かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

ノートを取るか、買って読むか


なんかホッテントリ眺めてたらこんなニュースがありました。


氷河期もなんも、「講義ノート屋」なんて商売があったことが驚きだよ・・・(汗)
卒論代行業者とかなら聞いたことがあったけど、こんな堂々と営業している講義ノート屋とかあるんだなー。
いいノートは1−2万円で買ってもらえて、それを業者がコピーして数百円で販売するシステムだとか。
出席者の母数が一定以上いないと成り立たないシステムなので、大教室での講義がそんなにないうちの大学では業者が行う商売としては成り立たなそうだけど。
それもあって立地に私大周りが多いのかねえ・・・


院生となった今ではそもそも講義のみの科目自体そんなになくなってきたけど、学部生*1時代を思い起こしてみると、自分はあまり講義ノート屋にお世話になる必要はない程度には授業に出席していた気がする。*2
一方で、ノートの取り方として先生の言ったことや板書を素直に写すだけじゃなくて、自分の考えとか突っ込みとか落書きとか色々書きこんでもいたので、到底ノート屋に売れる代物でもなかったような。
今でも授業のレジュメとか他人に貸すときはどきどきですよ。
自分でもなに書き込んだか覚えてないもんだから後から「うわこれ見られたのかorz」ってなることもしばしば。


しかし実際、講義屋から買ったノートで試験に臨んで果たして効果があるのか・・・と言う話だが、どうも授業の中身によってはけっこうな効果があるらしい。
一時期、学生のノートの取り方について色々文献をあさっていた時期があるのだが、教育学・教育工学の分野でノートを取ることの学習効果としては大きく分けて

  • 符号化機能
    • ノート取ってるときに学習内容を理解する
  • 貯蔵機能
    • 学習内容を外部(ノート)に貯蔵する


ってのがあって、どっちの機能がノートを取ること(ノートテイキング)の学習効果かってあたりは議論があるらしいのだが、今のところ確実に学習効果が上がるとされているのは貯蔵機能の方。
つまり、授業内容をノートに写しておいて、そいつを後で復習することで効果的な学習が出来るという話。*3
やや古いソースだが、1989年の"A Review of Note-Taking: The Encoding-Storage Paradigm and Beyond"という論文*4の中でそれまでのノートテイキングに関する文献についてレビューしていて、それによれば貯蔵機能を否定する結果はほぼ出ていないが、符号化機能については35:23:3、の割合で「効果がある」、「効果はない」、「むしろ逆効果だ」という結果が割れているとか。
なのでまあとりあえず他人の取ったノートでもいいから見直すだけ見直そう、という試験対策はあながち間違いでもないのかもしれない*5


ただ、これも一部で批判的に言及されているところだけど*6、その手のノートテイキングの効果測定って、記述式のテストによって結果を判定する場合がほとんどで、例えば外国語や穴埋め式問題など、要は学習効果っていうよりは「どんだけ記憶しているか」で成果を判定している場合がほとんどなんだよなあ。
だからノート取った直後とかでは効果があるけど時間がたつほど効果が薄れるとかいう話もあり・・・
記憶力と切り離した「学習成果」(何をもって判定するのかは知らんが)っていまいち未検討っぽい。
大学の論述式問題とか、そういう単なる記憶力以上に授業中に自分で考えてたかを問われる問題で良好な成績を収められるかは・・・どうだろう??
いっそ、講義ノート屋に協力依頼してノート屋で買った人と、売った人、自分で取ったが売らなかった人、ノートも取ってないし買わなかった人とかに分けて成績のデータ取ったら面白いかも知れない。
語学とかだと好成績だけど論述が多いテストだとノート買った奴は成績悪い、みたいな結果が出ると符号化機能を主張する人とかには良いのかも知らんー。


・・・取材すら拒否するノート屋さんが研究に協力することもないだろうし、学生の成績を扱うためには自分がそこの教員か共同研究者じゃないとまずかろうからますます協力は絶望的だろうけど。
おまけに放っておいてもこの報道の感じじゃいずれほとんどの学生が「ノート取る人」になりそうだしね。

*1:正確には筑波大なので学群

*2:授業によっては終始寝てたけど

*3:日本語文献としては「CiNii 論文 -  ノートテイキング研究に対するエスノグラフィックな検討(2) : ノートテイキング研究の「文化]」などに記述あり

*4:Kiwera, Kenneth A. A Review of Note-Taking: The Encoding-Storage Paradigm and Beyond. Educational Psychology Review. 1989, vol. 1, no. 2, p. 147-172

*5:ノート取った量と成績が比例する、って話もあるので断言はできないけどね

*6:CiNii 論文 -  共同作成の場におけるノートテイキング・ノート見直し」など