かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

作家・瀬名秀明氏が語る図書館活用法など(図書館総合展1/10未満レビュー? その3)


図書館総合展参加レビュー第3弾は3日目・午前に開かれた大学図書館支援機構(IAAL)による瀬名秀明さんの講演会と、IAALの活動報告について。

最初は受付手伝ってたんですが、講演が始まり次第(そもそも講演が聞きたくて行ってたので)中に引っこんでしまいました。
いやだって普通に気になるじゃん、瀬名秀明の図書館活用法。
ってことで以下、レビューです。
例によってmin2-flyの主観と理解の及ぶ範囲でまとめられた内容であることについてご了解願いますm(_ _)m




作家・瀬名秀明氏が語る図書館活用法(瀬名秀明さん)

  • 最初3分聞き逃しました(汗)
  • PaPeRoアプリケーションチャレンジin東北
    • 仙台メディアテーク1階でやった
    • PaPeRo:NECが作っている(販売していない)研究用のロボット
    • ロボット(鉄腕アトム的な)の話はいっぱいあるが実用にならない
      • 2010年に家庭や社会で皆が使うようなロボットを作るコンテスト
    • 一般応募/チーム応募の両方がある
      • チーム:1か月に1回仙台のPaPeRoショールームに来てMTをする
        • 他のチームも来るので成果を発表しあう
        • 情報学/福祉/経済・経営/デザイン/会社員などロボットコンテストなのに多様な応募
        • 寸劇/パンフレットなどプレゼンテーション形式も色々
      • 「図書館でPaPeRoを使いましょう」というプレゼンもあった
        • 発案は大学生
        • 「図書館で使う」というアイディアは良く出てくる
        • 「ロボットを図書館で」は多くの人が考えること=それだけじゃ普通
        • なにがすごい?
          • PaPeRoがカウンターにいる/受付/サジェスチョン
          • それだけじゃつまらない・・・「PaPeRoの機能を使う時と使わない時を分ける」
          • ex)顔認識機能があるのに利用カードを使う
          • 貸出履歴を使ったリコメンデーション+書架まで(似たようなのがあるところ)の案内
            • (min2-flyコメント)普通に履歴を使う前提になっているのが利用者のニーズをあらわしているよなあ。こんな面白いアイディを実現できないってのはどうなんだろうね? なんか考えない?
  • 図書館で調べもの
    • 小説家としては良く使う
      • 使うところ、使わないところ、使えないところ、使って良かったところがある
      • 『図書館のプロが教える調べるコツ』*1について
        • いい本であることは前提として
        • 紹介されている例くらいなら、図書館で調べられて当然。そのくらい小学生でも図書館を使って調べられるのは「小説としては面白くない」。
        • 普通の人がどこまで情報が欲しいのかは垣間見える。そのレベルじゃ小説は書けない。
      • 『図書館を使い倒す!』*2
        • 図書館に来る人の多くは読書/小説好き。ほとんどの人は宮部や東野を読みに来ている。
        • われわれ(小説家? 一般人?)はそういうのは買う
        • 『使い倒す!』・・・「その地域の情報を得に来い」。ネットやなんかでは手に入らない、と言う話。
      • 普段の調べ物の例:「イヴのみる夢」(夕刊フジ連載)
        • 1本書くのに半日かかる
        • ネタ自体はインターネットで見かけたり図書館で専門雑誌を見たり
        • 論文を探すのは大変なのでニュースとかを見ることも
        • 東北大学の論文(電子ジャーナル)をただで見られるからそれを使いまくっている
          • 任期が終わって図書館使えなくなったら連載も終わり?(苦笑)
        • Nature Medicineの記事をe-Jで見た例(図書館のサーバ経由で)
          • 欲しい論文は入手できるが、それが雑誌の中でどう位置付けられているかや雑誌の全体像もいるので便利
      • 朝日新聞の書評を書くときについて
        • iPS細胞の本について書くとき
        • どれを取り上げるかは全部見ないといけない
        • 著者のバックグラウンドとかつながりとかは図書館だけの情報じゃ得にくい
        • いろいろたどっていく必要
  • 東北大学図書館が出している本等の紹介
    • 『情報検索の基礎知識シリーズ』*3
      • 基本が書いてある本
      • 『人文社会科学編』は瀬名さんには未知の世界。だから一番面白かったが、まだ使いこなせなさそう。
      • 自分らが学生の頃にはその手のマニュアルはなかったので今はいい時代
      • 作家の今は専門分野の論文はひけて当然、それ以外のことを教養部とかで教えてほしかった
        • webサイトとかはどれを使えばいいとか
  • 図書館だけではうまくいかなかった例
    • 『八月の博物館』*4
      • 資料代/取材費に700万円(!)かかった
      • タイムスリップしてパリ万博に行くシーン・・・なかなか書けなかった
        • 当時のパリ万博の資料・・・海外の古本屋/イギリスのサイトなどで当時の万博のガイドブックを買う
          • 当時は公式ガイドはない。地図とかはあったのでそれを買う。
          • かかるお金が書かれてない
          • 監修をした考古学者の伝記とかで調べた
          • 支払いは紙幣か硬貨か等わからないことばかり
            • 宮城県の図書館ではらちが明かない
            • フランスの文献とかは日本にあんまりないから?
            • コイン商のカタログを取り寄せて調べる
      • 「小説家の仕事とはそういうこと」
        • ほとんどの人にはどうでもいいこと。
        • 小説は描写。コインを受け取ればそれを見るだろう。それを見た感じを書かないといけない。
    • 『メンツェルのチェスプレイヤー』*5というロボット小説
      • ロボットと人がチェスで対局するシーン
      • 棋譜を見ても何がすごいのかとかがわからない
      • インターネットで詳しそうな人を見つけて聞いて検索して・・・とやった
      • webは棋譜どおりにチェスの駒を動かして見られる
    • 『架空全集を編む』
      • 『文学を超えた科学書全集』
        • 1998年〜2007年で各1冊、なるべく領域を分散させて本を10冊選ぶ
      • まず図書館へ
        • ここ10年なら書架にある/それは本屋ではできない(科学書は絶版が多い)
      • 原著刊行年で年代を縛った・・・邦訳と原著にタイムラグ
        • 図書館の結果は邦訳の出版年
      • 思いついた奴を持ってきてcopyrightにある原著刊行年を見た
        • 最終的にはAmazonで原著のタイトルを打ち込んだ
    • 第一次大戦直後の飛行機状況
      • フランスの飛行機はフランス語の文献を読んだりしないといけない
    • 図書館の中の調べもの・・・博物館と似ている
      • 自分がわくわくしたことをアウトプットするためのインタープリタ
      • 海外大学には博物館が多い:そこで買ったパンフで小説のネタが出ることも
      • 屋外ミュージアムアリゾナの砂漠にある)とかは地元に行かないとわからない
      • 地域に密着した感情とかはどうやったら調べられる?
        • できにくいから今も残っている/みんなができたら小説家としては使えない
    • 「恐竜の話を書こうと思ったら恐竜博士になりなさい」(藤子・F・不二雄
      • 出典知ってたら教えて
      • 小説を「頭だけで書くな」、「調べて書くもんじゃない」などの意見・・・調べて書くから人も書けるし色々わかる
        • あとから調べると『のび太の恐竜』も間違いだらけではある(笑)
        • でも白亜紀の描写や『野生のエルザ』のモチーフなどは凄い
    • NHKの『ようこそ先輩』で小学校で図書館を使う授業
      • 小学校の図書館は非常に制限されている
      • 好奇心は子供向け/大人向けに拘るものではない。子供だって博物館で見つけた面白いものについて調べるには大人と同じように難しいものを調べないといけない。
    • ヒコーキの操縦
      • 小説を書くためにアメリカ行って免許取った
      • パイロットの心がけるべきこと:安全に飛ぶこと
        • 安全に飛ぶには:管制塔とのコミュニケーション
      • 図書館情報の「安全」と「楽しみ」へ
        • バックアップしてくれている人がいる
        • 自由に空を飛んでいるつもりでも誰かのバックアップがある
        • 図書館システム=管制システムにおける管制塔のようなもの
  • min2-flyコメント
    • 瀬名秀明さんのプレゼンテーション上手いなあ。スライドも映像入ってたりするし、実に慣れてる感じ
    • まさかの大学図書館活用事例。しかもe-Jだよ。予想外。
    • 『八月の博物館』の話すげぇ。ディティールにこだわりまくってるんだな。
    • 原著⇔邦訳の出版年のずれはFRBRとかでなんとかならないか
    • 瀬名さん、話面白いなあ。『パラサイト・イヴ』しか読んでなかったけど、ちょっと色々読んでみよう。

「日本のRSP」を目指して(大学図書館支援機構・高野さん)

  • 特にメモとらなくていいよ!(冒頭で高野さんから)
    • まあとるけどね!(min2-fly)
  • 大学図書館支援機構(IAAL)の説明
    • NPO事業の必要性について
      • 図書館員の専門性の話とか/専門知識の獲得・継承が困難だよ
    • 事業の説明
      • 情報リテラシー教育支援
        • 東京女子大のマイライフ・マイライブラリーで使われている資料とかも作ったり
        • 教材はみんなでシェアしたい
        • リテラシー担当者の研修もしている
      • 大学図書館研修支援
        • 私大図協の研修部会の企画・運営もやる
      • 大学図書館業務支援
        • 資料整理、NIIのCATアドバイザー、オンラインレファレンス(来年から始める?)
        • 海外はオンラインレファレンスが当たり前/日本では「動く」ものがない/1月以降に何か発表があるとか
      • 大学図書館運営に係る助言または援助
        • 補助金/委託・外注に関わる問題
  • min2-flyコメント
  • どうせならIAALの活動紹介にとどまらず、もっと「大学図書館員を支援する意義」とか、「それでどんな素晴らしい世の中を実現できるのか」という話をして欲しいかも知れない・・・って言うのは一昨日のNII系の話を聞いていても思ったことだが。せっかく瀬名秀明さんの講演で普段は図書館/大学図書館にそこまで興味ない人も来ているかも知れなかったわけだし。図書館界のためになるのは図書館にしか伝わらない。今は「大学にとって」の意義にすらあまり伝わってこない。まして世の中にとっての意義については見えない(もちろん考えればいくらでも考えられるわけだが、それを聞き手に考えさせているって時点でビジョン/ミッションの伝達に失敗しているのでは)。誰しもに通じるビジョンとミッションが必要なのかも。
  • 束になっていかないと大学図書館はインターネットに勝てない
    • 勝つ必要あるの? 図書館が勝つことは世の中のためになるの? そこを「図書館の外に」伝えることが絶対に必要で、図書館界に絶対的に不足しているところでは。




ってことで、全体に瀬名秀明さんの話とIAALの活動報告の間の断絶っぷりというか温度差が凄いと感じました(苦笑)


瀬名さんの講演は基本的にめちゃめちゃ面白かったです。
作家の中でもディティールにこだわる人はとことんこだわるとはよく聞きますが、本人の口から聞くと凄い。
パリ万博のときのコインて。
そんな小道具にそんなにって。
ヤバいわぁ。


IAALの方は、はじめから大学図書館員の集まりであることがわかっている場合にはかなり良いプレゼンテーションだったんじゃないかと思うんだけど・・・瀬名さん目当てで来た人にはなんだかよくわからなさすぎな話だったのでは、とか。
実際、瀬名さん目当てで来てた後輩のリアクションもいま一つって感じだったし。
「ラーニング・コモンズ」が流行っているの前提でのお話とか、そんなの大学図書館員のそれも一握りしか用語すら知らないんじゃないかと思ったり。
そこら辺機関リポジトリ現象にも通じるところだけど。
もっとも、会場にどれだけ図書館以外の世界の人が来ていたかにもよるわけで・・・自分は来場者の傾向を把握はしていないので、実際には「大学図書館の人が瀬名さんの講演を聴く場」になっていたのだとしたらあれで良かったのかも、とも。
まあそれはそれで瀬名さんは完全に置き去りにされていただろうけど(苦笑)


「図書館」総合展と言う場で必ずしも図書館関係者に対象を限らないかも知れないフォーラムを開く際の留意点とか意義について、いろいろ考えることの多いフォーラムでした。
・・・あと瀬名秀明さんの本が非常に読みたくなるフォーラムでもあったよ!!

*1:

図書館のプロが教える“調べるコツ”―誰でも使えるレファレンス・サービス事例集

図書館のプロが教える“調べるコツ”―誰でも使えるレファレンス・サービス事例集

*2:

図書館を使い倒す!―ネットではできない資料探しの「技」と「コツ」 (新潮新書)

図書館を使い倒す!―ネットではできない資料探しの「技」と「コツ」 (新潮新書)

*3:http://www.library.tohoku.ac.jp/mylibrary/tutorial/

*4:

八月の博物館

八月の博物館

*5:21世紀本格―書下ろしアンソロジー (カッパ・ノベルス)』収載