載らない政府刊行物や報告書類など

*6:ちなみに基本的に数字が前後することはない